ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
5  <実務の視点>
  ISO14001:2004  変更された要求事項の検討  (2)
              主要な記述、表現の変更 ―
 <31b-01-05>
(1) 組織で働く又は組織のために働く人々    明瞭化(意味の明瞭化)]
   組織の環境マネジメントシステムに関係のある人々を表す用語として、96年版の従業員(4.2章)、要員(4.4.2項)、従業員又は構成員(4.4.2項)の各用語がこれに統一された。なお詳しくは、要員(4.4.2項)は、「作業を組織で実施する又は組織のために実施する人々」となっている。
   
   原英語はpersons working for or on behalf of the organization (前述の4.4.2項は、persons performing tasks for it or on its behalf )である。前者は雇用された人という意味であり、on behalf of は「誰かを代表して或いは誰かの代わりに」という意味であるから後者は組織(に雇用された者)に代わって業務を行う人という意味である。最近の事業組織では、いわゆる正社員の他に期間限定の契約社員、時間単位のパート社員など種々のタイプの雇用された従業員がおり、その他に、派遣社員、個人契約の専門家などが雇用された従業員と一体となって業務を行っていることが多い。また、職場の業務の全体を他の組織、つまり、供給者に委託することが旧来の製造部門業務だけでなく事務部門業務にまで拡がっている。組織のために働く人( persons working on behalf of the organization ) とは、派遣社員、個人契約の専門家、外注企業の要員など雇用された人以外で組織の環境マネジメントシステムの範囲内の業務を行う人々を指す。
   
   「又は」であるが、どちらかであればよいという訳ではないことは、規格の趣旨、マネジメントの原理から明白である。この「又は」は該当するどちらかであり、該当すれが両方という意味での「又は」である。
TC207/SC1委員長 O.A.Dodds氏は、「用語を置き換えた」と説明(1)して、規格の意図の変更でないことを示唆している。変更の趣旨は96年版用語の意味の明瞭化であり、3種類の用語をひとつに統一して要求事項の意味するところをより明瞭化したものであると考えられる。
 
   
(2) 力量     JIS14001/JIS9001の整合化]
    96年版の「能力がある」が「力量がある」と変えられた(4.4.2項)。 原英語は competent のままであり、これはJISQ9001では既に「力量がある」と訳されているから、この変更はJIS翻訳におけるISO9001(JISQ9001)との両立性の向上をもたらした日本語のみの変更である。
   
   「力量がある」とはISO9000の定義(3.9.12項)では「知識と技能を活用できる能力が証拠で裏付けられている*状況」を指し、実務的には与えられた業務を責任をもって遂行できるということである。ISO14001でも「人々は与えられた作業を遂行する力量があること」と記述(A.4.2項)されているから、同じ意味である。 力量のない人に業務を委ねれば所期の結果を出すことができず、不良や異常を起こす危険がある。
   
   力量があることは、履修した学校教育、組織が行った教育訓練又は職務経験を基に判断することができる。新規採用者であれ配置転換者であれ誰であれ、人に初めての業務を命ずるには、足らない力量を教育訓練で充足し、必要な力量をもっていることを確実にしてからでなければならない。環境マネジメントシステムであるので著しい環境側面に係わる力量が規定されているのであり、ISO9001では重要な品質に係わる力量が規定されている。実際に業務を命じるにはどんな業務であれ、環境や品質に限らずその業務の遂行に必要な力量がなければならない。
   
   96年版の「能力がある」には定義がないこともあり、意味するところが正しく理解されず、教育訓練が「能力がある」ようにするために行われるものであることの理解も希薄であった。2004年版では「力量がある」との翻訳によってISO9001の同様の要求事項(6.2項)との対比が可能になり、要求事項の意図の正しい理解が少しは容易になった。
   
   また、competent など用語は不変だが、4.4.2項のの条文の構成と表現が大幅に変わった。 O.A.Dodds氏は、4.4.1項と合わせてこの条項が「条項の目的を明瞭にするため、又、規格使用者の理解をより容易にするために」改定された(1)と説明している。これにより、要員を3種類に分け、それぞれに自覚、教育訓練、能力を適用する日本の一般的な解釈が誤りであることが明確になった。 
 
   
(3) 組織が管理できる環境側面及び影響を及ぼすことができる側面  変化なし]
   組織が特定すべき環境側面は、「組織が管理でき、かつ、影響が生じると思われる環境側面」(96年版4.3.1項)から「組織が管理できる環境側面、及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面」(2004年版 4.3.1a)項)と大きく変わり、いわゆる直接影響と間接影響の両方の環境側面を管理すべきことが明瞭な表現となった。
   
   しかし、これはJIS翻訳の変更に過ぎず、原英文ではわずかな記述上の変更があるだけである。すなわち、96年版は、environmental aspects of …..that it can control and over which it can be expected to have an influence であり、これは「組織が管理できる環境側面、及び、組織が影響を及ぼすことができると思われる環境側面*」という意味である。 こんことは関係者に周知の事実であり、誤訳と公にも指摘する声もあった。 そして、これに関しては、ISO14001解釈委員会が、翻訳の日本文の誤りに触れないまま、「直接影響と間接影響を意味する」との解釈を発表している(2) 従って、JIS翻訳の意味不明の日本語にもかかわらず96年版でも、直接影響と間接影響という2種類の環境影響を管理するという概念は日本でも確立していた。
   
   2004年版のJISの日本語文言の大幅変更にもかかわらず、JISQ14001でも要求事項の意味の変更はないのである。 もちろんISO14001原文では後者が it can be expected…. から it can influence と単純な表現になり、間接影響の概念がより明瞭になっただけであり、要求事項の意図は何ら変更されてない。
   
   この問題は、O.A.Dodds氏(1)が挙げる2004年版の13箇所の主要改定点にも含まれていない。 英語文献で本変更を取り扱っていないものもあるし、説明があっても it can be expected から it can influence への意味合いの明瞭化としての説明である。
   
   
(4) 活動、製品及びサービス  明瞭化(意図の明瞭化)]
   組織が管理しなければならない環境影響の原因に関して、96年版では「組織の活動、製品又はサービス」と規定していたが、2004年版では「又は」が「及び」に変更された。これは、組織の環境取り組みの範囲に係わる概念であり、環境方針の適切性(4.2項)と環境側面の特定(4.3.1項)に関して規定されている。これについて海外でも「悪名高い”or”が”and”になった」と改定を積極的に意味づけようとする文献(3)もある。しかし大半は「組織のすべてに係わる環境影響を管理しなければならないことが明瞭になった」というように受けとめている。
   
   ISO9001の概念では、「製品」は「プロセス」の結果であり(ISO9000: 3.4.2項)、「製品」はサービス、ソフトウェア、ハードウェア、素材製品に分類される(同:参考1)。「サービス」は「製品」の一部であるから、「製品又はサービス」と両者を並列に並べることは適切でない。しかし、一般社会の「サービス」の概念は通常ソフトウェアを含むなどもう少し広いように思われ、これに対して ”もの” が「製品」であると考えられている。ISO14001では定義が存在しないが、「活動」の結果を「製品」「サービス」と捉えており、、「製品」と「サービス」は一般社会と同様の概念で区別されているように思われる。サービス提供の活動には営業活動、製品引渡し活動なども含まれるから、製造業でも「サービス」を顧客に提供していると考えることができ、この概念では大抵の組織は「製品」と「サービス」の両方を提供している(ISO9004-2:1991 1項)。
   
   大抵の組織は「製品」と「サービス」の両方を提供しているから、活動、製品、サービスを「又は」で繋ぐのか「及び」で繋ぐのかでは普通は意味が異なり、「又は」では3者の「いずれかであればよい」という意味にもなり得る。しかし、ISO14001は顧客やその他の利害関係者に負っている環境責任を組織が果たすための規格であるから、「又は」だからといって活動、製品、サービスのいずれかの環境影響にだけ取り組めばよいというような解釈は素直ではなく、規格の意図から妥当でないのは明白である。 96年版ではこの「又は」の故に組織の本来業務が有する重要な環境影響に取り組まなくてもよい規格解釈が許されていたというのは、規格の存在意義を歪める考え方と言わざるを得ない。
   
   一方、「及び」とすると「且つ」という意味になったり、何が何でも活動、製品、サービスのすべての環境影響をマネジメントの対象としなければならないとの解釈にもなり得るが、これも規格の意図ではない。活動、製品、サービスのいずれかに著しい環境側面があればそれらのすべてを管理しなければならないという意味であることは、規格制定の背景や規格の狙いと意義に照らして明らかである。このことを表現するのが「及び」又は「又は」という用語であり、用語の意味にのみ拘泥する規格解釈に対しては、「又は」を「及び」に変えるのは諸刃の刃であるとも言える。
 
    ISO9001の94年版までは「and/or(及び/又は)」という表現があったので、「and」は「且つ」、「or」は「いずれか一方」という硬直的な解釈が一般的であった。「or(又は)」を「いずれか一方」とする解釈はこの名残かも知れないが、規格解釈は文言でなく規格の意図に基づかなければならないという基本をどこかにおいた議論ではある。例えば、「場内で火災が発生しました。正面出口又は非常口から退避して下さい」というのは、「正面出口及び非常口から退避して下さい」と同じ意味である。「又は」と「及び」は相当に重なり合った意味で用いられるというのが言語上の現実である。  2004年版でも「組織で働く又は組織のために働く」(4.2項)や「教育、訓練又は経験」(4.4.2項)などの「又は」が残っているが、これらも「いずれかでよい」という解釈にはならないのは、規格の論理から明白である。
   
   「及び」に変更になったとしても、「両方、すべて」ではなく「どれか関係あるものはすべて」という意味であることには変わらない。このような諸刃の刃であるもある「又は」の「及び」への変更が敢えて行われたのは、「いいとこ取り」のEMS(4)が存在しこれへの問題意識からの変更であったのかも知れない。この意味では「又は」より「及び」の方が規格の意図の明瞭化になると言える。しかし、O.A.Dodds氏(1)は変更した理由を説明していないし、ISOやTC207も「又は」の「及び」への変更に深い狙いがあったのかどうか公式に説明していない。 、いずれにせよこの変更は、規格の論理に基づく要求事項解釈では大した問題ではなく、要求事項の意味の明瞭化の域を出るものではない。
 
 
(5) 確立し、文書化し、実施し、維持し、継続的に改善する
   ISO9001,14001両規格ともマネジメントシステムをPDCAで継続的に改善するという枠組みを論理の基礎としており、ISO9001(4.1項)はこれを マネジメントシステムの「確立、文書化、実施、維持、継続的改善」と表現している。これは実務的には環境マネジメントシステムの業務を実行することを意味し、業務にPDCAサイクルを廻すことの必要性を示す表現である。
   
   ISO14001 旧版ではこれを「確立、維持」と表現していたが、改定版では ISO9001 に倣ってこれを「確立、文書化、実施、維持、継続的改善」(4.1項)或いは「確立、実施、維持」(4.3.1項など)と表現を変更した。「維持」は「実施」や「継続的改善」を含む用語であるから、この表現の変更は何の意味の変更を伴うものではない。ISO9001との表現上の整合性が向上し、また、より正なPDCA表現となった。
   
   同様に、手順や"文書化された手順"に関しても「確立、維持」が「確立、実施、維持」となり、環境目的、目標の「設定、維持」も「設定、実施、維持」と変更されている。なお、後者の「設定」の原英語は establish(確立)である。
   
   
引用文献 (英語文献の翻訳及び*印は筆者による翻訳)
(1) O.A.Dodds: ISO Bulletin, June 2003, p.20-22
(2) ISO14001解釈委員会報告書: 2000年4月28日
(3) Lloyd’s Register Quality assurance: October 2004, http://www.lrqa.com
(4) 寺田 博:アイソムズ, 2003.12, p.32-36, (p.34)
H17.1.31(修 H17.4.8、(5)追加 H17.4.27)
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