ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
ISO9001:2008
留意すべき変更
7. 製品の検証の記録の管理  (8.2.4 製品の監視及び測定)  <31-02-07>
 [記述の変更}
2000年版 2008年版
[第1節]
組織は、製品要求事項が満たされていることを検証するために、製品の特性を監視し、測定すること。監視及び測定は、個別製品の実現の計画(7.1参照)に従って、製品実現の適切な段階で実施すること。 合否判定基準への適合の証拠を維持すること。記録には、製品の リリース (次工程への引渡し又は出荷)を正式に許可した人を明記すること(4.2.4参照)
[第1節]
組織は、製品要求事項が満たされていることを検証するために、製品の特性を監視し、測定しなければならない。監視及び測定は,個別製品の実現の計画(7.1参照)に従って、製品実現の適切な段階で実施しなければならない。合否判定基準への適合の証拠を維持しなければならない。
[第2節]
顧客への引渡しのための製品のリリースを正式に許可した人を,記録しておかなければならない(4.2.4参照)
 
[記述変更の意図]

   「合否判定基準への適合の証拠」は94年版までは「検査・試験された証拠*」と表現されており、「製品のリリースを許可する人」は「製品のリリースに責任をもつ検査権限者*」と表現されていた。これら両要求事項条文は、初版では別の条項に記述されていたのが、94年版で同じ条項になり、しかし、第1節と第2節に分かれて記述され、2000年版で同じ第2節に一緒に記述され、2008年版で再び第1節と第2節に分かれることになった。記録の管理の要求事項の適用の必要を示す「4.16参照」又は「4.2.4参照」は、初版では両要求事項条文に付されていたが、94年版から「製品のリリースを許可する人(又は検査権限者)」を規定する条文のみに付されている。
 
  規格の各条項の記述を見ると、要求事項が多岐にわたり条文の数が多い場合には、複数の節に分けて記述されており、この場合は、当該条項に関する基本的な要求事項が第1節にまとめられ、引続く第2節以降では、これら基本的要求事項についての詳細な要求事項が記述されているのがわかる。これが条文記述の原則であるとするなら、2000年版記述より2008年版記述の方が適切であると言え、2008年版で「合否判定基準への適合の証拠」に関する条文が第1節に移されたのはこのためであったと考えられる。両要求事項条文を別の節に記述するという点で、規格の条文記述の原則に忠実な94年版に戻ったものである。また、「4.2.4参照」は元々、文章又は文章中の特定の単語に付されるものであり、節全体に付される例は見当たらない。「4.2.4参照」が第2節に残ったのは自然である。
 
  このように記述変更は、規格の条文記述の原則に照らしての記述の適切化であると考えられる。

 
条文の変遷 第1節 (筆者和訳) 第2節 (筆者和訳)
初版
4.10.5
検査・試験の記録
製品が検査・試験された証拠となる記録を作成し、維持すること(4.16参照)これら記録は合否判定基準に従って合格したか又は不合格だったかを明確に示すこと。 4.12検査・試験の状態
記録は製品のリリースに責任をもつ検査権限者を特定すること(4.16参照)
94年版
4.10.5
検査・試験の記録
製品が検査・試験された証拠となる記録を作成し、維持すること。これら記録は合否判定基準に従って合格したか又は不合格だったかを明確に示すこと。 記録は製品のリリースに責任をもつ検査権限者を特定すること(4.16参照)
2000年版
8.2.4
製品の監視及び測定
合否判定基準への適合の証拠を維持すること。記録は、製品の リリースを許可した人を指し示すこと4.2.4参照)
2008年版
8.2.4
製品の監視及び測定
合否判定基準への適合の証拠を維持しなければならない。 記録は、顧客への引渡しのための製品のリリースを許可した人を指し示さなければならない(4.2.4参照)


[記述変更 国内委員会の説明への疑問]
  日本のマネジメントシステム規格国内委員会は記述変更の理由を、2000年版で合否判定基準への適合の証拠は「記録」であるとの不適切は理解があり、これを正すための「修正」であると説明している(1)。そして、合否判定基準への適合の証拠が必ずしも4.2.4項で管理する「記録」でなくともよいということを明確にするために、「合否判定基準への適合……」を第1節に移動させて「……正式に許可した人……(4.2.4参照)」と分離したとも説明している(2)。この説明では「4.2.4参照」を「合否判定基準への適合の証拠」から切り離すことが、この条文を第2節から切り離して第1節に移動した理由である。
 
  この説明の「合否判定基準への適合の証拠は『記録』として維持する必要がない」という規格理解は、品質保証の実務を無視した絵空事であり、ISO9001の効果的な品質マネジメントの指針としての効能を毀損する誤った解釈であり、同じ国内委員会の2000年版解説書の検査・試験の記録の作成が必要であるとの説明(3)とも食い違っている。国内委員会の説明の中で「レストラン の シェフの例がある」(1)として製品の検査や試験のできない場合を暗示しているが、それと記録管理の要否とは別問題である。
 
  「合否判定基準への適合の証拠」は、いわゆる製品の検査や試験の結果であり、間違いなく合格したということの証拠の記録である。実務において例えば一般消費製品の苦情があった場合に真っ先に確認するのは検査や試験の記録であり、方法や合否判定基準が適切であり、それに適切に合格している証拠を顧客に示すことが怒れる顧客を落ち着かせるために不可欠である。これら記録は問題の原因追求と対応の決定、及び、再発防止対策の検討のためにも不可欠である。また、とりわけ大量生産製品では、試験、検査の記録は品質管理や品質改善のための重要なデータとして無くてはならないものである。規格でも、8.2.4項の情報を用いたデータ分析を規定しているが、必要な時期に、また、必要となる可能性のある機会に時宜を得て データ分析を行なうために、データの「記録」としての管理は重要である。 校正や検証で計測器に異常が発見された場合には過去の測定結果の「妥当性を評価する」必要がある(7.6項)が、これは個々の製品が適合か否かを判断し、不適合の疑いがあれば相応の処置をとる必要を指摘している。どのような測定値であったかは「合否判定基準への適合の証拠」の中にしか存在しない。
 
  サービス提供とサービス引渡しが同時である対面サービスのような場合は、所定のサービスであることを検証してから顧客に引き渡すことはできない。しかし例えば、販売した商品と価格を表示する売上伝票は、間違いない商品と数量であることを確認した検査記録であり、事後に顧客から異品や数量不足の申立てに備えて一定の期間、「記録」として保管することが必要である。患者給食用調理業で、万一の患者の異常に備えて、その日の料理を例えば翌日まで保存する場合の保存料理は、調理作業と料理の外観検査の合否判定基準への適合の「記録」に相当する。国内委員会の「合否判定基準への適合の証拠」は「記録」である必要はないと言う解釈には、それでなぜ品質保証が可能なのか、その解釈が組織の何に役立つのかの説明がない。
 
  また、国内委員会は2000年版に関して解説書(3)を発行しているが、その8.4.2項(製品の監視及び測定)の項で「合否判定結果の記録を作成し、製品のリリースを許可した人を明記することが要求されている」と説明している。2008年版は2000年版と要求事項は変わっていないから、2000年版のこの意図は、2008年で記述が変わっても変わらないはずである。合否判定基準への適合の証拠が「記録」でなければならないとする規格解釈を2000年版解説書で肯定し、2008年改訂で否定するのでは、首尾一貫しない。実際に両版で規格の意図が違うならその理由を説明しなければならない。
 
  更に、両要求事項条文の記述の変化を初版からたどってみると、「合否判定基準への適合の証拠」に関する条文に「4.16参照(又は4.2.4参照)」が付されなくなったのは94年版からである。その94年版でも品質記録には「検査報告書」や「試験データ」が含まれるとされ#1、同じく「4.2.4参照」が付されていない2000年版でも「製品測定記録には検査及び試験報告書」が含まれるとされている#2。 組織の品質マネジメントシステムの実行上でも認証審査でも初版から一貫して「合否判定基準への適合の証拠」は記録として管理しなければならないとする規格解釈が適用されてきたし、国内委員会もこの解釈を正当としてきた。 2008年版は94年版の記述構造に戻っただけなのに、これに特別な意味づけをする国内委員会がその根拠に「“必ず記録でなければならないか”という米国の委員からの提起に対して修正した」という改正審議経過を挙げている(2)が、俄には信じ難い。
 
[組織の対応]
  検査記録を保存しないという決定をしてはならない。規格が必要と言ってないことを実行することは認証審査で不適合にならないからである。対面販売、電話相談、演劇、放送など製品の顧客への引渡しの前に所定の製品であることを検証できない事業の場合も少なくないが、物を扱う事業でも顧客に保証する製品の特性のすべてをすべての個々の製品について製品引渡しの前に検査や試験しているというようなことではない。製品の検査や試験を行なう行なわないと言っても程度の違いだけである。人のやることには誤りが付き物であるから、決められた方法で製造、サービス提供した(つもり)だけで、必要な顧客満足の障害になるような性格の又は数の不良品を顧客に引き渡すことを防ぐことはできない。どのような製品、事業形態であれ、事前か事後、全数か抜取り、全特性かどうかなど種々の考慮要素はあっても、必要な顧客満足の実現のためは何らかの製品の監視測定が必要である。当然、その記録は事後の必要な使用に備えて記録として管理しなければならない。
 
[審査への影響]
  特にない。
 
 
英文及び規格条文の*印は筆者の和訳
 
引用規格条項
#1 ISO9004-1:1994, 17.2
#2 ISO9004:2000, 8.2.3
 
引用文献
(1) 飯塚悦功他: 認証機関にとってのISO9001:2008追補改正、JAB研修会、2008.12.8;
(2) 平林良人:ISO9001:2008追補改正版の発行、標準化と品質管理、Vol.62, No.1, p.29-34
(3) 飯塚悦功他:ISO9001要求事項及び用語の解説,日本規格協会,2002.10.15; p.178
H21.1.27(追 2.9) 
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