ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
2       2015年版ISO9001/CD 新要求事項
 製造及びサービス提供の管理 「人的過誤による不適合が阻まれていること」
<31e-01-02>
0.要約  こちら
 
 
1.新しい要求事項

  2015年版ISO9001 CD版で数少ない新しい要求事項とみなされるのが、現行7.5.1項*1の『製造及びサービス提供』の実行のための『管理された状態』に追加された「意図しない過ち及び意図的な規則違反のような人的過誤による不適合が阻まれていること*3」である(8.6.1 i)項)。
 
  この規定が導入された背景には日本の国内委員会の3つの追加要求事項の要請があるように思えるが、この要請の論理性、規定の内容の実務性、規定の位置づけの体系性のそれぞれに問題のある、品質マネジメントの効果的な実行の指針として訳のわからない規定である。
 
 
2. 業務実行管理の性格
  「管理」は“control”であり、あることがある状態になるようにすることである。『製造及びサービス提供の管理』は、所定の仕様と品質の製品又はサービスを確実に得ることができるように『製造及びサービス提供』の業務が決められた方法と条件の通りに実行されることを確実にするために行われる。決められた通りに実行されるよう管理するとは、決められた通りに実行されないことがないように管理することでもある。すなわち、業務実行管理とは、手順の順守管理であり、手順の逸脱防止管理でもある。両者は別の概念ではなく、表裏一体である。
 
   製造及びサービス提供の業務に関して、決められた通りに実行されない人的要因は通常、@要員が決められた方法と条件を知らない、A知っていてもそのように出来ない、B手違いや思い違い、の3種類に大別される。@Aによる手順逸脱防止の管理は一義的には『力量のある』要員に業務を委ねることで管理し、業務実行管理は想定外の@Aによる手順逸脱防止も含むが、Bに起因する手順逸脱の防止が主体である。所定の仕様と品質の製品をつくり上げるためには、製造及びサービス提供の業務の実行におけるこのような人的要因の他、設備機能不全、不良購買品の混入など管理用語では要因の意図しない変動と呼ばれる手順逸脱に繋がる要因を管理することが必要である。
 
  CD版の「人的過誤による不適合が阻まれていること」という規定は、業務実行管理の目的のひとつの側面を述べているのであり、『製造及びサービス提供の管理』という表題で既に明らかなことを、しかもそのほんの一部の事項で以て繰返し述べているのに過ぎない。この点で用をなさない規定である。
 
 
3. 管理の目的と手段
  現行規格及びCD版共に、『製造及びサービス提供』の業務における手順の逸脱を防止する管理の必要を『製造及びサービス提供を管理された状態で行わなければならない』と規定している。すなわち、手順逸脱が起きないように管理された状態で業務が行われるように業務実行を管理しなければならないという意味である。現行規格では続けて『管理された状態には次を含む』として『a) 製品の特性を述べた情報が利用できる、b) 作業手順書が利用できる、c) 適切な設備を使用している』等のa)〜f) を挙げている。つまり、手順逸脱が起きないような状態が『管理された状態』であり、手順逸脱が起きないようにする手段が a)〜f) である。例えば『管理された状態』のひとつであるb)の『作業手順書が利用できるようにすること』とは、要員がウロ覚えの方法や条件で業務を行って意図しない手順逸脱をすることを防ぐための手段である。
 
  CD版の「要員の意図しない過ちによる不適合が阻まれていること」という規定は上記2のように業務実行管理の目的のひとつの側面であるのに、CD版ではそのための手段の意味である『管理された状態』のひとつとして『b) 作業手順書が利用できるようにすること』等と同列に扱われてi)項に規定されている。この規定では規格の規定における『管理する』と『管理された状態』の概念と意義が混同されており、規格の規定全体の論理性への信頼を低下させかねないひどい表現である。
 
 
4. 意図的な規則違反
  更に、この規定では人的過誤に「意図しない過ち」と合わせて「意図的な規則違反」が加えられている。凡そ組織と名のつく集団ではその要員による『意図的な規則違反』はあり得ない状況が前提である。 悪意ある意図的な規則違反は組織に対する破壊行為であり、時に刑法に触れる犯罪である。面倒だから、能率が落ちるからなどの言い訳を伴う手順逸脱も理由の如何を問わず、あれば厳しく糾弾される。これによって組織に損害が生じた場合には要員は懲戒処分を受け、賠償の責任を負う。
 
  『意図的な規則違反』は管理の対象を指す管理用語の「要因の意図しない変動」の「要因」には含まれない規律の問題である。規律は経営管理の基本要素であり、通常は人事マネジメントの問題として採用時の人物見極め、社内教育や上司による指導、適切な処遇、健全な職場風土等を通じて組織内に確立する。実務では『意図的な規則違反』の指標を監視し、グラフに書いて予防処置をとるというようなことはあり得ない。『意図的な規則違反』の防止を業務実行管理の目的とし、或いは、起きないことを確実にする処置が手順逸脱のない『管理された状態』であることの必要条件であるとするような規定は、組織の業務の実態に照らして間違っている。
 
 
5. 日本の国内委員会の要請
  日本の国内委員会が改正に向けてTC176に要請したと言われる3つの事項のひとつに「知識・スキル不足、意図的な不順守、意図しないエラーを防ぐ仕組みにする明確な要求事項の追加」がある*2。 すなわち、同委員会によると、ISO9001認証組織が不適合や事故・不祥事を出し、製品品質に関して顧客の期待に応えられていない理由のひとつに「知識・技能の不足、意図的な不順守、意図しないエラーにより、定められている標準通りに業務が行われていない」という「作業者の問題」があるのだそうだ。そして「折角QMSを構築して、標準を作っても、守られなければ意味がない」ので、標準がきちっと守られるように「意図的な不順守、意図しないエラーを防ぐ仕組み」の必要の規定を改定版に織り込むようTC176に要請したとされている。CD版のこの8.6.1 i)項の新規定は、この要請がそのまま採用されたということかもしれない。
 
  しかし世上を騒がし認証の信頼性を低下させる原因となった認証組織の事故・不祥事の原因を決められたことを守らない作業者にあると断じ、しかも、「意図的な不順守、意図しないエラーを防ぐ仕組みが必要」と規格に書けば守られることになるというのは、信じられないほどの単純で短絡的な考え方である。これが「人的過誤による不適合が阻まれていること」であるとすれば、規格執筆者もこれで認証組織の事故・不祥事が無くなると考えているということであるから、この度の規格改定作業がこのような安易な理屈で行われているということになる。
 
 
6. ポカヨケ施策と機密情報管理
  この規定が上記5の発想によるとすれば、また、そうでないとしても、規格執筆者の意図が単純に、要員の意図しない過ちと意図的な規則違反を防止する直接的で具体的な方法をとることを『管理された状態』として明確化することにあると推察することができる。念頭にあるのは意図しないエラー対策としての設備のポカヨケ施策、意図した不順守対応としての電算機使用者規制のような事柄であろう。
 
  しかし、設備に必要なポカヨケ対策をとることは、現行版で「c) 適当な設備が使用されていること」として規定され、CD版にもそのまま引き継がれている。電算機の使用者を規制する処置は、要員による意図的な情報改竄を防止するのが目的ではなく、機密情報の外部流出の防止のためである。
 
 
7. 製造及びサービス提供の管理だけの規定
  業務実行管理の要件として手順逸脱防止の管理或いは「人的過誤による不適合」の防止を特に織り込む必要があるとするならば、それは『製造及びサービス提供』の業務の実行管理だけでなく、すべての業務の実行管理の要件として織り込まれなければならないのが道理である。CD版ではこれが『製造及びサービス提供の管理』の要件として規定されており、規定表現の体系性を乱している。
 
   
8. まとめ
   CD版 8.6.1 i)項の新規定は、効果的な品質マネジメントの指針として本質的に不要な規定であるだけでなく、規格表現として必須の論理性、体系性に欠け、規格の価値という点であってはならない規定である。日本の国内委員会の要請を反映した規定とするならば、必要性の論評に値しない愚挙である。規格執筆者は組織の実務をよく勉強すると共に、物事を体系的に表わす力を磨くべきであろう。

 
 
*1:CD版では、8.6.1項 物品の製造及びサービス提供の管理 (Control of production of goods and provision of services)
*2:棟近雅彦(TC176国内委員会副委員長)、次期ISO9001規格について、テクノファ年次フォーラム、H24.12.27
*3:Controlled conditions shall include, as applicable
  i) prevention of nonconformity due to human error, such as unintentional mistakes and intentional rule violations 
H25.9.6(修:9.10)  9.27(論点を細かく分けて整理)
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所