ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
6 品質改善成果を重視する規格解釈に。審査には高負荷業務の簡素化が可能にISO9000 DIS版の新定義が規格解釈・認証審査に及ぼす影響 <31e-01-06>
   ISO9001と平行して進められている指針規格ISO9000(品質マネジメントシステム-基本及び用語)のDIS版が4月に発行された。その英語表記のDIS版を入手した。
 
0. 概要   こちら
 
   
1. 新定義の評価の目的
  今日ISO9001認証組織の大半が効用を実感できず過大な負担と不満を感じているのは、規格を正しく実践していないからであり、この原因の根本は規格作成の目的や狙い、規格の論理、条文の意図を顧みない誤った規格理解と条文解釈である。本来このようなことを防止するための用語の定義にもまた誤訳と文字面を追うだけの間違った読み方による誤解があり、用語によっては規格解釈の誤りを誘導し或いは支える役割をさえ果たしている。DIS版の新定義を現行06年版と比較して、規格解釈に及ぼす影響の観点から検討し、今日の誤った規格解釈が正されるきっかけになるのか、また、2015年版規格がどのように受け止められ、認証審査がどのように変わるのかについて予測した。
 
     
2. 規格解釈の誤解解消の観点からのISO9000/DIS の定義の検討  
(条文はJISと断らない限りは著者による和訳; *印はJIS和訳を付記; 、$印は英文を付記)
(1) 基本的誤解に関係する定義の変更
@ マネジメントシステム の誤解     [誤解のままで変化なし]
[英語] management system 経営管理の枠組み
[06] 方針及び目標を確立し並びにそれら目標を達成するための組織の一連の相互に関連し又は作用し合う要素(マネジメントシステムとシステムの定義を結合した表現)
[DIS/SL] 方針及び目標並びにそれら目標を達成する活動を確立するための組織の一連の相互に関連し又は作用し合う要素
   
  “management”を素直に和訳すれば「経営」であるのに、片仮名英語『マネジメント』が当てられたことから『マネジメントシステム』がISO特有の改善活動の仕組みであるとの誤解に至ったのであるが、定義がTQC活動の方針管理や目標管理を連想させる表現であることもこの誤解が率直に受け入れられていることに与っている。DIS/SLでも表現は基本的に変わらないから、定義から日本の規格取組みの混乱の基本的原因のひとつである マネジメントやマネジメントシステムに関する誤解が正されることは望み薄である。
 
A 継続的改善の誤解  [新たな誤解に]
[06] 満たさなければならない必要を満たす能力の向上を図る繰り返しの活動4
<SL/DIS> 業績を向上させる繰り返しの活動
 
  規格の意図の「品質マネジメントシステムの継続的改善」は、組織の存続発展に必要な顧客満足を確実に実現できる品質経営の能力の改善である。品質改善、製品の改善でもなく、ある期間の品質マネジメントの成果としての顧客満足の状態や程度の改善でもない。実際にはシステムや仕組みの継続的改善であるとして、品質改善活動であるとする規格の中で半ば無視され、認証審査でも実質的に埒外であった。しかし、DIS/SLの定義では『品質パフォーマンスの継続的改善』として製品品質の継続的改善が必要とする新たな誤解が生じ、認証審査では改善活動の目標たる品質目標の達成に焦点が当てられる可能性が考えられる。
 
B パフォーマンスの誤訳と誤解  [新たな誤訳、誤解に]
[英語] performance 業績
[ISO9001:JIS] 成果を含む実施状況(8.2.2)
[SL/DIS]
測定可能な結果 (筆者註:実績が判別できる程の大きさ、明確さという意味での「測定可能」)
 
   “performance”は、何かをどのようにうまく又はまずく行ったか、行われたかという意味であるから、規格の文脈では経営活動の成果として実績、つまり、「業績」である。これまでは定義がなく、ISO9001 8.2.1項(顧客満足)の“performance”は誤訳のため、ある期間の品質マネジメントの業績目標の達成管理を意味する規定を、単純な顧客満足調査の規定と誤解されてきた。一方、規格解釈の場では規格には存在しない用語、概念として「成績」の意味で『パフォーマンス』が使われてきたが、パフォーマンスの継続的改善は規格の要求ではないとされてきた。しかし、DIS/SLの定義に基づいて、『品質パフォーマンス』と和訳されて製品品質の改善結果という誤解になり、認証審査ではAの誤解を裏付ける根拠として引用されることになろう。
 
C 品質目標の誤解    [誤解のままで変化しない]
[06] 追求し又は目指す品質に関係する何か
[DIS/SL] 出さなければならない品質に関連する結果
 
  日本では品質目標は現場主導の品質改善活動の目標と受け止められてきたが、定義の変更によって品質目標が品質マネジメントのすべての業務の狙いの結果を意味することがより明瞭になった。この誤りに気付くことによって品質マネジメント システムを品質改善活動の仕組みとする規格解釈が誤りであることに気付く可能性が論理的には存在する。 しかし実際には定義は無視され、ABの新たな誤解のために、製品品質改善の目標という誤解がより強固になるのであろう。なお、SLのJIS仮訳では現行と同じ英語“objective”を『目的』と誤訳されているから、品質目標は『品質目的』と誤訳されることになるものと思われる。
 
D 部門及び階層の誤訳と誤解   <正しい解釈に>
[英語] fuctions and levels
[06] 説明なし
[SL/DIS]
目標は、種々の領域(財務、健康と安全、環境など)に関係することがあり、種々の観点(戦略的、組織全体、プロジェクト、製品、業務など)
 
  “fuctions and levels”をJISでは『部門及び階層』と誤訳されたため、品質目標の誤解と相まって品質改善の目標を部、課、係、果ては個人別に持たなければならないという誤解が定着している。DIS/SLでは「目標」(“objective”: SLのJIS仮訳は『目的』と誤訳)の定義の注記2に、“fuction”と“level”をそれぞれ「機能的領域」「経営上の観点」の意味で用いている。SLのJIS仮訳では『領域』と『階層』と和訳しているが、引き続く(戦略的、……製品、業務など)という記述からその『階層』が組織構造の上下を意味するものではないことは明らかである。従って、Cの品質目標の誤解は残るが、その上に定着している品質改善の目標たる品質目標を部、課、係、個人別に設定しなければならないという誤解は正されることになろう。
 
E 要求事項の誤訳と誤解     [誤訳・誤解のままで変化なし]
[英語] requirement   望まれるもの又は必要とされるもの、必要条件、要件
[06] [SL/DIS] 明示されている、又は、一般に認められている、又は、当然の ニーズや期待
 
   “requirement”が英語でも規格用語としても日本語の「要求」に対応する言葉でないし、『製品要求事項』など珍妙な日本語にも繋がっている。94年版までは定義がなかったから致し方がない面もあったということもできるが、00年版で定義が「ニーズや期待」となっても『要求事項』という誤訳が引き継がれ、規格の要求という規格解釈が改められていない。この定義が変わらずDIS/SLにも引き継がれたということは、この定義が議論される機会が失われたということであるから、『要求事項』の誤訳と誤解は正される可能性がないと考えられる。
 
 
(2) 2015年版の新規概念に関する定義
@ 組織の状況(4章)の誤訳と誤解   [正しい解釈に]
[英語] context of the organization 組織が置かれた状況
[06] 用語が存在しない
[DIS]
事業環境; 組織の製品・サービス、投資への取組み及び利害関係者への働きかけに影響を及ぼし得る内外の要素と状態との組み合わせ
 
  共通定義にないDISのこの定義により、規格にとって新しい用語である“context”の意味が明確になった。これに従って、標題と条文の『外部及び内部の課題を決定しなければならない』の誤訳が訂正され、この規定が経営論における戦略決定の基礎となる要素に関し、品質方針の決定に関係する規定であるという正しい理解が促進されることがと期待される。
 
A リスクの誤解     [新たな誤解により解釈の混乱が限定的になる可能性も]
[英語] risk 将来のいつか何か悪いことが起きる可能性
[06] 用語が存在しない
[SL]不確実性の結果
[DIS] 品質目標に関する不確実性の結果
     
   従来もあったリスク思考のことだとするTC176の説明にもあるように、経営管理の判断の基礎としての普遍的な概念が情緒的必要性説明により用語“リスク”として規格に織り込まれたのであるが、JISが共通定義を『不確かさの影響』と誤訳したこともあり、規格特有の新しい概念として様々な憶測が生じている。(1)Cのように品質目標は品質マネジメントのあらゆる目標を指し、定義の場合は品質マネジメントが追求する顧客満足という意味であるから、品質目標に関する不確実性の結果とは、品質マネジメントシステムに係わる不確実性の結果ということであり、SLの定義と趣旨は同じである。しかし(1)Cの品質目標の誤解が温存されるとすると、DISの定義はリスクを品質改善活動に関するものに限定する働きをするので、リスク対応が極めて狭い範囲でよいことになる。
 
 
(3) その他の誤訳と誤解に関係する定義の変更
@ 力量の誤訳と誤解    [正しい解釈に]
[英語] competence 何かを満足に又は必要な程度に行う能力
[06] 何かで明らかにされた、知識及び専門性を発揮する能力
[SL/DIS]知識及び専門性を発揮して所定の結果を出す能力
 
  規格の文脈では職務能力のことであるが、94年版の何ができるかの意味の“qualification”(JISは『資格認定』と誤訳)が、00年版でその証明ではなく現実にできるかどうかを重視する英語の“competence”となったことが、能力が高いという意味の日本語『力量』と誤訳された。この結果、認証審査のためにスキル表など能力開発の形式が持ち込まれ、また、定義の誤訳により知識や技能があってもそれを実際に適用できなければならないとの解釈で審査員資格認定基準が変更された。SL/DISの定義により誤訳と誤解が正され、つまらない作業ミスが出るようなことのない状況づくりが促進されるはずであるが、SLのJIS仮訳では『力量』のままである。
 
A 顧客満足の誤解     [少しは正される可能性も]
[06:JIS]  顧客の要求事項が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方
[DIS:JIS]顧客の期待が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方
   
  規格の顧客満足は近代マーケティング論の長期的発展を目指す組織に必須の顧客の創造に係わる概念であるが、定義によって顧客の要求を満たすことと解釈され、下請け型組織によくある顧客満足は組織の満足にならないという誤った認識まで生み、満足のレベルが高くなくてもよいというような現実離れした解釈まで出されている。DISの定義により、また、付記された事例により、説明顧客満足の概念が少しは正される方向に向かうことを期待したい。
 
B 設計開発の誤解       [新たな誤解の余地]    
[06] 要件を規定特性、又は、製品、業務又は業務体系の仕様書に変換する一連の業務
[DIS]あるものの要件をより詳細な要件に変換する一連の業務
 
  自主的な製品開発や開発研究、及び、基準に基づく製品仕様の決定である製品実現の計画には、設計開発の規定を適用しなくてもよいとの解釈が一般的であるが、DISの定義ではこのような限定的な解釈を否定することもできる。新たな誤解がつくり出される余地のある定義変更である。
 
C 品質マニュアルの誤解    [新たな誤解の余地]
[94]  組織の品質マネジメントシステムを記述する文書
[06]  組織の品質マネジメントシステムを規定する文書
[DIS]組織の品質マネジメントシステムに関する仕様書 (筆者注釈:仕様書=要件を明示する文書)
   
  94年版では品質マニュアルを最高位の文書と位置づけており、この解釈が今日も生きているのであるが、実務の必要という観点からは94年版定義が品質マニュアルの正しい性格を表している。定義が00年版からDISへと本質を離れた表現となり、規格のすべての要求事項に対応する記述が必要というような里帰り誤解が生れないことを祈りたい。
 
D アウトソースの誤解    [正しい解釈に]
[英語] outsource   外部委託又は外部調達
[06] 定義なし
[DIS]外部委託; ある組織の機能又はプロセスの一部を外部の組織が実施するという取決めを行う
 
  英語の“outsource”は、“purchasing”(規格の『購買』、日本語では広義の購買)における取引行為である外注と物品等の購入を意味する“subcontract”(94年版では『下請負契約』)を、米国を中心に発達した新しい形式と精神の業務委託を表す言葉として使われ始めて、“subcontract”に代わる用語として定着し、00年版で導入された。定義がなく4.1項の不用意な規定のため、購買とアウトソースは異なるとの解釈が未だに存在している。DIS/SLで定義が記載されたことで、この誤解には終止符が打たれるのではないだろうか。
 
 
3. 定義の変更とその規格解釈に及ぼす影響
(1) 基本的誤解に関係する定義の変更とその影響
  ISO9001が組織の現場主導の品質改善活動についてのマネジメントシステムと呼ばれるISO特有の仕組みであるとする誤解に関してであるが、『マネジメントシステム』や関連する用語の定義はほとんど変更されていないから、DIS版定義自体がこの基本的誤解を正す糸口となることはあり得ない。むしろ、『継続的改善』の定義の変更と『パフォーマンス』の定義の新設により、改善活動の成果が目的の規格であるというような形で誤解が拡がり、強固になることが考えられる。認証審査では、改善活動の目標である品質目標の達成と品質目標の絶対的水準の継続的向上に焦点が当てられることになろう。一方で、組織構造の上から下へと個人までの品質目標の展開の必要性は緩和される可能性が強い。
     
  簡素化された品質目標の達成一本に絞った規格実践となるとすれば、認証審査対応は楽であり、品質目標の達成は組織の利益でもあるから、改善活動の進捗管理中心の不適合指摘であれば組織も受け入れ易い。このように考えると2015年版では組織が効用を実感できる規格、認証審査ということになる。しかし、2015年版の新しい要素と喧伝される戦略的、リスク思考、事業プロセスへの統合、トップマネジメントの関与強化などを、たかが現場主導の品質改善活動に織り込まなければならないし、認証審査では『運用管理』をはじめ、資源、文書、購買、設計開発の管理等々、改善目標の達成に直接関係のないことも対象になることに変わりはない。効用感が生れるとしても負担感の増大の方がはるかに大きくなる可能性が強いのではないだろうか。
   
(2) 2015年版の新規概念に関する定義の変更とその影響
  共通定義にない『組織の状況』の定義が追加され、共通テキストJIS仮訳の誤訳とそれに伴う誤解がISO9001では正される可能性が出てきた。共通定義に加えて『リスク』の定義と注記が規定されているが、大半の記述は共通定義の引用であり、リスク思考の意味であり現行規格に含蓄された概念の明示に過ぎないというTC176の説明が全く反映されていない。『機会』の定義もないから、文言を表面的に読む日本の条文解釈では規格解釈に大きな混乱が生じること必至である。しかしDIS版では「品質目標に関するリスク」となったから、品質目標を改善活動の目標とする誤解が温存されるはずであり、リスク対応が改善活動に限定されることになる可能性もあり、やっかいな『リスクに取り組む処置』が大幅に軽減されるかもしれない。
   
(3) その他の誤訳と誤解に関係する定義の変更とその影響
  定義の変更によって『力量』の誤訳と誤解が明らかになり、これを正すことでスキル管理というような形式をはじめとする力量管理に関する無駄な業務が不要とされる可能性がある。『顧客満足』の定義の変更によって、その概念の誤解も少しは正されるであろう。
     
 一方、『設計及び開発』と『品質マニュアル』の定義の変更により、恣意的解釈による新たな誤解が生れる可能性があり、前者は適用対象の範囲の拡大、後者は記述内容の拡大が必要とされる恐れがある。
06年版になかった『アウトソース』の定義が追加されたことは、『購買』とは異なるという誤解の解消につながるであろう。その場合は外注とアウトソースの二本立ての管理を購買管理に一本化できる。
     
   
4. 規格解釈の誤りの2015年版での行方の予測
  経営管理の枠組みの意味のマネジメントシステムを改善活動の仕組みとする基本的誤解を維持しながら、品質改善成果の継続的改善が規格の狙いであると言われることになる可能性が強い。これに喧伝される2015年版の特徴としての、戦略的、リスク、事業プロセスへの統合、トップマネジメントの責任強化の新たな誤解が加わる。しかし、規格解釈を全面的に認証業界に委ねてきた組織でも、変更された定義が活用されると無駄と思いながら規格の要求として受け入れてきた業務の内の品質目標の展開、力量管理、購買管理の簡素化が可能になり、新規概念とされる『組織の状況の理解』とリスクへの対応も喧伝される解釈より大幅に簡素化される可能性がある。逆に新たな誤解から新たな無駄が求められる可能性もあるので、組織には主体的に規格を読むことが大切である。 
H26.5.28
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所