ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
8       改定解説(DIS): マネジメントサイクルの観点からの検討
           
− ISO9001 2015年版 変更点と移行対応(1) −
<31e-01-08>
0.1 概要   こちら
 
0.2  図1 (ISO9001 2015年版(DIS)の変更点 −経営論のマネジメントサイクルに基づく規格条項<要求事項>の整理) (p)
 
 1. 経営論のマネジメントサイクル
(1) 経営戦略
 規格の品質マネジメントシステムの『マネジメント』は組織の経営管理の活動のことである。経営論では経営管理は組織の存立の目的に沿って事業を存続発展させる活動である。組織はその目的を果たすために無限持続体或いは継続組織体として生き残っていかなければならない。営利企業などの経済組織が生き残るためには、常に社会的ニーズの高い財・サービスを提供することと、財・サービスの提供に要する費用を上回る収入を得ることというふたつの条件を満たさなければならない。簡単に言えば、前者は何を作ればよいかであり、後者は如何に作ればよいかということである(44a)。
   
 組織がどのようにこのふたつの条件を満たして存続発展を図るのかの組織の基本的意思決定は、経営戦略の策定と言われる。経営戦略とは一般に、組織目的を果たすための組織のあるべき姿とそこに到達するための道筋或いは方策(45a)のことを意味する。また、組織の事業とは何か、及び、それは如何にあるべきかに対する解であり、組織のあり方や事業環境との係わり方の指針であって、組織内の様々な意思決定の指針又は基準の役割を果たすものという説明(43a)もある。さらに、組織の基本的な活動内容と範囲、経営資源や業務構造の確立や適用の基本的な考え方、競争上の位置づけ等々を規定にするものとも説明(44b)される。
   
  経営戦略をどのように策定するのかについては、戦略を策定することが、組織の存続発展に向けて組織が置かれた環境における機会と脅威を識別し、組織の有する潜在能力を勘案して環境条件と組織能力とのマッチングを図ることである(44b)とされ、或いは、組織の有する資源を外部環境が生み出す機会と リスク に マッチさせることである(43)とする説明に明らかにされている。すなわち、組織が置かれた環境と組織の有している能力を勘案して、実現の可能性と実現により得られる利益や効用の大きさとが釣り合う最適解として自らの存続発展の道を選択するのである。これは一般に、組織の有する能力を外部環境条件にマッチングさせることと表現される。
 
  経営論では、策定した経営戦略は組織の経営目標と、その達成のための各種経営方針と経営計画として表される。経営目標には、objective(目標)、goal(到達点)、target(標的)とも表される様々な性格のものがあり、実務的には戦略(基本、長期)目標、中期(戦術、個別)目標、短期(実行、年度)目標などに分けられる。いずれも将来の組織のあるべき姿を表すが、想定期間が長いほど概念的、抽象的に表され、想定期間が短いほど内容が明確で具体的となる。
 
  経営管理<マネジメント>活動がこのように戦略を基礎として存続発展を図る活動であることに焦点を当てて、これを「組織の有する能力(資源)を状況のニーズに適応させながら組織目的を達成していく活動」とする定義(45a)もある。規格では、経営管理(マネジメント)活動を「組織を方向づけ制御する統制された活動」と定義#19されており、策定した戦略の実現の管理に焦点を当てた表現となっている。
 
(2) マネジメント サイクル
  経営戦略の実現を図る経営管理活動の方法論は一般にマネジメントサイクルとして捉えられる。研究者により様々な表現があるが、例えば経営管理活動は計画‐リード‐統合という繰り返し活動に準えられる(45a)。ここでは「計画する」は戦略の策定と目標、方針、計画としての明確化、「リードする」は人々をその方向に動機付け、導くこと、「統合する」は戦略(計画)の達成に向けての組織の能力を調整、制御することにそれぞれ関係する。この繰り返し活動の統合と次のサイクルの計画との間にはそのサイクルの経営管理活動の成果としての目的達成度の評価と次のサイクルへの反映という経営の意思決定が含まれる。例えば、経営管理活動が計画から始まり、指揮(及び組織化、調整、動機づけ等)を経て統制に至り、統制結果がフィードバックされて再び計画が始まるという循環的過程を成すことを意味するという説明もある (54)。この説明ではリードは指揮、統合は統制とそれぞれ表現されている。
 
  いずれのマネジメントサイクルも最も重要な段階が「計画する」の経営戦略決定であり、戦略は組織の有する潜在能力を外部環境条件にマッチングさせることとして決められる。組織が無限持続体として永続的に存続、発展をするためには優れた戦略の維持が必須であり、組織は内外の状況の変化に合わせて経営戦略を適切に見直し変更しなければならない。これには組織の能力と外部環境に関する情報が日常的に体系的に収集、分析、評価される体制が組織内に確立していなければならない(45a)。
 
  このマネジメントサイクルの考え方は実務的には、経営管理(マネジメント)の活動を、戦略を策定し時代の変化に応じて見直して適切な状態に維持し、業務の手はずを整え、業務実行を管理することによってその戦略を実現し、戦略の実現を通じて組織目的を達成するという形の循環的活動として実践されている。
 
   
2. 品質マネジメントのサイクル
  現行08年版と2015年改定のDIS版の品質マネジメントのサイクルを経営論のマネジメントサイクルに沿って図1に表した。規格の品質マネジメントは品質方針、品質目標の策定とその達成を図る業務実行管理の循環的活動であり、この循環活動は経営論のマネジメントサイクルに則ったものであるが、計画/P‐履行/D‐管理/C‐継続的改善/Aのプロセスアプローチ/PDCAサイクルの形で表わされている。ここに、品質方針は「トップマネジメントによって正式に表明された、品質に関する組織の全体的な意図及び方向付け*1」、『マネジメント』は「組織を方向づけ制御する統制された活動#19」と定義されるから、品質方針(5.3)は、品質保証ないし顧客満足のあるべき姿とそこに到達する道筋を示す組織の経営戦略を意味し、品質マネジメントはこの実現を図る組織の経営管理<マネジメント>活動の側面であることが明らかである。
 
  マネジメントサイクルで重要な戦略の見直しの必要については、『品質方針及び品質目標を含む品質マネジメントシステムの変更の必要性の評価も行う』ことを役割とするマネジメントレビュー(5.6)の規定で明確にされている。ISO9000:2006(2.8.3)は、この変更が「利害関係者の変化するニーズ及び期待に対応する」ものであること、また、ISO14001:1996のマネジメントレビューの規定(4.6)では『環境マネジメントシステム監査の結果、変化している周囲の状況、及び、継続的改善への約束に照らして』の必要性に基づくものであることに言及している。
 
  これらから、規格の規定の戦略の策定、見直しが、組織の能力と外部環境のマッチングを図るという経営論の戦略立案の原則に依拠するものであることが明らかである。
 
  更に、同じISO14001:1996のマネジメントレビューの規定では戦略見直し評価に必要な情報収集の必要性についても『経営層がこの評価を実施できるように必要な情報が確実に収集されなければならない』と明確に規定されている。ISO9001にはこれほど直接的な表現はないが、08年版のマネジメントレビューへのインプット(5.6.2)の『マネジメントレビューへのインプットには次の情報を含めなければならない』として列記されるa)〜g)は、経営論の戦略立案原則の二要素の組織の能力と外部環境を意味している。また、これらの情報の内の顧客満足に関する情報だけは、その体系的な収集の必要を、顧客満足の監視測定の条項(8.2.1)において直接的表現で規定されている。
 
  規格では、組織のあるべき姿としてどのような顧客満足の状態を目指し実現するのかの戦略は、品質方針(5.3項)、品質目標(5.4.1項)に明確にされる。この戦略の実現を図るよう業務実行の手順を決め資源を用意して経営管理体制を確立することは、品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)である。ここまではマネジメントサイクルの計画とリードに相当し、プロセスアプローチ/PDCAサイクルの計画/Pである。
 
  この手はずに基づく業務とは実務的には日常業務のことであり、規格では製品実現の活動(7章)である。これは、プロセスアプローチ/PDCAサイクルの履行/Dである。管理者の担う日常的管理業務は、各業務が手はずの通りに実行され、定められた通りの業務結果が出るよう、また、決められた通りの仕様と品質の製品を顧客に引渡すことを確実にする管理である。この管理は規格ではプロセスの監視及び測定(8.2.3項)、製品の監視及び測定(8.2.4項)であり、プロセスアプローチ/PDCAサイクルでは管理/Cに相当する。経営論のマネジメントサイクルではここまでが統合(45a)、或いは、執行(指揮)・統制(54)に相当する。
   
   狙いの顧客満足を意味する品質目標は、この製品実現の活動の管理の総合的結果で達成される。その達成度の評価は、規格では顧客満足の監視測定(8.2.1項)とデータ分析(8.4 a)項)として規定されている。これは マネジメントサイクルの目的達成度評価であり、プロセスアプローチ/PDCAサイクルでは管理/Cである。
 
   経営論における経営管理活動の成果とは厳密には組織目的の達成度である。しかし、実務では、経営目標が組織目的に整合しているという前提で、組織目的の達成度は組織が達成した業績を経営目標と比較しての業績目標達成度で評価される。規格でも、品質目標の達成度の評価、判定が経営管理<マネジメント>の成果の評価であると明確にされている(8.2.1項)。
 
  実務では、経営目標と組織目的との整合性を評価し、整合を図る活動は、変化する事業環境と組織の能力の評価に基づく戦略の必要な見直しの活動に含まれる。このことは規格では、品質方針、品質目標の見直しの検討の場としての マネジメントレビュー(5.6項)として規定されている。これが 経営論のマネジメントサイクルの目的達成度の評価と次のサイクルへの反映という経営の意思決定であり、プロセスアプローチ/PDCAサイクルでは継続的改善/Aである。
 
 
3. マネジメントサイクルの観点からのDIS版の08年版からの変更点
  図1によると、両版の多くの条項で同一の標題名が用いられている他、標題名が変化しても対応する条項が存在し、規格の条項で表される両版の品質マネジメントサイクルは基本的に同じである。外見上で異なる点は次の3点である。
 
@ 4.1項と4.2項
  DIS版の4.1項(組織及びその置かれた状況の認識)と4.2項(利害関係者のニーズと期待の認識)は08年版にはないという点で新しい条項、規定である。これらの両条項は共通テキスト(SL)の採用の結果である。4.2項は4.1項に包含される内容であるが、外部環境の中心がISO9001では顧客であり、ISO14001では利害関係者であるという個別のマネジメントシステム規格の事情に鑑みて共通表現とするために別々の条項とされたと考えればよい。
 
  この新4.1項と4.2項に対応して共通テキスト(SL)は、マネジメントレビューでは「品質マネジメントシステムに関連する外部及び内部の事情の変化を考慮しなければならないと」と規定(9.3.項)し、4.1項と4.2項が戦略見直しの基礎になる情報の収集、分析のことであることを明確にしている。このことは、DISで「戦略的方向性を含む品質マネジメントシステムに関連する外部及び内部の事情の変化」と「戦略的方向性」が追加されたことにより、さらに明確になった。
 
  すなわち、4.1項と4.2項で収集、分析すべき情報は経営論の組織の能力と外部環境及びそれらの変化に関する情報であり、情報収集と分析の目的がマネジメントレビューでこれを評価して必要な戦略、つまり、品質方針、品質目標の見直しを行うことである。
  経営論の戦略の策定見直しは、組織の能力と外部環境及びその変化の情報の分析に基づき、従ってこれらの情報を日常的に体系的に収集する手はずの確立が前提であり、このことは上記2のように08年版でも種々な表現、観点で規定され、示唆されている。実際、そうでなければ組織が永続的に存続、発展できる効果的な経営戦略を維持することはできない。
 
  従って新4.1項、4.2項は、品質マネジメントシステムが効果的であるための新規な追加の要件(要求事項)ではなく、マネジメントレビューでの品質方針、品質目標の見直しのための当然の必要事項<要求事項>を明文化したものに過ぎない。
 
A 6.1項
  6.1項(リスクと機会に対処する処置)も、同じ標題の条項が08年版には見られない。これも共通テキスト(SL)の採用に伴う条項である。リスクと機会という用語が持ち込まれたことでややこしい条文表現となったが、6.1項ではこのリスクと機会は4.1の事情と4.2項のニーズと期待を考慮して決めると規定されている。つまり、品質保証ないし顧客満足の追求に関する経営戦略の決定、見直しの基礎となる組織の能力と外部環境の変化に関する リスクと機会である、実務的には組織の能力と外部環境の将来の変化における不確実性を原因として想定される顧客満足に係わる悪い結果(リスク)と認識した状況下で実現可能と考える良い結果(機会)のことである。この想定される悪い結果を防ぐための顧客満足の状態、或いは、良い結果の顧客満足の状態をそれぞれ品質目標としてその達成を図るのが品質マネジメントの活動であるから、このリスクと機会は実務的には品質方針、品質目標の決定の理由のことである。リスクと機会は品質方針と品質目標を決めたトップマネジメントの頭の中にあり、方針や目標と合わせて説明され、記述されることもある事柄である。
 
  08年版では、特定期間又は実現すべき顧客満足の到達点又は狙いを意味する品質目標をどのように達成するのかの手順を確立し資源を用意する、つまり、手はずを整えることを品質マネジメントシステムの計画(4.5.2)と呼んでいる。DIS版では、品質目標をリスクと機会に関連づけて表現し、品質目標の達成の方法をリスクと機会に対処する処置と呼ぶ。従って、DIS版の「リスクと機会に対処する処置を計画しなければならない」(6.1)は、08年版の「品質目標を満たすように品質マネジメントの計画を行わなければならない」(5.4.2)とは同じ意味である。表現が違うだけで、規格の意図は変化していない。
 
B 6.2項、及び、6.3項
  6.2項(品質目標及びその達成の計画)と6.3項(変更の計画)も、08年版には全く同じ標題の条項が見られない。6.2項は共通テキスト(SL)の採用に伴うものであり、6.3項はISO9001特有の追加条項である。しかし、両項の実体は、共通テキスト(SL)の条文を採用しつつ、08年版の5.4.1項(品質目標)と5.4.2項(品質マネジメントシステムの計画)の条文の趣旨を再編して新たな2つの条項に織り込んだものである。08年版と表現は変わっただけで、条文の趣旨も規定(要求事項)の意図には変化はない。
 
 
4. 2015年版への移行対応
  上記3.@ABとも品質マネジメントの業務の要件<要求事項>の変更ではない。ISO9001の規定を品質保証ないし顧客満足追求の効果的な経営管理<マネジメント>の要件<要求事項>)と受け止めて実務に適用してきた組織には、仕事のしかたの何も変える必要はなく、頭の中を整理すればよいだけだ。規格を品質改善運動の仕組みと受け止めてきた組織には、特に@Aでは実務と関係のない様々な形式が審査で要求されることが予想されるから、これに沿った移行対応をするよりはこの際に正しい品質方針、品質目標の理解に転換する方が楽かもしれない。すなわち、
 
@は08年版のマネジメントレビューへのインプット(5.6.2項)の情報の収集と分析の活動を指すから、審査ではどのような情報をどのように収集し、評価、分析しているのかを何らかの形(ひとつである必要なない)で説明できればよい。しかし、これを機会に現在収集し、マネジメントレビューに供されている情報が規格の意図のような戦略たる品質方針の見直しのための組織の能力と外部環境の情報として必要で十分かどうかを吟味するのも有意義であろう。
 
Aは審査で、品質目標として定めた狙いの顧客満足のそれぞれについてリスクと機会との関係を聞かれるであろうから、受審担当者は頭の中を整理しておけばよい。例えば、発注量を削減されるというリスクに対処するために苦情発生件数の対前年50%低減を品質目標としているとか、品質ナンバーワンの顧客評価の確立という機会を追求するために製品寸法精度の点で他組織を圧倒する顧客の製品組立の品質と能率の維持を品質目標としているとか、品質目標を決めた理由を規格用語のリスクと機会に関連して説明できればよい。
 
Bは何もすることはないが、敢えて何かをするというなら、組織の品質目標達成の管理ポイントとなる業務の管理(5.4.1)と問題を起こさない変更管理(5.4.2)の現状を6.2項、6.3項の条文に当てはめることができるかどうか、審査員に説明できるかどうか頭の体操をすることだろう。
 
引用文献
(43) 松永美弘:現代経営学総論、海声社、1997.5.15、a-p.49;
(44) 榊原 清則:経営学入門(上)、日本経済新聞社、2002.4.8、a-p.29〜36; b-p.145〜149
(45) 野中郁次郎:経営学入門シリーズ、経営管理、日本経済新聞社、1983.10.7; a-p.13

   図 1    (p)  
   
 

H26.7.4(修7.14)
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サニーヒルズ コンサルタント事務所