ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
9       改定解説(DIS): 2つのPDCAサイクルの観点からの検討
             − ISO9001 2015年版 (DIS)  変更点と移行対応(2) −
<31e-01-09>
0.1 概要   こちら
 
0.2  図1 (ISO9001 2015年版(DIS)の変更点 −業績管理と品質保証管理との2種類のPDCAサイクルに基づく整理と比較 (p)
 
 
1. 2つのPDCAサイクル
  規格の各章、条項は相互に関連を持っており、そのような関連を持つ規格構造はプロセスアプローチのサイクルとして図示され説明されている。しかし、規格構造を2種類の管理のPDCAサイクルとそれらの基盤要素とで構成されるとして整理すると、規格を組織の日常の活動により近づけて理解することができる。この考えでDIS版の条項(青字)を整理し、08年版の条項(黄色背景の黒字)と対比して図1に示す。
 
@ 外枠のPDCAサイクル
  外枠のPDCAサイクル(青色矢印)はトップマネジメント主導の活動であり、品質経営<品質マネジメント>活動の業績を管理するPDCAサイクルである。組織の存続発展を図るための品質保証・顧客満足に関する戦略を決め、資源を投入して事業実行とその管理のための経営管理体制を整え、内枠のPDCAサイクルの実行を統制して、必要として定めた顧客満足の状態、状況を確実に実現するように組織の業務実行を管理する。規格で『顧客満足を顧客要求事項を満たすことによって向上する』ためのプロセス、『品質マネジメントシステムの有効性』『品質マネジメントの成果を含む実施状況』という場合はこのPDCAサイクルに関係する。
 
A 内枠のPDCAサイクル
  内枠のPDCAサイクル(金色矢印)は受注から顧客への引き渡しの一連の業務であり、外枠のPDCAサイクルで決められた方針、目標に沿って受注製品の仕様と品質を決め、確実につくり、顧客に引き渡すようにする品質保証管理のPDCAサイクルであり、管理者の日常業務そのものである。規格で『製品要求事項への適合』のための云々、或いは、『製品実現のためのプロセス』というような場合は、このPDCAサイクルと関連する業務を指す。
 
B 外枠と内枠の共通の基盤要素
  これらのPDCAサイクルが確実に回されるための共通の原理・原則、資源、管理手段、経営管理体制<マネジメントシステム>のその他の要素である。
 
 
2. 2つのPDCAサイクルの観点からのDIS版の08年版からの変更点
  図1のように規格構造としてはDIS版も08年版と同じ考えで整理できるから、改定版も規格の構造は08年版から変わっておらず、2つのPDCAサイクルの業務を通じて品質保証・顧客満足の観点からの組織の存続発展を図ることを意図して書かれているということも変わっていないと考えてよい。しかし、多くの条項標題の変更があるだけでなく、新規条項も無くなった条項もある。これらの変更点を次の3点に分けて考察する。
 
@ 外枠のPDCAサイクルのA、P部の新規条項
  4.1と4.2項、及び、6.1項は08年版にはない新規な条項であるが、先の改定解説(マネジメントサイクル)*で明らかにしたように品質経営<品質マネジメント>の業務に対する新たな必要条件<要求事項>の追加ではない。6.2と6.3項は08年版の5.4.1と5.4.2項を再編して書き直したものであり、一部の文言も同じであり規定の趣旨は変わっていない。
 
A 両枠のPDCAサイクルのC部の条項構成の大きな変更
  08年版の8章(測定、分析及び改善)が、改定版ではSL(共通テキスト)に従って9章(パフォーマンス評価)と10章(改善)とに分けられると共に、条項構成が大きく変わった。同時に、条項の規定<要求事項>の性格が大きく変っっている。
 
  すなわち、08年版で業績管理と品質保証管理の両方に関係する8.2項(監視及び測定)の4条項の内、 製品の監視及び測定(8.2.4項)はその検査の方法の部分のみが8.6項(製品及びサービスのリリース)となって移動し、残りの趣旨とプロセスの監視及び測定(8.2.3項)の条項全体が改定版では消えた。また、改善の処置と管理手法との2種類の意味で規定されていた8.5.3項(予防処置)が条項もろとも無くなった。
 
  また、08年版では”C”に相当する管理を、情報検出の『監視及び測定』と情報の基準に照らしての判断の『データ分析』との2段階の活動と見なして記述されているが、8.2項(監視及び測定)の2条項が存在しない改定版でもこの考え方は変わっていないように見える。しかし、改定版の9.1.3項(分析及び評価)の規定は、08年版の8.4項(データ分析)が品質経営<品質マネジメント>にとって重要な管理項目を具体的に規定しているのに対し、一般論として必要な管理の観点を箇条書きするものとなった。
 
  そもそも00年版(08年版)の8章は、全業種業態に適用可能な表現とする改定の狙いに沿って、94年版の製造業主体の管理の方法論や手法の規定を8章に集めて、一般的な管理の方法論の形に書き直したものである。すなわち、94年版の工程管理(4.9項)の『工程パラメーターと製品特性の監視と管理』が一般表現化されてプロセスの監視及び測定(8.2.3項)と製品の監視及び測定(8.2.4項)となり、後者には『検査・試験』(4.10項)が統合された。業務管理上の手法として規定されていた予防処置(4.14.3項)と是正処置(4.14.2項)が、事前又は事後対応という問題対処の方法論として格上げされて、改善の処置として位置づけられたのが予防処置(8.5.3項)、是正処置(8.5.2項)であり、前者については8.4項で『予防処置の機会を得ることを含む、プロセス及び製品の特性及び傾向』と管理手法としても規定されている。また、94年版の品質管理手法としての『統計的手法』の規定(4.20項)が、その目的の多様な情報から真実を抽出する、或いは、基準に照らして物事の判断をするという意味の『データ分析』として拡大され、一般的方法論化された。
 
  ISO9001の15年改定版の記述が上記のように大きく変わったのは、このような08年版8章の背景や経緯を顧慮しないで書かれたSL(共通テキスト)を基礎としているからである。すなわち、SL(共通テキスト)では9章は外枠の管理を意味する『パフォーマンス評価』であり、08年版の8.1項(測定、分析及び改善 一般)に相当する原理・原則を示す規定(9.1項)と内部監査(9.2項)しかなく、ここにマネジメントレビュー(9.3項)を移動させた構成となっている。更に、経営管理<マネジメント>活動の本質が予防処置であるとして改善の処置には是正処置(10.1項)しか規定していない。ISO9001の15年改定版ではこれに9.1.2項(顧客満足)と9.1.3項(分析及び評価)を08年版の8.2.1項、8.4項から移動させ追加しているが、9.1.3項は前記のように具体性のない論理のみの規定となっている。
 
  両PDCAサイクルのC部の改定版9章と10章は08年版8章とは似ても似つかない外形であり、似た外形の条項も中身から方法論や手法が排除されて,論理のみの規定となっているという点で、改定というより刷新である。しかし、何をどういう意図で変えたという説明はCD版に付された改定点説明にもないし、意図の変更を示す特定の条文、記述もない。全業種業態に適用可能な記述の汎用化を更に進めるという改定の狙いが、SL(共通テキスト)の採用により、08年版8章については特に徹底されて、条項構成にまで及んだものと受け止めるのがよいと思われる。
 
B 資源マネジメントの要素の増加
  SL(共通テキスト)では資源の規定は、08年版の必要な資源を用意する必要を規定した6.1項と同様の7.1項のみであり、職務能力<力量>と認識は7.2, 7.3項として独立した条項となっっている。これを基礎とするISO9001では、08年版のインフラストラクチャー(6.3項)と作業環境(6.4項)をそれぞれ7.1.3, 7.1.4項として組み入れ、更に監視機器及び測定機器(7.6項)をここに移動した。その上でCD版で知識(7.3.4項)、DIS版では『人』(7.1.2項)が追加された。
 
  この新たな資源の追加の意図の説明はないが、必要な知識の取得、維持、改善は職務能力<力量>、インフラストラクチャー、文書や記録の管理の中に反映されていることであり、人の充足は職務能力<力量>の充足と同じことであり、どちらも重複規定<要求事項>である。
 
 
3.15年版への移行対応
(1) 品質経営体制の指針として規格を実践する組織
  @ABのどれも規格の意図の変更でも追加でもないから、何も変えることはない。ただ、円滑な認証審査のために受審責任者は、Aについて実際の業務方法が新しい表現の規定<要求事項>をどのように満たしているか検討してみることが必要であろう。
 
(2) 審査対応至上主義で、規格実践の負荷と効用に不満を持つ組織
  規格条項、条文の変遷を知らないで、改定版の論理中心の表現の規定に基づいて新たに9章、10章の規定<要求事項>を満たす規格の意図する業務の手はずを整えることは難しい。
 
  規格の意図は、08年版と改定版のどちらの規定<要求事項>も、決められた製品を間違いなく顧客に引き渡すことを通じて狙いの顧客満足を確実に実現させるために、どのような業務の実行と結果を管理しなければならないかという問題である。改定版で「分析及び評価の結果はマネジメントレビューのインプットとなる」と書かれているように、このことは実務的にはトップマネジメントが意図する業績を挙げるために、どの業務のどこに注意していかなければならないと考えて、日々に関心も持ち、管理者に問い、指示を出し、或いは、定例会議で報告を求めているかということである。これを整理した上で、それに関係する情報がきちっとトップマネジメントに届くようになっているかどうかを検討し、情報の収集と分析と報告の手はずを確定する。その上で9章、10章の規定<要求事項>と照らし合わせて過不足を評価する。必要な管理をきちっと行うことが規格の意図であり、必要かどうかはトップマネジメントの判断であり、規格はその判断か適切かどうかの指針を示す。

 図1   <p>
 

 
*: 改定解説(DIS):変更点と移行対応‐2 (2つのPDCAサイクルの観点)− ISO9001 2015年版 (DIS)解説  実務の視点
H26.7.17
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