ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
64 ISO9001:2015 改定解説    6.1  リスク及び機会への取組み
- 変更点と移行対応 (55) -
<31e-01-64>
 
 
0.1
概要   こちら

   
0.2 *実務の視点和訳⇔JIS和訳の対応  (英語解釈 抜粋)
 
経営管理体制 ⇔マネジメントシステム$19-1; 外部及び内部の事情 ⇔外部及び内部の課題#65;
   品質経営 ⇔品質マネジメント$19-0;  品質経営体制 ⇔品質マネジメントシステム$19-1-1;
   品質経営体制の計画(活動) ⇔品質マネジメントシステムの計画$19-1-1;  要件 ⇔要求事項$1
   
   
1. 規定条文
6. 計画
6.1 リスク 及び機会への取組み
6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき、組織は、4.1に規定する課題及び4.2に規定する要求事項を考慮し,次の事項に取り組む必要のあるリスク及び機会を決定しなければならない。
 
a) 品質マネジメントシステムが,その意図した成果を達成できるという確信を与える。
b) 望ましい影響を増大する。 
c) 望ましくない影響を防止,又は、低減する。 
d) 改善を達成する。
 
6.1.2  組織は,次の事項を計画しなければならない。
 
a) 上記によって決定したリスク及び機会への取組み。
b)次の事項を行う方法。
  1) その取組みの品質マネジメントシステム プロセスヘの統合及び実施(4.4参照)。
 2) それらの取組みの有効性の評価。
 
リスク及び機会への取組みは、製品及びサービスの適合への潜在的影響と釣合いのとれたものでなければならない。
 
  注記1 リスクへの取組みの選択肢には、リスクを回避すること、ある機会の追求のためにそのリスクを取ること、リスク源を除去すること、起こりやすさ若しくは結果を変えること、リスクを共有すること、又は、情報に基づいた意思決定によってリスクを保有することを含めることができる。
  注記2  機会は、新たな慣行の採用,新製品の発売、新市場の開拓、新たな顧客への取組み、パートナーシップの構築、新たな技術の使用、及び、組織のニーズ又は顧客のニーズに取り組むためのその他の望ましくかつ実行可能な可能性につながり得る。
 
[08年版 関連規定]
5.6.3 マネジメントレビューからのアウトプット
マネジメントレビューからアウトプットには、次の事項に関する決定及び処置すべてを含めなければならない。
a) 品質マネジメントシステム及びそのプロセスの有効性の改善; b) 顧客要求事項にかかわる製品の改善; c) 資源の必要性
5.4.2 品質マネジメントシステムの計画
トップマネジメントは、次の事項を確実にしなければならない。
a) 品質目標に加えて4.1に規定する要求事項を満たすために、品質マネジメントシステムの計画を策定する。
   
 
2. 条項の意図
(1) 趣意
  規格では、品質方針及び組織の品質目標(5.2項)として決めた狙いの顧客満足の状態を実現するために必要な手順を決め資源を用意して業務実行の手はずを整える活動を「品質経営体制の計画」と呼ぶ。6章は、効果的に品質経営体制の計画を行うための要件を規定している。
 
  規格の品質経営活動の基本要件は、あるべき顧客満足の状態に関する経営戦略を明確にし、時代の変化に応じて適切に変更し、それを確実に実現させるというプロセスアプローチ/PDCAサイクル(4.4項)による循環的活動として、品質経営活動を行うことである。この循環活動では、トップマネジメントが マネジメント レビュー(9.3項)によって時代の変化を把握、評価して、組織の維持発展に必要な顧客満足の状態の継続的維持という観点で、品質方針及び組織の品質目標の見直し変更を含み、時代の変化に対応する。
 
  本項は、マネジメント レビューによって組織と組織を取り巻く情勢の変化(9.3.2 b)項)に対応して取り組むべき課題を決める際に,情勢の変化とそれがもたらす事態に係わる不確実性への配慮が必要であること、それらに応じて顧客満足の状態の狙いを強化又は変更し、その実現に必要な処置に係わる業務実行の手はずを整える品質経営体制の計画活動を行わなければならないこと、及び、品質経営体制の計画活動が効果的であるための、不確実性への配慮を含む要件を規定している。
   
(2) 論理及び用語
① マネジメントサイクル§33
  経営論では経営管理は事業組織を無限持続体として存続発展させる活動であり、組織を取り巻く外部環境に組織の有する潜在能力を適応させながら創業の目的を達成していく過程であるとされる。この過程は、経営戦略を策定し、その実現のための業務の手はずを整え、業務実行を管理して戦略の実現を図り、さらに変化する内外の事情に応じて戦略を見直し変更するという循環的活動として認識され、マネジメントサイクルと呼ばれる。
 
  規格は、品質経営の活動を、顧客満足の追求に関する経営戦略としての品質方針及び組織の品質目標(5.2項)の見直し変更を核とする、マネジメントサイクルに倣ったプロセスアプローチ/PDCAサイクルの繰り返しによって、いつの時代でも必要な狙いの顧客満足の状態を維持する活動とみなして書かれている。
 
  この循環活動の核は、マネジメントレビューの活動(9.3項)であり、組織の存続発展に必要な顧客満足の状態の狙いと経営施策を決め、その実績と時代の変化を評価して、品質方針及び組織の品質目標の変更を含む対応処置を決める。これら必要な対応のための経営施策たる処置(9.3.3項)を決め、これを品質方針及び組織の品質目標(5.2項)に反映させて、品質経営体制の計画(6.1項)により処置の実行の手はずを、関連する業務の狙いとしての品質目標 (6.2項)の達成の手はずという形で整える。日常の業務実行では、各業務が手はずで決められた通りに行われ、決められた通りの結果が出るように管理して(9.1.1項)、狙いの顧客満足の状態の確実な実現を図る。さらに、これら実績を時代の変化と共にマネジメントレビューで評価する。
 
② 経営戦略決定の方法論§35.2
  経営論のマネジメントサイクルにおける経営戦略の策定、見直しには、外部環境と組織の業務能力に係わる不確実性という現実に立脚した問題検討や思考が重要視される。すなわち、外部環境と組織の業務能力における組織の存続発展に好都合な事情(機会)のその活用で実現の可能性のある好都合な結果(機会)、及び、不都合な事情(脅威)とそれがもたらす可能性のある不都合な結果(リスク)を特定し、それぞれに組織の有する顕在及び潜在能力でどのように対応できるのかの検討を通じて、経営戦略を決めることが必要である。
 
  実務では、時代の変化への対応は、組織の顧客満足の追求に影響を及ぼす事業環境と組織の業務能力の変化、及び、放置した場合に予想される事態に鑑みて、良い事態を活用し、悪い事態を回避又はその影響を最小化するという観点で決める。
 
  規格ではこれを、08年版(5.6.2 f))では「品質経営体制に影響を及ぼす可能性のある変化」への対応と表現し、15年版では、外部及び内部の事情(4.1/4.2項)に鑑みての「取り組む必要があるリスク及び機会の決定」と表現する(6.1.1項)。
 
③ リスク及び機会§34
  「リスク(risk)」は、何か悪いことが将来のいつか起きる可能性という意味であり$33、「機会」の英文“opportunity”は、一般に「機会、好機、時機、潮時」であるが、「可能性、自由度、見込み」の意味もある$32
 
  経営用語としての「リスク及び機会」は、組織の外部環境とその業務能力に係わる不確実性によってもたらされる好ましくない結果と好ましい結果とを意味する§34.1.2
 
  リスクマネジメント用語としての「リスク」は、伝統的リスクマネジメントでは例えば「損失、損害、損傷につながる悪い結果を生む不確実性」とも定義(98.5)されるが、現代的リスクマネジメントでは、見込まれる好都合な事情が「機会」であり、見込まれる不都合な事情が「脅威」であり、それぞれにより可能性のある好ましい結果も好ましくない結果も「リスク」である。この上で、好ましい結果に繋がるリスクは「機会」とも呼ばれるようである。
 
  従って、リスクマネジメントの二大潮流と言われるの一方の伝統的リスクマネジメントには「機会」の概念はないが、現代的リスクマネジメントでは「リスクと機会」と話され、また、記述されている場合は、不確実性によってもたらされる可能性のある、好ましくない結果と好ましい結果と受けとめることができる§34.1.3
 
④ 規格の意図の リスク及び機会§34.2
  規格では「リスク」を「不確実性の影響」と定義し#60、「影響とは、期待からの乖離のことであり、正の場合も負の場合もある」と注釈#60-1を付している。さらに、規定(6.1項)の末尾に、リスク対応の方法の説明と機会の例示の注釈を付しており、いわゆる リスクマネジメントの用語としての「リスク及び機会」であるかの取り扱いをしている。一方で、リスクマネジメントの公式の方法やリスクマネジメントの業務の文書化を必要としているのではないと記している(A.4)
 
  しかし、はっきりしていることは、用語「リスク及び機会」は、15年版で規格に採り入れられたが、これは効果的な品質経営の在り方を規定するISO9001の必要からその概念を新たに導入することが目的であったのではなく、共通テキストの採用のために、その用語や規定表現が取り込まれたに過ぎない。
 
  共通テキストへの用語「リスク及び機会」の導入の理由としては、既存のマネジメントシステム規格には不適合の管理として予防処置を扱うものとリスクマネジメントの概念を扱うものとの2種類があること(13)、及び、経営管理体制というものの本来の目的のひとつが予防的用具として機能することと考えるというふたつが挙げられている(14)。前者に関しては、外部及び内部の事情(4.1/4.2項)から リスク及び機会への取り組みの決定(6.1項)という リスク対応型の規定が全マネジメントシステム規格に共通の規定表現となり、さらに、この表現により後者の問題も解決したとして08年版(8.5.3)の予防処置の規定が無くされた。すなわち、用語「リスク及び機会」の導入は リスク概念の導入が意図されたものではなく、既存の各マネジメントシステム規格の経営戦略の策定と見直しに係わる表現の統一を、現代的リスクマネジメント§34.1.3のリスク概念に沿った形で統一したものである。
 
  また、共通テキスト概念説明書(16)は、用語「リスク及び機会」の導入の意義に関連して、「有害又は負の影響を持つ脅威をもたらす何か、或いは、有益又は正の影響を持つ何かを、大雑把に言い表すために、用語“リスク及び機会”を用いた。技術的、統計的又は科学的な解釈の用語“リスク”と同じことを意味することが目的ではない」と説明している。すなわち、リスクとか機会とかの用語には厳密な意味はなく、経営論の経営戦略§34.2の、また、実務の経営方針§35.5と経営目標§35.6の、さらに、規格の品質方針及び組織の品質目標(5.2項)の、それぞれの決定や見直し変更における不確実性の考慮ということが表現されているだけである。
 
  さらに、TC176の新用語「リスク及び機会」の意図に関する標題「リスク思考」という文書(18.2)では、規格が「リスク管理」の必要を規定しているのでなく「リスク思考」の必要を規定しているということ、及び、この「リスク思考」が組織の実務では当たり前のことであり、これまでのISO9001にも明示的ではないが暗に含まれていたということが明瞭に記されている。 15年版改訂方針に「“リスク管理”アプローチの導入」が含まれていることについても、改定作業責任者Croft氏は「これまでもISO9001の多くの項目でリスクへの対応が暗に含まれているが、明示はされていない。そのため、多くの規格使用者がが、 リスク管理の要素が既に規格に含まれていることに気付いない」だけであるとして、効果的な品質経営としての新規な要件の追加を意味するものでないことを明確にしている。
 
  すなわち、「リスク概念の導入」は改訂版執筆者には初めから意図されておらず、共通テキストの用語と表現をそのまま受け入れたというころである。その共通テキストの「リスク及び機会」の意図§34.2.1では上記のように、用語に厳密な意味はなく不確実性の考慮の必要の明確化だけであるから、共通テキストの表現を用いた規定(6.1.1項)の「取り組む必要があるリスク及び機会の決定」には マネジメントレビュー(9.3.3項)の品質方針及び組織の品質目標(5.2項)の決定や見直し変更における不確実性の考慮という以上の意味はないということである。
 
⑤ 外部及び内部の課題
   JIS和訳「外部及び内部の課題」は、4.1項の規定条文によると標題の「組織及びその置かれた状況」に関連する「課題」である。ここに「外部及び内部の課題」の「課題」は英文では“issue”であり、これは議論や話合いの主要な題目という意味である。問題があるという意味の「問題」ではなく、話題や題目の事柄の「問題」のことである$65。共通テキスト概念説明文書(16)でも、その意図の“issue”が、組織にとって重要な話題(topics)とか、議論や討論する問題(problems)、又は、変化する周囲の状況のことであると説明されている。
 
  この「外部及び内部の事情」の変化は、08年版(5.6.2 f)) では「品質経営体制に影響を及ぼす可能性のある変化」と表されており、対応が必要な問題を抽出し、処置を決める(9.3.3項)ためにマネジメントレビューで評価するように規定されている(9.3.2 b)項)。
 
  すなわち「外部及び内部の事情」とは、上記①の経営論における経営戦略、規格では品質方針及び組織の品質目標(5.2項)の見直し検討、の基礎となる外部環境と組織の能力のことである。但し、15年版では共通テキスト化のために、「外部及び内部の事情」の変化に含まれる顧客のニーズと期待の変化などが4.2項に「利害関係者とニーズと期待」として別建てで規定されている。
 
⑥ 品質マネジメントシステムの計画§5
  規格の『計画』は、将来行いたい事の手はずを整える活動を意味し$28、JIS和訳「品質マネジメントシステムの計画」の「品質経営体制の計画」とは品質経営に係わる業務実行の手はずを整える活動である。規格の表現で業務実行の手はずを整えるとは簡単には、手順を確立し必要な資源を用意することと表現できる。事業開始のための品質経営体制の確立も、品質方針変更に伴う経営施策たる処置の実行の手はずを整えることも、再発防止対策としての業務実行の手順を確立、変更することも、「品質経営体制の計画 (計画の変更)」である。この観点からは現在の品質経営体制とは、品質経営に係わる一連の業務に関してそれまでに整えられてきた手はず或いは手順と資源の集まりを意味する
 
  品質経営体制の計画活動を行うことを08年版(5.4.2項)では「品質目標を満たすように品質経営体制の計画活動を行う」と表現されているが、15年版では「リスク及び機会に取り組む処置を計画する」と表現される(6.1.2項)。08年版(5.6.3)では品質経営体制の計画を、マネジメントレビューの結果として決めた経営施策としての処置(9.3.3項)の狙いの結果を「品質目標」と表し、これを達成するための手順を決め、必要な資源を用意して、処置の実行の手はずを整えることと表現している。15年版ではマネジメント レビューで決める経営施策としての処置(9.3.3項)は上記⑤の外部及び内部の事情の分析評価で抽出特定した リスク及び機会への対応の処置であるから、品質経営体制の計画はリスク及び機会に取り組む処置と表現されている。
 
  個々の品質経営体制の計画活動を行った結果は、品質経営体制の計画の「アウトプット」であり、その実体は確立した手順又は手順書と要員、設備、作業環境等の用意した資源である。また、いつ何をするかを明らかにする実行の日程計画的な手はずを整える品質経営体制の計画の結果は“programme”と表され、JIS和訳では「プログラム」であり、例えば内部監査の「監査プログラム」である(9.2.2項)。6.2.2項はこの種の品質経営体制の計画の結果がどのようなものでなければならないかを規定しているが、実務ではこれらを記述又は参照先を記述した実行計画書が計画活動の「アウトプット」となる。
 
    
(3) 規定要旨
6.1.1項(リスク及び機会の特定)
  組織は、マネジメント レビュー(9.3項)によって時代の変化に応じて組織の存続或いは発展のために取り組む必要がある課題を抽出しなければならない。効果的な課題抽出であるためには、マネジメント レビューでは顧客満足の追求に関係する外部及び内部の事情に関する情報(4.1/4.2項)を分析評価して、変化しつつある或いは変化の可能性のある事情に係わる情勢を把握し、それらがもたらすであろう事態を想定し、これらの情勢と事態に付随する不確実性を考慮に入れて課題を抽出しなければならない。
 
  課題の抽出は、評価した外部及び内部の事情に関してa)~d)の観点から行わなければならず、必要な顧客満足の状態の実現や維持に好ましい事情と不都合な事情を識別し、その活用と悪影響防止のそれぞれの性格の課題として特定しなければならない。
 
  ここに、a)は、狙いの顧客満足の状態の実現、b)は、顧客満足の追求に好ましい事態をもたらす可能性の活用、c)は、顧客満足の追求に支障となる事態が生じるのを防止又は悪影響の軽減、d)は、抱える問題の改善、のそれぞれの課題抽出の観点を指す。
 
6.1.2項(リスク及び機会への取組みのための品質経営体制の計画
 抽出した課題に対応する経営施策としての処置を決め(9.3.3項)、それら処置に係わる業務実行の手はずを整えなければならない。これら業務実行の手はずは、a), b)を満たさなければならない。
 
  a)は、手はずが6.1.1項で抽出した課題に対応する処置に係わる業務実行の手はずであることを意味し、b)の1)は、それら手はずを組織の品質経営体制の一連の業務の手はずの一部として整えなければならないということであり、b)の2)は、手はずがプロセスアプローチの原則(4.4項)に則った形になっていなければならないということである。
 
  また、課題の抽出と対応処置の程度は、不確実性を考慮して組織の存続発展を確実にするという必要に応じたものでなければならない。
 
 
(4) 実務の視点の解釈
  例えば業界一の高品質を経営戦略たる品質方針とする組織が、年度方針に基づく年度目標に苦情発生率の対前年半減を決め、これに対応する品質関係要員の増員や製造基準の厳格化などの処置を決めたとした場合には、競合組織の動向という事情の中の前年に起こした重大品質事故による大騒ぎという事態から品質不良品への顧客の目が更に厳しくなっていくだろうと見込まれる状況を好機と捉えて対応し、品質ナンバーワン供給者という顧客の評価をさらに固めることを目指す処置である場合と、顧客の製品への評価という事情の中の近年引き続く不安定な苦情発生実績という認識に鑑みて永年培って定着したかに見える品質ナンバーワン供給者という顧客の評価が揺らぎかねないという心配に対応してそれが現実化するのを防止する処置である場合がある。前者であれば年度目標に対応する処置は「取り組む必要のある機会」に応じた「機会への取組み」であり、後者であれば「取り組む必要のあるリスク」に応じた「リスクへの取組み」である。
     
   
(5) 改定版品質マニュアル(外部説明用)ひな型←実態を規定に沿って記述
 品質経営適用しない。期末業績検討会(9.3項)における品質方針の見直し検討においては、変化する外部環境と業務能力に係わる事情(4.1、4.2項)を品質基本方針(5.2項)に照らして評価し、必要な顧客満足追求に活用できる、及び、放置すると顧客満足の追求に支障をきたす可能性があるという点で対応しなければならないと考えられる課題を抽出し、課題に取り組むための処置(9.3.2項)を決定する。
   
  これら課題に取り組むための処置は年度重点取り組み事項として、また、取り組みの狙いの結果として実現又は維持させる顧客満足の状態を年度品質方針として、それぞれ明確にする(5.2項)。 年度重点取り組み事項(5.2項)に関係する部門は、部門の担当機能の観点から、それぞれの重点取り組み事項に対応する年度品質方針の狙いの顧客満足の状態を実現させるのに必要な業務とその実行の手はずを整える。
     
     
3. 必要な読み替え(規格の意図の正しい理解のために)
計画の策定 → 計画活動の実行$28
  英文は“planning”で「計画する」であり、これは日本語では将来行うことの方法や日程を企画することなのに対して英語では用意万端、手はずを整えることを意味する。『計画の策定』と和訳されたことにより、JIS和訳「品質マネジメントシステムの計画」を「マネジメントシステム構築作業の計画」というような珍妙な解釈がなされてきた。
リスク及び機会への取り組み → リスク及び機会に取り組む処置 (単純な誤訳)
  英文は“actions to address risks and opportunities”であるから、単なる取り組みではなくて「取り組む処置」である。この「処置(action)」が9.3.2項(マネジメントレビュー)の結論の「判断と処置」の処置(actions)を指す。
不確かさの影響 → 不確実性の結果 (SLの リスクの定義)
  日本語ではリスク について英文の“uncertainty”を語る場合は「不確実性」であり、不確実性の高い時代というような表現もされる。「不確かさ」と和訳されることにより、リスクが規格特有の概念となって様々な珍解釈が生まれる恐れが強い。
   
     
4. 改訂版の変更点(08年版規定からの変化)
➀ 6.1.1項(リスク及び機会の決定)
  08年版でもマネジメント レビューによる品質方針、目標を含む品質経営体制の変更の必要を内外の事情の変化(品質経営体制に影響を及ぼす可能性のある変化:5.6.2 f))に鑑みて評価検討して対応すべき課題を抽出と特定すべきことが明確に規定されている、実務ではこの種の事情の変化に不確実性が付随するのは常識であるから、08年版でもリスクと機会の概念は実際に適用されてきた。15年版ではマネジメントレビューの結論の取り組むべき課題を「取り組む必要のあるリスク及び機会」、「処置」を「リスク及び機会への取組み」と言い換えただけである。
② 6.1.2項(リスク及び機会への取組みの計画)
  08年版(5.4.2)では「品質目標を満たすように品質経営体制の計画活動を行う」、15年版は「リスク及び機会に取り組む処置を計画する」である。規格の論理では「リスク及び機会に取り組む処置」の狙いの結果は「品質目標」であるから、「品質目標を満たすよう計画する」も「処置を計画する」も同じことである。
     
     
5. 改訂版への移行対応
➀ 品質経営体制の指針として規格を実践する組織
 既に本4.1、4.2項の規定を満たした情報の日常的な収集と分析が行われているはずであるから、何も変えることはない。年度品質目標のどれが「機会への取組み」でどれが「リスクへの取組み」か、を審査員に説明できればよい。しかし、マネジメント レビューで評価、検討している事柄(5.6.2項)が、組織の品質経営の戦略である品質方針と組織の品質目標の見直しに必要な外部環境と組織の能力を表すものとして必要、十分であるかどうかについて再検討してみるのも有意義であろう。
② 認証取得の条件として規格を認識し、負荷と効用に不満を持つ組織
 どのトップマネジメントも年度の収益見通しを持っており、その達成のための売上とコストに関する目途があり、そのために製品品質と顧客対応に関してもこうしなければならない、こうでなければならない、このようにするという腹積もりがある。トップマネジメントのこのような想いは外部環境と組織の能力に関するトップマネジメントの認識と、このようなことが実現できる、見過ごせばこんなことが起きてしまうというような判断に基づいているはずである。これを整理して何の実現のために何をするかにまとめて例えば年度品質目標に明確にすればよい。なぜそうしなければならないかの判断に至る思考過程が6.1.1項である。審査のために必要として、誰にも成算がなくトップマネジメントも資源を投入してまでは達成を期待していない品質改善活動は、このようなトップマネジメントの腹積もりには存在しないのではないだろうか。
   
   
6. 公表された改定版解釈
(1) 08年版から変わってないとする解釈
① 08年版のデータ分析や予防処置による組織の裁量で定められたリスク及び機会の特定が明文化された*Q24
② QMSの計画(構築)の際に考慮すべきリスク及び機会を特定する。予防処置がプロセス構築・運用・管理をリスクベースで考えるということがより明確になった*34。
③ リスクへの取組みの狙いは08年版の予防処置と同じ。起こり得る問題、不具合を列挙し、それらに取り組む計画を要求している*Q39
 
(2) 08年版から変わっているとする解釈
① 現8.5.3の延長線。製品の適合に対する不確かさを予め特定し、事前に対策をとる*Q3
② 品質マネジメントシステムの行動計画のこと。リスクと機会の評価から品質目標の制定と達成計画に移る*Q17
③ 組織を取り巻く状況からリスク及び機会を特定し、事業計画を策定し、目標達成のためのいつ誰が何を行うかの計画に展開*Q32
④ a)~c)と言った事態につながるリスクと期待を把握しておく。この情報源が4.1/4.2。この情報源が4.1/4.2。機会はリスクをもたらすきっかけとなる出来事*Q36*Q36
⑤ 計画通りにいかないリスクについて考え、事前に対処するアプローチが求められている*Q38
 
   
     
7. 予想される極端な審査要求
① 内部及び外部の課題(4.1項)と利害関係者の要求(4.2項)に関係するリスクと機会の一覧表
② 各リスクと機会に取り組む活動の計画書の作成、実行の結果の評価の記録
③ リスクと機会の一覧表の定期的見直しと変更、及び、その記録
    
     
H26.9.1(9.2、9.22表記則修正)  H27.11.9(2015年版)  修11.29(統一表現化)
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