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ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
65 ISO9001: 2015 改定解説   5.1.1  リーダーシップ及びコミットメト
- 変更点と移行対応 (57) -
<31e-01-65>
 
 
0.1 概要
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0.2 *実務の視点和訳⇔JIS和訳の対応  (英語解釈 抜粋)
    品質経営(活動) ⇔品質マネジメント$19-0; 品質経営体制 ⇔品質マネジメントシステム$19-1-1;
 
 
1. 規定条文 (JISQ9001: 2015)
5. リーダーシップ
5.1 
リーダーシップ 及び コミットメント
5.1.1  
一般
  トップマネジメントは、次に示す事項によって、品質マネジメントシステムに関する リーダーシップ及びコミットメント を実証しなければならない。
 
a) 品質マネジメントシステムの有効性に説明責任(accountability)を負う。
b) 品質マネジメントシステムに関する品質方針及び品質目標を確立し,それらが組織の状況及び戦略的な方向性と両立することを確実にする。
c) 組織の事業プロセスヘの品質マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする。
d) プロセスアプローチ及びリスクに基づく考え方の利用を促進する。
e) 品質マネジメントシステムに必要な資源が利用可能であることを確実にする。
f) 有効な品質マネジメント及び品質マネジメントシステム要求事項への適合の重要性を伝達する。
g) 品質マネジメントシステムがその意図した結果を達成することを確実にする。
h) 品質マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を積極的に参加させ、指揮し,支援する。
i) 改善を促進する
j) その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを実証するよう,管理層の役割を支援する。
 
  注記 この国際規格で“事業"という場合,それは,組織が公的か私的か、営利か非営利かを問わず、組織の存在の目的の中核となる活動という広義の意味で解釈され得る。
[08年版 関連規定]
5.1 経営者のコミットメント
トップマネジメントは、品質マネジメントシステムの構築及び実施、並びにその有効性を継続的に改善することに対するコミットメントの証拠を、次の事項によって示さなければならない。
a) 法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして、顧客要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する。 b) 品質方針を設定する。 c) 品質目標が設定されることを確実にする。 d) マネジメントレビューを実施する。 e) 資源が使用できることを確実にする。

 
 
2. 条項の意図
(1) 趣意
  トップマネジメントは、規格では組織の経営層の一員であり、品質経営 の最高責任者のことである。5章は、品質経営体制の確立とその下での業務実行により必要な顧客満足の状態の確実な実現を図る品質経営の活動において、トップマネジメントが直接的に関わり又は指揮しなければならない事項とそれぞれの要件を規定している。
本項は、品質経営における トップマネジメントの役割を様々な観点から一般的に規定している。
 
(2) 論理及び用語
① トップマネジメント§14.1
  「トップマネジメント」は、日本では経営者、経営トップと呼ばれ、経営用語では株式会社における最高経営層のことであり、代表取締役、取締役会のメンバーの取締役から構成される(54)。 規格では「最高位で組織を指揮し、管理する個人又はグループ」と定義され#53、経営層の一員である品質経営の最高責任者のことである。一般には社長を指すが、役付取締役がこの任にあたることもある。また、事業所が独自の品質経営体制の下に運営されている場合は、通常は事業所長、時に、品質問題を主管する副所長がトップマネジメントと見做される。
 
  経営組織論では、組織の経営管理活動は経営方針、目標の達成のために作業活動が効果的、効率的に遂行されるよう組織全体を管理する全般管理活動と、部門内の業務を管理する部門管理活動とに分けられる(51)。日本では前者の活動を経営と呼び、これを担う人々を経営者、経営トッフと呼ぶが、英語では“top management”であり、これが規格の「トップマネジメント」である。部門管理活動を担う人々を日本では管理者と呼び、管理者は部や課などの部門内の業務を管理する部長や課長などの中間管理者と作業活動を直接指揮、監督する係長や主任など第一線管理者に区別できるが、英語ではそれぞれ“middle management”“lower management”である。本項のj)の「管理層(management)」は、これら日本語の管理者を指す。
 
② リーダーシッフ§14.2
  「リーダーシップ」は英文の“leadership”のJIS和訳であり、リーダーたる状態、リーダーとしての立場、或いは、特定組織の指導層という意味の他、リーダーとしての能力、良いリーダーとして持つべき本質的なものという意味がある(101)。経営用語としては、組織の個々の人々に働きかけて組織目標の達成に貢献するように統率していく組織的力量、指導力、資質のことを指す(54)。規格の文脈では統率力、主導性という日本語をあてるのが適当である。
 
  リーダーシップは、経営論では経営管理機能を構成する重要な要素である。すなわち、研究者により様々な表現があるが、例えば経営管理活動を計画‐リード‐統合という3つの機能から成る循環活動とみる考え§33では、「計画する」は戦略の策定と目標、方針、計画としての明確化、「リードする」は人々をその方向に動機付け、導くこと、「統合する」は戦略遂行つまり計画の達成に向けて組織の能力を調整、制御することにそれぞれ関係する(45)
 
  多数の人々が協働する組織では、人々の組織への想いに違いがあり、組織と又は人々相互間の利害関係が一致せず、組織の目的や目標の理解も一様でなく、勤労意欲、能力も様々である。このような組織に内在する本質的困難を克服して、組織の永続的な存続発展に向けて人々を動機づけ、導くために必要な経営機能が「リードする」であり、トップマネジメント以下の管理者の人々を「リードする」能力がリーダーシップである。
 
  トップマネジメントや管理者が組織又はその一部を統率し、主導性を発揮するには、他人の思考や行動に影響を与え或いは統制する能力が必要である。これには組織から与えられる職務権限だけではなく、個人の資質や努力によるいわゆる管理能力とがあるとされ、リーダーシップには技術的リーダーシップと道徳的リーダーシップがあるとする考え(98.2) もある。いずれの考えの場合も、また、実務のリーダーシップ論でも、トップマネジメントや管理者の個人の人間感や倫理感を基礎とする道徳的側面に人々が気付く時に権限に基づく統率力を真に効果的に発揮できると考えられている。
 
③ コミットメント§14.3
  JIS和訳「コミットメント」の英文は“commitment”であり、94年版(4.1.1)では「責務」と和訳されていたが、00年版から「コミットメント」になった。英語の“commitment”は、日本語ではぴったり対応する言葉はなく、一般に何かを行なうことの約束、誓約であり、この他に義務、責務、責任、確約、公約、言質など様々な言葉が当てられることがある$29。同じく「約束」と和訳される“promise”との違いについて、“promise”の普通の意味の「約束」を越えて、本人の心にとって絶対に破ってはいけないという意味の「約束」であるとの説明がある(40)。TC176は、何か特定の行為に自分自身を縛りつける約束や契約という意味であるとしている#16
 
  規格の文脈では、絶対に成し遂げなければならないという信念に基づく決意を以て何かに取り組む状況をことを意味し、組織の維持発展のために品質経営の実行に職を賭す覚悟で取組むという自らへの誓約であり、そのことに関する組織内外への経営公約である。トップマネジメントが、品質経営に関するトップマネジメントとしての職責を担うということは、必要な顧客満足の状態の実現に職を賭して取組むということであり、コミットメントしているトップマネジメントなら業績不振の場合は自ら辞職の道を選ぶことになる。
 
④ 説明責任(accountability)§14.4
  英語の“accountability”は「決定や行動に責任を持ち、聞かれた場合にはそれらを説明することが期待される誰かの状態」や「責任を引き受けるという義務又は積極的な意志」という意味である。相当する日本語は「責任のあること、責任、責務」である$71。最近は「説明責任、成績責任、軍事報告義務」などの和訳もあるが、“accountability”はすなわち「説明責任」であるというような英語解釈は正しくない。
 
  経営用語としての、また、規格の意図の“accountability”は「責任」という意味であり、5.3項(責任及び権限)で用いられている“responsibility”の「責任」が何かをする責任、或いは、責任を引き受けるという意味の「責任」であるのに対して、その結果に対する責任(123)、或いは、責任を取る、責任を果す(124)という意味の「責任」である。論理的には「責任を担う」ということは、その「責任を全うする」という責任を担うことでもあるから、両用語の使い分けは、責任を持つということに関してどちらに重点をおいて表すかの違いである。
 
  “accountability”が「説明責任」の意味で用いられることもあるが、顧客満足追求の品質経営において例えば不祥事発生なり認証審査なりどのような場面でもトップマネジメントが社会や関係者に情報開示、透明化、釈明することが組織の狙いの顧客満足の状態の実現に資することにはならない。顧客への説明は「顧客とのコミュニケーション」としての日常業務である(8.2.1項)。顧客満足追求のための品質経営の最高責任者がその職責を全うすることこそが、顧客満足の追求による組織の健全な存続発展を可能にするのである。規格の“accountability”は「責任を全うする」という意味である。
 
 
(3) 規定要旨
  トップマネジメントは、組織がISO9001規格の規定する要件に従って品質経営体制を確立し、それに則って業務実行を指揮、管理し、また、時代の変化に対応して経営戦略としての品質方針及び組織の品質目標(5.2項)を見直し変更し、必要な顧客満足の状態を継続的に実現、維持することに、トップマネジメントとしての統率力を発揮しなければならず、職を賭して取り組まなければならない。
 
  トップマネジメントは、そのような役割と責任を遂行する証として、a)~k)を効果的に実行しなければならない。
a)は、コミットメントに関し、他はリーダーシップに関する。また、b)、c)、e)、f)、j)項は、トップマネジメントが直接的責任を負うべき分野を指し、d)、g)、h)、i)項はトップマネジメントが統率力を発揮すべき重要分野を指す。
 
  a)は、トップマネジメントが職責を全うしなければならないということであり、08年版の「品質経営体制の有効性の継続的改善にコミットメントする」の規定条文の用語を変えた書き直しである。
 
  b)は、組織の存続発展を図る組織の経営活動の枠組みの中で品質経営の活動行うということであり、c)は、規格の規定により新たな品質経営体制を構築するのでなく、規定は組織の既存の品質と顧客対応に関係する業務の手はずに反映させること、或いは、規格の規定を満たして整えた手はずの通りに組織の経営管理の実務が行なわれているという意味である。b),c)を合わせて規格の規定に従って品質経営体制を確立し、その下で品質経営を行う (4.4項)という規格導入の基本条件を満たす最終責任がトップマネジメントにあることを示している。
 
  d), h), i)は、規格の序文と規定と「品質経営の原理」として規定されている、品質経営の業務の実行に係わる規格の論理である。また、j)は、管理者や監督者が委ねられた職責を積極的に果たすことを促す組織風土、作業環境を創造するというトップマネジメントの責任を指す。
 
 
(4) 実務の視点の解釈

 
 
(5) 改定版品質マニュア(外部説明用)ひな型 ←08年版と全く同じ
  トップマネジメントは、顧客満足の追求を基礎として事業の健全な維持発展を図るという経営責任を引き受け、その職責を職を賭して全うする。
  これを確実にするためにトップマネジメントは、ISO9001規格の要件に則って品質経営の業務の手はずを確立し、必要な顧客満足の状態が実現するように、組織構造を定めて管理者に必要な業務の責任と権限を割り当て、品質業務管理責任者(5.2.2項)を通じて、或いは、部門長を直接指揮監督して、品質経営の業務実行を統率する。
 
 
3. 必要な読み替え(規格の意図の正しい理解のために)
① 説明責任(accountability)→ 経営責任を全うすること§14.4
② 事業プロセスヘの品質マネジメントシステム要求事項の統合 → 規格の規定の既存の品質経営の業務への組み入れ$66
 
 
4. 改訂版の変更点(08年版規定からの変化)
  トップマネジメントが品質経営の最高責任者であるとする改訂版の定義#53は08年版の定義をそのまま継承しており、規格の意図におけるトップマネジメントの役割と責任は08年版(5.1 経営者のコミットメント)から何らの変更もないと理解するのが自然である。
 
  内容的にも、5.1項の記述をそのまま、表現を変えて表したか、意図の明示化である。08年版に含まれていなかったのはd)だけである。逆に08年版5.1項のa)の顧客のニーズと期待の重要性の周知、d)のマネジメント レビューの実行の規定がなくなったが、これらがトップマネジメントの責任でないということではない。要するに、08年版5.1項と15年版5.1.1項の規定の見掛けの違いは、規定表現上の違いであり、トップマネジメントの責任が変わった訳ではない。
 
 
5. 改定版への移行対応
① 品質経営体制の指針として規格を実践する組織
トップマネジメントの役割と責任は何ら変わっていないので、何も変える必要はない。
 
② 認証取得の条件として規格を認識し、負荷と効用に不満を持つ組織
トップマネジメントは、自らが決め実行を指揮している、製品品質と顧客対応に関する組織の業務とその実行方法に、規格の規定を適用する。品質文書・記録と呼んだり、その一部を環境文書・記録として用いるという形をやめて、すべてを全社の文書・記録とする。品質方針・目標、品質目標達成計画書はそれぞれ基本又は年度全社方針・目標、業務目標達成計画書の一部とし、手順書作成、承認、配布は管理責任者の業務ではなくそれぞれの業務担当部門の業務とする。ISO9001事務局は廃止してその業務は品質保証担当部門の一業務とし、日常業務でISO用語を使用せず、ISO教育はやめる。ISO内部監査講習に人を派遣せず、管理責任者は通常の内部監査技法の勉強をする。
 
 
6. 公表された改定版解釈
(1) 08年版から変わってないとする解釈
① c)項の明記を好機として、従来からの管理業務を基盤として改訂版追加要求事項をこれに織込み、ひとつの品質管理の仕組みとして再構築するのも一案。*Q16
 
(2) 08年版から変わっているとする解釈
① トップマネジメントの目に見える支援、関与が要求されている。「事業プロセスへの統合」は新要求事項。*Q5
② 事業プロセス運営ツールとしてのマネジメントシステムに。事業プロセスにISO9001要求事項を統合。*Q18
③ 新要求事項。品質マネジメントシステムを組織の方向性と結びつけるために様々な面でトップマネジメントが関わりを強めることが求められている。c)はビジネスプロセスと品質マネジメントシステムの一本化、j)は管理層の権限委譲の明確化。*Q17
④ QMSが効果的に運用されているかどうかを、トップは自らの言葉で説明できることが求められる。*Q38
⑤ トップマネジメントがQMSが事業に有益な方向に進むためにa)~j)を方向付け、人々を参画させ、それらを責任を持って約束すること、目に見える支援、関与をすること、確実な実施に責任を持つことを要求している。*Q39
⑥ トップマネジメントのQMS関与が強く求められている。審査ではトップマネジメント自身の言葉で語る必要がある。*Q36
 
 
7. 予想される極端な審査要求
① 品質マネジメントシステムと事業プロセスとの統合の証拠
② トップマネジメントの責任に関するトップマネジメントへの質問
 
   
H26.10.2、JTCG概念文書に基づき修正(H26.10.25;H27.3.7 H27.11.15(2015年版)

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