ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
1       次期改訂版 ISO14001 の全容予測
          − 体裁一変、中味変更僅少、意義や意図が明瞭な規格に
<62f-01-01>
1. はじめに
  TC207による現行2004年版のISO14001の改訂作業が今年の2月に始まり、2015年に改定規格が発行されるといわれている。この改定の目的は、全マネジメントシステムの共通する要素に関する規定を同じ文章で表した共通テキスト と共通の規格構造を採用すること、及び、TC207の「ISO14001の将来像*1研究グループ」の報告書の24の推奨事項を取り入れることであるとされている。すなわち、前者は単なる体裁と条文記述の変更であってISO14001の論理や要求事項の変更ではなく、後者が14001の時代の変化を超えた有用性を維持するための規格改定の視点である。公表されている共通テキスト と「ISO14001の将来像報告書*2」とから、ISO14001の2015年版が現行2004年版とどのような違いがあるのかを占ってみたい。
 
 
2. 共通テキスト化による構造と条文の変化の予測
  改定版は、共通テキスト*3の通りの、序文、1〜3項、及び、4.1〜10.2項の構造となっている。この共通テキストの構造の背景にある論理を推測するに、各マネジメントシステムに固有の要求事項は8章に記述されることになる。ISO14001の2015年版では、現行の4.3.1, 4.3.2, 4.4.6, 4.4.7, 4.5.1項(パフォーマンス、目的・目標の監視測定を除く)が8章の8.1項に続く条項として記述され、恐らくこの順番で新しい条項番号の下に現行の条文がほぼそのまま記載されている。
 
  これら以外の現行版の文章量で70%を占める条項と規定、条文が共通テキスト化され、それぞれ対応する8章を除く4.1〜10.2項の条項と規定、条文にそっくり置き換わる。この中でISO14001固有の規定や記述が必要なら、該当する条項の条文の後に追加するか、又は、独立した二次条項を設けることが認められている。規格作成各TCの自我が共通テキスト化の目的に照らしてどこまで抑制されるかはわからない。改定が下記3のように行われ、固有規定の追加が最も抑制的となった場合では、6.2項(XXX目的及びそれを達成する計画策定)、7.4項(コミュニケーション)、9.1項(監視、測定、分析及び評価)の各項に、2段階式の環境目標、外部情報発信の在り方の新規定、現行4.5.2項の法規制とその他合意の遵守評価に関する規定がそれぞれ追加されていることになろう。
 
 
3. ISO14001将来像報告書による規定と要求事項の変化の予測
  共通テキスト化に伴う規定の変化の他の規定や要求事項の変化は、ISO14001の将来像報告書*2の24の推奨事項がどのような形でISO14001に取り入れられることになるのかによる。同報告書は、目指すべきISO14001の将来像とその追求のために改定作業で取り上げるべき問題を11項目に分けて整理し、それぞれに関して改定版規格に織り込むべき事項を推奨事項として列記している。
 
  この11項目を分析すると、(1) ISO14001の位置づけの確立、(2) 規格の意図の明確化、(3) 規格の有用性の維持という2015年版改定の目的が見えてくる。この観点から11項目、24の推奨事項を検討して、規定と要求事項がどのように改定されるかを予測したい。なお、以下の@、A、B…….は、上記報告書の項目1、項目2、項目3…….に対応する。
 
(1) 改定目的-1:ISO14001が世界の環境取組みの中核的指針であることの位置づけを確立する
  これは次の3項目から成り、Jは規格改定への推奨事項ではなく、広報活動を行うことが推奨されているだけである。いずれもISO14001が持続的発展の原理に則った組織の自主的な地球環境保全の取組み努力の在り方を規定するものであることを明確にする必要があるという問題意識に基づいており、これへの対応の点では(2)と重複する部分がある。
 
@ ISO14001がCSR(企業の社会的責任)規格の環境取組み実行の基盤であることを明確にする。
H ISO14001がすべての環境問題を扱っていること、従って特定観点や特定環境分野の環境規格の作成が不必要であることを主張する。
J 各国又は国際的環境政策における環境問題抽出と管理にISO14001が適用されるよう、ISO14001の効用を明確にする。
 
  @では、CSR規格が社会的責任としての、そして、地球環境とか持続的発展という観点の環境取組みを規定していることに対して、それがISO14001の意図する環境取組みでと同じであることが社会に理解されていないのではないかという懸念が背景にあるようだ。このような規格の意義は現行版では序文に書かれているが、地球サミットという規格作成の直接の理由に触れず、持続的発展という言葉も使っていないし、1項(適用範囲)の記述もISO14001の狙いを直接的に表現していない。従って、改定版では序文や1項が大幅に書き直しされることになると思われる。なお、@では環境取組みに関する説明責任、組織の環境責任の広さに関する規定の強化が推奨されているが、内容的には(3)Iと(2)Fとそれぞれ同じであり、改定版にはこれらの一環として織り込まれることになろう。
 
  Hでは、省エネルギーや温暖化ガス排出に関するISO14000系規格を示唆しつつ、さらに新しい規格作成の動きのあることに懸念を表明している。これへの対応については、ISO14001の汎用的性格の広報と、新規格作成不要を訴える説明書の作成が推奨されている。JについてもISO14001の性格と狙いの広報活動の必要が推奨事項となっている。従って、これら2項目についての対応するための規格の記述の変更はほとんどないものと考えられる。
 
(2) 改定目的-2:ISO14001の意図を明確にする
  これには次の4項目が該当する。いずれもが上記(1)の改定目的を果たすために明確にする必要があるISO14001の狙いや意図に関する事項である。これら事項は現行版規格の意図でありながら十分には理解されていないとの問題意識に立った改定の提案であろう。
 
C ISO14001の環境マネジメントが組織の事業戦略を司る経営管理の一環であることを明確にする。
A ISO14001の狙いが組織の環境業績(全般的環境パフォーマンスと和訳されることになろう)の改善にあることを明確にする。
F ISO14001の対象が、原料採掘から製品廃棄に至る製品の全寿命に係わる製品の環境側面であり、受注から製造・サービス活動から製品配送を含む事業に係わるすべての活動の環境側面であることを明確にする。
B 法規制及びその他外部要件の遵守を確実にするための方法論や実行程度について明確にする。
 
  この内のCについては、現行版の序文で「組織は既存のマネジメントシステムを改編してもISO14001の要求事項を満たす環境マネジメントシステムを確立することができる」という表現で環境マネジメントが組織の経営管理活動の一部でなければならないということが記述されている。これをより直接的に表現する必要があるということであり、このために共通テキストの4.1項(組織及びその状況の理解)を活用するべきことが推奨されている。4.1項は経営管理論における戦略決定の基礎のことであるから、この規定に従えば組織は経営管理の課題として環境保全に取組むことになるという想いなのであろう。これに関連して現行版では『環境目的及び目標を設定しレビューするにあたって、組織は…….技術上の選択肢、財務上、運用上及び事業上の要求事項、……も考慮すること』(4.3.3項)として、環境マネジメントに関係する組織の状況に関する記述があるから、これが注記として追加されるかもしれない。
 
  Aについては、環境業績の改善がISO14001の要求事項、つまり、必要条件(要件)であることを現行版は直接的に言及せず、『環境マネジメントシステムを確立し、……継続的に改善すること』と規定しているだけである(4.1項)。しかし、『継続的改善』の定義(3.2項)は『全体的な環境パフォーマンスの改善を達成するために環境マネジメントシステムを向上させる繰り返しのプロセス』であるから、ISO14001が環境パフォーマンス(環境業績)の改善を狙いとしていることがわかる。改定版ではこれをより直接的な表現で表すことが推奨され、現行版の4.5.1項の『パフォーマンスを監視するための手順の確立』という環境業績評価の規定の表現を強化することが推奨されている。
 
  ただし、このような業績改善の必要については共通テキストでは9.1項(監視、測定、分析及び評価)で『組織はXXXパフォーマンス、及び、XXXマネジメントシステムの有効性を評価しなければならない』として明確に規定されている。この規定は、ISO14001とISO50001の法的要求事項の遵守評価(4.5.2, 4.6.2項)、ISO9001の顧客満足の監視測定(8.2.1項)、或いは、ISO50001のエネルギーパフォーマンス指標(4.4.5項)とエネルギーパフォーマンスの決定(4.6.1項)などの規定を集約し、共通文章化したものである。従って、Aの必要は共通テキスト化で満たされることになる。推奨事項として『パフォーマンス指標』の使用が挙げられているが、ISO50001のように特定の指標が決まっている場合と違ってISO14001で9.1項への『パフォーマンス指標』に関する記述ないし二次条項の追加は無理と思われる。
 
  Fについては現行版では本文には登場しない用語『汚染の予防』の定義の参考(3.18項)として説明されている。改定版ではこれを書き直し、付属書Aでの説明を強化し、或いは、環境側面の定義(3.6項)にその範囲に関する規格の意図を織り込む記述を加えるかというようなことになるものと思われる。環境側面の特定の規定(現行版4.3.1項)にこれを記述するか、注記が設けられることもあろう。
 
  Bに関して、コミッットメントの証明や法規制遵守の状態の認識の証明に関する規定の検討が推奨されているが、これはISO14001特有の必要とは言えないから、トップマネジメントのコミッットメントが規定されている共通テキストの5.1項(リーダーシップ及びコミッットメント)を越える規定を作ることは難しいと思われる。ただし、既存のほぼすべてのマネジメントシステム規格に存在する『法規制遵守』という用語とそれに係わる要求事項の記述が共通テキストには存在しない。これは共通テキストの決定と承認の際に議論があったはずであるから、それに則って各マネジメントシステム規格で統一のとれた取り扱いとなることが期待される。全体としては付属書Aの説明を強化するが推奨されており、改定版では付属書Aの記述変更に留まると思われる。
 
(3) 改定目的-3:ISO14001の内容を時代の変化に適応させるため
  ISO規格の定期見直しと改定は規格を時代の変化に適応させることが目的とされている。これには次の4項目が該当する。GIは近年の時代の要請を採り入れて作成された企業の社会的責任規格ISO26000の環境取組みとISO14001の環境取組みを一致させようとするものである。Iは(1)@と、Fは(2)Aとそれぞれ重なる。DEは近年のISOマネジメントシステムとその使用者の拡大という近年の情勢への対応である。
 
I ISO14001が社会的責任としての環境取組みの規定であることに関係して必要が高まっている外部情報発信に関する規定を強化する。
G 社会的責任としての環境取組みを規定する規格として、組織起因の環境影響の利害関係者のニーズと期待の把握に関するISO14001の規定をISO26001並みにする。
D ISO14001認証制度の信頼性棄損に結びつく規格解釈のばらつきを防止するために規定の不明瞭であいまいな表現を正す。
E 増加する小企業によるISO14001の使用に対応して規定の表現を簡潔でわかりやすいものとする。 
 
  Iは14001規格作成時に議論され『著しい環境側面について外部コミュニケーソンを行うかどうかを決定し、……..行うと決定した場合は、この外部コミュニケーソンの方法を確立し、実施すること』(4.4.3項)に落ち着いた組織の環境情報の発信義務を、ISO26000を意識して強化しようというものと思われる。情報発信の目標、発信先の特定、いつ何を発信するのかなどの外部情報発信戦略の確立の必要を規定に織り込むべきことが推奨されている。付属書Aの説明強化も推奨されており、組織に大きな負担や義務を負わせるものとはならないと思われるが、規格の意図の変更であり、要求事項の改定となる可能性が強い。この場合は共通テキスト7.4項(コミュニケーション)にISO14001特有の規定が追加されるか、7.4項の共通文章を7.4.1項として、ISO14001特有の7.4.2項が設けられることになる。
 
  Gについては、利害関係者のニーズと期待と組織の能力を均衡させる環境取組みで持続的発展可能な社会を目指すというISO14001の基本思想は現行版では序文で「ISO14001の全般的な狙いは、社会的ニーズと経済的ニーズの均衡の下に環境保護と汚染防止を図ることである」として記述されている。これは4.3.3項で『環境目的及び目標を設定しレビューするにあたって、組織は…….技術上の選択肢、財務上、運用上及び事業上の要求事項、並びに、利害関係者の見解も考慮すること』という表現で明確にされているから、この中の利害関係者のニーズと期待の把握の必要をより直接的に表すようにするということである。利害関係者のニーズと期待の把握については、共通テキストの4.2項(利害関係者のニーズ及び期待)で規定されており、この適用が推奨されている。この場合は、現行版4.3.1項に相当する8章の新条項で『著しい環境影響』が4.2項と関連するものであることが記述されることになるかも知れない。
 
  DEについては、具体的にどこが問題かの指摘はない。恐らくは個々の文章のどこが問題というのではなく、他の9項目と同じようにISO14001の意義や条文の意図がわかりにくいということであろうから、改定版における変更は、条文修正というよりは付属書Aでの説明強化や注記の追加などの形をとるものと思われる。
 
4. 2015年版の全容の予測
(1) 条項、条文
  上記3のISO14001将来像報告書の改定検討11項目の内、わかりやすいい表現にすることを含めて規格の意義や条文の意図を明確にすることを図る項目が10項目である。これらのための改定の大部分は、序文の記述変更、付属書Aでの説明変更という形をとり、加えて、1項の記述変更(適用範囲)、記述変更した環境特有の定義、例えば 『環境側面』『汚染の予防』の3項への追加、条項末尾への注記の付加という形もとられるだろう。
 
  共通テキストでは経営管理(マネジメント)の論理がそのまま規定になっているので、4.1、4.2、7.4、9.1項が規格の意義や条文の意図を明確化するための役割を担う。現行4.3.1項に相当する新条項では、『著しい環境影響』と4.2項の『利害関係者のニーズと期待』と関連を示す記述が追加されており、環境影響の範囲を記述する条文が追加されているかもしれない。要求事項の強化のため共通テキスト7.4項に条文又は二次条項が追加される可能性がある。
 
(2) 要求事項
  共通テキスト化は文章表現の共通化であり規格の意図の変更ではないので、改定版のこの部分には要求事項の変更はない。残りのISO14001固有部分を主体とする改定における要求事項の改定の可能性は、組織の外部への環境情報発信の義務の強化(7.4項)に関する1項目だけである。
 
 
5. まとめ
  改定作業の基準となる共通テキストと「ISO14001の将来像*1」を基に、ISO14001:2015の全容を予測した。改定作業は明確な目標と基準に則って行われることになっており、特に近年の何百件もの改定提案を議論するという改定ありきのお馴染みの改定作業と対比して画期的で正しい取組み方である。「ISO14001の将来像*1」の改定検討項目と推奨事項は全体として、規定たる要求事項の変更より、ISO14001の狙いや意義を明確にすることの方に重きをおいている。今後の改定作業が認証業界の商業主義に干渉されずに順調に進むならば、2015年改定は現行2004年版と比較して体裁は一変するが、中味の要求事項の変更は1項目のみのごく簡易な改定となる。同時に、ISO14001の狙いと意義、条文の意図が明瞭に理解できるわかり易い規格になる。これによって組織が、現場中心の環境改善活動としての従来の規格解釈から脱して、環境対応の面から社会に信頼されて発展することを図る規格取組みへと歩みだす機会となることが期待される。
 

 
 
*1:the future challenge for EMS
*2:Report of the future challenge for EMS task force to ISO/TC207/SC1
*3:ISO/IEC専門業務用指針第1部付属書SL:上位構造、共通の中核となるテキスト、共通用語及び中核となる定義
H24.10.14(追11.10) 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所