ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
3  2015年版ISO14001 全体像がほぼ確定   ―CD.2版の評価及び残された問題点
<31f-01-03>
(0.1) 概要 こちら 
 
(0.2) 要約

 10/22発行の第二次委員会原案(CD.2)の英語原文を読んだ。CD.1からは条項の追加を含み多数の条文の追加と変更があり、条項間の表現の不整合が重大なものも含めてなお残るが、これで2015年版の全体感が決まったと考えられる。
 
  2015年版の改定点は2つの副次的要求事項のみと判断される。一方で条項と条文が04年版から大幅に変わり、かつ、要求事項の数や文章量が大幅に増えたものとなっている。これには論理に係わる規定に方法論の詳細な規定が多数追加されたことが関係している。これと序文の変更で規格の狙いと意義がさらに明確になったことと合わせて、04年版では規格の意図がはるかに明瞭、明確であり、規格の正しい理解が進むことも期待できる。
 
  しかし、改定効果を誇示する『リスクと機会』等の謳い文句が不必要に、時に論理に矛盾して、あちこちの条文に含まれていること、及び、硬直し、かつ、直接的でない婉曲表現のわかりにくい文章形式が04年版のままであることは、実際の規格解釈を混乱させる要因となる。
 
   2015年版に関する悪い予想は、条文の文言がすなわち要求事項とする規格解釈により全面改定とみなされ、又は、方法論の規定の多さと詳細さが仇となって規格解釈が混乱する可能性であり、最悪は特定の文言だけが抽出されて様々な形式の文書や業務が認証審査で要求されることである。共通テキスト化は早くも骨抜き状態となっており、喧伝される利益を組織が享受できる可能性は低い。  
 
(0.3)  2015年版ISO14001 (CD.1版)(CD.2版)の現行2004版との違い  違い一覧表へ(本文末)
 
 
本 文
(1) CD.2の発行
  10/22発行の第二次委員会原案(CD.2)の英語原文を読んだ。CD.1版*3との比較では、新たな要求事項の追加はないが、規定の詳細化を意味する2つの条項の追加を含み多数の条文の追加と変更がある。条文追加では『リスクと機会』が不必要に織り込まれている。また、未熟条文の一部は改められたが、条項間の表現の重大な不整合を含めて論理に合わない表現がなお残っている。しかし、このCD.2版で2015年改定版の全体像は決まりと考えられるから、2015年改定版は、規定表現の明瞭化と簡潔化の2項目を除き、TC207の「ISO14001の将来像報告書*1」の11項目24件の改定推奨事項に沿った、小幅改定の意義や意図が明瞭な規格となると判断できる。
 
(2) TC207の改定方針からの2015年版全体像
  「ISO14001の将来像報告書」の改定推奨事項を整理するとその意図する改定の目的は大きく次の3つであることがわかる。
    ・改定目的‐1: ISO14001が世界の環境取組みの中核的指針であることの位置づけを確立する/
    ・改定目的‐2: ISO14001の意図を明確にする
    ・改定目的‐3: ISO14001の内容を時代の変化に適応させる
  改定作業がこれに則って行われるなら、共通テキストの採用の影響もあって構造、条項、条文は大きく変わるが、中味の要求事項の変更は1項目のみのごく簡易な改定で、同時に、ISO14001の狙いと意義、条文の意図が明瞭に理解できるわかり易い規格になると予想された*2。
 
(3) 2015年版全体像にかかわるCD.2版の特徴
@ 序文
  序文が変更されて、規格の狙いが持続的発展の可能な地球社会の実現にあり、規格は組織が社会的及び経済的ニーズと均衡させて環境保全を図る環境経営の枠組みを規定するものであることが04年版に増して明瞭、明確な表現で記述された。これは改定目的‐1,2に沿った対応であり、この序文は2015年版の狙いと論理が初版から何ら変わるものではないことを明瞭に示している。
 
A 要求事項
  改定は2つの要求事項のみとみなされる。すなわち、改定は、環境情報の外部への報告の義務が強められたこと(7.4.3)と製品の著しい環境影響の情報提供の必要の検討が追加要求事項となったことに留まる。前者は改定目的‐3に関係する改定推奨事項に対応し、後者は改定目的‐3、1に対応している。前者は04年版の要求事項とそれほどの違いがある訳ではなく、後者は04年版になかった要求事項であるが、論理の変更ではなく、組織が影響を及ぼすことのできる環境側面の管理のひとつの方法論として明記されたということであり、方法論としても既に実行している組織もあり、目新しいものではない。
 
B 条項と条文
  規格の構造と条項、条文が04年版から大幅に変わり、要求事項の数、或いは、規定の文章の量が大幅に増えた。条文には04年版の記述を引き継いだものも見られるが、要求事項の明確化のために04年版で記述変更された条文までもが変更されている。また、採用した共通テキストの部分でも条項の追加や条文の追加、削除、修正が所々で行われている。
 
  条項、条文の変化には、04年版では環境経営の枠組みをその論理に関する要件(JIS和訳『要求事項』)を主体に規定していたが、15年版では共通テキストの採用及び条項と条文の追加、変更によって各論理の実現のために効果的な方法論に関する要件が大幅に追加され、書き直されたことが関係している。例えば『環境目的、目標』について04年版では『環境目的及び目標を設定しなければならない』と効果的環境経営のための論理の規定であるが、15年版ではこれに加えて「環境目標を設定する場合は、…….を考慮しなければならない」と環境目標設定の方法論をも規定している。
 
  とりわけ、環境経営の基本のPDCAサイクルに関して、共通テキストの条項を分割して新条項を設け、条文も分割した上で、PDCAサイクルのそれぞれの効果的な方法論に関する詳細な要件が条文として追加されている。すなわち、環境経営のPDCAサイクルを、環境保全戦略の決定(4.1,4.2,5.2)から関連する『環境側面』の特定(6.1.2)、管理対象である『著しい環境側面』の決定(6.1.4)、その管理の基準と方法の決定(6.1.5)、管理の実行(8.1,8.2)、管理実績の評価(9.1.1)、戦略と戦術の見直し(9.3)として、共通テキストの意図のPDCAサイクルの段階をより詳細にし、かつ、そのそれぞれに対して方法論の規定が追加されている。
   
   これら方法論の規定は04年版にはなかったから新規な規定ではあるが、効果的な環境経営であるための要件としては新規ではない。つまり、新規な要求事項ではない。なぜなら、上記@のように規格の狙いと論理は04年版と同じであるから、それらの実現ための方法論である以上は04年版の意図と変わりがないと考えるのが自然である。方法論が進歩して変化したからという意図的な要求事項の変更なら、内容を時代の変化に適応させるという改定目的‐3に関係する改定推奨事項に含まれているはずであるが、環境経営の基本のPDCAサイクルの方法論の不備の是正という改定推奨事項はない。実際、規格を環境経営のあり方を示すものと理解している組織では、これら方法論は04年版の論理の要件を満たすために経営管理の理論と実務では当然とされ、実行されている。
 
  共通テキスト化を含み意図が明らかな、このような条文の変更の他にも、多くの条文が変更になっている。しかし、意図の明確化のための改定は2004年に行われているから、CD.2版の変更は、特定の意図のない、或いは、変更の理由を吟味するまでもない単なる記述上、表現上の文章の変更と考えてよい。
 
(4) CD.2版の問題点
@ 冗長な表現
  改定意義を誇示するためと推定される『リスクと機会』『ライフサイクルの観点』『事業プロセスへの統合』等の言わずもがなの枕詞や挿入句のCD.1の問題が放置されたまま、CD.2では『リスクと機会』が更に8箇所の条文に追加されて拡大した。特に、実務では『リスクと機会』は、ある場合は『著しい環境側面』の決定の判断要素のひとつであり、ある場合は『著しい環境側面』の結果の『著しい環境影響』を意味するのに、両者を相互に独立した概念の如く並列に扱った『著しい環境側面及びリスクと機会』という表現が9箇所に存在することになった。いずれの規定でもその意図を明らかにするためには『リスクと機会』を挿入する必要はない。冗長であるだけでなく、規格の論理と整合せず、規格解釈を困惑させる不適切な条文表現である。
 
A 消化不良の論理
  取り入れた共通テキストの経営サイクルの論理と規格のマネジメントシステムのサイクルの論理の整理と理解が不十分のためと思われるが、同じ事が条項によって異なった用語や表現で記述されているというCD.1の問題は、先*3に例示した3項目については改善されたが、まだCD.2でも残されている。
 
  例えば、9.3項(マネジメント レビュー)では環境保全戦略決定の基礎となる背景事情(4.1、4.2項)を、「遵守すべき法規制、利害関係者のニーズと期待、事業戦略、著しい環境側面及びリスクと機会」と表現し、5.2項(環境方針)では「組織の活動、製品及びサービスの性質、規模、環境影響、リスクと機会」と表現している。また、5.1項(リーダーシップとコミットメント)では環境マネジメントシステムの確立の際に「組織の置かれた状況の知識を考慮しなければならない」であるが、4.1及び4.2項では「組織と組織の置かれた状況」と「利害関係者のニーズと期待」に関する「知識を考慮しなければならない」である。
 
  これらの統一性のない条文記述は、物事を体系的に整理し正確に表すという規格にはあってはならないことであり、規格執筆者が最も気をつけなければならないことである。
 
B 硬直した婉曲表現
  わかりやすい表現を改定理由のひとつに挙げながら、序文、条文、定義や注釈、付属書に至るまでの硬直し、かつ、直接的でない婉曲表現の、わかりにくい文章形式は04年と全く同じである
 
C 共通テキスト化の骨抜き
  規格使用者の便宜を理由として作成された共通テキストであり、その適用が改定理由のひとつになっているのに、共通テキストの条文の変更や独自の条項の追加が無造作に行われている。共通テキスト化の是非は別として共通テキスト化そのものは早くも骨抜き状態となっている。
 
(5) 2015年版が認証組織に及ぼす影響の予測
  2015年版規格は内容的には、改定方針に沿って世界の組織の環境取組みの中核的指針としての環境経営のあり方を詳しく、明瞭に示すものとなる。組織が規格を正しく理解し、実践に努め、その意図の成果を上げることが容易になることが期待される。改定要求事項がわずかなため、これまでもISO14001を地球環境保全の経営管理の枠組みに対する指針としてきた組織では、認証制度の下の改定版への移行の負担はマニュアルの書き換えだけで済む。
 
  しかし、条文の文言がすなわち要求事項とする規格解釈では全面的に改定された規格として、組織には甚大な移行のための負担を背負わせられることになる。また、CD.2版に見られる条文の記述や表現の問題点が放置されれば、あり得る不適切なJIS和訳と合わさって、条文の意図の理解が困難になり、その規定の多さと詳しさが仇となって表面的理解のみとなり、この結果から様々な解釈が生れて、規格解釈が混乱する可能性もある。最悪は、方法論の規定の、リスクと機会、課題、知識、指標、判断基準、手順を文書化する、決める(明確にする)、考慮する、更新する等の読み取り易い文言だけが抽出されて、04年版以上に様々な形式の文書や業務が認証審査で要求されることである。また、共通テキスト化で喧伝される利益を組織が享受できる可能性は低い。
 
*1:Report of the future challenge for EMS task force to ISO/TC207/SC1
*2:MS実務の視点ウェブサイト、「ISO14001:2015の全容予測 ― 体裁一変、中味変更僅少、意義や意図が明瞭な規格に」
*3:MS実務の視点ウェブサイト、「2015年版ISO14001 骨格判明 ― 要求事項変更2ケ所、条項・条文全面変更、難解の可能性も (CD.1版 評価)」
  
  
 

2015ISO14001 (CD.1) (CD.2版)の現行2004版との違い

(注1) ISO/CD.1 149001の標題和訳は入手資料のまま。
(注2) 太字がCD.2
赤字条項:CD.1版の新規条項青字条項:CD.1版には存在しない04年版条項 共通テキスト:共通テキストにある条項(但し大部分の条項の中味はCD版で修正、追加されている)
ISO/CD.1、CD.2 14001
章タイトルと構成

 

ISO14001:2004
章タイトルと構成

序文 

序文

1

適用範囲

1

適用範囲

2

引用規格

2

引用規格

3

用語及び定義

共通テキスト

3

用語及び定義

4 組織の状況 <標題のみ>

共通テキスト

4.1

組織及びその状況の理解

共通テキスト

 

4.2

利害関係者のニーズ及び期待の理解

共通テキスト

 

4.3

環境マネジメントシステムの適用範囲の決定

共通テキスト

4.1

一般要求事項

4.4

環境マネジメントシステム

共通テキスト

5 リーダーシップ <標題のみ>

共通テキスト

5.1

リーダーシップ及びコミットメント

共通テキスト

 

5.2

環境方針

共通テキスト

4.2

環境方針

5.3

組織の役割、責任及び権限

共通テキスト

4.4.1

資源、役割、責任及び権限

6 計画 <標題のみ>

共通テキスト

4.3 計画

6.1

リスク及び機会への取り組み <標題のみ>

共通テキスト

 

6.1.1

一般

6.1.1

一般

共通テキスト

4.3.1

4.3.2

 

環境側面

法的及びその他の要求事項

 

6.1.5

処置の計画

6.1.2

環境側面

6.1.2

環境側面の特定

6.1.4

著しい環境側面及び組織のリスクと機会の決定

6.1.3

法的要求事項 及び自主的義務

6.1.3

順守義務の決定

6.2

環境目的及び それを達成するための計画策定  <標題のみ>

共通テキスト

4.3.3

目的,目標及び実施計画

6.2.1

環境目的

共通テキスト

6.2.2

環境改善プログラム

目的達成の計画

共通テキスト

7 支援 <標題のみ>

共通テキスト

 

7.1

資源

共通テキスト

4.4.1

資源、役割、責任及び権限

7.2

力量

共通テキスト

4.4.2

力量、教育訓練及び自覚

7.3

認識

共通テキスト

7.4

コミュニケーション <標題のみ>

共通テキスト

 

7.4.1

一般

共通テキスト

4.4.3

コミュニケーション

7.4.2

内部コミュニケーション

共通テキスト

7.4.3

外部コミュニケーション    <要求事項変更あり>

共通テキスト

7.5 文書化された情報 <標題のみ>

共通テキスト

 

7.5.1

一般

共通テキスト

4.4.4

文書類

7.5.2

作成及び更新

共通テキスト

4.4.5

文書管理

7.5.3

文書化された情報の管理

共通テキスト

4.4.5

文書管理

4.5.4

記録の管理

8 運用 <標題のみ>

共通テキスト

4.4 実施及び運用 

8.1

運用の計画及び管理

共通テキスト

4.4.6

運用管理

8.2 

バリューチェインの計画及び運用  <要求事項変更あり>

バリューチェインの管理

8.3

緊急事態への準備及び対応

 

4.4.7

緊急事態への準備及び対応

9 パフォーマンス評価 <標題のみ>

共通テキスト

4.5 点検

9.1

監視、測定、分析及び評価 <標題のみ>

共通テキスト

 

9.1.1

一般                

 

4.5.1

監視及び測定

9.1.2

順守評価

4.5.2

順守評価

9.2

内部監査

共通テキスト

4.5.5

内部監査

9.3

マネジメントレビュー

共通テキスト

4.6

マネジメントレビュー

10 改善 <標題のみ>

 

10.1

不適合及び是正措置

共通テキスト

4.5.3

不適合並びに是正処置

および予防処置

10.2

継続的改善

共通テキスト

4.1

一般要求事項


H25.12.5(12.16 各版比較追加)
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サニーヒルズ コンサルタント事務所