ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
 2015年版ISO14001 CD.2版の変更点は7つ、実質改定点はひとつ
-ISO/TC207の見解
           
<31f-01-04>
(0.1) 概要 こちら
 
(1) TC207/SC1による正式のCD.2 改定説明
  ISO14001の2015年改定作業を進めるISOのTC207/SC1が、昨年11/20付けで「範囲、進捗、日程及び変更点についてのお知らせ」をウェブに掲載している。実際に改定版執筆を担当するTC207/SC1の見解発表であるから、改定内容が適切かどうかは別として、改定と改定条文の意図の正しい説明であり、改定解釈の基本となるべきであるという点で注目される。
 
 
(2) TC207/SC1説明の改定作業の指針、及び、変更点
  この発表では、改定作業は①高位構造・共通テキスト*1の採用し、②「ISO14001の将来像」報告書*2の改定推奨事項(改定検討11項目と改定推奨事項24件)を考慮し、③04年版の基本原則の維持と改善、及び 既存の要求事項の保持と改善を確保するという考えで行われとされ、この結果のCD.2段階での04年版からの変更点として①戦略的環境経営、②リーダーシップ、③環境の保全、④環境業績、⑤ライフサイクル思考、⑥情報交換、⑦文書化の7点が挙げられている。
 
 
(3) TC207/SC1説明の変更点の理解
① 戦略的環境経営
  組織の置かれた状況の認識から取り組むべきリスクと機会を決定するという戦略的環境経営のあり方についての新しい要求事項を織り込んだという説明である。この説明は、実質的に共通テキストからの4.1、4.2項の規定の意義を述べたものであるが、これらの規定は、経営を「組織の有する能力を取り巻く状況のニーズに適応させながら組織目的を達成していく活動」と定義する普通の経営論の戦略決定の方法論を引用したものである。04年版が、この普通の経営論とその戦略決定の方法論に依拠していることは、序文や4.2、4.3.3、4.6の条文にも現れており、本件説明でも04年版が別の論理に則った経営のあり方を基礎としたとは書かれていない。この変更点は、環境経営が組織の事業戦略を司る経営管理の一環であることを明確にするという改定推奨事項④に沿ったものであり、新しい要求事項を織り込んだという説明は、単にこのような直接的な規定が04年版にはなかったということであると理解される。
<TC207見解 -著者和訳>
戦略的環境経営 ― 組織の戦略計画活動において環境経営の重要性が増している。組織の置かれた状況を認識するという新しい要求事項は、組織と環境の両者の利益のために事業機会(opportunity)を含む環境関連リスク(risk)を特定し活用するために取り込まれた。 特に、組織に影響を及ぼし、或いは、組織が影響を受けることになる、利害関係者(法規制を含む)のニーズと期待、及び、局所的、地域的又は世界的な環境の状態に関連する事情又は変化する周囲の状況に焦点が当てられている。重要であると特定されたなら、悪いリスク(risk)を緩和する、或いは、好ましい可能性(opportunity)を追求する処置が環境マネジメントシステムの実行計画に織り込まれなければならない。
 
<関連するCD.2の規定 -著者和訳>
4.1 組織及び組織の置かれた状況の認識
組織は、その目的に関連し、その環境マネジメントシステムの意図した結果を出す能力に影響する外部及び内部の事情を特定しなければならない。これらの事情には、組織が影響を及ぼし又は影響される環境の状態を含む。
4.2 利害関係者のニーズと期待
組織は、環境マネジメントシステムに関連する利害関係者、及び、これら利害関係者の関連する必要を特定しなければならない。
 
<関連すると考えられる改定推奨事項 -著者分析>
④ ISO14001の環境マネジメントが組織の事業戦略を司る経営管理の一環であることを明確にする。
  
<04年版における関連規定>
序文: この規格の狙いは、社会経済的ニーズとのバランスをとりながら環境保全及び汚染の予防を支えることである。
4.3.3 目的、目標及び実施計画: その目的及び目標を設定しレビューするにあたって、組織は、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項並びに著しい環境側面を考慮に入れること。また、技術上の選択肢、財務上、運用上及び事業上の要求事項、並びに利害関係者の見解も考慮すること。
4.2 環境方針a) 組織の活動、製品及びサービスの、性質、規模及び環境影響に対して適切である。
4.6 経営層による見直し: 環境マネジメントシステム監査の結果、変化している周囲の状況、及び、継続的改善への約束に照らして、方針、目的及び環境マネジメントシステムのその他の要素の変更の必要性に言及しなければならない。
 
 
② リーダーシップ
  効果的な環境経営であるためのトップマネジメントの責任を割り当てる新しい条項が追加されたと説明されているが、実際には、トップマネジメントの経営管理上の普遍的な役割を整理した共通テキストの5.1項の導入を指しているものと思われる。04年版にトップマネジメントの主導性や責任に関する規定がなかったので新しい条項と説明されているだけであろう。
<TC207見解 -著者和訳>
リーダーシップ ― システムの成功を確実なものとするために、組織内で環境経営を推進する主導的立場の人々に特定の責任を割り当てる新しい条項が追加された。
 
<関連するCD.2の規定 -著者和訳>
5.1 リーダーシップ及びコミットメン
トップマネジメントは次の事項によって、環境マネジメントシステムに関する主導性及び経営公約を実際に示さなければならない。
 
 
 
③ 環境の保全  及び ⑤ ライフサイクル思考
  これらは、ISO14001が地球環境保全への取組みであることと、対象とする環境影響の範囲の広さを2つの観点から説明したものである。③は5.2項(環境方針)に注記を設けて資源の持続可能な使用、気候変動の緩和と対応、生物多様性と自然環境系の保全に言及し、⑤は8.2項(バリューチェイン管理)を設けて製品の使用や終末処理又は廃棄に言及している。両者で、変更ISO14001が環境取組みの中核的指針であるとの位置づけの確立を図るための改定推奨事項①⑨⑪と、ISO14001の対象が原料採掘から製品廃棄までのすべての環境影響であることを明確化するとの改定推奨事項⑦に対応している。
  
  しかしISO14001が地球環境保全のための組織の自主的取組みのあり方を示すものであることは初版以来一貫しており、本件説明の趣旨や例示の環境影響は、04年版でも3.1、3.18、4.2、A.3.1に現れ、断片的に記述されている。⑤の要求事項の拡大と説明されているライフサイクル思考も、実際に製品・サービスの環境側面の管理の基本と見做されてきたから、どちらも04年版に明示的な規定がなかったという点で新しい観点或いは要求事項と説明されていると理解できる。
<③ TC207見解 -著者和訳>
環境の保全 – 組織には、その置かれた状況に見合った環境保全に積極的に取り組む意思を明確にすることまでが求められるようになってきている。
改定条文では“環境保全”の定義をしていないが、それが資源の持続可能な使用、気候変動の緩和と対応、生物多様性と自然環境系の保全が含むものであることが注釈に記述されている。  
  
<③ 関連するCD.2の規定、及び、元となる04年版の規定 -著者和訳>
5.2 環境方針: 環境方針は、汚染の予防及び組織の置かれた状況に固有の環境の保全に関するコミットメントを含む。
  (注記) 環境保全に関する具体的なコミットメントには、資源の持続可能な使用、気候変動の緩和と対応、生物多様性と自然環境系の保全、又は、他の関連する環境の事情(4.1参照)を含み得る。  ←04年版 44.2 b) 環境方針は、継続的改善及び汚染の予防に関するコミットメントを含む 
  
<③ 関連すると考えられる改定推奨事項 -著者分析>
① ISO14001がCSR(企業の社会的責任)規格の環境取組み実行の基盤であることを明確にする。
⑨ ISO14001がすべての環境問題を扱っていること、従って特定観点や特定環境分野の環境規格の作成が不必要であることを主張する。
⑪ 各国又は国際的環境政策における環境問題抽出と管理にISO14001が適用されるよう、ISO14001の効用を明確にする。
  
<③ 04年版における関連規定>
4.2 環境方針: b)継続的改善及び汚染の予防に関するコミットメントを含む。
3.18 汚染の予防: 有害な環境影響を低減するために、あらゆる種類の汚染物質又は廃棄物の発生、排出、放出を回避し、低減し、管理するためのプロセス、操作、技法、材料、製品、サービス又はエネルギーを(個別に又は組み合わせて)使用すること。
A.3.1 環境側面: 環境側面を特定するアプローチを選択するに当たっては、例えば、次の事項を考慮することである。
a)大気への放出、b)水への放出、土地への排出、d)原材料及天然資源の使用、e)エネルギーの使用、f)放出エネルギー、例えば熱、放射、振動、g)廃棄物及び副産物、 h)物理的属性、例えば大きさ、形、色、外観
A.3.1 環境側面:組織の活動、製品及びサービスに関係する側面の例として、次の事項を考慮するとよい。
-設計及び開発、製造プロセス、包装及び輸送、請負者及び供給者の環境パフォーマンス及び業務慣行、廃棄物管理、原材料及び天然資源の採取及び運搬、製品の流通、使用及び使用者の処理、野生生物及び生物多様性
<⑤ TC207見解 -著者和訳>
ライフサイクル思考 – 調達物品、サービスに関連する環境側面の管理に関する要求事項に加えて、組織はその管理と影響力を製品の使用や終末処理又は廃棄に関連する環境側面にまで伸ばすことが必要となるだろう。
  
<⑤ 関連するCD.2の規定 -著者和訳>
8.2 バリューチェイン管理
組織は、その著しい環境側面及び組織のリスクと機会に関連するバリューチェインにおける業務をどのように管理し、影響力を及ぼすかを、ライフサイクルの観点を考慮して決めなければならない。
組織は、物品及びサービスの引き渡しと製品の使用及び終末処理の間の潜在的な著しい環境影響に関する情報を提供する必要を検討しなければならない。
  
<⑤ 関連すると考えられる改定推奨事項 -著者分析>
⑦ ISO14001の対象が、原料採掘から製品廃棄に至る製品の全寿命に係わる製品の環境側面であり、受注から製造・サービス活動から製品配送を含む事業に係わるすべての活動の環境側面であることを明確にする。
 
<⑤ 04年版における関連規定>

3.1 環境側面: a) 活動、製品及びサービスについて組織が管理できる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面を特定する。
A.3.1 環境側面: 提供した製品に関しては、使用者などによる製品の使用及び廃棄について、……..、こうした使用者に適切な取り扱い及び廃棄方法を実施可能な範囲で伝えることで、組織が影響を及ぼすことができる。
     
    
④ 環境業績
  マネジメントシステムの改善から環境パフォーマンスへと重点が変わっていると説明されているが、これは改定推奨事項②のISO14001の狙いの明確化で謳われていることである。これは、共通テキストからの9.1.1項の環境パフォーマンスの評価の規定に更に評価基準の決定と評価結果のマネジメントレビューへの提供が明記されていることを指すものと思われる。システムの改善かパフォーマンスの改善かは為にする議論で用いられる言葉の綾であり、ISO14001の意義、経営管理の目的から考えて、更に、環境パフォーマンスの改善のための環境マネジメントシステム向上を図る活動という継続的改善の定義からも議論の余地のない問題である。文字通り、規定表現の重点が変わったということに受け止めればよいと思われる。
<TC207見解 -著者和訳>
環境業績 – 継続的改善に関してマネジメントシステムの改善から環境業績の改善へと重点が変わっている。組織の方針の公約に従って、組織は可能なら温暖化ガスの排出、廃液や廃棄物を自ら設定した水準まで下げることになろう。
  
<関連するCD.2の規定 著者和訳>
9.1.1 (パフォーマンス評価のための監視、測定、分析及び評価) 一般
組織は、その業績を評価するための合否判定基準を、適当な指標を用いて決めなければならない。
組織は、環境業績を評価し、環境マネジメントシステムの有効性を評価するためのマネジメントレビューに情報を供しなければならない。
 
<関連すると考えられる改定推奨事項 -著者分析>
② ISO14001の狙いが組織の環境業績(全般的環境パフォーマンスと和訳されることになろう)の改善にあることを明確にする。
 
<04年版における関連規定>
3.9 環境目的: 組織が達成を目指して自ら設定する、環境方針と整合する全般的な環境の到達点。
3.12 環境目標: 環境目的から導かれ、その目的を達成するために目的に合わせて設定される詳細なパフォーマンス要求事項
4.3.3 目的、目標及び実施計画: 組織は、組織内の関連する部門及び階層で、文書化された環境目的及び目標を設定し、実施し、維持すること。組織は、その目的及び目標を達成するための実施計画を策定し、実施し、維持すること。
3.11環境方針: トップマネジメントによって正式に表明された、環境パフォーマンスに関する組織の全体的な意図及び方向付け。
3.2 継続的改善: 組織の環境方針と整合して全体的な環境パフォーマンスの改善を達成するために環境マネジメントシステムを向上させる繰り返しのプロセス。
    
    
⑥ 情報交換
  04年版4.4.3(コミュニケーション)の外部への情報発信の強化を促す改定推奨事項⑩に関係すると予想されたが、内部情報交換の外部への情報発信と同程度の重視の必要を追加したと説明されている。これは、7.4.1項の情報の品質に関する要件の規定と7.4.2項の要員が環境マネジメントシステムの改善に寄与し得る機構の検討の必要の規定を指していると思われるが、上記①②③のいずれの改定の観点を反映したものか理解できない。前者は当たり前のことであるが、確定すれば後者には何らかの対応が必要となろう。
<TC207見解 -著者和訳>
情報交換 – 外部情報交換と内部情報交換を等しく重要視する情報交換戦略を開発することが追加された。これには、交換される情報の品質、及び、組織の従業員とその代わりに働く要員が環境マネジメントシステムの改善に関する提案を行うような機構に関するような要求事項を含む。外部への情報発信の要否の決定は組織が保持するが、決定には規制当局の要求する情報報告や利害関係の期待を考慮する必要がある。
  
<関連するCD.2の規定>
7.4.1 (コミュニケーション) 一般
組織は、環境マネジメントシステム内で分析及び評価 (9.1参照)して生み出された情報に基づく正確な表現であることを含む、環境情報報告の品質を確保しなければならない。
7.4.2 内部情報
組織の従業員及びその代わりに働くすべての要員が環境マネジメントシステムの改善に寄与し得る機構を検討しなければならない。
 
<関連すると考えられる改定推奨事項 -著者分析>
② ISO14001の狙いが組織の環境業績(全般的環境パフォーマンスと和訳されることになろう)の改善にあることを明確にする。
    
    
⑦ 文書化された情報
文書と記録を一緒にして文書化された情報と呼ぶ共通テキストからの7.5項を指し、単なる呼称の変更である。
<TC207見解 -著者和訳>
文書化 – マネジメントシステムの実行に電算機とクラウド型システムが多用されることから、改定には“文書”“記録”の代わりに用語“文書化された情報”を取り入れている。ISO9001との整合性のため、組織は効果的な業務実行管理を確実にするために“手順”が必要かどうかを決定する柔軟性を保持するだろう。
 
   
   
(4) まとめ
  TC207/SC1の挙げる改定作業の指針に鑑みると一言で言って改定の狙いはISO14001の意図の明確化である。また、変更点の説明には、ISO14001が一貫して組織の事業発展のために地球環境の保全に主体的に取組む環境経営のあり方を規定し、今日の普遍的な経営論に則って表わされていることを示唆しても、否定するものは見当たらない。改定CD.2の04年版からの変更は7点であるが、内部情報交換に係わる1点を除き、04年版に明示されていなかった或いは断片的にしかお記述されていなかった事柄が条文化されたという意味で変更点、或いは、要求事項の追加や変更と説明されているだけと考えることができる。この理解は、筆者の改定予測やCD.1、CD.2版の評価*3の結論とほぼ一致している。
 
 
*1:ISO/IEC専門業務用指針第1部付属書SL:上位構造、共通の中核となるテキスト、共通用語及び中核となる定義
*2:Report of the future challenge for EMS task force to ISO/TC207/SC1
*3: ウェブサイト“実務の視点” ISO14001 2015年版改定の要点
H26.1.13
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サニーヒルズ コンサルタント事務所