ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
5       2015年版ISO14001 DIS 発行
           −CD.2からの変更点及びDISに基づく改訂版の評価
)
<31f-01-05>
(0.1) 概要 こちら
 
(0.2) 2015年版 ISO14001   DIS−CD.2−04年版 比較(本文末)
 
 
1. DISの発行

  7月1日発行の英語版を入手し、CD.2版からの変更点を分析した。また、規格の条項構成や記述内容はDIS版でほぼ決まりであるとして、改定版の04年版との違いを評価し、及び、改定版の認証組織に及ぼす影響について考察した。
 
 
2. CD.2からの変更
(1) 主要な変更点
@ リスク及び機会の概念が整理され、位置づけが明確になった
  CD.2版では『リスク及び機会』が『脅威と機会に関連するリスク』に表現が変更された。このことにより、リスクが経営論において組織の事業を取り巻く環境における事業の発展の障害となる事情と発展に資する事情をそれぞれ意味する「脅威」と「機会」に関連づけられた。この結果、規格の「リスク」が経営管理<マネジメント>の実務におけるリスクの概念に一致し、また、規格の定義にも適うものとなった。すなわち、規格の定義における『リスク』は『機会』と同列の概念ではなく、将来起きるかもしれない環境影響が組織の経営目標の達成の障害となるのか達成を促進するのかが『脅威』か『機会』であり、その起きる可能性の程度が小さいかわからない場合、すなわち、不確実性が高い場合に『リスク』と位置づけられる。
 
  また、注記に「重要な<著しい>環境側面又は順守義務は、有害な環境影響(脅威)又は有益な環境影響(機会)かのいずれかに関連するリスクをもたらす可能性がある」と明記された。これにより、環境経営<環境マネジメント>における脅威と機会がどのようなことを意味するのかが明確になり、リスクが環境影響や環境側面と重なり合う概念であることがわかる。
 
  更に、規格は6.1項(脅威と機会に関連するリスクに取り組む処置)において「組織は6.1項の要件<要求事項>を満たすように業務<プロセス>を計画し、履行<実施>しなければならない」と規定した上で、6.1.2項(重要な<著しい>環境側面)、6.1.3項(順守義務)、6.1.3項(脅威と機会に関連するリスク)にそれぞれの事項の要件<要求事項>を規定している。すなわち、規格の重要な<著しい>環境側面とは、組織の存続発展に必要であるが故に組織にとって重要であり、従って環境経営<環境マネジメント>において管理することに決めた重要な<著しい>環境影響の発生源のことである。組織の存続発展を確実にするために必要な重要な<著しい>環境側面の管理に万全を期するために、規格の環境経営<環境マネジメント>では、重要な<著しい>環境側面を直接的に管理するだけでは十分でなく、それら重要な<著しい>環境側面に関係する法規制の管理やリスクの管理という観点からの間接的な管理も必要ということである。
 
  あいまいな概念のまま、重要な<著しい>環境側面とは独立した、同列の概念として記述されていたCD.2からの大きな、重要な、そして正当な変更である。これに伴い、『リスクと機会』の記述は11ヶ所から6ケ所に減った。リスクと機会の規定はISO14001の必要から導入されたのではなく、マネジメントシステム規格の規定<要求事項>の文章の統一という共通テキスト化のために事務的に、かつ、不用意に導入されたものと考えられ、これをISO14001の趣旨に適合するように調整し、適切に規定文章化した規格作成者の努力を多としたい。
 
  なお、04年版では、重要な<著しい>環境側面(4.3.1項)と順守義務(4.3.2項)の管理しか明示的に規定されていなかったから、6.1.3項の脅威と機会に関連するリスクの管理は新規要件<要求事項>と言えなくもない。しかし、ほとんどの組織では脅威と機会に関連するリスクへ取組む処置は緊急事態への準備及び対応(4.4.7項)と重なると思われるから、DIS規定のリスクの管理はこれまでに“まさかの時”の環境影響発散防止の取り組みの必要が明示的に規定されたものと考えてよい。
 
A 外部情報発信の要件が緩和されて04年版並みとなった
  TC207の当初改定方針の中の唯一の要件強化事項であった、組織の環境実績と取り組みの利害関係者への発信の必要と内容を強化するためにCD.1の7.4.3項(外部コミュニケーション及び報告)が、標題「外部コミュニケーション」となり、CD.1、CD.2の規定の一部が7.4.1項(コミュニケーション 一般)に移動した。この結果、7.4.3項(外部コミュニケーション)から04年版で外部コミュニケーションを意図して規定されていた要件<要求事項>までなくなって、標題から『報告』が欠けたことと相まって外部情報発信の強化という改定方針が実質的に反故になった。従って、このDISの変更は外部情報発信に関する要件<要求事項>の04年版からの変更を意味しない。
 
B 新表現『バリューチェインの計画及び運用』がなくなった
  組織が影響を及ぼすことのできる重要な<著しい>環境側面の管理の規定を04年版の運用管理(4.4.6項)から独立させて設けられた8.2項(バリューチェインの計画及び運用)がなくなり、ほとんどの内容が8.1項(運用の計画及び管理)に移動した。『バリューチェイン』は組織内の活動を含む概念であり、趣旨に合わないいささか奇をてらった表現であったから、適切なCD.2からの変更である。8.2項がなくなり、改定版の『運用の計画及び管理』の意図や趣旨が04年版の『運用管理』と同じであることがより明確になった。
 
(2) CD.2のその他の問題点の修正
  CD.2には、@冗長な表現、A消化不良の論理、B硬直した婉曲表現、C共通テキストの骨抜きという問題点があったが、最大の問題点である@の内のリスクと機会の概念が整理され位置づけが明確となり、これに伴って規定記述が整理、削減されたことで、DIS改定の意義は小さくない。『バリューチェイン』の削除も規格の意図の明確化のために適切な処置であった。
 
  一方、Aに関係する規定<要求事項>記述の変更もあるが、全体として論理整理の不十分な非体系的表現が多く残っている。Bには改善の跡は見られない。Cについては黒字と青字で共通テキストの文章とISO14001独自の文章が 区別されたDIS英語版のA4版文書で、青字の割合が50%程度にもなった。しかし、改定の段階を追うほどに原案たる共通テキストが減り独自文章が増えるのは自然のことであり、共通テキストからの逸脱が認められている以上は、独自文章が増えるのは当然である。
 
 
3. DISに基づく2015年版改定版の評価(04年版からの変更点)
(1) 構造、記述の変更

@ 改定方針に基づく変更点
  TC176の改定方針*1における改定目的は、@AISO14001の意義と意図の明確化とB内容の時代の変化への適応化であり、24件の項目が改定議論の対象とされていた。@Aに関する検討項目は序文や本文注記又は付属書Aの記述変更で対応するべき性格のものであり、Bには具体的な検討項目が挙げられておらず、唯一の規定変更検討は環境情報の外部発信の強化であった。
 
  これまでのCD.1版*2、CD.2版*3も全体としてほぼこの方針に沿って作成されてきており、DIS版では外部情報発信要件<要求事項>が04年版並みとなり、Aの意図の明確化に関する改定推奨事項に基づく新条項8.2項(バリューチェインの計画及び運用)が削除されたから、改定方針に基づく新たな条項も新たな規定<要求事項>もないということになる。すなわち、改定方針に基づく変更は、序文や本文注記又は付属書Aの記述変更、及び、ライフサイクルなどの概念が明示的に規定に含まれることになったことに留まる。
 
A SL(上位構造・共通テキスト)採用に伴う変更点
  しかし、規格の構造や規定の文章は04年版から大きく変わり、内容的にも組織の地球環境保全責任を果たすための環境経営<環境マネジメント>の実務的な方法論を主体とした04年版の規定<要求事項>に、改定版では経営管理<マネジメント>の基本的論理の規定が加わって、文章量や要件<要求事項>の複雑さが大幅に増加した。
 
  このような大幅な変化の実態は、DIS版全31条項の内で04年版の条項標題を継承するのが、環境マネジメントシステム、環境方針、緊急事態への対応及び準備、順守評価、内部監査、マネジメント レビューのわずかに6条項であることで明らかである。また、他の25条項の内訳は、SL採用に伴って新たに導入された条項が6条項、標題が変わった条項が17条項であり、これら以外の著しい環境側面(環境側面)と順守義務(法的及びその他の要求事項)の2条項の標題変更には特別な意図がこめられているとは考えられないから、改定版の04年版からの変化の90%は明確にSL採用に伴うものである。
 
  SLは多くのマネジメントシステム規格の条項と規定の構造と文章を統一するために作成されたものである。SL の条項や規定はISO14001の04年版にも他の規格にも存在している共通的な規定<要求事項>又はその趣旨を新しい条項、文章で表現したものである。SLの条項や規定の採用自体は規格の意図、趣旨、要件<要求事項>の変更を意味しない。従って、CD.1,CD.2,DISの04年版からの条項や条文の大きな変更は、ISO14001の改善に必要だからとして行われたものではなく、見掛けの大きな変化も意図的な要件<要求事項>の変更の結果ではない。
 
(2) 改定版の実体
   上記@Aの両観点での04年版からの変更点を総合すると、改定版は04年版と比べて構造が大きく変わり、規定の条文はその文章や用語、表現が大きく変わっているが、効果的な環境経営<環境マネジメント>であるための必要条件としての規定の意味は変わってはいないということである。すなわち、改定版は他のマネジメントシステム規格との表現の統一性を高めるために04年版からその構造及び表現が変更されたものであり、その中には現行規格の問題点を正すという意図的な規定<要求事項>の変更は存在していないと考えられ、規格の意義と意図の理解の浸透のために関連する説明の記述が詳細化になっているということが改定版の変更点であると考えることができる。
 
 
4. 改定版への組織の対応
  改定版に関して、戦略的判断、リスクと期待、予防的、パフォーマンス重視、ライフサイクル視点、組織の特質の理解、トップマネジメントの責任強化などSL採用に伴う記述変更を改定版における変更点とする見解が欧米でも認証機関を中心に発表され、日本の国内対応委員会も同様の見解を開陳している。これらの見解は、04年版に存在するそれら観点が規格と認証制度の関係者に認識されていないという実態に立って改定版の特徴が述べられているものと捉えればよい。
 
  現行版でも環境経営の指針として規格に取り組んでいる組織は、変更点と言われる規定<要求事項>の文章を現行の業務の実態に適合するように読むことが、改定版移行となる。その過程で規格の意図の理解を更に深め、現行の業務体制をより効果的なものへと改善を進めることが出来れば、規格改定とそれへの移行の意義をそれなりに認めることができるかもしれない。
現行版規格の意図を現場中心の改善活動の形式と誤解している組織は、改定版の喧伝される変更点が規格の本来の意図であると受け止めて、それに沿って自身で正しい規格解釈に努めることで適切な規格取り組みと規格の効用の実感が可能になる。
 
 
5. 改定版が認証組織に及ぼす影響の予測
  規格改定作業への認証業界の影響力が高まる情勢の下で、規格作成者や認証機関からは04年版と異なるとする改定版の規定<要求事項>の解釈の講習会やインターネットでの広報が盛んである。発表された改定方針の下で行われた改定作業であるのに、規格作成者の改定説明に方針との関連が一切欠如しているのは異様であり、認証機関の変更点説明では規定が変わったというのにその原因の04年版の問題の規定に触れていないのも不思議なことである。
 
  日本では、規格の規定は認証取得のために組織が満たさなければならない規格の要求であり、文章の文言がすなわち規格の要求であるから、SL採用による規定表現の変更はそのまま改定による変更点となる。規格の意義と意図の明確化という改定目的に対応して序文が改定され、付属書Aの記述も詳細になっているが、日本ではこれらは読まれないし、これらを引用して論理展開した規格解釈もこれまではほとんど見られなかった。誰かが読んだとしても、硬直した婉曲表現のためその真意を直ちに実務に則してくみ取うることは無理である。
 
  認証審査では現場中心の環境改善運動だとする誤った規格解釈の基本をそのままに、改定版がSLに従って表した04年版にそのままでは存在しない規定の文章、用語、表現から、上記の欧米認証機関主張の変更点に沿って引き出される様々な形式的業務や文書の形式が要求される可能性が強い。認証組織に逃げられないように要求に手加減がされるのだろうが、それにより益々規格と認証制度の意義がわからなくなっていきそうだ。
 
 
                     2015年版ISO14001 DIS−CD.2―04年版の比較
 
(注1) 標題和訳:JIS和訳、共通テキスト仮訳、入手資料の和訳、著者のJIS風和訳の順に優先使用
(注2) 08年版からの変更
       黒色:04年版の条項 (青色:DISに存在しない04年版の条項)
       赤色:04年版に存在しない新規条項;
       藍色:04年版と標題の表現が変わった条項
(注3) CD.1 → CD.2 → DIS の変更経緯
        アンダーラインアンダーライン の条項: CD.2でCD.1から変わった条項
        太字太字太字 の条項 : DISでCD.2から変わった条項;
(注4) SL :共通テキストにある条項
 

DIS (ISO14001)

CD.2 (ISO14001)

4年版 (JISQ14001)

0  序文

序文 

 

序文

 

0.1

背景

0.2

環境マネジメントシステムの狙い

0.3

成功要素

0.4

PDCAアプローチ

1  適用範囲

1  適用範囲

1  適用範囲

2  引用規格

2  引用規格

2  引用規格

3  用語及び定義                   SL

3  用語及び定義                 SL

3  用語及び定義

4 組織の状況                     SL

4 組織の状況                   SL

 

4.1

組織及びその状況の理解    SL

4.1

組織及びその状況の理解  SL

 

4.2

利害関係者のニーズ及び期待の理解                        SL

4.2

利害関係者のニーズ及び期待の理解                    SL

 

4.3

環境マネジメントシステムの適用範囲の決定                      SL

4.3

環境マネジメントシステムの適用範囲の決定                    SL

4.1

一般要求事項

4.4

環境マネジメントシステム           SL

4.4

環境マネジメントシステム         SL

5 リーダーシップ                  SL

5 リーダーシップ                SL

 

5.1

リーダーシップ及びコミットメント      SL

5.1

リーダーシップ及びコミットメント    SL

 

5.2

環境方針

5.2

環境方針

4.2

環境方針

5.3

組織の役割、責任及び権限   SL

5.3

組織の役割、責任及び権限  SL

4.4.1

資源、役割、責任及び権限

6 計画 

6 計画 

4.3  計画

6.1  脅威と機会に関連するリスク

       への取り組み              SL

6.1  リスク及び機会への取り組み     SL

 

6.1.1

一般                      SL

6.1.1

一般                    SL

 

6.1.2

著しい環境側面

6.1.2

環境側面の特定

4.3.1

環境側面

6.1.3

順守義務

6.1.3

順守義務の決定

4.3.2

法的及びその他の要求事項

6.1.4

脅威と機会に関連するリスク   SL

6.1.4

著しい環境側面及び組織のリスクと機会の決定             SL

 

6.1.5

処置の計画                SL

6.1.5

処置の計画               SL

 

6.2  環境目的及びそれを達成するための計画策定                           SL

6.2  環境目的及びそれを達成するための計画策定                       SL

4.3.3

目的,目標及び実施計画

6.2.1

環境目的                  SL

6.2.1

環境目的                 SL

6.2.2

目的達成の計画            SL

6.2.2

目的達成の計画           SL

7 支援                           SL

7 支援                         SL

 

7.1

資源                      SL

7.1

資源                     SL

4.4.1

資源、役割、責任及び権限

7.2

力量                      SL

7.2

力量                     SL

4.4.2

力量、教育訓練及び自覚

7.3

認識                      SL

7.3

認識                     SL

 

DIS (ISO14001)

CD.2 (ISO14001)

4年版 (JISQ14001)

 

7.4  コミュニケーション                     SL

7.4  コミュニケーション                   SL

4.4.3

コミュニケーション

 

7.4.1

一般

7.4.1

一般

 

7.4.2

内部コミュニケーション

7.4.2

内部コミュニケーション

 

7.4.3

外部コミュニケーション<規定変更>

7.4.3

外部コミュニケーション <規定変更>

 

7.5 文書化された情報             SL

7.5 文書化された情報           SL

 

7.5.1

一般                      SL

7.5.1

一般                     SL

4.4.4

文書類

 

7.5.2

作成及び更新              SL

7.5.2

作成及び更新             SL

4.4.5

 

文書管理

 

 

7.5.3

文書化された情報の管理    SL

7.5.3

文書化された情報の管理   SL

4.5.4

記録の管理

 

8 運用 SL

8 運用 SL

4.4 実施及び運用 

 

8.1

運用の計画及び管理        SL

8.1

運用の計画及び管理       SL

4.4.6

運用管理

 

8.2 

バリューチェインの計画及び運用

 

8.2

緊急事態への準備及び対応

8.3

緊急事態への準備及び対応

4.4.7

緊急事態への準備及び対応

 

9 パフォーマンス評価             SL

9 パフォーマンス評価           SL

4.5 点検

 

9.1  監視、測定、分析及び評価        SL

9.1  監視、測定、分析及び評価      SL

 

9.1.1

一般                      SL

9.1.1

一般                     SL

4.5.1

監視及び測定

 

9.1.2

順守評価

9.1.2

順守評価

4.5.2

順守評価

 

9.2

内部監査                  SL

9.2

内部監査                 SL

4.5.5

内部監査

 

9.3

マネジメントレビュー              SL

9.3

マネジメントレビュー             SL

4.6

マネジメントレビュー

 

10 改善                          SL

10 改善                        SL

 

 

10.1

不適合及び是正措置        SL

10.1

不適合及び是正措置       SL

4.5.3

不適合並びに是正処置および予防処置

 

10.2

継続的改善                SL

10.2

継続的改善               SL

4.1

一般要求事項

 


 
引用資料(いずれも こちら)
*1: ISO14001:2015の全容予測 ― 体裁一変、中味変更僅少、意義や意図が明瞭な規格に
*2: 2015年版ISO14001 骨格判明 ― 要求事項変更2ケ所、条項・条文全面変更、難解の可能性も (CD.1版 評価)
*3: 2015年版ISO14001 全体像がほぼ確定−CD.2版の評価及び残された問題点
*4: 2015年版ISO14001 CD.2版の変更点は7つ、実質改定点はひとつ − ISO/TC207の見解

H26.8.13
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サニーヒルズ コンサルタント事務所