ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
要 求 事 項 とは   (ISO9000/14000)
「要求される事項」でなく、「必要な事項」の意
英語で読み解く ISO9000/14000 (1)
32-02-01
1. 現英語( Requirement)の意味
   要求事項の英原文は、Requirement である。この英語には、demand (要求)と need (必要)の2つの意味がある。大方の辞書によると 動詞 require の場合は「権利や権限として要求する、求める」という強い「要求」の意味が真っ先に挙げられているが、名詞 requirement の意味は「必要なもの」とか「条件」であり、「要求」に関する意味は挙げられておらず、挙げられても「要求する行為」であって「要求する事項」を挙げる辞書は見つからない。
 
2.規格における意味
   「要求事項」はISO9001の94年版では定義されていなかったが「品質要求事項」の定義(JISZ9901:1998 参考/ ISO 8402:1994 2.3項) が規定されており、これから「要求事項」とは「ニーズ」であると考えられてきた。2000年版では 「要求事項」は、「ニーズと期待」と明確に定義されている。  従って、規格に関する限り requiremnet をそのJIS和訳の「要求事項」という日本語から「規格が要求する事項」と解釈する余地はない。
 
   「規格の要求事項」とは、規格によって規定されている事項であり、規格によって必要であると示されている事項、あるいは、何かのための必要条件のことである。 解説書によくある「規格の要求は・・」「規格は・・を要求している」等の表現はJIS翻訳の「要求事項」を日本語で解釈するという翻訳規格の誤った解釈法の結果である。 「[規格によって要求されている事項」と受けとめても意味を間違って理解することがない場合もあるが、誤解が避けられるだけであって規格の意図ではない。規格の意図はあくまでも「必要事項」である。
 
  ISO9001規格は、組織が顧客満足の製品の提供能力を実証する場合、及び、顧客満足の向上を目指す場合の品質マネジメントシステムに関する要求事項(ISO9001 1.1)、つまり、品質マネジメント の業務に関する必要条件を規定している。 規格の規定又は条文(Provision)は、効果的な環境又は品質マネジメントの業務の実行に必要な条件を記述(specify)しており、これが「要求事項(requirement)」である。
 
3.規格の規定としての意味
   「・・・すること」等で表現される「規格の要求事項」とは、「規格の規定」のことである。ISO規格作成の基準(1)では規定(Provision)を、その性格から「要求事項(requirement)」、「推奨事項(recommendation)」、「表明事項*(statement)」に分類している。ここで「要求事項(requirement)」とは、「ある文書への適合を主張するなら満たさなければならず、それからの乖離が許されない合否判定基準を伝える文書の内容に関する表現」である。 そして、この場合に使用するべき動詞形はshall , shall not であると決められており、規格のこの動詞形はJISでは「・・・すること」「・・・であること」などと翻訳されている。すなわち、規格の規定の内、単なる情報伝達(statement)、推奨(recommendation)に対して遵守事項というような意味の規定が要求事項(requirement)である。
 
   ISO14001:1996の標題は「環境マネジメントシステムー仕様及び利用の手引き」であり、2004年版の標題の「要求事項」に相当する用語は「仕様(specification)」である。 これについてISO14001作成のの米国代表だった J.Cascio氏は、「ISO文献の中では、「仕様」と「要求事項」という用語は相互互換的に使われる」と説明している(2)。 specification とは「何かがどうあるべきかの詳細記述」であるが、「要求事項」も本質的にはこの意味である。
 
  「規格の要求事項」とは、規格によって規定されている事項であり、規格によって必要であると示されている事項、あるいは、何かのための必要条件のことである。 解説書によくある「規格の要求は・・」「規格は・・を要求している」等の表現はJIS翻訳の「要求事項」を日本語で解釈するという翻訳規格の誤った解釈法の結果である。 「規格によって要求されている事項」と受けとめても意味を間違って理解することがない場合もあるが、誤解が避けられるだけであって規格の意図ではない。規格の意図はあくまでも「必要事項」たる「仕様」である。
   
4.種々の要求事項(群名詞)
  規格には、規定要求事項をはじめ顧客要求事項、製品要求事項、購買要求事項、追加要求事項、法的及びその他の要求事項、品質要求事項、注文要求事項等々、種々の名詞を冠した「要求事項」がある。「要求」事項のために例えば「顧客要求事項」は「顧客の要求」と誤解されることが少なくないが、「顧客が規定した要求事項」(JISQ9001 7.2.1 a))が「顧客の要求」であり、「顧客要求事項」とは顧客に関する必要事項ないしは顧客のニーズと期待の意味である。
 
   これら「○○要求事項」の原英語は、例えば顧客要求事項(customer requirement)のように ○○という名詞に requirement が続いてひとつの名詞となっており、英文法上は二つの名詞がつながる群名詞(nouns in groups)である。群名詞の一般用法では、最初の名詞は形容詞の働きをし2番目の名詞だけが名詞として使われ、最初の名詞は2番目の名詞に対して目的語の関係をもつ。従って文法上、「顧客要求事項」は「顧客が要求する」「顧客が必要とする」という意味にはならない。
 
   customer's requirement なら「顧客が要求する事項」という意味にはなるが、規格では requirement は「要求」ではないから、「顧客が必要としている事項」という意味である。この表現は、顧客満足の定義(ISO9000 3.1.4)の 「customer's requirement が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」として用いられている。 JISでは「顧客の要求事項」と翻訳されているが、「顧客が要求する事項」と誤解されなねない日本語である。顧客満足の定義では組織の立場から見た顧客のニーズと期待のことである「顧客要求事項」より、顧客自身が感じたり思ったりしているニーズ、期待、あるいは、必要としている事項の意味の「顧客の要求事項」の方が適切な用語であろう。顧客満足は顧客自身の受けとめ方のことであるから、組織の想いに過ぎないかもしれない「顧客要求事項」が満たされたかどうかでなく、顧客自身の感覚としての「顧客の要求事項」が満たされたかどうかの方が、顧客満足度という意味の「顧客満足」の定義にふさわしい。
 
  「製品要求事項」や「品質要求事項」の例では、製品や品質が何かを要求するという解釈はおかしいから、群名詞の用法を持ち出すまでもない。これらは、製品や品質に関する必要事項の意味であり、あるいは、必要条件のことである。つまり、どのような製品であるか、どのような品質(特性)でなければならないかというような意味である。
 
引用文献
(1) ISO/IEC Directives, Part2, Fourth edition,2001
(2) J.Cascio他: ISO14000ガイド、日本規格協会EMS審査登録センター監訳、199612.16、日本規格協会 
 
 
JISQ9001/14001 ISO9001/14001 規格の意図
要求事項 Requirement 必要事項、必要条件、要件
<語意> ★ Requirement:
要求、要求事項、要求条件; 必要、必要なもの、必要条件    (実)
   
something that you need or want (必要なもの、欲しいもの)
   something that you must have in order to to something else.(何かをするのに必要なもの)
                           (Oxford Advanced Learner's Dictionary)
   

somethin wanted or needed = NECESSITY (必要とされるもの = 必要なもの)
   something essential to the existence or occurrence of something else = CONDITION
        (何かの存在、何かが起きることに必須なもの = 条件) (M-W)
 
<語意> ★ Specification     (Oxford Advanced Learner's Dictionary)
a detailed description of how something is, or should be, designed or made
        (何かがどのようなものか、どうあるべきか、どうような構造、構成であるべきかについて
         の詳細な記述)
   
 
<語意> ★ 要求する:    (広)
当然であるとして強く求める; 必要である
   
<規格の定義>
要求事項     明示の、暗黙の、義務のニーズ若しくは期待
   
★ 品質要求事項(JISZ9901参考,2.3):
     ある"もの"を具現化し評価できるようにするため、
      * その"もの"の特性に関するニーズを表現したもの、,又は、
      * 定量的、定性的に述べた一組の要求事項へ、それらのニーズを変換したもの

   
<用法例とその意味>
★ 製品要求事項   
製品に関する必要事項(または、要件)
★ 品質要求事項   
品質に関する必要事項(または、要件)
★ 法的要求事項:  
法的に必要な事項
   

<誤用>
顧客要求事項 : 顧客の要求; 顧客が要求する事項 ⇒ <正> 顧客に関する必要事項(要件)
規格要求事項 : 規格の要求; 規格が要求する事項 ⇒ <正> 規格が必要とする事項; 規定

引用辞書:  (W) Webster's Encyclopedia of Dictionary;  (M-W) Merriam-Webster's;  
              (広) 新村:広辞苑;   (実) 海野:実用英語大辞典(日刊アソシエーツ); 
              (S) M.Swan/金子他:現代英語用法辞典(桐原書店);
翻訳: 英文辞書、ISO規格の翻訳は著者による。また、JIS規格の文章でも*印は、JISと異なる著者の翻訳
論点: (黒字) 著者の見解; (茶色) 著者の問題提起;  (青色) 規格の条文;  
(紫色) 文献(辞書)の引用 
H14.10.25(修:H16.2.2、改:H17.7.4))
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