ISO9001/14001 コンサルティング・研修
力量(ISI9000)と能力(ISO14000)
(ISO9001:2000, 6.2) (ISO14001, 4.4.2)
「優秀かどうかではなく、その仕事ができるかどうか」
英語で読み解く ISO9000/14000  (7)
32-02-07

1. 力量と能力
  品質、環境両マネジメントシステムに携わる要員の教育訓練に関連して、JIQ9001では「要員は力量があること」(6.2.1)、JISQ14001では「要員は能力をもたなければならない」(4.4.2)と規定されている。
  日本語の「力量」は、「人の能力の大きさの度合い。また、その大きいこと」であるから、「力量がある」とは「優秀」と同義語にもなる。また、「能力」とは、「物事をなし得る力。はたらき」であるので直接的には「優秀」に結びつかないが、「能力がある」はしばしば「優秀」という意味で用いられる。
  このため、日本語に依拠して規格を読むと、規格が優れた要員に作業を担わせるよう規定しているかの解釈が生まれ、教育訓練の目的が優秀な要員を育てることにも解される余地がある。
 
2. 原英語(competent)
   「力量がある」も「能力をもつ」も原英文では「competent」であり、JISQ9000ではその名詞形の「competence」が「力量」と和訳されている。この「competent」は「適切な」とか「不可欠の又は適切な、能力又は品質を備えている」という意味である。「優秀」ではなく「適切」の意味であるから、「〜にふさわしい」とか「〜をする能力がある」という日本語を当てて考える方が適切である。
 
3. 規格の定義
   環境マネジメントシステムの「能力」については、JISQ14050(環境マネジメントー用語)に定義がないが、品質マネジメントシステムでは、 JISQ9000(品質マネジメントシステムー基本及び用語)で「力量(competence)」が「知識と技能を適用するための実証された能力」と定義されている。
   
   この和訳では意味がよくわからないが、原英文では「demonstrated ability to apply knowledge and skill」であるから、「明確に示された、知識と技能を使用する能力」と訳する方が原文の意に沿っている。即ち、原文の翻訳にあたり、3ケ所に原文の文意を正確に反映しない日本語が充てられている。 「ability to apply」は不定詞の形容詞的用法で、apply は ability を修飾するから、「〜するための ability」ではなく「〜する ability」である。JIS規格和文では 「apply」 は ほぼ一様に「適用する」と訳されているが、この定義の apply は 「発揮する」「活用する」の方が英語の語意をより明確にした日本語となる。更に「demonstrated」であるが、「理由づけて物事を明確にする」という意味であって、「証明」するとまでは必ずしも必要ではなく、定義の文意でもないと考えられる。
 
4.規格の意図する力量、能力
  このように、「competent」とは「何かをするのに十分な、適切な力がある」というような意味であって、「能力がある」も、優秀であるとか出来ばえが優れているとかの問題ではない。 ISO文書、用語の指針(ISO/TC176/SC2/N526)の原案段階では、「competence」を「〜をする、又は、〜のための能力又は力量」と、もっと明確に定義していた。 すなわち、規格で「力量がある」「能力をもつ」とは、その仕事(責任と権限 ーJISQ9001:5.5.1、JISQ14001:4.4.1ー を伴って与えられた仕事)をすることができる、それにふさわしい力を持っている、ということが明白であるという状態を意味する。
 
5. 力量、能力の根拠
   いずれの規格も、「力量がある」「能力をもっている」ことは、学校教育の履修状況(education)、組織で行なう教育訓練(training)、職務経験(experience)、当人の技芸を行なう腕前(skill、JISQ14001では規定されていない)、「を判断の根拠として」(JISQ9001)、「に基づいて」(JISQ14001)、明確にするように規定している。この「根拠」「基づく」は両方とも「on the basis of」である。両規格共、力量、能力は、このような基準で判断するべきものと性格づけしており、このような基準で判断された「力量がある」「能力をもつ」状態が、「明確に示された(demonstrate)」状態ということである。
 
6.まとめ
   規格の「力量」も「能力」も、与えられた仕事が出来るかどうかという問題であって、人事評価におけるような優秀かどうか、仕事をうまくこなすかどうかとは異なる概念である。そして、高い低いではなく、あるかないか、の判断なのである。
   
★ ISO14001:2004改定
   
現英語には変化はないが、JIS翻訳はJISQ9001と同じく「力量」と変更になった。

JISQ9000/14000 ISO9000/14000 規格の意図
力量<JISQ9000, 3.9.12>
    知識と技能を適用するための
      実証された能力

能力<JISQ14050:2003>
   定義なし
competence<ISO9000: 3.9.12>
   demonstrated ability
   to apply knowledge and skills

 
competence<ISO14050:2003>
   定義なし
力量、能力
    明確に示された、
      知識と専門性を発揮する能力


力量がある、能力をもっている
  責任と権限(JISQ9001:5.5.1、JISQ14001:4.4.1)を伴って与えられた仕事をすることができる、ふさわしい力を持っている、ということが明確であるという状態
 



< JIS規格 要求事項 >

JISQ9001: 6.2.1
  製品品質に影響がある仕事に従事する要員は、関連する教育、訓練、技能及び経験を判断の根拠として
     力量があること
JISQ14001: 4.4.2
  著しい環境影響の原因となり得る作業を行なう要員は、適切な教育、訓練及び/又は経験に基づく
      能力をもたなければならない


< ISO規格 要求事項 >
ISO9001: 6.2.1
  Personnel performing work affecting product quality
  shall be competent on the basis of appropriate education, training, skills and experiences.

ISO14001: 4.4.2
 
Personnel performing the tasks which can cause significant environmental impacts
   shall be competent on the basis of appropriate education, training and/or  experience.  



< 語 意 >
★ 力量  
(広)
 * 人の能力の大きさの度合い。また、その大きいこと
★ 能力   (広)
 * 物事をなし得る力。はたらき 

★ competent  (M−W)
 * proper or rightly pertinent
(正当な、又は、確かに関連がある)
  * having requisite or adequate ability or qualities
(不可欠な、又は、適切な 能力又は質を有している)
  * legally qualified or adequate
(法的に資格がある、又は、適切な)  

★ competence  
 
* the state of being fit or capable (〜にふさわしい。 〜する能力がある)  (W)
 
* the quality or state of being competent (competentである状態、又は、質的にcompetentであること)(M−W)
 * 適格性、適性; 能力、技量、力量、手腕   (海)



<ISO文書
における定義(ISO/TC176/SC2/N526:用語に関する指針(案)、11 Sep. 2000)>
★ competence
 
Ability, capability, (to do, for a task etc.)  (〜をする、又は、〜のための能力又は力量);
      adequately qualified or capable  
(相応に適格な又は能力がある)


<英文法: 不定詞の形容詞的用法>  (清水周裕: 基礎と研究 新英語、数研出版、H4.4.10)
形容詞的用法  名詞不定詞(to 動詞)
  * 不定詞は形容詞の働きをする。 不定詞の動詞は前の名詞を修飾する。
   He gave me something to drink. = 彼は何か飲むものをくれた 
(誤訳: 飲むための何か)
 
 This is the best way to cure a cold = これが風邪を直す最善の方法
                                                                   
(誤訳: 直すための方法)
 I need a key to unlock this door = この扉を開ける鍵を持っている (誤訳: 開けるための)


< 英単語の語意 >
★ apply   (Collins English Dictionary)
 
* to put to practical use;  utilize;  employ  (実用に供する、利用する、使用する)
★ apply  
(M−W)
 
to place one thing upon another  (〜を〜に適用する)
    to employ for a particular purpose  (〜を特定の目的に使用する)
★ apply  
 * 〜に応用する、利用する、適用する
demonstrate  (M−W)
  * to show clearly;
(明確に示す)
  * to prove or make clear by reasoning or evidense;
 (理由又は証拠によって証明する、又は、明確にする)
     to illustrate and explain especially with many example,
(特別に多くの例を用いて説明する)  
実証する     (広)
  * 事実によって証明すること

引用辞書: (W) Webster's Encyclopedia of Dictionary;  (M-W) Merriam-Webster's;  
              (広) 新村:広辞苑;   (実) 海野:実用英語大辞典(日刊アソシエーツ); 
              (S) M.Swan/金子他:現代英語用法辞典(桐原書店);
翻訳: 英文辞書、ISO規格の翻訳は著者による。また、JIS規格の文章でも*印は、JISと異なる著者の翻訳
論点: (黒字) 著者の見解; (茶色) 著者の問題提起;  (青色) 規格の条文;  
(紫色) 文献(辞書)の引用 
 
H15.6.29(追:H17.7.4) (修H26.5.16)

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