ISO9001/14001 コンサルティング・研修
品質方針の「要求事項への適合に対するコミットメント」とは               (ISO9001:2000; 5.3 b))
      品質マネジメントシステムの要求事項への適合
英語で読み解く ISO9000/14000  (11)
32-02-11

1. 要求事項への適合
    JISQ9001 5.3項(品質方針)はその b)項で、品質方針には「要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの有効性の継続的な改善に対するコミットメントを含む」ことと規定している。ここで規定されている2つのコミットメントの内、後段の「品質マネジメントシステムの有効性の継続的な改善に対するコミットメント」は明確だが、 前段の「要求事項への適合に対するコミットメント」という表現については、何の要求事項に対する適合のことかあいまいである。このため、顧客要求事項の意味だとか品質マネジメントシステムのすべての要求事項だとか、解釈が分かれている。  しかしこの問題は原英文に立ち返ると論争を呼ぶようなことはない。すなわち、原文は、
   
   (イ) a commitment to comply with requirements (中略) of the quality management system
   
であるから、要求事項とは「品質マネジメントシステムの要求事項」のことである。
 
   
2. 英原文からの解釈
    ただ、(イ)の (中略) の部分は次の(ロ)ような英文であるから、(イ)の「of the quality management system」はこの部分にも掛かることになる。つまり、文章全体としては「要求事項」と「有効性」の両方で1つの「品質マネジメントシステムの」を用いていることになり、英語としてやや不自然にも感じられる。
   
    (ロ) and continually improve the effectiveness
   
これは、例えば 4.1項(一般要求事項)が、次のように、「品質マネジメントシステム維持する」と「その有効性を改善する」と明確な表現となっていることと好対照である。
   
    (ニ) maintain a quality management system and continually improve its effectiveness
      [品質マネジメントシステム維持すること。また、その品質マネジメントシステム有効性
         継続的に改善すること](JIS翻訳)
   
しかしながら、0.2項(プロセスアプローチ)にも、次の(ハ)のように、1つの品質マネジメントシステムを「実施する」と「有効性を改善する」の両方に使用させる表現がある。 従って、5.3 b)項の表現はあながち特異とは言えないのであり、ひとつの「品質マネジメントシステムの」を「要求事項への適合」と「有効性の」で共有する上記解釈に英語表現上で疑義を呈する必要はない。 
   
    (ハ) implementing and improving the effectiveness of a quality management system
     [品質マネジメントシステムを実施し、その品質マネジメントシステムの有効性を改善する](JIS翻訳)
 
   
3. 規格の論理からの確認
   英語の問題を離れて、規格の論理から 5.3 b)項の「要求事項への適合」の意味を考えても結論は同じになる。なぜなら、規格は 5.1項(経営者のコミットメント;これは英原語からは "経営公約" の意)で、トップマネジメントが「品質マネジメントシステムの構築及び実施、並びにその有効性を継続的に改善することに対して」コミットすることと規定しており、その証拠のひとつとして 同 a)項で「品質方針を設定する」ことを求めている。そして、問題の 5.3項(品質方針)というのは、この品質方針についての要件を規定する条項であり、そのひとつが同 b)項の「コミットメント」であり、その条文の中の「要求事項への適合」が議論の対象である。規格の論理の一貫性や規格要求事項間の整合性を考えると、5.1項と5.3 b)項の「コミットメント」は同じでなければならない。
   
  ここで、5.1項のコミットメントは、(ホ)のような英原文である。 
   
  (ホ) its commitment to the development and implementation
          of the quality management system and continually improving its effectiveness
     [品質マネジメントシステムの構築及び実施、並びに、その有効性を継続的に改善することに対する
        コミットメント](JIS翻訳)
   
これによれば、そのJIS翻訳の通り、コミットメントは「品質マネジメントシステムの構築及び実施」と「品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善すること」に対するものであることに疑問の余地はない。 そこで、両項に共通する「品質マネジメントシステムの有効性の改善」の他のもうひとつの「品質マネジメントシステムを構築し実施する」(5.1項)と「品質マネジメントシステムを要求事項に適合させる」(5.3 b)項)とが 同じ内容であることになる。「構築し、実施する」と「要求事項に適合させる」とが同じ意味と考えることは、規格用語と表現上からも問題はない。 従って、コミットメントの対象は、「品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善」と「品質マネジメントシステムの要求事項への適合」であると考えることができる。
 
     
4. まとめ
    5.3 b)項の「要求事項への適合」とは、英原文の構文解釈の点でも規格の論理の点でも、「品質マネジメントシステムの要求事項への適合」である。この「品質マネジメントシステムの要求事項への適合」について、 8.2.2項(内部監査)がもう少し詳しく説明している。すなわち、@ 個別製品の実現の計画への適合、 A 規格の要求事項への適合、B 組織が決めた品質マネジメントシステム要求事項への適合 である。


JISQ9001
ISO9001 規格の意図
5.3 b)
 トップマネジメントは、品質方針に、要求事項への適合 及び 品質マネジメント システムの有効性の継続的な改善に対するコミットメントを含むこと
5.3 b)
Top management shall ensure
that the quality policy includes a commitment
to comply requirements
and continually improve the effectiveness
of the quality management system.
5.3 b)
 トップマネジメントは、品質方針に、品質マネジメント システムの要求事項への適合 及び 品質マネジメント システムの有効性の継続的な改善に対するコミットメントを含むこと。
< 5.3 b) 項の英原文の構文と解釈>



<規格の論理と要求事項>



<規格の英語表現(ひとつの「品質マネジメントシステム」しか使用しない)>

[5.3 b] a commitment to comply with requirements
         and continually improve
the effectiveness
         of the quality management system
 (ISO英原文)
   ⇒ 要求事項への適合
      及び 品質マネジメント システムの 有効性を継続的に改善すること
      に対するコミットメント(JIS翻訳)
  ⇒ 品質マネジメント システムの要求事項へ適合すること
      及び その
有効性を継続的に改善すること
      に対するコミットメント(規格の真意)

 
[0.2]  when
       
developing, implementing
       and improving
the effectiveness of
       a quality management system
(ISO英原文)
    ⇒  品質マネジメント システムを構築し、実施し
       その品質マネジメント システム
の有効性を継続的に改善する
       際に(JIS翻訳)
   
⇒  品質マネジメント システムを構築し、実施し
       また、品質マネジメント システム
の有効性を継続的に改善する
       場合に(規格の真意)

 
<規格の英語表現(それぞれが「品質マネジメントシステムの」であることを明確にしている)>
[4.1]  maintain a quality management system
       and continually improve its
effectiveness (ISO英原文)
    品質マネジメント システムを維持すること。 また、その品質マネジメント システムの有効性を継続的に改善する(JIS翻訳)
   ⇒ 品質マネジメント システムを維持しその有効性を継続的に改善する(規格の真意)
 
[5.1] its commitment to
     
the development and implementation of the quality management system
      and continually improving its
effectiveness (ISO英原文)
   ⇒
品質マネジメント システムの構築と実施
     及び その
有効性の継続的改善
     に対するトップマネジメントのコミットメント(JIS翻訳)
(規格の真意)

引用辞書: (W) Webster's Encyclopedia of Dictionary;  (M-W) Merriam-Webster's;  
              (広) 新村:広辞苑;   (実) 海野:実用英語大辞典(日刊アソシエーツ); 
              (S) M.Swan/金子他:現代英語用法辞典(桐原書店);
翻訳: 英文辞書、ISO規格の翻訳は著者による。また、JIS規格の文章でも*印は、JISと異なる著者の翻訳
論点: (黒字) 著者の見解; (茶色) 著者の問題提起;  (青色) 規格の条文;  
(紫色) 文献(辞書)の引用 
H15.11.24(改H16.1.22, 1.23)
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