ISO9001/14001 コンサルティング・研修
読みやすく、容易に識別可能、かつ、検索可能である とは
中味を読み取ることができ、何の記録かが難なくわかり、迅速に取り出すことができる
状態を維持する
の意

(ISO9001:2000;   4.2.4  記録の管理)
英語で読み解く
ISO9000/14000
(43)
32-02-43

<JIS和訳>
  JISQ9001 4.2.4項(記録の管理)では、記録の管理の要件として「記録は、読みやすく、容易に識別可能、かつ、検索可能でなければならない」と規定している。
 
  この和訳文には、2つの点で違和感を覚える。ひとつは、記録の保管に関する要件であるから「〜でなければならない」ではなく「〜な状態を維持しなければならない」でなければならないことであり、もうひとつは「読みやすく、容易に識別可能、かつ、検索可能」という日本語の意味のあいまいさである。
 
<原文>
“Records shall remain legible, readily identifiable and retrievable”
 
<第1の違和感>
  第1の違和感は、JISが「引き続き〜である*1」「まだ同じ状態又は状況にある*2」の意味の“remain”を無視して和訳しているからであり、「記録は〜の状態を維持する」ように管理しなければならないというのが規格の意図であるのに、「〜でなければならない」と誤訳していることによる。
 
<第2の違和感>
  第2の違和感は、JISが単語“legible”“identifiable”“retrievable”に、誤解を生む日本語や原文と異なる日本語を当てて和訳しているからである。すなわち、
 
JIS和訳「読みやすい」の原文“legible”は「書かれたり印刷された文字が読み取ることができるのに十分に明瞭である*3」という意味である(1)。文章が簡潔であり、字が大きく、綺麗であるという意味で「読みやすい」のではなく、文字や図や絵や写真が鮮明でよくわかるという意味で「読みやすい」のであるから、「読み取ることができる」である。記録作成後の時間経過や繰り返し使用によって、紙がすり切れたり汚れたり、文字が薄れたり、或いは、現物見本や試料や写真の場合は、変色、変質、発錆、損傷などが生じたり、パソコン画面の輝度や鮮明さが劣化しては、記録を使用しようとしても、記録の内容や意味するところを読み取ることができない。記録は事実を表すものであり、その事実が何であるか読み取ることのできる状態を維持しなければならないというのが、記録の管理要件としての規格の意図である。
 
JIS和訳「容易に識別可能」の原文は“readily identifiable”である。“identity”は、次の意味を持つが、この場合は「特定する」の意味であり、従って“identifiable”は「特定できる」である。
a) 見分けて、誰であるか又は何であるかを言うことができる*4。日本語では「特定する」「〜と確認する」である。
b) 誰か又は何かを見つける、発見する*5。日本語では「同定する」「特定する」である。
c) 誰であるか又は何であるかを見分けることができる*6。日本語では「見分ける」「区別する」「識別する」である。
 
次に“readily”は「迅速で困難なく*7」であり(1)、迅速にできるという意味で「容易に」である。どのような記録であるかが難なくわかる、或いは、必要な文書や記録を難なく見つけることができるという意味である。更に“remain”であるから、原文の意図は「それがどんな文書、記録であるかが難なく特定できる状態を維持しなければならないということである。これは例えば、文書や記録をファイルに綴じた場合はファイルの背表紙や表紙に、また、本棚や袋や箱に納めた場合はその表面に、何の文書、記録が綴じられ、収納されているかを表示して、これが容易に見えるようにして整理、保管することである。
 
JIS和訳「容易に検索可能」の原文は“readily retrievable”である。“retrieve”は「ある物を、特に、あるべきでない場所から元に戻す、又は、取り戻す*8」の意味であり、日本語では「取り返す、回復する」(2)「取り出す、取り戻す、回収する、取ってくる」(3)である。“retrievable”は、記録を保管されている状態から取り出すことができるという意味である。これが““readily”であるから迅速にであり、“remain”である。英文の意図は必要な程度に迅速に取り出すことができるような状態で保管することである。例えば、倉庫に箱詰めの記録を保管する場合も、該当する記録がどの箱に収納されて、その箱は倉庫内のどこに置いてあるかがわかるようになっていなければならない。
 
<正しい和訳>
  4.2.4項(記録の管理)のJIS和訳「読みやすく、容易に識別可能で、かつ、検索可能である」とは、「中味を読み取ることができ、何の記録かが難なくわかり、迅速に取り出すことができる」である。
 
  また、4.2.3項(文書管理)では“documents remain legible and readily identifiable”と記録と同様の文書の取り扱いの要件が規定されている。JIS和訳は「読みやすく、かつ、容易に識別可能な状態」であるが、英語の意味は「中味を読み取ることができ、どういう文書かが難なくわかる状態」である。
 
なお、“remain”を無視した誤訳は4.2.3項(文書管理)でも見られるが、JISQ14001では4.5.4項(記録の管理)、4.4.5項(文書管理)の同様の規定を「〜な状態にあること」「〜な状態を保つこと」と“remain”を正しく和訳している。
 
*1: to continue to be sth; *2: to be still in the same state or condition;
*3: (of written or printed words) clear enough to read;
*4:to recognize 〜 and be able to say who or what they are; *5:to find or discover 〜; *6 to make it possible to recognize who or what sb/sth is; *7:quickly and without difficulty; *8 :to bring or get sth back, especially from a place where it should not be;

引用文献:
(1) S.Wehnmeier他: Oxford Advanced Learner’s Dictionary, Oxford University Press
(2) 佐々木達:新コンサイス英和辞典、三省堂、1980.9.15
(3) EDグループ:英辞郎、PDIC for Windows 
H22.130
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