ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
5 ISO14001 環境改善取組みの論理
(その1. 規格序文の趣旨)
ISO9001/14001
規格の論理   <5>
33b-01-01
ISO 14001
1. ISO14001規格作成の背景
  ISO14001規格が地球サミットをきっかけとして、作成されたことはよく知られた事実である。1992年の国際会議、地球サミットの準備を進める国連関係者からの呼びかけで産業界の地球サミットでの誓約をまとめるためのBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)が組織された。これには日本の経団連からも代表が参加しており、このBCSDからISOに対して企業の地球環境取組みに関する国際標準の作成の依頼が行なわれたことまでは、多くの説明が一致している。
 
  地球環境の観点からは人間社会は基本的に自然からの収奪で成り立っており、すべての産業活動は環境破壊を伴う。産業界は公害時代から環境悪化の最大の原因者として社会や規制当局からの厳しい目に曝され、事業継続のために公害対策や省エネルギー、省資源等の様々な施策をとってきた。しかし、環境悪化が地域的な公害を越えて地球規模に拡がり、気候の変動や資源の枯渇など自然破壊にまで範囲が拡がり、このまま地球環境の悪化が進むといずれは産業界の活動の存立自体が脅かされることになりかねない。一方で産業の事業活動は人の生活を支え、人間社会を豊かにするのに不可欠な活動でもある。この現実の上に立って、地球環境保全と産業活動の両立を図らんとするのが、1987年の国連WCED(環境と開発に関する世界委員会)の東京宣言で示された「持続可能な発展(sustainable development)」の原則である。
 
  地球サミットは国連が主催する地球環境問題取組みの3回目の国際会議であり、地球環境の保全の必要性の認識で世界が初めて一致した歴史的な場である。ここでは、東京宣言の「持続可能な発展」の実現、或いは、持続的発展可能な社会の確立に向けて各国の政府と各界、各機関や団体が取組みや施策を報告し、誓約し、取り決めが結ばれた。BCSDのISOへの依頼は、地球サミットでの産業界の環境取組みの誓約に関係し、事業組織の環境影響低減の努力を持続可能な社会の実現との関連で評価できる普遍的指標の策定であったと言われている。地球サミットには間に合わなかったが、ISOは1996年に事業組織の地球環境取組みの国際標準としてのISO14001規格を発行した。
 
 
2. 環境マネジメントの規格
  ISO14001規格の序文は地球サミット開催当時の産業界の置かれた状況を、地球環境への社会の関心と法規制が強まり、今や事業活動に付随して発生させる環境影響を無視しては事業活動を維持できない状況にあると看破している。すなわち、JIS版規格序文第3節に「あらゆる種類の組織は,その活動,製品及びサービスが環境に及ぼす影響を管理することによって、自らの環境方針及び環境目標に整合した健全な環境保全業績を実現し、示して見せることへの関心を高めてきている。組織のこのような対応は、厳しさを増す法規制、環境保全を促進する経済政策及びその他の施策の進展、並びに、環境問題及び持続可能な開発に関して表明される利害関係者の懸念の高まりを背景としている」と記している。
 
  そして、それまでの産業界の環境取組みを、社会から糾弾されたり公害訴訟を受けたり、法規制強化に当面するなど問題が発生した都度、対策を見直し対応するというような場当たり的対応ではなかったかと指摘している。これは序文第4節冒頭の「多くの組織は事ある毎に、その環境保全実績を評価する環境“一斉点検”や環境“監査”を行なってきた」という記述が意図するところである。この指摘は、このような組織の日常業務の管理活動である環境管理(environmental control)活動としての環境取組みが、社会のニーズや法規制に遅れをとり、不祥事を起こしたりした事例の背景であり、地球環境の悪化を抑制できてこなかった理由であったという見方を示唆している。
 
  序文は続けて、今日の状況の中を事業組織が環境問題でつまずき、事業の維持発展に齟齬を来すようなことのないように地球環境問題に取組むには、事業活動起因の環境影響を経営の課題として取り上げ、社会のニーズや法規制の将来をも見据えた体系的な環境取組みと環境影響の管理が必要であるという主張を展開している。すなわち、第4節では冒頭の問題認識に引き続き、「これらの“一斉点検”や“監査”だけでは、組織の環境保全実績が法規制及び環境方針を満たすだけでなく、以降も満たし続けるだろうということを組織に保証するには十分ではないことが多い。それらが効果的であるためには、組織内に確立した経営管理の枠組みの中で行なわれることが必要である」と問題解決の方向を明確にしている。
 
  規格の『マネジメント(management)』は組織の経営管理のことであり、『環境マネジメント(environmental management)』は地球環境への対応という点から組織の維持発展を追求する経営管理活動という意味であり、日本語では「環境経営」活動である。『システム』とは「体系」であり、この場合は経営管理活動の体制とか枠組みとかと言う意味である。『要求事項(requirement)』は「要件、必要条件」の意味である。規格のJIS和訳標題の『環境マネジメントシステム―要求事項』は、ISO14001規格が事業活動に付随する環境問題に対応する環境経営の枠組みの国際標準としてのあるべき姿を、経営管理の各業務の実行と管理に関する要件として規定しているということを表している。
 
環境問題を経営の課題として取組むということは、経営者が組織の事業の維持発展のためにどのような環境影響をどの程度に抑制することが必要か、可能かということを経営判断として決定し、必要な投資を行い、日常の環境管理活動によって環境影響を決めた通りの範囲に納め、或いは、決めた通りに低減することを図ることである。これが規格の『環境マネジメント システム』の意図の「環境経営」ないし「環境マネジメント」である。組織が地球環境問題に効果的に対応して事業の継続と発展を図るには、従来の環境管理(environmental control)ではなく、これを含む環境マネジメント(environmental management)としての取組みが必要である。この国際標準たるISO14001は従って、管理者が日常業務に適用する環境管理の手法の規格ではなく、経営者が組織の事業を方向づけ統括する環境マネジメントの規格である。
 
 
3. 規格の意図の環境改善取組み
  規格の環境問題対応の経営管理活動の狙いは、社会のニーズと期待に応えて組織の事業に付随する環境影響を低減し、地球環境の悪化を防止することである。しかし、規格は地球環境悪化に繋がるからとして組織の事業活動を否定するものではなく、一方、組織が対応可能な環境影響の可能な低減を図ればよいということでもない。地球サミットの枠組みにおいて産業界に期待される環境経営とは、組織が環境改善と事業の発展を両立させて持続的発展可能な社会を確立することに責任を果たすことである。
 
  このような地球環境保全、ないし、組織起因の環境影響低減の取組みについて序文は、第6節の最後で「この規格の全般的な狙いは、社会的ニーズと経済的ニーズの均衡を図りながら環境を保全し環境汚染を防止することを後押しすることである」と明確に定義している。
 
  ここに前者の社会的ニーズとは、環境影響を低減させる必要のことであり、利害関係者のニーズとも表現される。また、利害関係者とは定義(3.13項)によると、地域住民、規制官庁から、顧客、投資家、株主、更に、市場、社会、はては地球市民にまで至る組織起因の環境影響に利害を有し、その低減を必要又は期待している人や団体のことであって、文脈からはその支持なしに組織が事業を継続することができない人や団体のことである。例えば、過去の公害問題で訴訟を起こされ、操業を制限され、或いは、取引を中止され、製品が売れなくなった事例の組織の相手方であり、近年見られるようになった環境投資や環境融資、優先契約などの組織に利益を供与する相手方のことである。規格の環境マネジメントの環境改善取組みが一義的に利害関係者のニーズと期待を指針として行われるべきことは、96年初版の序文の第10節の『環境マネジメント システムは広範囲な利害関係者のニーズ及び環境保全に関して高まりつつある社会のニーズに対応するものである』という記述で明らかである。
 
  後者の経済的ニーズとは組織を経済的に発展させる必要のことであり、環境影響を低減させるのに必要な投資や事業コストを組織がどこまで受容できるかということに関する。これは序文の第13節後半で「組織が環境保全目標を達成するに当たって、必要なら、そして経済的に可能なら、利用できる最良の技法を適用することを考慮し、また、それら技法の対費用効果を十分に考慮することが望まれる」として説明されている。いわゆるEVABAT(経済的に実行可能で利用可能な最良技術)の考えである。
 
  このように、規格の環境取組みとは、組織が経済的、技術的に可能な最大限の努力を以て利害関係者のニーズと期待に応える環境影響の管理と改善を継続して行うことである。序文第12節の「この規格は、法規制その他の要件の順守及び環境汚染の防止と継続的改善に対する誓約の必要を規定しているのであり、環境成績に関して達成すべき絶対的な必要条件を規定するものではない」は、このことを指している。
 
 
4. 規格導入の効用
  ISO14001規格は事業活動を行う組織が現在から将来にわたってその存立を確実にするために、自身の事業活動に起因する環境影響の管理と継続的な改善に経営の課題として取組むための、効果的な経営管理の業務の実行と管理の要件を規定している。この経営者主導の環境取組みとは、組織が経済的、技術的に可能な最大限の努力を以て利害関係者のニーズと期待に応える環境影響の管理と改善を行うことである。
 
  このような環境マネジメントの効果的実行によって組織は事業に付随する環境影響を緊要なものから改善していき、利害関係者の理解や支持を得てその事業を継続的に存続、発展させていくことができる。環境改善の進捗と時代の変化に伴い利害関係者のニーズと期待は変化し、技術の進歩や組織の財務体質の強化も期待できるから、組織の取組むべき環境影響の種類と水準が変わっていく。これが環境影響の継続的改善であり、これを可能とする組織の業務能力の進歩は環境マネジメント システムの継続的改善である。
 
  事業組織にとって製品が売れ又は取引が続く以上は環境取組みはコスト要因に他ならない。社会は環境影響発生ゼロを望むがこれは技術的にも論理的にも実現不可能である。組織が規格に従って環境マネジメントを行うことは、組織が利害関係者のニーズと期待に沿う経営上可能な最大限の努力をすることであり、これを利害関係者に知ってもらうことによって、利害関係者が組織の事業活動を容認し又は支持し又は製品の購入や取引を拡げるなどの利益を組織にもたらすことが期待できる。序文第9節はこのような規格の実践の効用を「組織はこの国際規格の首尾よい履行を、適当な環境マネジメントシステムが存在することを利害関係者に保証するために利用できる」として説明している。組織が規格実践を利害関係者に訴える方法として序文第9節は、認証/登録と自己宣言を挙げている。
 
このような環境取組みを世界のすべての組織が行えば、やがて地球環境の悪化は止まり、持続的発展可能な社会が実現するだろう。ISO14001規格のこの論理はISO9001規格の品質保証の論理のように実績に基づき証明されたものではない。しかし、持続的発展という地球環境保全の論理と同様、持続的発展可能な社会の実現のための事業組織の行動指針として優れた論理である。少なくとも今日の時点でこれに変わる論理は存在しないことは確かである。
 
 
(註) 規格序文の引用文は著者の和訳。
H24.5.15 
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