ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
§7
文書化した情報 ISO9001:2015 ISO9001/14001
規格の論理と用語   
33b-02-07
ISO14001
SL共通テキスト
0.1  概要   こちら
 
0.2  実務の視点和訳⇔JIS和訳の対応:
  経営管理 ⇔マネジメント$19;   経営管理体系 ⇔マネジメントシステム$19-1;   品質経営 ⇔品質マネジメント$19-0;  
   品質経営体制
⇔品質マネジメントシステム
$19-1-1;   要件 ⇔要求事項$1  履行 ⇔実施$4  業務 ⇔プロセス$2;
 
 
§7.1 文書化した情報

(1) 文書
  『文書化した情報』とは「組織が管理し維持する必要がある情報及びそれを含む媒体」と定義#6されるから、「情報及びそれを保持する媒体」と定義#6pされている08年版の『文書』そのものである。共通テキス解説FAQ (18)では、近年はデータや文書と記録が電子媒体に保持されていることが多いので「文書化した情報」を造語したと説明している。TC176はCD版の変更説明(11)において、15年版が共通テキストを採用した結果、08年版の「文書」「記録」はすべて「文書化した情報」に置き換えたと説明している。すなわち、「文書化した情報」は08年版の「文書」の共通テキス化に伴う言い換えに過ぎない。
 
  規格の「文書」とは、何かの物理的手段で保持されて、業務に使用する情報のことである。最も普通の文書は情報が紙の上に文章を主体に図表や絵や写真で表現されたものであるが、規格では紙の上でなく電子計算機の画面や投射スクリーン、キャンバス、看板、シールなどに表示された場合も文書である。製品見本や合否限界見本のように、ある物の情報が現物そのもので表される場合はその現物も文書である。電子計算機内ハードディスク、フロッピーディスク、CD、USBメモリも情報を保持している場合は文書である#6p-1。文書化とは、人の頭の中の情報を外に出して、誰にも見え、利用できることが可能にすることである。
 
(2) 文書化の意義
  文書化は、事業維持発展に必要な顧客満足を確実に実現させる品質経営 活動の業務を体系的で組織的に実行するための核である。組織とは多数の人々の協働の場であり、協働によってひとつの目標を達成するためには、業務実行に一定の決まり、つまり、仕組み、手順、責任と権限等々が明確でなければならない。 これらが口答で伝えられ、或いは見様見まねで覚えられて人々の記憶となっているだけでは、言い間違い、聞き間違い、見間違い、記憶違い、記憶の薄れによる誤認や誤解は避けられず、誤作業を引き起こす。 文書化は人の記憶や口答伝達がもたらす誤りとそれによる業務遂行の不首尾を防ぐための基礎である。 決まりを文書化し、文書に基づいて人々を教育し、文書によって作業を指示し、文書に表現された定めに従って業務を行なうことによって、誰でもいつでも、違った相手とも協働して、同じ所定の結果を出すことができる。
 
  また、業務の結果を文書化することにより、誰もが実行を確認でき、同じ事実認識を持つことができる。業務実行結果を文書化した記録は、問題解決や課題の抽出のために不可欠である。組織の業務の成果である独自の考え、業務方法、技術は文書化することで、組織内で広く応用され、継承され、更に、他組織による知的財産権侵害に対抗できる。15年版ではこのような文書に保持された業務に係わる情報は、組織の品質経営 活動に必要な知識情報(7.1.6項)のひとつである。
 
  このような文書化の目的と効用について00年版TC176指針(8)は、情報伝達の道具、適合性の証拠、知識の共有の3つを挙げている。また、文書に関する指針規格の01年版(137)では文書化の利益として、業務の明確かつ効率的な枠組みとなる、業務に一貫性を与える、教育訓練の基礎となる、などを挙げている。
 
  規格の文書化の規定では文書化の目的を、08年版は「業務の効果的な計画、実行及び管理のため」、15年版では「品質マネジメントシステムの有効性のため」と表わしているが、趣旨は変わらない。人の頭脳の中の情報を誰の目にも明らかなものとする文書化によって、業務に必要な知識情報(7.1.6項)が蓄積され、必要により利用でき、また、業務実行に関係して必要な情報が要員間や外部の関係者との間で確実に伝達又は交換(7.1.4項)され、以て狙いの顧客満足の状態が確実に実現させる効果的な品質経営 活動が可能となる。
 
  文書化の意義に照らすとすべての組織の意図、決まり事、手順、事実の文書化が望ましいが、実務的には文書化の範囲と記述の詳しさは、文書化する業務負荷との均衡で決められる。この結果、業種業態、規模、業務の複雑さ、要員の習熟度などによって、文書化の範囲と詳しさが組織によって異なることになる。内容が複雑なほど、数値で表現される事項ほど、文書化の必要性が高い。また、係わる人が多い事項ほど文書化の必要性が高い。さらに、普段はあまり関係のない事項ほど記憶のあいまい化が進むので文書化をしておくことが大切であり、とりわけ、緊急事態への対応のような手順は文書化しておくことが必要であり、手順を要員の記憶の中に明確にし、定期的に試してみることが必要である。
 
 
§7.2 文書と記録
(1) 文書(広義)の区分
  規格では初版以来、文書(広義)を業務実行に用いる狭義の「文書」と業務結果を表す「記録」とに分けて、文書化やその作成、更新、使用、保管の在り方を規定してきた。 08年版では『記録』とは「達成した結果を記述した、又は、実施した活動の証拠を提供する文書」と定義#8pされているが、これに対応する『文書』すなわち狭義の文書については、それらを表す総称も、定義もない。しかし、文書化の意義と記録の定義に鑑みるに、また、文書の発行に対する責任者の承認の規定(4.2.3 a))があることからも、業務実行や方法や基準、目標、日程など、業務実行と狙いの業務結果を規定するものと受けとめることが妥当である。
 
  15年版では、文書はすべて「文書化した情報」と表され、規定には文書や記録という用語も特定の文書名も現れない。しかし、「文書化した情報」の定義の注記#6-2は、文書化した情報が「品質マニュアル」と「文書(狭義)」と「記録」から成ることを示唆している。さらに、TC176のDIS版の変更説明(12)では、08年版なら「文書化された手順」或いは「記録」を引き合いに出したであろう状況には15年版では「文書化した情報を維持する」又は「文書化した情報を保持する」という表現が使用されていると説明している。従って15年版でも、08年版までの文書が「文書化した情報」と統一的に呼ばれるだけで、規格の規定の意図においては文書(狭義)と記録が区別されているということである。
 
(2) 文書(狭義)と記録の区別
  文書(狭義)と記録の違いの本質は、前者が人や組織の意志を表す文書であるのに対して、後者は客観的な事実を表す文書であることである。文書(狭義)は業務実行の指示として、或いは、業務実行の基準として用いられ、記録は実行結果の報告として用いられる。
 
  前者には作成者の思いが入るから内容の適切性を責任者が点検し、承認してからでないと発行できない。後者は作成者の思いの入る余地のない客観的な事実を表すから、作成者の責任で作成される。しかし、例えば日別生産指示書のように決められた手順に従って作成された別の業務の実行に用いる文書にも作成者の思いは入る余地がないから、責任者の点検、承認は不要である。また、文書の内容は必要により改定されるが、記録が改定されることはない。しかし、さらに、客観的な事実も変化するから、内容の異なる古い記録と新しい記録とが併存する。従って、例えば設備据えつけ業務の結果の記録たる設備配置図は、設備改造の結果で書き直されるが、これは記録の改訂である。
 
  実務では文書が記録になり、或いは記録が文書になるというようなことはしばしばある。文書(狭義)として発行された文書が記録となり、逆に、ある業務の実績を表す記録文書を別の業務を指示する文書(狭義)として使用することがある。ある文書が文書(狭義)か記録かを決めるのは、内容ではなく、作成、使用の目的と保管維持の状態である。ある特定の標題の文書(広義)が文書(狭義)か記録かという問題ではない。
 
  例えば、業務実行指示のために発行された文書に実績が記入されて記録文書として必要期間保管される。検査項目と公差を指示する検査指示書に検査結果を記入して検査記録として保管し、或いは、手段と日程を書いた改善計画書により改善活動を指示し、同じ用紙に活動実績を書いて活動記録書とするなどである。記録文書を別の業務の実行に用いることも少なくない。前工程から受け取った半製品の表面仕上がり検査記録によって当該工程の加工条件を決める場合、或いは、要員の職務能力を表す記録に則って要員に業務を命じる場合などである。
 
(3) 記録の意義
  業務に関する記録文書は、業務実行の実績と結果、又は、ある時点での事実若しくは実態を表す。更に、記録文書には、データ分析の結果、物事の変更の経過、変更の結果又は改善の成果、議論や審議の内容、判断や決定及びその根拠を表すものもある。記録は、業務が所定の通りに行なわれた証拠として用いられるだけでなく、業務結果の問題が事後に発見された場合の問題対応や原因究明のために使用される。この他、業務に係わる様々な事実の情報として以降の業務上の調査、分析、判断、決定に使用される。ある業務の実績の如何によって後続の業務の実行方法を変えることになっている場合には、記録文書が業務実行のために使用される。また、適切な記録を維持することにより、過去と同じことを調査し、或いは、試みる必要がなくなり、業務の効率化が図られる。更に、記録は組織が業務実行で得た経験や知識の集積であり、この整理された蓄積は組織の高い業務能力の裏付けである。
   
  規格では管理すべき記録の範囲を限定しているが、例えば08年版では、記録がデータ分析の元となること(8.4)、トレーサビリティのために必要であること(7.5)、職務能力有無の判断のために使用すること(6.2.2)、検証(7.4.3, 8.2.4)や是正処置(8.5.2)、予防処置(8.5.3)のために使用されること#7-1などの事例の規定や説明によって、様々な性格、使われ方の記録のあることが示唆されている。
 
 
§7.3  文書と記録の管理
  規格の意図する品質経営活動では、文書に基づいて業務が実行され、実行結果が文書に表されることが基本である。そのために文書は、その内容が適切で正しくなければならず、必要な要員が、必要な時に、必要な場所で、必要な文書を利用できるようになっていなければならない。
08年版ではこれを確実にするために必要な文書の管理の要件として、文書(狭義)に関しては必要に応じた見直し更新、作成と更新時の内容の承認、更新時の変更内容の明確化、必要な配付、適切な保管、文書や更新版の適切な見分け方、また、記録に関しては適切な見分け方、検索が可能な保管、損傷や紛失のない保管、保管期間の設定、適切な廃棄方法を、それぞれ挙げている。15年版では、これらに加えて閲覧制限の管理の必要が明示的に規定されている。
 
(1) 文書(狭義)の管理
  業務実行の指示或いは業務実行の規範又は基準として用いる文書は、内容が適切で正しく、要員が必要な時に必要な場所で使用できるようになっていなければならない。これを確実にするために規格が必要としている文書(狭義)管理の要素は08年版と15年版で変わっておらず、次のように分類、整理することができる。
 
① 文書の見分け方の管理
  要員が使用の必要に合った文書を間違いなく選択し使用することを確実にするためには、すべての文書は、そこにある又は見つけた個々の文書が何の文書であるか、或いは、使用すべき文書がどれであるかがわかるような、文書の見分け方の規則を決めておくことが必要である。このために1枚の紙であれ、冊子であれ、ファイルであれ、現物であれ、電算機や記憶媒体の中の文書であれ、どのような性格又は種類のどのような内容の文書であるかが、内容を読まなくともわかるような識別表示が、文書自体或いは保管場所、文書保持媒体に明確にされていることが必要である。
 
② 文書の内容の管理
  文書は組織の品質マネジメントの業務の基準、規範となり、業務実行の指示として使用される。その内容は、狙いの実現に効果的であることは当然として、品質方針など組織の考え方に沿うものでなければならず、他の文書の内容とも整合がとれていなければならない。文書に規定される業務の方法は、狙いの業務結果を得るのに十分なものであり、且つ、労働安全衛生、環境、収益など他の経営管理の必要も含む様々の必要を満たしていなければならない。更に、組織に固有の経験と知識や技術の体系に基づいて最も効果的で効率的で、組織全体としても最適な手順や方法でなければならない。その上で、誤記やわかりにくい不適切な表現のないことが必要である。
 
  文書の内容がこのように適切で正しいものであることを確実にするために、その業務に最終的な責任を負う者が文書の内容を評価し、その内容で問題ないこと、従って、文書として発行することを承認する手続きが必要である。この承認の後に文書は発行されなければならない。これは、文書を新たに作成、発行する場合にも、既存の文書の内容を改定、再発行する場合にも当てはる。
 
  適切で正しい内容であることを確実にするための評価と承認に関する必要な手順は、文書の性格と重要性によって異なる。一般に、業務の基準や規範として繰返し使用される規範文書では種々の観点からの正しさの評価が必要であり、上位文書ほど承認の責任は重い。一過性の業務指示文書も、業務の基準や規範となる点では規範文書と同じであり、特定の試験や試作の方法を定める文書のように規範文書の規定より優先されるべき内容であることもあるから、規範文書と同様、すべての必要を満たす十分なもので、且つ、正しい内容であることを責任者が評価し、承認する手順が必要である。
 
  しかし、承認された文書から必要な事項を抜き出して作成される文書や、承認された文書の内容を必要に応じて展開し又は計算してその結果を示すような内容の文書、つまり、承認された手順の基準や処理方法に従って作成された文書が、業務に使用されることが少なくない。例えば材料規格に従って仕様を記入した発注書や当該工程の作業条件を基準書から選択、転記した作業実行指示書などである。これら文書の内容は元の文書で正しいことが承認済であるから、普通はこれら文書の発行前の確認と承認は文書作成業務を行なった要員に委ねられる。しかし、文書作成者の誤作業や誤記によって適切でない内容となる可能性がない訳ではないので、文書の重要性によっては、発行前の責任者による確認を行うことも必要である。
 
③ 文書の改定の管理
  業務の基本や基準を規定し業務実行で繰り返し使用又は内容が参照される規範文書には、作成時点での必要な最適の業務のあり方が規定されている。従って、その業務を巡る状況の変化に合わせて内容は変更されなければならず、又は、新たな手順の文書化が必要になる。新設備の導入、新製品の発売などはこれである。問題があって再発防止のために、或いは、改善のために業務方法を変更する場合も、それらの手順を規定した文書の改定が行なわれなければならない。時宜を得た文書の改定によって、業務が常に組織にとって最適に行なわれることを確実にすることができる。状況の変化を検出して必要な文書の内容を変更する責任を持つのは、その業務の結果に責任をもつ管理者である。
 
  特別工程指示書、毎日の生産指示書など特定業務の実行に関する業務指示文書や、年度品質方針書、業務目標の掲示書など期間を限定された業務指示文書は、一般に改定されることはない。期限切れや状況変化で内容がそぐわなくなった場合は新しい文書として新たに発行するというやりかたが実務的で便利である。購買伝票や異常報告書など便宜文書のほとんどは一過性であるから改定されない。記録は事実を表す文書であるから、記述された内容自身が変更されることはないが、教育記録書のように新たな事実の追加記入や、資格喪失による抹消があるから、文書の内容は変化する。
 
  文書が改定された場合に何時から又はどの業務から適用すべきかを明確にすることが必要である。一時期の間に旧文書と併存することもあり得るから、新旧の文書が必要な通りに使い分けられるように、両者が明確に区別できなければならない。文書の内容が全面的に改定されることは少なく、多くの場合は一部ないし部分的な変更であるから、どこをどのように変更したかを、その理由と共に文書自身又は関連付属文書で明確にすることが、必要な要員への改定の徹底という点で効果的である。改定を行なわず内容変更を新規文書の発行という形で行なう文書の場合には、適用する業務又は適用する期間を明確に表示しておくことが必要である。
 
  文書が改訂された場合、要員には改訂と事実と内容、切換え時機を必要な程度に知らせ、当該業務に直接関係する要員には理解させ、必要により新しい手順での業務実行の訓練をさせなければならない。文書管理の手はずにはこの手順を決めておくことが必要である。さらに管理者は、改訂手順が所定の時機から実行され、定着することを確実にするよう管理しなければならない。
 
  経営管理 活動は本質的に製品と業務の継続的な改善の活動である。製品と業務実行の手順が日常的に変更されることが、効果的に品質経営が行なわれている証である。文書によって業務を実行、管理する品質経営 活動では、文書の内容の変更は日常的に行なわれる。文書体系の在り方、文書の記述方法、文書の取り扱いの方法には、頻繁な文書改定に容易に対応できることを見据えて最大限の配慮や工夫をすることが必要である。
 
④ 文書の配付の管理
  体系的な業務遂行には文書に基づいて業務が実行されることが不可欠である。文書は、必要な要員が必要な時に必要なところで参照或いは使用できるようになっていなければならない。手順の多くは関係する要員が記憶し或いは身につけていていなければならず、それらを規定する文書の使用は、念のための確認や訓練の場合に限られる。
 
  このような文書は要員が必要に応じて検索又は取り出すことができればよいから、部門や職場単位の配付でよい。しかし、数値など記憶することが困難で、誤作業の原因になり兼ねない内容に関しては、当該文書又は当該内容が作業に必要な都度、その場で閲覧又は参照できるようにしなければならず、作業場や要員単位の配付が必要となる。業務実行条件の指示や順番の指定など日々に又は業務実行毎に決められる手順を記述する文書も関係要員が業務実行の現場で参照、使用できなければならない。
 
  文書の配付には、原文書を配付する場合とその写しを配付する場合、また、部門で必要な部分を複写して部門内に再配付する場合がある。配付の時期には、必要となる文書を予め配付しておく方法と業務の実行の指示と共に当該業務を規定する文書を配付する方法とがある。 また配付の形式としては、紙の文書の配布や電子文書の配信、情報ネットワークの画面での表示、設備運転管理表示盤での標示、掲示板での表示、また、記録用紙への表示などがある。 配付の管理は、文書が改定された場合に、当該文書の配付を受けているところに改定版が間違いなく届けられ、改定が関係者に周知され、改定版が旧版と置き換えられることも確実にするように行われなければならない。
 
⑤ 文書の保管の管理
  使用中でない文書や文書の原本は、必要な要員が必要な時に必要な容易さで検索し、使用できるような形で保管することが必要である。同時に、保管の方法には文書の機密度に対応した情報漏洩防止の観点や文書の非常持ち出しの必要性の観点をも考慮しなければならない。また、繰り返し使用による劣化や損傷、写真や現物見本のように自然劣化の可能性をも考慮することが必要である。
 
  文書の改定の経緯は組織の業務実行能力の進歩の過程を表し、文書の改定は組織の製品と業務実行の改善の証である。旧文書は後の実際の業務にも役立てることができる。例えば、関連する旧文書を参照して変更しようとする手順が過去の繰り返しではないことを確認し、また、新しい手順の適切性を過去の経緯に照らして評価することである。
 
(2) 記録の管理
  記録は事後或いは後日に使用するためにあり、使用する可能性のある間は保持しなければならない。使用する記録は、使用しようとする要員が、必要な時に、必要な迅速さで抽出し、使用できるように管理されなければならない。使用できるという状態には保管中の記録の損傷、劣化又は紛失のないことが確実な保管状態が含まれる。使用される可能性のない記録は作成の必要はなく、使用の可能性がなくなった記録は保管を継続する必要はない。これを確実にするために規格が必要としている記録管理の要素は08年版と15年版で変わっておらず、次のように分類、整理することができる。
 
① 記録の見分け方の管理
  要員が使用の必要に合った記録を間違いなく選択し使用することを確実にするためには、すべての記録は、そこにある又は抽出した個々の記録が何の記録であるか、或いは、必要な情報を含む記録がどれであるかがわかるような、記録の見分け方の規則を決めておくことが必要である。
 
  このために1枚の紙であれ、冊子であれ、ファイルであれ、現物であれ、電算機や記憶媒体の中の文書であれ、どのような性格又は種類のどのような内容の記録であるかが、内容を読まなくともわかるような識別表示が、記録自体或いは記録保持媒体、又は、記録を収納する箱、保管場所などに明確にされていることが必要である。倉庫に箱入りの記録を積み重ねて保管する場合には、当該記録がどの箱にあり、その箱がどこにあるかが見分けられるような管理も必要である。
 
② 記録の内容の管理
  記録は事実や実体を表したものであるから、作成された記録の内容を責任者が改めて適切性を承認する余地はない。要員は必要な情報を正しく把握して記述することができる職務能力を持っていなければならない。しかし、定められた情報が適切に且つ正確に収集、記述されていることを確実にするための手段として、責任者が作成された記録を点検し、その証拠の捺印をすることはある。この記録を別の重要な業務に使用するなら、事実や実体が正確に記述されているかどうか責任者が確認することも必要になることもある。
 
③ 記録の変更の管理
  記録は事実の反映であり変更があり得ないので、記録文書は一般に改定管理の必要はない#7-2。しかし事実も時間を経て変化するから、記述の部分的な抹消、変更、加筆又は全面書換えといった記録文書の内容が変化することはある。例えば、ある設備の据えつけが完了した時点での工場配置図は、以後の新設備の導入により変更される。同じ標題の記録文書という点では内容に変更があるが、変更の前の時点の記録が表していた事実や実体が、その時点での事実や実体であったことには変わりがない。或いは、個人別教育訓練履歴書という記録は新しい教育訓練の履修の度に内容が追加される。
 
  この記録をある業務実行に、或いは、業務実行の参照に用いるなら、文書(狭義)管理と同様の改訂と配付の管理が必要となる。
 
④ 記録の配付の管理
  記録は一般に、業務実行と結果の報告のため定められた部門又は管理者に送られ、保管される。特定の記録を業務実行に、或いは、業務実行の参照に用いる場合は、記録そのもの又はその写しの配付の管理が必要となる。
 
⑤ 記録の保管の管理
  記録は、必要な要員が必要な時に必要な容易さで検索し、使用できるような形で保管することが必要である。同時に、保管の方法には、繰り返し使用による劣化や損傷、紛失、とりわけ写真や現物見本のように自然劣化の可能性をも考慮することが必要である。
 
  記録は事後に見出された不良や異常、顧客からの申し立てなどに対応するために使用される。記録は使用される可能性のある間は保管しなければならない。業務実績の記録は、業務実行の問題点を見出し、又は、業務実行と結果或いは製品品質の改善の可能性を見出すためのデータ分析に用いられる。記録の保管期間を決める場合は、この観点での使用の可能性も考慮しなければならない。例えば、品質方針の改訂やとった経営施策を含むマネジメントレビューの記録は、組織の品質経営の実績や進歩の歴史を表す公文書として長期間の保管が必要である。
 
  記録は必要により容易に取り出され、検索、使用できるように保管しなければならない。記録文書の例えば日付別、内容分類別に整理するなどの整理方法、ファイリング、袋、更に箱詰めなどの保管形態、机の上、書棚、倉庫などの保管場所は、使用の可能性の頻度とその場合の緊急性に応じたものとすることが大切であり、これらは保管の時間経過によって適当に変えるのが合理的である。
 
(3) 情報ネットワーク上の文書の管理
  文書を情報ネットワークシステム又は個々の計算機システム上に搭載することが拡がっているが、この目的ないし文書管理の観点からのシステム利用の形態は様々である。紙文書を正として、計算機システムを文書の最新版管理や配付の管理に利用する場合が多いが、この場合は紙文書の管理に加えて、その内容が正しく、時宜を得てシステム上の文書に反映されることを確実にする管理が必要となる。また、変更された内容で業務が行なわれることを確実にするためには一般に、システム上で文書を変更するのとは別に、変更されたという事実を関係者に伝達することが必要である。
 
  文書の作成から使用、さらに記録としての保管まですべてを計算機システム上で行なう文書管理方式が拡がっている。ソフトウェアの信頼性、計算機システムの保守管理の観点が大切である。システム設計では、作成や変更した文書の内容に誤りのないことを確実にする管理、新旧版の切り替えの管理、旧版の保存の管理、非常事態への備えにも考慮を払うことが大切である。紙文書と同様に情報を保存する媒体の磁気テープやCD等を管理することが必要であるが、加えて、一般には停電やコンピューター ハードディスクの損傷による情報の消失の防止、災害によるネットワーク機能停止の防止、外部侵入者によるコンピューター機能の損傷や情報漏洩を防止する管理も必要になることがある。
 
(4) 文書の機密保持、非常持出し
  文書の機密性に対応した情報漏洩防止の観点や文書の非常持ち出しの観点での文書の管理をも考慮しなければならない。文書の機密度に応じた閲覧制限が必要であり、逸失した場合に組織が受ける損害の大きさに関連しての重要性によって文書を区分けして、それに応じた盗難や不正持ち出しの防止処置をとり、また、非常時の持出しの処置が定められる。天災による重要記録の損失を防ぐため副本を遠方に保管することも行なわれる。情報ネットワークシステムによる文書管理では、外部と繋がったシステムの場合の重要情報流出防止への配慮が必要になる。
 
 
§7.4  文書体系
(1) 文書体系
 94年版(4.2.1)では、作成し使用する種々の文書を「文書体系」として整理するよう規定されている。そしてこれに関連して品質マニュアル作成に関する指針規格(133)おいて、品質マニュアルを頂点とし、文書化された手順を第二階層、作業手順書、書式、報告書などその他の品質文書を第三階層とする三階層構造の文書体系が典型例として示されている。
 
  00年版では規定は「文書体系」に触れなくなったが、上記指針規格は品質経営で用いられる文書の指針としての規格ISO/TR10013:2001 (品質マネジメントシステムの文書類に関する指針)(137)に発展し、この中では同じ三階層構造の文書類に記録を加えた文書体系が規定されている。また、この階層構造の文書体系を背景として、品質マニュアル(4.2.2)、文書化された手順(4.2,1)、作業手順書(7.5.1)の作成、使用の規定があり、加えて 「(4.2.4参照)」として19種類の記録文書の必要を規定している。
 
  15年版の規定には規格の意図する文書の種類に関する記述はなく、特定の文書名も現れない。しかし、00年版向けに作成された上記の指針規格ISO/TR10013:2001が規格書巻末の参考図書一覧表に挙げられているから、15年版もこの指針規格の三階層構造の文書体系をはじめとする文書の種類や作成、管理の方法論に拠っていることになる。この上で、「文書化した情報」の定義の注記#6-2は、文書化した情報には、①関連する業務を含む経営管理体制、②組織の業務実行のために作成された情報(文書類)、③達成された結果の証拠(記録)を表すものがあり得ると説明している。①は品質マニュアルのことであるから、これを頂点として第二、第三階層の文書類に記録が加わった08年版と同じ文書体系が規格の意図するものと考えることができる。
 
(2) 文書類
  00年版文書化に関するTC176指針(8)では、規格が具体的に規定していないが、品質経営に必要ないし役立つ文書として、工程図、工程相関図、組織図、仕様書、作業/試験要領書、連絡書、生産日程計画書、供給者リスト、試験及び検査計画書、品質計画書を例示している。
 
  文書化に関する指針規格(137)では、三階層構造の文書体系に基づいて、品質経営に用いる各種の文書を次のように分類整理している。
 
➀ 品質マニュアル
  『品質マニュアル』は「品質経営体制を規定する文書」であり#14、下位の文書を引用して組織の品質経営体制がどのようなものかを表す文書である。この形態には種々のものがあり、小規模組織では規格の規定する6種類の文書化された手順のすべてをこれに記述することもよく、逆に大規模組織では組織全体の、事業部毎の、或いは、事業所毎の品質マニュアルを重複して作成することが必要な場合もあるともされている(8)
 
② 文書化された手順
  『文書化された手順』は“documented procedure”の和訳である。『文書化された手順』は「品質経営体制の実施に必要な関連し合うプロセス及び活動を記述する」ものであり (137)、94年版では「品質マネジメント システムの要素業務の履行に必要な個々の機能単位の活動を記述する」ものと説明されていた(133)
 
  手順とは「定められた活動又は業務の実行方法」のことであり#9、手順を文書に記述した場合のその手順が“文書化された手順”であり$9、その文書は『手順書』である#9-1。また、規格では「文書化された手順」という用語が、「手順が確立され、文書化され、実施され、維持されている」ことを意味する(4.2.1 注記1)。
 
  規格の意図ではこの手順は、規格の各条項に対応する業務の手順を定める文書であり、実務的には特定の目標を追求する部門横断的業務の手順を定める文書である。
 
③ 作業指示書
  『作業指示書』の英文は“work instruction”であり、作業を指示する文書ではなく、作業の詳細な方法を規定する文書であるから「作業手順書」の方が和訳として適切である#44。規格では、これを「文書化される手順」に基づき、その手順を実際の作業方法や基準として表した文書(137)として位置づけている。
 
④ 計画書
  規格の「計画」は、PDCA/プロセスアプローチ サイクルのP/計画に相当する活動を意味し、計画活動の出力、すなわち、計画した結果を記述した文書が計画書である。規格では品質マネジメントに関係する計画活動はすべて『品質計画』と呼び、その結果を文書化したものが『品質計画書』である。この『品質計画書』は、計画の対象の製品、業務、プロジェクト、契約の目標の達成のために適用すべき手順と資源と責任者を明確にした文書#12と定義されている。すなわち、品質マネジメントのある業務の狙いの結果とそのための業務実行の方法など、業務実行のために整えた手はずを文書に表したものである。94年版(4.2.3 参考8)では、品質計画書は単独の文書である必要はなく、関連する手順書など種々の文書を引用し、その適用を規定する形でよいと明記されていた。
 
  規格は、品質マネジメントシステムの計画(5.4.2)、製品実現の計画(7.1)、設計開発の計画(7.3.1)、監視、測定、分析、改善のプロセスの計画(8.1)、内部監査の計画(8.2.2)の各品質計画の必要と要件を規定している。品質マネジメントシステムの計画書は、実質的に品質マネジメントに関係する業務の手順書と手順実行のための作業要領書や関連する諸文書を意味する。プロジェクト型事業の製品実現計画書のように、業務の実行開始から完了までの手順を時系列で記述した文書を核とする品質計画書や、試験計画書のように実行内容と日程、責任者の記述が中心の品質計画書もある。目標達成の日程を主体とする計画はプログラム(programme)と呼ばれ、内部監査のプログラム(8.2.2)や環境マネジメントシステムの実施計画(135)はこの種の計画書を指す。
 
⑤ 書式
  『書式』も文書であり、「品質マネジメントシステムの要求事項への適合性を実証するデータを記録するために策定し維持する」と規定されている。この規定では書式は、記録文書の書式に限定されている。なお、「書式」はJISでは『様式』と和訳されている。
 
⑥ 仕様書
  要件を記述した文書と定義される(131)。活動に関する手順書、業務仕様書、試験仕様書、製品に関する製品仕様書、性能仕様書、図面などである。
 
⑦ 外部文書
  規格では、組織が業務に用いる文書の内、外部で作成されたり、外部組織と共同で作成したものを外部文書と呼ぶ。例えば、顧客の図面、発注仕様書などの顧客作成文書、法令、規制、規格など公的文書、更には、製品カタログ、設備保全マニュアルなど供給者による作成文書が該当する(137)
 
⑧ 記録
  08年版では改定管理の有無など文書の管理方法の観点から「文書」を2種類に分類しており、「記録」ではない文書(狭義の文章)には総称をつけず、定義もせずに単に「文書」と呼んでいる(4.2.4)。そのことから、業務実行の手順や狙いの結果を表す文書が文書(狭義)で、その結果を表す文書が記録であると受けとめられてきた。ただし、『記録』は「達成した結果を記述した、又は、実施した活動の証拠を提供する文書」と定義#8pでされているが、狭義の『文書』には定義がない。
 
  15年版では、『文書化した情報』の定義の注記#6-2によると、記録は「達成された結果の証拠を表す文書」であり。狭義の文書は「組織の業務実行のために作成された情報を表す文書」と表現される。
 
 
§7.5  品質マニュアル
(1) 品質経営業務要覧
  08年版では『品質マニュアル』は「組織の品質経営体制を規定する文書」と定義される#14p-1。「規定する」の原文“specify”は「(とりわけ、正確に)何かについて述べる」であり(101)、必ずしも規則や法令を定めるというような意味ではない。実際、94年版#14p-2では「~を記述する文書」である。すなわち、品質経営体制がどのようなものかを書き表した文書という意味である。『品質マニュアル』は、品質経営をどのように行うのか、その枠組みである品質経営の業務体系はどのようなものであるかを表した文書のことである。この場合の「マニュアル」の英文“manual”は、何かをどう操作するか、実行するかを示す製品取扱い説明書や業務手引き書のような文書を指す$34。品質マニュアルの場合の“manual”は、物事の大要をまとめて見やすくした文書という意味であり、日本語では「要覧」である。『品質マニュアル』は品質経営 業務要覧、又は、品質経営 要覧である。
 
  規格の初版(87年版)には品質マニュアル作成の必要は規定されておらず、4.2 (品質システム)の備考に品質計画書と共に規定されていただけであり、同じ初版のISO9004(5.3.2)で品質マニュアルを「品質システムを書き表し、その業務を実行するのに用いる主要な文書の典型的な形式」と説明していた。94年版で初めて「手順を含めるか、引き合いに出し、かつ、文書体系を概括する」という品質マニュアルの作成が必要条件となった。そして、94年版では品質マニュアルが「この国際規格の要求事項を取り扱う」ものとされ、00年版では「品質マネジメントシステムの適用範囲」と規格の規定の適用除外についての記述が必要となった。このことから、組織の品質保証業務の重要な部分を明確にするため、そしてそれを顧客に説明するためのISO9001制定以前からの慣習的な文書が規格に採り入れられ、規格が第三者認証制度の基準としての性格を強めるにつれて、規格要求事項への適合性を明らかにするための文書へと変化してきたものと想像できる。
 
  15年版では、品質マニュアルという用語も使われておらず、その作成を必要とする規定もない。しかし、「文書化した情報」の定義の注記#6-2は、文書化した情報のひとつとして「関連する業務を含む経営管理体制を表すもの」があり得ると説明しているから、品質マニュアルという概念、役割の文書の存在を認めている。15年版では品質マニュアルの必要性は、08年版のように効果的な品質経営のために作成が必要という直接表現(4.2.1 b))ではなく、効果的な品質経営のためには多くの組織が必要となるとの見地から「組織が必要と決定した文書は作成しなければならない」という間接的表現(7.5.1 b))で規定されていると考えてよい。
 
(2) 品質マニュアルの意義
  組織の経営管理 活動は、事業の目指す維持発展のために組織内の業務実行を、品質、コスト、収益、能率、労働安全、防災、環境、リスク回避等々の必要な様々な観点から管理する。個々の業務は一般に、関係する複数の経営管理の観点に関係しており、従って、そのそれぞれの観点からの必要を満たすように手順が定められ、実行されている。組織では、それぞれの経営管理の必要を満たすための部門横断的業務が、関係する個別業務を繋いで実行され、管理されている。規格は、この部門横断業務のために個別業務が他の個別業務と複雑に関係している様子を、多数の個別業務の網目構造に準えている。この考えに則るなら、組織の経営管理の業務体系、つまり、規格の経営管理体制とは、種々の観点の経営管理のための網目構造が何重にも絡み合っている状態にあると表現される。
 
  品質マニュアルの作成は、このように輻輳した組織の数々の業務体系の中から、顧客満足追求に係わる経営管理の側面である品質経営の業務の体系たる品質経営体制を表す網目構造だけを浮き上がらせることが目的である。顧客満足追求に関係する業務だけを抜き出して、各業務がどのように行なわれているかを品質マニュアルという文書に表すことによって、その品質経営体制が必要な顧客満足の実現のために適切であるかどうかを評価することができる。とりわけ、ISO9001への適合の認証を受けようとする組織は、組織の多くの業務の中から規格が必要とする業務だけを抜き出して、それぞれをどのように行って顧客満足を追求することになっているのかを文書に表すことにより、規格の各要件が満たされているかどうかを評価することが容易になる。認証審査では審査員は品質マニュアルを読んで、組織の品質経営体制を理解し、適合性審査の重点を決める。取引関係では顧客は組織の品質マニュアルを見て、組織の品質保証体制に信頼感を抱く。品質マニュアルは、新任の経営者や管理者にとっては組織の顧客満足を追求する経営管理について考え方や基本を学ぶための教科書である。
 
  文書に関する指針規格(137)に示される文書体系では、品質マニュアルを頂点に置き、文書化された手順と作業手順書をその下位文書として位置づけている。この指針規格が品質マニュアルを文書体系の頂点に置くのは、品質マニュアルに最も基本的な規範が規定されており、これに基づいて下位文書が作成されるということを意図したものではない。品質マニュアルには品質経営で用いられる文書を引用する形で品質経営に関係する業務(4.4 a))と業務 間の繋がり(同4.4 b))も記述されており、組織の品質経営がどのように行われているか、或いは、組織の品質経営体制がどのようなものであるかを表す要覧文書であるからである。
すなわち、各文書は一般に品質経営 以外の経営管理の目的にも使用されているから、これらの集まりは組織の全体的経営管理体制を表すとしても、品質経営体制がどのようなものかを表してはいない。品質経営に用いる文書とその使用を統合して表したものが品質マニュアルであり、その観点から文書体系の最上位の文書として位置づけられている。
 
  先の指針規格(137)は、文書化された手順(4.2.1 c))を品質マニュアルに文書化することでもよく、文書化が必要な手順のすべてを品質マニュアルに記述して、品質マニュアルを品質経営体制の唯一の文書とすることもあってよいとも説明している(137)。この説明は、品質マニュアルの性格を広く捉えて、品質経営の業務体系を記述する業務要覧であることを基本にしつつも、使用の目的によって様々な性格の品質マニュアルがあり得るというのが趣旨であろう。規格の意図の品質マニュアルが本質的に手順書#9の一種ではなく、基本的には日常の業務実行の場で用いられ、或いは、業務実行の用に供される文書ではない。品質経営の業務の体系の大要をまとめてわかりやすくした文書である。
 
(3) 品質マニュアルの様式
  品質マニュアルの様式も使用目的に合ったものであることが大切であり、指針規格(137)は、「その章立て、あるいは、記述の順番は、品質マネジメントのプロセスの流れに沿って、又は、規格の章立てに従って、若しくは、その他その組織に相応しい順番」のいずれでもよいと説明している。同時に、規格の章立てと異なる品質マニュアルでは、規格条項と品質マニュアル条項との対照表を作成することが推奨されている。
 
  これは、規格の意図の品質マニュアルが規格適合性を明確にすることを主要目的としていることの左証である。規格の各条項は品質経営体制の業務に対応するから、このような品質マニュアルの規格条項別記述は、組織の品質経営体制が規格に沿ったものであることを一目瞭然とし、規格が規定する要件を満たしていることが容易に理解できる。
 
 
§7.6  文書化の範囲に関する規格規定の変遷
  何を文書化しなければならないかに関する規格の規定は改定毎に大きく変わっている。決められ通りに業務が実行され決められた結果が出たことの証拠としての記録についても、規格が必要と規定する記録の内容が改定版ごとに変わっている。しかし、これら一連の文書化に係わる規定の変化について、文書化の必要性、重要性に関して、また、規格の文書化規定の意図に関して変更があったという説明はなかったし、それをうかがわせる規定表現の変更も見当たらない。共通テキストでも15年版のTC176説明にも規格における文書化の意義や規格の意図の必要な文書化の範囲の変更を意味するものとする説明はない。
 
  文書化の意義に照らすと、効果的な品質経営のために組織が必要と考える情報を文書に表わさなければならないということである。 08年版では4.1 d)項、15年版では7.5.1 b)項が、規格の文書化規定の意図するところである。どのような表現であれ規格が必要と規定する文書や記録は、この規定を越えるものではなく、この規定の範疇の文書の中の特定の文書や記録がより具体的に取り上げられ表されたものである。すなわち、実務の経営管理活動の指針たる規格として、規格使用者が理解できるように原理的な表現の規定をどの程度にどのように具体的な規定にするかが、規格執筆者間の議論であったはずであり、組織の規模や活動の種類或いは業務の複雑さの如何によらず効果的な業務実行には絶対に必要な文書、記録という意味で決められたのが各版で規定される文書、記録である。このことは規格執筆者が改定の狙いや改定時の規格利用の状況、他の規定との関係などに鑑みて判断するのであるから、必要と規定される文書や記録が初版から改定の度に異なるものとなっていくのはある意味ではやむを得ないことである。
 
  従って、各版のどの情報の文書化が必要かに関する規定の違いは、規定表現の違いに過ぎない。94年版のすべての業務に手順書が必要という表現と、文書化の必要な程度は組織の規模や種類、業務と業務間のやりとりの複雑さ、要員の能力水準によって変わるとの注釈付きの、業務の効果的な実行のために規格が必要と考え、組織が必要と判断する場合は文書化しなければならないとする15年版の規定が、組織に異なる文書化の実態をもたらすことが意図されたものではないと受けとめてよい。
 
① 94年版
  ほとんどすべての条項で「~の手順を文書に定め、維持すること」と規定されていた。これは、不良品を出さない品質優良組織になるためには、規格が各条項で定める国際標準の最善手法の導入とそれらに則る体系的で組織的な業務実行が必要であるという規格執筆者の考え方を反映したものであり、規格執筆者が参照にした世界の実績のある品質優良組織の体系的で組織的な業務実行を支える文書化の実態を表したものである。
 
  なお、94年版の「~の手順を文書に定めなければならない」は、英文では“The supplier shall establish documented procedure to~”であり、00年版の「文書化された手順を確立しなければならない」は“A documented procedure shall be established to~”である。JIS和訳では両版で表現が異なるが、英文ではどちらも「文書化された手順を確立する」であり、実体は日本語では「文書」であり、両版の文書の概念に違いはない。
 
  94年版では、このような手順書の他に、品質方針と責任権限の文書化、品質マニュアル、品質計画書、購買文書のような文書の作成の規定がある。さらに、決められたことへの適合性及び効果的な業務実行を表すために維持すべき文書という意味で17項目の「品質記録」の作成、維持を、当該条文の文末に4.16参照と書いて規定している。
 
② 00年版
  00年版では、文書化に関する条項(4.2.1)が設けられ、文書化の範囲が品質方針及び品質目標の表明書(同a))、品質マニュアル(同b))、規格が必要と規定する6種類の手順書(同c))に限定された。手順書の作成が6種類だけでよいことなったことについてTC176指針は、00年版では組織に必要な文書化の範囲に柔軟性を認めることになり、組織は「業務の効果的な計画と実行と管理及びその品質経営体制履行と継続的改善のために必要な最低量」の文書をもつことが可能となったと説明している(8)。また、規格執筆者のひとりは(21)、過大な数の手順書の作成が規定されているとの規格使用者の批判があったことを理由に挙げ、規格取組みの重点を文書化から業務の実行へ変えた結果だと説明している。
 
  この他にも様々な説明があるが、要するに、94年版で認証制度が世界的に確立し、欧米の組織の規格導入が事実上認証取得を目的とするものとなった状況下で、規格導入が文書作成を意味するかの取り組みが拡がった結果の組織の文書管理負荷への不満に規格執筆者が対応した規定記述の変更である。なお、プロセスアプローチが00年版で強調されるようになったのも、このような規格導入の誤った状態への対応として文書化より業務実行が大切ということを訴えることにあった。
 
  しかし、体系的で組織的な業務実行のための核としての文書化の重要性と必要性が00年版でも変わっていないことは、00年版が必要とする手順書の数を制限する一方で、文書化要件として、品質経営の業務の効果的実行のために組織が必要と判断したものは文書化しなければならないとの規定(4.2.1d))を設けたことに現れている。さらに、文書化の必要な程度は組織の規模や種類、業務と業務間のやりとりの複雑さ、要員の能力水準によって変わるとの注釈を付記(注記2)し、上記規定c)の6種類の手順書がどのような組織にも必須という意味であることを示唆している。
 
  この規定を根拠にしてTC176指針(8)は「ある組織、特に、より大きな組織、又は、より複雑な業務構造の組織は、効果的な品質経営の実行のためにはこの他の手順書も必要になるだろう」と説明し、規格執筆者も規定d)に触れて「品質経営体制を完全に記述するためには通常、規定される6つの手順書以外の手順書も必要である」と述べ (21)、業務の効果的実行に影響しない事項は文書化する必要がないということである(23)と、00年版の文書化規定の意図を説明している。
 
  なお、これら一連の文書の必要の他に、決められことへの適合性及び業務の効果的実行の証拠を示す「記録」を作成し管理する必要を、条文文末に4.2.4参照として規定している。これらは実質18項目であり、94年版の「品質記録」のそれとほとんど同じであるが、完全には一致しない。この差異についてのTC176、規格執筆者の説明は見当たらない。また、94年版の「購買文書」は「購買情報」となり、品質計画書の作成が必要という規定が無くなった。
 
③ 08年版
  00年版(4.2.1)で別々に扱われていたが08年版では「文書化された手順及び記録」という一括表現となったが、本質的な変化ではない。4.2.4参照と規定される項目が1項目増えたが、改定の目的であった規格の要点の明確化に沿ったものなのだろう。
 
④ 15年版
  共通テキストの採用により、08年版の「文書」「記録」はどちらも「文書化した情報」と表されることになった。 これは、近年はデータや文書と記録が電子媒体に保持されていることが多いので共通テキスト執筆者が「文書化した情報」を造語した説明されている (18)
 
  すなわち、文書化に関する条項(7.5.1)は共通テキストをそのまま適用したものであるため(12)、08年版(4.2.1)のa)、b)の特定の文書の作成の必要性の規定が無くなり、c)、d)の規格により必要とされる手順書と記録、及び、組織が必要と判断した文書と記録がすべて「文書化した情報」との表現に置き換えられている。
 
  「文書化された手順」という表現が無くなっている。7.5.1項に文書化された手順の作成の規定がないだけでなく、08年版の6種類の手順書に対応する15年版条項には文書化した情報を必要とするという規定も無くなっている。これは手順書という機能の文書が不要ということではなく、「手順(procedure)」という用語を用いないという共通テキストの執筆方針(18)に従った結果である。要するに、規定表現上の問題に過ぎない。
 
  共通テキスト(4.4項)では、組織の維持発展に必要な顧客満足の状態の確実な実現を図る効果的な品質経営であるための基本要件である「組織はこの規格の要件に従って品質経営体制を確立し、文書化し、履行し、維持し、継続的に改善しなければならない」という08年版(4.1)の規定から「文書化」が削除されている。15年版ISO9001も4.4項(品質マネジメントシステム及びそのプロセス)でこの共通テキスの規定をそのまま用いているが、代わりに同項末尾(4.4.2項)に「業務実行を支えるための文書化した情報の維持」と「業務が決められた通り実行されていると判断するための文書化した情報の保持」という表現で「必要な程度に」文書と記録を作成、保持する必要性を規定している。
 
  上記08年版(4.1)の規定の「文書化」の必要の規定は、世界の品質優良組織における体系的で組織的な業務実行とそれを支える文書化という経営管理手法の重要性を初版ISO9001執筆者が洞察した結果の初版以来の規定の表現を変えて継承した規定である。「文書化」を効果的な品質経営であるための基本要件に含めずに、「必要な程度に文書化しなければならない」という規定を付加するような規定表現から、伝統的な文書化の意義と重要性を伺うことが困難である。共通テキスト執筆者には先人の洞察が十分に理解されていないようだ。
 
 
注釈
§1 など:  論理及び用語                   こちら<sub33b>
*Q1など:  改定版解釈に関する引用資料  こちら <sub02>
$1など:  英文解釈                          こちら <sub03>
#1など:   用語の定義                       こちら <sub04>
(1) など:  引用文献                         こちら <sub05>

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