ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
§14
トップマネジメント ISO9001:2015
 論理と用語   
33b-02-14
§0 概要   こちら
 
 *実務の視点和訳⇔JIS和訳の対応:

    品質経営
⇔品質マネジメント
$19-0;    品質経営体制 ⇔品質マネジメントシステム$19-1-1;
 
 
 
§14.1 トップマネジメント
  「トップマネジメント」は、日本では経営者、経営トップと呼ばれ、経営用語では株式会社における最高経営層のことであり、代表取締役、取締役会のメンバーの取締役から構成される(54)。 規格では「最高位で組織を指揮し、管理する個人又はグループ」と定義される#53から、経営層の一員である品質経営の最高責任者のことを指す。一般には社長を指すが、役付取締役がこの任にあたることもある。また、事業所が独自の品質経営体制の下に運営されている場合は、通常は事業所長、時に、品質問題を主管する副所長がトップマネジメントと見做される。
 
  事業組織は一般に、生産、購買、販売、財務など事業遂行を直接に担う作業活動と、作業活動を組織の必要に向けて統制し管理する管理活動が存在する。この管理活動は、日本では経営又は経営管理活動と呼ばれる。規格では「組織を方向づけ制御する統制された活動」と定義されるJIS和訳「マネジメント」である
#19
 
  この経営管理活動は、経営方針、目標の達成のために作業活動が効果的、効率的に遂行されるよう組織全体を管理する全般管理活動と、部門内の業務を管理する部門管理活動とに分けられる。日本では前者の活動を経営、後者の活動を管理と分けて呼ぶことが多い。また、後者は、部や課などの部門内を管理する中間管理と作業活動を直接指揮、監督する現場管理にさらに階層分化される
(51)
 
  全般管理を担う層が“top management”であり、部門管理の内の中間管理を担う層は英語では“middle management”であり、日本では一般に部長、課長等の役職者である。現場管理は英語では“lower managementであり、一般に係長、主任、作業長等の役職を持つ。規格の条文には部門管理層を指す用語は登場しない。
 
 
 
§14.2 リーダーシップ
  「リーダーシップ」は“leadership”の和訳であり、リーダーたる状態、リーダーとしての立場、或いは、特定組織の指導層という意味の他、リーダーとしての能力、良いリーダーとして持つべき本質的なものという意味がある(101)。経営用語としては、組織の個々の人々に働きかけて組織目標の達成に貢献するように統率していく組織的力量、指導力、資質のことを指す
(54)。規格の文脈では統率力、主導性という日本語をあてるのが適当である。
 
  リーダーシップは経営論では経営管理機能を構成する重要な要素である。すなわち、研究者により様々な表現があるが、例えば経営管理活動を計画‐リード‐統合という3つの機能から成るとする考えでは、「計画する」は戦略の策定と目標、方針、計画としての明確化、「リードする」は人々をその方向に動機付け、導くこと、「統合する」は戦略遂行つまり計画の達成に向けて組織の能力を調整、制御することにそれぞれ関係する
(45)
 
  多数の人々が協働する組織では、人々の組織への想いに違いがあり、組織と又は人々相互間の利害関係が一致せず、組織の目的や目標の理解も一様でなく、勤労意欲、能力も様々である。このような組織に内在する本質的困難を克服して、組織の永続的な存続発展に向けて人々を動機づけ、導くために必要な経営機能が「リードする」であり、トップマネジメント以下の管理者が、それぞれの下位の管理者と作業活動を行う人々を「リードする」能力が、リーダーシップである。
 
  トップマネジメントや管理者が組織又はその一部を統率し、主導性を発揮するには、他人の思考や行動に影響を与え或いは統制する能力が必要である。これには組織から与えられる職務権限だけではなく、個人の資質や努力によるいわゆる管理能力とがあるとされ、リーダーシップには技術的リーダーシップと道徳的リーダーシップがあるとする考え(98.2)もある。いずれの考えの場合も、また、実務のリーダーシップ論でも、トップマネジメントや管理者の個人の人間感や倫理感を基礎とする道徳的側面に人々が気付く時に権限に基づく統率力を真に効果的に発揮できると考えられている。
 
   
   
§14.3 コミットメント
  JIS和訳「コミットメント」の英文は“commitment”であり、94年版(4.1.1)では「責務」と和訳されていたが、00年版から「コミットメント」になった。英語の“commitment”は、日本語ではぴったり対応する言葉はなく、一般に何かを行なうことの約束、誓約であり、この他に義務、責務、責任、確約、公約、言質など様々な言葉が当てられることがある$29。同じく「約束」と和訳される“promise”との違いについて、“commitment”の「約束」は“promise”の普通の意味の「約束」を越えて、本人の心にとって絶対に破ってはいけないという想いの「約束」であるとの説明がある(40)。TC176は、何か特定の行為に自分自身を縛りつける約束や契約という意味であるとしている
#16
 
  このように「コミットメント」は、絶対に成し遂げなければならないという信念に基づく決意を以て、何かに取り組む状況をことを意味する。規格の「コミットメント」は、トップマネジメントが組織の維持発展のために品質経営の実行に職を賭す覚悟で取組むという自らへの誓約であり、そのことに関する組織内外への経営公約である。トップマネジメントが、品質経営に関するトップマネジメントとしての職責を担うということは、必要な顧客満足の状態の実現に職を賭して取組むことを自他に誓うことでなければならない。コミットメントしているトップマネジメントなら業績不振の場合は自ら辞職の道を選ぶことになる。
   
   
   
§14.4 説明責任(accountability)
  用語“accountability”は、15年版で初めて登場した。改訂のDIS版から5.1.1項に登場し、FDISで「説明責任(accountability)」とのJIS和訳が確定した。訳語と共に括弧付きで原文が用いられるのは異例であり、翻訳時に何か特別な理由があったのであろう。
 
@ 英語の“accountability”
  英語の“accountability”は「決定や行動に責任を持ち、聞かれた場合にはそれらを説明することが期待される誰かの状態」や「責任を引き受けるという義務又は積極的な意志」という意味である。相当する日本語は「責任のあること、責任、責務」である
$71
 
  しかし、最近の英和辞書では「説明責任、成績責任、軍事報告義務」などという和訳もあり、報道や書籍では、ぴったりした日本語がないとして「アカウンタビリティ」がよく用いられる。これは、「責任」と和訳すると、通常の“responsibility”の「責任」との違いがわからなくなるためであり、また、下記Cのような“accountability”の特殊な用法としての「説明責任」という日本語が存在するために、これと誤って和訳されているからである。
 
  “accountability”を「責任」とした場合に、5.3項(責任及び権限)で用いられている“responsibility”の「責任」との違いを明確にする必要があるが、これについては、“responsibility”が何かをする責任であるのに対して、“accountability”はその結果に対する責任であると理解することが普通である
(123)。このような違いはまた、“responsibility”は責任を授けられる、責任を引き受けるという意味の「責任」であるが、“accountability”は責任を取る、責任を果すという意味の「責任」であるとも説明される(124)
 
  すなわち、“responsibility”は「責任を担う」ことであり、“accountability”は「責任を全うする」ことである。論理的には「責任を担う」ということは、その「責任を全うする」という責任を担うことでもあるから、両用語の使い分けは、責任を持つということに関してどちらに重点をおいて表すかの違いである。“accountability”はすなわち「説明責任」であるというような英語解釈は正しくない。
 
A 経営用語としての“accountability”
  近年報道で「説明責任」という言葉がしばしば用いられるが、その中身を吟味すると、不祥事発生に際して実態を明らかにすることを求めるという意味の「説明する責任」である場合と、下記Cの特殊な用語としての「説明責任」である場合がある。しかし、経営管理に関して“accountability”を「説明責任」と和訳し、そのように解釈することは上記のどちらの「説明責任」であっても間違いである。
 
  例えば、田中求之氏は経営組織論の講義ノート
(99.3)で、“accountability”は引き受けたことをきちんとやり遂げるという責任のことであるのに、報道で不祥事組織に問われる「説明責任」が大抵は情報開示、透明性、釈明の必要を意味していると、用法の誤りを指摘している。なぜ不祥事が起きたのか、引き受けたことをきちんとやったのかの説明が求められているのであり、「説明責任」という和訳語では説明すればよいとの誤解が生まれる。
 
  今井英二氏はブログMaveric考
(99.4)において、responsibilityとaccountabilityの違いの米英人との議論等を通じた判断として、経営用語の“accountability”は「結果責任」を意味すると断言している。同ブログでは、日本のビジネスマンが“accountability”を「説明責任」と捉えて英語で外国人と議論するのは恥ずかしいことであるとも指摘されている。
 
  さらに、2015.11.6付けWikipedia「説明責任」では、企業経営者の リーダーシップにおける“accountability”は、その記事の主題の「説明責任」ではなく、「行動、製品、意思決定、政策に対する責任を理解し、それを引き受けることである。自分が問題の当事者であるという意識を持ち、求める成果を達成するために、主体的に責任を持って行動することを指す」と説明されている。
 
  経営管理上で“accountability”が用いられるのは、“responsibility”の「責任」では真意が伝わらない場合の「責任」について述べる場合であり、責任を全うするという意味である。
 
B 規格の“accountability”
  規格では「説明責任」と和訳されているが、顧客満足追求の品質経営においては、下記Cのような本来の意味の「説明責任」は適用される場はないし、不祥事発生なり認証審査なりどのような場面でもトップマネジメントが社会や関係者に情報開示、透明化、釈明することが組織の狙いの顧客満足の状態の実現に資することにはならない。顧客への説明は「顧客とのコミュニケーション」としての日常業務である(8.2.1項)。顧客満足追求のための品質経営の最高責任者がその職責を全うすることこそが、顧客満足の追求による組織の健全な存続発展を可能にするのである。規格の“accountability”は「責任を全うする」という意味である。
 
  組織内で、誰にせよ、どのような役割にせよ、責任を委ねられ或いは引き受けるということは、その責任がどのようなことかを認識し、その責任を果すように業務を行い、責任を全うすることでなければ、責任を委ねられ或いは引き受けることの意味がない。要員が委ねられ或いは引き受けた責任を全うするということは、それぞれの業務を決められた通りに実行し、決められた狙いの確実に出すということであり、それらの総合結果で狙いの顧客満足の状態が実現する。要員がその職責を全うするために全力を尽くす状況は、規格では要員が職責を認識していると表現される(7.3項)。
 
  その責任が組織の維持発展に必要な顧客満足の状態を決め、組織の業務を統率して、その確実な実現を図ることであることを認識した上で、品質経営の最高責任者としての責任を引き受けたトップマネジメントは、その責任を全うしなければならない。全うできなかった結果は、顧客の組織と製品サービスへの評価の低下であり、取引量或いは売上高の減少につながる。
 
  15年版5.1.1 a)項の「品質経営体制の有効性に関する責任を全うする」の趣旨は、08年版(5.1)の「品質経営体制の有効性の継続的改善にコミットメントする」と同じことであり、規定条文の用語を変えた書き直しである。
 
C 説明責任
  2015.11.6付けWikipedia「説明責任」によると、英語で“accountability”と呼ばれる「説明責任」とは、政府や公共機関の納税者たる国民に対する責任として1960年代の米国で生まれた概念であるが、次第に拡大して今日では、次のように定義される。
 
  すなわち、政府、企業、団体、政治家、官僚など社会に影響力を及ぼす組織で、権限を行使する者が、株主、従業員、国民など直接の関係者だけでなく、消費者、取引業者、銀行、地域住民など間接的に関わり持つ人々をも含む、すべての利害関係者に、その活動や権限行使の予定、内容、結果等について報告する必要があるとする考えをいう。
 
  また、同記事では、この説明責任は、パブリックリレーションの一要件であること、この概念の日本での普及が1980年代末〜1990年の日本の「タブーを量産し談合におもねる社会体質」を批判するカレル・ヴァン・ウォルフレン氏の著作「日本 権力構造の謎」がきっかけとなったことを述べて、この説明責任の性格を説明している。

 
 
注釈
§1 など:  論理及び用語                   こちら<sub33b>
*Q1など:  改定版解釈に関する引用資料  こちら <sub02>
$1など:  英文解釈                          こちら <sub03>
#1など:   用語の定義                       こちら <sub04>
(1) など:  引用文献                         こちら <sub05>

H27.11.15 
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