ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
§15 職務能力  < JIS和訳: 力量>
ISO 9001
ISO9001/14001
規格の論理と用語  <15>
33b-02-15
ISO 14001
§15.1  職務能力<力量>
(1) 用語の意味
@ 英語解釈から
  JIS和訳『力量』『力量がある』は原文では“competence”“be competent” であり、それぞれ「何かを満足に、又は必要な程度に行う能力」「何かを満足に、又は必要な程度に行う専門性又は知識をもっている」を意味する$67。この英語は一般には「何かをする資格、能力」又は「何かをする資格、能力がある」と和訳される(110)。規格の品質マネジメントではこの「何か」は業務のことであるから、『力量』とは業務能力のことである。実際、“competence”は一般事業用語では「ある仕事を満足に行う能力」のこと(118)である。
 
  この業務能力は、各要員にとっては業務を所定の通りに行うことのできる能力を意味するから「業務遂行力」のことである。一方、各要員に業務を与え又は委ねることはその責任及び権限 (5.3項)を委ねることであり、要員が業務を行うことはその職務を果たすことであるから、この能力という意味では「職務能力」と表現される。『力量』とは、要員が与えられた又は委ねられた業務を所定の通りに行い、所定の結果を確実に出すことができる、或いは、職務を遂行することができる能力ということである。規格の文脈ではほとんどの場合は「職務能力」が適当であり、業務遂行力、或いは、業務能力という表現の方がどちらかというと適当であることもある。『力量がある』とは、要員にそのような職務能力、業務遂行力、或いは、業務能力があるということを指す。
 
  日本語の「力量」は「人の能力の大きさの度合い」又は「人の能力の大きいこと」を意味(113)し、「力量がある」は優秀であることを意味する。「力量」と言われると、業務を効率的に行い又は出来ばえの良い結果を出すことかとも受けとめられ勝ちである。しかし規格の『力量がある(competent)』は「ある事が出来る」の意味であり、ある業務を所定の通りに実行し所定の結果を出す能力があるということである。規格では『力量』は有るか無いかだけであり、優秀であることを意味するものでもなく(23)、『力量が高い、低い』というような概念も表現もない。同じ業務に対する『力量』の有無は要員の優劣の指標とはなるが、『力量がある』要員は優秀な要員を意味するものではない。『力量』とは誤訳に近い、誤解を招き易い不適切な和訳日本語である。
 
A 定義から
  規格の定義は改訂版では「知識と専門性を活用して所定の結果を出す能力」となり#3、ISO9001の08年版の能力証明に重きを置いた定義#3‐2の「証拠で明瞭にされた知識及び専門性を発揮する能力」より、職務の力量ではなく職務を果たし得る能力であることが明瞭になった。なお、いずれの定義でも『知識と技能』と和訳されているが、『技能』の英文“skill”は、匠の技というような技能に限らず広く職業上の専門性或いは専門能力のことである$38。すなわち、“skill”は、技能や技芸というような専門能力だけではなく、専門的な思考力や判断力、情報収集能力、統率力、意思疎通能力などの専門能力の両方を含むから、『技能』ではなく『専門性』が適切である。
 
(2) 職務能力<力量>の概念
@ 評価判断基準
  15年版(7.2項)では、委ねようとする業務を要員が完遂できるかどうか、つまり、当該職務に要員が職務能力<力量>があるかどうかは、『適切な教育、訓練又は経験』に基づいて評価、判断することが規定されている(7.2項)。 ISO14001の04年版もこれと同じ表現である。ISO9001では、08年版では評価判断基準は『関連する教育、訓練、技能及び経験』であり、94年版では『力量』いう用語は用いられていないが、同様の概念の職務能力に関する評価判断基準については「教育、訓練及び/又は経験」とし(4.18項)、また、指針規格(138d)では「教育、訓練及び経験」としていた。
 
  要員に特定の業務を委ねるのに必要な知識と専門性を持ち、それらを活用して決められた通りに業務を行い、決められた結果を確実に出すことのできる職務能力<力量>を持っているかどうかは、当該職務に関連する履修した学校教育と職業訓練、又は、組織内外での業務経験の如何によって評価し、判断される。必要な職務能力が不足していると判断される場合には、これを補うために当該要員に対して、組織内の教育訓練、組織外の研修、講習、留学、又は、指導者を付けての業務経験の蓄積が行われる。
 
  このような規格の意図の職務能力<力量>の評価判断の概念は、要員を単なる労働提供者や員数とみなさない多くの組織で行われている要員の能力と配置の管理の実態をそのまま反映したものである。
 
A 出来ばえ
  職務能力<力量>があるとは、実行の手際よさや結果の出来ばえは問わない。これは、例えば規格の品質経営<品質マネジメント>が狙いの結果を確実に出すことを図る体系的で組織的な活動であり、規格の規定は『顧客要求事項を満たすに当たっての品質マネジメント システムの有効性に焦点を合わせている』(08年版 0.3項)からである。規格の規定では、要員には与えられ又は委ねられた業務に所定の結果を確実に出すことが求められ、能率や決められた結果の水準を上回る出来ばえの良否のような効率性の要件は含まれていない。しかし、規格が効率性を無視しているわけではなく、職務能力<力量>が有るか無いかの判断基準は一定の効率性を前提としたものであるとして書かれていると考えるのがよい。
 
B 水準と種類
  業務には、やさしい業務、難しい業務があるが、これは規格では業務に必要な知識と専門性の高さを意味する。すなわち、職務能力<力量>には高度な或いは普通のというような高度さの水準がある。また、例えば部長職とその下の受付嬢の職務のように必要な知識と専門性の種類の違いによる異なる種類の職務能力<力量>に分けて考えることができる。
 
  例えば、受付業務が必要とする知識や専門性より、部長職の部門統括業務が必要とする知識や専門性の方が一般には高度ではあろうが、案内カウンターに立って訪問者に好印象を抱かせる応対は出来ないだろうから部長には受付業務には職務能力<力量>がないということである。つまり、両者の職務能力<力量>は種類が異なる。部長に受付業務を兼務させるには、自然に醸し出す雰囲気を含めた接遇に関する専門能力の教育訓練が必要になる。る。
 
(3) 職務能力<力量>の意義
  狙いの顧客満足/環境保全の状態を確実に実現する効果的な品質/環境経営<品質/環境マネジメント>では、各業務は定められた手順に則り、用意された資源を使用して行われる。人的資源たる要員は員数を揃える(7.1.2項)のでは十分ではなく、必要な所定の業務結果を確実に出すことができる業務実行能力、つまり、職務能力<力量>を有する要員を揃え、各業務に割り当てることが必要である。職務能力<力量>のない要員に業務を命じても、所定の手順に則って効果的に業務を行うことが出来ず、定められた所定の結果を確実に出すことは期待できない。すなわち、職務能力<力量>があることは、要員に対する必要条件であり、認識(7.3項)と共に、トップマネジメントが投入すべき人的資源の指標である。
 
  品質/環境経営<品質/環境マネジメント>の効果的実行により事業の維持発展に必要な顧客満足/環境保全の状態を追求するためには、必要な業務を特定し、その実行の手順を定め、使用する資源を用意しなければならない(6.1項)。この資源には、設備などの資源を使用し、手順の通りに業務を行うことのできる要員の職務能力<力量>という資源が含まれていなければならない。これは実際には、それぞれの業務に必要な職務能力<力量>を見極め、それぞれの職務能力<力量> を持った要員に業務を割り当て、或いは、そのような要員を配置することである。
 
  品質/環境<品質/環境マネジメント>のすべての業務が所定の通りに行われ、所定の結果が出た総合的結果として、狙いの顧客満足/環境保全の状態が実現する。影響の大きさは同じでないにしろ、どのひとつの業務も所定の結果を出さなければ、結果的に組織の狙いの顧客満足/環境保全の状態の実現に支障を来すことになる。従って、どの業務にもそれぞれの職務能力<力量>がある要員を充てることが必要である。品質/環境<品質/環境マネジメント>に関係する業務を行う要員は、事業活動に直接携わる作業者も管理業務の要員も、管理者もすべて、それぞれの業務を効果的に実行できる職務能力<力量>を持っていなければならない。 ISO9001の94年版では職務能力は教育訓練の必要性という概念で捉えられていたが、これに関して指針規格(138b)では「すべての階層の要員」に教育訓練を行わなければならないとし、者と管理者、管理業務の要員、第一線の管理者と作業者に分けて実施すべき教育訓練につて説明していた。
 
  また、規格の職務能力<力量> は、品質マネジメントの観点で必要な所定の業務結果を出すことのできる能力を指す。しかし実務的には、ある要員に品質経営<品質マネジメント>に関連する業務を委ねる場合は、その業務の実行による労働安全、環境、コストなど他の経営管理<マネジメント>の観点の所定の結果を出すことを期待している。実務的には、要員の職務能力<力量>は当該業務のすべての観点の狙いの結果を出す能力として管理しなければならない。
 
 
§15.2 職務能力<力量>に関するISO900規格の規定の変化
  供給者が不良品を出荷しないようにするための業務実行の要件を定めたいわゆる品質保証規格は、1959年制定の米国軍需品の品質保証規格MIL-Q9858Aに始まるとされているが、ここには人的資源に関する要件は規定されていない。その後の欧州各国で拡がった品質保証規格も同じ考え方であり、人的資源への言及はなかったと言われる。元来欧米の大量生産は工程を単純な作業の多段階に細分し、作業者の技量を不要にすることに重点が置かれてきた(31)と言われる。日本では大企業を中心に社内教習所の設置、高卒者の製造やサービス提供の現場への配置、更には、品質サークル活動というように要員の能力を活用する経営が主流であった。
 
  1979年制定の英国の品質保証規格BS5750は日本製品への対抗を意識して作成されたとされるが、ここで初めて教育訓練の要件が織り込まれた(31)。これがISO9001に引き継がれたのであるが、改訂を重ねるにつれてこのような日本製品の優れた背景にある要員の人的資源としての管理の考え方と実態に関する規格執筆者の理解が進歩し、論理が整理され、記述が変化してきた。
 
(1) 職務能力<力量>と教育訓練
  1987年のISO9001初版ではBS5750の教育訓練の概念が引き継がれ、検証活動に限定して資源(JIS和訳では『手段』)の必要と『訓練された人員』の割り当ての必要が規定された(4.1.2.2項)。 同時に『品質に影響する活動に従事するすべての要員の教育・訓練を行う』との規定(4.18項)が設けられた。 このような規定を読む限り、初版では『品質に影響する活動』は『検証活動』のみと見做していたことになる。
 
  94年版になって『訓練された要員』が経営資源のひとつであることが明確にされ、また、資源の必要が品質システムと呼ばれていた品質経営<品質マネジメント>の活動のすべての業務に拡大された(4.1.2.2項)。 この中で教育訓練の必要の規定の文言は両版で同じであり、初版と94年版では人的資源の指標が組織内で教育訓練を履修しているかどうかであった。
 
  しかし、両版における人的資源に関する表現と教育訓練の役割の規定は一定でなく、記述に混乱が見られる。例えば、94年版指針規格(138a)は、必要な経営資源として、設計、製造、試験、検査に係わる設備や装置、制御装置と電算機ソフトと合わせて「人的資源及び特殊な専門能力」を挙げている。そして、これに関連して『要員の能力を確保するために必要な、適性、経験、教育・訓練の水準を定める』ことが必要だと記されていた。この『能力』『適性』の原文はそれぞれ“capability”“competence”であり、前者は文脈からは要員の全体的な業務能力の意味であり、後者は00年版の職務能力<力量>である。つまり、職務能力<力量>が学校教育や職業訓練が要員の全体としての業務能力の水準を評価する指標として同列に扱われている。一方で規格本文(4.18)では両版とも『適切な教育訓練履歴及び/又は経験に基づいて資格認定すること』とある。この『資格認定』は下記Aのように00年版の職務能力<力量>があるという意味であるから、ここでは、職業訓練は職務能力<力量>があるかの評価指標と見做されている。
 
  00年版では体系的で組織的な業務実行の手はずに、手順の確立と資源の用意が含まれなければならないことが明確にされ(4.1 b)〜d)項)、6.2項で人的資源として「職務能力<力量>」という用語が採用され、要員に職務能力<力量>が必要であることが明確にされた。そして、この職務能力<力量>に関して『要員は、適切な教育、訓練、技能及び経験を判断の根拠として力量がなければならない』と規定され(6.1.1項)、次項(6.2.2項)では人的資源の経営管理<マネジメント>の要件として、不足する職務能力<力量>を教育訓練によって充足するということが明確に規定されている。これによって、人的資源の指標が職務能力<力量>であり、学校教育や職業訓練は要員に必要な職務能力<力量>を持たせるための手段、或いは、必要な職務能力<力量>があるかどうかを判断するための指標のひとつであることが明確になった。
 
  これに関連して規格執筆者のひとり(22)は、00年版の用語「人的資源」は資源に関する「新しい要件ではなく、新しい用語である」とし、94年版の教育訓練ニーズの特定を強調する記述が、職務能力<力量>ニーズの特定を強調する記述に変わっただけと説明している。そして「職務能力<力量>ニーズの特定が結果的に教育訓練ニーズに繋がる」との表現で、両者の関係を整理している。
 
  00年版の論理と規定表現が08年版で維持され、更に、今回の改訂版に継承された。しかし、職務能力<力量>の評価判断基準の要素から08年版で規定されていた専門性<技能>が除かれて、論理が整理された。また、不足する職務能力<力量>を補う処置としての職業訓練が08年版の『その他の処置』に吸収されて『必要な職務能力<力量>』として一括され、明示的規定ではなくなった。
 
(2) 職務能力<力量>と資格認定
  資源としての「職務能力<力量>がある要員」に相当するのは94年版では『訓練された要員』であった。しかし、このための教育訓練を規定する条項(4.18)では要員を資格認』する必要の規定があり、これに関連していると思われる『有資格者$41-1』についての規定が、設計及び開発の計画(4.4.2)と工程管理(4.9)の条項にあった。
 
   この『資格認定された』は原文では “qualified”であり、この英語は一般には「〜の資格がある」というように和訳される$41。これは知識や専門性を持ち、能力があるからその何かを行うことができる又は認められているという意味で、その何かを行う資格があるという「資格がある」である。一方「特定の仕事をするのに必要な試験に合格した、教育訓練を終了した、又は、経験がある」という意味もあり$41、こちらは何かを行う「資格がある」ことの証明を意味しており、その証明として資格や免許を与える場合は『資格認定』と和訳することも可能である。JISは規格本文で『資格認定された』、その定義#10-2では『資格がある』と和訳しており、統一がとれていない。
 
  ともあれ英語の“qualified”は、「何かを行う実用的な知識や専門性をもっている」という意味である。定義規格では、要員が特定の業務を行う能力を持っていることが何らかによって認められていること#10-2と定義されていた。従って、原文の意味するところでも定義でも『資格認定された(qualified)』と『力量がある(competent)』とは同じ意味であり、どちらも職務能力があることを意味している。従って94年版の『資格認定された』は規格の意図では、職務能力があるという意味での「資格がある」であったと考えられる。多くの組織で検査員や設計技術者の資格認定を制度化してきたのは、JIS和訳『資格認定』の結果であり、誤解を生んでしまったという意味で適当な和訳ではなかった。
 
  94年版では、すべての業務に『訓練された』要員を当てる必要を規定する一方で、「資格がある」要員を割当てる必要は特定の業務に限定していた。その上で「資格がある」かどうかは『教育・訓練歴及び/又は経験に基づいて』と、00年版の職務能力<力量>があるかどうかと同様の判断基準を規定していた。このことから、94年版では『訓練された』が職務能力を持たすように訓練したという意味であり、「資格がある」は具体的、或いは、文書に明確にされた基準に則って職務能力があると判断されたことを意味し、従って、こちらが00年版の職務能力<力量>があるに対応する概念であったものと想像される。教育訓練しただけで漫然と職務能力があると判断するのではなく、職務能力を持たせるのにどのような教育訓練が必要かを明確にし、それを履修したことで初めて職務能力があると判断するのが、94年版の「資格がある」、00年版の「職務能力<力量>がある」である。
 
  英米の経営における作業者の能力軽視の風土の中で、検査や溶接やめっきなど特殊な作業に従事する要員に一定の能力を期待せざるを得なくなったことに始まる“qualified”の概念を94年版まではなお引きずっていたのが、『訓練された』と「資格がある」の2本立ての規定の背景と考えられる。
 
  一方、“competent”(職務能力<力量>がある)と“qualified”(資格がある)との違いについて英文解説書には、「ある人がその業務を実行するための適切な学問を修め、職業訓練を受け、専門性をもっていれば、「資格がある」と認められ、その人が所定の業務結果を達成する能力のあることを証明すれば職務能力<力量>がある と見做されるとの説明がある(23)。また、両語が同義語であるとした上で「ある人が資格がある としても、必ずしもその業務を実行する職務能力<力量>があるとは限らない」と説明する(27)ものがある。さらに、米国の審査員認証機関RABQSAは00年版に関係して、その認証方式を“qualification”基準から“competency”基準に変更したが、この際には、前者では審査員としての能力を申請者の学歴と専門性や職歴で評価していたのに対して後者では、試験によって申請者の知識、専門性、職務経験、個人的特質を評価すると、両基準の違いを説明している(90)。
 
  上記のいずれの説明も、“qualified”(資格がある)はある時期に能力があったことを意味し、“competent”(職務能力<力量>がある)は現時点で能力があることを意味するという違いである。ある時期に職務能力があったとしても、時間の経過と共に一般に怪しくなるから、現時点で実際に職務能力があるとは限らない。例えば、ある要員が以前に経験があるからといっても、現在その業務を所定の通りの結果を出せるとは限らない。『職務能力<力量>がある』ことを要員の保有する公的資格で判断してもよいが、その資格は定期的に更新されるような制度を伴ったものでなければ、当該資格は『職務能力<力量>がある』ことの証明とはならない。要員は業務を行うその時点で必要な職務能力を実際に持っていなければその業務を効果的に行うことができない。用語が94年版の『資格認定された』から00年版で『職務能力<力量>がある』に変わったことだけを取り上げれば、意味するところが変わったのでなく、職務能力の必要性に照らしての厳密な意味で適当な用語が選択されたということになる。
 
  改訂版では定義#3において職務能力<力量>が、08年版の「何かの客観的な事実で証明された能力#3-2」が単に「能力」になり、代わりに「職務能力<力量>があることが証明された状態はしばしば認定された状態と言われる」との注釈#3-1が付された。これにより、職務能力<力量>と資格認定や有資格との違いが整理されて明瞭になり、規格の要件としての「職務能力<力量>がある」ということが何かによって証明されていることを意味しないことも明確になった。
 
 
§15.3 職務能力<力量>に関するISO14001規格の規定の変化
ISO14001では人的資源に関する要件が、96年初版で『訓練、自覚及び能力』、04年版では『力量、教育訓練及び自覚』という標題(4.4.2項)の下に規定され、15年版ではSL共通テキストを採用して『力量』(7.2項)と『自覚』(7.3項)とになった。
 
@ 職務能力<力量>
  初版の『能力』と04年版の『力量』のどちらも15年版の『力量』とに同じく、が英文では“competent”である。ISO9001の『力量』は00年版からであるから、用語の“competent”と職務能力という概念が人的資源の要件としてマネジメントシステム規格に取り入れられたのはISO14001の方が早いということになる。この『能力』『力量』とも、規格の3章(用語及び定義)にも定義規格(139)にも取り上げられてこなかったが、15年版では、SL共通定義の「知識と専門性を活用して所定の結果を出す能力」が3.19項#3として採用されているので、ISO9001と同様に「職務能力」を指すことが明瞭になった。但し、JIS和訳は『力量』のままではある。
 
A 職務能力<力量>と教育訓練
  初版の『訓練』と04年版の『教育訓練』も英文では同じ“training”であるから、職業訓練の意味であり、ISO9001の『教育・訓練』もしくは『訓練』と同じことである。実務的には、組織が行う要員に対して行う教育訓練のことであり、中途採用者の職歴において履修した特殊な訓練を含む。
 
  初版では、JISの不適切和訳で理解が混乱させられたが、冒頭で「すべての要員が適切な教育訓練を受けていることを確実にしなければならない」と規定されており、引き続く文節で、教育訓練の目的として要員の『自覚』を高めることを意味する規定があり、更に次の文節では『要員は、適切な教育、訓練、及び/又は経験に基づく能力を持たなければならない』として、教育訓練が職務能力<力量>を持たせるひとつの手段であること示唆する規定が続いている。しかし、付属書A(A.4.2)では「要員、とりわけ特殊な環境経営<環境マネジメント>の機能を担う者の能力を確保するのに必要な経験、『力量』及び訓練の分野を決めなければならない」として『力量』と訓練が同列に扱われ、さらに、『力量』が特定の要員を対象とするものと読み取れないこともないような表現が4.4.2、A.4.2の両項に見られる。すなわち初版では、職務能力<力量>の概念に混乱があり、人的資源の要件としては教育訓練を受けているかどうかを主体とする規定表現となっている。
   
  04年版では冒頭の規定が『すべての人が、適切な教育、訓練又は経験に基づく力量をもつことを確実にすること』というISO9001の00年版と同様の表現の規定になり、人的資源の要件が職務能力を持っているということであり、教育訓練はそのひとつの手段であることが明確になった。しかし次の文節では、ISO9001の00年版とは違って、力量のニーズではなく『教育訓練のニーズ』を満たすために『教育訓練を提供するか、又は、その他の処置をとること』という規定が続き、規定表現に一貫性が欠けている。
 
  15年版では共通定義の採用により、上記@のように、規格の意図の“competence”が、委ねられた業務を定められた方法で行い定められた結果を出す能力という意味の職務能力であることも疑問の余地なく明瞭になった。人的資源の規定においても SL共通テキストが採用されて「要員が、学校教育、教育訓練、又は、経験に基づいて職務能力<力量>を持つことを確実にしなければならない」となり、教育訓練単独の必要性の規定は存在しなくなった。この規定から、要員に必要な職務能力を身につけさせる手段が学校教育(education)と対比される職業訓練、つまり、実務的には組織の行う教育訓練であるという職務能力<力量>と教育訓練の関係も、実務を反映した適切な論理整理が行われた。
 
 
注釈
§1 など:   論理及び用語  こちら
$1など:    英語解釈  こちら
#1など:     用語の定義  こちら
(1)など:     引用文献    こちら  

H23.6.8(15年版用修正H26.10.21) 
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 サニーヒルズ コンサルタント事務所