ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
§16
認 識 ISO9001:2015
 論理と用語   
33b-02-16
 
 
§0.1 概要   こちら
 
§0.2  実務の視点和訳⇔JIS和訳の対応:

     
環境経営体制 ⇔ 環境マネジメントシステム§19-1-2;   作業環境 ⇔ プロセス運用の環境§22.1;
       職務能力 ⇔力量
$67;   実 績 ⇔ パフォーマンス$31;   品質経営(活動) ⇔品質マネジメント$19-0;
 
  
§0.3  目 次

§16.1 認 識
§16.1.1 職務の認識
§16.1.2 やる気
§16.1.3 やる気の醸成の方法論
§16.2 人間尊重の経営
§16.3 認識に関する規格の規定の変遷
 
 
§16.1 認 識
§16.1.1 職務の認識

  JIS和訳「認識」の英文は “awareness”である。気がついている、受けとめている
(102)、また、何かが存在し、重要であることを知っている(101)の意味である。94年版でも指針規格(138)では「認識」の概念が規定されていたが、「理解」と和訳されていた。
「認識」に関する規格の意図は、次のように様々に表現されている。15年版では共通テキスト化でそれまでのISO14001の規定と同様の表現となった。
 
● 15年版(7.2項)
  要員に次の事項に関して認識をもたせなければならない。
   a) 品質方針、
   b) 関連する品質目標、
   c) 決められた通りの結果を出すことによる利益を含み、品質経営活動が効果的に行われることに対する自らの寄与
   d) 決められた通りに業務を行わなかった場合に引き起こされるであろう結果
  
●  08年版(6.2.2 d)
  要員が自らの活動と組織の品質目標達成との関連性及び重要性、並びに、どのように寄与できるかを認識する
$42
  
●  94年版 (ISO9004-1:1994
(138)
  適切な業務遂行の利益と不十分な業務結果が、他の人々や顧客満足、操業コスト、組織の業績に与える悪影響を認識させる。
  
  ISO14001(04年版 4.4.2)では“awareness”を「自覚」と和訳し、要員が「自覚」しなければならない事項を次のように規定しているが、15年版では共通テキストを下敷きにしてISO9001と同様の表現となった。
  
  • 環境経営体制の方針、手順、要件の遵守することの重要性
  • 自分の仕事で発生し、或いは、自分の努力で改善できる環境影響
  • 環境経営体制の意図の達成のための自分の役割と責任
  手順逸脱で生じる問題
  
  すなわち規格の「認識」とは、要員が委ねられた業務で何を期待されているのか、どのような結果を出さなければならないのか、また、それら業務が組織の全体の活動と組織の業績、つまり、狙いの顧客満足の実現をどのように支えているのかを理解し、以て自らが組織に欠くことのできない、重要な業務を委ねられていると感得することである。その組織全体の業務における役割、或いは、組織のために何をなさなければならないかという任務の観点からは、要員が行う業務は職務と呼ばれる
(113)。規格の「認識」「自覚」をひとことで表すと、遂行すべき職務の認識、自覚であり、又は、委ねられた責任権限(5.3項)の認識、自覚であり、これを通じて要員の職責意識、やる気が涵養される。
  
  
§16.1.2 やる気
  94年版では「認識」の規定はなかったが、指針規格
(138)では要員の「やる気(motivation)」が「認識」から生まれるという考えとそれに基づく要員の「認識」の必要を明確にしていた。00年版では、この「やる気」が組織の目標達成への要員の参画意識として表現されている。すなわち、品質マネジメントの原則(131)のひとつに「人々の参画」が掲げられ、その意義が「すべての階層の人々は組織にとって不可欠な存在であり、人々を組織の目標達成に参画させることが、人々の能力を全面的に引き出して組織の利益のために資さしめることを可能とする」と説明されている。
  
  15年版指針規格
(155)の品質マネジメントの原則(2.3.3)では、要員の職責意識ややる気の重要性がさらに明確に述べられている。すなわち、「効果的、効率的に経営を行なうには、すべての階層のすべての人々を個人として尊重し巻き込むことが大切である」とし、そのためには、「組織はすべての人々に職務能力を持たせ、職務権限を持たせ、参画意識を持たせなければならない」としている。規格の職務能力(7.2項)と責任権限(5.3項)と本項の認識の規定は、この観点で設けられている。
 
  要員が組織の一員としての意識を高め、職務を認識することが、組織の狙いの顧客満足の実現に向けての積極的な業務取組みに繋がる「やる気」を生む。要員が単に定められた手はずに従って業務を行うのではなく、この「やる気」を持って業務を行うことによって、要員はその持てる能力をその職務遂行のために発揮することとなり、以てその業務が真に効果的に行われることとなる。
 
  組織が品質方針に掲げた狙いの顧客満足を確実に実現し、又は、狙いの顧客満足の実現に齟齬を来たさないためには、各業務のそれぞれが定められた通りに実行され、定められた通りの結果が確実に出るように実行されなければならない。実際にはこれには、すべての要員がそれぞれの職務能力を持つだけでは十分ではなく、「やる気」を持ってそれぞれの職務を遂行することが必要である。すべての要員が「やる気」を基本として職務を遂行するという心構えで委ねられた業務を行うことにより、例え組織の事業環境や組織の業務と要員の業務実行において少々の想定していない状況に当面しても、狙いの顧客満足を確実に、また、効率的に実現させることができる。
  
  決められた通りに業務を行い決められた通りの結果を確実に出すことによって組織の存続発展に必要な顧客満足の状態の確実な実現を図るという品質経営活動の表面的な論理では、職務能力があり、言われたことを言われた通りに行う要員に業務を委ねることでよいが、組織の経営管理の実務では、要員が定められた手順と狙いの業務結果の意図を、管理者の指示内容や手順書の文面を越えて理解して、その達成に向けて与えられた業務に意欲的で主体的に取り組むことによって初めて、組織が真に必要とする狙いの業務結果を出すことが可能となる。
  
  なお、規格では言及されていないが、要員がその持てる能力のすべてを業務の効果的実行と組織の狙いの顧客満足の実現に発揮することは、組織にとって大きな利益であると同時に、要員も自己実現欲求や承認欲求が満たされ、仕事のやりがい或いは生きがいという人間としてかけがえのない満足感を得るという考えかたが、認識ややる気や参画の概念の根底を構成している。これは、下記
§16.2の人間重視の日本的経営が依拠する考え方であるが、今は世界の経営理論のほぼ常識となっている。
  
  
§16.1.3 やる気の醸成の方法論
  規格では、やる気や参画意識の基礎は、規格の「認識」、つまり、各要員がそれぞれの職務を認識することを通じて自らに育む職責意識である。00年版指針規格
(132)は人々の職責意識の醸成のために組織に必要な取り組みに関して、人々の参画を促進するために、組織の経営戦略、経営方針と目標、事業構造の変化と発展、改善活動の実行、創造と変革の必要性、組織の社会的重要性に関しての教育訓練が必要であると規定している。また、このISO9004規格の09年版(152)の内容はISO9001に規定される手法を経営管理全般の要件として展開したものであるが、人々の参画とやる気を向上させるために組織が考慮すべき事項として、改善活動のような人々が知識と能力を共有できる制度、個人の実績に対する適切な表彰又は報酬体系、個人の能力開発推進のための専門能力評価制度、人々の満足度やニーズと期待の継続的な評価、管理者による指導や実技指導を挙げている。
  
  15年版指針規格
(155)の品質マネジメントの原則(2.3.3)では、参画意識の醸成のための組織の取り組みについて「正しく評価し、権限を委譲し、職務能力を育ませることによって、人々が組織の目標の達成に参画しようとする意欲が醸成される」と説明している。
  
  規格の論理では、人々がその中で業務を行なっている作業環境(7.1.4項)が、人々に職務の重要性の認識、職責意識、ややる気、参画意識を育む
§22.2。すなわち、認識の醸成を目指した組織の経営施策の結果で人々の心の中に形成された心理的な作業環境が、人々の認識の醸成を左右するということである。この心理的な作業環境とは、人々が組織からどのように期待され、気遣われているかに関しての人々の受け止め方を形成することに繋がる制度、方針、規則、規律などに関係する様々な経営施策の結果である。
  
  規格では、この作業環境に関連して、情報連絡の在り方(7.4項)、責任権限の明確化(5.3項)、トップマネジメントの統率力の重要性(5.1.1項)、職務能力を持たせることを通じた要員の能力開発と参画の機会の供与(7.2項)、物理的作業環境の整備(7.1.4項)について規定している。
  
  職務の認識は要員が組織全体或いは他の分野、部門について知っていることが前提であるから、要員が常に知らされている状態でなければならず、また、それに対して意見を述べることができる状況にあることが必要である。品質経営に関する情報を日常的に要員に積極的に伝えることが大切であり、このことによって要員は、その職務への理解を深め、また、最新の状況における職務遂行の方向や留意点を自ら確立することができる。00年版指針規格
(132)は、経営者、管理者が人々からの問題指摘や提案、情報連絡を推奨し、それに適切に対応することの必要を規定し、この手段には、職場での管理者主導の情報交換、成果報告の発表や会合、掲示板や社内報、eメールやウェブサイト、従業員満足調査及び提案制度があるとしている。
  
  職務能力の規定(7.2項)は、要員が業務で怪我をしたり、事故を起こして責任を問われないように組織の配慮でもあり、委ねる業務に対してきちっと職務能力を身につけさせるようにする教育訓練や業務経験は要員にその職業的能力を向上させ、有する潜在能力を開花させることにもなる。能力開発の進展により要員により高度な、組織の業績に関係のより強い業務を委ねる。要員の能力開発に対する支援が参画意識醸成に大切であり、参画の機会を与えることになることは今日では広く認められている。
  
  また、トップマネジメントが品質経営に職を賭して取り組むという姿勢を明確にして品質経営活動を統率すること (5.1.1項)、品質方針などその想いを人々に明確にすること (5.2項)、顧客満足の実現に係わる業務実行を日常的に監督すること (5.1.2項)、組織内で必要な情報が交換されるよう監督すること (08年版5.5.3)などの規定は、トップマネジメンが自身のやる気を見せることが要員のやる気の源であることを示唆している。
  
  
§16.2 人間尊重の経営
(1) 日本的経営

  1970~80年代には日本製造業が製品品質で世界を席巻したが、欧米諸国ではその背景のひとつに、日本に特有の製造現場の経営管理、“ものづくりのマネジメント”にあることに次第に気付いていった。そして1980年代に入ると、その特質が製造現場の要員の高い学歴、能力とやる気、職責意識といった人間的要素にあること、及び、これが結果として不良のない製品を高い能率で低いコストで製造することを可能としたものであることが、欧米で広く認められるようになった。
  
  品質をはじめとする組織の様々な業績の改善に人々の能力と意欲を活用することは、戦後日本の国民風土の上に育まれた日本的経営の特徴のひとつである。この“ものづくりのマネジメント”には定義はないが、輸出産業を中心とする製造業において、戦後に米国から学んだ品質管理の手法を軸として、日本的経営の枠組みの中で、品質向上、苦情低減に向けて追求してきた製造現場の管理の考え方、手法、活動、仕組みの集大成である。その特徴は基本において品質・顧客重視、改善の推進、データ重視であり、業務実行に関して人々の能力とやる気、職責意識に期待し、それを業務に発揮させるという人間尊重であり、このための人事制度、福祉施策を推進し、職場風土や企業文化の醸成を図るというのが骨子である。
  
  経済発展に向けて実践と結果を重視して突き進む風潮の中で、日本的経営も明確な定義をしないままで来た。このため、日本国内でも日本的経営が何かについても様々に受けとめ方がある。最も典型的なのは、終身雇用制度、年功制、企業別労働組合をその特徴とする説であるが、企業内異動と内部昇進制、合意による意思決定を加える説
(54)、更に、企業内教育訓練制度などの雇用慣行を指摘する向きもある。 一方、これらは日本的経営の本質ではなく、それを支える要素としての形態に過ぎないとする議論(62)がある。例えば、日経連はその報告書(59)の中で「日本的経営の特質は、それらの形態の根本にある人間中心(尊重)の経営と長期的視野に立った経営という理念にある」と主張している。また、1989年のMITのメイド・イン・アメリカ報告書の指摘(57)の米国経営の問題点の中に、短期的視野の経営、人的資源の軽視、労使協調体制の欠如が含まれているのは、米欧日の企業を実地調査した人々が見抜いた日本的経営の特質を逆の形で表現しているものであろう。
  
  この人間尊重ということに関連しては、「技術や制度と人間労働との接点におけるノウハウ」という「ヒューマン・ウェア」であると表現される
(60)一方、労働運動の立場からは「強制と誘導で巧みに労働者を陰陽の競争にかりたてて、自発的な働き過ぎとも見える搾取強化に労働者を誘い込むしくみを内蔵した、しばしば集団主義により全員参加の外観をとった、きわめて柔軟な経営体系である(62)」と定義されたりする。そして、その源流を米国で1950~1960年代に登場した経営管理学説「人間資源論(Human resource theory)」(54)とその経営管理技法である「人間関係管理(Human relations)」に求める説(58)がある。この考えによると日本的経営の主要な要素である人間重視も、米国生まれの日本育ちということになる。
  
(2) 日本的製造現場の経営管理(“ものづくりのマネジメント”)
  人間尊重の経営においては、人々の持つ能力とそれを仕事に発揮しようとする意欲ややり遂げなければならないとするやる気と職責意識に期待する。とりわけ生産現場の人々にも、能力開発とやる気の醸成と共に、細分化され単純化された作業の忠実な実行者という伝統的な役割から脱してその役割を高め、拡げ、品質をはじめとする現場の様々な業績の改善に寄与させようとする。品質保証の要の検査を生産現場部門に委ねる“自主検査”や、試験員への試験結果判定権限の委譲、操業員による設備の日常的“自主点検”の実施、或いは、日常の製品品質の管理における操業員からの情報の採用と判断権限の委譲などが典型的事例である。さらに、業務と離れたQCサークル活動などの改善活動、改善提案制度、新設備の導入に際する操業者の必要に係わる知恵や意見の取り入れ、作業手順の確立への作業者の意見の取り入れ等々、生産現場で働く人々を企業業績の向上に参画させる様々な試みが、各企業で実践され、これらが“ものづくりのマネジメント”の普遍的な手法となった。
  
  要員が単に定められた手はずに従って業務を行うのではなく、やる気と責任感を持って業務を行うことによって、要員はその持てる力のすべてをその職務遂行のために発揮することとなる。要員がその持てる力のすべてを業務の効果的実行と組織の経営目標の達成、ないし、組織の業績改善に発揮することは、組織にとって大きな利益である。同時に、要員はその業務の効果的な実行を通じてその能力を発揮でき、その中で人間の本質である進歩や改善の意欲を満たすことができる。さらに、職場や組織の経営目標の達成、ないし、業績の改善に直接貢献していることを実感する。これを認める職場運営や組織の人事制度や施策によって、要員の自己実現欲求や承認欲求が満たされ、仕事のやりがい或いは生きがいという人間としてかけがえのない満足感を得る。これが更にやる気と勤労意欲を高め、責任意識を強め、仕事への満足感を深め、組織への信頼感を高め、帰属意識を深め、組織の発展や業績への忠誠心を強めることになる。
  
(3) 人間尊重の経営の欧米での導入(米国の事例)
  日本製品の品質の背景に人間尊重の経営のあることを米国人が公に認め出したのは1980年の初めの頃である。例えば、自動車を巡る日米貿易摩擦が終息に向かう直前の時期の1983年の米国有力紙の特集記事
(63)では、「日本車の品質は25万人の自動車労働者の解雇や22%の販売シェアを掴み取るまでに優れているか」という刺激的書出しに続けて「車に乗る人には答えは明確にイエスであり、それはデトロイト(筆者註:ビッグスリー幹部)も知っている」とほとんど タブー であった事実を認めた上で、「日本人は我々と違った方法で車を造っているのではない。彼らは我々より優れたマネジメント によって我々を叩きのめしたのだ」との自動車会社を支援してきたコンサルティング会社首脳の見解で締めくくられている。
  
  日本では著名だが、米国では統計的解析法の専門家として知られる程度だった デミング氏は、日本製品の優れた品質の生みの親として1980年代に母国で脚光を浴びた。同氏が1981年に要請を受けて 品質競争力を失ったフォード自動車の再生に関して提起したのは品質管理手法ではなく マネジメントの変革の必要であり、従業員のやる気から労使の民主的な協調まで人間関係の重要性を説いて経営者や管理者を驚かせた
(64)。この後、デミング氏は主催するセミナーで、米国企業が競争力をつけるための「マネジメントの14原則」を亡くなる直前までの10数年間、20万人もの人に説いた。永年、同氏の側にあった吉田耕作氏は、この「14原則」を、同氏の日本での体験に基づく「品質管理の技術が真に効果を発揮するには安定雇用や人的資源を最重要資源と見做す日本の企業文化が不可欠」という認識を基礎としていると述べている(61)
  
  1985年の産業競争力に関する大統領評議会の報告であるヤング・レポートでは、競争力強化のための4項目の提言を行っているが、そのひとつに人的資源開発の必要を取り上げ、労働者の技能、順応性、意欲の向上の必要を挙げている
(65)。上記(1)のようにMITの産業生産性調査委員会の報告書「メイド・イン・アメリカ―アメリカ再生のための日米欧産業比較」でも米国産業界に巣食う病として人的資源の軽視が挙げられている(57)
  
  1987年に制定された米国経営品質賞の表彰基準は事実上、日本との品質競争に敗れ停滞する米国経済の復活のための企業経営の指針を示すものであるが、ここでも人的資源重視の必要が明確にされている。その趣旨
(153)は、優れた経営業績をあげるためには、従業員にやる気をもたせ、潜在能力を開発させ、それを組織の目標に振り向けさせることが必要であり、組織は経営業績の向上と人々の成長を育むような従業員支援風土と業務環境とを構築し維持することが必要であるということである。
  
  日本の人間尊重の“ものづくりのマネジメント”が、確かに日本製品の優れた製品の背景であったことは、1980年代の初め頃から前後して米国に進出した日本企業の現地従業員主体の工場でも日本製並みの優れた品質の製品が造られるという事実によって、誰の目にも明らかになる。この後の1990年代半ばには、米国製造業は製品品質における顕著な改善と共に企業業績を大きく改善し、「米国の復活」とも呼ばれる競争力の回復を果たした。この原因を分析した ヤシノウスキー氏らは、「成功への10の道筋」を「従業員の創造力と活力を引き出す」「顧客を満足させ新市場を発見する」「絶えざる改善をする」の3つの要素に大別して挙げている
(67)。「米国競争力を甦らせた“日本研究”」という副題の ヒュージュ氏らの著作「かくして日米製造業は再逆転した」でも、その15の前提条件に従業員の参画に係わる5つの条件を挙げている (68)。さらに、ガポール氏は、品質管理の専門家と見做されていたデミング氏が「マネジメントの14原則」として人間尊重の経営を米国内に浸透させたことが米国製造業再生につながったとする著作「デミングで甦ったアメリカ企業」を発表している(64)。また、米国再生の筋道を経営管理(マネジメント)の手法にまとめた研修プログラム(66)が開発されたが、その中心は経営目標を明確にし、信頼に基づく職場風土の下で自立した個人の能力の向上を支援し、その活用を図るということであった。
  
  米国ではその後、従業員が企業の成功に貢献しようとする意欲と能力を意味する用語“engagement”が盛んに使用されることとなった。また、米国の自動車技術者協会(SAE)事務局長はその体験論の中で、管理者たる者は職場では誰もが「私を重要な人間だと思わせて下さい(Make me feel important)」という看板を胸に掲げているのだ、と考えて部下と対応しなければならないと説いて承認欲求の重要性を述べたが、この言葉は今や人々の意欲を引き出す経営の根幹を表す用語として定着しているように見える。
  
  こうして、品質保証に必要な要素としての人間尊重の経営の考え方は1990年代には米国においても定着し、今日では、品質保証や製造現場の管理だけでなく、すべての経営管理の側面について、その経営目標の達成、或いは、業績の改善に効果的で不可欠な普遍的なものとみなされるようになっている。そして、今日では欧米でも、やる気、参画意識、承認欲求、従業員満足というような用語は実用経営管理論において普通に用いられるようになっている。
  
  
§16.3 認識に関する規格の規定の変遷
 ISO9001の「認識」に関する規定は、要員を単なる労働力としてではなく人的資源と捉え、要員にその能力のすべてを委ねられた業務の実行に注ぎ込むことを期待する経営管理の要件として、その概念の理解に関する規格作成者の理解と論理整理の進展に伴って変化してきた。
  
  米国のMILQ9858に始まる各国の品質保証規格には人的資源の概念は存在しなかった。その最初が、日本の製品品質を念頭に作成されたとされる1979年のBS5750の中に採り入れられた教育訓練に関する規定であると言われる。この規定は、BS5750を基礎として作成されたとされるISO9001の1987年初版では、検証活動への「訓練された人員」の割当てが必要とする規定として引き継がれた。94年版では「訓練された要員」を品質経営のすべての業務に割当てなければならないとなったが、認識に関する規定はなかった。しかし、指針規格
(138)では、自分の業務が組織全体の業績にどのように繋がるかを認識させることが要員のやる気の根本であるとして、要員をして職務を「認識」させることの必要を説いている。
  
  00年版では、職務能力と教育訓練と認識という要素を一緒にした規定であったが、人的資源の要件として「認識」が登場した。00年版では規格の規定の背景となる規範的要素と論理が「品質マネジメントの原則」として明確にされることとなったが、この中の「人々の参画」の原則で「認識」規定の意義を明らかにした。すなわち、効果的な品質経営のためには、要員を組織の基本要素と位置づけて、要員を組織の目標達成に全面的に参画させることが必要であり、そのことによって人々の能力を引出して人々を組織の業績の実現と向上に資さしめることができると説明している
(131)
  
  00年版で「認識」が職務能力とやる気に繋がる「認識」として整理されたものの、規定や指針規格の説明には概念と用語の使い方にはなお混乱が見られていたが、15年版では共通テキストの採用により職務能力と別々の条項に規定され、教育訓練と切り離された規定表現となって、論理と的確な規定表現が確立した。同時に「品質マネジメントの原則」が書き直されて(B.4)、その人々の参画の参画の重要性とそのための経営施策について明確に記述されている。また、00年版指針規格ISO9004の後継の品質経営の手法を広く組織の経営管理の全体に適用することを意図した09年版では、「認識」と人々の参画とやる気の醸成との関係についても言及している
(152) 
H29.10.27 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所