ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
§22 プロセス運用の環境 ISO9001:2015
ISO9001/14001
規格の論理と用語   
33b-02-22

ISO14001
SL共通テキスト
概要 こちら


実務の視点和訳⇔JIS和訳の対応:

業務 ⇔プロセス
$2;  経営管理 ⇔マネジメント$19;  品質経営 ⇔品質マネジメント$19-0;
 
 
§22.1 作業環境

  JIS和訳「プロセス運用」の英文は“operation of processes”であり、一連の業務の組織的実行、或いは、組織の業務の全体としての実行という意味であり、「業務 実行」が簡潔でわかり易く、また、規格の文脈では誤解なく理解される日本語表現である#8-1。「プロセスの運用の環境」とは「業務 実行の環境」であるから、08年版では「作業環境(work environment)」と呼ばれていた概念である。その『作業環境』の定義#25pによると「作業が行われる場の条件の集まり」のことであり、狙いの結果を確実に出すという観点で要員の業務実行に物理的及び心理的な影響を及ぼす要員の置かれた状態のことを指す。また、組織の一連の業務の組織的実行の環境であるから、個々の業務の作業環境というより、組織の品質経営の一連の業務を行なう環境であり、効果的な品質経営のために必要な作業環境という意味である。
 
  用語の変更は15年版改定の特にサービス業を意識した規定表現の一層の汎用化の趣旨に則ったもののようであるが、「作業(work)」 は日英両語共に製造現場の作業をのみ表す用語ではなく、例えば研究や規格作成等をも含むすべての仕事や労力投入行為を表すものであるから、「作業環境」でも問題なかったと思われる。なお、ISO9001より広い観点の規格として改定された指針規格ISO9004:2009でも用語「作業環境(work environment)」が使われている。
 
  規格は、7.1.4項の注記で作業環境の要因を、物理的、社会的、心理的、環境的及びその他に分けられるとし、要因の具体例として気温、湿度、人間工学的配慮、清潔さを挙げている。08年版定義の注釈#25-1pでも要因を同様に分類し、例として気温、雰囲気成分、表彰制度、人間工学的配慮を挙げていた。00年版指針規格(6.4) は、要員の潜在能力を引き出すような業務の与え方や参画の機会の拡大、安全規則の制定と指導、人間工学的配慮、作業場配置、社会との交流、要員のための組織内の施設、熱・湿度・照明・空気の流れ、衛生・清潔さ・騒音・振動・汚染を挙げている(132)。その後継規格であるISO9004:2009(6.6)もほほ同じだが、作業量及びストレスを含む精神的な要因、有効性の最大化及び無駄の最小化も挙げている(152)
 
  さらに、00年版指針規格(132)では作業環境をその由来とその及ぼす影響の性格の違いによって、物理的要因の作業環境と人的要因の作業環境とに分類している(132)。同規格09年版(6.6)もこの考えを継承している(152)
 
@ 物理的要因の作業環境
  上記の要因事例では気温、湿度、雰囲気成分は一般に物理的要因であり、作業環境をつくり出す物理的要因とは、気温や湿度、明るさ、雰囲気中の粉塵や不純物、風雨への暴露、仕事場の広さや位置や作業姿勢や清潔さ、整理整頓状況等々である。これにより形成される作業環境とは、例えば、明るい/暗い、静か/騒々しい、暑い/寒い、快適/不快、窮屈/自由、安心/気を遣う、楽/疲れ易い、集中可能/気が散りやすい等々である。
 
  これらの作業環境に不備があれば、例えば暗くて検出すべき疵を見落とした、騒音で指示を聞き誤った、蒸し暑くて汗で滑って工具で製品に疵を付けた、整理整頓が悪くて誤ったボルトを用いた等々で狙いの業務結果を出せないことになり、また、蒸し暑さでいらいらしてくる、手順通りの窮屈な作業姿勢で疲れて、雨が降りこむのが気になって注意力が散漫になる等々により作業ミスを引き起こす。
 
  例えば、製品の雨濡れを防ぐ作業環境や、無菌、無塵、恒温或いは乾燥環境での作業のように、決められた製品品質を得るための作業環境は業務手順や設備の管理の問題であり、規格の意図の作業環境には当たらない。
 
A 人的要因の作業環境
  上記の要因事例では表彰制度、人間工学的配慮、清潔さは一般に人的要因に分類されるが、この他に職場の人間関係や教育訓練体制、作業の安全性、福利厚生制度などがよく挙げられる。00年版の解説書では例えば、作業環境の人的要素として作業方法、業績、参画機会、安全規則や指導、人間工学(26)が、また、倫理意識、企業文化、職場風土の影響を含む人間関係、及び、人事評価、負った責任、業務実績、昇進昇格、報酬、雇用の安定性、職場の人間関係、指導性、仲間意識、自負心、ストレスなど要員の内面的欲求や外部からの影響 (23)が、それぞれ作業環境の人的要因として例示されている。
 
  人的要因により誘起される作業環境とは、組織で働く自分が組織からどのように期待され、或いは、どのような配慮を受けているかに関連する要員の受け止め方を要員の心の中に形成させることに繋がる心理的な環境のことを指す。
 
  これら作業環境が適切に整えられることにより、要員が職務への認識(7.2項)を高め、要員の意識の中に組織への帰属意識或いは、組織の経営目標の達成や組織の発展への参画意識が育まれる。このような作業環境が適切でなければ、言われたことを言われた通りに行なうだけの要員しか育たない。
 
 
§22.2 人的要因の作業環境の意義
  94年版(4.9)までは00年版や15年版(7.5.1)の「製造及びサービス提供の管理」に相当する「工程管理」の要件としての管理された状態のひとつに、適当な作業環境の下で製造、据付け及び付帯サービスの業務が行なわれることの必要が規定されていたが、00年版では作業環境は効果的な品質経営のために投入すべき経営資源として位置づけられている。
 
 これは、1970〜1980年代の日本製品の世界に群を抜いた優れた品質の背景に要員の仕事に対する能力とやる気に欧米の企業と大きな違いのあることが認識されたことに端を発し、要員を単なる労働力ではなく、効果的な品質経営に不可欠な経営資源と捉える経営管理 上の新しい考え方であり、00年版の改定作業当時には世界的にほぼ確立し、多くの組織で実践されていたことから規格に導入されたものである。経営資源としての作業環境の概念は、人間尊重の経営を基礎として日本企業が長年培ってきた、人間として働き易い、意欲をもって働くことのできる組織や職場の雰囲気、風土、制度や施策を、規格執筆者が要員の業務実行に係わる作業環境と見立てたことによる。
  
 この考え方では、業務実行により要員が所定の業務結果を真に確実に出すことを組織が期待するならば、要員に学校教育を基礎にした教育訓練や職務経験を通じて必要な職務能力(7.2項)を持たせるだけでは十分ではなく、要員がその能力を発揮しようとする意欲や責任感を持っていることが必要である。要員が定められた手順と狙いの業務結果の意図を、管理者の指示内容や手順書の文面を越えて理解して、その達成に向けて与えられた業務に意欲的で主体的に取り組むことによって初めて、組織が真に必要とする狙いの業務結果を出すことが可能となる。
  
  00年版では資源としての要員とは必要な職務能力(7.2項)とやる気を持った要員を指し、後者の「やる気」を育む必要条件としての要員の職務に対する適切な認識(7.3項)の醸成の必要を規定すると同時に、作業環境を「やる気」に繋がる要員の心理を形成させるために投入が必要な経営資源と位置づけて、その充足の必要を規定している。
 
 この作業環境とは一般には上記§22.1の人的要因の作業環境を指すが、一般には物理的要因の作業環境と見做される作業環境でも、要員のやる気と無関係ではない。例えば、極寒酷暑や風雨下の作業が無防備なまま常態化するような作業環境では要員に意欲的な業務実行は期待できない。従って、要員を経営資源と見做す経営においては、作業環境は物理的要因、人的要因のいずれを問わず、個々の業務結果の確実な達成の管理手段以上の経営管理 上の目的や業績目標の達成に不可欠な資源として見做すことが適切である。
  
 00年版指針規格ISO9004(6.4)は「経営者は組織の業績向上のために、作業環境が人々の意欲、満足感、及び、業務実績に良い影響を及ぼすことを確実にしなければならない」と(132)、作業環境の意義を明らかにしている。09年改定によりISO9001よりも広い視点での品質経営 手法で以て組織を持続的成功に導く手引き書となったISO9004 (6.6) では、作業環境の意義を「組織の持続的成功と製品の競争力を達成し、維持するために適切な作業環境を用意しなければならない」と(152)説明している。
  
 すなわち、規格の作業環境は、その下で業務を行なう要員が組織の必要とする業務結果を確実に出すことを可能にするために不可欠な資源である。業務実行により要員が決められた業務結果を確実に出すことを組織が期待するならば、要員が職務能力(7.2項)を業務実行で発揮できるような物理的な作業環境を整えなければならない。さらに、要員が組織の必要とする業務結果を真に確実に出すことを期待するならば、要員がその能力を発揮しようとする意欲や責任感を育む心理的な作業環境をも整えなければならない。
  
  
§22.3 企業文化
 人間尊重の経営では、どの要員をもひとりの職業人として遇し、その業務能力と業務結果に期待することを基本とし、要員が仕事を通じて幸せを感じることを支援する施策や制度を整え、組織風土、企業文化としての確立を図る。この中から生まれる要員の組織に対する信頼感や安心感が、要員の能力とやる気を育む。規格の規定の人的要因の作業環境の整備は、この人間尊重の組織文化や企業文化に通ずる。
 
 1980年代に米国製品の品質競争力の向上を主導した デミング氏は人間尊重の企業文化について、日本的経営の特質と当時の米国の状況に鑑みて、これを「 (勤労者から)恐れや不安を取り除き、信頼や協調に基づく企業文化を育成することによって、個々の勤労者の能力や創造力を最大限に発展させ、組織全体の目的をより効率的に達成し、組織体の競争力をつける」と説いた(61)
 
 米国経営品質賞(153)の表彰審査では、人的資源に関して、組織がどのようにして、従業員にやる気をもたせ、組織の目標と実行計画と整合する形で持てる能力を向上させ発揮させることができているか、及び、組織の業績向上及び従業員個人と組織の成長に資する勤務環境と従業員支援風土を構築し維持するためにどのように努力しているかが焦点になる。表彰基準は、これに関係する事項として、勤務制度、従業員教育、従業員福祉を挙げており、組織は審査で、勤務制度に関しては業務内容、給与、昇進、意識づけに係わる制度、従業員教育では従業員の知識、専門性、業務能力、業務出来ばえの向上のための教育訓練、従業員福祉では従業員の幸せ、満足感、やる気に資する業務環境と従業員支援風土について吟味される。これらが米国でのやる気醸成のために組織が取り組むべき標準的手段であると理解できる。
 
 品質で世界を席巻した1970〜1980年代の日本企業の優れた業績が人間尊重の経営の下での終身雇用制度を背景としたものであることには疑問をはさむ余地は無い。終身雇用制度の下では要員の業務経歴は、要員が業務に経験を積み、業務範囲を拡げ、業務の出来ばえを含む業務能力を高めるという考えで管理される。人々は勤務年月を経るにつれ、能力開発実績や業務経験と業務実績の評価を基に、より高度なより重要な業務を委ねられ、或いは、役職を与えられ、より重い責任を持たされる。高度の職務能力を身につけた要員が簡単に組織を去るというようなことはないから、組織の行う人材育成投資はそのまま組織の業務能力向上と業績向上という形で組織に還元される。また、要員はその努力が組織の業績を通じて自らに還元されることが理解できるから、能力向上結果を組織のために全面的に使用することを躊躇しない。人々は自身の業務能力の向上とその組織への貢献、仕事のやりがいを実感し、やる気を燃やし、参画意識を高める。
 
 日本で1980〜90年代にもてはやされた能力主義賃金制度の見直しや、1990年代に始まった非正規雇用拡大の動きに抗した非正規社員の正社員化などの2000年以降の動きの背景には、人々のやる気が組織の業績に繋がることに対する再認識の結果である。また、食品への異物混入、個人情報流失など企業の存立を揺るがす最近の不祥事のほとんどが、非正規社員や外注先社員によって引き起こされている事実もまた、要員の職務に対する認識や組織への帰属意識の重要性を示している。
 
 
§22.4 規格の規定の作業環境
@ 94年版
 94年版(4.9 b))では、品質に直接影響する工程の業務が管理された状態で行われるための条件として「製造、据付け及び付帯サービスのための適当な作業環境の適用」の必要を規定していた。この作業環境(working environment)とは指針規格(11.4)で、製品の品質に影響を及ぼす工程の環境(process environment)及び他の要因であると、時間、温度、圧力を例に挙げて説明されていた(138)。このことから、製品の品質の作り込みに必要な、気温、湿度、雰囲気中の粉塵や細菌、清潔さ、衛生状態などを指し、検査や作業の出来ばえに影響するという観点から作業場の照度や広さなども含むものと考えられてきた。
 
A 00年版
 00年版では作業環境を「その下に作業が行われる一連の状態」と定義#25pして、要員の置かれる環境を指すことを明確にした。定義に「この状態には、物理的、社会的、心理的及び環境的要因を含む(例えば、温度、表彰制度、人間工学的側面及び雰囲気成分」との註釈#25-1pを付されたことから、所定の業務結果を確実に出す業務実行のための例えば温度や雰囲気成分に関連して快適或いは不快というような物理的又は自然環境起因の作業環境だけでなく、例えば表彰制度の存在や人間工学的検討に基づく業務実行姿勢に起因して要員が自分は組織から期待され、組織から気遣われていると感じる労働環境や職場風土のような社会的又は心理起因の作業環境も含まれることになった。
 
 指針規格(6.4)は、前者を物理的要因の作業環境、後者を人的要因の作業環境と呼び、品質経営活動の業務の実行において必要な狙いの結果が確実に出されるために不可欠な作業環境は、人的要因と物理的要因を組み合わせることにより創造することができると説明していた(132)
 
 00年版ではまた、品質経営活動に必要な人的資源として要員の職務能力と職務の認識が明確にされた。すなわち、要員が業務実行により狙いの業務結果を真に確実に出すためには、要員に学校教育を基礎にした教育訓練や職務経験を通じて必要な職務能力を持たせるだけでは十分ではなく、要員が業務に主体的に取り組む意欲をも持っていること、つまり、やる気が必要であるという経営管理上の当時の新しい考え方に基づく。規格は、このやる気が「認識」により育まれるとし、やる気を持った要員の仕事振りを「参画」と表現している(131)。人的要因の作業環境とは、要員にこのような認識を持たせ、組織の維持発展の活動に主体的に参画させるために必要な制度や職場風土のような要員処遇の在り方のことである。
 
 もっとも00年版作成の関係者の間でも作業環境の人的要素に関する論理が確立していたのでもなさそうである。例えば、規格執筆者のひとり(21)は、規格の作業環境は製品の顧客満足に影響する人的要素と物理的要素の組み合わせと述べながら、作業環境の人的要素としては、作業方法、保護具着用を含む安全規則と人間工学しか例示していない。もうひとり (22) は、その解説で人的要素の存在自体に触れていないし、TC176商業本(20e)も設備に関する人間工学的配慮の大切さに触れているだけである。08年版の条文末尾の注記の追加は、規格作成者のこのような理解の不徹底も関係しているとも考えられる。
 
 さらに00年版では、整備すべき作業環境が「製品要求事項への適合の達成」のためと規定されていた。これは規格の文脈では、狙いの顧客満足の実現を図ることであり、実務的には品質経営活動の効果的実行を意味する。品質経営のすべての業務に必要な作業関係を整えることの必要が明確になった。すなわち、94年版の製品の製造関連業務に限定されるかの誤解を招きがちな表現と違って、品質経営のすべての業務に必要な作業関係を整えることの必要が明確な規定となった。
 
 なお、上記の作業環境の定義から、製品品質の作り込みのための無菌室や無塵室の環境は作業環境には当たらないことが明確になった。減菌室、無塵室、冷凍室のような製造や保管、輸送中の製品を取り巻く環境は、例えば熱処理炉の内部の雰囲気成分や温度と同様に製品実現条件であるから、製品実現の管理や物的資源としての管理の問題である。
 
B 08年版
 08年版では作業環境の定義#25pは00年版と変わらないのに、条文の後に「“作業環境”という用語は、物理的、環境的及びその他の要因を含む(例えば、騒音、気温、湿度、照明又は天候)、作業が行われる状態と関係している」と、規定の作業環境が人的要因の作業環境を含まないかに受け止められる注記が付された。このことについての説明はないが、規格を認証審査用と取扱う傾向の強い08年版改定の一環であり、人的要因の作業環境の審査が困難という理由から認証審査の範囲を限定することを暗に認めるための注記の追加と想像された。
 
C 15年版
 15年版では「作業環境」がJIS和訳「プロセスの運用のための環境」、正しくは「業務実行のための環境」に変わった。従来の作業環境の定義が無くなったのに新たな用語の定義もない。しかし、注記は「プロセスの運用のための環境には、物理的、社会的、心理的、環境的及びその他の要因(例えば、気温、湿度、人間工学及び清潔さ)がある」と、人的要因の作業環境を含む08年版の定義#25-1pとほぼ同じ表現のものに変わった。
 
 作業環境の規定や注記の変遷がどの程度意図的で意味のあるものかは説明がないが、定義や指針規格の説明が変わっていないことから規格の意図における人的要因の作業環境の概念は00年版以降不変であると考えるが妥当である。効果的な経営管理の在り方を示すISO9001の性格からは、認証審査が技術的に困難という事実とは関係なく、規定の意図の作業環境が人的要因の作業環境を含むと考えて間違いはない。
 
注釈
§1 など:  論理及び用語                   こちら<sub33b>
*Q1など:  改定版解釈に関する引用資料  こちら <sub02>
$1など:  英文解釈                          こちら <sub03>
#1など:   用語の定義                       こちら <sub04>
(1) など:  引用文献                         こちら <sub05>

H27.5.10(修5.28) 
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