ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
§43
プロセス アプローチ ISO9001:2015
 論理と用語   
33b-02-43
§0 概要   こちら
 
 *実務の視点和訳⇔JIS和訳の対応:
業務 ⇔プロセス$2;    経営管理 ⇔マネジメント$19;
  経営管理体制 ⇔マネジメントシステム
$19-1;  出力 ⇔ アウトプット#39;   入力 ⇔ インプット#1;
 
品質経営 ⇔品質マネジメント$19-0;    品質経営体制 ⇔品質マネジメントシステム$19-1-1;    履行 ⇔実施$4;    
 
 
§43.1 プロセス と システム

(1) プロセス
  『プロセス』とは英文では“process”であり、これは「特定の結果を出すために行なわれる一連の物事」の意味である。プロセスは、組織内で目的をもって行なわれている一連の活動のことであるから、ひとことで言って「業務」のことであり、「業務実行」や「活動」と表現する方が適当な場合もある$2
 
  規格ではJIS和訳「プロセス」 は、08年版では「入力を出力に変換する相互に関連する又は作用する一連の活動」と定義されているが#1p、15年版では「入力を使用して所期の結果を生み出す相互に関連する又は作用する一連の活動」となった#1。この新定義では「出力」の意義が明確になり、その分だけJIS和訳「プロセス」の意義も明確になって、組織の目標達成のために様々な作業を統合して必要な結果を出すように行われている活動である「業務」を指すことが明確になった。
 
  組織で行なわれる業務は、それぞれが何か有益な結果を出すことが目的であるから、その遂行には人、物、金、情報など資源が必要である。すなわち、業務とは、投入された資源(4.4.1 d)項)により入力に付加価値をつけて出力とする活動である#1-1。出力が狙いの業務結果であるようにするには、業務はそのために決められた手順、すなわち、判断基準と方法(4.4.1 c)項)に従って行われなければならない。例えば、部品製作業務では、決められた原材料を使い、労力と機械という資源を投入し、作業手順書の方法と基準に従って作業し、決められた仕様や品質の部品という業務結果を出す。
 
  企業の社内組織構造は一般に、人事、経理、営業、品質管理、製造など機能部門で構成されているが、日常の業務は種々の目的に向けて各機能部門の業務をつなぎ合わせて、部門横断的に行なわれている(2)。 機能部門内の業務も“process”ではあるが、規格は、ある狙いを実現するために各機能部門の業務が繋がって分野横断的に行なわれることの大切さを強調しており、“process”と言う場合はこの分野横断的な一連の業務を指していることが多い。この場合は、関連する部門内の業務は“process”の定義で用いられている「活動」とみなされる。
 
 
(2) システム
  『システム』は英文では“system”であり、これはひとつの目的に向けていろいろのものが関連をもって機能している様を表す英語である。日本語$3では、一般に体系、体制、枠組みであり、場合によっては系統、系、組織、設備と和訳されるような概念の用語である。近年は「システム」と片仮名英語が使われることが多い。規格の“system”は「相互に結びつけられている、又は、相互に作用する一連の要素」と定義される$20。単なる集まりではなく、相互に関連して目的を果たすように集まっていることを意味し、多数の物事の有機的集合体と言うような概念である。
 
  例えば、「電算機システム」とは、ある目的の情報処理のための一連のソフトウェア、大型電算機や端末装置などの要素の有機的な集まりである。移動の需要を満たす観点からのある地方の交通体系という場合は、鉄道会社と路線網、運行系統、車両、駅設備、乗り継ぎ用駅や相互乗り入れ、運行ダイヤ、切符発売方法などを合わせた概念であり、「新幹線運行制御システム」とは、安全な大量輸送のための時刻表、列車の運転、電力供給、走行情報の送受信、情報処理、運行調整等に係わる要員、設備、情報という要素の有機的な集まりである。自動車は人が運転して迅速安全に移動できる「システム製品」であり、エンジン、動力伝達装置、運転装置、車輪、車体、その他多数の部品が機能的に繋がったものである。人間は臓器、血管、神経、筋肉、骨格、皮膚などの要素が有機的に機能する「人体システム」によって生きている。
 
  規格のマネジメントシステム(management system)は、経営管理のための体制$19-1であり、対応する日本語としては「経営管理体制」が適当である。この「体制」とは、自然災害に備える組織の防災体制とか、公職選挙中に警察署に設けられる違反監視体制とか、期限通りに事故や労働災害なく新工場を完工させるための施主と建設業者と共同の工事管理体制というようによく用いられる概念を表す言葉である。この事例でのそれぞれの体制は、損害最小化、違反取り締まり、完工という目的を果たすために、防災、違反監視、工事管理を効果的に行なうための行為、活動、その手順、文書や記録、人々の責任、内部連絡方法などが明確にされ、要員や使用する用具や設備、仕事場、通信手段などを用意された状況を意味する。
 
   
(3) 業務と業務の有機的集合体
  「品質経営体制」に関して、00年版序文(0.2)では規格の「システム」が「プロセスのシステム(a system of processes)」であると説明されている。規格に関連して用語のJIS和訳「プロセス」と同「システム」を対比させる場合には、「プロセス」は品質経営の個々の「業務」を意味し、「システム」はそれら業務の有機的集合体を意味する。つまり、品質経営体制とは、組織の存続発展に必要な顧客満足の状態の実現を図る品質経営の目的に向けて、種々の業務が相互に関連して実行されるようになっているそれら業務の集まりとみなすことができる。経営管理の実務では、各層の各管理者はトップマネジメントの統率の下で、各業務を分担し、かつ、お互いに協働している。この協働の枠組みが規格の「経営管理体制」である。
 
  なお、経営管理体制の概念とその構成要素に関する見方は、この他にもある§2.1

 
§43.2 プロセス アプローチ
(1) プロセスアプローチ
  JIS和訳「プロセス」は規格では「業務」であり$2、「アプローチ」の英文“approach”は問題解決への取組み方(109)という意味であり、「プロセスアプローチ」とは業務実行主体の取り組みという規格の意図の品質経営活動の方法論のことである。
 
  規格では、プロセスアプローチは様々に説明されているが、その共通した要素は、品質経営の個々の活動をそれぞれが明確に決められた狙いの結果の実現を目的とした「業務」であるとみなすことと、それら業務をばらばらに行うのでなく狙いの顧客満足の状態の実現を目指して相互に関連づけて行うことである。15年版指針規格(155)では、品質経営の原則の中の「プロセスアプローチ」について、品質経営活動を、相互に関係しつつ一体的な有機的集合体として機能する一連の業務であると認識し、管理するという経営管理の方法論であると説明している(2.3.4.1)。規格はその序文(0.3.1項)で、このように品質経営に必要な一連の業務を有機的集合体としてそれらの実行を管理するという状況であるための、すなわち、品質経営活動をプロセスアプローチという方法論に則って行うための必須の要件が4.4項に規定されていると説明している。
   
  さらに、規格のプロセスアプローチの説明においては(0.3.1項)、このような業務とその全体としての品質経営活動の効果的な管理には、PDCAサイクルを適用することが必要と明記し、規格の章構造をPDCAサイクルで説明している。
 
  08年版のプロセスアプローチに関するTC176指針(7)では、プロセスアプローチによる品質経営 活動を、品質経営の各業務を他の業務と関連づけて行い、それぞれの業務が狙いの業務結果を出し、それらの総合的結果として品質経営の業績目標である狙いの顧客満足の状態を実現させるという形の、体系的で組織的な業務実行の活動であるとして説明している。この説明では、PDCAサイクルの「計画‐実行‐点検‐処置」の循環的活動に倣った「計画‐履行‐管理‐継続的改善」という循環的活動を表すプロセスアプローチサイクルを用いており、これを各業務が狙いの結果を確実に出すためと、品質経営活動が狙いの顧客満足の状態を確実に実現させるためとの両方に適用するという品質経営の方法論としてプロセスアプローチを説明している。
 
  PDCAサイクルは品質管理の用語であったが、とりわけ日本では、意識するとしないによらず、その考え方は広く経営管理の様々な活動や業務の管理にも取り入れられ、実践されている。プロセスアプローチサイクルはPDCAサイクルに準じたものであり、これを含めてプロセスアプローチの概念はISO9001規格に特有の概念ではない。用語「プロセスアプローチ」が初めて登場した00年版のISOによる広報文書(2)においては、「今日の多くの組織で実際に業務が行なわれる様そのものを表す」とこれを明確に認めている。この広報文書の認識は、マネジメントシステム規格が規格執筆者の創造物ではなく、世の中の経営管理の様々な考えや手法の中から多数の組織が実践し成功している優れたものを抽出し、整理したものであるという、規格の性格に照らして当然のことである。
 
 
(2) プロセスアプローチの意義 
  プロセスアプローチの意義についても様々に説明されるが、最終的な効用は必要な狙いの顧客満足の状態が確実に実現できるということである。これを15年版指針規格(155)では、品質経営の原則の「プロセスアプローチ」の説明の中で効用について、狙いの顧客満足の状態を効果的、効率的に実現できると説明している(2.3.4.1)。
 
  プロセスアプローチは品質経営活動の方法論であり、上記の効用を得るための機構に関連して次の2種類の方法論がとして理解することができる。
 
① 体系的で組織的な経営管理活動の枠組み
  組織が必要な経営目標を多くの人々の努力を結集して効果的に且つ効率的に達成するには、業務実行を専ら人々のそれぞれの考えや判断、能力に委ねるのではなく、人々が確立した枠組みの中で管理された状態で業務を実行するようになっていなければならない。この体系的で組織的な業務実行の枠組みがプロセスアプローチ サイクルである。例えば、規格序文の、品質経営体制の各業務の相互関係と相互作用を管理することによって、それら業務の全体としての品質経営活動の業績を向上させることができるとの説明(0.3.1)は、このことを指す。
 
  すなわち、顧客満足の追求に関係する一連の業務が全体として業績目標としての狙いの業務結果を達成するように、各業務の必要な業務結果を明確にし、それを確実に達成できる業務実行の手はずを整え(計画)、要員にこの手はずに則って業務を実行させ(履行)、狙いの通りでない業務結果を抽出し除外して業績目標の達成を図り(管理)、この生じた問題を正し、また、問題が起きないように手はずを改善し強化する(継続的改善)。このプロセスアプローチ サイクルの枠組みでは、すべての人々の業務がトップマネジメントが必要と判断して決めた品質方針及び組織の品質目標(5.2項)の達成を目指して行なわれ、かつ、誰がいつ業務を行なっても、組織として最も効果的で、可能な最高の効率、最低のコストで最も安全に業務が実行され、所定の業務結果が確実に得られる。
 
  プロセスアプローチ サイクルの枠組みにより品質経営を行なうことにより、トップマネジメントの号令一下、すべての人々が組織の事業の維持発展に向けて協働する状況が実現し、これにより必要な顧客満足が確実に実現できる。
 
継続的改善の枠組み
  時代の変化に追随して顧客満足の状態の狙いを変更し、これを確実に実現するということにより組織の永続的な維持発展を図る品質経営の活動では、その実現すべき顧客満足の状態を品質方針及び組織の品質目標(5.2項)として定め、この実現のための業務と業務実行の手はずを整えることはプロセスアプローチ サイクルの「計画」であり、その「履行」と「管理」により「改善」を図る。時代の変化により不都合になった狙いの顧客満足の状態を時代に対応するものに変更する活動、及び、各業務に生じた狙いの通りでない業務結果にはそれを正す処置は、どちらも規格では「品質経営体制の有効性の改善」である。
 
  この繰り返しの「継続的改善」によって、時代の変化の中を一貫して顧客満足の製品を供給し続けることができ、或いは、無限持続体としての組織の存続発展に必要な顧客満足の状態を実現、維持し続けることができる。また、問題を検出し、正し、起きないようにする「管理」「継続的改善」を繰り返すことが、必要な顧客満足を確実に実現する業務能力の改善に繋がる。例えば、プロセス アプローチを「本質的に継続的改善の動的なサイクル」である(7)とする説明は、この意味からである。
 
 
(3) プロセスアプローチの由来
  「プロセスアプローチ」という名称は00年版で登場したが、これは94年版が基礎としていた関連業務の網目構造で表される体系的で組織的な業務実行の原則(136)を引き継いで命名されたものである。94年版では規格の各条項の標題が表す業務は、「品質システムの要素」と呼ばれ、すべての要素について確立した手順を文書化する必要が規定されていた。しかし、この体系的で組織的業務実行を強調する意図の文書化の規定が誤解を生んで、文書化が目的化した規格取り組みとなることが欧米で多かったと言われる。プロセスアプローチが00年版で殊更に強調されるのは、この反省であり、手順に則って業務を行うという規格の意図に沿う実務的な取組みに戻すためだったとする説明がある(21)。これに関連して94年版の規格構成と条文項記述を、プロセスアプローチとの対比で要素アプローチと呼ぶ解説もある。
 
 
§43.3 品質経営活動の2つのプロセスアプローチ/PDCAサイクル
  規格は、製品サービスの顧客満足の追求により組織の永続的な存続発展を図る品質経営の在り方を規定している。その基本要件は、あるべき顧客満足の状態に関する経営戦略を時代の変化に応じて適切に変更し、それを確実に実現させるという循環的活動として品質経営活動を行うことである。この循環的活動は、必要な顧客満足を追求するプロセスアプローチ/PDCAサイクルの活動と、契約又は注文に対して狙いの顧客満足の状態の実現に適う製品サービスを顧客に引渡すことを確実にするための製品サービス実現のプロセスアプローチ/PDCAサイクルの活動とのふたつの循環的活動から成る。
 
  プロセスアプローチサイクルは、計画‐履行‐管理‐継続的改善の4段階の繰り返しであり、その4段階は、通常のPDCAサイクルの計画‐実行‐点検‐改善の4段階と等しい。「計画」は業務の実行の手はずを整えることであり、「履行」はJIS和訳では「実施」であるが、整えられた手はずに則って業務を行うことであり、「管理」は業務実行と結果が手はずの通りかどうかを評価判定し、手はずの通りの結果又は製品サービスだけを次の業務に供することであり、「継続的改善」は手はずの狙いの結果でなかった業務結果を正し、また、再発防止の処置を決めることである。
 
① 顧客満足追求のプロセスアプローチ/PDCAサイクル
  組織の存続発展を維持するためには、時代に応じて適切に狙いの顧客満足の状態を見直し変更し、これを確実に実現しなければならない。
 
  狙いの顧客満足の状態を確実に実現させるためのプロセスアプローチ/PDCAサイクルでは、決めた狙いの顧客満足の状態を品質方針及び組織の品質目標に表し(5.2項)、その実現のための業務の実行と管理の手はずを整え(6.1項)、それら業務を実行し(8章)、実現した顧客満足の状態が狙い通りかどうかの合否判定を行い(9.1項)、検出された問題に必要な処置をとり(10章)、狙いの顧客満足の状態の実現の確実な実現を図る。更に、この実績と変化する内外の事情の変化(4.1/4.2項)に応じて、必要により顧客満足の状態の狙いを変更して(9.3.3項)、次のサイクルを繰り返す。
 
  時代の変化にもかかわらず適切な顧客満足の状態の狙いを維持することを確実にするこのプロセスアプローチ サイクルは、経営論のマネジメントサイクル§33をPDCAサイクルの形で表したものである。
 
  また、実務の品質経営ではこのプロセスアプローチ/PDCAサイクルの循環的活動は、トップマネジメント主導の活動であり、狙いの顧客満足の状態は品質経営活動の業績目標であるから、業績目標管理の活動である。
 
② 製品サービス実現のプロセスアプローチ/PDCAサイクル
  狙いの顧客満足の状態を実現させるためには、契約又は注文に対して、その狙いの顧客満足の状態の実現に適うように顧客の想いのニーズと期待を満たした製品サービスを顧客に引渡さなければならない。
 
  狙いの顧客満足の状態の実現に適う製品サービスを顧客に引渡すことを確実にするためのプロセスアプローチ/PDCAサイクルでは、狙いの顧客満足の状態の実現に適う製品サービスがどのようなものかを決め(8.2.2項)、その製品サービスの実現の方法を決め(8.1項)、実現のための製造又はサービス活動を行い(8.5.1項)、決められた通りの製品サービスであるかどうかの合否判定を行い、発生した決められた通りでない不良品に対して必要な処置をとり(8.7項)、合格品だけを顧客に引き渡す(8.6項)。検出された業務実行の問題を正して(10章)、不良品を顧客に引渡すことのない業務能力を高めて、次の契約又は注文で次のサイクルを繰り返す。  
 
  決められた狙いの顧客満足の状態の実現に適う製品サービスを顧客に引渡すことを確実にするためのプロセスアプローチ/PDCAサイクルは、製品サービスの実現の各業務(8章)を繋いだプロセスアプローチ/PDCAサイクルであり、普通のPDCAサイクルである。
また、実務の品質経営活動ではこのプロセスアプローチ サイクルの循環的活動は、製品サービスの実現に係わる業務がその狙いの業務結果を出すための管理であり、業務が決められた通りに行われ、決められた通りの結果が確実に出るようにする業務実行管理の業務であり、管理者の業務である。また、業務結果は業務目標であるから、上記①の業績目標管理に対して業務目標管理のプロセスアプローチ サイクルである。
 
   
§43.4 品質経営体制確立のプロセス アプローチ/PDCAサイクル
  規格は、品質経営の活動を必要な狙いの顧客満足の状態を確実に実現するように体系的で組織的に行うことを、プロセスアプローチ/PDCAサイクルで品質経営活動を行なうことに準えて、08年版(4.1)では「品質経営体制を確立し、履行し、維持し、有効性を継続的に改善する」、15年版(4.4項)では「品質経営体制を確立し、履行し、維持し、継続的に改善する」と表現している。この表現は、両版で、また規格内条項によって若干異なるが、いずれの場合も意図的な違いではなく、単なる表現の不完全さ或いは不統一さの問題であり、品質経営を体系的、組織的に行なわなければならないという趣旨には変わりはない。
 
① 品質経営体制を確立する
  英文は“establish”で、恒久的なものとするとの意味$7であり、「しっかりとうち立てること」という意味(113)の日本語の「確立する」とほぼ合致する。品質経営体制とは、品質経営の業務ないしその実行の手はずの集まり、各業務の手順と使用する資源の集まりである。品質経営体制の確立とは、いつでも誰によってもこの手はずに則って業務が行なわれるよう、手はずが関係者の共通理解となっており、実行に必要な状況が整えられている状況である。
 
  必要な顧客満足を確実に実現するためには、品質経営のそれぞれの業務をどのように行なうかを、要員のそれぞれの推量や判断、裁量の必要のない程度に明確に定められ、そのように実行できるように必要な用意がなされていなければならない。このような確立した品質経営体制の下で業務を実行することは、要員の創意工夫を否定するものではない。創意工夫の結果を要員がそれぞれに自身の業務実行の改善にだけ役立てるのでなく、個人の創意工夫の結果を品質経営体制の手はずの中に採り入れ、手はずの一部として確立することによって、その効用を組織全体のものとすることができる。これは、⑤の品質経営体制の有効性の継続的改善の一部である。
 
  ISO9001規格を導入していない組織でもほとんどの場合は、その経営には品質保証の観点があり、一定の枠組みで事実上品質マネジメントが行なわれている。その既存の品質マネジメントの業務を規格の定める要件に照らして見直し、不足している業務やあいまいな業務について手順と資源を明確にし、それに基づいて業務が行なわれるような状況にすることが、「規格に従って品質経営体制を確立する」ということである。
 
  また、品質マネジメントの業務に問題が生じた場合にはこの改善のために手順や資源を変更しなければならない。これは品質経営体制の変更と見做され、これは新しい品質経営体制の確立と見做される。品質経営体制の確立は、手はずを整えることであるから、PDCA/プロセスアプローチ サイクル の繰返しのP/計画でもある。
 
② 品質経営体制を文書化する
  94年版では、すべての条項でその業務の手順の文書化の必要を規定していた。00年版では「組織内の業務の効果的な計画、運用及び管理を確実にする」ためには手順の文書化が必要であるとなり (4.2.1)、15年版では「品質経営体制の文書化」が品質経営体制のプロセスアプローチ/PDCAサイクルの段階から無くなった。実務的には、決めた品質経営体制の業務の手はずは、文書に表わすことにより、組織内の必要な部門、要員に効果的に伝達され、理解され、より確実な関係者の共通認識とすることができる。実務的には、文書化によって初めて品質経営体制が確立したということになる。15年版の表現では、文書化の段階が不要になったのではなく、「確立」に包含されたと受けとめるとよい。
 
③ 品質経営体制を履行する
  JIS和訳は「実施する」であるが、英文は“implement”で)あり、この英語は単に実行するというのではなく、決められていたものを実行に移すという意味$4であり、日本語では「履行する」が近い。規格の意図は、確立した手はずに則って業務を実行するということである。
 
④ 品質経営体制を維持する
  「維持する」は“maintain”であり、品質経営体制が必要な顧客満足を実現できるという状態を保つという意味$5である。品質経営体制の履行において、狙いの業務結果が確実に得られるように品質経営の業務実行を管理することであり、問題が生ずれば正し、品質経営の業務の手順や資源に必要な変更を加えることである。 手順や資源を変更することは、品質経営体制の変更であり、これは品質経営体制の新たな確立である。「維持する」はPDCA/プロセスアプローチ サイクルのC/管理に相当するが、実質的には次のA/継続的改善やP/計画をも含む活動である。
 
⑤ 品質経営体制の有効性を継続的に改善する
  規格の定義#4で「有効性」とは「計画した活動を実行し、計画した結果が達成した程度」である。品質経営体制は、組織の発展に必要な顧客満足を実現することを狙いとする品質経営の実行体制であるから、「計画した結果」とは狙いの顧客満足のことである。その有効性とは、品質経営体制に従って品質経営活動を行なうことで狙いの顧客満足を実現できる程度のことである§11.3
 
  必要な顧客満足の姿を明確にし、これを実現できるように手はずを整え、これに則って業務を実行し、業務実行と結果が所定の通りでない場合にはこれを正し、この改善された手順や資源を品質経営の手はずとして取り組むという、体系的で組織的な品質経営の実行を継続することにより、業務が定められた通りに実行され、定められた業務結果を得ることの確実性を増すことができる。以て、事業の維持発展に必要な顧客満足をより確実に実現できるという組織の品質経営の業務能力が向上する。
 
  顧客のニーズと期待は高度化し変化するから顧客満足を得る困難さは時代と共に増す。従って、現状に安住せず、必要なこと、決めたことは確実に実現させる品質経営の業務能力の改善に努めなければならない(131)。「品質経営体制の有効性の継続的改善」は、08年版(8.5.1項)で「品質方針、品質目標、監査結果、データ の分析、是正処置、予防処置、及び、マネジメント レビュー」のプロセスアプローチ/PDCAサイクルの繰り返しによって行なわれると規定されている。つまり、品質経営体制の有効性の継続的改善は、品質経営をPDCA/プロセスアプローチ のサイクルに則って行なうことそのものでもある。
 
注釈
§1 など:  論理及び用語                   こちら<sub33b>
*Q1など:  改定版解釈に関する引用資料  こちら <sub02>
$1など:  英文解釈                          こちら <sub03>
#1など:   用語の定義                       こちら <sub04>
(1) など:  引用文献                         こちら <sub05>

H26.12.12、 改・追加(H28.1.20) 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所