ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
§1
環境保全規格 ‐ ISO14001 ISO14001:2015
 論理と用語   
33b-03-01
§論理と用語   #用語の定義    $英語解釈 は、全項目執筆の後に整理します。
 
§0.1 概要   こちら
 
§0.2  実務の視点和訳⇔JIS和訳の対応:

     
環境業績 ⇔ 環境パフォーマンス #54-1; 環境経営 ⇔ 環境マネジメント$19-0-1;
      環境経営体制 ⇔
環境マネジメントシステム$19-1-3;
 
  
§0.3  目 次

§1.1 ISO14001規格の起源
§1.2 環境保全規格
§1.3 規格導入の効用
 
 
§1.1 ISO14001規格の起源

  ISO14001規格が1992年のリオネジャネイロでの地球サミット(国連環境開発会議:UNCED)をきっかけとして、作成されたことはよく知られた事実である。地球サミットは国連が主催する地球環境問題取組みの3回目の国際会議であり、産業に付随する環境影響が地域住民の健康被害や地域環境の悪化をもたらすだけでなく、人類の生存さえ脅かしかねない地球規模での自然破壊に向かっているという危機感を世界が初めて共有し、地球環境の保全の必要性の認識で一致した歴史的な場である。会議では、国連の環境と開発に関する世界委員会(WCED)の報告書の「持続可能な発展」の実現、或いは、持続的発展可能な社会の確立に向けての、各国の政府と各界、各機関や団体が取組みや施策が報告され、或いは、誓約が行なわれ、取り決めが結ばれた。
 
  地球環境の観点からは人間社会は基本的に自然からの収奪で成り立っており、すべての産業活動は環境破壊を伴う。産業界は公害時代から環境悪化の最大の原因者として社会や規制当局からの厳しい目に曝され、事業継続のために公害対策や省エネルギー、省資源等の様々な施策をとってきた。しかし、環境悪化が地域的な公害を越えて地球規模に拡がり、気候の変動や資源の枯渇など自然破壊にまで範囲が拡がり、このまま地球環境の悪化が進むといずれは産業界の活動の存立自体が脅かされることになりかねない。一方で産業の事業活動は人の生活を支え、人間社会を豊かにするのに不可欠な活動でもある。この現実の上に立って、地球環境保全と産業活動の両立を図らんとするのが、1987年のWCEDの東京宣言で示された「持続可能な発展(sustainable development)」の原則である
(25)
 
  地球サミットの準備を進める国連関係者からの呼びかけで、産業界では地球サミットでの誓約をまとめるためのBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)が組織された。これには日本の経団連からも代表が参加しており、このBCSDからISOに対して企業の地球環境取組みに関する国際標準の作成の依頼が行なわれたことまでは、多くの説明が一致している
(26)(27)(28)
 
   BCSDのISOへの依頼は、地球サミットでの産業界の環境取組みの誓約に関係し、環境問題と問題対応能力に国や地域により大きな違いがあるという事情の下でも、事業組織の環境影響低減の努力を持続可能な社会の実現との関連で評価できる普遍的指標の策定であったと言われている。地球サミットには間に合わなかったが、ISO/TC207は、環境取り組みのニーズと能力の大きく異なるすべての事業組織に適用できる、組織の環境保全責任の果し方の国際標準としてのISO14001規格を、1996年に発行した。
 
 
§1.2 環境保全規格
(1) 環境経営の国際標準

  ISO14001規格の序文は地球サミット開催当時の産業界の置かれた状況を、地球環境への社会の関心と法規制が強まり、今や事業活動に付随して発生させる環境影響を無視しては事業活動を維持できない状況にあると看破している。すなわち、初版規格の序文第3節に「あらゆる種類の組織は,その活動,製品及びサービスが環境に及ぼす影響を管理することによって、自らの環境方針及び環境目標に整合した健全な環境保全業績を実現し、示して見せることへの関心を高めてきている。組織のこのような対応は、厳しさを増す法規制、環境保全を促進する経済政策及びその他の施策の進展、並びに、環境問題及び持続可能な開発に関して表明される利害関係者の懸念の高まりを背景としている」と記している
$90-1
 
  そして、それまでの産業界の環境取組みを、社会から糾弾されたり公害訴訟を受けたり、法規制強化に当面するなど問題が発生した都度、対策を見直し対応するというような場当たり的対応ではなかったかと指摘している。これは序文第4節冒頭の「多くの組織は事ある毎に、その環境保全実績を評価する環境“一斉点検”や環境“監査”を行なってきた」という記述
$90-2が意図するところである。この指摘は、このような組織の日常業務の管理活動であり、決められた通りの環境影響の水準の実現を図る環境管理(environmental control)活動としての環境取組みが、社会のニーズや法規制に遅れをとり、不祥事を起こしたりした事例の背景であり、地球環境の悪化を抑制できてこなかった理由であったという見方を示唆している。
 
  序文は続けて、今日の状況の中を事業組織が環境問題でつまずき、事業の維持発展に齟齬を来すようなことのないように環境問題に取組むには、事業活動起因の環境影響の発生の防止と削減を経営の課題として取り上げ、社会のニーズや法規制の将来をも見据えた体系的な環境取組みと環境影響の管理が必要であるという主張を展開している。すなわち、第4節では冒頭の問題認識に引き続き、「これらの“一斉点検”や“監査”だけでは、組織の環境保全実績が法規制及び環境方針を満たすだけでなく、以降も満たし続けるだろうということを組織に保証するには十分ではないことが多い。それらが効果的であるためには、組織内に確立した経営管理の枠組みの中で行なわれることが必要である」と
$90-3、問題解決の方向を明確にしている。
 
  規格のJIS和訳「マネジメント」の英文は“management”であり、規格の意図では組織の経営管理のことであり
$19、同様に、「環境マネジメント」は“environmental management”であるから日本語では「環境経営」である$19-0-1。すなわち、環境への対応という点からの経営管理活動であり、上記の規格序文に明確にされているように規格の意図では、地球環境保全を含む環境取組みの観点から組織の維持発展を図る経営管理活動のことである。
 
  環境問題に経営の課題として取組むということは、経営者が組織の事業の維持発展のためにどのような環境影響をどの程度に抑制することが必要か、可能かということを経営判断として決定し、必要な投資を行い、日常の環境管理活動によって環境影響を決めた通りの範囲に納め、或いは、決めた通りに低減することを図ることである。これが規格の「環境マネジメント システム」の表現における「環境マネジメント」の意図の「環境経営」である。組織が環境問題に効果的に対応して事業の継続と発展を図るには、従来の環境管理(environmental control)ではなく、これを含む環境経営(environmental management)としての取組みが必要である。この国際標準たるISO14001は従って、管理者が日常業務に適用する環境管理の手法の規格ではなく、経営者が環境取組みの観点から組織の事業を方向づけ、統括する環境経営の在り方を規定する規格である。
 
 
 (2) 規格の環境取組みの原則(EVABAT)
  組織が環境保全責任を果すための環境取組み、すなわち、組織起因の環境影響の低減の追求の在り方についての規格の意図は、15年版序文(0.2項)で初版(序文第6節)の記述の趣旨を引き継いで、「この規格の目的は、社会的ニーズと経済的ニーズの調和を図りながら環境を保護し変化する環境状態に対応する枠組みを組織に提供することである」という表現で明確にしている
$90-4
 
   ここに、前者の社会的ニーズとは環境影響を低減させる必要のことであり、規格の規定では利害関係者のニーズと期待(4.2項)と表現されている。規格の環境改善取組みが一義的に利害関係者のニーズと期待を指針として行われるべきことは、初版の序文の第10節の「環境経営体制は広範囲な利害関係者のニーズ及び環境保全に関して高まりつつある社会のニーズに対応するものである」として明確にされている。実務的にはこの利害関係者とは、実務的には、組織起因の環境影響に利害を有し、その低減を必要とし又は期待している人や団体のことであって、その支持や支援なしに組織が事業を継続することができない人や団体のことである。具体的には、地域住民、規制官庁から、顧客、投資家、株主、更に、市場、社会、はては地球市民にまで至る広範囲な概念の人や団体が、これに当たる。例えば、過去の公害問題で訴訟を起こされ、操業を制限され、或いは、取引を中止され、製品が売れなくなった事例における組織の相手方であり、近年見られるようになった環境投資や環境融資、優先契約など、組織の環境取組みを理由として組織に利益を供与する相手方のことである
§19.3
 
  後者の経済的ニーズとは、人々の豊かな生活を担う組織の事業の存続発展の必要のことであり、環境影響を低減させるのに必要な投資や事業コストを組織がどこまで受容できるかということに関する。これは初版規格の序文の第13節後半で「組織が環境保全目標を達成するに当たって、必要なら、そして経済的に可能なら、利用できる最良の技法を適用することを考慮し、また、それら技法の対費用効果を十分に考慮することが望まれる」として説明されている。いわゆるEVABAT(経済的に実行可能で利用可能な最良技術
$91の考えである。
 
  規格の環境問題対応の経営管理活動の狙いは、組織の事業に付随する環境影響を、利害関係者のニーズと期待に応えて技術的、経済的に可能な精一杯の低減努力をして、地球環境の悪化を防止することである。規格は地球環境悪化に繋がるからとして組織の事業活動を否定するものではない。また、法規制とは異なって、組織が発生させてはならない環境影響やその水準を決めてはおらず、環境影響の継続した改善の努力を求めているが、実現すべき環境影響の水準は決めていない。だからと言って、発生する環境影響を放置したり、対応可能な環境影響の可能な低減さえ図ればよいということでもない。地球サミットの枠組みにおいて産業界に期待される環境経営とは、組織が環境保全と事業の維持発展を両立させて持続的発展可能な社会を確立することに責任を果たすことである。
 
  ISO14001の意図の環境経営の効果的実行によって、組織は事業に付随する環境影響を緊要なものから改善していき、利害関係者の理解や支持を得てその事業を継続的に存続、発展させていくことができる。環境改善の進捗と時代の変化に伴い利害関係者のニーズと期待は変化し、技術の進歩や組織の財務体質の強化も期待できるから、組織の取組む環境影響の種類と水準が変わっていく。規格の表現では、これは環境業績の継続的改善であり、これを確実に実現させる組織の経営管理の業務能力の進歩は環境経営体制の継続的改善と表される。
 
  このような環境取組みを世界のすべての組織が行えば、やがて地球環境の悪化は止まり、次世代以降にも続く持続的発展可能な社会が実現するだろう。ISO14001規格のこの論理はISO9001規格の品質保証の論理のように実績に基づき証明されたものではない。しかし、持続的発展という地球環境保全の論理と同様、持続的発展可能な社会の実現のための事業組織の行動指針として優れた論理である。少なくとも今日の時点でこれに変わる論理は存在しないことは確かである。
 
  しかしながら、このEVABATの環境取組み原則は、規格特有の経営管理手法ではなく、マネジメントサイクル
§33の繰返しとして表される、経営論の事業の永続的な存続発展を図るために業績を継続的に向上させていく一般的な経営管理の方法論§35.2を、持続的発展可能な社会の実現を目指す地球環境保全に取り組む環境経営の方法論として言い換えたものでもある。
 
 
§1.3 規格導入の効用
(1) 規格導入の効用
  ISO14001規格は事業活動を行う組織が現在から将来にわたってその存立を確実にするために、自身の事業活動に起因する環境影響の管理と継続的な改善に経営の課題として取組むための、効果的な経営管理の業務実行の要件を規定している。この経営者主導の環境取組みとは、組織が経済的、技術的に可能な最大限の努力を以て利害関係者のニーズと期待に応える環境影響の管理と改善を行うことである。
 
  規格に則って環境経営を行なう組織は、次の効用を得ることができる。
 
@ 地球環境の悪化の阻止に貢献して、組織の長期的な存立基盤の確保に道をつけることができる。
A 利害関係者の事業活動に対する信頼感と理解、支持を確立し、支援を受け特典に与り、事業の安定的な存続発展の可能性を高めることができる。
 
また、このような環境経営の過程で、次のような効用を確実なものとすることができる。
 
@ 法規制違反摘発、操業反対デモ、環境訴訟、損害賠償要求の回避
A 環境事故を起こさない供給者として取引先からの受託業務、製品サービス取引の拡大
B 環境配慮組織の製品サービスとして、グリーーン購買、環境に敏感な顧客層への売上拡大
C 環境対応組織に付与される取引上の特典に与り、又は、新規参入の機会を得る
D 環境対応組織としての低利融資、株価値上がり等による金融利益の得る
E 地域環境汚染の改善、及び、環境事故の発生の回避
F 環境対策最新技術の適用によるコスト削減
 
 
(2) 第三者認証制度
  ISOが ISO14001規格の作成に入った時期には、ISO9001規格が第三者認証登録制度と合わせてその導入の有効性が評価されて世界に急速に広まっていた。そのため ISO14001は当初から、組織の規格導入と合わせて、適合性を利害関係者に明確にするための自己宣言又は第三者認証登録の枠組みを適用することが意図された。組織が規格に従って環境経営を行うことは、環境影響発生がゼロではなくとも利害関係者のニーズと期待に沿う技術上、経営上可能な最大限の努力をすることであり、ISO14001に意図された第三者認証登録制度は、このことを利害関係者に保証する枠組みである。序文第9節はこのような規格の実践の効用を「組織はこの国際規格の首尾よい履行を、適当な環境経営体制が存在することを利害関係者に保証するために利用できる」として説明している
$90-5
 
  事業組織にとって製品サービスの品質が事業活動に必須のものであるのに対して、製品サービスが売れ又は取引が続く限り、環境取組みはコスト要因に他ならない。環境設備投資によるコスト低減と収益向上も狙いの通りの生産量を達成した後に得られる効用に過ぎず、その場合でも環境取組みを全く行なわない場合に比較するとコストは高い。環境取り組みのこのような本質に鑑みると、持続的発展可能な社会の実現が旗印とされても組織に法規制以上の自主的な環境取組みを期待するには、ISO14001に基づく環境取り組みが必要なコストに見合う経営上の利益をもたらす仕組みを設けることが効果的である。規格作成者は、当時の時代背景から、組織の環境取り組み努力を公正な第三者が認証する枠組みによって、利害関係者に組織への信頼感が育まれ、それに基づく上記(3)の@〜Dのような様々な形の経営上の利益がもたらされるものと考えたに違いない。
 
  組織が規格実践を利害関係者に訴える方法として、上記序文第9節
$90-5は、認証/登録と自己宣言を挙げているが、実務的には利害関係者がどちらを信用するのか問題である。
H28.11.3  修正11.27
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サニーヒルズ コンサルタント事務所