ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
顧 客 満 足 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その1>
35-00-01
JISQ9001:2000  8.2.1 顧客満足     
   
組織は、(中略) 顧客要求事項を満足しているかどうかに関して顧客がどのように受けとめているかについての情報を監視すること。
1.顧客満足の意義
   2000年版規格は製品の品質保証に加えて顧客満足の向上をも目指していると説明(0.1)されている。規格では、顧客は常に「自らのニーズと期待を満たす特性をもつ製品を求めている」(JISZ9000:2.1)と考えられ、この顧客のニーズと期待を顧客要求事項と呼ぶ(同)。そして、「顧客要求事項が満たされた程度に関する顧客の受けとめ方*」が顧客満足(同:3.1.4)である。つまり、大満足かぎりぎり満足かというような問題ではなく(JISQ9001:解説 3.2 e))、顧客満足度のことである。実際、JISQ9004では顧客満足度(8.2.1.2)と訳されている。
 
  製品を買ってもらわなければ成り行かないという意味で、組織は顧客に依存している(同:0.2 a))。顧客が製品を買ってくれるのはその製品に相応の満足をしているからであり、競合相手の製品より相対的に高い満足を感じているからである。従って、組織の存続、発展のためには、「顧客要求事項を満たし、顧客の期待を超える」(同)ように努力しなければならない。顧客満足の向上を追求することによって、他組織に伍して、あるいは、打勝って、顧客や市場において”選ばれた供給者(supplier-of-choice)”の位置づけを獲得することができ(1)、あるいは、”継続的注文(follow-on orders)”を確保することができる(2)。これが規格の顧客満足の意義である。
 
    しかし、規格は顧客満足の中身は何も規定していない。どんな顧客満足のどの程度の水準を狙うのかは、製品や事業の性格、競争の状態など諸事情を勘案して、事業の維持発展のために必要かつ十分との観点から、それぞれの組織が判断し決めることである。 期待通りの売上が確保できているとすれば、必要な顧客満足が得られていると考えればよいかもしれない。しかしいつまでも売れるとは限らない。もっと事業規模を拡大したいなら、顧客満足の更なる向上を目指さなければならないし、時代の変化に対応した新製品を投入しなければならない。欺いたり、強制して顧客に買わせることができる時代ではないのである。なお、認証登録の条件は規格要求事項に沿って顧客満足向上を目指すマネジメントを行うことだけである。
   
   
2.市場戦略としての顧客満足
   今日、経営の中心に顧客満足をおくことを公言する企業は珍しくない。この顧客満足の概念は、「企業が永続し成長するには顧客が創造・維持されなければならず、それには顧客満足を軸にした売れる仕組みとアイデア・発想の新機軸が大切である」とのP.Drucker氏の主張(3)が出発点であるとされている。日本製品が品質で世界を席巻した1980年代、米国では日本の成功の背景を様々な角度から研究した。この集大成とも言え、米国産業再生の処方箋でもある国家経営品質賞の審査基準(4)には、顧客満足への取組みが全評価点の21%の重さを占めるほどに重要視されている。そして、「顧客本位の価値創造と提供の仕組みを構築し、クオリティと生産性を向上(5)」させたことにより、瀕死の米国産業が1990年代には見事に蘇った。
 
   市場競争がグローバル化し激化が進む1990年代には、販売や市場開拓を意味したマーケティングが顧客創造の役割を担う活動として経営の中心に位置づけられることにもなった(6)。 顧客創造は、顧客のニーズを探り、それを満たす活動によってもたらされる。顧客のニーズを満たすことが顧客満足であるが、田口氏(7)は顧客の欲求という概念を採り上げ、顧客が認識している欲求と認識していない欲求とがあり、後者を満たすことが「本来の満足の提供と言える」と述べている。嶋口氏(8)は顧客の感じる不満に、”怒りを伴う不満”と”単に満足していない”の2種があり、前者の苦情に対する修復型対応ではなく、意思表明のない後者を満足状態にする先回り型の満足追求が顧客創造に大切と記している。 顧客の要求通りの製品では競合他組織と同じ満足しか与えることができないから、競争優位を得ることはできない。顧客のニーズは、顧客の明示の要求を超えて、組織が探り、推し測るべきものであり、それを製品に転化する際の、製品における新機軸と他組織にない製品を提供する差別化が、顧客満足の要諦である。
   
    佐藤氏(6)は顧客満足を、「商品、サービス、更に企業理念などについて顧客が自分の基準によって納得の得られるクオリティと価値を見出すこと」と定義している。この顧客の判断基準は顧客評価価値(customer value)と呼ばれ、提供される製品、サービスの価値だけでなく、組織や製品のイメージ、専門知識、接客態度などで顧客が受けた総合的な印象に支配される(6)と考えられている。この考えでは、顧客評価に影響を及ぼすものは何でも製品である。事業目的の製品、サービスはもちろん、営業など顧客との対面で行われる活動から、製品と直接関係のない経営理念の類まで、顧客の印象に影響を及ぼす要素は”サービス”であり、製品である。製品品質と無関係な不祥事の発覚で有名企業が廃業にさえ追い込まれる最近の一連の事例は、この理論の正しさの左証である。
   
    顧客満足の意義は一般消費者向け製品、サービスについて語られることが多いが、競争がある限り、契約型や下請け型、プロジェクト型など、如何なる形態の事業にもあてはまる普遍的原理である。部品調達など系列を超えた取引の拡大の最近の動きもその例証であり、下請けの集約、淘汰の話題にも事欠かない。
 
   
3.規格が意図する顧客満足
   ISOマネジメントシステム規格は、組織の業務に関するモデルを示すものであり、このモデルは規格作成者の独自の考えによって立つものではなく、世界の「この分野の専門家が最新の適切な考えであると合意した諸要素」(9)を採入れたものである。
   
  規格が顧客満足を扱うのは、前章1のように、顧客の製品を買って貰って組織が成り行くという認識に基づいている。規格はまた、「現実及び潜在的な顧客のニーズと期待」、及び、「現在及び将来のニーズと期待」という表現で顧客が意識しないニーズと期待に言及し、これらを「組織自体が理解し、考慮すること」(JISQ9004: 5.2.2)と、組織が探り推し測るべきことを明確に規定している。また、苦情がないからといって顧客満足が高いとは限らないし、顧客と合意した顧客要求事項を満たしても高い顧客満足を得られるとはかぎらない(JISQ9000: 3.1.4 参考)と、顧客満足の特質を説明している。更に、顧客のニーズと期待を満たすには「市場における競争を評価し、自身の弱点と将来の競争優位性を明確にする」(JISQ9004: 5.2.2) ことが大切と、競争と差別化にも言及している。  これらからも、規格の意図する顧客満足が前章2のマーケティングの最新の理論における顧客満足の概念と同じものであることは明白である。
   
    規格はまた、顧客との情報交換の活動(7.2.3 顧客とのコミュニケーション)、及び、顧客満足の情報収集(8.2.1 顧客満足)やその情報の解析(8.4 a) データ分析)を規定している。これらは、組織が顧客のニーズと期待を把握し理解し、あるいは、顧客価値を監視、評価するための活動を意味している。
   
     94年版でも品質要求事項に顧客の暗黙のニーズを反映させる考え(ISO8408: 2.3 参考1)はあったが、実際上は顧客と合意の規定要求事項を満たすことが顧客満足の向上に繋がる(JISZ9001:1 a))としていた。しかし、2000年版では、マーケティングや経営の原理として現実に世界で実践されている顧客満足の理論に準拠している。顧客満足に関する要求事項の解釈は、日本語条文の文言を根拠とするのではなく、現実の理論に沿って規格条文を読み解くことで行われなければならない。
 
   
4.製品を通じた顧客満足
   7.2.1項には「製品に関連する要求事項の明確化」の規定があるが、これは、これから製造ないし設計開発する製品の仕様に顧客のニーズと期待を反映させることを意味している。   7章の「製品実現プロセス」には、製造、サービスの提供のプロセスだけではなく、その前後のマーケティング、受注活動、製品の引渡し活動、付帯サービスの活動も含まれる。 定義(JISQ9000: 3.4.2 参考2)では、それらの顧客とのインターフェイスで行われる諸活動はサービス提供に当たるから、その結果はサービスであり従って製品である。そして、これら製品が顧客評価価値に影響を及ぼすのは前節の通りである。従って、製品関連要求事項には、事業目的の製品やサービスの機能、性能に関するもののみならず、製品実現の過程における顧客との接点での活動に関する顧客のニーズと期待をも含めることが必要であり、大切である。
   
    一方、顧客要求事項に関しては7.2.1項以外には何も規定されていないから、規格の狙いの顧客満足は製品についての顧客評価価値の範疇に限定され、経営理念や活動の倫理性などはこの規格は対象としていない。規格の論理が、進化を続ける実業の理論に追従できていないのか、あるいは、倫理マネジメントなど他のマネジメントの問題として整理されているのかも知れない。 なお、「製品関連要求事項」(requirements related to the product)と6章の「製品要求事項」(product requirement)とは英文法上同じ意味である。前者を製品以外の"関連"事項、例えば"関連するプロセス"などに意味を拡大するのは適切でない。
   
   
5.顧客満足向上に関する規格要求事項
   品質保証を目的とする94年版では、製品実現のプロセスが契約内容の確認(4.3)から始まり、顧客と合意した品質を製造、出荷することが要求事項の中心であった。2000年版では、どのような品質、仕様の製品を製造、出荷するのかは契約による顧客との合意の有無にかかわらず組織の責任と考える。製品が顧客のニーズと期待に合致すると顧客が判断する程度が顧客満足であり、組織はその製品、サービスが必要な程度の満足を得られるように、製品の品質、仕様(製品要求事項)を決定しなければならない(7.2.1 製品に関連する要求事項の決定)。このためには、組織は普段から顧客のニーズと期待がどこにあるのか、どのように変わっていくのかを把握すること(7.2.3 顧客とのコミュニケーション)が必要であり、引渡した製品、サービスが予期の満足を与え得たかどうかを、苦情の有無だけではなく、正しく評価、把握することが必要である(8.2.1 顧客満足の監視)。
   
   トップマネジメントは、このように事業活動が顧客満足向上に向けて確実に行われることに関与しなければならない(5.2 顧客重視)。規格は、このような顧客満足向上を軸とする事業活動の在り方を規定しているだけでなく、組織の必要を効果的に実現させるよう事業活動を指揮、管理するマネジメントの活動についても規定している。トップマネジメントは、顧客満足向上のための方向((5.3 品質方針)を明確にし、その実現を図るための目標(5.4.1 品質目標)を定め、実行させ、その結果は定期的に評価し(5.6 マネジメントレビュー)、必要な改善処置を決定しなければならない。マネジメントレビューによって、取り組みの方向(品質方針、目標)が見直され、また、新製品の開発を含み必要な顧客満足を得るための製品の改善が決定される。この繰返しによって、製品、プロセスの継続的改善(8.5.1 継続的改善)が図られ、組織は時代の変化にかかわらず常に、事業戦略の実現に必要な顧客満足を維持することができる。
   
 
6.まとめ
   組織の永続、発展は顧客満足の如何に懸かっている。規格の論理と要求事項はこの実業の顧客満足の理論に準拠している。顧客満足向上を図る要諦は製品の新機軸と差別化であり、組織は顧客明示の要求を超えて顧客のニーズと期待を探り推し測らなければならない。これは競争がある限りは如何なる形態の事業活動にもあてはまる原理である。しかし、顧客満足の緊要性は組織やその状況によって自ずと異なる。どのような内容でどのような程度の顧客満足を狙うのかは組織の判断である。顧客満足に影響するのは最終製品だけではなく、製品実現プロセスでの顧客との対面で実施される諸サービスを含む。しかし、規格はこれ以外の要素の顧客満足への影響は採り上げていない。
 
   
引用文献
(1) Bill Gaw: http://bbasicllc/total.quality.manajiment.htm
(2) R.Tricker: ISO9001:2000 For Small Businesses, Butterworth Heinemann,2001; (p.68)
(3) 嶋口充輝: 顧客創造, 蒲L斐閣, 1998.12.25; (p.2)
(4) NIST: Baldrige National Quality Program 2001, Criteria for Performance Excellence
(5) 味方守信: ISOMS, 2000.6, p.76; (p.77)
(6) 佐藤知恭: 顧客満足を超えるマーケティング,日本経済新聞社,1995.4.24; (p.99,96,100)
(7) 田口尚史: Enterprise Resource Magazine(sender@macky.nifty.com),創刊号,2002.6.3
(8) 嶋口充輝: 顧客満足型マーケティングの構図, 蒲L斐閣, 1994.3.10; (p.B)
(9) ISO中央事務局: The Magical Demystifying Tour Of ISO9000 and 14000; The basics,
    Generic management systemm standards
    <http://www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/tour/generic.html>

H15.2.15(改H15.6.19) 
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