ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
品質マネジメント 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その2>
35-01-02
JISQ9001:2000  4.1 一般要求事項
    
組織は、この規格の要求事項に従って、品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、かつ、維持すること。また、その品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善すること。
1.マネジメント
  「マネジメント」の英原語は management である。これはJIS規格では、「運営管理」「運用管理」とも訳されている(JISQ9000:解説 3.2 n))。    組織は存立の目的を追求する事業活動を行っているが、合わせて、その維持発展のための管理の活動が存在する。金子氏ら(3)は、この両者をそれぞれ作業活動と管理活動と呼んでいる。
   
   管理活動に関して経営論では、合併、多角化、製品転換など組織の在り方を決するのが”経営(administration)”であり、この経営の戦略、基本方針の執行のために人々はじめ資源を効果的、効率的に活用するよう作業活動を指揮管理する活動が”マネジメント”である。しかし近年、経営と所有の分離が進み、所有者が行っていた経営機能もトップマネジメントによってとりしきられるようになり、経営とマネジメントの区分があいまいになっている。今日、両者合わせて「経営管理」と呼ばれることが多い(4)。経営を司るのが経営者で、マネジメントを担うのが管理者である。
   
    経営の決定の実現のための方針、目標を設定し、組織全体の活動を統轄、管理する層がトップマネジメントであり、これに沿って部門内や各活動に関して作業活動を指揮監督するのがミドルマネジメント及びロアマネジメントである。    規格が規定するマネジメントは、「組織を指揮、管理する体系的活動」(JISQ9000: 3.2.6)であるから、これは、経営の決定を受けて、トップマネジメントが行う組織全体の運営管理活動のことである。
 
   
2.マネジメントの方法論
  経営論においては、マネジメント機能はそれを構成する要素に分けて考えられる。そしてマネジメントは、それら諸要素が相互に有機的に関連し合い、それぞれの結果を次の要素に反映させていくという循環の過程、つまり、マネジメントサイクルによって実行されると考える。このサイクルを廻すのが管理者である。  これら要素の分類は時代によって変化し、論者によって異なるが、兼子氏ら(3) は、次の6つの要素を挙げている。
  a) 計画(方針、目標の設定、達成計画策定)
  b) 組織化(責任、権限の明確化、協業のための情報交換)
  c) 指令(秩序ある活動のための指示、監督、指導、リーダーシップ)
  d) 動機づけ(意欲、協力精神を引出す方策)
  e) 調整(利害、見解の対立する諸活動の調整)
  f) 統制(計画と実績の対比で修整)
しかし、日常の運営管理活動がこの順番で行われているというのではなく、このサイクルは、マネジメントという組織の運営管理活動を管理する概念である。
  
   一方、規格が規定する運営管理活動の方法論については先(1)に考察した。即ち、方針、目標を定め、その目標を達成するというPDCAを廻すことである。つまり、a) とf) に焦点があてられており、このことから規格が、マネジメント機能の内の、計画の実行管理を重視していることが窺える。これら以外の要素も、4.2項(文書化)、5.5項(責任、権限、コミュニケーション)、6.2項(人的資源)、6.4項(作業環境)などで要求事項が定められており、内部監査(8.2.2)、マネジメントレビュー(5.6)などを通じてこれらを含めてマネジメントのPDCAが廻されるのだから、規格の5章から8章の記述自体が、規格なりのマネジメントサイクルを表現しているとも考えられる。
   
   マネジメントサイクルであれPDCAであれ、目標と実績との差異を測定し、目標の達成のために乖離を是正する管理において、是正のためにとられる処置は改善の処置である。組織の課題やニーズに対して目標を設定し、必要な組織体制、人などの資源を用意して、目標達成を図る改善の活動を繰り返すのがマネジメントの実体である。マネジメントは、組織が目標達成の能力を向上させ、その体質、業績を向上させる、本質的に継続的改善の活動である。
   
 
3.品質マネジメント
   如何なる組織にもマネジメントは存在している。組織が存続している事自体が。組織で必要な程度にマネジメントの活動が行われている証拠である。文書化されたり標準化されたりしているかどうか、あるいは、マネジメントの対象が広いか狭いかだけの違いである。規格ではこのような包括的な概念のマネジメントを、「既存のマネジメント」(0.4)、「組織のマネジメント」((JISQ9000: 2.11)、「全体マネジメント」(JISZ9901:用語 3.2)と呼んでいる。そして、規格が規定する品質マネジメントとは「品質に関して組織を指揮、管理する体系的活動*」あるいは「品質に関して組織を方向づけ、制御する統制された活動*」(ISO8402: 3.2.8)であり、組織の全体マネジメントの中の品質に関する側面である。マネジメントのこのような特定の狙いに関する種々の側面として規格は、環境、労働安全衛生、財務、危機管理の各マネジメントを例示している(0.4)。
 
 ところで、規格は1.1項(適用範囲 一般)において、品質マネジメントの意義を次のように規定している。
  a) 顧客要求事項を満たした製品を一貫して提供する能力をもつことができる
  b) 顧客満足の向上を目指すことができる
a)を品質保証の意味に受け取る考えもあるが、"顧客要求事項を満たす" とは顧客満足の向上と同義語(2)だから、a)も b)も、顧客満足の向上の意味である。すなわち、品質マネジメントは顧客満足の向上を扱う運営管理活動である。
 
  一方、品質が製品、サービスなど”もの”の特性を意味していた94年版の定義(ISO8402: 2.1)と異なり、2000年版では品質は「本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」(JISQ9000: 3.1.1)である。Hoyle氏(5)はこれを「品質とは、何かがどうあるべきかと実際にどうなのか、との相対的な概念」になったと受けとめている。同氏によると「この"何か”は、製品、サービス、文書、情報、などプロセスからのアウトプットのこと」であり、「アウトプットは通常、その特性でもって表現される」から、品質とはアウトプットが実際のニーズに対してどうかということである。定義に当てはめると品質とは「製品の諸特性が顧客要求事項を満たす程度」であり、「品質マネジメントシステム」の「品質」は顧客満足を意味することになる。
   
  これに関してISO文書(6)は、「2000年版における品質は、顧客要求事項を満たすことを意味する」と明確に述べている。規格が規定する品質マネジメントは顧客満足の向上を目指す運営管理活動である。 規格は品質マネジメントの構成要素として、品質保証(同: 3.2.11)、品質管理(同: 3.2.10)、品質改善(同: 3.2.12)の活動を挙げている。94年版の品質保証は製品品質の保証(ISO8402: 2.3,3.5)であったが、この意味での品質保証は顧客満足向上の必要条件ではあるが十分条件ではない。定義から2000年版の品質保証は「顧客満足の保証」の意であり、その手段が品質管理であり、その達成能力の向上を図る活動が品質改善と理解するのが妥当であろう。
   
   
4.トップマネジメントと管理責任者
  定義(同: 3.2.7)の「トップマネジメント」は「最高位でマネジメントを行う個人またはグループ」であるから、経営論(前節1)でいう トップマネジメント のことであり、経営者のことではない。しかし経営者たる代表取締役がトップマネジメントの長である社長であることが多い。 また日本では取締役がトップマネジメントとして業務執行に係わることが多いから、実質的にトップマネジメント つまり経営者であるとも考えられる。また、ひとつの経営の下でも工場や事業部で独立したマネジメントが行われていることも少なくないが、この場合はそれぞれの工場長や事業部長がトップマネジメントである。マネジメントはトップマネジメントの業務そのものであるから、2000年版でトップマネジメントの責任、役割が拡大、強化されたという理解は適切とは思えない。実際、ISO文書(7)は「トップマネジメントの役割をより強調した」と、トップマネジメントに対する要求事項の増加に言及しているだけである。
 
  管理責任者(5.5.2)は、management representativeであるから、英文法の群名詞の用法(8)に従うと、"経営者(management)の代理”ではなく、"運営管理活動(management)を代表、代行する人”である。 トップマネジメントは組織全体のマネジメントに責任を持つが、特に大組織ではその一部の特定のマネジメントの日常的な実行管理を次席者、あるいは、該当する業務担当取締役に委ねることも多い。また組織運営において、機能組織の各部門の長に、その機能に関係の深い業務に関して部門横断的な責任、権限を持たせることが一般的である。例えば経理部門長が収益管理マネジメント、設備部門長が設備マネジメントをそれぞれ統轄する。 トップマネジメントが管理責任者を任命して、a) プロセスの確立、実施、維持を行わしめる(5.5.2)とは、このような組織運営の実際を擬するものである。  
   
   管理責任者は、トップマネジメントに代わって品質マネジメントを指揮、統轄する人である。組織図においては管理責任者をトップマネジメントの直下に位置づけなければならないのであって、ラインからはずれた立場ではない。また、同項 b) システムの実施状況、改善の必要性の報告を行わせるとは、管理責任者は全権限を委ねられたのではないので、日々の運営管理活動で問題が起きればトップマネジメントに報告し指示を仰がねばならないということを指す。この b)項の規定をマネジメントレビューの意味に解するのは適切でない。小規模組織ではトップマネジメントが全体マネジメントを直接司っていることが多いので、このような場合にはわざわざ別人を管理責任者に指名する必要はない(9)(JISQ9001: 解説 4. n))。
 
5.まとめ
  組織には事業活動と合わせて、組織の在り方を決めその実現を図るための管理の活動が存在する。管理活動の内、経営の決定を受けてそれを執行するのがマネジメント(運営管理活動)である。組織全体のマネジメントの内、顧客満足の向上を目指す活動が品質マネジメントである。それは、品質方針、品質目標の設定とその実現を図るPDCAの活動によって実行される本質的に継続的改善の活動である。規格は、組織が顧客満足の向上を目指すならそのマネジメントの活動はどうあるべきか、の必要条件を規定している。どのような狙いでマメネジメントを行うかは組織の自由であるが、認証登録を取得する組織はそのマネジメントの中に顧客満足の向上を目指した活動を含まなければならないということである。
 
  マネジメントはトップマネジメントの業務であるが、規格はその一部である品質マネジメントを、緊密な報告、連絡の下に次席者や機能部門長に代行させるという、ある程度の規模の組織の慣行を要求事項に採り入れている。
 
 
引用文献(英文献及び * 印は著者による翻訳)
(1) 岡    賢:ISOMS, 2002.5月号, p.67,  6月号, p.72  7月号, p.65
(2) ウェブサイト「ISO-実務の視点」:顧客満足, 実務の視点によるISO9001:2000 解説(その1)
(3) 兼子春三他:マネジメントの基礎, 多賀出版, 1996.5.10; (p.148)
(4) 宮田  薫:管理者のためのマネジメント理論, 日本コンサルタントグループ,1995.9.1; (p.16)
(5) D.Hoyle: ISO9000 Quality Systems Handbook,4th Edition, Butterworth Heinemann, 2001; (p.21)
(6) ISO/TC176:ISO9000ファミリー改訂版のコミュニケーション及びマーケティングに関する推奨事項,
    日本規格協会ホームページ, recommendation.pdf, 2001年; (3.基本的な変更)
(7) ISO:The new year 2000 ISO9000 standards-Executive Summary, Press Release, 2000.12.14;
      (change being introduced)
(8) マイケル・スワン(金子稔他 訳):オックスフォード現代英語用法辞典, オックスフォード大学出版局,1985.7.10
(9) ISO/TC176: ISO9001 for Small Businesses, 中央事務局、2002.6, p.72
H15.3.9(改H15.6.19) 
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