ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
プ ロ セ ス ア プ ロ ー チ 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その3>
35-01-03
JISQ9001:2000  0.2 プロセスアプローチ
     この規格は、顧客要求事項を満たすことによって顧客満足を向上させるために、品質マネジメントシステムを構築し、実施し、その品質マネジメントシステムの有効性を改善する際にプロセスアプローチを採用することを推奨している。


1.プロセスとは
(1) 組織の業務
 「プロセス」の英原語は、
process であり、これは「継続的な前進、時間の経過、一連の行為、処置、操作の方法」の意味(2)である。日本語で「プロセス」と言う場合は普通、「過程」とか「工程」を意味する。実際、機械製造業中心の規定であった94年版では  process control が「工程管理」(JISZ9901: 4.9)と翻訳され、「製造の工程」の意味に受けとめられていた。最近では「和平のプロセスが停滞している」というような使われ方も出てきたが、2000年版の「プロセス」はこの意味での process である。組織の業務運営を取扱う規格においては、プロセスは組織で行われている"業務を指す。これは、各種ISO文書の次のような記述によってもわかる。

  () どんな組織も価値を附加する仕事のために存在する(JISZ9900: 4.7)。すべての業務はプロセス
       によって達成される(同: 4.6)

  () 製品の製造、サービス提供に係わるほぼすべての活動、作業はプロセスである(4)
  () 組織には実行すべき多数の機能(製造、営業、教育、企画等)がある(同: 4.7)。プロセスは
       ひとつの機能の中及び複数の機能にまたがって存在する(同: 4.8)

  () 多くの組織は部門別階層構造の体制で管理されているが、実際には部門横断的なビジネスプロセ
     スによって製造、販売、納入を行っている
(5)
日本でプロセスを業務と結びつけての解釈している例には、業務機能
(7)との理解や、業務のプロセス(JISQ9000: 解説 2.4 g))との表現がある。業務(6)、仕事(13)と明言している人もいる。
 
(2) プロセスの定義
   プロセスの定義
(JISQ9000: 3.4.1)は「インプットをアウトプットに変換する、相互に関連、作用する一連の活動」である。プロセスは活動であるから、経理、営業など機能としての業務ではなく、原価管理、受注処理など活動としての業務である。また、この定義ではプロセスは一連の「活動(activity)」から成るが、この「活動」は「はたらき動くこと(16)」を意味する一般名詞としての「活動」ではない(3)。 ただし、組織の仕事について語る時、普通は特定の目的のためにいくつかの「作業」や「業務」を繋いで行われる部門連携の活動のことを「活動」と呼ぶが、規格や関連するISO文書でも activityをこのような意味で用いている場合が少なくない。ともあれ、規格定義の「活動」には
インプットやアウトプットがない。しかし業務たるプロセスはインプットに付加価値をつけたアウトプットを生む(JISQ9000: 3.4.1 参考2)。インプットもアウトプットもない活動というのは、それが組織の業務の一環であれば尚更、存在し得ない。ここは、規格の「インプット」「アウトプット」の方が一般名詞ではなく、特定の意味をもって用いられていると解釈するのがよいと思われる。つまり、実務的には、プロセスは組織として管理の対象とするアウトプットを出すための部門横断的業務を指し、各機能部門内で行なわれている個別作業のことが「活動」である。
   
   D.Hoyle氏(14)は、組織のプロセスは微視的プロセスと巨視的プロセスに分類されるとし、後者は事業上のアウトプットを生むものであり、前者は部門としてのアウトプットを生むものであるとしている。 後者の巨視的プロセスは多数の微視的プロセスから成り、性格的に多機能(筆者註:実行に多様な機能が必要で、機能部門横断的に実行されるの意)である。インプットは事業活動へのインプットであり、アウトプットは事業活動からのアウトプットであり、これは「事業プロセス(Business Process)」と呼ばれる。 一方、微視的プロセスは部門活動としてのアウトプットをもたらすものであり、同氏はこれを「作業プロセス(Work Process)」と呼んでいる。 この説明ではプロセスと活動の区別はなく、組織の業務はすべてプロセスであり、機能部門の業務とそれらを繋いだ組織としての業務という実務とよく一致した概念である。
   
   J.Ketola氏他(15)は、規格のプロセスを「顧客に焦点を当て、部門横断的な端から端までの一連の活動であり、顧客価値を創造する製品/サービスを提供する」と定義し、種々のプロセスをばらばらでなく関連づけて実行することが規格の意図であると説明している。 この説明では、D.Hoyle氏の事業プロセスのみをプロセスとして部門活動を規格の定義に従って「活動」に位置づけている。
   
   規格の意図するプロセスは、4.1項(一般要求事項)の参考1に「運営管理活動、資源の提供、製品実現、測定に係わるプロセス」と説明しており、ISO文書(8)では「製造やサービス提供に直接寄与する製品実現の諸プロセスだけでなく多くのマネジメント、監視、測定の諸プロセスを含む」と記されている。そして、プロセスの例として、規格の4〜8章に対応して、品質方針、目標の設定プロセス、コミュニケーションプロセス、マネジメントレビュープロセス、資源の決定と用意するプロセス、製品実現計画プロセス、顧客関連プロセス等々が挙げられている。従って、規格の意図するプロセスとは規格の各条項又は要求事項に相当する組織の業務のことであり、必ずしも事業プロセスではなく部門内の業務もプロセスに相当する。これらプロセスのために行なわれており、そのインプット、アウトプットを組織として管理しないような主として部門内の各作業が「活動」である。
 
(3) プロセスの多面性
   組織の業務はある目的で行われていても、同時にいろんな他の目的を達成するのに与かっている。従って、同じひとつの業務でも視点の向け方、焦点の合わせ方によっていろいろな異なった業務の一部と見做すことができる多面性をもつ。例えば図
1のように、給与計算は自身がひとつのプロセスだが、細かく見ると3つのプロセスから成り立っている。また、給与計算プロセスは、給与支払いプロセスの一部であると同時に原価管理、税務、資金管理プロセスの一部でもある。規格の定義では、給与計算がプロセスなら3つのプロセスは「活動」であるが、それぞれにインプットとアウトプットを明確にすれば「プロセス」である。プロセスの大きさに関する議論(JISQ9001 解説: 4 f))があるが、このようなプロセスの特質に照らして意味があるとは思えない。 これは規格の 4.1 a),b)4.2.2 c)項の要求事項に関連してプロセスの相互関係を図で表現することを念頭においた議論であると思われるが、プロセス関連図(process map)の作成という要求事項は規格には規定されていない。  

2.プロセスの意義
 プロセスの定義(JISQ9000: 3.4.1)は前節の通り、「インプットをアウトプットに変換する、相互に関連、作用する一連の活動」である。この定義は 94年版(10)と同じである。業務であるから変換とは何らかの付加価値を加えることを意味する。このためには、資源の投入が必要であり、資源の使い方は管理されなければならない。すなわち、価値を効率的に附加するために、プロセスは管理された状態で計画され実行されなければならない( 参考2)

  アウトプットは有形、無形を問わず、製品と呼ばれる(: 3.4.2)。 プロセスが製造プロセスなら、アウトプットは中間製品、最終製品である。 物だけでなく、業務の結果のデータ、情報、知識やそれを反映した文書、記録、図面も製品である。これら製品は一般的に、サービス、ソフトウェア、ハードウェア、素材製品に分類して考えることができる( 参考1)

  資源とは、「必要な際に取り出すことのできる蓄積、蓄え」と定義(11)されているが、具体的には、人、設備、資金、組織体制、技術、情報、文書等々、プロセス実行上必要なすべてのものである。これを管理して使って初めて効率的に目的のアウトプットが得られる。このためにプロセスの実行方法を手順(: 3.4.5)として規定することが必要である。手順を文書に記述したのが「文書化された手順」(同 参考2)である。管理であるから、手順にはインプット、アウトプットの特性の測定、及び、プロセスが計画通りの結果をもたらしたかどうかの監視、測定の手順も含まれる(8)

  プロセスは業務の活動のことであるが、それが効果的、効率的に実行されるように、諸活動、インプット、アウトプット、資源、手順という関連要素が明確にされた状態が、規格が規定する「プロセス」であると考えられる(2)。このように考えると、品質マネジメントの原則(: 0.2 d))プロセスアプローチの利点として主張する、「諸活動及び関連する資源がプロセスとして運営管理されるとき、望む結果がより効率よく達成される*」という意味がわかる。 

3.プロセスのシステム
 組織では多様な業務が行われているが、それらはバラバラに実行されているのでなく、一定の方向を目指して相互に関係を持ち連携して実行されている。これらプロセスの相互関係は一般に複雑であり、独立した多くのプロセスがネットワーク構造で有機的に結びつけられた状態である。この概念は94年版で用いられていた(JISZ9900: 4.7)が、2000年版で継承されている(8)。 一方、「相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり」(JISQ9000: 3.2.1)はシステムであるから、プロセスのネットワークはプロセスのシステムである。このことは「品質マネジメントシステムは数多くの相互に関連づけられたプロセスから構成される(8)」とも説明されている。「プロセスのシステム」という表現は、「一連のプロセスをシステムとして適用する」の英原文に「The application of a system of processes」として実際に規格(0.2項)で用いられている。

  特定の目的に対して必要な諸業務がネットワーク構造で相互に連携しながら行われる状況がシステムである。システムとして諸プロセスを運営管理すること、つまり、プロセスのシステムを運営管理することを、システムアプローチと呼ぶ(8)。 このような仕事のしかたによって「目標を効果的で効率的に達成すること」ことができる(JISQ9000: 0.2 e))と、規格はその意義を述べている。
   
 
4.マネジメントシステム
  
「マネジメントシステム」とは、マネジメントの諸プロセスがネットワークで有機的に結びつけられたシステムである。 システムの構成要素は、諸プロセスとそれらの相互関係である。 一方、 94年版の「品質システム」は「品質マネジメント(JISの翻訳(ISO8402: 3.2)では「品質管理」)を実施するために必要な、組織構造、手順、プロセス、及び、資源」である(同: 3.6)。 この定義によると「マネジメントシステム」とは、マネジメントのための"道具立て"のことである。 環境マネジメントシステム規格(ISO 14001)でも「マネジメントシステム」はマネジメントのための「組織の体制、計画活動、責任、慣行、手順、プロセス及び組織を含むもの」と定義(同: 3.5)されている。 しかし、いずれの定義でもマネジメントシステムとはマネジメントの業務体系のことである。 これを2000年版では道具立てを伴う諸業務の有機的集合体と見做し、他ではマネジメントのための有機的に関連づけられた道具立てと見るかの違いに過ぎない。
 
   なお、規格の規定する「マネジメントシステムの実施」の英原語は、implement であり、これは「義務を履行する」だから、決められた通りにマネジメントの体系的諸活動を行うことである。 システムを活動の道具立てと考える場合はマネジメントシステムの「運用」でもよい。しかし、規格の implement の意味は広く、「運用」に相当する活動は operation である。
 
   
5.プロセスアプローチの意義

 規格はわざわざ序文に条項(0.2)を設けて、品質マネジメントシステムの構築、実施、改善の際の基礎になるプロセスアプローチについてを説明している。  アプローチ(approach)は、「近づくこと」(2)であるから、プロセスアプローチとは、「プロセスを基礎とした規格への取り組み」という意味である。そして、その定義は、同項の他、品質マネジメントの原則(JISQ9000:0.2 d))及びJISQ9000(2.4)とTC176用語の指針(11)にそれぞれ異なった表現で記述されているが、その本質は次のようなものと考えることができる。
(イ) 業務の諸活動及び関連する資源をプロセスとして明確にする。
(ロ) システムに
必要な諸プロセスとそれらの相互関係を明確にする。
(ハ
) (諸プロセスとのネットワークの関係の中で)それぞれのプロセスを運営管理する。

() 諸プロセスを相互に関係づけてシステムとし、そのシステムを運営管理する。
ここに、(イ)は前節2で考察したプロセスの意義に関係し、()(ハ)は前節のプロセスのネットワークであり、(ニ)は、システムアプローチのことである。

  規格はPDCAサイクルの考え方を品質マネジメントシステムにも適用できるとし、計画、実施、管理、継続的改善の各プロセスが P,D,C,Aにそれぞれ対応すると説明(8)している。ここに、管理(control)とは、監視、測定による計画と結果の対比を基礎とする活動である。規格が運営管理と言う時は事実上、このサイクルを廻して継続的改善を図ることを指している。そしてプロセスアプローチの考えでは上記(ハ)(ニ)のように、このサイクルを、それぞれのプロセスと全体としてのシステムの両方に適用する(8)。 各業務をそれぞれプロセスとして明確にしPDCAで運営管理することで業務の狙いを効率的に達成することができ(JISQ9000: 0.2 e))、それら諸プロセスを相互に結びつけてプロセスのネットワークを構成させ、それをプロセスのシステムとしてPDCAで運営管理することによって、組織の目的を効果的、効率的に達成することができる(同: 0.2 e))。これが2000年版規格で展開されるプロセスアプローチの論理である。

  組織の業務をプロセスと見做し、それらをシステムとして管理するという考え方は 94年版から変わっていないが、 2000年版ではプロセスやプロセスアプローチの考えが殊更強調されている。これは、94年版でプロセスの実行、管理のために手順の文書化が強調され過ぎて、文書化が目的に化した感があった反省から、規格の意図がプロセスの運営管理にあることを明確にするためであると考えられる。Cianfrani氏は「システムを運営管理することとシステムを文書化することの違いを理解することが絶対に必要」と、2000年版のプロセスアプローチの強調に関して述べている(12)。 要するに形だけのシステム構築ではなく、システムを運用して規格の意図する利益を挙げることが求められているのである。
 
 
6.まとめ
  プロセスとは組織で日々に行われている業務のことである。業務を効率的に行うには、その要素の活動、インプット、アウトプット、必要な資源、手順を「プロセス」として明確にして、PDCAで運営管理することが大切である。そして目的に応じて諸業務を相互に関係づけてプロセスのシステムとし、システムを運営管理することが、組織の効果的効率的な業務遂行に通ずる。これが規格のプロセスとシステムに関する論理である。
  
  システムとは諸要素の有機的集合体の意味であり、マネジメントシステムは運営管理の業務体系のことである。システムは概念上、要素プロセスとそれらの相互関係から成る。一方、システムを要素プロセスとそれらの実施に必要な手順、資源など"道具立て"とする理解もある。一方、システムを要素プロセスとそれらの実施に必要な手順、資源など"道具立て"とする理解もある。表現の違いであってどちらも適切な理解であるが、後者の場合は「システムの実施」ではなく「システムの運用」と言う方がわかり易い。
 
   プロセスとシステムの概念は94年版にもあり、2000年版でも何も変わっていない。
しかし、2000年版ではプロセスとシステムの両方にPDCAの考え方を適用して、継続的改善を図る運営管理(マネジメント)を行うことが明確にされた。2000年版でプロセスアプローチの考えが強調されているのは、94年版でプロセスの手順の文書化が強調されて誤解を生んだ反省から、規格の意図がプロセスの文書化ではなく実行や運営管理にあることを明確にするためである。従って必要なのは、規格への認識と理解を正しい軌道に復帰させることであって、プロセスアプローチということでシステムの構築や運用上で新たに何かをしなければならないとは思えない。
 
 
引用文献(英文献及び * 印は著者による翻訳)
(1) ウェブサイト「ISO-実務の視点」:品質マネジメント, 実務の視点によるISO9001:2000 解説(その2)
(2) J.G.Allee: Webster’s Encyclopedia of Dictionaries, Ottenheimer Publishers,Inc.,1981
(3) 飯塚 悦功: 標準化と品質管理、2000.10月号、p.36

(4) ISO: FAQ020, Nov.1999
(5) ISO/TC176ISO9000ファミリー改訂版のコミュニケーション及びマーケティングに関する推奨事項,
    日本規格協会ホームページ, recommendation.pdf, 2001; (3.基本的な変更)

(6) LMJ : ISOMS, ?,  p.58
(7) 黒田幸清: ISOMS, 2002.4月号, p.26; (p.27)
(8) ISO/TC176/SC2: Guidance on the Process Approach, N544R; 2),3),4)
(9) JISZ9901:1998,  「製品、プロセス及び品質システムに関する・・・」(4.1.2.1),
     工程管理(process controlの和訳)」( 4.9)

(10) ISO8402:1994,  1.2 プロセス
(11) ISO/TC176/SC2: Guidance on the Terminology, N526R;
(12) C.A.Cianfrani: ISO9001:2000 Explained, Chapter 2, p.17
(13) 大和田孝:ミニQ&A ISO9001:2000年版,アイソムズ,2004.1,p.84;p85
(14) D.Hoyle: ISO9000 Quality Systems Handbook, BH ; p.73
(15) J.Ketola他: ISO9000:2000 In a Nutshell,Paton Press,2000; p.11
(16) 新村出: 広辞苑, 岩波書店

作成 H15.4.1(改 H15.5.7,H16.3.8) 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
 サニーヒルズ コンサルタント事務所    〒458-0031 名古屋市緑区旭出2−909