ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
顧 客 要 求 事 項 実務の視点による
ISO9001:2000の解説<その5>
35-01-05
JISQ9001:2000  5.2 顧客要求事項
   
顧客満足の向上を目指して、トップマネジメントは、顧客要求事項が決定され、満たされていることを確実にすること(7.2.1及び8.2.1参照)
     
1.はじめに
   製品・サービスの顧客満足の向上を実現することで事業の維持、発展を図る組織では、トップマネジメントが「顧客要求事項が決定され、(それが実際に)顧客満足向上の狙いを満たすものであることを確実に」することが必要である (5.2項)。規格は、このために組織が、顧客要求事項を製品要求事項に変換し(7.2.1項)、その製品を製造し又はサービスを提供し、その製品・サービスが「顧客要求事項を満たしている程度に関して顧客がどのように受けとめているか」(8.2.2項)を監視、測定する必要を規定している。ここに、ISO9000は「顧客のニーズ若しくは期待を全体として顧客要求事項と呼ぶ*」(2.1)と説明している。
 
2.顧客要求事項と顧客満足
   「要求事項」は requirement の和訳である。 requirementには"要求するという行為"という意味と“必要なもの”“必須条件”の意味があり(1)、規格用語としての requirementは“必要なもの”の意味合いであり、「必要事項」又は「要件」である。 実際に“要求事項”は、94年版では「事実上、ニーズ(必要なもの)を意味していた」(JISQ9000 :解説 4.3 b))し、2000年版では修飾語をつけながらも「ニーズ若しくは期待」と明確に定義(JISQ9000: 3.1.2)されている。つまり、“要求するもの”ではなく、“必要とされるもの”“期待されるもの”の意味である。
   
  一方、「顧客要求事項」は、customer requirement であり、英文法では名詞が連なった群名詞(2)である。群名詞の用法に従うと これは、“顧客の『要求事項』”ではなく、“顧客に関する『要求事項』” である。「顧客要求事項」とは、組織の“顧客に関する必要事項ないし要件”であり、組織が“顧客に関して必要とされ、期待されている事項” である。 一方、「顧客満足」の定義(ISO9000:3.1.4)においては、「顧客の要求事項が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」であり、“顧客要求事項”ではなく“顧客の要求事項(customer's requirement)”と表現されている。この場合も、“顧客が要求する事項”ではなく、“顧客が必要とし、期待している事項”の意味である。「顧客要求事項」が組織の立場から見た“顧客のニーズ若しくは期待”であるのに対して、「顧客の要求事項」は実際に顧客が抱いている“ニーズ若しくは期待”ということで、見方、表現の違いだけで意味するところは同じである。
 
  組織は顧客に製品・サービスを買ってもらうことで成り立っている。顧客に製品・サービスを買ってもらうためには組織は、「顧客要求事項」を満たす製品・サービスを提供しなければならない。「顧客要求事項」を推し量り決定するのは組織の責任であるが、その「顧客要求事項」が適切であるかどうか、つまり、その製品・サービスが “顧客の要求事項”を満たしているかどうか、或いは、どの程度満たしているのかは顧客の判断するところである。顧客のこの判断が、規格の「顧客満足」(customer satisfaction)である。JIS和訳は「顧客満足」であるが、意味は「顧客満足度」である。
 
   2000年版は単に不良品を出さないだけでなく、顧客満足の向上を目指す規格であり、製品・サービスの“特性”が“ニーズ若しくは期待”をどの程度満たしているかということが「品質」である(同:3.1.1)。 すなわち、「品質とは、顧客要求事項を満たすことを意味する」(3)。“品質が良い”とは不良品でないというのではなく、顧客要求事項を満たす製品・サービスであるということである。
 
3.顧客要求事項の決定
 今日のマーケット理論では、顧客満足に影響するのは最終製品だけではなく、顧客との対面で実施される諸活動や経営の理念、社会問題への対応状況など顧客が総合的に感じる利益に支配される(4)。しかしISO9001規格は、組織が製品に関して顧客満足の向上の図るための要件のみを規定している。顧客満足に影響する他の要素は、別のマネジメントの問題である。
 
  組織の日々の製品実現の活動は、製品に関する顧客のニーズと期待を満たす製品・サービスを企画し、製造・サービス提供を行い、製品・サービスを顧客に引渡す活動である。この活動では、組織は顧客要求事項の内の製品に関連する要求事項、つまり、製品要求事項を適切に決定することが鍵である。これに関して規格は、7.2.2項(製品に関連する要求事項の決定*)で、当該製品に関する顧客のニーズと期待を推し量り、決定する4つの観点を指定している。
 
   この内a)項は顧客が明示する要求事項であり、契約条件、或いは、組織がカタログで明示する製品仕様などである。 c)項は法令・規制要求事項であるが、これは顧客の要求がなくとも組織が特定し対応処置をとることは当然の“顧客要求事項”である。
 
   b)項は「顧客は明示していないが、規定された又は意図されている用途に必要な要求事項*」と表現されているが、これが顧客満足を目指すという今日のマーケティング理論における組織の市場戦略に係わる要件であり、規格の“顧客満足向上”に係わる要件である。すなわち、誰にも明らかなニーズ、期待を満たすだけでは他社との競争優位は得られない。また、「顧客と合意した顧客要求事項を満たしても高い顧客満足が得られるとは限らない」(JISQ9000:3.1.4 参考2)。「苦情がないことは、必ずしも顧客満足度が高いことを示唆するものでない」(同 参考1)。顧客は自分のニーズと期待を必ずしも認識しておらず、積極的に表明しようとはしない。組織は自身で、顕在の及び潜在の顧客のニーズや期待を探り、推し測ることが必要である。顧客のニーズと期待を満たす、製品における新機軸と他組織にない製品を提供する差別化など、「顧客の期待を越えるように努めなければならない」(ISO9000:0.2 a))。
 
   ところで、設計開発(7.3項)では、設計開発した製品が設計開発の目標の製品要求事項(7.3.2項)を満たしているかどうかの検証(7.3.5項)の他に、「意図されている用途に関する要求事項*」(ISO9000:3.8.5)を満たしているかどうかの「妥当性確認」を行う必要を規定している。後者は、当該製品に特有の機能や性能以外の使用環境や使用条件に係わる当然の特性や配慮、つまり、いわゆる“当然品質”に関する規定であると考えられている。7.1項の視点からは、これはa)項でもc)項でもないから、b)項の範疇である。Hoyle氏(5)は、b)項には市場ニーズと特定契約の二つの観点があり、前者は市場調査で把握され新製品開発に反映され、後者は受注時に顧客が明示しなかった常識的品質を決めることだと説明している。b)項には常識的品質を含むが、これがすべてではない。
 
   なお、7.2.1項には製品要求事項決定のもうひとつの視点d)項「組織が決定した追加要求事項」がる。 DIS版の7.2.1項の標題は「顧客要求事項の特定*」であり、 a)〜c)項しか規定されておらず、次の 7.2.2項(製品要求事項のレビュー)に、「組織が決定した追加要求事項」と共に7.2.1項で特定した顧客要求事項をレビューすべきことが規定されていた。 従ってd)項は、顧客のニーズ、期待とは直接関係ない組織独自の方針やニーズに基づく要求事項のことであると考えられる。例えば、組織を特徴づけるデザイン、色彩、あるいは、特定物質、技術の適用または不適用 の類であり、製造の容易さ(7)、コストや歩留上の配慮(6)が相当する。また、クレーム再発防止や競争上の配慮で特定顧客向けの特定製品、注文に対して特別な対応をとることはどの業界でもあるが、これをb)項ではなくd)項の観点と考えてもよいのかもしれない。
   
4.まとめ
   規格では、顧客のニーズと期待は「顧客要求事項」と呼ばれ、それを満たすことが“顧客満足の向上”をもたらし、満たされた程度に関する顧客の受け止め方が「顧客満足」である。2000年版ISO9001は、顧客満足向上を図る規格であり、“品質が良い” “顧客満足が高い”“顧客要求事項を満たしている”はみんな同義語である。組織が顧客満足向上を図るには、自身で顧客のニーズと期待を探り、推し測って、“顧客要求事項”を適切に決定することができるかどうかが鍵である。規格はこれを決定するのに、7.2.1項に4つの視点を規定している。トップマネジメントは、このような“顧客要求事項”の決定が適切に行われ、顧客満足の向上が図られるよう、組織の業務を運営管理しなければならない。
 
 
引用文献 (英文献及び * 印は著者による翻訳)
(1) Webster’s Encyclopedia of Dictionaries, New American Edition
(2) マイケル・スワン(金子稔他訳):現代英語用法辞典、桐原書店、1985.7.10
(3) ISO/TC176: ISO9000ファミリー改訂版のコミュニケーション及びマーケティングに関する推奨事項、規格協会ウェブサイト,2001.1
(4) 佐藤知恭: 顧客満足を超えるマーケティング、日本経済新聞社、1995.4.24; p.99
(5) D.Hoyle: ISO9000 Quality Systems Handbook,4th Edition, Butterworth Heinemann, 2001; p.380
(6) 加藤重信: 月間アイソス, 2001.4月号, p.83; (p.85)
(7) H.C.Monnich,Jr.: ISO9001 for Small and Med. Sized Businesses, ASQ Quality Press; p.67
H15.7.7(修正2005.10.15)(改訂 2007.1.14) 
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