ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
品質マネジメントの8原則
(その意図)
実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その6>
35-01-06
JISQ9001:2000  序文 0.1  一般*
   
 
この規格は、JISQ9000(品質マネジメントシステムー基本及び用語)及びJISQ9004(品質マネジメントシステムーパフォーマンス改善の指針)に記載されている 品質マネジメントの原則 を考慮に入れて作成した。
1.品質マネジメントの原則の意義
  組織は、その事業活動の成功を目指して運営管理(マネジメント)されているが、実際に成功をおさめるには、業績を継続的に改善するような体系的で透明性のあるマネジメントの取組みが必要である(JISQ9000 0.2)。 そして、どの組織も顧客に製品、サービスを買ってもらって成り立っているから、顧客満足の向上を取り扱う品質マネジメントは、組織のマネジメントの中核に位置づけれなければならない。 組織を成功に導く効果的な品質マネジメントの在り方を示したものが「品質マネジメントの原則」である。これらは、トップマネジメントが業績の改善を目指して組織を指揮、管理するために用いることを意図して設定された(同)。これは、8つの要素に分けて示されているのでしばしば「品質マネジメントの8原則」とも呼ばれる。
 
   JISQ9001規格の要求事項は、これら原則を考慮して作成されたと規格序文に明記されている。規格の解釈は、文言に依拠するのでなく、その論理に基づいて行なわなければならないが、この8原則には規格の意図がは圧縮されて詰め込まれていると考えることが重要である。
 
 
2.マネジメントの理論
   品質マネジメントの原則は、ISO/TC176に参加した各国の専門家の経験と知識の集大成である(4)。 規格の「モデルは、この分野の専門家が最新の適切な考えであると合意した諸要素を採入れたものである」とも説明(3)されている。


   ところで、経営管理学のマネジメントの理論は、計画、組織化、命令、調整、統制という管理要素を循環的なマネジメント・プロセスと捉える米国の管理過程学派(management process school)の考えが主流である(5)。これは、管理要素の命令が動機づけに代わり、リーダーシップが付け加えられスタッフ化(力量充足)、情報伝達、創造革新(6)などが取り上げられるなど時代と共に進化してきた。 規格は 4〜8章に分けてマネジメントの諸プロセスに関する要求事項を規定されているが、これら諸プロセスの関連が "プロセスを基礎とした品質マネジメントシステムのモデル"として、その図1に示されている。これは、マネジメント・プロセスを循環させて改善を図る管理過程学派のマネジメントサイクルの考え方に立脚しており、示されている4つのプロセスが規格なりの管理要素であると理解することができる。 品質マネジメントの原則を構成する8つの要素は、管理過程学派の掲げる管理要素と重なっており、それらの意義を強調する内容となっている。また、原則はマネジメントサイクルには直接触れてはいないが、品質管理の手法のPDCAサイクルをマネジメントに適用する(7)ことで、マネジメントの実務により近い形で改善のサイクルを取り上げている。このように、品質マネジメントの原則は現在の経営管理学の理論に依拠していると考えることができる。



3.日本製造業のマネジメント
   1980年代には日本製造業が製品品質で世界を席巻したが、欧米諸国ではその背景がマネジメントの優位性の結果であると認識(8)された。このマネジメントは、日本企業の現地従業員主体の海外工場においても実際に適用されて成功をおさめたことによって一層の信頼を高めた。米国の国家経営品質賞を初めとする"卓越した経営"という概念は、このようなマネジメントの特徴を見極め、それを競争力のある企業を生み出すマネジメントの基準に発展させたものであると考えられている。日本型マネジメントを体系的に説明するものがないが、品質・顧客重視、人間性尊重、改善の推進、供給者との協調、データ重視などは製造業のマネジメントを特徴づけるものであったと考えられる。 また、米国自動車会社がISO9001を基礎にQS-9000を制定した理由は、1980年代に日本自動車会社が品質と生産性で欧米に衝撃を与え、これが契機になって日本流の供給者(下請け、部品メーカー)の管理の重要性の認識が高まったことだと説明されている(9)。 更に、ISO9001の2000年版の改定作業が日本のTQMをどう取り込むかという方向で行なわれ、TQMの原則を明らかにする作業の結果として品質マネジメントの原則が作成されたとの説明(10)もある。


   表.1 には、品質マネジメントの原則を、当時の日本型マネジメントに係わりをもつTQCの活動の特徴とその影響を受けたと思われる海外のマネジメントの考え方及び特徴と比較して示す。 これからも、 ISO9001の論理の集約たる品質マネジメントの原則が日本発の考えと手法を規範としていることは明白である。ISO9000シリーズ規格を西洋文化と見做し日本の風土に異質のものとする考えも多いが、当を得たものとは考えられない。因みに1980年代に欧米の目を引きつけた輸出企業は日本の全経済活動の10%を占めるに過ぎなかった(11)と分析されている。その分、日本型マネジメントを実践したり体験した人は多くないということになる。また、このマネジメントは理論化され体系化されることなく、TQCやQCサークルなどその手法だげが人々の目にとまるという状況に止まっている。これらが、ISO9001や品質マネジメントの原則の論理が何か新規な輸入品かの誤解を生む原因となっているのであろう。


         表.1  品質マネジメントの原則と他のマネジメント原理との比較
ISO9000/9004
品質マネジメントの原則
TQCの特徴(12) TQCの
基本的な考え方(13)
調査報告書
「メイド・イン・アメリカ」
産業界に巣食う病(15)

米国国家経営品質賞
卓越した業績の基準(14)
a) 顧客重視
(2) 経営における品質優先
   の徹底
(5) 企画・開発から販売
   ・サービスに至る品質保証

(6) QCの適用の製造業か
   ら他業種への拡大
1) 品質第一
2) 消費者指向

・時代遅れの経営戦略 3.顧客、市場重視
b) リーダーシップ (1) 経営者主導による
   全部門、全員参加の
   QC活動
4) 重点指向 1. リーダーシップ
c) 人々の参画
(6) QCサークル活動
(7) QCの教育・訓練
・人的資源の軽視 5. 人的資源重視
d) プロセスアプローチ
3) PDCAのサイクル
6) プロセス・コント
   ロール
・開発、生産における
   技術的な弱さ
6. プロセスマネジメント
e) マネジメントへの
システムアプローチ
(3) 方針の展開とその管理 ・短期的視野 2. 戦略計画
f) 継続的改善 (4) QCの診断とその活用 7) 再発防止
g) 意思決定への
事実に基づくアプローチ
(8) QC手法の開発・活用 5) ファクト・コント
   ロール
4. 情報及び分析
h) 供給者との互恵関係 ・協調体制の欠如
(10) QCの全国的
    推進活動
・政府と産業界の足並み
   の乱れ
7. 事業運営結果



4.品質マネジメントの原則の意図
   JISQ9000(0.2)は、品質マネジメントの原則として a) から f) まで8項目を羅列しているだけである。ISOの説明文書(4)も、各原則にそって業務を行なった場合に期待できる利益について述べているだけで、原則間の相互関係について何ら説明していないし、全体としての意義についても説明していない。筆者は、8項目を 図.1 のように3つの種類に分けてた上でそれらを関係づけることによって、品質マネジメントの原則の意図が明確になり、合わせて、個々の原則の意味するところもよく理解できるようになると考えている。


  すなわち、a)顧客重視と f)継続的改善は、組織のマネジメント活動の方向、つまり、狙いや目標に関する原則である。 次に、b)リーダーシップ、 c)人々の参画と h)供給者との互恵関係は、マネジメント活動を実行する主体についての原則である。そして、d)プロセスアプローチ、 e)システムアプローチ、 g)事実に基づくアプローチは、マネジメント活動を実施する手法に関する原則である。


@ マネジメント活動の方向
組織の維持、発展は、顧客のニーズと期待にどこまで応えることができるかにかかっているから、マネジメント活動は顧客満足の向上に焦点を当てることが必要である。顧客のニーズと期待は常に変化するから、マネジメント活動はこれに適切に対応するため、製品やプロセスを継続的に改善することを意図したものでなければならない。
A マネジメント活動を実行する主体
マネジメント活動はトップマネジメントの指揮の下、意識づけられた人々と自立した供給者の努力と協力によって効果的なものとすることができる。トップマネジメントは人々に参画意識をもたせ、供給者の自主性と主体性を涵養することで、両者のもつ能力を組織のマネジメントの目標の達成に寄与させることができる。
B マネジメント活動を実施する手法
マネジメントがこのような狙いを実現するには、その活動は透明性があり体系的でなければならず、思いつきや人の勘に頼るのでなく事実に基づく科学的な思考や判断が活動の基礎とならなければならない。

   品質マネジメントの原理は全体として、トップマネジメントが組織の要員と供給者の能力を活用し、体系的、科学的な手法を用いて、顧客満足の向上を目指して製品を継続的に改善するよう組織を指揮、管理する、という効果的な品質マネジメントの在り方を示している。 つまり、品質マネジメントの原則は「トップマネジメントが組織の業績を改善するよう組織を運営管理する枠組み(4)」である。 品質マネジメントの原則は組織の発展のための指針である。JISQ9001規格の要求事項は、品質マネジメントのこのような指針を、マネジメントの実際の各業務に対する要件として表現したものである。従って、規格要求事項は、認証登録制度の下でシステム認証の条件としても用いられるのであるが、その本質は組織が発展するためにはどのように業務を行なうことが必要かを示す、マネジメントの処方箋なのである。



4.まとめ
   品質マネジメントの原理は、トップマネジメントが業績の改善を目指して組織を指揮、管理するために用いる、効果的な品質マネジメントの在り方を示している。 それは、トップマネジメントが組織の要員と供給者の能力を活用し、体系的、科学的な手法を用いて、顧客満足の向上を目指して製品を継続的に改善するよう組織を指揮、管理する、というものである。 この考えはISO9000シリーズ規格に独特のものではなく、各国の専門家の経験と知識の集大成である。 品質マネジメントの原則は、経営管理学の管理過程学派の管理要素を基礎とし、マネジメント・プロセスを循環させて改善を図るマネジメントサイクルの考え方に立脚している。そして、1980年代の日本製造業の成功の背景のいわゆる日本型マネジメントとそれを基礎に導きだされた"卓越した経営"の概念などを規範としたものである。ISOは西洋文化という誤解は、日本型マネジメントが理論の体系にまで進化することなく、またその実践者が少数に留まっていたことから生じたものであろう。
   品質マネジメントの原則は組織の発展のための指針である。JISQ9001規格の要求事項は、品質マネジメントの原則が、マネジメントの実際の各業務に対する要件として表現されたものである。従って、規格は、組織が発展するためにはどのように業務を行なうことが必要かを示す、マネジメントの処方箋である。


引用文献(英文献及び * 印は著者による翻訳)
(1) ウェブサイト ISO-実務の視点:実務の視点によるISO9001:2000の解説 シリーズ; 概要編はこちら
(2) ウェブサイト ISO-実務の視点:英語で読み解くISO9001/14000 シリーズ; 概要編はこちら
(3) ISO 中央事務局:ISO9000&14000謎解きの旅, [基本];汎用的マネジメントシステム規格,
          http://www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/basics/general/basics_3.html
(4) ISO 中央事務局: Quality management principles,http://www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/iso9000/qmp.html(5) 林伸二他:現代経営管理論,有斐閣,1994.1.10;(p.54)
(6) 兼子春三:マネジメントの基礎、多賀出版,1996.10,(p.151)
(7) ISO 中央事務局: 品質マネジメントシステムへのプロセスアプローチの指針,ISO/TC176/SC2/N544R,(p.4)(p.6)
(8) 味方守森: 日本経営品質賞と経営品質, ISOMS, 2000.5月号, p.58 (p.59)
(9) S.Ledgard他:http://www.bsi-global.com/Corporate/News+Room/auto-quality.xalter
(10) 狩野紀昭: 質経営で築く日本の新世紀, 品質月間委員会, 2001.10.1,(p.25)
(11)
青木昌彦他:日本経済の成長阻害要因、McKinsey Global Institute,July 2000
(12) 鐵 健司: TQC その成長と将来, 日本規格協会,1993.5.20; (p.11)
(13) 細谷克也: TQM概論 標準化とISO9000, 品質管理セミナー入門講座, 1999.10; (p.11)
(14) BNQP: Criteria for Performance Excellence,
http://www.quality.nist.gov/Improvement_Act.htm
(15) 味方守森: 日本経営品質賞と経営品質, ISOMS, 2000.5月号, p.58 (p.59)

H15.10.22 
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