ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
品質マネジメントの8原則
(マネジメント活動の実行主体)
実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その8>
35-01-08
   品質マネジメントの原則は、JISQ9000(0.1)、JISQ9004(4.3)の両規格に規定されているが、それぞれの原則の意義に触れた説明が主体で、そのものの意味や内容はあまり説明されていない。 ISO中央事務局発行の説明書「Quality Management Principles」(4)には、各原則の主要な狙いあるいは利益と原則の適用が組織内にどのような好ましい状況や結果をもたらすかについて簡単に説明されている。


.マネジメントの実行主体に関する原則
   原則 b)、c)、h) の3つは、組織のマネジメントにおいて諸業務を誰が担うかに関する原則である。マネジメント活動はトップマネジメントの指揮の下、意識づけられた人々と自立した供給者の努力と協力によって効果的なものとすることができる。トップマネジメントは人々に参画意識をもたせ、供給者の自主性と主体性を涵養することで、両者のもつ能力を組織のマネジメントの目標の達成に寄与させることができる。



2.リーダーシップ
 b) リーダーシップ :   リーダーは、組織の目的と方向を一致させる。リーダーは-、人々が組織の目標を達成することに十分に参画できる内部環境を創りだし、維持すべきである。
   leadership とは、リーダーであること、リードする能力、リードする行動* の意味(10)である。経営管理学で「組織の指導者が構成員に働きかけて、組織の目標の達成に個々人が貢献するように統率していく組織的力量あるいは指導力または資質」とも定義され(13)、使用できる資源を最大限に活用して組織をその目的実現に向けて導いていくことがトップマネジメントの固有の職能である(12)。品質マネジメントの原則では、品質マネジメントの効果的な実施のためには、トップマネジメントはじめ管理者のこのような活動が必要であることを確認している。


  直接に作業活動は行なわず、マネジメント職能を担う層が 管理者層(management)であり、管理者層の個々の人々が 管理者(manager)である。組織全体のマネジメントを担うのが トップマネジメント(top management)であり、これを受けて部門内のマネジメントを担うのがミドルマネジメント(middle management)、そして、作業活動を直接的に指揮監督するのがロアマネジメント(lower management)である。日本では一般に、トップが社長、事業所長、ミドルが部課長、ロアマネジメントは監督者とも呼ばれる係長、作業長に相当する。


  リーダーシップの発揮において特に大切なことは、組織の目的と組織の活動の方向を一致させることであり、このためにトップマネジメントは「組織の目的に合致した将来像、方針、戦略的目標を確立」(JISQ9004  5.1.1)することが必要である。そして、この方針、目標を組織の構成員が理解し、その達成に向けて積極的に参加し努力するというような状況を創り出さなければならない。つまり、品質マネジメントの原則 c)がうたう、「人々の参画」を得ることである。


   ISO文書(4)は、トップマネジメント初め管理者のこのような行動が生む効果を次のように記している。
@ 人々が組織の戦略目標と到達目標を理解し、その達成に意欲をもって取り組むようになる
A 組織の階層間の誤った情報伝達や意思疎通を最少にできる
B すべての業務をひとつの基準に従って実行し、方向修正し、結果を評価できるようになる
  トップマネジメントの確実なリーダーシップは、如何なる障害があっても品質マネジメントの効果的な実行を指揮、統制するとの不退転の決意を固め行動すること(committment)が前提となる。規格 5.1項(経営公約*)は、これをトップマネジメントに証拠でもって示すことを求めている。




3 人々の参画
 c) 人々の参画 :   すべての階層の人々は組織にとって根本要素であり、その全面的な参画によって、組織の便益のためにその能力を活用することが可能になる。
    日本的経営の特徴として誰もが挙げるのが人間性尊重のマネジメントであり、この優れた特質としてしばしば採り上げられるのが、終身雇用制度がもたらす従業員の会社への帰属意識、仕事への忠誠心である。組織の中の自らの仕事の役割や意味を理解し、組織の一員として他の人々と共に事業活動の遂行と発展の一翼を担っているという意識で仕事に取り組むような従業員を、規格は「参画意識をもった人々(involved people)」と呼ぶ。


    このような人々はその持てる能力と努力を仕事に投入すること厭わず、従って組織はその有する人的資源を事業活動の推進にフルに活用することができる。経営管理学でも、マネジメントを仕事を管理するという職能管理的に捉える古典的な管理過程学派の考え方に対して、職務遂行にあたる人間の側面を重視する人間行動学派、社会システム学派などの考えが生まれるてきた(14)。 しかし、人々の意欲に期待するマネジメントが欧米で注目され実践が一挙に広まったのは、1980年代の欧米の日本研究が日本製品の優れた品質の背景にこのような人々の存在を見出した結果であり、欧米に進出した日本企業が日本式マネジメントをそのまま持ち込んで成功を得た結果であると思われる。


    例えば、筆者の滞米経験の記録(1981〜1984年)には次のような現地新聞記事が残っている。(文は抜粋。( )内は筆者の加筆)>
コダック社は、従業員の会社への忠誠心においてしばしば日本企業と比較される。  同社は日本企業と同様の(人事)マネジメントスタイルを有する米国では数少ない会社である。そのフィルムは日本でもよく売れている。<gannet Westchester,Jan. 9,1883>
日本車が米国で22%ものシェアを占めるに値する高品質であることはデトロイトの首脳達も気付いている。高品質といっても日本人が我々と違った方法で自動車を造っているのではない。日本人は絶対的に優れた(人事)マネジメントで我々を地面に叩きつけたのだ。<New York Times,April 18,1982>
会社も組合も、組合と協定した(硬直的な)就労規則を柔軟化する代わりに雇用を保証する日本方式を採り入れるという方向に動いている。(レイオフや解雇のない)安定した作業者集団が品質を改善するのだと会社側は考えている。<New York Times,March 13,1983>
(自動車各社が実施中の従業員教育の)原理は、日本に先立って成立した米国式マネジメント理論に日本式マネジメント手法を大胆に取り入れた折衷的なものである。GM社の教育プログラムの大半は、1960年代にR.Likert氏が唱えた "組織の人間化" の考えがベースとなっている。<New York Times,April 11,1984>
鉄鋼産業の労使は、生産性を改善して国際競争力を高め、世界一の賃金水準を維持することを目的とした(管理者と作業者との) "職場協力" という実験的取り組みが成功することに強い希望を抑えきれないでいる。この "労使合同チーム"の設立は、鉄鋼産業はそのマネジメントスタイルを "(従業員)参画型"に変えなければならないとの経営者の認識の高まりの反映である。<American Metal Market,March 12,1882>

   ISO文書(4)では、組織が人々を参画させることの利益として 「意欲があり(motivated)、職責を全うする(committed)、参画意識をもった(involved)人々」を得ることの他、次を挙げている。
@ 組織の目標の達成を促進する新機軸と創造性を育む
A 人々が自らの仕事の結果に対して責任をもつ
B 人々が継続的改善に積極的に参加し、貢献する


   人々を参画させるには、トップマネジメントはじめ管理者が「人々が参画意識をもって仕事に取り組めるような内部環境をつくり、維持する」こと(品質マネジメントの原則 b))が必要である。規格はこれをトップマネジメントに、人々との意思疎通の活動(5.1 a)項 及び 5.3 d)項) 及び 組織内の情報伝達、情報交換の活動の管理(5.5.3項  内部 コミュニケーション)を行なうこととして具体的に示している。そして規格は、要員に参画意識をもたせるために、教育訓練(6.2.2 d)項)や、 表彰制度など参画意識醸成に寄与する作業環境(6.4項)の整備が有効であることも示している。


   次の新聞記事は、日本式マネジメントを取り入れた米国の自動車会社がその従業員の参画の促進を図る様子を報じた例である。
昨年12月操業開始のGM社のオリオン工場では毎朝8時30分、人々はグループ単位でミーティング場に集まり、会社版モーニングニュースを見るためにテレビのスイッチを入れる。ニュースは10分間で、前日の生産と品質の実績の総括の他、その日に誕生日を迎える社員の発表や工場の特別な行事の広報と天気予報が含まれる。<New York Times,April 11,1984>
フォード社は "従業員参画促進(employee involvement)"の名の下に何千人もの従業員をチーム作業、改善提案、自覚などについて再教育を実施中。クライスラー社もいずれ従業員の再教育を行なうであろう。<同上>
日産のテネシー工場は今や日本式のマネジメント、労使関係、生産方式を米国で育てる温室となっている。工場では、始業前体操や(社長以下同じ)制服を初め、日本式の種々の長所を適用している。<New York Times,April 4,1983>



供給者との互恵関係
 h) 供給者との互恵関係 :  組織とその供給者は相互依存の関係にあり、その互恵関係は両者の価値創造能力を高める*
  94年版の 下請負契約者→供給者→顧客 の関係は、2000年版では 供給者→組織→顧客 と呼び名が変わった。これ自身には格段の意味はないが、「下請負契約者」という表現は 7.4項(購買)にも登場せず、4.1項(一般要求事項)でプロセスの購買を「アウトソース」と呼んでいることは、本原則と係わりがある。 Outsourcing は、「組織のIT部門、スタッフ、業務を移管するためにコンサルタントやサービス提供会社を雇うこと」(Lycos; Glossary)との定義もあるように、ソフトウェア作成やコンピューターシステムの保守をきっかけに1990年代の米国で発展した外注の新しい形態である。これは、それまでの実質的に発注元の支配下で行なわれてきた下請け業務と違って、専門性を有する発注先の主体的業務遂行という点に特徴がある。組織(発注元)は、供給者(発注先)の優れた専門性を活用できるという利益を享受できる。


  一方、米国の製造業では伝統的な「"協同"的というよりは"敵対的"な関係」(16)であった製造会社とその供給者との関係が1980年代に入って、自動車産業を筆頭に急激に見直されるようになった。この変化は「第一に日本の影響であり、第二に米国自動車会社が新製品の開発は供給者もしばしば効果的に管理でき、時にはその方がより良く管理することができるということに気付いた」ことが原因である(16)とされている。日本では「供給者が、製品の基本設計から生産ラインへの無欠陥製品の直接搬入までにわたる全体供給体系の一員として組み込まれ、その責任を果たしている」おり、それは組織にとって利益の大きい「身軽な生産体制(Lean Production System)」であるだけでなく、市場の変化に迅速に対応することのできる「機敏な製造体制(Agile Manufacturing System)」であると認識された(16)そしてこの認識が米国自動車会社のQS-9000の制定の理由となった(17)。鉄鋼のミニミルが設備導入に際して機能設計を最大限に機械メーカーに委ねる「最小限のエンジニアリング (minimal engineering)」(18)も、供給者との新しい関係の実践例である。


   JIS9000では「組織及びその供給者は独立しており・・」と訳されているが、英原語は interdependent であるから「組織とその供給者は相互依存の関係にあり・・」が本意である。 組織は供給者の力を活用することで効果的にコストを下げ競争に打勝ち顧客満足を勝取ることができる。供給者は顧客たる組織のニーズと期待に応える努力を通じて専門性を向上させ、"選ばれた供給者"の地歩を固めることができる。これが相互依存の関係であり、互恵関係である。



  ISO文書(4)は、このような関係を築くことの両者の利益を次のように挙げている。

@ 双方の益となる価値を創造する能力が向上する
A 市場や顧客のニーズと期待の変化に対応する共同取り組みの速度と柔軟性が改善される
B コストと 投入資源が最適化される


  規格は、7.4項(購買)で供給者とその製品の管理について規定している。品質マネジメントの原則で供給者との互恵関係が強調されているが、要求事項は基本的に94年版(4.6項(購買) 及び 4.10.2項(受入検査・試験))と変わっていない。但し2000年版では、8.4項(データ分析)でデータ分析により供給者に関する情報を出すことが規定されている。 これは購買製品の品質に関する各供給者の能力を評価するに留まらず、供給者の能力を効果的に活用するという観点から各供給者との関係についても見直すことを意味していると受けとめるべきであろう。この評価と必要な処置は、マネジメントレビューの検討項目(5.6.2 c)項)となり、顧客満足の継続的改善のための戦略的判断の対象(5.6.3 a)項)となる。




引用文献
(英文献及び * 印は著者による翻訳)
(1) ウェブサイト ISO-実務の視点:実務の視点によるISO9001:2000の解説 シリーズ; 概要編はこちら
(2) ウェブサイト ISO-実務の視点:英語で読み解くISO9001/14000 シリーズ; 概要編はこちら
(3) D.Hoyle: ISO9000 Quality Systems Handbook,4th Edition, Butterworth Heinemann, 2001;
    (p.237)(p.380)(p.383)

(4) ISO 中央事務局: Quality management principles,http://www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/iso9000/qmp.html (5) TC176: 品質マネジメントシステムへのプロセスアプローチ, ISO/TC176/SC2/N544R,17 May 2001;(p.4)(p.6)
(6) TC176: ISO9000:2000シリーズ改定版のコミュニケーション及びマーケティングに関するISO/TC176からの推奨事項、
    http://www.jsa.or.jp/iso9000/pdf/recommendation.pdf;(p.2)
(10) Merriam-Webster's Collegiate Dictionary:
(11) 狩野紀昭:質経営で築く日本の新世紀, 品質月間委員会,2001.10.1(p.26)
(12) 林伸二他:現代経営管理論,有斐閣,1994.1.10;(p.54)
(13) 吉田和夫他:基本経営学用語辞典、同文館出版,H9.2.25(p.276)
(14) Quality Glossary: ASQ, http://www.asq.org/info/glossary/s.html
(15) ISO 中央事務局:ISO9000&14000謎解きの旅,多忙な管理者のためのISO9000,
       http://www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/basics/basics9000/basics9000_1.html
(16) "Achieving agile manufacturing-PartU", Automotive Engineering,December 1994,p.13;(p.13)
(17) S.Ledgard他:http://www.bsi-global.com/Corporate/News+Room/auto-quality.xalter
(18) "Minimal; engineering by multidisciplinary teams", New Steel, May 1994;

H15.11.22 
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