ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
品質マネジメントの8原則
(マネジメント活動の方法)
実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その9>
35-01-09
   品質マネジメントの原則は、JISQ9000(0.1)、JISQ9004(4.3)の両規格に規定されているが、それぞれの原則の意義に触れた説明が主体で、そのものの意味や内容はあまり説明されていない。 ISO中央事務局発行の説明書「Quality Management Principles」(4)には、各原則の主要な狙いあるいは利益と原則の適用が組織内にどのような好ましい状況や結果をもたらすかについて簡単に説明されている。


1.マネジメントの実施手法に関する原則
   マネジメントがその狙いを実現するには、その活動は透明性があり体系的でなければならず、思いつきや人の勘に頼るのでなく事実に基づく科学的な思考や判断が活動の基礎とならなければならない。
   
2.
プロセスアプローチ (本シリーズ その3参照)
d)  プロセスアプローチ : 活動及び関連する資源が一つのプロセスとして運営管理されるとき、望まれる結果がより効率よく達成される。
   規格では "プロセス"は、"業務(の活動)"の意味で用いられている。業務が効果的、効率的に実行されるためには、諸活動、インプット、アウトプット、資源、手順という関連要素が明確にされることが大切であり、この状態で業務が運営管理されている時にこれを規格は"プロセス"と呼ぶ。プロセスアプローチとは、業務を"プロセス"として確立して実行するという業務取組みの概念である。この概念では、業務のこの実行の管理の方法論は計画、実施、管理、継続的改善という一種のPDCAサイクル(5)を廻すことであり、このような活動のことを「プロセスを運営管理(マネジメント:management)する」と言う。
 
   プロセスの概念は94年版(ISO9000-1:1994  4.6)にもあり、その定義も2000年版と実質的に同じである。規格でも用語「process」が用いられていたが、JISでは「工程」(JISZ9901 4.9項など)又は「プロセス」(同 4.1.2.1項など)と訳されていた。また、上記のプロセスアプローチの概念自体が実務的には何ら目新しい考えというものではない。一方、新旧両規格の各条項(の標題)には共通するものが多いが、94年版ではこれを「システム要素」と呼び、2000年版では「プロセス」と呼んでいる。94年版の各条項が「・・・を文書化すること」と規定し、規格は全体として静的な業務体系を表わす構造となっていた。このために、プロセスの文書化と文書体系の確立がシステム構築の目的であるかの誤解を招き、実行がおろそかにされたという実態と反省がある。従って、2000年版でプロセスアプローチが強調されるのは、94年版の誤解を招いた「要素アプローチ」を否定し、業務の実行による目標追求がシステム構築の目的であることを強調するためであると考えられる。これを明確にするため、規格の構造も諸プロセスが結びつけられ実行される動的な業務(活動)の体系を表すものとなった。従って 実務的には、プロセスアプローチを2000年版の特徴として特別に意識するという必要はないように思える。
   
   プロセスアプローチによって望む結果が効率的に達成されると規定されているが、具体的には次のような結果が挙げらる(4)
@ 資源の有効活用を通じて、コストの低減及び成果の迅速な実現
A より良い、着実な、予期の通りの業績が得られる
B 改善が重点的に、優先順位をつけて行なわれる
 
   
2.マネジメントへのシステムアプローチ
 e)  マネジメントへのシステムアプローチ :  相互に関連するプロセスを一つのシステムとして、明確にし、理解し、運営管理することが組織の目標を効果的で効率よく達成することに寄与する。
   システムとは「相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり」(JISQ9000 3.2.1)であり、この場合の要素はプロセスであるから、プロセスの有機的集合体のことである。組織の諸業務は相互に関連をもって実行されているが、この様子は「プロセスのネットワーク」と呼ばれ(ISO9000-1:1994  4.7)、規格(0.2項)はこれを「プロセスのシステム(system of processes)」と呼ぶ(注: JISではこの部分を「一連のプロセスをシステムとして適用する」と訳している)。  特定の目的に対して諸プロセスをシステムとし、システムをPDCAサイクルで管理する(11)ことが、システムアプローチである。
 
  「systematic approach」でなく、「system approach」である理由として、前者は単に「体系的取組み」の意味であるが、後者は日本のTQMの「目的指向での体系的推進」の概念を英語化したものであるとの説明(11)がある。 一方、ISO文書(15)は、規格が事業活動の運営管理に対して「systematic approach」をする枠組みを提供するものであると説明している。また、 品質用語(14)としての system は「共通の使命を遂行する相互に依存したプロセスと人々のグループ」という意味である。 規格の品質マネジメントは、諸業務をプロセスのネットワーク或いはプロセスのシステムと見做して全体としてPDCAを廻して継続的改善の目標を追求するという形の体系的活動である。 TQMとの関連の有無にかかわらず、「プロセスのシステム」という「体系的取組み」が システムアプローチの意味するところと解釈してよいと思われる。


   システムアプローチを組織のマネジメントに適用することによって、「組織の目標を効果的で効率よく達成する」ことができる。具体的な利益は(4)
@ 所期の結果を最も良く達成するように諸プロセスを連携させ統合できる
A 鍵となるプロセスに努力を集中させることができる
B 組織の着実さ、有効性、効率性について利害関係者に確信を抱かせることができる
 
   
3.
意思決定への事実に基づくアプローチ

 g) 意思決定への事実に基づくアプローチ : 効果的な決定を行なうためには、データと情報の分析に基づくことが必要である*
   94年版では、「規定要求事項への適合性及び品質システムの効果的な運用の実証」のための記録の維持(4.16項)が規定され、4.20項(統計的手法)では データや情報を分析することが示唆されていたが、この目的も工程能力の管理など実務的なものであった。2000年版では、8.4項(データ分析)が設けられ、「品質マネジメントシステムの適切性、有効性の実証」に加えて「品質マネジメントシステムの有効性マネジメントの継続的改善の可能性の評価」がその目的として規定された。実務的判断と戦略的判断とを問わず、マネジメントの意思決定は勘や体験に依存するのでなく事実に基づいて行なうことが大切である。そのためには起きた事実を記録し、これらデータを分析することが必要である。分析によって、事象の背景に潜む真実を見いだすことが容易になる。データ分析は科学的な方法であり、品質管理をはじめマネジメントの多くの実務で実行されている。
 
   規格はこの原則をトップマネジメントが行なう戦略的判断にも適用すべきことを明確にしている。すなわち、マネジメントレビューに関して 5.6.2項にインプットすべき情報を羅列しているが、これは 8.4項(データ分析)の規定と繋がっており、いわゆる生データでなく分析された結果の情報(5.6.2 a)〜d)項)をその結論(5.6.2 g)項)と合わせてトップマネジメントの戦略的判断に供することを指している。
   
   事実に基づいて意思決定を行なうことを続けることによって、組織は次の利益を得ることができる(4)
@ 情報に基づく意思決定ができる
A 事実に関する記録を用いることによって、過去の意思決定の有効性を実証する能力を高めることができる
B 見解や決定を見直し、批判的に検討し、変更する能力を高めることができる
 
 
引用文献(英文献及び * 印は著者による翻訳)
(1) ウェブサイト ISO-実務の視点:実務の視点によるISO9001:2000の解説 シリーズ; 概要編はこちら
(2) ウェブサイト ISO-実務の視点:英語で読み解くISO9001/14000 シリーズ; 概要編はこちら
(3) D.Hoyle: ISO9000 Quality Systems Handbook,4th Edition, Butterworth Heinemann, 2001;
    (p.237)(p.380)(p.383)
(4) ISO 中央事務局: Quality management principles,http://www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/iso9000/qmp.html
(5) TC176: 品質マネジメントシステムへのプロセスアプローチ, ISO/TC176/SC2/N544R,17 May 2001;(p.4)(p.6)
(6) TC176: ISO9000:2000シリーズ改定版のコミュニケーション及びマーケティングに関するISO/TC176からの推奨事項、
    http://www.jsa.or.jp/iso9000/pdf/recommendation.pdf;(p.2)
(10) Merriam-Webster's Collegiate Dictionary:
(11) 狩野紀昭:質経営で築く日本の新世紀, 品質月間委員会,2001.10.1(p.26)
(12) 林伸二他:現代経営管理論,有斐閣,1994.1.10;(p.54)
(13) 吉田和夫他:基本経営学用語辞典、同文館出版,H9.2.25(p.276)
(14) Quality Glossary: ASQ, http://www.asq.org/info/glossary/s.html
(15) ISO 中央事務局:ISO9000&14000謎解きの旅,多忙な管理者のためのISO9000,
       http://www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/basics/basics9000/basics9000_1.html
(16) "Achieving agile manufacturing-PartU", Automotive Engineering,December 1994,p.13;(p.13)
(17) S.Ledgard他:http://www.bsi-global.com/Corporate/News+Room/auto-quality.xalter
(18) "Minimal; engineering by multidisciplinary teams", New Steel, May 1994;
H15.11.22 
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