ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
要求事項の構成 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その10>
35-01-10
1.はじめに
   JIS9001:2000規格は、序文の他、1〜8章に分けて記述されており、この内4〜8章に要求事項が定められている。要求事項は、「○○すること」「○○であること」などの表現で記述されており、"要求事項"という名称と合わせて"強制"の響きを感じさせるが、これは「規則や規準」(広辞苑)たる "規定" のことである。 日本語では「規格」であるが、原英語では「標準(Standard)」であって、この点でも "強制" の響きは弱い。 D.Hoyle氏ら(5)によると、要求事項の数は 250になる。 規格はこれら多数の要求事項をばらばらに規定している訳ではなく、その意図に則って分類し、順序づけて記述している。 要求事項の解釈は個々の条文の文言ではなく、規格がその要求事項の配置によって表現したかった意図に沿って行なわなければならない。 要求事項の性格をどう捉えるか、また、要求事項の構成をどのように見るかが、適切な規格理解の鍵となる。
   
   規格書には、付属書A(JIS14001との条項対比),B(94年版との条項対比),C(参考規格)が付いているが、これらは単なる参考情報である。 更に、JIS規格には巻末に(財)日本規格協会編集の「解説」が載せられている。 これも「本体及び付属書に規定・記載した事柄 、並びにこれらに関連した事柄を説明するもので、規格の一部ではない」旨が明記されている。 なお、どのような理由からかわからないが、原規格の緒言(Foreword)が JIS規格書では割愛されており、その一部が 0章 序文(Introduction)に記述されている。
   
   
2.要求事項の性格
   規格の規定は要求事項と呼ばれ、JISでは「○○すること」「○○であること」などの表現が用いられている。 これは原英文では「shall ・・・・」という表現である。 「shall」は TC176の用語に関する指針(4)で定義されている。 それによると「shall」とは、「〜すること( is to )」、「〜することが必要である( is required to )」、「〜しなければならない( has to )」、「〜だけが許される( only...is permitted )」、「〜が必要である( it is necessary )」である。  JISの表現もこれらに沿ったものと言えるが、JISの表現は要求事項の性格については殊更 "強制" の響きを強めている感がある。 これは、規定のことを JISが「要求事項」という訳語を当てていることにもよる。 日本語の「要求」とは「当然であるとして強く求めること」(広辞苑)を意味するからである。
   
   しかし、規格における「要求事項」の定義は「ニーズ若しくは期待」(JISQ9000 3.1.2項)である。 この原英語は「need or expectation」であるから、真意は「必要とされるもの又は期待されるもの」である。 同じ定義によると、この「必要とされるもの又は期待されるもの」には、「 stated (明示されている)」ものの他に、「 generally implied (関係者間で暗黙に合意された*)」ものと「 obligatory (強制的な*)」ものもあり得る。 規格の規定という意味での要求事項というのはこの内の「明示されている」に相当すると考えることができる。 従って、「要求事項」とは「○○すること」等として表現されるものの、「必要とされるもの又は期待されるものが文章で明示されている」ものである。 要求事項は、組織に○○することを強制するものではなく、目的達成のためには組織は○○することが必要であるということを指し示しているものと理解するべきである。 JISQ9001規格は、組織が顧客満足の向上を目指す場合に必要な業務の在り方、つまり業務に対する必要条件を、「要求事項」(必要な事項)として組織に示している。
   
   
3.マネジメントサイクルとして表現された要求事項の構成
   規格は、序文(0.2項)で図.1(プロセスを基礎とした品質マネジメントシステムのモデル)を掲げている。この図では、経営者の責任(5章)、資源の運用管理(6章)、製品実現(7章)、測定、分析及び改善(8章)を矢印で繋いでPDCA状のサイクルを表し、品質マネジメントシステムの継続的改善の方向へのいわゆるスパイラルアップの矢印を合わせて表示している。 そして、このサイクルのインプット元とアウトプット先に顧客を置き、品質マネジメントシステムの中の顧客の役割を示している。 この図は、JISQ14001の図.1「この規格の環境マネジメントシステムモデル」と表現、概念上で同様である。 実際、2000年版改定作業がISQ14001との両立性を重視し過ぎて、「QMSで最も重要な個別製品の品質達成のPDCAが見えない(8)」ような図.1 となったことが、日本代表団の規格原案(DIS)に対する反対理由のひとつであったとされている。
   
   この図の意図するところについて、規格は「4〜8章に記述したプロセスのつながりを表した」と記している(0.1項)。 J.Ketola氏らは、「組織の活動を4つの部分に分けた体系的なアプローチ」を示そうとしたものとし、5〜8章のそれぞれが「組織は必要事項を決めること」「組織は必要な資源を決め、使用すること」「組織は業務が確立し、実行されることを確実にすること」「組織は測定を行い、それを分析し、改善の基礎としてシステムからの情報を使用すること」を意味している(7)と考えている。 規格執筆リーダーのJ.Pyle氏はこの図について、「概念図であって、実際の操作(著者註:恐らく"operation"(事業活動、つまり日常業務)の意味)ではありません。」と述べている(6)。 このようなことから図.1は、継続的改善を目指して組織を運営管理する活動の概念をPDCAサイクルの形で表現したものであり、何を狙うかを決め、資源を用意し、達成の活動を行い、結果を測定、分析して、改善を図るというプロセス循環のマネジメントサイクル(1)を表したものと考えられる。
   
   
4.実際の業務に近い形で表現した要求事項の構成
   規格は図.1の概念に則って、品質マネジメントの諸業務をそのサイクルの順番に並べて要求事項を配置しているから、現実の実務とは遊離した感が免れない。 規格の要求事項を適切に理解するためには、4〜8章に展開された要求事項をその順に拘らず、組織の日々の業務の行なわれ方に則して位置づけることが必要である。 筆者はこのような実務の視点で、規格の要求事項(条項)を下図(9)のような、2つのPDCAサイクルとそれらの運用を支援する事項のそれぞれに位置づけて考えている。 このPDCAサイクルでも厳密には日々の実務の順序や業務間の相互関係とは合致しない。 しかし、規格の図.1の概念よりは、はるかに実務の流れに近く、規格の要求事項の全体感を得たり、規格の論理にそって個々の要求事項を理解しようとする場合には大いに役立つものと考えている。


(1) 製品提供のPDCA
   内側のPDCAサイクルは、事業活動たる製品提供のPDCAである。このサイクル運営の理念は 5.2項(顧客重視)に規定されている。すなわち、「トップマネジメントは、顧客要求事項が決定され(7.2.1参照)、それが顧客満足向上の狙いを満たすものである(8.2.1参照)よう確実にすること*」である。 規格の意図は、組織の事業活動、つまりは日々の製品提供の活動は、顧客がそのニーズと期待を満たされたと感じ、次回も購入しようと思うような顧客満足の製品を提供することでなければならないということである。このためには、94年版の要求事項の主体であった不適合製品の出荷防止だけでは十分ではない。製品提供の活動は顧客満足向上に焦点を当てなければならない。
   
   規格は、日常の製品提供の活動が次のようなPDCAサイクルを廻すように行なわれることが必要であると規定している。
   
★ 組織は顧客との情報交換(7.2.3項)を通じて顧客のニーズと期待を把握して、
★ 製品戦略(5.6項/5.3項)に照らして、どのような製品を提供することが必要かを主体的に決定し(7.2.1項)、
★ 受注の条件を確定し(7.2.2項)、
★ 提供すべき製品の特性を決定し(5.4.1項/7.1.1項)、
★ 製品実現の方法を決め(7.1項)、
★ 設計開発し(7.3項)
★ 必要な原材料、資材を調達し、或いは外注し(7.4項)、
★ 顧客支給品を使用し(7.5.4項)、
★ 製造・サービス提供を行ない(7.5.1項/7.5.2項)、
★ この際、工程を監視、管理し(8.2.3項)、
★ 出来た製品の試験、検査を行い(8.2.4項)、
★ 不適合品を除去し,また、顧客の指摘する不適合品に対する処置を行い(8.3項)、
★ 製品は顧客に引き渡すまで品質を管理し(7.5.5項)、
★ 引き渡した後には顧客の製品に対する評価を把握し(8.2.1項)、
★ 製品使用と顧客評価のデータを分析し(8.4項)、
★ 或いは、不適合に対する是正、予防処置を行い(8.5.2項/8.5.3項)、
★ 下記のマネジメントのPDCAの周期で製品実現の結果を顧客満足の観点で振り返り、システム、プロセス、製品、資源の必要な改善について戦略的決定をする(5.6)。
★ この決定には、必要に応じて製品特性の在り方に関する方針、製品戦略の変更を含み(5.3項/7.2.1項)、
★ 或いは、新製品の開発や設備導入など、次の期間に組織が取り組むべき事業課題の設定を含む(5.3項/5.4.1項)。
★ 次の受注に際して、この方針、製品戦略を適用する(7.2.1項)。
   
    ただし、組織の製品提供の日常業務が、業種、業態によっては必ずしもこのような順序や相互関係で行なわれるとは限らない。例えば、設計開発(7.3項)はプラントや機械産業などでは概ね上記の通り、製造・サービス提供(7.5.1項/7.5.2項)の前段の業務であるが、多くのいわゆる量産型或いは一般消費者向け産業では、設計開発(7.3項)は新製品の開発が主な役割であり、日々の製品実現の業務とは別立ての業務となっている。購買(7.4項)も、多くの場合は上記のように製造・サービス提供(7.5.1/7.5.2項)と繋がって業務が行なわれている訳ではない。原材料、部品の需給プロセスとして時間的に別個のPDCAで実行されつつ、しかし日常的に製造・サービス提供(7.5.1/7.5.2項)の業務と係わっている。このように、上記の製品提供のPDCAサイクルをすべての組織にそのまま当てはめることは実際的ではないが、これをベースとして組織の実態に合わせて修正してそれぞれの製品提供のPDCAサイクルを考えることができると思う。
   
   
(2) 品質マネジメントのPDCA
   外側のPDCAサイクルは、品質マネジメント(顧客満足向上を目指す運営管理活動)のPDCAである。規格の定義のマネジメントは、「組織を指揮し、管理する体系的活動*」(JISQ9000 3.2.6項)であり、この方法論は「方針及び目標を定め、それら目標を達成する」(同 3.2.2項)ようなPDCAサイクルを廻すことである。これは品質マネジメントに限らず、JISQ14001規格にも適用されているマネジメントの方法論の一般論である。このマネジメントのPDCAの理念は 8.5.1項に規定される「継続的改善」である。そして、その継続的改善は、「組織は、品質方針、品質目標、監査結果、データの分析、是正処置、予防処置及びマネジメントレビューを通じて」行なわれるべきことが 8.5.1項に明記されている。つまり、上記の外側のサイクルのことである。
   
   品質マネジメントのPDCAサイクルの周期は、組織の事業展開の計画と見直しの周期、つまり、全体マネジメントのPDCAサイクルの周期と一致させるのが普通である。企業会計が1年を管理期間とする関係上、ほとんどの組織の全体マネジメントの周期は1年となっている。組織によっては、この上に数年以上の期間の事業展開を見通す中長期計画を有し、これを毎年の事業計画に落とし込むことが行なわれている。実務的には、品質方針、品質目標は組織の年度事業方針、業務計画のひとつであり、マネジメントレビューとはこれを決定するための年度業務実績検討会であり次年度事業課題検討会のことである。

   
★ トップマネジメントは事業課題のひとつに顧客満足向上の側面を取り上げ、置かれた状況下で何をすることが必要かを決めなければならない(5.6項)。
★ トップマネジメントは、それを製品戦略(5.3項/7.2.1項)として明確にし、
★ 組織の各部門では、それを日々の製品提供活動における製品の改善に反映し(7.2.1項)、
★ 或いは、新製品の開発、設備投資を含む製品の抜本的改善に取り組む(5.4.1項)。
★ 取り組み、つまり、品質目標の追求は各部門の業務計画に織り込まれ(5.4.2項)、
★ 実行され(7章)、
★ 進捗を管理し(8.2.3項)
★ 一方で、各業務の実行状況を体系的に把握し、管理し(8.2.2項)
★ 品質目標達成計画はじめ諸業務の実行状況に関する諸情報をデータ分析し(8.4項),
★ 或いは、計画未達など不適合に対する是正、予防処置を行う(8.5.2項/8.5.3項)。
★ トップマネジメントは事業年度末に、品質目標の達成を中心とする品質マネジメント実行結果を振り返り、新しい情勢下で顧客満足向上のために必要な改善の方針、戦略について決定をする(5.6項)。
★ この決定には、必要に応じて製品特性の在り方に関する方針、製品戦略の変更を含み(5.3項/7.2.1項)、
★ 或いは、新製品の開発や設備導入など、次の年度に組織が取り組むべき事業課題の設定を含む(5.3項/5.4.1項)。
   
   トップマネジメントは、これら2つのPDCAを効果的に廻すことにリーダーシップを発揮し、責任をもつということに対して、揺るぎのない決意を固め、組織内外に公約し、実行しなければならない(5.1項)。これが規格全体を貫く原則である。
   
   
(3) 2つのPDCAサイクルを支える諸プロセス
   規格は組織が顧客満足向上を達成するために必要な2つのPDCAサイクルを規定しているが、それらを効果的に廻すために支援業務が必要であることを要求事項(必要な事項)として示している。
それらは、次の通りである。
   
★ 組織体制(5.5項)
★ 資源マネジメント(6章)
★ 運用管理の仕組み
  ◆ 文書、記録の管理(4.2項)
  ◆ 製品実現の管理(7.5.3項、7.6項)
★ その他(4.1項、4.2.2項)
   
   
5.まとめ
   要求事項とは、「○○すること」「○○であること」と記述されるが、「必要とされるもの又は期待されるものが文章で明示されている」ものである。JISQ9001の要求事項は、組織が顧客満足の向上を目指す場合に必要な業務の在り方、つまり業務に対する必要条件のことである。
   規格は 250もの要求事項を規定しているが、これらは 2つのPDCAサイクルとそれを支援する業務とに分けて理解することが実務的である。すなわち、ひとつは、5.2項(顧客重視)を理念として組織の事業活動、つまりは日々の製品提供の活動に廻されるPDCAサイクルであり、これにより、顧客がそのニーズと期待を満たされたと感じ、次回も購入しようと思うような顧客満足の製品を提供することが追求される。もうひとつは、8.5.1項(継続的改善)がその方法論を示す組織の品質マネジメントのPDCAサイクルである。この継続的改善の追求によって組織は、時代の変化にかかわらず顧客のニーズと期待を満たす製品を一貫して提供し続けることが可能となる。この他に規格は、2つのPDCA効果的に廻すために必要な支援業務の要求事項を定めている。
   そして、トップマネジメントは、これら2つのPDCAを効果的に廻すことにリーダーシップを発揮し、責任をもつということに揺るぎのない決意を固め、組織内外に公約し、実行しなければらないという品質マネジメントの基本が5.1項で明確にされている。4.1〜8.5.3項の51条項に分けて、136の shallを用いて記述された 250もの要求事項(5)であるが、それぞれの理念に基づく2つのPDCAと支援業務に分類し配置した上記の要求事項構成として理解することが、規格の適切な解釈とシステムの効果的な構築と運用に役立つものと考える。
   
   
   
引用文献(英文献及び *印は著者による翻訳)
(1) ウェブサイト ISO-実務の視点:実務の視点によるISO9001:2000の解説 シリーズ, 品質マネジメント,2項;
(4) TC176: 用語に関する指針, ISO/TC176/SC2/N526R, 17 May 2001
(5) D.Hoyle他: Transition to ISO9001:2000,Transition Support Ltd, July 2001; (p.3)
(6) ジム パイル: ISO9001:2000に取り入れられる重要な変更案, 標準化と品質管理, vol.53, no.10, p.39-49; (p.42)
(7) J.Ketola他: ISO9000:2000 in a Nutshell,Paton Press,2000; (p.6)
(8) 飯塚悦功: ISO/DISに対する日本のポジション,標準化と品質管理, vol.53, no.10, p.33-38; (p.37)
(9) 岡   賢: 品質マネジメントシステムの計画, ISOMS, 2000.7月号, p.65 (6月号の図1は誤載)
H15.12.20(改 H16.2.12) 
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