ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
 品質マネジメントシステムの計画 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その21>
35-01-21
5.4.2 品質マネジメントシステムの計画
トップマネジメントは、次の事項を確実にすること.
a) 品質目標及び4.1に規定する要求事項を満たすために、品質マネジメントシステムの計画が策定さ れる.
b) 品質マネジメントシステムの変更が計画され、実施される場合には、品質マネジメントシステムが "完全に整っている状態(integrity)"を維持している.
ISO/DIS 9001 5.4.2  品質計画*
トップマネジメントは品質目標を達成するのに必要な資源が特定され、計画することを確実にすること。計画活動のアウトプットは文書にすること。
品質計画には次の事項を含むこと:
a) 許容できる適用除外を考慮した品質マネジメントシステムのプロセス(1.2 参照)
b) 必要な資源
c) 品質マネジメントシステムの継続的改善 
ISO9004  5.4.2  品質計画*
この計画活動は、組織の戦略と整合する品質目標及び要求事項を効果的、効率的に満たすのに必要なプロセスを明確にすることに焦点を当てなければならない。
ISO9000  3.2.9  品質計画*  この計画は、組織
品質目標を設定し、それを満たすのに必要なプロセス及び資源を規定することに焦点を当てる品質マネジメントシステムの要素

1. ISO9001規格の本質
   「品質マネジメントシステムの計画」を適切に解釈するにはまず、ISO9001規格の狙いと論理、構造、記述形式など規格の本質について確認しておく必要がある。
   
(1) 規格の狙いと論理
   規格の依拠する事業観では、組織は顧客に依存しているから、事業繁栄を図るなら、顧客のニーズと期待を満たす製品・サービスを一貫して提供していくことが必要である(ISO9000;2.1項)。これは、品質マネジメントシステムを確立し、文書化、実施、維持し、有効性を継続的に改善する(4.1項)というPDCAサイクルを回し続けることを通じた継続的な組織の業務能力向上努力により実現できる。
 
(2) 規格の要求事項の性格
  規格の要求事項は、組織がこの品質マネジメントシステムのPDCAサイクルを回すことを可能とするために、組織のマネジメントの活動はどうあるべきかの必要条件つまり要件を示すものである。プロセスアプローチを掲げる2000年版ISO9001では、その4.2〜8.5.3の各項の標題は品質マネジメントの各プロセス、つまり、マネジメントのそれぞれの業務に相当する。規格はこれら各業務と業務間の繋がりに関して要件を定めている。そしてこれらの要件は規格作成者の創造になるものではなく、世界のこの分野の専門家が最新の適切な考えであると合意した世界の成功企業のマネジメントシステムの諸要素を採入れたものである(1)
   
(3) 規格の要求事項の効用
   いずれの要件も、製品製造・サービス提供など作業活動に関するものではなく、作業活動を方向づけ、制御するマネジメント活動の業務に関する要件である。そして、要件を規定する”要求事項(requirement)”は、各業務のそれぞれに、計画(planning)、実施(implementation)、管理(control)、継続的改善(continual improvement)のPDCAサイクルを回し、かつ、諸業務を関連づけた全体としてのシステム(業務体系)にも同様のPDCAサイクルを回す(2)という プロセスアプローチ の考えに沿って記述されている。組織が日々の品質マネジメントの諸業務を規格の要件を満たして実行するなら、不良製品・サービスの出荷・引渡しを阻み、更にこれを含み顧客のニーズと期待を満たす製品・サービスを一貫して提供するという長期的視点での顧客満足を確保することができる。
 
   
2.品質マネジメントシステム の計画
(1) 計画活動
   JIS和訳の「計画」の原英語は planning であるから「計画すること」「計画活動」の意味である。日本語で「計画する」とは「物事を行うに当たって、方法、手順などを考え企てること」(3)ではあるが、英語の planning は「将来やりたい事を詳細に手配すること(to make detailed arrangements for something you want to do in the futute)」(4)であり、規格の plan(動詞)の定義でも「(活動、予定の行動の)手はずを予め整える(arrange in advance (an action or proposed proceeding))」(5)である。すなわち、英語の「計画する」は企てるだけでなく、いつでも実施(implementation)に移せるように準備することまで含む行為、活動である。
 
(2) マネジメントシステム を計画する活動
   2000年版のDIS では「品質計画」という標題で「品質目標を達成するのに必要な資源を計画する」(同;5.4.2項)ことと規定していたが、今日のISO9004も標題「品質計画」の下に、「品質方針と整合する品質目標及び要求事項を満たすのに必要な プロセスを明確にする*」(ISO9004;5.4.2項)活動であると説明し、「品質計画」の定義は「品質目標の設定及び必要な事業プロセスと資源の明確化*」(ISO9000;3.2.9項)である。
 
  一方、「品質マネジメントシステムの計画」については格段の説明がない。規格は マネジメントを「組織を指揮、管理する統制された活動*」(ISO9000;3.2.6項)と定義し、同時に マネジメントシステムを「方針及び目標を定め、それら目標を達成するシステム」(同3.2.2項)と定義することで、規格の品質マネジメントの方法論を明確にしている。この品質マネジメントシステムの方法論における目標の達成する計画を「品質マネジメントシステムの計画」と受けとめることは自然である。「品質マネジメントシステムの計画」と「品質計画」とは同義語である。
   
  規格では「資源」は、プロセス、手順を含み、マネジメントの実行に必要なすべてのものを意味(5)し、経営実務用語の「経営資源」と同じ概念であるが、規格の記述では資源とプロセスの使い方は一定しない。しかし、単純に言えば、資源はプロセスの実行の手段であり、資源の使用を含むプロセスの実行の方法が手順である。従って、品質目標の達成のためのプロセスや資源を明確にするという品質計画の活動は、品質目標達成の手順を確立することに他ならない。「品質マネジメントシステムを計画する」とは、品質目標を達成する業務の手順を確立することであり、手順を定めるだけでなく、関係者への周知を含む必要な資源を用意し、その業務が必要によりいつでも実行される状態にすることである。
 
 
3.品質目標
(1) 業務の目的に係わる品質目標
  品質マネジメントシステムの構成要素は、品質マネジメントシステムに必要として特定した諸プロセス(4.1 a)項)であり、それら諸プロセスは順序と相互関係を決められて(4.1 b)項)、システムとなっている。それらプロセスが必要と判断されたのは品質方針の狙いの達成に関係するプロセスであるからであり、それ故に各プロセスにはそれぞれの目的があり、果たすべき役割があり、従って プロセスの実行、管理及び結果に関する方法と合否判定基準(4.1 c)項)が決っている。プロセスの実行、管理の方法はその目的に適う目標を達成するのに十分なものでなければならず、合否判定基準が目標達成の尺度となる。これらプロセスは品質方針の実現に必要なプロセスであるから、各プロセスの目標は「品質目標」である。
 
(2) 改善活動の到達点としての品質目標
  一方、品質方針を元に各部門、階層で品質目標を設定し、実行計画を策定して改善に取組む活動もプロセスであり、規格の「品質マネジメントシステムに必要なプロセス」(4.1 a)項)のひとつである。しかし、改善の実行計画に係わるプロセス以外にも「必要なプロセス」は多い。あまり意識されることはないが、これらのプロセスも品質方針に則り、現状品質水準の維持と問題発生防止に焦点を当てた品質目標を追求し目指して執り行われている。マネジメントは本質的に改善の活動であるが、方法論では現状からの向上を図る改善と現状維持の管理の2種類に分けられる。品質マネジメントシステムには改善と維持管理のプロセスがあり、そのいずれにも品質目標がある。品質方針の示す課題とその解決の方向性は、改善と維持管理の両面からの均衡のとれた取組みによって効率的、効果的に満たすことができる。
 
(3) 品質目標の性格
  「品質目標」は「品質に関して追求し目指すもの」(ISO9000;3.2.5項)と定義されている。品質目標は、品質方針に沿ってその狙いを実現するように行う各業務の目標という広い概念である。この点で特定の環境影響の低減を目指すISO14001の環境目的・目標とは異なる。改善活動の目標は品質目標であるが、そうではない日常業務にも品質目標があり、日々に製造・提供する製品・サービスの狙いの品質も品質目標である(5.4.2項)。但し、製品・サービスの品質目標の達成を計画する活動は、品質マネジメントシステムの計画の一種であるが、製品実現の計画(7.1項)と呼ばれる。
 
 
4. 品質マネジメントシステム の計画のアウトプット
  品質マネジメントシステムの計画活動の結果、つまり規格では「アウトプット」は、計画活動で確立させた手順である。これが文書化された場合には「文書化された手順」が アウトプットである。ISO14001では、特定の環境影響の低減を図る手段、日程を明確にした実行計画書である「環境マネジメントシステム プログラム(2004年版では実施計画)」が アウトプットである。特定の製品の製品実現の計画の アウトプットは規格では「品質計画書」と呼ぶ(7.1項 参考1)。
 
  96年版でこの品質計画書が適切な手順書を参照するような形式でもよいと明記(4.2.3 参考8)されていたように、品質マネジメントシステムの計画活動は、特定目的の新たな手順の確立や既存の手順の変更を図ることとは限らない。既存の関係するいくつかの手順をどのように適用するかを明確にするような作業である場合もある。品質マネジメントシステムの計画のアウトプットは、計画書の名を冠した文書も含めて一般に、既存の手順の引用を含んだ新たな又は変更された手順書であり、これにインフラストラクチャー(6.3項)の新設、改造や手順の関係者への周知などを伴ったものである。
 
 
5. 品質マネジメントシステム の変更の計画
  手順を変更し、それを正式の手順として確立する作業が、品質マネジメントシステムを変更することを計画する活動に相当する。これは、新たな品質目標が設定された場合、品質目標を変更する場合、品質目標は不変だが手順を改善する場合などに必要となる計画活動である。
 
  日本では マネジメントシステムを業務の仕組みと捉え、規格の適用に仕組みの構築と運用の2段階があるかの説明が多い。しかし、規格は組織の品質マネジメントの活動がどうあるべきかの要件を規定しているのであり、「品質マネジメントシステムの確立、文書化、実施、維持、継続的改善」(4.1項)という規格冒頭の最も基本的な要求事項も連続したPDCAサイクルとしての記述であり、例えば「確立」「文書化」は日本で言われる「システム構築」を意味するのでなく、改善のための或いは新しい状況に対応するための業務の変更に相当する。必要により業務を変更し、実行に移すための活動が品質マネジメントシステムの変更の計画である。
 
 
6. 種々の解釈に対する評価
  5.4.2 a)項の要求事項に関連して「品質マネジメントシステムの計画」に関して種々な解釈があり、特に日本では多様である。筆者は2002年の時点で公表文献における各種の解釈をまとめ、また、英原文法と品質マネジメントのPDCAサイクルの考え方を基にした自身の解釈を披露した(6)。解釈におけるこの後の動向について簡単に触れる。
 
(1) 品質マネジメントシステムを構築する際の計画
  日本のTC176国内対策委員会による商業本たる解説書(7)が発行され、これで「品質マネジメントシステムを構築する際の計画」であるとし、適合性評価の対象外であるとする解釈が国内対策委員会の解釈となった。このため今日多くの解説や組織の品質マニュアルの記述がこれに沿ったものとなっている。しかし、この解釈は規格の性格、「計画」の概念、構築と運用の2段階説、英語構文解釈の点でとても適切とは思えない。
 
(2) 2水準の計画活動
  この一方でTC176の商業本(8)の発行によって、JIS和訳の「品質目標と4.1項の要求事項を満たすために計画が策定される」を2種類の計画とする説が息を吹き返した感もある。文面は確かに2種類の計画を記述しているが、手順の変更を「追加的計画」と呼ぶ等「計画」を手順の確立の意味で使っている。また、計画活動を「4.1項を満たすことを目的に」行うとか「計画の策定」という表現はない。TC176の有力者の著作(9)にはこのような2水準の計画活動に関する記述はないので、商業本の記述の真意は不明だが、その説明が日本の「2種類の計画の策定」を支持するものでないことは確かである。
   
(3) 4.1項を満たすように品質目標達成の手はずを整える
  筆者は、4.1項の要求事項を満たすように品質目標の達成を計画することであるとし、実行のみならず監視、分析、改善処置をも対象にした プロセス、組織構造、手順、資源等々の必要な関連諸要素の手はずを整えることだと主張した。この点で今回の見解と同じである。しかし、計画のアウトプットとしては既存のプロセス、手順の準用に言及しながらも、経営計画はじめ実行計画書しか例記しておらず、実行計画書と無縁の維持管理のプロセスとその品質目標については触れていない。要求事項毎に何か具体的な業務の形式を必要とする日本の一般の規格解釈から抜け出し得なかった未熟さが見える。
 
 
7. 結言
   ISO9001規格は、組織が顧客のニーズと期待を満たす製品・サービスを一貫して供給する能力を身につけ強化するための品質マネジメントの活動に関する要件を規定している。その基本は業務の体系的な実行であり、方針、目標、計画、実施・・・・のPDCAサイクルが方法論である。規格の「計画(planning)」は日本語の「企てる」だけでなく実行の準備までを含む。品質マネジメント システムを計画するとは、組織が品質マネジメントシステムに必要として特定した諸プロセスの品質目標を達成するための手順を確立することである。実務的には、品質マネジメントの各業務をその目的、役割を果たすためにどのように遂行するのかを決め、文書、設備、要員など必要なものを整え、手順を関係者に周知させ、方針に沿う業務実行を可能にすることである。この計画活動は体系的業務遂行に不可欠な要素であり、組織の品質方針を効果的に実現させるために行うものである。
 
 
引用文献 (英文献及び * 印は著者による翻訳)
(1) ISO中央事務局:ISO9001/14000謎解きの旅[基本];汎用的マネジメントシステム規格)*
(2) ISO/TC176: 品質マネジメントシステムへのプロセスアプローチに関する指針、N544R, 17 May 2001; 3)
(3) 新村 出: 広辞苑、岩波書店、S61.10.6
(4) Oxford Advanced Learner’s Dictionary, Oxford University Press
(5) ISO/TC176: ISO9001/9004:2000の用語に関する指針、N526R
(6) 岡 賢:ISOMS, 2002.5月号,p.67-73, 6月号,p.72-76,(誤載の図1は7月号,p.65に)
(7) 飯塚悦功他:ISO9001要求事項及び用語の解説,日本規格協会,2002.10.15
(8) ISO/TC176: ISO9001 for Small Businesses, ISO中央事務局,2002;
(9) C.A.Cianfrani: ISO9001:2000 Explained,ASQ Quality Oress,2001;p.47-51
H18.7.19 
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