ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
13 4.1項  一般要求事項 実務の視点による
ISO9001:2000の解説 
 
35-02-13
 4.1 一般要求事項
[第1節] 組織は、この規格の要求事項に従って、品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、かつ、維持しなければならない。また、その品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善しなければならない。
[第2節] 組織は次の事項を実施しなければならない。
a) 品質マネジメントシステムに必要なプロセス 及びそれらの組織への適用を明確にする(1.2参照)。
b) これらプロセスの順序及び相互関係を明確にする。
c) これらのプロセスの運用及び管理のいずれもが効果的であることを確実にするために必要な判断基準及び、方法を明確にする。
d) これらのプロセス の運用及び監視の支援をするために必要な資源及び情報を利用できることを確実にする。
e) これらのプロセスを監視、測定及び分析する。
f) これらのプロセスについて、計画どおりの結果が得られるように、かつ、継続的改善を達成するため
に必要な処置をとる。
[第3節] 組織は、これらのプロセスを、この規格の要求事項に従って運営管理しなければならない。
[第4節]
  [第1文]
 
要求事項に対する製品の適合性に影響を与える プロセス を アウトソース することを組織が決めた場合には、
組織はアウトソースしたプロセスに関して管理を確実にしなければならない
  [第2文] これらのアウトソースした゚ロセス の管理の方式及び程度は、組織の品質マネジメントシステムの中で定めなければな
らない。
 
1.要旨
  規格は事業の維持発展のために必要な顧客満足を追求する効果的な品質マネジメントの規範であり、本項はその品質マネジメント活動のあるべき姿を、品質マネジメントの実行と管理の要件として総合的に規定している。そして、次項以下の各条項で、品質マネジメントのそれぞれの業務のあるべき姿を、その実行と管理のそれぞれの固有の要件として規定している。
 
  事業の維持発展のために顧客満足の向上を目指さんとする組織、又は、現に顧客満足の製品を一貫して供給する能  力を有することを証明せんとする組織は、この規格が定める要件を満たして品質マネジメントを行なわなければならない。規格が規定する品質マネジメントは、トップマネジメントにより明確にされた狙いの顧客満足の実現に向けて、関連するすべての業務が人々の協働により実行されるという体系的で組織的な活動である。組織は、a)〜f)項に規定されるように、顧客満足の追求に必要な業務を特定し、それぞれの業務が相互に連携して実行されるよう、それぞれの業務の実行の手はずを整え、その手はずの通り業務が実行されるように管理しなければならない。
 
  次の4.2〜8.5.3項は、これら業務のそれぞれを標題として、条文でその実行と管理の固有の要件を規定している。組織が、体系的で組織的な業務実行を基礎として、これら各条項の要件を満たすことによって、それぞれの業務に必要な結果を確実に出し、この総合結果としての狙いの顧客満足を確実に実現することができる。これには、各条項に規定される業務を外部委託した場合でも、その要件が満たされるよう管理することが不可欠である。
 
 
2. 背 景
2-1. 品質保証規格
(1) 94年版以前
  ISO9001規格は1987年、不良品を顧客に引き渡すことのないことを確実にする品質保証活動のあり方の国際標準として作成された。87、94年版規格の標題は『品質システム−品質保証モデル』であり、その『品質システム』は「品質マネジメントを実施するために必要となる組織構造、手順、プロセス 及び、経営資源」と定義されていた(134-a)から、00年版流の表現では『品質マネジメントシステム』である。
 
  この『品質システム』は『製品が規定要求事項に適合することを確実にするための手段』と位置づけられていた(4.2.1)。この『規定要求事項』とは契約条件として明示されたり、カタログに表示されたりして顧客と合意した製品仕様であり、これに適合しない製品、つまり、不良品や欠陥品を顧客に引き渡さないように管理するのが、規格の意図の品質保証の経営管理(マネジメント)活動であった。規格は、各条項でこれに関連する業務を標題に取り上げ、その実行と管理の要件を条文で規定していた。規格標題の『品質保証モデル』は、規格がこのように効果的な品質保証のマネジメントの要件を規定しているということを表していた。そして、この品質保証マネジメントの目的を『不適合を防止することによって顧客の満足を得ること』と規定しており(1章)、規格が組織の製品が顧客に受け入れられるために不適合の防止が必要であるという考えで規格が書かれていたことがわかる。これは、顧客が製品を選択する場合の最大の関心事が不良品や欠陥品のないことにあったという規格作成当時の市場情勢を反映したものであった。
 
(2) 00年版以降
  00年版では『品質システム』が『品質マネジメントシステム』に変わり、経営管理(マネジメント)の活動に係わる規格であることが明瞭になった。更に、品質マネジメントの直接の狙いが不良品防止から『顧客満足の向上』に変わり(1.1項)、その『顧客満足』が、不良品の防止により実現できるという概念から「顧客の必要や期待が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」に変わった#17。また、規格標題から『品質保証モデル』が消えた。これをJISQ9001の00年版はその序文で、原文では緒言の中の一文を引用して、標題に品質保証という言葉が含まれていないことの理由を「製品の品質保証に加えて、顧客満足向上をも目指そうとしていることを反映している」ためと説明している。
 
  00年版作成の1990年代の競争市場では94年版が規定していたような不良品や欠陥品の防止は当たり前であり、不良品でなくとも顧客の必要と期待を満たす程度の低い機能や性能の製品では、製品は買ってもらえず又は取引を続けてもらえない。この満たすべき顧客の必要や期待は、規格では『顧客要求事項』(5.2項)、又は『顧客の要求事項』(8.2.1項)と呼ばれる。94年版の『規定要求事項』を満たさない不良品や欠陥品は、顧客の必要と期待を満たすものではないから、00年版の品質マネジメントでも94年版の品質保証の重要性は変わらない。実際、不良品や欠陥品に対する顧客の受けとめ方は益々厳しくなっているというのが市場の実態である。00年版の品質マネジメントでも、不良品や欠陥品の顧客への引渡し防止は、最重要課題である。つまり、組織の製品を買ってもらい、又は、継続して買ってもらうために、94年版では不良品を出さないことでよかったが、00年版では不良品を出さないだけではなく、顧客の必要と期待を満たす製品を供給することが必要である。
 
  00年版の『顧客要求事項』又は『顧客の要求事項』を満たさない製品も顧客に受け入れないという意味では、94年版の『規定要求事項』を満たさない製品と同じであり、不適合製品である。不適合製品を顧客に引き渡さないようにする活動を品質保証と呼ぶなら、94年版の品質保証は『規定要求事項』を満たさない製品の引渡し防止であり、00年版では『顧客要求事項』又は『顧客の要求事項』を満たさない製品の引渡し防止である。前者は良品であることを保証し、後者は製品の顧客満足を保証する。下記4(1)のように00年版の『品質』は顧客満足のことを指すから、00年版の『品質マネジメントシステム』は、顧客満足という品質を保証する品質保証規格である。
 
 
2-2.要求事項
(1) 規格の要求事項
  JIS和訳『要求事項』の原文は“requirement”であり、必要条件、必要事項、要件、条件等の意味である$1。 ISO/IECの規格起草規則(130-a)では、規格の規定は性格上、“requirement”“recommendation”“statement”の3種類に分けられ、それぞれに表現方法が決められている。そのひとつである“requirement”と呼ばれる規定は、要件ないし必要事項を定める規定であり、JISはこの“requirement”を『要求事項』と和訳している。すなわち、同規則によると“requirement”は、規格の狙いの実現にはその規定からの乖離が許されない、或いは、順守しなければならない事項を定める規定である。そして、この規定の場合は、他の種類の規定と区別するために、“shall 〜”と表現されることになっている。 これをJIS和訳は、00年版までは「〜すること」、08年版からは「〜しなければならない」としている。因みに“recommendation”は、必ずしもそれでなくてはならないがこれがよいと言う意味の規定であり、JIS和訳では『推奨事項』である。“statement”は、JIS和訳では『記述事項』であるが、事実を表す規定であり、例えば用語の定義はこれである。
 
  規格の標題の『品質マネジメントシステム −要求事項−』は、規格が品質マネジメントシステムの要件を規定していることを表している。規格のどの規定も国際標準の品質マネジメントシステムとしての不可欠な条件である。組織の品質マネジメントシステムが国際標準の品質マネジメントシステムであるためには、そして、品質マネジメントが規格の適用の目的(1.1項)に適って効果的に行なわれるためには、規格のすべての規定をそのまま満たさなければならない。規格に規定された要件のいずれかを満たさず、或いは、いずれかの要件から乖離することがあっては、規格の狙いである顧客満足向上を通じた組織の発展は実現しない。JIS和訳『規格の要求事項』は、原文では“requirements of the Standard”であり、規格が定める要件という意味である。ISO9001で『規格の要求事項』と言うのは、「規格の規定」のことである。
 
(2) 修飾語付の要求事項$1-2
  一方指針規格(131g)では、『要求事項』を「ニーズ若しくは期待」と定義されている#18。 規格の条文中には『顧客要求事項』『製品要求事項』『購買要求事項』など、『要求事項』に修飾語が付けられた用語が数多く用いられている。このような要求事項は、定義の通りの「必要又は期待」の意味であり、付された修飾語に関して必要な又は期待される事項という意味である。例えば、『顧客要求事項』は、組織の製品についての顧客の立場からの必要や期待であり、『製品要求事項』は、どのような製品でなければならないかという意味での製品に関する必要事項又は必要条件のことであり、『購買要求事項』とは購買条件のことである。
 
 
2-3.品質マネジメントシステム
(1) 品質
  94年版では、品質とは「“もの”が必要を満たす能力に関する特性#2」と定義されていた。これは機能や性能の良し悪し、つまり、品質の程度を表す「品質特性」という概念であるから、実務的な意味での品質に合致する。94年版では、これを保証するための各業務に対する必要条件が『品質システム』に関する要件として規定されていた。
00年版では品質の定義が、「一連の固有の特性が要求事項を満たす程度#3」へと変更されている。00年版の品質とは、単に製品の機能や性能というのではなく、それが顧客の必要を満たしているかどうかであり、満たしている程度が品質である。この定義の『要求事項』を『顧客要求事項』とすると、品質とは製品が顧客の必要や期待を満たす程度という意味になる。ここに、「顧客の必要や期待が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」が『顧客満足』である#17から、00年版の品質とは、品質が良いかどうかではなく、『顧客満足』の意味である。
 
(2) プロセス
  『プロセス』とは原文が“process”であり、この場合は「特定の結果を出すために行なわれる一連の物事」の意味(101)で用いられている。プロセスは、組織内で目的をもって行なわれている種々の活動のことであるから、ひとことで言って業務のことである$2。規格では プロセス は「入力を出力に変換する相互に関連する又は作用する一連の活動」と定義される#1。組織で行なわれる業務は、それぞれが何か有益な結果を出すことが目的であり、その遂行には人、物、金など資源が必要である。すなわち、投入された資源(0.2項)により付加価値をつけた狙いの業務結果#1-1を出すように実行される。例えば、部品製作業務では、原材料を使い、労力と機会という資源を投入して部品という業務結果を出す
 
  企業の社内組織構造は一般に、人事、経理、営業、品質管理、製造など機能部門で構成されているが、日常の業務は種々の目的に向けて各機能部門の業務をつなぎ合わせて、部門横断的に行なわれている(2)。 機能部門内の業務もプロセスではあるが、規格は、ある狙いを実現するために各機能部門の業務が繋がって分野横断的に行なわれることの大切さを強調しており、プロセス と言う場合はこの分野横断的な一連の業務を指していることが多い。
 
(3) マネジメント
  『マネジメント』は“management”であり、日本語では経営、或いは、経営管理である$19。広辞苑では「経営」を「継続的・計画的に事業を遂行すること」と定義している。経営或いは経営管理は実態的には、組織の経営目標の達成に向けて組織の事業に係わる業務を管理する活動である。規格ではこれを「組織を方向づけ、制御する統制された諸活動」と表現している#19。この表現は、経営管理活動では、種々の業務が人々によって分担され、それらの全体として経営目標を達成するよう管理、統制されていることを示唆している。この管理を行なうのが「管理者」であり、英語では“manager”であり、組織全体を統率する管理者が“top manager”であり、日本語では「経営者」である。
 
  大抵の組織では、部門内業務を管理する部門管理活動と、これらを統合して組織全体を管理する全般管理活動との階層構造で経営管理(マネジメント)が行なわれている。全般管理活動を担うのが経営層であり、規格ではトップマネジメント(top management)と呼び、その品質マネジメントに対する直接的業務責任を5章に規定している。また、品質目標を『部門及び階層』で設定することを規定した5.4.1項によって、規格がこの階層構造の経営管理(マネジメント)を前提にしていることがわかる。
 
(4) マネジメントシステム
  経営管理(マネジメント)活動では各層の各管理者は経営者の統率の下で、各業務を分担し、かつ、お互いに協働している。この協働の枠組みが、規格の『マネジメントシステム』である。『システム』は“system”であり、規格の定義#20にもあるように、ひとつの目的に向けていろいろのものが関連をもって機能している様を表す英語である$3。『システム』に対応する日本語は「体系」である$3。『マネジメントシステム』は日本語では「経営管理体系」であり、組織の経営管理の目的に向けて種々の要素が関連して機能するようになっているそれら要素の集まりを指す。
 
  英語では特別な概念でも表現でもないのだろうが、日本では、経営の実務でも経営管理学の解説書でも、『マネジメントシステム』に対応する概念も用語も存在しない。英語の趣旨からは、経営管理活動を行なう枠組み$19-1のことと考えるとよい。この経営管理(マネジメント)の実行の枠組みを構成する要素が何であるかについて、規格では、業務(プロセス)と業務実行の手はずの2つに表現されている。『マネジメントシステム』を日本語で理解するには、次の2種類の表現が適当である。
 
@ 経営管理の業務体系
  00年版ではプロセス アプローチの考え方が強調されており、『マネジメントシステム』の構成要素は経営管理(マネジメント)の種々の業務(プロセス)であり、『マネジメントシステム』は「プロセスのシステム」である$13とされている。そして、これら業務が経営目標の達成に向けて、管理者の協働により連携して実行される状態を、種々の業務(プロセス)の網目状の有機的集合体を模して表している(7-a)。この意味では、『マネジメントシステム』とはそれぞれが繋がりを持って実行される業務の集まりであるから、「経営管理(マネジメント)の業務体系」と呼ぶことができる。
 
A 経営管理の業務実行の手はずの体系
  ある業務がどのようなものかは、どのような結果を出すために行なわれるのか、すなわち、狙いの業務結果で表される。或いは、そのような業務結果を出すための手はずで表される。この手はずは、規格では業務実行の手順と使用する資源から成る。手順とはどのように業務を行なうかの決まり#9である。資源とはいわゆる経営資源のことであり、業務実行に必要なものすべては資源である。一般に、人、物、情報と金を指すと言われ、規格では具体的に、例えば、組織構造、責任と権限、行為、手順、技術、業務、文書、要員、設備であり(134-a)(135-a)。この意味では、『マネジメントシステム』は経営管理(マネジメント)の業務の実行の手はずの集まりのことであり、相互に関連して経営目標の達成が図られるようになっている手はずの集まりである。つまり、経営管理の業務実行の手はずの体系と見做すことができる。
 
(5) 品質マネジメントシステム
@ 品質マネジメント
  「品質」は顧客満足度の意味であるから、品質マネジメントとは、顧客満足に関する経営管理(マネジメント)という意味である。組織の経営管理(マネジメント)の実務では、事業の発展に係わる様々な問題を包括的に扱っている。品質マネジメントとは、その中の顧客満足追求に係わる部分であり、組織の経営管理(マネジメント)のひとつの側面とも見做される。品質マネジメントとは、事業の維持発展に必要な顧客満足の実現を図るよう、これに関係する業務を取り上げて、それらの実行を方向づけ統御する経営管理(マネジメント)の活動のことである。
規格で「品質マネジメント」の定義は規定されている19-3が、この言葉は『品質マネジメントの原則』以外には見られない。規格要求事項を実務的正しく理解するためには、『品質マネジメントシステム』を「品質マネジメントの業務の実行」と読み替えることが効果的である。例えば、『品質マネジメントシステムの業務(プロセス)』は「品質マネジメントに関係する業務」であり、『品質マネジメントシステムの文書』は「品質マネジメントの業務に用いる文書」であり、『品質マネジメントシステムの確立、実施、維持、継続的改善』は「品質マネジメントの活動を行なう」ことである。また、『品質マネジメントシステムの要求事項』は「品質マネジメントの業務実行に関する要件」のことであり、『品質マネジメントシステムの有効性』とは品質マネジメントによって必要な顧客満足を実現できているかどうかである。
 
A 品質マネジメントシステム
  品質マネジメントシステムは、組織の全体の経営管理(マネジメント)の業務体系の中の顧客満足追求に係わる部分のことである。この観点からは品質マネジメントシステムとは、組織のマネジメントシステムに融合して含まれる経営管理二次システムであり、組織の経営管理の業務の網目構造の中の品質マネジメントに必要な業務を取り上げ、品質マネジメントの実行に相当する網目構造だけを浮き上がらせて明確にしたものと考えるとよい。
 
  規格では、各条項の標題は実質的にそのひとつひとつが品質マネジメントのプロセスに相当する。これは、本項末尾の注記1が「品質マネジメントシステムに必要なプロセスには」として、規格の5〜8章の標題と同様の名称のプロセスを挙げていることからも窺える。また、TC176指針(7-a)は、品質マネジメントシステムを構成する典型的な種類のプロセスとして、品質方針、目標の設定、コミュニケーション、マネジメントレビュー、資源の決定と用意、人的資源、インフラストラクチャの明確化、設計開発、購買、製造及びサービス提供、監視測定機器の管理等々を挙げているが、これらもほとんどすべての規格条項の標題名である。 規格が品質マネジメントシステムに必要なプロセスとするのは、各条項の標題名を冠したプロセスのことと考えてよい。
 
 
2-4.プロセス アプローチ
  『プロセス』は業務であり、『アプローチ』は問題解決への取組み方(109)を意味する。規格はプロセス アプローチを、必要な業務とそれらの相互関係を決めて、それらの全体、つまり、『システム』として所定の業務結果を出すことができるように各業務を管理することと説明している(0.2項)。ここでは『システム』は、品質マネジメントの種々の業務(プロセス)を相互に結びつけて構成したプロセスのネットワークを意味する。また、管理とは、それぞれの業務とこのシステムの両方にプロセス アプローチのサイクル(計画-実施-管理-継続的改善)を適用することである(7-a)。すなわち、『プロセス アプローチ』とは、業務実行を基礎とした問題取組みという経営管理活動の方法論を意味している。
 
  プロセスアプローチという名称は00年版で登場したが、この考え方は94年版の基礎ともなっていた。例えば、00年版のプロセスの網目状構造から成るというシステムの概念(7-a)は94年版でも説明されている(136-a)。このプロセスアプローチが00年版で殊更に強調されるのは、手順の文書化に偏重するきらいのあったとされる94年版の規格取組みの反省であり、手順に則って業務を行うという規格の意図に沿う実務的な取組みに戻すためである(21-a)。94年版では規格の各条項の標題が表す業務は、品質システムの要素と呼ばれ、すべての要素について確立した手順を文書化する必要が規定されていた。このような規格構成と要求事項記述は、プロセスアプローチとの対比で要素アプローチと呼ばれたりする。
 
  プロセス アプローチサイクルは、PDCAサイクルに準じ、継続的改善が強調された業務実行の原則である。PDCAサイクルは品質管理の用語であったが、今日では、意識するとしないによらず、その考え方は広く効果的な経営管理活動採り入れられている。プロセスアプローチもPDCAサイクルと実質的に同じであり、規格に独特の考えではない。多くの組織で実際に業務が行なわれる様そのものを表す実務的な概念である(2)。規格では、プロセス アプローチサイクルを継続的改善の枠組み、及び、体系的で組織的な経営管理活動の枠組みの2種類の意味合いで用いている。一般には、表面的には継続的改善の方が強調されているが、本質は体系的で組織的な業務実行の枠組みであり、この結果が継続的改善に繋がるというのが規格の意図と考えなければならない。
 
@ 継続的改善の枠組み
  プロセスアプローチ サイクルの『計画』はPDCAサイクルのP(計画)であり、『実施』はD(実行)で、Pの結果を実行することであり、原文でも“implement”であるから「履行」である$4。PDCAサイクルではC(評価)は狭義には、DがPの通りかどうかを確認、評価することであるが、プロセス アプローチでは『管理』であり、原文も“control”であるから、Dとその結果をPの通りとなるように制御することを意味する。 PDCAサイクルのA(対策)はCで検出した不都合を正す処置をとることであるが、プロセスアプローチではこのサイクルを繰り返すとして『継続的改善』と呼ぶ。
プロセス アプローチは本質的に「継続的改善の動的なサイクル」であり(7-b)、これを基礎に品質マネジメントを行なうことにより、組織の顧客満足向上という経営目標を達成する能力を継続的に着実に改善することに繋がることが意図されている。
 
A 体系的で組織的な経営管理活動の枠組み
  組織が必要な経営目標を多くの人々の努力を結集して効果的に且つ効率的に達成するには、業務実行を専ら人々のそれぞれの考えや判断、能力に委ねるのではなく、人々が確立した枠組みの中で管理された状態で業務を実行するようになっていなければならない。この体系的で組織的な業務実行の枠組みがPDCA/プロセスアプローチ サイクルである。すなわち、関係する業務が全体として経営目標を達成するように、必要な業務と各業務に必要な業務結果を明確にし、それを確実に達成できる業務実行の手はずを整え(P/計画)、要員にこの手はずに則って業務を実行させ(D/履行)、業務実行と結果の問題を把握し、この生じた問題を正すことによって、経営目標の達成を図り(C/管理)、更に、以後には経営目標がより確実に達成できるよう手はずを改善し強化する(A/継続的改善)。このPDCA/プロセスアプローチ サイクルの枠組みでは、すべての人々の業務がトップマネジメントが必要と判断した経営目標の達成を目指して行なわれ、かつ、誰がいつ業務を行なっても、組織として最も効果的で、可能な最高の効率、最低のコストで最も安全に業務が実行され、所定の業務結果が確実に得られる。
 
  組織をPDCA/プロセスアプローチ サイクルの枠組みで経営管理することにより、トップマネジメントの号令一下、すべての人々が組織の事業の維持発展に向けて協働する状況が実現する。このような体系的で組織的な品質マネジメントの活動を規格は本項で、『品質マネジメントシステムの確立、文書化、実施、維持、有効性の継続的改善』と表現している。
 
 
2-5.適用除外
  規格要求事項はその業種、規模、製品にかかわらずすべての組織への適用を意図して汎用的なものとなっているが、組織や製品の性質によっては適用が不可能な要求事項がある。すなわち、初版と94年版は事実上、機械工業を主体とする製造業の品質保証のあるべき姿としての国際標準であったが、00年版はこの要件を全業種業態に適用できるように表現を汎用化したものである。従って組織によっては、ある要求事項を適用するような業務(プロセス)が存在しないとか、実際問題として適用して業務(プロセス)を行なうことができないというような場合があり得る。この場合には、組織の品質マネジメントシステムが当該の要求事項を満たさなくても、規格の意図の顧客満足の向上を図ることができるし、適用できないが故に顧客満足向上を図ることが出来ないなら、別のやり方を考えなければならない。このことを規格は、適用除外と表現している(1.2項)。
 
  適用除外するために規格は2つの条件を課している。 ひとつは、適用除外は7章の要求事項に限定されることであり、この場合、条項全体だけでなく条項中の特定の要求事項のみを適用除外することもあってよい。 また、適用除外が組織の不良品の引渡し防止を含む顧客のニーズや期待を満たす製品を一貫して供給する組織の能力と責任に影響しないということが説明できなければならない(4.2.2 a)項)。
 
  この適用除外は実際には、94年版までのISO9001規格が、ISO9001だけでなく、設計開発の条項を含まないISO9002と、試験・検査に焦点を絞ったISO9003との3本立てであり、組織が必要な適用規格を選択するようになっていたのが、00年版でISO9001に一本化されたことに関係する処置である。 例えば、業務受託型製造業の多くは製品の設計開発業務をもつ必要がなく、94年版まではISO9002を適用してきたが、00年版では7.3項(設計・開発)の適用除外を宣言することでISO9001適用に切り替えることができる。
 
  適用除外の例として TC176指針は次を挙げている(4-a)。
<例1> ABC銀行がそのインターネットバンキング事業のみにシステム構築。これ自身は可。 しかし顧客個人情報を扱うので7.5.4項の適用除外は不可。
<例2> DEF社は親会社と他社の製品と容器の仕様に従って清涼飲料を製造している。7.3項の適用除外は可。 原料と容器の購入契約は親会社が行なうが、発注と受入検証はDEF社が実施するのため、7.4項の適用除外不可。
<例3> HIJ法律事務所。新サービスの設計開発、既存サービスの変更がある。7.6項のみ適用除外が可。
<例4> XYZ電話器製造会社。顧客が電話器の設計に責任をもっている。設計仕様書は 7.5.4項で管理。 7.3項は適用除外。
<例5> KML医療機器製造会社。政府規制は設計開発をQMSに含むことを必要としていないが、実際には製品の 設計開発を実施している。7.3項の適用除外は不可。
<例6> NOP旅客鉄道の整備工場。車両の設計は行なっていないので、7.3項を適用除外。工場の顧客は鉄道運転部門。7.2, 7.5.4項を含む他のすべての条項は適用除外不可。
<例7> TCH社は製品の概念設計と販売のみ。詳細設計はHT&T社、製造はCBB社に外注。 CBB社の7.3項の適用除外の他は、全3社のいずれもが7章のすべての条項を適用するべき。
<例8> CDH建設の事業は建物の設計施工。ただし設計はTPL設計に外注。これは7.4項で管理。CDH建設のプロジェクトマネジャーが設計検証、レビューに参画するなど、TPL社の設計活動が7.3項に沿ったもので あることに責任をもっている。この場合、TPL社の設計開発活動はCDH社の品質マネジメントシステム 一部であることを主張できる。
<例9> AKP社は発動機製造。部品のトレーサビリティは社内的には不要だが、特定製品の顧客から要求されている。 7.5項の適用除外は不可。
 
 
2-6.規格の条文記述
(1) 条項の構成
  ISO9001は元々、不良品を出荷しないための組織の業務の方法を規定するために作成されたものであり、世界の企業で開発され、実践され、効果的と認められる様々な管理の観点と管理項目、管理手法をまとめたものである。規格はこれを、不良品を組織の外に出さないために組織が満たすべき業務要件として規定している。 大事なのは要求事項の内容であり、それらをどのように整理してどのような順番で記載するかは本質的な問題ではない。 しかし、全く雑多に記載しては、規格の全体的狙いが正しく理解されないかもしれない。 ISO9001の 条項構成と各条項の順番には、規格の狙いを実現する論理が反映されている。
 
  94年版では、製品の品質保証を図るための業務をどのように管理するかという視点で、要求事項が4.1〜4.18項に分けて書かれていた。これら各条項が表す業務は、品質システムを構成する要素と見做され、各要素に対する要求事項によって規格は構成されていた。 しかし、要素が無作為に羅列されていた訳ではなく、品質保証活動の実行の概念的な順番で書かれていた。つまり、品質保証を図るための活動というのは、経営者が手順と資源から成る品質システムを確立し、注文を受付け、製品を設計し、業務実行の手はずを文書化し、資材を調達し、製造し、検査や試験を行い、不適合製品の流出を防止し、問題に対しての是正、予防の処置をとり、製品を顧客に届け、業務実行と結果を記録し、内部監査で調査し、要員の教育訓練を行い、製品引渡し後活動を実行し、管理のための手法を確立する、という順番のサイクルを繰り返すものと見做されていた。 規格は、この順番で各業務をそれぞれの条項の標題にして、それぞれの業務に関する要件を規定していた。
 
  00年版の論理は プロセスアプローチである。 各条項は品質マネジメントシステムを構成する業務(プロセス)であり、それら業務のそれぞれとそれらの全体としての品質マネジメント にPDCA/プロセスアプローチ サイクルを適用することによって、必要な顧客満足の一貫した達成を図る。プロセス アプロチーチによる品質マネジメントの概念は、規格序文の図1の「プロセスを基礎とした品質マネジメントシステムのモデル」に表されている。図1の品質マネジメントのサイクルの、経営者の責任、資源の運用管理、製品実現、測定・分析・改善という各段階は、それぞれは4章と5章、6章、7章、及び8章に対応している。 つまり、00年版の条項構成と順番は、品質マネジメントの実行のプロセスアプローチを表現していることになる。
 
(2) 条文の記述
  規格の条項において、規定が複数の節又は段落に分けて記述されていることが多い。この場合、当該条項に関する必要な規定が順に羅列されているのではない。一般に、最初の節には、条項の趣旨或いは基本的な要件が規定されている。次の節には、これらの詳細な、或いは、より具体的な要件が、それぞれの節に分けて規定されている。更にこの後の節では、これら要件をより詳細に、或いは、補足的に表す規定が記述される。
例えば本項では、第1節で顧客満足向上を図る品質マネジメントの実行に関する要件を総合的に、また、概括的に示し、これをもう少し具体的に第2節と第3節に記述し、更に、第2節の要件に関する補足的な要件を第4節に規定している。7.1項(製品実現の計画)では、第1節に基本的要件を規定し、第2節にその詳細要件を規定し、第3節に第1節を補足する要件を規定している。8.2.4項(製品の監視及び測定)では、第1節が製品の合否判定に関する要件であり、第2節、第3節は第1節の中の要件を補足する要件である。
 
 
3.規格要求事項の真意
  規格は、顧客満足の追求を通じて組織の事業の継続的な発展を図る効果的な品質マネジメントの在り方に関する国際標準である。規格は4〜8章の各条項で効果的な品質マネジメントに必要な業務を取り上げ、その実行に関する要件を規定している。これら要件は、世界の品質マネジメントの専門家が、品質で成功を納めた世界の企業の体験から学び、最先端の且つ成功実績があるとして合意した業務要素と手法を整理し、体系化して表されたものである(10)。組織がこれら要件を満たして品質マネジメントを行なえば、事業環境の変化に対応し市場競争を勝ち抜いて、不良品を顧客に引渡さないことを含む必要な顧客満足を一貫して実現し、継続組織として事業を維持、発展させることができる。
事業の発展のために顧客満足の向上を目指す組織、又は、現に顧客のニーズと期待を満たす製品を一貫して供給する能力を有することを証明せんとする組織は、ISO9001規格が規定に定める要件を満たして品質マネジメントを行なうことが必要である。
 
  標題の『一般要求事項』の原文は“general requirements”であり、“general”はこの場合は全般的、全体的の意味で“requirements”は要件であるから、総合要件の意味である。本項は、組織が規格の規定に従って品質マネジメントを行なうとはどのようなことであるかを、品質マネジメントの効果的な実行と管理のための原則として、総合的に規定している。
 
  次項以下の各条項は品質マネジメントシステムを構成する業務(プロセス)に対応し、各条項の規定は、それぞれの業務をこの原則に則って実行するものとして、それぞれの固有の要件を具体的に表している。しかし、すべての条項においてその業務をこのサイクルのすべての段階に展開して要件が表されている訳ではない。むしろ、その業務に特に重要な事項のみが取り扱われて、その要件だけ規定されていることがほとんどである。条項の意図の正しい解釈には、この意図的な記述の抜けを本項の総合要件で補うことが必要である。
 
(1) 組織は、この規格の要求事項に従って、品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、かつ、維持しなければならない。また、その品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善しなければならない。 [第1節]
  品質マネジメントが必要な顧客満足を確実に実現する真に効果的なものであるためには、組織の狙いの顧客満足が人々の共通理解となっており、その達成を目指して人々が協働し、且つ、それぞれの業務に必要な結果を確実に出すことができるという、体系的で組織的な業務実行が必要である。この基礎は、業務実行を個人の能力や判断、裁量に委ねるのではなく、組織として管理された状態に置くことである。これは、人々がそれぞれの必要な業務結果を出すことのできるように整えられた手はずの下で業務を行い、業務の実行や結果に問題が生じれば、狙いの業務結果を得るように問題が正されるという状況である。ここに手はずを整えるとは規格では、各業務の実行の手順を確立し、使用する資源を用意することから成る。このような管理より、その業務実行の手はずが改善され、以降の業務がこの改善された手はずで行なわれ、これを繰り返えすことにより、業務実行上に問題が生じることが少なくなり、狙いの業務結果を出す確実性を向上させることができる。以て、事業の維持発展に必要と見定められた顧客満足を確実に実現することができるようになる。
 
  規格は、この体系的で組織的な品質マネジメントの実行を、PDCA/プロセスアプローチ サイクルで品質マネジメントの業務を行なうことに準えて、『品質マネジメントシステムの確立、文書化、実施、維持、継続的改善』と表現している。この表現は体系的で組織的な品質マネジメント活動を表す表現として、規格のいくつかの条項でも見られる。但し、条項によっては、確立、文書化、実施、維持、継続的改善のいずれかが欠けた表現となることがある。いずれの場合も、意図的な欠落ではなく単なる表現の不完全さ或いは不統一さの問題であり、品質マネジメントを体系的、組織的に行なわなければならないという趣旨には変わりはない。
 
@ 品質マネジメントシステムを確立する
  原文は“establish”で、恒久的なものとするの意味$7であり、「しっかりとうち立てること」という意味(113)の日本語の「確立する」とほぼ合致する。品質マネジメントシステムとは品質マネジメントの業務実行の手はずであり、各業務の手順と使用する資源から成る。品質マネジメントシステムの確立とは、いつでも誰によってもこの手はずに則って業務が行なわれるよう、手はずが関係者の共通理解となっており、実行に必要な状況が整えられている状況である。この手はずを決め、明確にする活動は、次のAを含み、品質マネジメントシステムの計画活動と呼ばれる(5.4.2項)。
 
  必要な顧客満足を確実に実現するためには、品質マネジメントのそれぞれの業務をどのように行なうかを、要員のそれぞれの推量や判断、裁量の必要のない程度に明確に定められ、そのように実行できるように必要な用意がなされていなければならない。このような確立した品質マネジメントシステムの下で業務を実行することは、要員の創意工夫を否定するものではない。創意工夫の結果を要員がそれぞれに自身の業務実行の改善にだけ役立てるのでなく、個人の創意工夫の結果を品質マネジメントシステムの手はずの中に採り入れ、手はずの一部として確立することによって、その効用を組織全体のものとすることができる。これは、Dの品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善の一部である。
 
  ISO9001規格を導入していない組織でもほとんどの場合は、その経営には品質保証の観点があり、一定の枠組みで事実上品質マネジメントが行なわれている。その既存の品質マネジメントの業務を規格の定める要件に照らして見直し、不足している業務やあいまいな業務について手順と資源を明確にし、それに基づいて業務が行なわれるような状況にすることが、「規格に従って品質マネジメントシステムを確立する」ということである。
 
  また、品質マネジメントの業務に問題が生じた場合にはこの改善のために手順や資源を変更しなければならない。これは品質マネジメントシステムの変更と見做され、これは新しい品質マネジメントシステムの確立と見做される。品質マネジメントシステムの確立は、品質マネジメントシステムのPDCA/プロセスアプローチ サイクル の繰返しのP/計画に相当する。
 
  事業の維持発展に必要な顧客満足を確実に実現するためにはまず、どのような業務をどのように行なうのかを決め、そのように実行できるように手はずを整えることが必要である。顧客満足の狙いを変更した場合、又は、確立した手はずに問題が認められた場合は、手はずを見直し、再整備し、改善された品質マネジメントシステムとして確立しなければならない。
 
A 品質マネジメントシステムを文書化する
  確立した品質マネジメントシステムの業務の手順及び使用する資源は、文書に表わすことにより、組織内の必要な部門、要員に効果的に伝達され、理解され、より確実な関係者の共通認識とすることができる。実務的には、文書化によって初めて品質マネジメントシステムが確立したということになる。94年版では、すべての条項でその業務の手順の文書化の必要を規定していた。00年版では「組織内のプロセス の効果的な計画、運用及び管理を確実にする」ためには手順の文書化が効果的である(4.2.1項)と、文書化の意義を規定するに留めている。これは、文書化が目的視された94年版以前の規格理解への反省に立った記述変更(24a)であり、文書化の必要性の認識が変えられたのではない。
 
  文書化は、品質マネジメントの各業務が決められた通りに実行されることを確実にする効果的な手段である。事業の維持発展に必要な顧客満足を確実に実現するためには、重要な業務については整えられた手はずを文書に記述し、業務が文書を使用して実行される状況にしなければならない。
 
B 品質マネジメントシステムを実施する
  『実施する』は“implement”の和訳であり、この英語は単に実行するというのではなく、決められていたものを実行に移すという意味$4であり、日本語では「履行する」が近い。規格の意図は、確立した手順と資源に則って業務を実行するということである。
 
  定められた業務結果を確実に得るためには、定められた手はずで業務を行なうことが必要である。事業の維持発展に必要な顧客満足を確実に実現するためには、必要な業務結果が確実に得られるとして決められ、整えられた手はずの通りに、業務が行なわれるようにしなければならない。決められた通りに業務が行なわれない原因としては、要員に業務実行の方法が知られておらず、理解されていないとか、要員の業務遂行能力が足らないとか、決められた資源が用意されていない、使えないとかであり、更に、誤解と誤作業、過失や偶発的出来事など、業務実行につきものの不確実性が原因となる。
 
C 品質マネジメントシステムを維持する
  『維持する』は“maintain”であり、品質マネジメントシステムの計画された状態、すなわち、必要な顧客満足を実現できるという状態を保つという意味$5である。品質マネジメントシステムの履行において、狙いの業務結果が確実に得られるように品質マネジメントの業務を管理することであり、問題が生ずれば正し、品質マネジメントの業務の手順や資源に必要な変更を加えることである。 手順や資源を変更することは、品質マネジメントシステムの変更であり、これは品質マネジメントシステムの新たな確立である。「維持する」はPDCA/プロセスアプローチ サイクルのC/管理に相当するが、実質的には次のA/継続的改善やP/計画をも含む活動である。
 
  事業の維持発展に必要な顧客満足を確実に実現するためには、業務が定められた通りに実行され、所定の業務結果が得られているかどうか監視測定し、問題があれば正して、狙いの業務結果を確実に得るように管理する活動が必要である。品質マネジメントシステムには、この業務実行管理活動の手はずが含まれていなければならない。
 
D 品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善する
  規格の定義#4で『有効性』とは「活動が計画通りに実行されて、計画した結果が達成された程度」である。品質マネジメントシステムは、組織の発展に必要な顧客満足を実現することを狙いとする品質マネジメントの実行体制であるから、「計画した結果」とは狙いの顧客満足のことである。その有効性とは、品質マネジメントシステムに従って品質マネジメント活動を行なうことで狙いの顧客満足を実現できる程度のことである。
 
  必要な顧客満足の姿を明確にし、これを実現できるように手はずを整え、これに則って業務を実行し、業務実行と結果が所定の通りでない場合にはこれを正し、この改善された手順や資源を品質マネジメントの手はずとして取り組むという、体系的で組織的な品質マネジメントの実行を継続することにより、業務が定められた通りに実行され、定められた業務結果を得ることの確実性を増すことができる。以て、事業の維持発展に必要な顧客満足をより確実に実現できるという組織の品質マネジメントの業務能力が向上する。
 
  顧客のニーズと期待は高度化し変化するから顧客満足を得る困難さは時代と共に増す。従って、現状に安住せず、必要なこと、決めたことは確実に実現させる品質マネジメントの業務能力の改善に努めなければならない(131a)。規格の論理では、『品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善』は『品質方針、品質目標、監査結果、データ の分析、是正処置、予防処置、及び、マネジメント レビュー』のプロセスアプローチ/PDCAサイクルの繰り返しによって行なわれる(8.5.1項)である。つまり、品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善は、品質マネジメントをPDCA/プロセスアプローチ のサイクルに則って行なうことそのものでもある。
 
(2) 組織は次の事項を実施しなければならない [第2節]
  組織が品質マネジメント活動を体系的で組織的に行なうためには、次のa)〜f) 項の内の必要な活動を考慮し、それぞれに関係する業務について各条項で規定される要件を満たすことが必要である。この第2節は、上記(1)の品質マネジメントの体系的で組織的な実行を、品質マネジメントの実行のPDCA/プロセスアプローチ サイクルとしてより具体的に表現している。a)〜d)は、品質マネジメントシステムの『確立』『文書化』に関係し、PDCA/プロセスアプローチ サイクルのP/計画であり、e)〜f)が、『維持』『継続的改善』に関係し、C/管理、A/継続的改善である。次項以降の各条項(4.2.1〜8.5.3項)では品質マネジメントの各業務の実行の固有の要件が規定されているが、どの条項の業務の実行要件もその業務がこのサイクルで行なわれることを意図して記述されている。
 
@ 品質マネジメントシステムに必要なプロセス 及びそれらの組織への適用を明確にする(1.2参照)。 [a)項]
  『プロセス』は組織で日常的に行なわれている業務のことである$2。『それらの組織への適用』は、業務(プロセス)が組織内のどの部門で行なわれているかという意味であり$6-1、『明確にする』の原文は“determine”であるから多くの中から特定し、決めるという意味である$6-1。
 
  組織が品質マネジメントシステムを確立するにはまず、組織で行なわれている種々の業務の内、品質マネジメントを効果的に行なうのに必要な業務とその実行部門を特定しなければならない。規格の意図の品質マネジメントに必要な業務とは、規格の各条項の標題に対応する業務のことと考えてよい。文末に付された註釈『1.2参照』は、規格の本a)項が要求事項の適用除外(1.2項)に関係することを示している。すなわち、規格の各条項の業務の内には特定の組織に存在しないもの、或いは、不要なものがあり得る。このような業務は品質マネジメントシステムの業務(プロセス)から除外して、必要な業務(プロセス)のみで組織の品質マネジメントシステムを組み立てればよい。
 
A これらプロセス の順序及び相互関係を明確にする。 [b)項]
  品質マネジメントの各業務は、それら全体としての品質マネジメントシステム の狙いの顧客満足の実現に向けて、相互に関係を持ち、連携して行なわれなければならない。規格では、品質マネジメントシステムは上記@の各業務の網目構造状の有機的集合体であり、ある業務への入力は一般に、他の複数の業務から出力である#1-2というような関係にある。この業務間の関係が『プロセス の順序と相互関係』である。JIS和訳『明確にする』の原文は“determine”であり、上記@と同じく決定するの意である。
 
  品質マネジメントの狙いの顧客満足を効果的に実現するために、上記@で必要と決めた業務がどのように連携して行なわれなければならないか、例えば、業務間の情報や書類や中間製品のやりとりの手順を決めなければならない。これら業務間を関連づける手順は、関係する業務の手順に含めることでよい。しかし一般に、品質マネジメントに関係する業務の多くは収益、環境、労働安全等々経営管理(マネジメント)の他の観点にも関係するし、業務間の順序と相互関係は経営管理(マネジメント)のそれぞれの観点で異なる。これを品質マネジメントに限定して明確にすることが、品質マニュアル(4.2.2 c)項)の基本的目的である。
 
B これらのプロセスの運用及び管理のいずれもが効果的であることを確実にするために必要な判断基準及び方法を明確にする [c)項]
  『運用』の原文は“operation”で、事業活動を行なうことであるから、『プロセスの運用』は単純に業務を実行することである$8。原文から『判断基準』は業務実行の基準や結果の許容範囲、『方法』は業務実行の手順であり、『明確にする』は「決定する」である$6-2。本条文は、上記@Aで必要とし システム に組込んだ各業務(プロセス)の実行によって狙いの顧客満足が実現するように、業務実行と管理の手順と基準、許容範囲を決めることを指す。
組織は各業務の実行で確実に所定の業務結果を得るために、業務の実行の手順を確立しなければならない。業務実行にはばらつきがつきものであり、業務実行の手順には、業務実行条件のばらつきの許容範囲を明確にした基準が含まれていなければならない。また、許容する業務実行のばらつきに対応する業務結果のばらつきの許容範囲を明確にしなければならない。業務実行の管理とは、業務実行と結果がこれらの許容範囲内に制御することである。
 
C これらのプロセス の運用及び監視の支援をするために必要な資源及び情報を利用できることを確実にする。 [d)項]
  『運用及び監視(operation and monitoring)』は実質的に上記Bの『運用及び管理(operation and control)』と同じことである。入力に付加価値をつけて出力に変換する活動#1たる業務(プロセス)の実行には資源が必要である(0.2項)。資源とは経営資源を指し、経営資源とは一般に、金、人、もの、及び、情報である。規格では業務実行に用いるもの或いは必要なものはすべて資源である。指針規格(132-a)は資源として、人々、設備や建物、ソフトウェア、作業環境、情報と情報技術、供給者と供給者との互恵関係、天然資源、財務資源、知的財産、更には、力量、管理者の指導力等々を例示している。本条文では情報を資源と別のものとして記述しているが、特段の意図があると考えられない。情報とは「意味のあるデータ」と定義される#6が、データ(data)とは「資料、データ、事実、情報」である(110)。品質マネジメントで使用される情報には例えば、業務実行の計画や指示に関する情報、手順や基準に関する情報、業務結果に関する情報、品質方針や組織内での判断や決定に係わる情報などがある。
 
  品質マネジメントの業務を所定の結果を出すように実行し、そのように管理するためには、資源と情報が必要である。これらの資源及び情報が確実に利用されるように、必要な資源を用意し、情報を伝達し、使用する手順を確立しなければならない。
 
D これらのプロセス を監視、測定及び分析する。 [e)項]
  品質マネジメントの各業務(プロセス)が、所定の通りに実行され所定の結果が得られることを確実にするために、それら業務実行を管理しなければならない。この管理は“control”であり、管理とは業務の実行と結果を上記Bの基準や許容範囲に照らして所定の通りであるかどうかを評価し、問題があれば正す活動である。この管理を規格は『監視』『測定』『分析』『継続的改善』の各活動に分けている。
 
  これによると、『監視』『測定』は情報を検知する活動であり、両者の違いはそれぞれが検知する情報の性格と考えるとよい。検知する情報が合否判定にしか用いられない定性的、記述的特性なら前者であり、合否判定基準からどの程度かけ離れているかまで判断できる定量的、指数化された特性なら後者である。ただし、実務的にも、規格の要件としてもこの違いは重要ではないので、「監視測定」と一括して理解するのでよい。『分析』は検知された情報を評価して問題を抽出して、必要な対応処置に結びつける活動である。り、この処置をとることが規格では『継続的改善』と呼ぶ。
 
E これらのプロセス について、計画どおりの結果が得られるように、かつ、継続的改善を達成するために必要な処置をとる。 [f)項]
  この条文の原文をそのまま和訳すると「これらプロセスの計画通りの結果、及び、継続的改善を達成するのに必要な処置を定められたように実行する」であり$10、規格の管理活動の内の問題への対応処置をとることを述べている。すなわち、上記Dの業務実行の『監視、測定、分析』により、上記Bの業務実行と結果に関する基準や許容範囲からの逸脱又は問題が抽出されれば、所定の業務結果が得られるように必要な対応処置をとらなければならない。この対応処置は規格では修正処置、是正処置と(8.5.2項)、予防処置(8.5.3項)から成り、組織はこれらの処置の手順を定めておかなければならない。これらの処置により計画を逸脱する業務結果の出る可能性を小さくし、これを繰り返し行なうことにより、所定の業務結果を確実に出すことができるように業務能力を向上させていくことができる。これが『プロセス の継続的改善の達成』」である。 このプロセス の継続的改善は、資源の強化を含む手順の改善に裏付けられたものであり、結果として品質マネジメントの顧客満足向上の狙いがより効果的に実現できるようになる。すなわち、品質マネジメントシステム の有効性の改善である。
 
(3) 組織は、これらのプロセス を、この規格の要求事項に従って運営管理しなければならない。 [第3節]
  『運営管理する』の原文は“manage”であるが、経営管理(マネジメント)を行なうことではなく、単に「ある事を管理下に置く」「ある事を取扱うことができる」の意味(101)に解するのがよい。『これらプロセス』とは文脈から、上記(2)@で品質マネジメントに必要と特定した業務(プロセス)のことである。規格はこれら品質マネジメントに必要な業務(プロセス)の実行、管理の固有の要件を、各条項で上記(2)の原則に則って規定している。事業の維持発展を顧客満足の向上の観点から追求する組織は、規格の各条項の要件に則って品質マネジメントの各業務を体系的で組織的に行なわなければならない。
 
(4) 要求事項に対する製品の適合性に影響を与える プロセス を アウトソース することを組織が決めた場合には [第4節]
  規格では、物品やサービスの購入も業務の外注も『購買』である。94年版では購買行為を下請負とも呼び、購買先を下請負契約者と呼んでいたが、00年版では、購買先は供給者に呼び変えられ、下請負という用語が使われなくなった。TC176指針(6)は「2000年版のISO9000系規格の目的及び精神から用語『下請負』と『アウトソース』はどちらを使っても変わりはなく、同じ意味である」と、00年版の『プロセスをアウトソースする』と94年版の『下請負契約する』とが同じであることを明瞭に記している。
 
  一般には、特定の物品の供給やサービスの提供を業とする供給者から物品やサービスの供給を受ける場合は「製品の購入」と呼び、組織の仕様の物品の製造やサービス提供を行なわしめる場合は「作業の外注」と呼ぶ。後者の場合も組織が利用するのは供給者の作業の結果である製品である。規格ではどちらも「製品の購買」である(7.4項)。そして、前者の場合も、受け取る物品やサービスを製造又は提供する作業を供給者に委託していると見做すことができるから、前者も後者も『プロセスをアウトソースする』ということになる。すなわち、組織が品質マネジメントで利用する製品、つまり、原料、半製品、部品、及び、品質マネジメントの業務、例えば、設備保守や製品相談サービスを、受け取る立場から表現したのが購買(7.4項)であり、作業を委託するという立場で表現したのが本項のプロセスのアウトソースである。
 
  この場合の『要求事項』は、製品の適合性に関係する要件であるから、狙いの顧客満足の実現のために組織が満たさなければならない顧客要求事項(5.2項)であり、それを製品仕様として表わした製品要求事項(7.2.1項)のことであり、製品実現の業務で満たさなければならない『製品の品質目標及び要求事項』(7.1 a)項)である。『製品の適合性に影響を与えるプロセス』とは、不良品を顧客に引渡してしまうことに関係する業務(プロセス)を指すが、事実上、品質マネジメントのすべての業務(プロセス)を意味する。すなわち、上記(2)@で品質マネジメントに必要として特定したすべての業務(プロセス)のことである。
 
  『アウトソースしたプロセス』とは、上記(1)@で品質マネジメントに必要として特定したものの、何らかの事情で外部の組織に実行させるよう決めた業務のことである。これには、外部の供給者だけでなく、例えば、事業所を主体とする品質マネジメントシステムの範囲外に便宜上位置づけられた本社の部門なども該当する(5a)。
 
@ 組織は アウトソース した プロセス に関して管理を確実にしなければならない。 [第1文]
  組織が、事業の維持発展に必要な顧客満足を実現せんとする、換言すれば、不良品ではないことを含む顧客満足の製品を顧客に一貫して引渡さんとするなら、規格のすべての要件を満たして品質マネジメントを行なわなければならない。上記(2)@では、規格が品質マネジメントに必要として各条項で規定する業務(プロセス)の中には、業種業態などの特質上、組織によっては必要とせず、組織内で行なわれていない業務があり得ることが規定されている。しかし、現実に組織内で行なっていない業務があったとして、その業務を外部の供給者に実行を委託しているとすれば、その業務を組織が必要としないということではない。組織内に存在しないとしても、品質マネジメントに必要な業務である以上は規格の規定する要件を満たして実行されなければならない。なぜなら、その業務が規格の規定する要件を満たして行なわれなかったとすれば、組織は狙いの顧客満足を実現できないからである。
 
  品質マネジメントに必要な業務は、組織自身で行なわないという理由では、該当する条項や条文の要求事項を適用除外することはできない。品質マネジメントに必要な業務を外部の供給者に委託した場合には、その業務が当該の要件を満たして実行されるように管理しなければならない。
 
A これらのアウトソースした゚ロセス の管理の方式及び程度は、組織の品質マネジメントシステムの中で定めなければならない。[第2文]
  00年版では『アウトソースしたプロセスの管理について、……』であったが、08年版で『〜の管理の方式及び程度は、……』となり、決めなければならないことが明確に表記されることとなった。供給者に委託した業務の実行に関する組織の管理の方式と程度は、狙いの顧客満足の実現に及ぼす影響の大きさ、或いは、管理が不十分だった場合に必要な顧客満足を毀損する危険性の大きさに応じたものでなければならない。
 
  これと同じ目的の管理を規格は7.4項(購買)で、供給者から受け取る製品の管理の形で要件を規定している。アウトソース又は購買の組織の顧客満足への影響は、組織が受け取った製品を通じて具現化するものであり、管理は、組織が必要な製品仕様を決めて、それを満たす製品を間違いなく受け取るという観点で行なうことが合理的である。実際、7.4項の購買製品の管理の要件には、必要により供給者の業務実行を管理する必要が含まれている。これは、受け取る製品が間違いなく必要なものであることを確実にするために、組織が供給者の業務実行をもどうしても管理する必要がある場合があるということを意味している。08年版では、アウトソースしたプロセの管理に関する注記3が追加され、その中に7.4項の管理要件以外の管理要件の存在が示唆する記述があり、却って規格の意図の理解を混乱さている。
 
  組織は、供給者に実行を委託した業務が該当する規格の要件を満たして実行されるように管理しなければならない。管理の目的は、供給者の業務実行で狙いの顧客満足の実現に支障を来すことを防止することであり、具体的には組織が必要として規定した製品仕様を満たす製品を供給者から確実に受け取ることである。組織はこれを確実にするために必要で十分な方式と程度で供給者に委託した業務を管理しなければならない。この管理には供給者の業務実行を直接的に管理する方法と受け取る製品で間接的に管理する方法とがある。いずれも7.4項に具体的な要件が定められている。この管理の活動は、組織の品質マネジメントの業務のひとつとして位置づけられなければならず、例えば、その業務の存在は組織の品質マネジメントシステムを記述する品質マニュアル(4.2.2項)で明らかになっていなければならない。
 
 
 
H22.11.7 修(H23.1.19)
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 サニーヒルズ コンサルタント事務所