ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
14 4.2.1項  文書化要求事項   一般 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
 
35-02-14
  品質マネジメントシステムの文書には、次の事項を含めなければならない。
   a) 文書化した、品質方針及び品質目標の表明
   b) 品質マニュアル
   c) この規格が要求する“文書化された手順”及び記録
   d) 組織内のプロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実にするために、組織が必要と決定した記録を含む文書
 
 
1.要旨
  本項は、4.1項に規定される規格の品質マネジメントの実行の基本要件のひとつである『品質マネジメントシステムの文書化』に関する要件を規定している。
 
  品質マネジメントの業務を効果的に実行するためには、資源の適用方法を含む業務実行の手順を文書に表し、文書を使用又は参照して業務を行い、実績を文書に表し、保持することが必要である。組織は品質マネジメントシステムの計画 (5.4.2項)の一環として、a)〜d)項に照らして必要な文書を作成し、それら文書に規定された手順に従って、或いは、文書を使用して業務を行わなければならない。
 
 
2. 背景・及び・関連事項
2-1.文書化の意義
(1) 文書
  規格で文書とは『情報及びそれを保持する媒体』である#6。 情報とは「意味のあるデータ」であり#6-2、データ(data)とは事実又は情報(101)のことである。実務的に「文書」とは、何かの物理的手段で保持されて、業務に使用する情報のことである。最も普通の文書は情報が紙の上に文章で記述されたり、図表や絵や写真で表現されたものであるが、紙の上でなく電子計算機の画面や投射スクリーン、キャンバス、看板、シールなどに表示された場合も文書である。製品見本や合否限界見本のように、ある物の情報が現物そのもので表される場合はその現物も文書である。電子計算機のハードディスク、フロッピーディスク、CD、USBメモリも情報を保持した場合は文書である#6-1。簡単に言えば、業務の情報が人間の頭脳以外に保持されている状態であれば、文書である。文書化とは、人の頭の中の情報を外に出して、誰にも見えるようにすることである。
 
(2) 文書化の意義
  文書化は、事業維持発展に必要な顧客満足を確実に実現させる体系的で組織的な業務実行の核である。組織とは多数の人々の協働の場であり、協働によってひとつの目標を達成するためには、業務実行に一定の決まり、つまり、仕組み、手順、責任と権限等々が明確でなければならない。 これらが口答で伝えられ、或いは見様見まねで覚えられて人々の記憶となっているだけでは、言い間違い、聞き間違い、見間違い、記憶違い、記憶の薄れによる誤認や誤解は避けられず、誤作業を引き起こす。 文書化は人の記憶や口答伝達がもたらす誤りとそれによる業務遂行の不首尾を防ぐための基礎である。 決まりを文書化し、文書に基づいて人々を教育し、文書によって作業を指示し、文書に表現された定めに従って業務を行なうことによって、誰でもいつでも、違った相手とも協働して、同じ所定の結果を出すことができる。
 
  また、業務の結果を文書化することにより、誰もが実行を確認でき、同じ事実認識を持つことができる。業務実行結果を文書化した記録は、問題解決や課題の抽出のために不可欠である。組織の業務の成果である独自の考え、業務方法、技術は文書化することで、組織内で広く応用され、継承され、更に、他組織による知的財産権侵害に対抗できる。
 
  このような文書化の目的と効用についてTC176指針(8-a)は、情報伝達の道具、適合性の証拠、知識の共有の3つを挙げている。また、文書に関する指針規格(137-a)では文書化の利益として、業務の明確かつ効率的な枠組みとなる、業務に一貫性を与える、教育訓練の基礎となる、などを挙げている。本項では文書化の目的を、品質マネジメントの業務を効果的に行なうためであると規定している。いずれも、人の頭脳の中の情報を誰の目にも明らかなものとする文書化の特質を言い当てている。
 
(3) 文書化の範囲
  文書化の意義に照らすとすべての組織の意図、決まり事、手順、事実の文書化が望ましいが、実際には文書化の範囲と記述の詳しさは、文書化する業務負荷との均衡で決められる。この結果、業種業態、規模、業務の複雑さ、要員の習熟度などによって、文書化の範囲と詳しさが組織によって異なることになる。内容が複雑なほど、数値で表現される事項ほど、文書化の必要性が高い。また、係わる人が多い事項ほど文書化の必要性が高い。さらに、普段はあまり関係のない事項ほど記憶のあいまい化が進むので文書化をしておくことが大切であり、とりわけ、緊急事態への対応のような手順は文書化しておくことが必要であり、手順を要員の記憶の中に明確にし、定期的に試してみることが必要である。
 
  しかし、規格の規定の文書化の必要範囲は00年版を境に大きく変わっている。すなわち、94年版ではほとんどすべての条項で手順書の作成の必要が規定されていたが、00年版で手順書の作成を規定しているのは6つの条項だけでとなった。これについて規格作成者のひとりは(21e)、過大な数の手順書の作成が規定されているとの規格使用者の批判があったことを理由に挙げ、規格取組みの重点を文書化から業務の実行へ変えた結果だと説明している。もうひとりも、規格要求事項を満たす方法という点で規格取組み上の重大な変更を結果であると、同じ説明をしている(22a)。94年版では規格適合性を実証するために文書の作成が必要であるかに扱われてきたが、00年版では業務の効果的実行と管理のために必要であるということを明確にするように規定表現が変わったことであると説明する解説もある (24a)。
 
  また、94年版では規格が文書化すべき20種類の業務の手順を指定していたが、00年版では組織がどのような業務の手順を文書に表すことが必要かを判断し、決めなければならなくなったというようにも説明されている(23d) (22a)。TC176指針は、00年版では組織に必要な文書化の範囲に柔軟性を認めることになり、組織は「業務の効果的な計画と実行と管理及びその品質マネジメントシステム の履行と継続的改善のために必要な最低量」の文書をもつことが可能となったと説明している(8b)。これは00年版が、機械工業中心の94年版からすべての業種、規模の組織へと適用範囲を拡大し文書化の必要が組織によって異なるという状況が出てきたことが、規格の規定において必要な文書化範囲を見掛け上縮小された理由であるということである。
 
  00年版では6つの手順書さえあればよいというのではない。00年版では文書化要件として、c)項で必要な手順書の数を制限する一方で、d)項で品質マネジメントの効果的実行のために組織が必要と判断したものは文書化しなければならないと明記されている。TC176指針は「ある組織、特に、より大きな組織、又は、より複雑な業務構造の組織は、効果的な品質マネジメントの実行のためにはこの他の手順書も必要になるだろう」と説明し(8c)、規格執筆者も「d)項を忘れてはならない」とし(21e)、「品質マネジメントシステムを完全に記述するためには通常、規定される6つの手順書以外の手順書が必要である」と述べている(21f)。業務の効果的実行に影響しない事項は文書化する必要がないということであり(23d)、文書が少ない方がよいという意味では決してない。
 
  文書化範囲が限定されたかに見える規定ではあるが、そのように受け止められるのは00年版規格の意図ではない。00年版でも文書化の意義や必要性は何ら変わっておらず、むしろ、d)項によってそれらがより明確に表現されていると考えるべきである。
 
2-2.規格に現れる文書
 規格は本項で文書をa)〜d)に分けて記述しているが、この分類によらずに様々な機能又は性格の文書の種類と文書名の存在を明示し、又は、示唆している。
 
(1) 文書と記録
  規格及び関連文書には様々な文書名や文書の概念が例示或いは規定されている。規格は、これらの文書の管理方法に文書管理(4.2.3項)と記録の管理(4.2.4項)との2種類の要件を規定することによって、品質マネジメントに使用する文書がその目的ないし機能の違いから2種類に大別できること示している。
 
  すなわち、ひとつは『記録』であり、『達成した結果を記述した、又は、実施した活動の証拠を提供する文書』である#7。もう一方の『記録』でない文書の総称はない。しかし、規格は『品質マネジメントシステムを確立し、文書化する』必要を規定しているから、文書とは一義的には、業務の実行や方法や基準、目標、日程など、業務実行と狙いの業務結果を記述するものと考えられる。規格の文書化の目的に照らすと、組織の意図を記述するこちらの文書が主体であり、記録文書はその結果という客観的事実を記述する文書であり、どちらかと言うと特殊な種類の文書であると考えることができる。
 
(2) 文書化された手順
  『文書化された手順』は"documented procedure"の和訳である。手順とは「定められた活動又は業務の実行方法」のことであり#9、手順を文書に記述した場合のその手順が"文書化された手順"であり$9、その文書は『手順書』と呼ばれる#9-1。また、『文書化された手順』という用語が、『手順が確立され、文書化され、実施され、維持されている』ことを意味する(注記1)。
 
(3) 文書体系
  94年版に対応する品質マニュアル作成指針規格(133a)には、典型的な品質システムの文書階層として、品質マニュアル―文書化された手順―他の文書(作業指示書、書式、報告書など)、という3段階の階層からなる文書体系が示されていた。この階層構造は、00年版では文書に関する指針規格(137c)にほぼ継承された。規格では、この3段階の階層別文書体系については言及していないが、実質的にこの文書体系を基礎として、『品質マニュアル』(4.2.2項)、『文書化された手順』(4.2.3項他)、『作業指示書』(7.5.1項)の作成や使用についての必要を規定している。
 
@ 品質マニュアル
この文書体系では、『品質マニュアル』は『品質マネジメントシステムを規定する文書』であり#14、下位の文書を引用して組織の品質マネジメントシステムがどのようなものかを表す文書である。この形態には種々のものがあり、小規模組織では規格の規定する6種類の文書化された手順のすべてをこれに記述することもよく、逆に大規模組織では組織全体の、事業部毎の、或いは、事業所毎の品質マニュアルを重複して作成することが必要な場合もあるともされている(8d)。
 
A 文書化された手順
  ここでは、『文書化された手順』は『品質マネジメントシステムの実施に必要な関連し合うプロセス及び活動を記述する』ものと位置づけられている(137c)。これは旧版では「品質マネジメント システムの要素業務の履行に必要な個々の機能単位の活動を記述する」ものと説明されていた(133a)。規格の意図ではこの手順は、規格の各条項に対応する業務の手順であり、実務的には特定の目標を追求する部門横断的業務の手順であると考えられる。
 
B 作業指示書
  『作業指示書』は原文は"work instruction"であり、作業を指示する文書ではなく、作業の詳細な方法を規定する文書であるから「作業要領書」の方が和訳として適切である#11。規格では、これを『文書化される手順』に基づき、その手順を実際の作業方法や基準として表した文書として、文書体系で『文書化された手順』の下位に位置づけている。
 
(4) 品質マネジメントシステムの文書類
  文書に関する指針規格(137d)では品質マネジメントシステムの文書類として、『品質方針及び品質目標、品質マニュアル、手順書、作業要領書、書式、品質計画書、仕様書、外部で作成された文書、記録』を挙げており、各文書の内容や作成、承認、改訂の在り方を説明している。
 
  品質マネジメントシステムの基本及び用語を規定する指針規格(131)では、用語の定義に『仕様書』『品質マニュアル』『品質計画書』という名の文書が取り上げられている。ここに、『仕様書』とは「要件を記述した文書」であり#8、その具体例として手順書、工程条件書、試験基準書、製品仕様書、性能仕様書、図面#8-1が挙げられている。
 
  文書化に関するTC176指針(8e)では、規格が具体的に規定していないが、品質マネジメントに必要ないし役立つ文書として、工程図、工程相関図、組織図、仕様書、作業/試験要領書、連絡書、生産日程計画書、供給者リスト、試験及び検査計画書、品質計画書を例示している。
 
@ 計画書
  規格の『計画』は、PDCA/プロセスアプローチ サイクルのP/計画に相当する活動を意味し、計画活動の出力、すなわち、計画した結果を記述した文書が計画書である。規格では品質マネジメントに関係する計画活動はすべて『品質計画』と呼び、その結果を文書化したものが『品質計画書』である。この『品質計画書』は、計画の対象の製品、業務(プロセス)、プロジェクト、契約の目標の達成のために適用すべき手順と資源と責任者を明確にした文書#12と定義されている。すなわち、品質マネジメントのある業務の狙いの結果とそのための業務実行の方法など、業務実行のために整えた手はずを文書に表したものである。94年版(4.2.3 参考8)では、品質計画書は単独の文書である必要はなく、関連する手順書など種々の文書を引用し、その適用を規定する形でよいと明記されていた。
 
  規格は、品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)、製品実現の計画(7.1項)、設計開発の計画(7.3.1項)、監視、測定、分析、改善のプロセスの計画(8.1項)、内部監査の計画(8.2.2項)の各品質計画の必要と要件を規定している。品質マネジメントシステムの計画書は、実質的に品質マネジメントに関係する業務の手順書と手順実行のための作業要領書や関連する諸文書を意味する。プロジェクト型事業の製品実現計画書のように、業務の実行開始から完了までの手順を時系列で記述した文書を核とする品質計画書や、試験計画書のように実行内容と日程、責任者の記述が中心の品質計画書もある。目標達成の日程を主体とする計画はプログラム(programme)と呼ばれ、内部監査のプログラム(8.2.2項)や環境マネジメントシステムの実施計画(135b)はこの種の計画書を指す。
 
A 書式
書式も文書であるが、文書に関する指針規格(137f)では『様式』と和訳され、「品質マネジメントシステムの要求事項への適合性を実証するデータを記録するために策定し維持する」と規定されている。この規定では書式は、記録文書の書式に限定されている。
 
B 外部文書
  規格では、組織が業務に用いる文書の内、外部で作成されたり、外部組織と共同で作成したものを外部文書と呼ぶ。例えば、顧客の図面、発注仕様書などの顧客作成文書、法令、規制、規格など公的文書、更には、製品カタログ、設備保全マニュアルなど供給者による作成文書が該当する(137e)。
  
  

3. 規格要求事項の真意
  品質マネジメントの業務を効果的に実行するために、組織は品質マネジメントシステムの計画 (5.4.2項)の一環として、次の(2)〜(5)の要件を満たすよう必要な文書を作成し、それら文書に規定された手順に従って、或いは、文書を使用して業務を行わなければならない。
 
(1) 品質マネジメントシステムの文書には、次の事項を含めなければならない
  業務を定めた通りに実行し定めた結果を確実に得るための体系的で組織的な業務実行には、業務実行の手順及び業務実行実績を文書化し、定めた文書、記録を使用し参照して業務を実行及び管理することが必要である。どの手順や実績を文書化する必要があるかは組織によって異なる。94年版(4.2.2)では『この規格の要求事項及び(中略)品質方針に合致した手順書を作成すること』と文書化の必要が規定され、ほとんどすべての条項で相当する業務について『手順を文書に定め、維持すること』と規定されていた。00年版では、4.1項で『この規格の要求事項に従って品質マネジメントシステムを文書化しなければならない』と規定し、本項で文書化すべき事項をa)〜d) として明確にしている。規定の表現は異なるが、文書化の必要性や意義に関する考え方は変わっておらず、効果的な品質マネジメントの実行に必要な文書化の範囲に関する規格の認識にも代わりがない。d)項によって規格の意図における必要な文書化と記録というものが明確にされた。また、08年版では、必要な記録についての記述が変えられた。これは、記録が文書の一部という定義に厳密な規定表現となっただけであり、記録作成の必要性に関する条文の趣旨に変更はない。
 
  文書化は、その範囲や詳しさは、当該業務の効果的な実行と管理に必要な程度でなければならない。これは、組織の規模や要員数と業務量の多さ、当該業務が跨がる部門の多さや部門間のやりとりの複雑さ、業務の複雑さや高度さ、更には当該業務の要員の業務知識や業務能力の水準などにより異なる(註記2)。
  
(2) 文書化した、品質方針及び品質目標の表明 [a)項]
  品質方針(5.3項)は、組織の品質マネジメントの業務を方向づけるものである。要員は業務の手順を決め、当面した問題に対応し、判断や決定を行なうなど、業務実行の節々で品質方針を思い浮かべなければならない。すべての要員が品質方針を正しく理解し、必要により参照できるように、品質方針は少なくとも趣旨がわかる程度に適切に文書に表わされていることが必要である。
  
  規格の品質目標(5.4.1項)は、品質マネジメントの各業務のそれぞれによってどのような結果を出すのかという業務実行の目標を指す。品質マネジメントの狙いの顧客満足は、これらの業務実行の総合的結果としての目標である。規格では前者は プロセスの品質目標、後者は品質マネジメントシステムの品質目標と呼ばれる。品質マネジメントの各業務は、品質マネジメントシステムの品質目標の達成を図るように、それぞれの品質目標と手順が定められて実行される。業務実行の目標たる品質目標が確実に達成されるためには、必要な関係者に正確に理解され、参照できるように、達成度が判定可能な表現で(5.4.1項)、文書に表されていることが必要である。
  
  品質方針と品質目標の文書化の必要は、94年版(4.1.1)でも明確に規定されていた。但し、94年版の品質目標は、00年版の品質マネジメント システムの品質目標、ないしは、もう少し概念的なものであった。00年版の各業務実行の目標たる品質目標というものを採り上げた特定の規定はなかったが、それらは作成が必要とされていた手順書には必然的に含まれていたはずである。
  
(3) 品質マニュアル [b)項]
  品質マニュアル(4.2.2項)は、組織の品質マネジメントシステムがどのようなものであるかを記述した文書である。これは、組織が必要な時に内外に、その品質保証体制を説明し又は理解を求める際に使用することが目的で作成される文書である。
  
(4) この規格が要求する“文書化された手順”及び記録 [c)項]
  『規格が要求する』は「規格が必要とする」という意味である$1-1。『文書化された手順』の英文は、“documented procedure”であり、これは94年版では『手順書』と和訳されていた。また、英文の“establish a documented procedure”は、94年版では『手順を文書に定めること』、00年版では『文書化された手順を確立すること』と和訳されている。英文の厳密な意味は00年版和訳が正しいが、規格の文脈では、また、実務的には94年版の和訳で問題ない。更に、08年版では、規格が必要とする記録に関する別建てのe)項が削除され、本c)項の記述に追加された。
  
  規格の意図の手順書とは、各部門が担当する品質マネジメント関連の業務の手順を記述する文書であり、これを基にして作成される部門内業務の手順を記述した業務要領書は含まれない。00年版が必要と規定する手順書は、文書管理(4.2.3項)、記録の管理(4.2.4項)、 内部監査(8.2.2項)、不適合製品の管理(8.3項)、是正処置(8.5.2項)、予防処置(8.5.3項) の6つの業務である。94年版では「〜に関する手順書を作成しなければならない」と文書化すべき事項を具体的に規定していたが、すべての業種業態への適用を視野に入れた00年版では、何を文書化しなければならないかは組織によって違うはずであるから、次の(5)のように組織が決めるという規定となった。
  
  その中で6種類の手順書の必要が名指しされているのであるが、文書化の意義や効用の観点からは、この6種類の手順書だけがどの組織に必須であるという合理的な理由づけは困難である。これについての規格執筆者の説明はない。規格の理念が不適合の防止であり、これに関係する管理業務が文書化必須の対象になったのではないかという考えがある(35)。恐らくは、この6つの業務は業種業態を問わずどの組織にも存在しなければならない重要な業務であるという観点からの文書化の指定なのであろう。実務的にはこの6つの手順書も次の(5)の文書と同じに取り扱えばよい。
    
  規格が必要とする記録は、品質マネジメントの業務が決められた通りに実行され、決められた結果が得られたことの証拠となるものである。これらの証拠のうち、効果的な品質マネジメントの実行のために必要なものが、『〜の記録を維持しなければならない』と規定されており、文末に(4.2.4参照)という註釈が付されている。この註釈は、全部で20箇所に付されている。
  
(5) 組織内のプロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実にするために、組織が必要と決定した記録を含む文書
                                                                                                             [d)項]
  規格の文書化の意義や文書化の効用に関する考え方を表す条文記述である。文書化は体系的で組織的な業務実行により事業の維持発展に必要な顧客満足を確実に実現するための基礎である。どの手はずや手順をどの程度に、どのような形で文書化することが必要かは、組織の業種業態、規模や業務の形態と複雑さ等によって異なる。組織は、本項に明確に記述されている文書化の意義と効用に照らして、必要と考えられる手はずや手順を文書に表さなければならない。
 
  この文書には、上記(4)の『文書化された手順』だけでなく、規格でその下位に位置づけられている「作業要領書」や、実務で普通に用いられる各種の規範文書、指示文書や便宜文書など、様々な性格、形式の文書が含まれている。
 
  また、記録についても、規格が(4.2.4参照)と規定するもの以外に効果的な品質マネジメントの実行のために必要なものがある。これには、効果的業務実行と結果の証拠としての記録の中で(4.2.4参照)と規定されていない記録の他、問題解決や改善のための特定業務の調査、分析、判断、決定に供される情報の記録が含まれなければならない。
 
 
4. 文書化の実務
(1) 組織の経営管理(マネジメント)の文
  組織の経営管理(マネジメント)には種々の観点がある。規格の顧客満足向上という観点もそのひとつであり、この観点からの経営管理の活動が規格の品質マネジメントである。品質マネジメントの活動に関係する業務の多くは、安全衛生、生産量確保、能率向上、コスト低減など他の観点の経営管理(マネジメント)にも関係がある。ひとつの業務を異なる経営管理(マネジメント)の観点毎に異なる手順で行なうというようなことは現実的ではない。品質マネジメントに関係するどの業務の手順も一般には、品質マネジメントの必要を満たすだけでは十分ではなく、他の関連するマネジメントの必要をも満たさなければならない。どの手順も、当該業務の実行と結果に関する組織のすべての必要を満たし、組織に固有の経験と知識や技術の体系に基づいた、組織の最適解としての手順でなければならない。このような手順を記述する文書は、品質マネジメントだけでなく、他の関連する業務の実行にも使用される。どの文書も組織の経営管理(マネジメント)の文書として位置づけなければならない。記録文書についても同様である。組織の経営管理(マネジメント)のための一連の文書や記録に品質マネジメントに必要な事項が織り込まれており、品質マネジメントの各業務の実行においてはこの組織の経営管理(マネジメント)のための一連の文書や記録の中の必要な文書を使用するというのが、組織の実務の実態である。
 
(2) 文書体系
  業務の効果的実行のために組織で使用される文書は一般に、その機能ないし性格によって次の7種類に類別できる。このような文書種別は基本的には使用の段階で決まる。同じ文書でも機能や性格の違う使用のされかたをされることがある。例えば、書式はそこに必要事項が記述されてそれぞれ様々な文書となる。便宜文書の生産指示書に結果の結果が記入されて記録文書となり、或いは、この生産指示書が記録の記録と合わせて次の生産工程のための便宜文書たる生産指示書として使用される。
 
  このように類別して文書化することにより、何はどの文書に書いてあるか、また、どのような目的で作成され、どのように使用すればよいのかが容易にわかる。この種類分け毎に文書の承認、改訂や配付、保管などの管理の方法(4.2.3, 4.2.4項)を決めることにより文書管理を効率的、効果的に行うことができる。
 
@ 規範文書
  業務の実行の手順や基準、原則を規定する文書であり、業務実行の規範や規準として繰り返し使用され、参照される。必要により、内容が改められる。内容には組織の技術力など業務能力が反映されており、内容の変更によって一般には業務能力の効率性と有効性が改善する。
 
  部門横断的な又は各部門に共通の業務に関する手順や基準、原則を規定する上位文書と特定部門内の業務に関して規定する下位文書との階層構造として作成するのが、実務的である。一般に前者は、手順の原則を中心とする規程、規定書などと呼ばれる文書と、技術的な基準や仕様を中心とする技術標準書、製品規格、購買品規格などと呼ばれる文書である。後者は、作業標準書、業務要領書などと呼ばれ、特定の業務を上位文書の枠内で行なうための詳細な手順や基準が規定される。上記2-2(3)の規格の階層構造の『文書化された手順』と作業指示書』は、これを模したものである。
 
A 指示文書
  一過性の特定の業務や期間が限定された業務に関する文書である。内容は、規範文書と同様の業務の実行の手順や基準、原則である場合と、実行すべき業務の具体的な内容や時期などの詳細である場合がある。
 
  前者には、規範文書を適用できない特殊な製品に関する工程や業務実行の手順や基準を規定するために発行される他、製品や製品実現工程業務の改善、製品の試作、新設備の立ち上げなどに際する特別な業務実行の方法や基準を規定するために発行され、使用される。例えば、特別工程指示書、開発指示書、改善試験実行指示書、試作指示書、仮作業要領書などの文書である。これら指示文書に規定される内容は、規範文書の中に規定される内容より優先される。後者は、日々に実行すべき業務、実現すべき製品や量を指定したり、プロジェクト型業務の実行の工程、日程と手順を指定したりする文書であり、規範文書に定められる手順に基づいて発行される。例えば、生産日程計画、生産指令書、施工計画書などである。
 
  いずれの指示文書も一過性であり、一般には内容が改定されることはなく、変更が必要な場合は新文書として発行され、業務の終了や期間の経過と共に無効になる。改定がない分、文書管理が簡易化される。
 
B 便宜文書(帳票伝票類)
  業務実行を規定したり指示する規範文書と指示文書の他に、これら文書に定められた手順や基準で業務が実行されることを確実にするために、様々な狙い、性格、様式の文書が作成され、使用されている。例えば、生産指示書、計画書、台帳、一覧表、購買伝票、不良処理票、異常報告書、製品保留及び処置票、設備点検書、工程チェックリストなどである。これら文書は、業務が定められた通りに実行されるよう便宜上使用される文書である。一般に組織で使用されている文書の大半はこの種の文書であり、その多くは帳票や伝票と呼ばれている。様々な便宜文書によって業務実行が指示され、結果が記録され、各方面に伝達される。規範文書や指示文書のない組織でも様々な便宜文書が使われている。
 
  この種の文書の工夫と活用によって、業務の体系的で組織的な実行、特にこれを効果的で効率的なものとすることができる。便宜文書は規範文書に明記されたかどうかは別として、定められた手はずに則って作成され、或いは、事実を記述するものであるから、文書発行に際する適切性の承認は一般に不要である。しかし、内容の重要性によっては文書作成者の手順適用の判断や転記の誤りを防ぐために文書を責任者が確認し、或いは、発行を承認することもある。
 
  これら文書に、規範文書や指示文書の中から抜粋しては業務実行の方法や基準が記述することで、要員がいちいち規範文書や指示文書を参照しなくてもよいようにすることもできる。例えば、規範文書に則って発行される検査指示書に、検査項目と基準を抜粋して記述しておくことにより、検査能率の点でいちいち規範文書を見ないで記憶に頼って起きる合否判定の誤りを防ぐことができる。
 
C 要覧文書
  特定の一連の業務の在り様をまとめた文書であり、規範文書、便宜文書、記録、書式を引用して記述され、業務の実行には直接使用されることはない。組織の必要、又は、外部からの要求で作成される。規格が必要とする品質マニュアル(8.2.2項)や、電気事業法による保安規程などである。
 
D 関連文書
  業務実行に関連して必要となる文書であるが、これを組織内での業務実行の規範や手順、指示としては直接使用しない。組織内の業務実行に当該の要員が参照し、また、その内容を組織内の業務実行の規範や手順、指示に組み入れる必要がある場合は、@〜Bの経営管理(マネジメント)文書のいずれかの形で文書化する。この場合、当該関連文書又はコピーをそのまま用いる方が効率的であるなら、体裁を該当する組織内経営管理(マネジメント)文書に合わせ、その手順に従って発行、配付することがある。
 
  関連文書は、機能や性格で次のように分類して、文書そのものの保管と更新の管理を行うことが実務的である。
" 参考図書 法令書、規格書、供給者の製品カタログ、製品・設備取扱説明書、技術文献、教育用書籍など
" 外部文書 契約書、協定書、業界文書、顧客や官庁など外部からの連絡書・要求書
" 控え文書 官公庁届出文書、官公庁等からの免許、許可、登録証、供給者に対する文書
" 標識 物や場所の識別表示、注意喚起表示、ポスター
" 個人文書 メモ、諸文書コピー、資料
 
E 書式
  業務に使用する文書は、規範文書、指示文書、便宜文書のいずれの場合にも、それぞれ定められた特有の書式を定めることが望ましい。特に、便宜文書には書式を定めることが不可欠である。一般に、文書を一定の書式に従って作成することにより、どのような種類の文書であるかが明確となり、また、単なるメモや参考資料ではなく、組織の公式の文書であることが明確になる。書式を工夫して適切に定めることにより、文書作成者が必要なすべての事項を忘れずに記述することを助ける。
 
  文書の書式で、何を実行すべきか、何を記録すべきかがわかるようになっておれば、実行漏れ、記録漏れが起きることはない。例えば、合否判定基準など製品や業務の基準を書式の中に明らかにし、記録欄を設けて置けば、適切に合否判定が行われることを助けるだけでなく、そのまま適切な合否判定実行の証拠となる(8.2.4項)。
 
F 記録文書
  業務の実行実績や結果、又は、ある時点での事実若しくは状態を表す文書である。
 
(3) 文書化のあり方
  文書を業務に使用するからには、作成の容易さ、使用のし易さ、変更の容易さが大切である。文書の効果的な使用で実をあげるためには、これらに関する最大限の考慮や工夫が必要である。
 
@ 体裁
  文書には、例えば文書番号や改定の版名、或いは、文書毎の管理の責任者の明示など形式的な事項や表現を含まず、無用な体裁をかまわないことが大切である。内容の記述は誤解されずに理解されれば十分であり、法律文のように抜けのない表現である必要はない。簡潔な文章で、箇条書きや要点だけの記述でもよい。内容の詳しさや深さは、人の記憶と口頭伝達に起因する業務実行上の問題の生じる可能性に見合ったものとすることが大切である。
 
A 使い易さ
  使用のし易さのためには、何事もひとつの文書に記述するのではなく、文書の性格や機能によって幾つかの種類に分け、管理することが大切である。規範文書は一般に、例えば部門横断的業務の文書とその下位で各部門の業務を規定する文書との階層構造で作成される。承認の必要の有無や改定の有無など文書管理の方法によって文書を分類することもよい。業務毎に一連のPDCAサイクルをひとつの文書に記述するのでなく、例えば工程条件書や検査基準書のように、P,D,C,A毎に業務を区分して方法や基準をそれぞれの文書に記述することも使い易さの点で良い。また、業務の方法や基準を特定作業に使用する文書や記録の書式に記述すること、また、特定作業の詳細条件を該当する業務指示書に転載して要員の眼前に示すことは、要員が記憶に頼らず文書を使用して業務を行なうことを確実にすることを可能にする。
 
B 変化への対応
  品質マネジメントに関係する状況の変化によって多くの文書には変更があり得る。変更に対して如何に簡単に対応できるかという観点での文書のあり様への工夫がとりわけ大切である。これには、同じ事を複数の文書に記述しないことが基本である。どれか最も適当な文書に記述して、他の文書ではその文書名を引用するだけにするべきである。引用の場合でも文書の版名や文書の条項番号など、変更があり得る事項を含まないようにし、文書の中の基準名や図表名を引用するのがよい。
 
 
 
H23.2.18 修(2.19) 修(H24.11.11) 修(H26.9.23)
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 サニーヒルズ コンサルタント事務所