ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
4.2.2項   品質マニュアル 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その15>
35-01-15
   組織は、次の事項を含む品質マニュアルを作成し、維持すること。
a) 品質マネジメントシステムの適用範囲。 除外がある場合には、その詳細と正当とする理由(1.2参照)。
b)  品質マネジメンシステムについて確立された"文書化された手順"又はそれらを参照できる情報
c)  品質マネジメンシステムのプロセス間の相互関係に関する記述
 
 
1. 要旨

  本4.2.2項では、品質マニュアルを作成し、維持することの必要と、その内容についての要件を規定している。
 
  品質マニュアルは組織の品質マネジメントの業務体系がどのようなものかを表す業務要覧である。品質マニュアルが作成の目的に適う適切な業務要覧であるためには、品質マネジメントの対象の事業と製品を明確にし、品質マネジメントに関係する各業務の手はずと業務間を関係づける手はずとを概括することが必要である。このことがa)〜c)項の3つの要件として規定されている。組織は、a)〜c)項を満たす品質マニュアルを作成し、維持しなければならない。
 
2. 品質マニュアル (背景及び関連事項)
(1) 品質マネジメント業務要覧
  『品質マニュアル』とは『組織の品質マネジメントシステムを規定する文書』と定義される#14-1。『規定する』の原文"specify"は「(とりわけ、正確に)何かについて述べる」であり(101)、規則や法令を定めるというような意味ではない。実際、94年版#14-2では『〜を記述する文書』であった。すなわち、品質マネジメントシステムがどのようなものかを書き表した文書という意味である。『マニュアル』の原文"manual"は、何かをどう操作するか、実行するかを示す製品取扱い説明書や業務手引き書のような文書を指す$34。『品質マニュアル』は、品質マネジメントをどのように行うのか、その枠組みである品質マネジメントの業務体系はどのようなものであるかを表した文書のことである。この場合の"manual"は日本語では、物事の大要をまとめて見やすくした文書という意味で「要覧」である。『品質マニュアル』は品質マネジメント業務要覧、又は、品質マネジメント システム要覧である。
 
  規格の初版(1987年版)には品質マニュアル作成の必要は規定されておらず、4.2項(品質システム)の備考に品質計画書と共に規定されていただけであり、同じ初版のISO9004(5.3.2)で品質マニュアルを「品質(マネジメント)システムを書き表し、その業務を実行するのに用いる主要な文書の典型的な形式」と説明していた。94年版で初めて「手順を含めるか、引き合いに出し、かつ、文書体系を概括する」という品質マニュアル」の作成が必要条件となった。そして、94年版では品質マニュアルが「この国際規格の要求事項を取り扱う」ものとされ、00年版では『品質マネジメントシステムの適用範囲』と規格要求事項の適用除外についての記述が必要となった。このことから、組織の品質保証業務の重要な部分を明確にするため、そしてそれを顧客に説明するための規格制定以前からの慣習的な文書が規格に採り入れられ、規格が第三者認証制度の基準としての性格を強めるにつれて、規格要求事項への適合性を明らかにするための文書へと変化してきたものと想像できる。
 
(2) 品質マニュアルの意義
  組織の経営管理(マネジメント)活動は、事業の目指す維持発展のために組織内の業務実行を、品質、コスト、収益、能率、労働安全、防災、環境、リスク回避等々の必要な様々な観点から管理する。個々の業務は一般に、関係する複数の経営管理(マネジメント)の観点に関係しており、従って、そのそれぞれの観点からの必要を満たすように手順が定められ、実行されている。組織では、それぞれの経営管理(マネジメント)の必要を満たすための部門横断的業務が、関係する個別業務を繋いで実行され、管理されている。規格は、この部門横断業務のために個別業務が他の個別業務と複雑に関係している様子を、多数の個別業務(プロセス)の網目構造に準えている。この考えに則るなら、組織の経営管理(マネジメント)の業務体系とは、種々の観点の経営管理(マネジメント)のための網目構造が何重にも絡み合っている状態にあると表現される。
 
   品質マニュアルの作成は、このように輻輳した組織の数々の業務体系の中から、顧客満足追求に係わる経営管理(マネジメント)の側面である品質マネジメントの業務体系を表す網目構造だけを浮き上がらせることが目的である。顧客満足追求に関係する業務だけを抜き出して、各業務がどのように行なわれているかを品質マニュアルという文書に表すことによって、その品質マネジメントの業務体系が必要な顧客満足の実現のために適切であるかどうかを評価することができる。とりわけ、ISO9001への適合の認証を受けようとする組織は、組織の多くの業務の中から規格が必要とする業務だけを抜き出して、それぞれをどのように行って顧客満足を追求することになっているのかを文書に表すことにより、規格の各要件が満たされているかどうかを評価することが容易になる。認証審査では審査員は品質マニュアルを読んで、組織の品質マネジメントの業務体系を理解し、適合性審査の重点を決める。取引関係では顧客は組織の品質マニュアルを見て、組織の品質保証体制に信頼感を抱く。品質マニュアルは、新任の経営者や管理者にとっては組織の顧客満足を追求する経営管理(マネジメント)について考え方や基本を学ぶための教科書である。
 
  文書に関する指針規格(137-c)に示される文書体系では、品質マニュアルを頂点に置き、システム手順書と作業要領書をその下位文書として位置づけている。この指針規格が品質マニュアルを文書体系の頂点に置くのは、品質マニュアルに最も基本的な手順が規定されるということではなく、品質マネジメントに対する各手順書の適用が記述されているからである。すなわち、品質マニュアルを読めば、経営管理(マネジメント)のすべての観点からの必要を満たした内容の手順書の中のどの個別の手順をどのように他の業務の手順と繋げて品質マネジメントを行うのかということがわかる。
 
  規格の意図の品質マニュアルが手順書の一種ではないことは、両用語の定義が異なること#9#14、及び、規格の規定(4.2.1項)でも指針規格でも手順書とは別の文書として扱われていることからも明らかである。品質マニュアルは、日常の業務実行の場で用いられ、或いは、業務実行の用に供される文書ではない。品質マネジメントの業務体系の大要をまとめてわかりやすくした文書である。
 
(3) 品質マニュアルの様式
  先の指針規格(137-c)は、大規模組織では品質マニュアルを全社、事業部、事業所など事業階層毎に作成することが適切な場合があるとしている。更に、文書化された手順(4.2.1 c)項)を品質マニュアルに文書化することでもよく、文書化が必要な手順のすべてを品質マニュアルに記述して、品質マニュアルを品質マネジメントシステムの唯一の文書とすることもあってよいとも説明している(137-b)。この説明は、品質マニュアルの性格を広く捉えて、品質マネジメントの業務体系を記述する業務要覧であることを基本にしつつも、使用の目的によって様々な性格の品質マニュアルがあり得るというのが趣旨であろう。
 
  品質マニュアルの様式も使用目的に合ったものであることが大切であり、指針規格は、「その章立て、あるいは、記述の順番は、品質マネジメントのプロセスの流れに沿って、又は、規格の章立てに従って、若しくは、その他その組織に相応しい順番」のいずれでもよいと説明している(137-b)。同時に、規格の章立てと異なる品質マニュアルでは、規格条項と品質マニュアル条項との対照表を作成することが推奨されている(137-b)。これは、規格の意図の品質マニュアルが規格適合性を明確にすることを主要目的としていることの左証である。規格の各条項は品質マネジメントシステムの業務(プロセス)に対応するから、品質マニュアルの規格条項別の記述は、組織の品質マネジメントの業務体系が規格に沿ったものであることを一目瞭然とし、規格要求事項を満たしていることを容易に理解できるようにする。
 
 
3. 規格要求事項の真意
  『品質マニュアル』は組織の品質マネジメントの枠組み、或いは、品質保証体制がどのようなものかを表す文書である。組織は輻輳した経営管理(マネジメント)の業務の枠組みの中から品質マネジメントに関連する業務とそれらの相互関係を抜き出して記述し、ISO9001規格適合性を自他に明らかにするために、次の(1)〜(4)項を満たす『品質マニュアル』を作成し、維持しなければならない。
 
(1) 組織は、次の事項を含む品質マニュアルを作成し、維持しなければならない。
  品質マニュアルは、組織の品質マネジメントの業務体系を説明する品質マネジメント業務要覧である。規格の規定に則って品質マネジメントの業務体系を確立し、履行している組織は、その品質マネジメントの業務体系がどのようなものであるか、或いは、実際にどのように品質マネジメントを行なっているかを、品質マニュアルに記述しなければならない。業務要覧として必要な事項が記述された適切な品質マニュアルであるためには、その内容に次のa)〜c)項の3つの事項を含んでいなければならない。品質マネジメントは基本的に4.1項a)〜f)項の活動から成るとも表現できるが、そのa)項が本項のa)に、b)項が本項c)項に、そして、c)〜f)項が本項b)項に、それぞれ対応すると考えてよい。
 
(2) 品質マネジメントシステムの適用範囲。 除外がある場合には、その詳細と正当とする理由(1.2 参照) [ a)項]
@ 品質マネジメントシステムの適用範囲
  『品質マネジメントシステムの適用範囲』は原文では、品質マネジメントの業務体系が取り扱う範囲という意味である$11。これは一般に、品質マネジメントの業務体系が対象とする事業や製品の範囲と、品質マネジメントの業務体系を構成する業務(プロセス)の範囲を指す(1-a)。
 
  前者は、その品質マネジメントの業務体系をもつ組織がどのような事業を行なっているか、どのような組織かということであり、組織の名前、事業所名の所在地、製品で表される。組織が事業活動の特定の部分又は特定の製品だけを対象として品質マネジメントを行っているのなら、とりわけ第三者認証制度の下では顧客や消費者に誤解や混乱を招かないよう、そのような限定された対象範囲を明確にしなければならない(1-a)。
 
  後者は、品質マネジメントの業務体系を確立する場合の基本要件(4.1 a)項)である『品質マネジメントシステムに必要なプロセスを明確にする』に関係する。00年版で『プロセス』と言う場合は事実上、各条項の標題に相当する業務(プロセス)、或いは、各条文に関係する業務(プロセス)を意味している。従って、品質マネジメントの業務体系を構成する業務(プロセス)の範囲と言う場合は、1.2項(適用)の「適用除外」があるかどうか、どの要求事項を適用除外するかということと同じである。
 
A 除外がある場合には、その詳細と正当とする理由
  文末に1.2項が引用されているので、この『除外』が同項に規定される特定の要求事項の適用を除外することを指すことが明らかである。規格は、事業の維持発展のために必要な顧客満足を確実に実現するための品質マネジメントの各業務とその実行に関する必要条件を規定しているから、組織がそのいずれかを満たさなくてもよいと思うなら、それでも必要な顧客満足を実現できるという理由が必要である。規格はこのことを、除外しても『顧客要求事項及び適用される規制要求事項を満たす製品を提供するという組織の能力、又は、責任に』何らの影響がない場合にのみ適用除外が可能であると表現している。
 
(3) 品質マネジメントシステムについて確立された"文書化された手順"、 又は、それらを参照できる情報 [ b)項]
  『それらを参照する情報』の正しい和訳は「それらを記載する文書名」である#12-1。上記@のように品質マニュアルには品質マネジメントの業務体系が、どのような業務(プロセス)で構成されているかを記述しなければならない。どのような業務であるかは、その手順を説明することで明らかにすることができる。一般には、手順を概括するだけで、手順の詳細がどの文書に記載されているかを文書名や文書番号で示す。手順を品質マニュアルに記述することが適切であり、又は、必要である場合には、その手順を品質マニュアルに記述してもよい。ここの『文書化された手順』とは4.2.1 c)項の文書化された手順だけでなく、同d) 項の組織が必要として確立し、文書に規定した手順も含むと考えるのがよい。
 
(4) 品質マネジメントシステムのプロセス間の相互関係に関する記述 [(c)項]
  品質マネジメントの業務体系は種々の業務(プロセス)の有機的集合体であるから、それがどのようなものであるかは、その構成業務(プロセス)とそれらの相互関係を記述することで明確にすることができる。業務(プロセス)とは入力に付加価値を付けて出力に変換する活動であり、ある業務(プロセス)の出力は他の幾つかの業務(プロセス)の入力となる。品質マネジメントの種々の業務(プロセス)は、それらの間の種々のやりとりを伴いつつ実行され、狙いの顧客満足の実現が図られる。品質マニュアルには、この業務(プロセス)間の関係を記述しなければならない。
 
  文書化に関するTC176指針(8e)では、工程相関図や業務フローチャートという名の文書が挙げられており、名前から本項に対応する文書であることが推察される。しかし、実際の業務(プロセス)間の相互関係は一枚の紙の平面に図示できるほど単純ではなく、品質マネジメントの全体の相互関係をひとつの図に表すことが規格の意図とは考えられない。品質マニュアルの各条項でそれぞれの業務手順を概括する中で、他の条項の業務との関係、ないし、やりとりに触れることが基本であろう。この中で、部分的に図で表す方が効果的な場合は、それを含めることもよい。特に、製造及びサービスの提供の工程(7.5項)は図で表すのがわかりやすい。
 
 
4. 品質マニュアルの実務
  品質マニュアルは、品質マネジメントがどのように行われているかが記述された文書であり、業務実行に直接参照され又は使用されることを意図した文書ではない。品質マニュアルには品質マネジメント以外の手順が含まれないから、品質マニュアルを読むだけでは例えば労働安全に係わる手順がわからない。品質マニュアルを読むだけではその業務実行のために必要なすべての手順がわかる訳ではないので、実際問題としてその業務を行うことができない。この点でも、品質マニュアルは手順書ではないということになる。また、品質マニュアルに記述する手順が経営管理(マネジメント)全体の手順書から抜粋したものであるなら、ひとつの手順の複数文書への重複記述となり、文書の改定管理をややこしくする。品質マニュアルは、手順書とは目的と性格が異なる文書として作成し、使用することが大切である。
 
  品質マニュアルは、顧客満足を追求する品質マネジメント活動の業務の手はずを、規範文書の手順や使用する指示文書、書式を引用して説明する。品質マニュアルに手順の詳細を書くことは、業務要覧たる品質マニュアルとしては詳細過ぎて却ってわかりにくい。品質マニュアルはあくまでも品質マネジメントの業務の手はずを記述したものであり、業務実行には使用しないから、内容の精緻さより概念としての理解の容易さを優先する記述とするのがよい。詳細を知りたければ、品質マニュアルに記述されている関係文書を読めばよいからである。
 
  品質マニュアルは組織外への説明や組織内の勉強のために広く配付できるような状態が好ましい。品質マネジメントの業務の手順は頻繁な変更がつきものであるが、余程の大きな、根本的な業務手順の変更でない限りは、これらが品質マニュアルの記述に影響を及ぼすことはない。これは、業務要覧としての品質マニュアルの性格から本質的なことであるが、内容に改定が生じないことは品質マニュアルを広く配付するためにも必要なことである。この観点から品質マニュアルの記述の詳しさを決めることが実務的である。
 
  『マニュアル』は ISO9001に特有の文書名であるが、ISO14001規格でも同様の要覧の作成の必要を示唆する規定がある(135e)。実際にISO14001規格の認証制度の中では、「環境マニュアル」という名の文書を作成するのが通例になっている。これは第三者認証制度の下での規格適合性を評価したり、説明したりするために環境マネジメント業務要覧という性格の文書が有用であるからである。
 
  組織の特定の業務がどのようなものかを記述する業務要覧に相当する文書は、実務ではISO9001規格と無関係に作成され、使用されてきた。例えば、電気事業法第42条により監督官庁に届け出ることが義務づけられている「保安規程」がこれに該当する。この保安規程は、自家用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するための組織の決め事をまとめたものと定められており、組織の経営管理(マネジメント)の業務体系の中から設備管理や防災管理、安全管理を中心とする関連業務の手順と相互関係を電気工作物の保安という観点で抜き出して焦点を当てた文書である。また、組織の防災体制や東海沖地震対応の体制がどうなっているかをまとめた文書を作成している組織も少なくないが、これらも規格の意図の『マニュアル』である。これら文書のいずれも、特別な手順を規定するものではなく、既存の手順や文書を引用してそれぞれの業務の実行の手はずを明らかにすることが目的で作成されている。そして、これらが業務実行に直接用いられることはない。
 
 
 
H16.8.27(改H16.9.20)  改H24.11.11 
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