ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
17 4.2.4項  記録の管理 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-17
[第1節] 要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの効果的運用の証拠を示すために作成された記録を管理しなければならない。
[第2節] 記録の識別、保管、保護、検索、保管期間及び廃棄に関して必要な管理を規定するために、文書化された手順を確立しなければならない。
[第3節] 記録は、読みやすく、容易に識別可能かつ検索可能でなければならない。
 
 
1.要旨

  本項は、品質マネジメントに必要な記録文書の範囲を明確にし、その管理の要件を規定している。
 
  規格では記録は業務実行と結果を表す文書であり、使用する人が必要な時に使用できるようになっていなければならない。このために記録文書は、不鮮明になったり色あせたり変質などさせてはならず、何の記録であるかが難なくわかり、必要な迅速さで取り出すことが出来る状態で必要な期間保管しなければならない。記録文書をこの状態で保管するために組織は、組織は品質マネジメントシステムの計画 (5.4.2記録文書項)の一環として、本項の要件を満たす記録文書管理の手はずを確立し、文書化し、この文書に規定された手はずに則って記録文書を管理しなければならない。対象となる記録文書は、該当条文に註釈『4.2.1参照』が付されている。
 
 
2. 背景 及び 関連事項
2-1. 記録
(1) 記録文書
  『記録』は文書の一部であり、業務実行結果に関する情報が人の頭の中から取り出され、誰にでも利用できるようにしたものである。記録文書には紙の上に書かれた文章や記号、図、絵、写真の他、磁気テープやCDに収容された電子情報、或いは、保存用製品見本、保存用試験済みの試験片など実物記録等々の様々の態様がある#6。
 
  規格の意図する体系的な経営管理(マネジメント)では、文書に基づいて業務が実行され、実行結果が文書に表されることが基本である。業務実行結果に関する文書が規格の『記録』である。これを規格は「達成した結果を記述した、又は、実施した活動の証拠を提供する文書」であると定義している#7。また、品質マネジメントで作成し使用しなければならない記録について、本項では『品質マネジメントの業務の要求事項への適合及び業務の効果的実行の証拠を示すために作成された記録』とし、4.2.1項では『組織内のプロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実に実施するために必要な記録』としているが、同じ意味である。
 
  一般に組織の多くの業務は、組織の経営管理(マネジメント)の様々な必要を同時に満たすように行なわれており、どの手順もすべての関係する観点から最適に定められている。このような業務実行の実績を表す記録であるから、多くの記録文書には品質マネジメントに関係する情報だけでなく、他のマネジメントに必要な情報も含まれている。規格が品質マネジメントに必要と規定する記録の多くは他のマネジメントにも必要な記録でもある。業務実行に使用する文書(4.2.3項)と同様、すべての記録文書は組織全体に共通の記録として取り扱うことが合理的である。94年版(4.16)で「品質記録」と呼称されていたのが、00年版では単に「記録」と変わったが、記録の実務での取り扱いに沿った適切な呼称変更である。
 
(2) 記録の意義
  業務に関する記録文書は、業務実行の実績と結果、又は、ある時点での事実若しくは実態を表す。更に、記録文書には、データ分析の結果、物事の変更の経過、変更の結果又は改善の成果、議論や審議の内容、判断や決定及びその根拠を表すものもある。記録は、業務が所定の通りに行なわれた証拠として用いられるだけでなく、業務結果の問題が事後に発見された場合の問題対応や原因究明のために使用される。この他、業務に係わる様々な事実の情報として以降の業務上の調査、分析、判断、決定に使用される。ある業務の実績の如何によって後続の業務の実行方法を変えることになっている場合には、記録文書が業務実行のために使用される。また、適切な記録を維持することにより、過去と同じことを調査し、或いは、試みる必要がなくなり、業務の効率化が図られる。更に、記録は組織が業務実行で得た経験や知識の集積であり、この整理された蓄積は組織の高い業務能力の裏付けである。
 
  規格では管理すべき記録の範囲を限定しているが、記録がデータ分析の元となること(8.4項)、トレーサビリティのために必要であること(7.5.項)、職務能力有無の判断のために使用すること(6.2.2項)、検証(7.4.3, 8.2.4項他)や是正処置(8.5.2項)、予防処置(8.5.3項)のために使用されること#7-1などの事例が規定又は説明されている。
 
2-2. 記録文書の管理
  記録文書の管理の要件は、業務の実行に使用する文書のそれ(4.2.3項)とは異なる。記録は後日に使用するためにあり、使用する可能性のある間は保持しなければならない。使用する記録は、使用しようとする要員が、必要な時に、使用できるように管理されなければならない。使用される可能性のない記録は作成することも、維持することも必要ではない。業務実行に使用する記録文書には、文書管理(4.2.3項)の必要な手順も適用しなければならない。
 
@ 記録文書の承認
  記録は事実や実体の反映であるから、正しく適当に記述されている限り、作成された記録の内容を文書(4.2.3 a)項)のように責任者が改めて適切性を承認する余地はない。しかし、この記録を別の重要な業務に使用するなら、事実や実体が正確に記述されているかどうか責任者が確認することも必要となる。
 
A 記録文書の内容の変更
  記録は事実の反映であり変更があり得ないので、記録文書は一般に改定管理の必要はない#7-2。しかし事実も時間を経て変化するから、記述の部分的な抹消、変更、加筆又は全面書換えといった記録文書の内容が変化することはある。しかし、変更の前の時点の記録が表していた事実や実体は、その時点での事実や実体であったことには変わりがない。例えば、ある時点での工場配置図という事実を表す記録文書は、新設備の導入により変更されなければならない。個人別教育訓練履歴書という記録は新しい教育訓練の履修の度に内容が追加される。
 
  このような場合には前者のように同じ標題でも内容が異なる図面が複数存在し、或いは、後者のように時点によって同じ紙面の内容が異なることになる。このような記録文書は文書管理(4.2.3 c)項)の手順の適用が必要であり、この記録文書を業務実行に使用するなら、配付その他の管理(同d)項)も必要になることがある。
 
 
3. 規格要求事項とその真意
  記録は、業務実行と結果を表す文書である。記録の中味は実績や事実、実体に関する情報であり、その情報が紙やハードディスクやCDに保持され、或いは、実物の形で保管されている。品質マネジメントの効果的な実行と管理を確実にするためには、必要な記録文書を作成し、これを業務上の調査や分析、判断や決定に使用することが必要である。
 
  必要な要員が必要な時に必要な記録文書を閲覧又は使用できることを確実にするために組織は、品質マネジメントシステムの計画 (5.4.2項)の一環として、次の(2)(3)の要件を満たして記録文書を管理する手はずを確立し、文書化し、それに則って記録文書を維持管理しなければならない。
 
(1) 要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの効果的運用の証拠を示すために作成された記録を管理しなければならない [第1節]
  『要求事項への適合』は原文表現$16からも規格の文脈からも「品質マネジメントシステムの要求事項への適合」であり、品質マネジメントシステムの中での業務実行と結果に関して定められている要件への適合の意味である。また、『運用』は業務の実行の意味であり$8、その証拠の記録とは品質マネジメントの業務が所定の結果を出すように実行され、所定の結果が出ていることを表す記録を指す。前者の記録の典型的のものは検査記録(8.2.4項)、校正記録(7.6項)などであり、後者はマネジメントレビューの記録(5.6項)、是正処置の記録(8.5.2項)などである。多くの記録はどちらの証拠ともなり得る。
 
  この条文は『記録』をその使用目的の観点から定義しているが、ISO9000の定義#7は記録の内容を表しており、4.2.1項c), d)項では記録の必要性について規定している。それぞれ表現が違うが、規格の意図の管理すべき記録文書という点では同じものを指している。規格が作成し維持管理が必要とする記録文書は、該当条文に註釈「4.2.1参照」が付されて具体的に明確にされている。
これらの記録文書は、必要な人が必要な時に使用できるよう、下記の(3)を満たして下記(2)の各管理を行わなければならない。
 
(2) 記録の識別、保管、保護、検索、保管期間及び廃棄に関して必要な管理を規定するために、"文書化された手順"を確立しなければならない [第2節]
  記録文書は、必要な人が、必要な時に、必要な容易さで検索して、使用できるように維持されなければならない。このために記録文書は、次の(3)の3つの要件を満たすように維持管理されなければならない。組織は、記録文書の維持管理に必要な『識別、保管、保護、検索、保管期間、廃棄』の手順を、この3つの要件を満たすように確立しなければならない。記録文書の維持管理を効果的に行なうために、この手順は文書化しなければならない。
 
  供給者が作成し維持する記録文書についても組織が後日に使用する可能性がある場合には、手順に含めなければならない。そのような記録の維持管理を供給者に委ねる場合は、必要な記録文書管理の要件を購買条件として購買情報に含めなければならない(7.4.2項)。
 
@ 記録の識別
  『識別』の原文は"identification"であり、この場合は見分けることができるようにすること$14である。個々の記録文書、或いは、ファイルされ、袋に入れられ、箱に詰められ、又は、コンピューターに記憶され、CDに収納された記録が、それぞれ何の記録であるかを見分けられなければならない。例えば、それぞれの記録やそれを収納するファイル、媒体等には、記録の標題、扱われている製品や業務、その期間などが明確になっていなければならない
 
A 記録の保管
  記録文書をどのような態様で、どのように整理して保管するのか、及び、どこにどのように保管するのかを決めなければならない。前者は、書類や現物などそのままの形で保管するのか、写真にして保管するのか、コンピューターの磁気テープやCDの中に保管するのかであり、どの程度にまとめて保管するのか、例えば、ファイリング、紐で束ねる、袋に入れる、箱に詰めるなどであり、更に、どの程度に整理して保管するのか、例えば、番号や作成順に整理するのか、1日分や発行職場別にまとめるだけなのか等々である。後者は保管の場所とそこでの記録文書の整理のしかたに関する。記録文書の保管の方法は、記録の検索と使用の容易さと整理と保管の手間とに見合ったものでなければならず、記録文書の使用の頻度に応じて決めることが大切である。
 
B 記録の保護
記録の文書質を作成時の状態のままで維持することである。紙やCDを媒体とする記録の損傷、汚染、焼失、などを防止することであり、情報ネットワークに保存される電子的記録の損傷を防止すること、更には、製品や試験片見本のような実物記録の変質、腐食、漏洩、発火などを防止することである。また、規格の品質マネジメントシステムの直接的要件ではないが、実務的には記録文書の盗難、記録文書中の機密情報の不法な読み取り、情報ネットワークからの流失から記録を保護することも含まれる。
 
C 記録の検索
  『検索』は"retrieve"であり、調べ探すことではなく、必要な記録を探し出して取り出すことを意味する$15。様々な場所で様々な態様で保管されている様々な記録の中から、必要な個々の記録文書を抜き出す、又は、取り出すことである。 また、ある記録文書をどこに行けば探し出せるかが明確になっていなければならない。これに記録台帳を用いる方法もある。
 
D 保管期間
  記録文書の保管期間は使用する可能性に見合ったものであることが必要である。また、万一廃棄した記文書録の使用の必要が生じた場合に記録文書のないことからもたらされる損害の大きさも考慮にいれなければならない。記録文書の保管期間に法規制や顧客の要求や契約がある場合は、それも順守した保管期間としなければならない。 例えば、内容確認済みの顧客の注文書や製品の検査記録は顧客の苦情を受け付ける可能性のある期間は保管しなければならない。これを受注傾向分析や品質要因分析のためのデータとしての利用を考えるなら、このデータ分析が対象とする期間は記録を保管しなければならない。製品輸送請負業で顧客の受領印のある納品票を規定された業務実行の証拠として顧客に提出することになっている場合は、記録文書としての納品票の保管期間は顧客に提出するまでの間である。マネジメントレビュー議事録(5.6項)、変更され無効になった品質方針(5.3項)は、組織の品質マネジメントの歴史を表す記録であり、永続的な保管が必要である。
 
E 廃棄
  保管期間を過ぎた記録文書、又は、内容が変更されて無効になった記録文書の処置を決めなければならない。廃棄処分に当たっては、記録文書の内容に係わる知的財産権や機密、及び、顧客や供給者の権利に不都合が生じないように注意しなければならない。
 
(3) 記録は、読みやすく、容易に識別可能かつ検索可能でなければならない [第3節]
  JIS和訳は『〜でなければならない』であるが、原文は"remain 〜"であるから「〜の状態を維持しなければならない」である$15。必要な人が必要な時に必要な記録文書を使用できることを確実にするには、記録は『読みやすく、容易に識別可能かつ検索可能』なような状態に維持されなければならない。上記(2)の記録管理の手順はいずれも、これら3つの要件を満たすように定められなければならない。
 
@ 読みやすい
  『読みやすい』は原文は"legible"であり、書かれたり印刷された文字が読み取ることができるのに十分に明瞭であるという意味である。保管中に紙が濡れたり、湿気で紙が黄変して文字や図が読めなくなったり、写真が変質して薄れたり不鮮明になったり、或いは、適合性の証拠として残した料理や化粧品などの製品見本、試験済みの試験片や分析試料が変質や劣化したりして元の状態を留めなくなったりしては、証拠としての用をなさない。原文では"remain legible"であり、この状態の『読みやすい』が維持されなければならないということである$15。
 
  記録文書は保管期間を通じて、その用をなさなくなるような損傷、変質、劣化がない等、作成時の状態を維持しなければならない。94年版(4.16)では『読みやすい』状態を維持するために『劣化、損傷を防ぎ、紛失を防ぐのに適した環境を備えた施設内で保管し、維持する』ことの必要を明示していた。
 
A 容易に識別可能
  『容易に識別可能』は原文では"remain readily identifiable"であり、"identifiable"は見分けることができるという意味であるから、各記録文書が何を記録した文書かがわかるという意味である。"readily"は「難なく」の意味である。保管中の各記録文書は、それが何の記録を記載し又は表すものであるかが難なく見分けられる状態でなければならない$15。誤った記録を参照し又は使用したりすることのないよう、保管されている多くの記録文書の中から必要な記録文書の必要な記録が間違いなく抽出されるように、例えば、文書や記録の部分、或いは、本棚、記録文書ファイル背表紙、記録文書収納袋表面などに記録の内容を表す表示をすることが必要である。
 
B 容易に検索可能
  『容易に検索可能』は原文では"remain readily retrievable"であり、迅速で容易に取り出すことができるという意味である$15。これには、まず、各記録文書がどこに保管されているのかが明確になっていなければならず、当該記録の所在が明確になっても、それが大量の山積みの中の奥まったところの底部に保管されているなら、その記録を取り出すのには時間がかかり容易ではない。また、同じ種類の記録文書を整理せず、順不同で袋詰めした状態であれば、その中から例えば該当する製品や日付の記録を見つけて取り出すのは容易でない。必要な記録文書を必要な時に必要な迅速さで取り出すことができるような状態で保管しなければならない。
 
  記録文書を迅速で容易に取り出すように保管することは相応の手間と費用と場所を必要とする。必要な記録を取り出す迅速、容易さは、記録文書の使用目的や使用頻度でも異なり、保管のコストとの見合いで決められなければならない。日々の業務に使用するならほとんど瞬時に該当記録を見つけ出す必要があるが、過去の長期間の記録を用いて品質データの分析を行なう場合なら該当記録文書を探し出す十分な時間の余裕がある。記録文書の使用頻度は一般に記録作成後の時間の経過により減少し、使用目的上でも該当記録文書を探し出す迅速さの必要も低下する。また、機密性や盗難防止の必要性、損傷防止の必要性をも勘案することが必要である。
 
 
4. 記録管理の実務
(1) 記録文書の保管
  記録文書作成後の一定期間はほとんど日々に参照されるような記録文書は使用者の手元に何かの番号順や顧客や作業者別に整理して保管しなければならない。後日の使用の頻度が極めて少ない記録文書なら、量が多い場合は殊更、作成又は受取り順に袋や箱に入れて、一定の期間又は単位毎に業務場所でない定まったどこかに移動させ保管するのがよい。大量の記録文書を長期間保管する場合は、時間の経過で使用の頻度や可能性の減じるのに対応して、大箱に入れるなど大括りにまとめられ、業務場所から離れた場所に保管先を変更する。その他にも記録文書作成後の時間の経過で保管の方法や場所を変えたり、保護の方法を変えたりするのが効率的であることがある。
 
(2) 記録文書の機密保持、非常持出し
  記録は必要な時に取り出し使用できるように保管されなければならないが、記録を機密性の高さで分類し、閲覧者の限定や無許可閲覧を防止する処置が必要な場合もある。一般には、機密性に加えて、逸失した場合に組織が受ける損害の大きさに関連しての重要性によって記録を区分けして、それに応じた盗難や不正持ち出しの防止処置をとり、また、非常時の持出しの処置が定められる。天災による重要記録の損失を防ぐため副本を遠方に保管することも行なわれる。これらの管理には、記録文書に機密性や重要性の区分けを表示することが効果的である。
 
(3) 情報ネットワーク上の記録文書の管理
  近年では組織内のコンピューターによる情報ネットワークの中に記録が保存されることが増えている。紙文書と同様に情報を保存する媒体の磁気テープやCD等を管理することが必要であるが、加えて、一般には停電やコンピューター ハードディスクの損傷による情報の消失の防止、災害によるネットワーク機能停止の防止、外部侵入者によるコンピューター機能の損傷や情報漏洩を防止する管理も必要になることがある。内部の関係者の閲覧制限や私的媒体への複写防止の処置も必要なこともある。
 
 
 
H24.11.11
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サニーヒルズ コンサルタント事務所