ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
18 5.1項   経営者のコミットメント 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-18
  トップマネジメントは、品質マネジメントシステムの構築及び実施、並びにその有効性を継続的に改善することに対するコミットメント の証拠を次の事項によって示さなければならない。
a) 法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして、顧客要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する。
b) 品質方針を設定する。
c) 品質目標が設定されることを確実にする。
d) マネジメント レビュー を実施する。
e) 資源が使用できることを確実にする。
 
 
1.要旨

   5章では、経営責任という標題の下にトップマネジメント の責任を記述する形で、7章の品質マネジメントの日常的業務とは異なる経営管理(マネジメント)の周期のPDCA/プロセスアプローチ サイクルで行なわれる品質マネジメントの業務が取り上げられている。本項では、トップマネジメントの職務責任としての品質マネジメントへの取組みに関する要件が規定されている。
 
  組織が顧客満足向上を通じて事業の維持発展を図るためには、トップマネジメントはその職を賭してISO9001規格に則って品質マネジメントを行なわなければならない。トップマネジメントは、そのような経営責任を遂行するため、及び、遂行にかける不退転の決意の証として、a)〜e)項を実行しなければならない。
 
 
2. 経営者の責任 (背景及び関連事項)
(1) トップマネジメント
  事業組織は一般に、生産、購買、販売、財務など事業遂行を直接に担う作業活動と、作業活動を組織の必要に向けて統制し管理する管理活動が存在する。管理活動は規格ではマネジメントであり、日本では経営管理活動と呼ばれることが多い。この管理活動は、経営方針、目標の達成のために作業活動が効果的、効率的に遂行されるよう組織全体を管理する全般管理活動と、部門内の業務を管理する部門管理活動とに分けられる。日本では前者の活動を経営、後者の活動を管理と呼ぶことが多い。また、後者は、部や課などの部門内を管理する中間管理と作業活動を直接指揮、監督する現場管理に階層分化される(51)。
 
  全般管理を担う層が英語では“top management (トップマネジメント)”であり、日本では経営者、或いは、経営トップと呼ばれることが多い。規格の『トップマネジメント』は『最高位で組織を指揮し、管理する個人又はグループ』と定義される#19-1から、この経営者又は経営トップのことである。トップマネジメントとは、株式会社では一般には社長指すが、役付取締役、業務担当取締役や執行役員が含まれることがある。また、規格では、品質マネジメントシステムを事業所単位で確立し履行することをも想定しており、この場合にはその事業所の長がトップマネジメントである。
 
  なお、部門管理の内の中間管理を担う層は英語では“middle management(ミドルマネジメント)”であり、日本では部長、課長等の役職者である。現場管理は英語では“lower management(ロアマネジメント)”であり、日本では監督者と呼ばれることも多く、一般に係長、主任、作業長等の役職を持つ。規格の条文には部門管理層を指す用語は登場しない。
 
(2) 経営責任
  5章の標題『経営者の責任』は原文では“management responsibility”あり、組織を経営管理(マネジメント)する責任の意味であり、「経営責任」である$19-2。組織の内外に経営責任を負うのはトップマネジメントである。しかし、組織では様々な経営管理(マネジメント)の業務があり、この遂行のために一般には機能別の部門から成る組織構造によって業務が各部門の管理者、監督者によって分担される。トップマネジメントは、組織の向かうべき方向と目標を明確にして、その達成を各部門長の部門管理に委ね、その業務実行を指揮、監督することを通じて、組織の経営管理(マネジメント)を行ない、その経営責任を果たす。
 
(3) 経営公約
  『コミットメント』の原文は“commitment”であり、94年版(4.1.1)では『責務』と和訳されていた。“commitment”は、何かを行なうことの約束、誓約のことである#29が、単なる約束ではなく、絶対に破ってはいけない約束を意味するとの説明もある(99)。TC176指針(6)は、何か特定の行為に自分自身を縛りつける約束や契約という意味に定義している#16。また、『経営者のコミットメント』は原文では「経営管理(マネジメント)を行なうことに係わるコミットメント」の意味である$19-3から、実務的には経営公約のことである。規格の文脈では、組織の維持発展のために顧客満足を追求する品質マネジメントの実行に職を賭す覚悟で取組むという自らへの誓約であり、そのことに関する組織内外への経営公約である。これは特殊なことではなく、トップマネジメントの通常の責任及び権限(5.2項)を規定したものである。経営者がその職責を担うということは、基本的には経営責任の完遂に職を賭すということであり、業績不振なら当然、辞職に追い込まれる。
 
(4) 品質マネジメントの各業務に対するトップマネジメントの責任
  品質マネジメントの実行がトップマネジメントの責任であることは論を待たない。これが上記のコミットメントの必要の規定である。しかし、大抵の組織では品質マネジメントのすべての業務をトップマネジメントが自身で行なうことは不可能であり、規格は、機能部門別組織構造の枠組みの下にトップマネジメントが部門長の業務の指揮、監督を通じて経営管理(マネジメント)を行なうという通常の組織の経営管理の枠組みを基礎としている。
 
  規格は各条項での品質マネジメントの各業務のあり方を規定しているが、その業務の実行に関するトップマネジメントが果たすべき責任の有り様を3種類に分けて規定している。すなわち、
 
@ トップマネジメント が直接的に手を下すことが必要
  「トップマネジメントは、………をしなければならない」と規定される業務については、トップマネジメントは全般管理の観点からではなく、その業務の実行と管理を自身の職務として主体的に行なわなければならない。業務の実行と結果については詳細にわたって把握していなければならない。しかし当然ながら、トップマネジメントが例えば自分ひとりで品質方針を練り、自分で筆をとって品質方針書を作成しなければならないということではない。
 
A トップマネジメントが部門長を自ら指揮、監督して、業務の効果的実行を管理することが必要
  「トップマネジメントは、………を確実にしなければならない」と規定される業務については、全般管理の観点から部門長を指揮、監督して必要な業務結果が出るように自ら主体的に管理しなければならない。トップマネジメントは、これら業務の実行と結果に直接的な管理責任を有し、例えば何か問題があった場合に、詳細は承知していないとか、報告を受けていないというような言訳はできない。
 
B トップマネジメントが機能部門別組織構造の枠組みの下に部門長の指揮、監督を通じて業務実行を組織全体として調整、統括する
  規格では大半の業務は「組織は、…………をしなければならない」「組織は、…………を確実にしなければならない」との表現で規定されている。トップマネジメントは、これらの業務については機能部門別組織構造の枠組みの下に各部門長に実行と管理を委ね、直属の部門長の業務実行の指揮、管理を通じて、組織全体としての業務を統括する。トップマネジメントは、日常的には部門長からの報告と部門長への指示によって品質方針や品質目標の達成、或いは、狙いの顧客満足の実現を図る。
 
  一般に、トップマネジメントは品質マネジメント以外の観点の経営管理(マネジメント)を含めて組織の維持発展を図ることが必要であり、特に大規模組織では、全般管理の立場の管理としても品質マネジメントの業務の日々の実行を管理、調整することは困難である。この場合は、品質マネジメントなど各マネジメントの日常的業務に関して部門長を指揮、管理する権限を特定の責任者に委ね、この責任者からの報告と提案を通じて全般管理としての判断や決定を行なうことが一般的である。普通、この責任は機能部門別組織構造の該当する機能を果たす部門の部門長、例えば、品質マネジメントなら品質保証部長に委ねられる。特に大規模であるとか、又は、多くの事業所から構成されるとかの場合は、これに特別の責任者を置くこともある。規格ではこのように、トップマネジメントの包括的な指揮の下に品質マネジメントの日常的業務実行と管理を調整、統括し、必要に応じてトップマネジメントに報告し、指示を仰ぐ責任者を、『管理責任者』と呼んでいる(5.5.2項)。
 
 
3. 規格要求事項の真意
  本項の『コミットメント』の規定は、品質マネジメントの効果的実行に対するトップマネジメントの役割と責任の重大さを意味している。トップマネジメントは顧客満足向上を通じて事業の維持発展を図る経営管理(マネジメント)活動の先頭に立たなければならない。そのためにトップマネジメントは、自身がa)〜e)項を満たすことを確実にするよう必要な手はずを品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)の一環として確立することを管理し、定めた手はずに則って自身の責任を全うしなければならない。
 
(1) トップマネジメントは、品質マネジメントシステムの構築及び実施、並びにその有効性を継続的に改善することに対するコミットメント の証拠を次の事項によって示さなければならない。
  規格では、品質マネジメントをPDCA/プロセスアプローチ サイクルに則って効果的に行なうことを、品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、維持し、有効性を継続的に改善すると表現する(4.1項)。本項の記述では確立が構築で、また、文書化と維持が欠けているが、規格の所々に見られる表現の不統一であり、意図的な違いではない。
 
  組織の経営に規格の品質マネジメントシステムを採り入れることにしたのはトップマネジメントの戦略的決定(0.1項)であった。それは、一貫して顧客満足の製品を供給する組織として顧客に受け入れられ、強固な信頼を確立することが組織の永続的発展に通ずるとの判断に基づいている。トップマネジメントは、この経営の決定に基づいて品質マネジメントを規格の要件に則ってやり抜かなければならず、その不退転の決意が必要である。 トップマネジメントはこの決意を固め、組織の内外に明らかにし、職を賭す覚悟で経営に取り組まなければならない。コミットメントは自身に対する誓約であり外に対する経営公約であるが、人間の内面的なものである。 トップマネジメント は、この経営公約を行動で示さないと人々には理解されない。「従業員はトップマネジメントから行動の形でそのコミットメントを見聞きする必要がある」であり(25)、「行動は言葉よりよく聞こえる」である(23)。規格は、このトップマネジメントの誓約及び経営公約を組織の内外に知らしめるために必要なトップマネジメントの行動を、a) 〜e)項で示している。
 
(2) 法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして、顧客要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する [ a)項]
  この『要求事項』は、「要求」ではなく「必要若しくは期待」、或いは、必要条件、必要事項、要件の意味である。『法令・規制要求事項』は、順守しなければならない製品に関する法令やその他の規制のことであり、『顧客要求事項』は、製品に対する顧客の必要と期待のことである。規格の顧客満足とは「顧客要求事項が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」である#17から、顧客要求事項を満たすとは顧客満足の向上を図るという意味である。
 
  法令や規制の順守は顧客の必要、期待の基本であるから、当然、顧客要求事項に含まれる。規格が法令・規制要求事項の順守に言及するようになったのは00年版からであり、製品使用への反映の必要(7.2.1 c)項)と合わせて本項にも規定されている。これはISO14001 (4.3.2)が初版(1996年版)以来『法的及びその他の要求事項』の順守を強調していることとの表現上の整合性を図るためと考えられる。実際、原文の構文からは、この条文は「法令や規制だけではなく、それも含めた顧客の必要と期待を満たすことこそが大切なのである」という趣旨で書かれている。すなわち、トップマネジメントは、規格に則って品質マネジメントを効果的に行なうためには、組織の事業の維持発展のためには製品の法規制の順守だけでは十分ではなく、顧客満足の向上を追求することこそが必要であるという認識と理解を、組織内に徹底しなければならない。
 
  周知や徹底の方法には、品質方針や年頭社長挨拶での表明や、顧客第一の考え方のポスターの掲示や印刷物への標語の表示、定期行事などの啓蒙活動もよい。しかし、本件に関するトップマネジメントの意思の伝達方法として最も大事なことは、トップマネジメントが日々の業務において、どのように顧客の声に耳を傾け、どのように真剣に申立てられた苦情に対応し、顧客満足向上に向けた業務の遂行にどのように指導性を発揮するかである。
 
(3) 品質方針を設定する [ b)項]
  品質方針は、事業の必要な維持発展のためにどのような顧客満足の実現を目指さなければならないかという トップマネジメント の戦略的判断を示すものである。 組織の品質マネジメントの業務はこの品質方針の実現を図るよう実行される。誤った或いは不適当な品質方針を定めたのでは必要な顧客を獲得し、必要な売上を得て、収益を挙げることはできない。確立した品質方針がおざなりなものでなく、組織をあげて追求するに値する適当なものであるかどうかは、トップマネジメントの品質マネジメントの実行の誓約がどの程度真剣なものかに関係する。94年版で品質方針は品質方針に関する要件は5.3項に規定されている。
 
(4) 品質目標が設定されることを確実にする [ c)項]
  規格では、組織の品質マネジメントの各業務(プロセス)の狙いの業務結果はどれも品質目標である。これら各品質目標の総合的結果が品質マネジメントシステムの品質目標であり、顧客満足に関して組織がある時点で達成すべき目標である。トップマネジメント は、品質方針を立てるだけでなく、ある時点で達成すべき顧客満足の具体的な姿を品質マネジメントシステムの品質目標として明確にし、それが各部門の業務の品質目標に展開されるいよう指揮しなければならない。この品質目標に関する要件は、5.4項に規定されている。
 
(5) マネジメント レビュー を実施する [ d)項]
  マネジメント レビューは、品質マネジメントのPDCA/プロセスアプローチ サイクルのA/継続的改善に相当する活動であり、品質マネジメントの実績の決算として行なう定期的な体系的評価のことである。トップマネジメント は品質マネジメントの実績を品質目標の達成など狙いの顧客満足の実現に関して見直し、その後の事業環境や情勢の変化と共に体系的に評価して、顧客満足の製品を一貫して供給する観点から品質マネジメントの必要な軌道修正を行わなければならない。マネジメントレビューに関する要件は5.6項に規定されている。
 
(6) 資源が使用できることを確実にする [ e)項]
  品質方針の実現に向けて品質マネジメントを効果的に実行するためには、その手段としての資源が必要である。資源とは経営資源のことであり、一般には金、人、もの及び情報であると言われる。規格では、資源には、人々、設備や建物、ソフトウェア、作業環境、情報と情報技術、供給者、天然資源、財務資源、知的財産、更には、力量、管理者の指導力等々が含まれ(132-b)、また、方法、技術、技能、情報、文書や記録、明確にされた組織構造や責任権限も含まれる。規格では業務実行に用いるもの或いは必要なものはすべて資源とみなされる。トップマネジメント は、品質方針に掲げる必要な顧客満足の実現に向けて品質マネジメントを効果的に実行できるような状態をつくりあげなければならない。規格では、これを必要な資源が利用できる状態と表現する。資源に関する要件は6章の他、各条項に規定されている。
 
 
 
 
H24.11.30
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所