ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
20 5.3項   品質方針 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-20
  トップマネジメントは、品質方針について次の事項を確実にしなければならない。
a) 組織の目的に対して適切である
b) 要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの有効性の継続的な改善に対するコミットメントを含む
c) 品質目標の設定及びレビューのための枠組みを与える
d) 組織全体に伝達され、理解される
e) 適切性の持続のためにレビューされる
 
 
1.要旨
  本項はその品 本項では、5.1 b)項でトップマネジメントが設定すべきことが規定された品質方針に関する要件がa)〜e)項に分けて規定されている。この内 a)〜c)項は、品質方針がどのようなものでなければならないのかの内容、d)、e)項は設定した品質方針の取扱いに、それぞれ関する。
 
  トップマネジメントは、組織の事業の維持発展のためにどのような顧客満足の実現を図るべきかを、その特定時点の到達点の顧客満足の姿と合わせて品質方針又は品質方針及び組織の品質目標として定め、情勢の変化に対応して見直さなければならない。品質方針の内容は、これを実現するよう各部門、階層で業務目標としての品質目標(5.4.1項)が設定できる程度に明瞭で具体的に表現されて、文書に記述されていなければならない。品質方針はまた、業務実行に係わる規範や指針として各要員にそれぞれ必要な程度に理解されなければならない。
 
   
2. 背景 及び 関連事項
2-1. 経営管理の枠組み
(1) マネジメント サイクル
 経営管理(マネジメント)は、組織の存立の目的に沿って事業を維持発展させる活動である。経営論では「組織の有する能力(資源)を状況のニーズに適応させながら組織目的を達成していく活動」と、方法論を含めて定義される(45a)。規格では「組織を方向づけ制御する統制された活動」であり#19、事業の維持発展の管理活動であることに焦点を当てた定義となっている。
 
  基礎的な経営論では経営管理活動は、組織のあるべき姿とそこに到達するための道筋或いは方策を明確にし、その実現を図るべく組織の業務を方向づけ、実行を管理する活動である。無限持続体としての組織の経営管理活動は継続的に業績の向上を図る、plan‐do‐seeの繰り返しの循環的活動と見做される。このマネジメント サイクルは、計画‐リード‐統合のサイクルであると整理されるが、この計画と統合には各サイクルの間でのそのサイクルの経営管理活動の成果としての目的達成度の評価と次のサイクルへの反映という経営の意思決定が含まれる。規格ではこのマネジメント サイクルを、プロセスアプローチ/PDCAサイクルの形で表現している。
 
  すなわち、経営論では、組織のあるべき姿とそこに到達するための道筋或いは方策は経営戦略と呼ばれ、これは組織が置かれた環境と組織の有している能力を勘案して、実現の可能性と実現により得られる利益や効用の大きさとが釣り合う最適解として決められ、経営方針、経営目標として明確にされる。この経営方針、経営目標の一部としてのどのような顧客満足の姿、状態や程度を目指し、実現を図るのかを示す方針、目標が規格の品質方針(5.3項)、品質目標(5.4.1項)である。
 
  この戦略の実現を図るよう業務実行の手順を決め資源を用意して経営管理体制を確立することを、戦略の決定と合わせて、経営管理を計画すると表現される。規格ではこれは、品質目標を達成できるように関連する業務の手はずを整えるという意味での品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)と呼ばれる。
 
  管理者の担う日常的管理業務は、各業務が計画に則って行われ、計画で定められた通りの業務結果が出るよう管理することである。これは、経営論ではリード・統合(45a)、或いは、執行(指揮)・統制(54)である。規格では、製品実現の管理(7章)である。
 
  経営管理活動の成果は、経営方針、目標の達成度として評価され、評価の結果は変化する事業環境と組織の能力の評価に基づく戦略や経営計画の必要な見直しに反映される。規格では品質方針、目標の達成度の評価は、顧客満足の監視測定(8.2.1項)及びデータ分析(8.4 a)項)として、それに基づく戦略と経営計画の見直しは マネジメントレビュー(5.6項)として規定されている。
 
(2) 経営理念
  どの組織にも創業の目的があり、それを追求する事業活動を行っている。この創業の目的は英語では“Purpose”である。これをどのように実現するのか、事業遂行の指針となる基本的な考え方ないし哲学は経営理念、英語では“Managerial Philosophy(54-a)”又は“Values(23-b)”と呼ばれる。これは、創業者の遺訓や社是や社訓として成文化されていることが多い。また、実際にどのように事業を行い、何を目指すのか、現在と将来の事業の在り方を明らかにしたものは使命又はビジョンと呼ばれ(55-a)、英語では“Mission”“Vision”である(23-b)。使命が描く組織の最終の到達点は、基本目標、英語では“fundamental objectives”と表される。これらは経営機関たる取締役会が最終的な意思決定を行う。
 
(3) 経営方針
  トップマネジメントは、組織目的に適う組織のあるべき姿、目指すべき将来像に関して、また、そこに到達するための道筋或いは方策に関する考え方或いは指導原則を経営方針として明確にして、それに沿って組織の業務を指揮し統御する。経営方針は通常、反復的に起きる同じ種類の問題に対する意思決定と行動に一貫性を与えるために組織が設定する指導原則及び実行手続きを指す(54-a)。
 
  経営理念、経営方針とも、組織の要員が一体となって業務を行うのに不可欠な業務上の指針を示すものであるが、理念は拠り所や指針であり、概念的であり包括的で、トップマネジメントの哲学や信念に関係し、一方、方針は理念より具体的で、業務の実行に関する必要についての トップマネジメントの想いに関係する。また、理念が トップマネジメントの交代があっても変わらず引き継がれていき、時代の大きな変化に適合して周辺から少しずつ変化していく(55-b)のに対して、方針は事業環境の変化や問題解決の実績によって変わっていく。理念は経営方針を決める際のトップマネジメントの意思決定の過程に影響を与える(54-a)のに対して、方針は要員が意思決定する時の直接的な指針(56-a)となる。
 
  経営理念に相対する経営方針は基本方針とも呼ばれる。経営方針にはこの枠内の下位の方針として、より具体的は拠り所或いは方向を示す中期方針、短期方針が設定され、年度に限った年度方針もある。一般に、基本方針は行動指針や指導原則の性格が強いが、短期や年度方針は具体的な到達点を念頭に向かうべき方向やそのための方法についての考え方或いは枠組みを示す実行方針としての性格が強い。
 
  経営方針はまた、方針設定の範囲によって、組織全体のマネジメント(全般管理)に係わる全般的方針と、それを受けた部門内業務のマネジメント(部門管理)に係わる部門方針とに分けられる(54-b)。これらは英語ではそれぞれ“General Policies”“Departmental Policies”である。更に、経営方針が取扱う対象によって、事業方針、事業所方針などの事業別方針、及び、販売方針、財務方針、品質保証方針、安全衛生方針などの機能別方針に分けることができる。
 
  基礎的な経営論において、経営方針が体現する経営戦略としての組織のあるべき姿とそこに到達するための道筋或いは方策は、組織が置かれた環境と組織の有している能力とを勘案しての最適解として決められる。これと本質的に違いはないが、近年、環境変化への対応を特に重視して方針、目標の決める柔軟な経営の意思決定のあり方を特別に戦略経営 (57-a)と呼び、その重要性を説く向きがある。これは、組織が継続して目的を追求し発展し続ける、つまり、無限持続体であり続けるために、需要構造、技術革新、市場競争など事業環境の変化に適応することの重要性を解く考え方であり、このような経営計画は通常の経営計画と区別するために戦略計画(Strategic Plan)と呼ばれることがある。
 
 
2-2. 品質方針
(1) 顧客満足追求に関する経営方針
  規格では「方針」とは「政府、団体、個人等によって提案又は採択された行動指針又は原則」のことを指し(6)、『品質方針』は「品質に関する組織の全体的な意図及び方向付け」と定義される#21。これら定義から規格の品質方針が、実務の経営方針のことであり、性格的には組織全体を対象とする全般的方針であり、品質に関する機能別方針であることが明らかであることがわかる。  
 
  00年版規格の品質とは顧客満足度のことである(2)から、品質方針は顧客満足向上に関する経営方針であり、顧客満足の向上をどのように追求するのか、どのような顧客満足の実現を図ろうとするのか組織の意向を示すものである。品質マネジメントは、組織の経営管理(マネジメント)活動の内の一部であり、必要な顧客満足向上の実現を図る活動である。品質方針は、組織全体の経営方針の中の顧客満足向上に係わる部分である。規格はこのことを「全体として品質方針は組織の全般的な経営方針と整合している」と説明している#21-1。また、TC176の商業本(20a)は「営業/販売、財務等々を含む会社の全般方針を最初に決める方が品質方針を容易に設定できる」として、このような品質方針の性格に触れている。
 
@ 基本方針としての品質方針
  品質方針は、事業の維持発展に必要であるが故に実現を目指さなければならない顧客満足がどのようなものかを示す。経営基本方針としての品質方針は、顧客満足の追求に関してどのような組織であることを目指すのかを示すものであり、究極的に達成すべき顧客満足の状態を示すのは経営基本目標としての品質目標である。この品質方針と品質目標は一般に包括的で抽象的に表されるから、両者が明確に区別されず一体として表されることが少なくない。
 
  94年版(4.1.1)ではトップマネジメントは「品質目標を含む品質方針を明確にしなければならない」と規定され、その品質方針が内容的に基本方針的なものあることを示唆していた。また、品質マニュアルに記述される#14-2ことになっており、更に、見直しの必要には触れられていなかった。従って、その品質方針は経営基本方針に対応する品質方針を意味していたものと考えられる。00年版でも指針規格では、品質マネジメントシステムの下の トップマネジメントの責任として「組織の品質方針及び品質目標を設定し、維持する」ことが挙げられている(131d)から、この場合の品質方針は品質目標とほとんど一体として表現される組織のあり方としての目指す顧客満足を示す基本方針的なものが意図されていると考えられる。
 
  「品質目標を満たすように品質マネジメントシステムの計画の計画活動を行わなければならない」という品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)の規定の品質目標も文脈から、大抵の場合は経営基本方針たる品質方針に対応する組織のあるべき姿の意味の品質目標であると考えられる。従って、このための手はずを整えるということは顧客満足を追求するという観点での事業体制の確立、或いは、経営管理の枠組みを確立する活動のことである。
 
A 実行方針としての品質方針
  一方で規格は、品質方針は情勢の変化に応じて見直され変更されなければならず(5.3 e)項)、トップマネジメントはマネジメントレビューで品質方針や品質目標の変更の必要性を評価しなければならない(5.6.1項)とも規定している。この場合の品質方針は、基本方針や長期方針のように組織の目的の実現の指導原則や行動規範を定めるものというよりは、中短期に実現すべき顧客満足が何であるか、どのように実現すべきであるかを相当に具体的に示す実行方針であり、中、短期方針や年度方針のような性格の品質方針である。
 
  この経営実行方針としての品質方針の実現のために特定の時点で到達すべき顧客満足の具体的な状態が、経営実行目標としての達成度が判定可能な形で明確にされた品質目標(5.4.1項)である。このような品質目標を満たすように行われる品質マネジメントシステムの計画活動(4.5.2項)は一般には、既存の品質マネジメントシステムの手はずの変更であり、規格では『品質マネジメントシステムの変更』とも呼ばれる。
 
  マネジメントレビュー(5.6項)により『品質マネジメントシステムが引き続き、適切、妥当かつ有効であることを確実にする』ために『品質方針及び品質目標を含む品質マネジメントシステムの変更』を決定するという規定の品質方針、品質目標は、実務的には大抵の場合は実行方針としての品質方針とその具体的到達点の品質目標と考えてよい。
 
(2) 継続的改善の指標
  中短期又は実行方針としての品質方針は、その時点での事業環境の変化に対応するために組織がどのような顧客満足の実現を図るべきかを示す。このような新たな顧客満足の姿は一般には、それまでとは異なる観点、より高度な、より実現の難しいものである。これを実現するために品質マネジメントの業務はより高度の結果を出すことが必要となるから、このための業務又は手順の変更は改善と見做すことができる。品質方針の変更の度に、品質マネジメントの業務は新たな又はより高度な結果を出すように改善される。これを繰返すことにより、様々な事業環境に対応して顧客満足の製品を一貫して供給できるよう組織の業務能力が継続的に改善され強化される。このような改善の活動が、問題の再発防止処置(8.2.2項)と未然防止処置(8.2.3項)と合わせて、「要求事項を満たす能力を高める反復的活動」と定義される規格の『継続的改善』である#38。品質マネジメントシステムの継続的改善(4.1項)とは、前記2-1(1)の経営論のマネジメントサイクルの循環的活動による無限持続体としての組織の経営管理活動のあり方そのものを意味している。
 
  品質方針は、改善の品質目標の設定の基礎となり、業務の手順の改善の実行と管理の基準となる。品質方針は、組織の品質マネジメントシステムの継続的改善の道しるべであり、その変遷は改善の歴史である。実行方針としての品質方針の変更実績は継続的改善の進展の証である。
   
(3) 品質方針の文書化
  経営方針は経営目標や経営計画の策定に必要であるだけでなく、手順の作成、目標の設定、業務と製品の管理、非定常時の処置など、組織の要員が業務で行なう様々な判断や決定の指針となり、要員の業務の行動の規範となる。経営方針たる品質方針が組織の業務実行に効果的に反映されるためには、文書に記述され (4.2.1 a)項)、必要な人々に伝達され、理解され、必要な時に参照できるようにしておく必要がある。
 
  品質方針は一般に、組織が実現を図るべき顧客満足を包括的に示し業務規範の基本を示す基本方針と、この下で当面する事業環境に対応するための当面の重要な事項に焦点を当てて、顧客満足の必要な在り方を明らかにする実行方針とに分けて文書化するのが効果的である。
 
  実務的には基本方針としての品質方針は、経営理念や社是、全般的経営方針の中で、或いは、それらとの対比の形で文書化される。実行方針としての品質方針は、その背景と必要性などを含めて意図するところを明らかにし、品質目標を含めて文書化される。
 
(4) 品質方針の伝達
  業務実行の規範である品質方針は、すべての要員がその与えられた責任権限に応じた範囲と深さで理解しなければならない。高度な、また、狙いの顧客満足の実現に影響の大きい判断や決定を行なう必要がある上位の管理者ほど、品質方針への深く正しい理解が必要となる。品質方針は、業務実行の手順に反映されているから、手順に則って業務を確実に行うことが最大の責務である新人など経験の浅い人々には、品質方針というものの存在のみを、或いは、根本原則のみを知るだけでよいかも知れない。
 
 
3. 規格要求事項の真意
  品質方針は顧客満足向上に関する経営方針であり、事業の維持発展のためにどのような顧客満足の実現をどのように図ろうとするのか組織の意向を示すものである。実務的には顧客満足の追求に関してどのような組織であることを目指すのかの経営基本方針としての品質方針と、中、短期の組織の事業の維持発展の必要のために実現すべき具体的な顧客満足の状態に関する組織の意向を明確にする経営実行方針としての品質方針があるが、規格の規定では両者を明確に区別していない。
本項の品質方針は両者を指し、マネジメントレビュー(5.6項)で見直す品質方針は大抵の場合は後者であり、継続的改善の指標(8.5.1項)としての品質方針は後者を指すと考えてよい。
 
(1) トップマネジメントは、品質方針について次の事項を確実にしなければならない
  トップマネジメントは、顧客満足に関する経営方針としての品質方針を品質マネジメントの業務実行の指針として明確にし、変化する事業環境と業務実行能力の状況とに鑑みて見直しを行い、必要により変更しなければならない。品質方針に基づく品質マネジメントの業務によって組織の事業の維持発展に必要な顧客満足を確実に実現させるためには、品質方針が次のa)〜e)であることを確実にしなければならない。 a)〜c)、及び、e)は効果的な品質方針であるための内容に関する要件であり、d)は設定した品質方針に沿って品質マネジメントの業務が確実に実行されるための要件である。
 
(2) 組織の目的に対して適切である [ a)項]
  JIS和訳『適切である』は原文では、特定の状況に合っている、正しいという意味$24であり、適当であるという和訳の方がよい。また、『目的』の原文は“purpose”であるから、組織の経営の根幹である創業の目的を指す。特定の時点や期間の経営環境に対応する経営課題に対処するための実行方針としての品質方針であっても、組織の創業の目的や使命、経営理念を踏まえたものでなければならない。
 
  当然、組織の全般的な経営方針の一部として、他の機能別方針と合わせて組織の必要な発展を図ることが意図されたものでなければならない。本項に関して規格執筆者らは、品質方針が「組織と顧客の必要に対して適当で」あり(21-b)、また、「組織の全般的経営方針と整合した意味のある」ものでなければならない(22-a)ことを強調している。
 
(3) 要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの有効性の継続的な改善に対するコミットメントを含む [ b)項]
  本項は原文では「品質マネジメントシステムの要求事項及びその有効性の継続的改善に対するコミットメントを含む」である$16-2。この「コミットメント」は、5.1項のトップマネジメントの品質マネジメントに係わる経営公約のことであるから、「品質マネジメントシステムの構築と実施及びその有効性の継続的改善」に対するコミットメントである。表現が異なるが規格の各所に見られる表現の不一致に過ぎず、どちらも『この規格の要求事項に従って、品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、維持し、有効性を継続的に改善する』こと(4.1項)に対するコミットメントのことである。
 
  トップマネジメントが規格に沿った品質マネジメントに職を賭して取り組むという自らへの誓約を、経営公約として組織内に明らかにしなければならない(5.1項)。この経営公約は「顧客の必要と期待を満たす製品を一貫して供給することによって、持続した高収益な成長を実現する」という経営公約である (26-a)。品質方針はこの経営公約に反するような内容であってはならず、品質方針書(4.2.1 a)項)には、この経営公約の少なくとも趣旨がわかるような表現が含まれていなければならない。
 
(4) 品質目標の設定及びレビューのための枠組みを与える [ c)項]
  JIS和訳『設定』は原文では“establish”であり、「確立」である。『レビュー』は “reviewing”であり、この場合は変更の必要がないかどうかの観点から物事を見直すことである$22。
   
   品質目標は、品質方針が示す実現すべき顧客満足の姿或いは方向に基づき、特定の時点で達成すべき顧客満足の状態や程度を示すものである。品質方針と品質目標は一体であり、どちらもトップマネジメントの意向を反映したものである。トップマネジメント自身が品質目標を直接的に策定しない場合には、トップマネジメントの意向に沿った品質目標が確実に策定され、必要に応じて変更できる程度に明瞭で具体的な内容でなければならない。これは実務的には、トップマネジメントが品質方針を決定する際には、狙いの顧客満足の状態を組織の品質目標として相当に具体的に想定していなければならないということを意味している。
 
(5) 組織全体に伝達され、理解される [ d)項]
  品質方針は、品質マネジメントの観点からの要員の業務実行の指針であり、また、達成すべき顧客満足の姿を明らかにしている。顧客満足の向上を通じた組織の発展を追求するための組織の品質マネジメントの業務は品質方針に沿って実行されなければならない。組織の品質マネジメントの各業務の手順は品質方針に則って確立され、実行され、また、手順に定められていない問題や緊急事態に当面した場合は品質方針に則って判断が行なわれる。人々が品質方針を理解していることは、品質マネジメントの業務が効果的に行われ、狙いの顧客満足を実現させるために不可欠である。
   
  しかし人々に必要な理解の範囲と深さは各人の業務の分野と階層、責任の範囲によって異なる。品質方針の伝達の方法も当然、人々により異なったそれぞれに適切な方法でなければならない。さらに トップマネジメントは、必要な理解が得られていることを種々の機会に確認し、品質方針の理解と業務での徹底を図らなければならない。
 
   年度方針のような品質方針を年頭挨拶として全員を集めてトップマネジメントが話をするというような伝達の方法は必要かもしれないが、組織には過去の業務で積み上げられてきた暗黙の品質方針もある。要員の品質方針の理解は、一律の伝達方式で知識を得るのみによるのではなく、日常の業務実行の中で学び、習得していくものでもある。品質方針に要員の理解を得ることに関連して規格は、トップマネジメント(5.1 a)項)や管理責任者(5.5.2 c)項の責任、また、内部コミュニケーション(5.5.3項)、要員の教育訓練、職責意識(6.2.2 項)について規定して、品質方針を人々に伝え、理解させるには種々の方法、機会を活用する必要を示唆している。
 
(6) 適切性の持続のためにレビューされる [ e)項]
  事業の持続的発展は組織が事業環境の変化に適切に対応できるか否かにかかっている。トップマネジメントにとって、環境の変化を予測し把握して経営戦略を改め、経営方針を見直し修正することが重要な責任である。顧客の必要と期待は変わり易く、一般に技術革新と競合組織との市場競争がある。組織は、製品の新機軸、新規なビジネスモデルを含む製品の変革、改善により、常に新しい顧客満足の形や水準を追求していかなければならない。必要な顧客満足向上を図る経営方針としての品質方針は、変化する内外の情勢に照らして見直し、変更することが必要である。基本方針としての品質方針が見直され変更されることはほとんどないであろうが、下位の品質方針、とりわけ、実行方針としての品質方針は、顧客の必要と期待の変化と技術開発結果など業務能力の向上に応じて、必要な、より高い顧客満足の実現に向けて変更される。
 
  JIS和訳の『適切性』は原文では、適当であること或いはふさわしいことの意味$24で、『レビューする』は上記(3)と同じく変更の必要がないかどうかの観点から物事を見直すことの意味$22である。 トップマネジメントは、品質方針が変化する事業環境に合っているかどうかを常に見直さなければならない。組織の永続的な維持発展のためには、必要な顧客満足のあり方を適宜に見直し、変更していかなければならず、必要なら顧客満足についての意図や方向を示す品質方針を変更しなければならない。年度方針としての品質方針は毎年見直されることになるが、そのまま次年度の品質方針とすることもあり、新しい品質方針の設定が必要となることもある。
 
  規格はトップマネジメントが、この品質方針の見直しの評価と決定を、必要なすべての要素や観点を体系的に検討するマネジメントレビューの中で行うべきことを規定している(5.6項)。 マネジメントレビューは品質マネジメントの実績の決算であり、そのPDCA/プロセスアプローチ サイクルの締めくくりのA/継続的改善に相当する活動である。品質方針の見直しの結果で、次の品質マネジメントのサイクルの実行方針としての品質方針が決められる。本項の『品質方針のレビュー』は大抵の場合は、年度で品質マネジメントのサイクルを廻している組織では次年度の品質方針を決めることに相当する。
 
 
4. 品質方針の実務
(1) 年度経営方針
  会計年度や暦に合わせた1年を単位にした経営管理(マネジメント)が行なわれている組織においては、年度の重点取り組みを定める年度方針の一環として品質方針を含めるのがよい。年度方針は、年度に見込まれる事業環境の中で組織の事業の維持発展のために、一定の収益又は売上の確保のために、また、将来のために、日常的事業活動に加えて特別にどのような経営上の問題に、どのように取り組むのかという トップマネジメント の意図を表し、それには必要な人、金、物の経営資源を投入するという意思を表す。
 
  ISO9001規格の要件に則って品質マネジメントを行うということは、顧客満足の追求の観点から必要な収益又は売上の確保を図ることを経営の基本のひとつに据えるということである。これはすなわち、年度方針には何らかの品質方針が含まれるということにもなる。明確な年度方針を設定してこなかった組織で、他に特別な経営課題がないというような状況では、品質方針のみの年度方針を作成することになる。年度方針や品質方針の中身は毎年変えなければならないということではない。組織によっては顧客満足に関して毎年何か新しいことを目指さなければならないという状況でないこともあり、コストや環境など他の問題への取り組みの方により強い経営の必要がある状況もある。しかし、組織が無限持続体であるには、事業環境の変化がある以上は品質方針がいつまでも同じであるということにはならず、適宜、適切に変更していかなければならない。
 
  年度方針の中の品質方針は当面の事業環境に対応すべき顧客満足の狙いや方向といった具体的な、焦点を絞ったものとなる。通常は基本経営方針としての品質方針や、経営理念の中で、組織の顧客満足の追求に関する基本的な考えを明らかにしており、年度方針としての品質方針は、これを基礎として更に年度で追求すべき特定の顧客満足の状態を表す。
 
  年度方針の中の品質方針は、当該年度末など期限を決めて達成すべき特定の顧客満足の状態、又は、取り組むべき事項を、重点取り組み事項として明らかにするとよい。重点取り組み事項は、関係する部門階層の年度業務目標として展開され、実行される。
   
  年度の品質方針は、マネジメント レビュー(5.6項)の結果に基づいて課題を抽出し、見込まれる事業環境、必要な収益、売上など組織が実現すべき状況を勘案し、他の経営方針と整合して決められる。
 
(2) 品質方針の伝達
   規模の大きい組織では品質方針は、幹部管理者を集めてトップマネジメントが年度経営方針と共に説明し、部門階層を通じて各管理者により順次、それぞれ必要な内容を必要な程度で要員に伝えられ、理解されることを図る。小規模の組織ではトップマネジメントが全員を集めて直接説明する。これに合わせて、年度経営方針を組織内広報誌に記載し、又は、特別の冊子として管理者、或いは、要員にまで配付する組織も多い。大抵の組織はこの文書と合わせて、又は、この文書を作成しないで、経営方針の要点を箇条書きで簡潔に表す文書を作成し、職場に掲示する。規格の意図の『品質方針及び品質目標』を表明する文書(4.2.1 a)項)としては前者の文書を指すと考えるのが適切である。
 
  どの組織でも品質マネジメントの業務の手はずは、文書に書かれた基本方針や実行方針の実現のみを意図したものではない。ある実行方針と目標が達成され、その顧客満足の状態が実現した場合、この状態とそれを実現する業務実行の手はずは、次の別の実行方針が作成されても継続するのが普通であるからである。例えば、苦情件数の一定量の削減を図る今日の品質方針の下でも、過去の品質方針で実現した重大欠陥による苦情絶無という狙いは関連業務の手はずと共に活きている。時代に合った経営方針と経営目標を明確にしてそれを達成するという形で事業を発展させてきた組織の業務は、それぞれの方針、目標の達成のために積み重ね、改善され強化されてきた業務実行の手はずの下で行われている。過去の方針の多くは文書化されていなくても、経営基本方針としての品質方針を肉づけるものとして、いわば暗黙の品質方針として今日も生きており、業務風土として定着し、業務において実践されている。
 
  要員に文書化された品質方針を知らせることは必要であるが、業務風土と化した暗黙の品質方針を身をもって理解させることも大切である。これらの暗黙の品質方針を含む基本的な経営方針については、新規採用者の導入教育(6.2.2項)で包括的に理解させ、また、日常業務での指導を通じて要員に徹底し、更に、管理者教育の場などで理解を深めさせる (6.2.2 b)項)。
 
(3) 品質方針の単純な事例
  品質方針の単純な概念的事例としては、市場や顧客の必要や期待に対応する短期の実行方針としての次のようなものが考えられる。この背後には、重大事故や苦情の皆無などの基本方針とか、苦情の発生率や納期達成率など過去に積上げてきた品質業績を維持するという暗黙の品質方針がある。
 
@ 製品の高機能、高性能化 ← 市場成熟により買換え需要の創出が必要
A 新型製品投入サイクルの短縮 ← 関連技術の進歩速度が早く、需要における商品寿命が短くなっている
B 製品外観の顧客の苦情のゼロ化 ← 製品機能に本質的でない細かな不具合へ顧客の目が厳しくなってきている
C 顧客の供給者業績評価の常時首位の確立 ← 評価業績で顧客が発注量を変える仕組みを強化中
D 製品の思い切った差別化 ← 輸入品増加など競合組織と安価製品が増え、特徴がないと売れない
E 顧客の多様な必要に応える品揃え ← 林立する単一品種大型専門店に顧客が流出
F 納品の迅速化 ← 顧客の潜在的な必要を掘り起こして競合組織との差別化
G 製品使用相談への的確な対応 ← 製品自体の競合組織との差別化は困難
H 顧客の多様を嗜好に効率的に対応 ← 住宅地立地を活かし家族やグループの来店の増加を狙う
I 顧客を待たせないサービス提供 ← サービス内容は競合組織と変えようがない
 
 
 
H25.12.28
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サニーヒルズ コンサルタント事務所