ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
23 5.4.2項  品質マネジメントシステムの計画 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-23
5.4.2 品質マネジメントシステムの計画
トップマネジメントは、次の事項を確実にしなければならない。
a) 品質目標に加えて4.1に規定する要求事項を満たすために、品質マネジメントシステムの計画を策定する。
b) 品質マネジメントシステムの変更を計画し、実施する場合には、品質マネジメントシステムが"完全に整っている状態"に維持する。
 

1.要旨

  本項では、経営目標としての品質目標を確実に達成するように品質マネジメントの手はずを整え、必要により変更しなければならないこと、及び、それに関するトップマネジメントの責任が規定されている。
 
  組織が事業の維持発展に必要な顧客満足の実現を図るには、品質マネジメントの関連する各業務でそれぞれの品質目標(5.4.1項)たる狙いの業務結果を確実に出すことができるように業務実行の手はずを整えることが必要である。トップマネジメントは、品質マネジメントの業務実行の手はずがa)に則って整えられること、及び、b)に則って変更されるよう管理しなければならない。。
 
2.背景 及び 関連事項
2-1. 経営管理の枠組み
(1) マネジメント サイクル
 経営管理(マネジメント)は、組織の存立の目的に沿って事業を維持発展させる活動である。経営論では「組織の有する能力(資源)を状況のニーズに適応させながら組織目的を達成していく活動」と、方法論を含めて定義される(45a)。規格では「組織を方向づけ制御する統制された活動」であり#19、事業の維持発展の管理活動であることに焦点を当てた定義となっている。
 
  基礎的な経営論では経営管理活動は、組織のあるべき姿とそこに到達するための道筋或いは方策を明確にし、その実現を図るべく組織の業務を方向づけ、実行を管理する活動である。無限持続体としての組織の経営管理活動は継続的に業績の向上を図る、plan‐do‐seeの繰り返しの循環的活動と見做される。このマネジメント サイクルは、計画‐リード‐統合のサイクルであると整理されるが、この計画と統合には各サイクルの間でのそのサイクルの経営管理活動の成果としての目的達成度の評価と次のサイクルへの反映という経営の意思決定が含まれる。規格ではこのマネジメント サイクルを、プロセスアプローチ/PDCAサイクルの形で表現している。
 
  すなわち、経営論では、組織のあるべき姿とそこに到達するための道筋或いは方策は経営戦略と呼ばれ、これは組織が置かれた環境と組織の有している能力を勘案して、実現の可能性と実現により得られる利益や効用の大きさとが釣り合う最適解として決められ、経営方針、経営目標として明確にされる。この経営方針、経営目標の一部としてのどのような顧客満足の姿、状態や程度を目指し、実現を図るのかを示す方針、目標が規格の品質方針(5.3項)、品質目標(5.4.1項)である。
 
   この戦略の実現を図るよう業務実行の手順を決め資源を用意して経営管理体制を確立することを、戦略の決定と合わせて、経営管理を計画すると表現される。規格ではこれは、品質目標を達成できるように関連する業務の手はずを整えるという意味での品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)と呼ばれる。
 
  管理者の担う日常的管理業務は、各業務が計画に則って行われ、計画で定められた通りの業務結果が出るよう管理することである。これは、経営論ではリード・統合(45a)、或いは、執行(指揮)・統制(54)である。規格では、製品実現の管理(7章)である。
 
   経営管理活動の成果は、経営方針、目標の達成度として評価され、評価の結果は変化する事業環境と組織の能力の評価に基づく戦略や経営計画の必要な見直しに反映される。規格では品質方針、目標の達成度の評価は、顧客満足の監視測定(8.2.1項)及びデータ分析(8.4 a)項)として、それに基づく戦略と経営計画の見直しは マネジメントレビュー(5.6項)として規定されている。
 
(2) 経営計画
  どのように経営戦略の実現を追求し図るのかの経営構造ないし経営管理体制を構築することを経営計画と呼ぶ。経営計画は経営方針、目標を達成するのに必要な業務実行と管理の方法、手段、責任、日程から成り、そのために必要な資源が用意されている。
 
  経営計画には、経営基本方針、この枠内の下位の方針としての中期方針、実行方針的な短期方針や年度方針など、それぞれの方針と目標に対応する基本計画(戦略計画)、中期計画、短期計画などがある。基本計画は事実上、事業推進のための経営管理体制がどのようなものか決め、必要な資源を用意するものであり、年次計画など短期計画は、特定の業績目標の実現を図るための手段の開発や資源の手当てやその日程計画が主体となる。
 
 
2-2. 品質マネジメントシステムの計画
(1) 品質マネジメントシステムの計画活動
@ 計画活動  
  『計画』の原文は“planning”であり、「計画活動」又は「計画すること」の意味である$28。日本語の「計画する」が、将来行なうことの方法や手順を企画することであるのに対し、英語の“plan”は、方法や手順を企画するだけでなく、いつでも実行できるように準備をしておくことまでを含む概念であり、将来行なうことの用意万端、手はずを整えることを意味する。TC176指針(6)では「(処置や企画された一連の事柄の処理の実行のために)前もって手はずを整える」ことと定義されている。すなわち、JIS和訳『計画』は「計画活動」であり、「手はずを整える活動」のことである。
 
A 品質マネジメントシステムの計画活動
  JIS和訳『マネジメント』は経営、或いは、経営管理の活動のことであり、『システム』の英文“system”は「結びつけられている、或いは、一緒に機能している一連の物事や装置の部品など」の意味で、日本語では「体系、系統、系」「組織、体制」「仕組み、枠組み」で$3、規格では『相互に関連する、又は、相互に作用する要素の集まり』と定義される#20。従って、『マネジメントシステム』は組織の経営管理活動のために必要な種々の要素が相互に関連して機能するようになっているそれら要素の集まりを指し、00年版規格の『品質』は顧客満足と同義語であるから『品質マネジメントシステム』とは組織の存続発展に必要な顧客満足を追求する経営管理活動たる品質マネジメント活動のための要素の有機的集合体を指す。
 
  規格の規定においては『品質マネジメントシステム』は、その要素を業務(プロセス)と見て「品質マネジメンの業務体系」、或いは、要素を業務実行の手はずと見て「品質マネジメントの実行体制」というようにみなされている。実務的には、狙いの顧客満足の実現のために整えられた品質マネジメント活動の体制のことであり、組織構造、要員、文書、設備や業務手順など一連の決め事等々のことである。責任と権限、行為、手順、技術、業務、文書、要員、設備である。
 
  規格の品質マネジメント活動においては、トップマネジメントは組織の事業の維持発展のために必要な狙いの顧客満足を品質方針及び組織の品質目標(5.3項)として明確にする。ここに、品質方針はどのような顧客満足を追求するのかの意図と方向を示し、品質目標は特定時点で実現すべき顧客満足の状態や程度を示す。この品質方針と組織の品質目標の実現を図る活動が品質マネジメントであり、その品質方針と組織の品質目標を実現させるために必要な業務実行の手はずを整える活動である。 このことに関連して品質マネジメントシステムの計画活動を、規格作成者のひとりは「顧客要求事項を満たし品質方針と品質目標を実現することができる品質マネジメントシステムとするために、必要な資源、組織構造、プロセス、活動、管理、責任と権限を決定すること」であると説明(22b)し、別のひとりは「設定された品質目標を達成するために必要な資源を特定し、準備すること」と説明(21-c)している。
 
  規格の品質マネジメントシステムの計画活動は、それにより実現を図る品質方針及び組織の品質目標(5.3項)の性格によって2種類の計画活動を包含している。すなわち、経営基本方針、目標に対応する顧客満足の実現を図るための手はずを整える品質マネジメントシステムの計画は、組織のあるべき姿としての顧客満足の実現のための手はずを整える活動であり、実務的には顧客満足の追求という観点での経営管理の業務体系の確立であり、実態的には経営管理体制を構築する活動のことである。これは『品質マネジメントシステムを確立する』(4.1項)ことと同じである。このような品質マネジメントシステムの計画活動に関しては、品質マネジメントシステムの計画活動がトップマネジメントが「品質マネジメントの枠組みを確立する」ことであるという説明(22c)や、品質マネジメントシステムの計画活動の結果で「品質目標を満たす組織の業務実行の基礎が形成される」とする説明(27a)がある。
 
B 組織の経営管理体制との関係
  規格の品質マネジメントは、事業の維持発展を顧客満足の向上を通じて図る組織の経営管理(マネジメント)側面である。実際の組織の経営管理は、顧客満足の追求だけでなく、利益、コスト、能率、安全、環境、法順守など様々な観点から行なわれている。品質マネジメントの業務も多くはこれら他の経営管理にも関係しているから、その業務結果は品質目標を満たすだけでなく、他の経営管理に係わる業務目標をも満たす必要がある。実務的には、品質マネジメントシステムの計画は、関係するすべての経営管理システムの計画にも対応する形で行なわれる。そして、品質マネジメントシステムの計画活動により整えられる手はずには、当該業務が関係する他の経営管理のための手はずも含まれている。すなわち、品質マネジメントシステムの計画活動で決めた手順や資源は、時には相互に矛盾する、組織のすべての経営管理の観点の必要を満たす、組織として最適なものとなっていることが必要である。
 
(2) 品質マネジメントシステムの計画の様々な性格
@ 品質マネジメント システムのプロセス
  品質マネジメントシステムの計画活動も、規格では品質マネジメントシステムのプロセス(業務)のひとつである。計画活動の狙いの業務結果、つまり、計画プロセスの品質目標は、必要な顧客満足を確実に実現するための品質マネジメントの業務とその実行の手はずである。また、計画活動で整えた手はずは計画プロセスのアウトプットである。このアウトプットは、原文では“planned arrangement(計画された手はず)”であり、それらの全体が品質マネジメントシステムである。
 
A PDCA/プロセスアプローチ サイクルのP/計画
  5.4項の標題は『計画(planning)』であり、これはPDCA/プロセスアプローチ サイクルのP/計画(planning)のことである。規格の品質マネジメントのPDCA/プロセスアプローチ サイクルは、『品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、維持し、有効性を継続的に改善する』と表現される(4.1項)。ここでP/計画に相当するのは、『品質マネジメントシステムの確立』であり、『文書化』をも包含する。これはもう少し具体的には、品質マネジメントに必要な業務を特定し(4.1 a)項)、業務間の関係(同 b)項)と各業務の実行と管理の手順と目標を決め(同 c)項)、必要な資源と情報を利用できる状態にする(同 d)項)こととも表現できる。
 
  PDCA/プロセスアプローチ サイクルのD/実施に相当するのは『品質マネジメントシステムを実施する』であるが、この『実施』は“implementation”であり、P/計画で整えられた手はずに則って業務を実行することであり、定められた手順を履行することを意味する。この履行を監視、測定及び分析(4.1 e)項)し、計画通りの結果が得られるように管理すること(4.1 f)項)が、C/管理であり、『品質マネジメントシステムを維持する』である。
 
B 品質目標を達成するための計画
  規格は 品質マネジメント活動の方法論を、トップマネジメントが組織の品質目標を含む品質方針を定め(5.3項)、各業務の品質目標を「関連する経営機能上及び管理の観点」で確立させ(5.4.1項)、これを達成することによって継続的改善を図る(8.5.1項)というプロセスアプローチ/PDCAサイクルでも表している。この表現では、『品質マネジメントシステムの計画』とは、顧客満足に関する業績目標たる品質目標とその達成のための業務目標たる各プロセスの品質目標をどのように達成するのかを計画することであり、各品質目標達成のための手順を定め、資源を用意することである。規格作成者のひとり(21-c)が『品質マネジメントシステムの計画』を、設定された品質目標を達成するために必要な資源を特定し、準備することと説明しているのは、この観点に基づいたものである。
 
C 改善の計画
  無限持続体として事業の維持発展を図るためには、狙いの顧客満足の姿や状態、程度を事業環境の変化に対応して変更する必要がある。これは、組織の品質方針や品質目標の変更又は新設という形で明確にされ、それを達成するように組織関連する業務の狙いの結果たる品質目標に展開される。この品質目標を達成する手はずを整える活動も品質マネジメントシステムの計画活動であるが、実態はこれまでの品質マネジメントシステムの計画活動の結果たる既存の手はずの変更であり、『品質マネジメントシステムの変更』である。
 
  新しい品質目標を達成するための手はずが既存の手順や資源の変更や組み合わせでは間に合わず、或いは、新しい手はずに未知の要素が含まれる場合には、品質マネジメントシステムの計画活動には実験や試行、試作を必要とする改善活動が必要となる。規格では、この改善活動も業績目標たる品質目標の達成に関連する品質マネジメントシステムのプロセス(業務)であり、改善活動で達成すべき狙いの結果もプロセスの業務目標であり、改善活動の手はずを整える活動は品質マネジメントシステムの計画活動である。
 
  このような改善活動の手はずには狙いの結果たる品質目標の達成のために試みるべき実験や試行、試作の手順や資源、責任分担の他に、何をいつ試みるか評価するかなどの日程計画が含まれるのが普通である。このような形の業務実行の手はずを整える活動の結果は、日本語の「計画」に近く、規格では“programme”と表現される。これは、JISでは『監査プログラム』(8.2.2項)し、ISO14001では『環境マネジメントプログラム』(96年版)、『実施計画』(04年版)のように和訳されている。
 
(3) 品質計画
  『品質マネジメントシステムの計画』は94年版では用語として存在せず、これを標題とする条項もなかった。代わりに、『品質計画』を標題とする条項(4.2.3項)があり、00年版の『品質マネジメント システムの計画』と『製品実現の計画』の両計画活動の要件が混合して規定され、規格解釈に混乱を生んでいたとされる (27a) (22b)。この『品質計画』はISO8404(3.3)では、製品の品質目標を決める『製品計画』とマネジメント活動と製品実現活動の手はずを整える『管理計画及び実施計画』とを含むものとして定義されていたが、4.2.3項の規定はほぼ『製品実現の計画』が意図されたものとなっていた。
 
  これについて規格執筆者のひとりは、94年版(4.2.3)の『品質計画』には品質マネジメントシステム そのものに関する高位の計画活動と品質マネジメントシステムの低位の要素の詳細な計画の活動とが合わせて規定されていたが、00年版では前者の重要性を強調するために、本項(5.4.2項)が設けられたと説明している。
 
  しかし、00年版には『品質計画』の定義があるのに『品質マネジメントシステムの計画』の定義がなく、更に、ISO9004の同じ5.4.2項の標題が『品質計画』である。この記述の混乱は、本項の姿が確立したのが規格作成の最終段階であったことが原因であると考えられる。すなわち、DIS版までは本項標題は『品質計画』であり、その定義に沿った品質計画一般に関する要件が規定されおり、標題も要件も00年版のようになったのは最終段階のFDIS版であった。しかし、この記述の混乱が、00年版の『品質マネジメントシステムの計画』の理解を混乱させる原因となっていることは否めない。
 
  ところで『品質計画』の概念自体は、00年版も94年版と同じである。00年版では「品質目標を設定することと、それを満たすのに必要な事業プロセスと関連資源に焦点を合わせた品質マネジメントの一部」(131e)と定義されており、94年版の『品質計画』と同じく、業務の狙いの結果を決め、その達成のための手はずを整える活動を指す。規格で品質マネジメントに関連する狙いの業務結果をすべて『品質目標』と呼ぶのと同じく、その達成の手はずを整える活動は、その業務が何であれ、すべて『品質計画』と呼ぶのである。規格用語では『品質マネジメントシステムの計画』も『品質計画』である。
 
  すなわち、品質マネジメントシステムの品質目標とそれを展開した各プロセスの品質目標をどのように満たすか、そのために必要な手順を決め、資源を用意するという『品質計画』である。規格執筆者のひとりは製品実現の計画を「製品の品質計画」とはっきりと呼び(21k)、また、「品質マネジメントシステムを計画するには、基礎的な製品実現プロセスを特定し、十分に詳細に知っていなければならない」と、品質マネジメントシステムの計画が製品実現の業務の手はずを整えることを含むことを明確に述べている(21c)。
 
  一方で、品質マネジメントシステムの計画とは、トップマネジメントが「品質マネジメントの枠組みを確立する」こと(22c)であり、その結果が「品質目標を満たす組織のプロセスの基礎を形成」する(27a)と説明され、製品実現の計画はこれとは異なる概念であり(21c)、「製品実現プロセスの詳細な業務実行を計画すること」である(22b)と説明されている。すなわち、品質マネジメントの業務の体制や枠組みを組み立て、確立することであり、規格の表現では品質マネジメントシステムを確立することである。一方、規格の他の『品質計画』は、日々の実務において個々の特定の製品又は業務をどのように行うかを『品質マネジメントシステムの計画』で整えられた手順や資源を基礎として手はずを整えることである。
 
  00年版ではこの他に、製品実現の計画(7.1項)、設計及び開発の計画(7.3.1項)、製品及びサービス提供の計画(7.5.1項)、監視、測定、分析及び改善のプロセスの計画(8.1項)、内部監査の計画(8.2.2項)という品質計画の規定がある。これらの品質計画で満たすべき品質目標は、それぞれ、顧客に引渡す製品の品質目標、設計開発する製品の品質目標、各種管理業務の狙いの業務結果、内部監査で判断が期待される事項である。
 
 
2-3. 品質マネジメントシステムの有効性
(1) 品質マネジメントシステムの有用性
  品質マネジメントシステムの計画活動で整える手はずは、組織の業績目標たる品質目標を間違いなく達成できるものとなっていなければならない。つまり、定められた手順の通りに、また、用意された資源を定められた通りに使用して業務が行なわれれば、必ずその業務の狙いの結果たる品質目標が達成でき、それぞれの業務の総合結果として組織の品質目標が達成されることとならなければならない。このように計画した手はずが狙いの業務結果を出すことが確実であるという点で有効であるということは、規格では“valid”と表現される。
 
  “valid”は、有効であると考える根拠があるということであり、狙いの業務結果が確実に出ると考えてもよい根拠があるということであり$46、下記(2)の「有効性」と区別するためには「有用性」がよい。品質マネジメントシステムの計画活動の結果はどのような業務についても有用でなければならないが、規格では検査や試験で合否判定のできない製品の製品実現の業務の管理に関してのみこのことに言及している(7.5.2項)。
   
(2) 品質マネジメントシステムの有効性
  規格では『有効性』を「活動が計画された通りに行なわれ、狙いの結果が得られた程度」と定義している#4。この『有効性』は原文では“effectiveness”である$25。『品質マネジメントシステムの有効性』という場合は、品質マネジメントシステムという顧客満足追求に係わる経営管理体制の有効性であり、整えられた手はずに則って各業務が行なわれ、狙いの業務結果が確実に出され、その総合的結果として狙いの顧客満足が実際にどの程度達成できたかということを意味する。
 
  品質マネジメントシステムが実際に有効なものであるためには、品質マネジメントシステムが「有用」であり、かつ、整えられた手はずに則って狙いの結果が得られるように業務実行が管理されていなければならない。後者は規格では“be effectively implemented”であり、JIS和訳は『効果的に実施する』であるが、「効果的に履行する」が正しい。
 
   
3.規格要求事項の真意
  『計画』は英文では“planning”であり、日本語では「計画活動」であるが、英語では「手はずを整える活動」のことである$28。『品質マネジメントシステムの計画』は、必要な顧客満足の確実な実現を図る経営管理活動である『品質マネジメント』の実行の手はずを整える活動である。業務実行の手はずを整えるとは、業務の実行と管理の手順を確立し、それに必要な資源を用意することである。より具体的には、土地、建屋、設備を導入し、要員の手配や教育訓練を行い、業務の実行と管理の方法や基準を決め文書化し、組織構造を決め、情報と伝達経路を明確化することである。実務では経営論の経営計画に相当し、顧客満足追求の経営管理体制を構築、変更することである。規格では『品質マネジメントシステムの確立』でもある(4.1項)。
 
  規格では、品質方針(5.3項)として意図した組織の顧客満足は品質マネジメントシステムの各業務の実行により実現が図られる。『品質マネジメントシステムの計画』は、達成すべき顧客満足の状態や程度で表される組織の業績目標たる品質目標を関連する各業務の業務目標たる品質目標(5.4.1項)に展開し、それぞれの業務の実行の手はずを整えることを指す。
 
  組織の業績目標の品質目標が変更され又は新たに設定された場合は、これを達成する手はずを改めて整えなければならない。また、業績目標の達成に特定業務の品質目標が不十分であることが判明した場合、或いは、業務実行や結果に問題が生じた場合は、業務目標たる品質目標つまり狙いの業務結果を見直し、そのように業務実行の手はずを見直さなければならない。更に、プロジェクト型事業で新規受注があり、或いは、市場型事業で新製品を投入し、又は、組織が新技術を導入し、設備を更新、新設する場合も、組織の品質目標の変更の要否や有無によらず、新しい業務、新しい業務方法が必要となり、又は、業務実行の狙いを変更する必要が生じる。これらも『品質マネジメントシステムの計画』でもあるが、特に実体を明確にしたい場合は「計画された品質マネジメントシステムの変更」とも言われる。
 
  一般に年度方針など短期方針の品質方針に基づき設定される業績目標たる品質目標に対応する品質マネジメントシステムの計画の実体は「計画された品質マネジメントシステムの変更」である。また、特定の品質目標達成の手はずに未知の要素がある場合には、その手はずを整える『品質マネジメントシステムの計画』活動は試験や試行を含む日程計画的なものとなる。
 
  規格は、7.1項(製品実現の計画)、7.3.1項(設計及び開発の計画)、7.5.1項(製品及びサービス提供の計画)、8.1項(監視、測定、分析及び改善のプロセスの計画)、8.2.2項(内部監査の計画)で、それぞれの計画活動に固有の要件を規定している。しかし、これらの計画活動も品質マネジメントシステムの計画の一部であるから、それらの計画活動は本項の品質マネジメントシステムの計画に関する要件のa)、b)をも満たして行なわれなければならない。
 
(1) トップマネジメントは、次の事項を確実にしなければならない。
  組織は、品質マネジメントシステムの計画活動を行なう手はずを確立し、手はずに則って必要な場合に品質マネジメントシステムの計画活動を行わなければならない。計画活動で整えた手はずが品質方針に基づき必要な顧客満足の状態や程度、つまり、業績目標たる品質目標が確実に達成できるようなものであるためには、品質マネジメントシステムの計画活動はa)、b)項を満たして行われることが必要である。
 
   効果的な品質マネジメントシステムの計画活動であるためには、a)、b)項を満たして行われることが必要である。トップマネジメントは、このことを確実にするように品質マネジメントシステムの計画活動の実行を管理しなければならない。トップマネジメントによる管理は、管理責任者(5.5.2項)を介し、また、内部コミュニケーション(5.5.3項)や内部監査(8.2.2項)を活用したものが中心であるが、特に重要な品質マネジメントシステムの計画活動については、マネジメントレビューの対象として、より直接的に管理しなければならない(5.6.2 f)項)。
 
(2) 品質目標に加えて4.1に規定する要求事項を満たすために、品質マネジメントシステムの計画を策定する。[ a]項]
  JIS和訳『品質目標に加えて….』は00年版の『品質目標及び…..』から変更されたものであるが、いずれも英文の解釈を誤っている。また、『計画を策定する』も英文では「計画活動が実行される」である。正しい和訳は、「トップマネジメントは、品質マネジメントシステムの計画活動が品質目標だけでなく、4.1に規定される要求事項をも満たすように行なわれることを、確実にしなければならない」である$28-1。
 
  品質マネジメントシステムの計画活動によって構築され又は変更される業務実行の手はずは、狙いの業務結果が確実に出る、つまり、業務目標として品質目標が達成されること、及び、それらの総合的結果として業績目標たる品質目標が確実に達成できるようなものでなければならない。同時に、品質マネジメントシステムの計画活動では、狙いの業務結果が出ることを確実にするよう、手はずに則って業務が行われることを確実にする管理の手はずをも整えなければならない。業務も実行によって狙いの業務結果が確実に出るようにするためには、業務実行の手順と資源だけでなく、その業務実行を監視し、狙いの業務結果を常に確実に出すことのできるように問題を検出し、改善するための手順と資源が含まれていなければならない。この管理の手はずとは、4.1 a)〜f)項を満たす プロセスアプローチ/PDCAサイクルに則った管理の手はずを指す。
 
  しかし、ある業務の実行の手はず、例えば手順を、関係するPDCA/プロセスアプローチ サイクルの一連のすべての手順を含めてひとつの手順とし、又は、ひとつの手順書に記述することは必ずしも必要ではない。多くの場合は、実行の手はずが当該業務に固有であっても、実行管理の手はずは他の多くの業務と共通である。規格でもこの実態を念頭において、各条項でそれぞれの業務の実行上の要件を中心に規定し、8章でそれら業務に共通の実行管理の業務に関する要件を規定している。
 
 
(3) 品質マネジメントシステムの変更を計画し、実施する場合には、品質マネジメントシステムが"完全に整っている状態"に
維持する。
[ b)項]
    『完全に整っている状態』の原文は“integrity”であり、条文は「システムとしての一体性を維持する」という意味$30である。『計画し、実施する』は原文では“are planned and implement”であるから、「手はずを整え$28、手はずを履行する$4」である。条文は、「品質マネジメントシステムの変更の手はずが整えられ、その手はずに則って変更が実行される場合には、品質マネジメントシステムとしての一体性が維持される」である$30。すなわち、前半部分は、品質マネジメントの業務の手順や資源を変更することが決められ、それをどのように実施に移すかの手はずが整えられ、その手はずが実行に移される場合は、という意味であり、簡単には「品質マネジメントシステムの手はずを変更する場合は」である。後半部分の「品質マネジメントシステムとしての一体性」とは、変更される手順と資源が他の手順と資源との組み合わせにより業績目標の品質目標が達成されること、或いは、変更される狙いの業務結果たる品質目標が他の業務の品質目標と総合して狙いの業績目標たる品質目標を達成できるという意味での システムの一貫性のことを指す。
 
  条文の趣旨は、ある業務の手はずを変える場合には、それが他の業務の結果に及ぼす影響を検討し、必要な業績目標が確実に達成するように変更を管理しなければならないということである。また、変更が一定期間で徐々に行われるような場合には、手順や資源の変更の手はずがそれぞれの時期や段階で適切に、混乱なく実行されて、変更に伴う問題により狙いの顧客満足の実現に支障を生じることのないように、変更を管理しなければならないということである。
 
  製品実現のある工程のある設備を新式に更新する場合を例にとると、生産の新設備への切り替えは、新設備の使用方法、操業基準を確立し、手順書を改訂し、必要な教育訓練済みの要員を配置してから行なわなければならない。このことにより、同じ製品を得るために素材や前後の工程の操業条件を変える必要がある場合もあるから、こちらの手順や資源も変えなければならない。購入部品を変更する場合には、新旧切り替えに合わせた発注が必要である。更に、新旧切り替えの過渡期においては、後工程では、受取る半製品が新旧のどちらの設備を適用されたかによって、適用する操業条件を変える必要がある。旧設備用に前工程を終えた半製品在庫がなくなるまでは、旧設備は残さなければならない。これらのいずれかに不備がある状態が、品質マネジメントシステムの一体性に欠ける状態であり、狙いの顧客満足の実現に支障が生じる可能性がある。
 
  このような変更管理の最も簡単な態様は、文書の適用対象や有効期限或いは適用開始時期の明示、変更連絡文書の伝達や関係する定例会議での確認である。また、変更の複雑さや規模に応じて、特別な会議を設けての徹底や調整、変更のための特別チームの設立などの方式がとられる。齟齬があれば品質方針や品質目標の顧客満足に深刻な影響が及ぶ可能性のある、重要な或いは大規模な製品や設備、業務方法の変更を行なう場合は、日程計画の下に関係者の必要な取組みを調整し、統括する方式がとられる。更に、万全を期すために規格は、この品質マネジメントシステムの変更の管理をマネジメントレビューでの検討事項として取上げる必要を規定している(5.6.2 f)項)。
   
   a)項, b)項共に原文では、変更活動に関しては「〜される」と英文法の受動態で書かれ、トップマネジメントがそのことを「確実にする」と能動態で書かれている。この表現は、変更活動を行なうのはそれぞれの業務に責任を持つ管理者であり、これをトップマネジメントが管理するという本条項の趣旨を表すのに適切である。なお、00年版JIS和訳ではa)項のみが能動態表現で、08年版でb)項も能動態表現となったが、原文はどちらも受動態で不変である。
 
 
 
 
H23.10.20(改H26.3.5) 修(H23.3.30)
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 サニーヒルズ コンサルタント事務所