ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
25 5.5.2項  管理責任者 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-25
5.5.2 管理責任者
[第1文] トップマネジメントは、組織の管理層の中から管理責任者を任命しなければならない。
[第2節] 管理責任者は、与えられている他の責任とかかわりなく、次に示す責任及び権限をもたなければならない。
a) 品質マネジメントシステムに必要なプロセスの確立、実施及び維持を確実にする。
b) 品質マネジメントシステムの成果を含む実施状況及び改善の必要性の有無について、トップマネジメントに報告する
c) 組織全体にわたって、顧客要求事項に対する認識を高めることを確実にする。
 
 
1. 要旨

  本項では、トップマネジメントが品質マネジメントの代行者を指名すべきこと、及び、その代行者の責任権限が規定されている。
経営全般を担う多忙なトップマネジメントは、事業維持発展に必要な顧客満足を確実に実現するために、日常的な品質マネジメントを自身に代わって遂行する「品質マネジメント代行者」を指名しなければならない。「品質マネジメント代行者」は、品質マネジメントの日常業務が手はずの通りに実行され、所定の結果を出すように指揮、管理する。更に、狙いの顧客満足の実現を図るという観点から重要な事項や異常や問題をトップマネジメントに報告し、必要な処置についての判断や指示を仰ぐ。
 
 
2. 管理責任者
(1) 品質マネジメント代行者
  『管理責任者』の定義は規定されていない。これは原文では“management representative”であるが、この英語は一般経営用語には見当たらず、普遍的な固有名詞ではないと考えられる。従って、原文の意味$19-4に従って「マネジメント活動を代表する人」又は「マネジメント活動を代行する人」の意味に受けとめるのがよい。
 
  この『管理責任者』について規格作成者のひとりは(22d)、品質マネジメントシステムの履行を確実にすることに責任と権限をもつ者とし、もうひとりは(21d)、トップマネジメントが品質マネジメントシステムの状態や改善の必要を正しく把握するように管理者とトップマネジメントとを結びつける役割を持つ者と説明している。TC176商業本(20b)では、『管理責任者』は他の業務の実行責任を有するが、「品質マネジメントシステムが適切に機能することを確実にするのに必要な権限をもたなければならない」としている。品質マネジメントシステムの確立、実行、維持を確認する程度のISO9001適合のためだけに設定された象徴的役割として存在か、或いは マネジメントシステムの管理者という実務的存在かの2つの見方ができるとする英文解説(23c)もある。いずれの説明でも規格の『管理責任者』は、トップマネジメントに代わって品質マネジメントを行なうことに責任権限をもつ管理者を指す。この意味で「経営代行者」である。規格では『管理責任者』に品質マネジメントに関して外部の関係者との連絡役であることも想定している(本項 注記)ので、この場合は「経営代表者」の方が適当である。
 
  ISO9001の『管理責任者』は「品質マネジメント代行者」であり、ISO14001(135c)の『管理責任者』は「環境マネジメント代行者」と和訳するのがよい。JISマークの表示に関する基準(140)では、製造部門と独立した「品質管理責任者」を置き、品質管理の推進に当たらせることが規定されているが、その役割はJIS認証に係わる標準化、教育訓練、苦情処理などの企画、助言が中心である。従って、同じ『管理責任者』という日本語が使われているが、規格の「品質マネジメント代行者」とは役割も責任と権限も異質である。
 
(2) 必要性
  トップマネジメントの責任と権限は、経営用語で全般管理と言われる組織全体の経営管理(マネジメント)を担う。トップマネジメントの職務には、組織を方向づけ(5.3項)、監視し(8.2.2項)、実績を評価し(5.6項)、必要な方向転換や改善の必要を明確にすることと共に、日々の各業務の実行を組織全体の観点から指揮監督すること、とりわけ、業務間或いは部門間の関係を調整、管理することも含まれる。トップマネジメントの日常は基本的に多忙であり、日常の個別の問題に係わることのできる深さには限界がある。このためある程度以上の規模の組織では、組織の業績を左右する重要な問題については、特定の代行者を明確にして、日常業務の指揮監督の責任と権限を委ねることが多い。これら代行者に一元化された情報と代行者による問題分析の報告、提言に基づいて、トップマネジメントが組織の日常業務を効果的、効率的に統括することが可能となる。
 
   
3. 規格要求事項の真意
  『管理責任者』は原文では「経営代行者」の意味であり$19-4、ISO9001規格では品質マネジメント代行者のことである。また、JIS和訳の[第1文][第2文]は原文ではひとつの文章であり、原文の正確な和訳は「トップマネジメントは、他の責任が何であっても、a)〜c)項の責任と権限を持つ管理層の一員を指名しなければならない」である$19-5。この原文表現から規格の趣旨が、組織構造の中に『管理責任者』と呼ぶ特別な管理者を置くというのではないことが窺える。管理層の中で誰がa)〜c)項を果たすのかを決めておくということであり、このような管理者を『管理責任者』と呼ぶということである。
 
  この『管理責任者』となる管理者の選定について、94年版は『自己の組織内の管理者の中から』(4.1.2.2)、00年版は『管理層の中から』、08年版は『組織の管理層の中から』と変遷しているが、意味は同じであり単なる記述上の問題に過ぎない。
   
(1) トップマネジメントは、組織の管理層の中から管理責任者を任命しなければならない。 [第1文]
  原文では“appoint”であるから、『任命』より「指名」である$19-5。組織は、その組織構造の中で、トップマネジメントに代わって品質マネジメントのa)〜c)項の業務を行う管理者が誰であるかを明確にしておかなければならない。全社のあらゆる観点からの経営管理を司るトップマネジメントは多忙であり、必要な顧客満足を確実に実現させるには、品質マネジメントの日常的な業務の詳細な管理を『管理責任者』に委ねることが必要である。
 
  この『管理責任者』は、a)〜c)項に係わる職務能力(6.2.1項)を持っていることが必要であり、組織構造において、それら責任と権限を行使できる立場に位置づけられなければならない。『管理責任者』は実務的には、組織構造の中で品質マネジメントの最も主要な業務を担う部門の長、或いは、製品の顧客満足の実現や品質不良の防止に最終責任を負う部門の長であって、他の部門の長に対して権限を行使できる組織構造上の立場の者であることが必要である。
 
  規格の『管理責任者』の趣旨に合致するものとしては、大規模組織での品質担当執行役員や英米でのQuality Director(23c)、Quality managerなどがある。トップマネジメントの下にその業務を補佐する次席者がいる組織では、次席者の業務は一般に組織内の日々の業務の実行を トップマネジメントに代わって指揮監督することであるから、これも規格の「経営代行者」に相当する役割を担っていると考えられる。一般の機能別組織体制においては、例えば品質部門長は品質に関しては他部門の業務や部門間の業務を調整する責任と権限を有しているのが普通である。このような機能別組織体制では、トップマネジメントは各機能部門長によるこのような経営管理(マネジメント)の一部代行責任の上に立って組織全体の経営管理を統括している。これが規格の『管理責任者』の最も多い態様である。ひとつの組織で事業所が複数あり、遠隔地に散在しているような場合は、トップマネジメントがそれら事業所の日々の業務遂行を指揮監督することは困難であるから、事業所のトップを通じたマネジメントが行われることが普通である。この場合、「経営代行者」が事業所毎に指名されていることになる。
 
  一方、小規模組織ではトップマネジメントが組織の日常業務の隅々まで目を届かせることができる。このような場合は『管理責任者』の指名は実質的に不要ではあるが、規格はこのような例外に触れていない。TC176商業本(20b)では、このような組織ではトップマネジメントが『管理責任者』の役割を果たすとよいと説明している。
 
(2) 管理責任者は、与えられている他の責任とかかわりなく、次に示す責任及び権限をもたなければならない。  [第2文]
  「他の責任」とは『管理責任者』に指名された管理者が組織構造の管理層としての本来の責任及び権限のことである。この挿入句は『管理責任者』が組織の管理層の一員で、品質マネジメントの一定の責任権限を担っている管理者であることを明確にしている。
 
  『管理責任者』は、a)、c)項をトップマネジメントに代わって行ない、b)項のように実行結果をトップマネジメントに報告する。『管理責任者』は機能別組織の各部門長の業務実行の監視、監督、調整を通じてこの責任を果たす。
 
(3) 品質マネジメントシステムに必要なプロセスの確立、実施及び維持を確実にする。 [a)項]
  『必要なプロセスの確立、実施、維持』は、4.1項の『確立、文書化、実施、維持、継続的改善』や5.1項の『構築、実施、継続的改善』と表現が少しずつ異なるが、これは少なからず見られる規格内表現の不一致の例である。趣旨はみんな同じであり、品質マネジメントの業務の手はずを整え、手はずに則って効果的に行うことを指している。
 
  5.1項ではこれをトップマネジメントの責任とし、不退転の決意でやり抜くよう規定しており、本項ではトップマネジメントがその責任を果たすために、品質マネジメントの各業務の効果的実行の管理を『管理責任者』に委ねることが必要であるとしている。規格は5章の他の条項で必要な顧客満足の確実な実現のためにトップマネジメントが直接的に果たさなければならない責任権限を規定しているから、『管理責任者』に委ねる責任権限からは当然、これらは除外される。
 
  つまり『管理責任者』に委ねるのは品質マネジメントの日常的な業務実行の統括である。経営の最高責任者としてのトップマネジメントの行為や判断、決定の責任や権限が委ねられるものではない。『管理責任者』に委ねる業務は、規格が品質マネジメントの業務実行に関して『トップマネジメントは、〜しなければならない』『トップマネジメントは、〜を確実にしなければならない』とする業務ではなく、『組織は〜しなければならない』とする業務であると解釈するのが適当である。
 
(4) 品質マネジメントシステムの成果を含む実施状況及び改善の必要性の有無について、トップマネジメントに報告する [ b)項]
  『成果を含む実施状況』は“performance”であり、00年版では単に『実施状況』と和訳されていた。品質マネジメントシステムの“performance”とは品質マネジメントの業務実績の意味であり、この良し悪しという意味で用いられている$31。マネジメントレビュー に供される情報(5.6.2 c)項)である『プロセスの成果を含む実施状況』とは、表現が違うだけで実質的に同じ意味である。
 
  『管理責任者』は品質マネジメントの日常的な業務実行と結果の問題、その対応、その他収集した関連情報を時宜を得てトップマネジメントに報告し、必要な判断や決定、承認を仰がなければならない。すべての管理者の業務遂行責任には、上位者への実績の報告と共に、結果と問題を分析して問題解決や改善の方法を提案し、承認及び指示を仰ぐことが含まれる。『管理責任者』のトップマネジメントへの品質マネジメントの実績報告には、問題解決或いは現状改善の方法の提案が含まれなければならない。
 
(5) 組織内に顧客要求事項に対する意識を高める  [ c)項]
  これは表現が異なるが、『法令・規制要求事項・・・・顧客要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する』というトップマネジメントの責任(5.1 a)項)と同じことである。要員のこの認識と理解は顧客満足の向上を追求する品質マネジメントの実行には不可欠であり、トップマネジメントに代わって品質マネジメントの業務を指揮、管理する『管理責任者』も、この認識と理解の浸透に努めることが必要である。
 
 
 
H24.7.12
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サニーヒルズ コンサルタント事務所