ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
27 5.6.1項  マネジメント レビュー   一般 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-27
[第1節]
 [第1文] トップマネジメントは、組織の品質マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効であることを確実にするために、あらかじめ定められた間隔で品質マネジメントシステムをレビューしなければならない。
 [第2文] このレビューでは、品質マネジメントシステムの改善の機会の評価、並びに、品質方針及び品質目標を含む品質マネジメントシステムの変更の必要性の評価も行わなければならない。
[第2節] マネジメント レビューの結果の記録は、維持しなければならない(4.2.4Q照)。
 
 
1.要旨

  本項では、トップマネジメントが一定期間毎に品質マネジメントの実績と実態を体系的、総合的に評価し、問題を検出して、品質方針、目標(5.3項)の変更を含む必要な経営管理上の取組みを決めることの必要を規定している。
 
  トップマネジメントは、品質マネジメントのサイクルに合わせて、狙いの顧客満足の実現の程度と生じた問題、及び、その原因を体系的に総合的に見直し、検討しなければならない。その上で変化する事業環境と合わせて、事業の継続的な維持発展のために次の品質マネジメントのサイクル以降で取組むべき課題を抽出し、必要により品質方針、目標(5.3項)を変更しなければならない。
   
 組織は品質マネジメントシステムの計画 (5.4.2項)の一環として、実績の評価と問題の抽出(5.6.2項)、及び、必要な問題対応の方向づけ及び処置の決定(5.6.3項)を含む品質マネジメントのマネジメントレビューの手はずを整え、手はずに則ってマネジメントレビューを行わなければならない。
 
 
2. 背景 及び 関連事項
2-1. 経営管理の枠組み
(1) マネジメント サイクル
 経営管理(マネジメント)は、組織の存立の目的に沿って事業を維持発展させる活動である。経営論では「組織の有する能力(資源)を状況のニーズに適応させながら組織目的を達成していく活動」と、方法論を含めて定義される(45a)。規格では「組織を方向づけ制御する統制された活動」であり#19、事業の維持発展の管理活動であることに焦点を当てた定義となっている。
 
  基礎的な経営論では経営管理活動は、組織のあるべき姿とそこに到達するための道筋或いは方策を明確にし、その実現を図るべく組織の業務を方向づけ、実行を管理する活動である。無限持続体としての組織の経営管理活動は継続的に業績の向上を図る、plan‐do‐seeの繰り返しの循環的活動と見做される。このマネジメント サイクルは、計画‐リード‐統合のサイクルであると整理されるが、この統合と次のサイクルの計画との間にはそのサイクルの経営管理活動の成果としての目的達成度の評価と次のサイクルへの反映という経営の意思決定が含まれる。規格ではこのマネジメント サイクルを、プロセスアプローチ/PDCAサイクルの計画/P‐履行/D‐管理/C‐継続的改善/Aの形で表現している。
 
   すなわち、経営論では、組織のあるべき姿とそこに到達するための道筋或いは方策は経営戦略と呼ばれ、これは組織が置かれた環境と組織の有している能力を勘案して、実現の可能性と実現により得られる利益や効用の大きさとが釣り合う最適解として決められ、経営方針、経営目標として明確にされる。この経営方針、経営目標の一部としてのどのような顧客満足の姿、状態や程度を目指し、実現を図るのかを示す方針、目標が規格の品質方針(5.3項)、品質目標(5.4.1項)である。
 
   この戦略の実現を図るよう業務実行の手順を決め資源を用意して経営管理体制を確立することを、戦略の決定と合わせて、経営管理を計画すると表現される。規格ではこれは、品質目標を達成できるように関連する業務の手はずを整えるという意味での品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)と呼ばれる。
 
   管理者の担う日常的管理業務は、各業務が計画に則って行われ、計画で定められた通りの業務結果が出るよう管理することである。これは、経営論ではリード・統合(45a)、或いは、執行(指揮)・統制(54)である。規格では、製品実現の管理(7章)である。
経営管理活動の成果は、つまり、組織の業績は、経営方針、目標の達成度として評価され、評価の結果は変化する事業環境と組織の能力の評価に基づく戦略や経営計画の必要な見直しに反映される。規格では品質方針、目標の達成度の評価は、顧客満足の監視測定(8.2.1項)及びデータ分析(8.4 a)項)として、それに基づく戦略と経営計画の見直しは マネジメントレビュー(5.6項)として規定されている。
 
(2) 経営戦略の見直しと変更
  組織を取り巻く外部環境に組織の有する潜在能力を適応させながら組織を無限持続体として存続発展させるという今日の経営論の経営管理活動では、外部環境の変化を適宜、適切に把握してこれに組織の業務の方法と能力を適応させ、必要により経営戦略の見直し、変更を行うことが必要である。経営論では経営戦略の見直し変更は、マネジメントサイクルの統合と次のサイクルの計画との間で行われる目的達成度の評価と次のサイクルの計画に関する経営の意思決定のことを指す。
 
  無限持続体として組織が継続して存続発展できるかどうかは、時代により変化する外部環境に合わせて如何に時宜を得て適切に経営戦略を変更できるかどうか、そして、決めた経営戦略を如何に忠実に遂行できるかどうかにかかっている。実務的にはこのような経営戦略の見直し変更には、新事業への進出など経営戦略の大きな変更と、一般に年度単位で行われる業績評価と次年度の業績見通しの検討に基づく次年度の経営実行方針、目標の決定の形で行われるものとがある。
 
  規格では組織が顧客満足追求の観点から無限持続体として存続発展するための要件を『組織の品質マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効であることを確実にする』ことと表現し、このための経営戦略たる品質方針、目標の見直し変更を含む問題抽出と対応経営施策の決定を行うマネジメントレビューの活動を規定している(5.6項)。
 
 
2-2. マネジメント レビュー
(1) 経営管理の実績評価
  『マネジメント レビュー』は原文では“management review”である。JISは94年版ではこれを『マネジメント レビュー(経営者による見直し)』と和訳していたが(4.1.3)が、00年版で『マネジメント レビュー』となった。JISQ14001では、96年版が『経営層による見直し』、04年版では『マネジメント レビュー』である(135d)。
 
  “management review”は、一般経営用語としては見当たらない。“management”は「経営管理活動(マネジメント)」を指し$19、“review”は過去を振り返って「見直す」ことであり$22、英文法の群名詞の用法(107-c)により、これは「過去の経営管理(マネジメント)活動の見直し」という意味である。また、“review”には「一定期間の行事として総合調査」の意味がある。英語の“management review”は、一定期間の経営管理(マネジメント)を振り返り、実績を体系的、総合的に見直して、評価、検討する活動のことであり$22-1、経営管理(マネジメント)の定期業績総合評価の意味である。
 
  94年版の『マネジメント レビュー(経営者による見直し)』は、品質方針及び目標の達成との関連で品質マネジメントの業務実績と問題点を、トップマネジメントが公式に評価することであると定義されていた#19-2。00年版では定義が規定されておらず、本項条文で『あらかじめ定められた間隔で品質マネジメントシステムをレビューする』ことと規定し、指針規格(131f)は『品質マネジメントシステムをレビューする』ことであり、『品質マネジメントシステムの適切性、妥当性、有効性及び効率に対する定期的な体系的評価を実施する』ことだと説明している。
 
 
(2) 品質方針の見直しと変更
  規格の品質マネジメントの論理(131a) では、顧客満足の製品の一貫した提供により事業の継続的発展を目指す組織は「顧客の必要と期待は変化し、市場競争があり、技術は進歩するから、製品と業務を改善し続けなければならない」とされる。トップマネジメントは、これを確実にするよう、常に状況に合った適切な顧客満足の在り方を決め、組織の品質マネジメントの業務を方向づけ、狙いの顧客満足を確実に実現させなければならない。品質マネジメントの戦略たる狙いの顧客満足は、その実現によって事業の必要な発展を図ることができるという観点から適切でなければならず、品質マネジメントの業務の手はず、すなわち、品質マネジメントシステムとそれに則った業務実行はこの狙いの顧客満足を実現させるという観点から適切でなければならない。
 
  狙いの顧客満足とその実現のための業務の在り方を方向づける基礎となるのが、実現している顧客満足の状態と組織の業務能力の実体、及び、変化しつつある事業環境についてのトップマネジメントの認識である。このためにトップマネジメントは定期的に品質マネジメントの業績の評価を行い、それまでの品質マネジメントの業績と業務実行で生じた問題を分析し、また、顧客のニーズや期待、市場と競合他組織の動向など事業環境の変化を分析することが必要である。規格では、トップマネジメントのこの活動をマネジメント レビューと呼んでいる。これに関連して規格執筆者のひとり(22e)は、マネジメントレビューを組織が事業環境の変化に対応し、その品質マネジメントシステム、品質方針及び目標の必要な変更を行なう原動力であると説明している。
 
   定期的、一般には期末に行うマネジメントレビューによって、トップマネジメントは組織の業務能力の実体と変化する外部環境を正しく把握し、経営戦略たる狙いの顧客満足、すなわち、品質方針や組織の品質目標を見直し、必要により変更し、以降の顧客満足の在り方を見据えて取り組むべき課題を抽出し、課題解決に必要な経営上の施策を決定する。
 
  規格では、品質方針や組織の品質目標を見直し変更の評価のために吟味すべき組織の業務能力の現状と変化する外部環境に関する情報がマネジメントレビューへのインプット(5.6.2項)であり、経営施策としての処置はマネジメントレビューからのアウトプット(5.6.3項)であり、処置の実行の手はずを整えることは品質マネジメントシステムの変更(5.4.1項)である。
 
   
(3) マネジメントレビューの特質
① 品質マネジメントの業績管理
  品質マネジメントは組織の存続発展に必要な顧客満足を追求する経営管理活動であり、実現が必要な顧客満足の状態や程度を明確にし、そのための業務の手はずを整え、日常業務管理としてそれら業務の実行を管理し、狙いの顧客満足の実現を図る。特定期間の狙いの顧客満足はその間の品質マネジメントの業績目標であり、その期間の最後に行うマネジメントレビューは狙いの顧客満足が実現したかどうかの、つまり、業績目標が達成したかどうかの業績評価である。
 
  規格では品質マネジメントの業績目標は品質方針と組織の品質目標(5.3項)に表され、その達成を図るのに必要な業務の手はずを整え(5.4.2項)、管理すべき狙いの業務結果を業務目標としての品質目標として明確にし(5.4.1項)、この各業務の実行を日常的に管理し(8.2項)、問題があれば再発防止対策などの処置 (8.3、8.5項)をとって正し、各業務の決められた通りの実行による業務目標の確実な達成によって業績目標の達成を図る。業績目標の達成の評価の方法論として規格は、顧客満足に関する情報の監視(8.2.1項)と、そのデータ分析 (8.4 a)項)を挙げている。
 
  マネジメントレビューはこの業績管理の核となる活動であり、業績目標が達成されたかどうかを評価、判断して、業績管理上の問題を抽出し、次の期間の業績目標と対応処置を決める活動である。この評価と判断には、関連業務の実行にどのような問題があり、どのように対処してきたか、さらに、顧客満足の追求に係わる外部環境にどのような変化し、変化する可能性があるのかの認識と判断が関係する。規格では業績評価の基準となる事柄が、マネジメントレビューへのインプット(5.6.2項)の各事項であり、判断と対応処置がマネジメントレビューからのアウトプット(5.6.3項)の各事項である。
 
② 品質マネジメントシステムの継続的改善
  規格の品質マネジメントでは、トップマネジメントは、事業の維持発展に必要な顧客満足の在り方を決め、これを品質方針、組織の品質目標(5.3項)として明確にする。トップマネジメントは、組織内ではその実現のための個々の業務結果の狙いが品質目標として定められ(5.4.1項)、その達成の手はずが整えられ(5.4.2項)、そしてその通りに業務が行なわれるよう、指揮、統率する。更に、トップマネジメント はマネジメントレビューを行って、品質方針、目標の達成を評価し、問題に対する処置を決め、必要により品質方針、目標を見直し変更する。
 
  マネジメントレビューは品質マネジメントのPDCA/プロセスアプローチ サイクルのC/管理、A/継続的改善に相当し、マネジメントレビューの結論次のサイクルのP/計画に反映される。このような品質マネジメントのサイクルの繰り返しによって、組織の維持発展に必要な顧客満足を正しく決め、それを確実に実現するという品質マネジメントの業務能力を継続的に改善していくことが出来る。規格は、このことを品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善(8.5.1項)と呼んでいる。ここに、規格では品質マネジメントの目的達成能力である業務能力を、品質マネジメントの一連の業務とそれらの実行の手ずの目的達成に対する有効性と捉えている。マネジメントレビューは、規格の意図の継続的改善を推進し方向づける司令塔である。
 
③ 非日常的活動
  マネジメントレビューは、単なる過去のマネジメント活動の見直しではなく、品質マネジメントのサイクルの締めくくりの時期に、従って、一定期間毎に行なわれ、トップマネジメントがその間の品質マネジメントの業務の全体としての実績を振り返り、総合的で体系的に評価するという、非日常の活動である。
 
  品質マネジメントの業務実行には日々に問題が生じ、状況が変化するから、トップマネジメントは日常的にも判断や決定を行い、指示を出している。この中には品質マネジメントに大きな影響を与える重要な決定もある。しかし、品質マネジメントを真に効果的に行なうためにはトップマネジメントは、一定期間毎にこのような日常から離れて、これまでの判断や決定が正しかったかどうかを含めて改めて、品質マネジメントの実行と結果が所期の狙いの通りとなっているかどうか、問題対応が適切に行なわれているかどうかを、改めて体系的、総合的に検討する機会を持つことが必要である。
 
  この非日常性と実績の総合評価という特質に関連して、ISO/TC176商業本(20c)は、マネジメントレビューを「トップマネジメントが日常に起きる個別の問題はその都度解決しながら、一定期間毎にそれら個々の問題から離れて、過去を顧みて全体的にぐるりと見渡す」ことであると説明している。また、94年版の「トップマネジメントによる公式の評価」という定義#19-2の「公式」には、マネジメントレビューが非日常の改まった機会や場で行なわれるという意味がこめられている。
 
 
3.規格要求事項の真意
  『マネジメントレビュー』は原文では“management review”であり、経営管理(マネジメント)活動を見直すという意味である。規格の意図では、経営管理(マネジメント)のサイクルの締めくくりの品質マネジメントの業績評価の活動$22-1である。これにより トップマネジメントは、実現した顧客満足の状態と組織の業務能力の実体、及び、変化しつつある事業環境について把握し、以降の顧客満足の在り方と取組むべき課題を抽出し、必要な処置を決め、品質マネジメントを方向づける。
 
  組織は、品質マネジメントシステムの計画 (5.4.2項)の一環として品質マネジメントのマネジメントレビューの手はずを、次の(1)~(3)を満たすように整え、手はずに則ってマネジメントレビューを効果的に行わなければならない。
 
(1) トップマネジメントは、組織の品質マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効であることを確実にするために、あらかじめ定められた間隔で品質マネジメントシステムをレビューしなければならない。 [第1節 第1文]
➀ あらかじめ定められた間隔で品質マネジメントシステムをレビューしなければならない [後半]
  『レビューする』は“review”であり、見直し、再考の意味である#22。規格は『レビュー』を『設定された目標を達成するための検討対象の適切性、妥当性、及び有効性を判定するために行われる活動』と定義している。この『適切性、妥当性、有効性』は原文では“suitability, adequacy, effectiveness”である。“suitability”は目的にあっているかどうかであり、ふさわしいとか適当とかに関し$22、“adequacy”は十分であるとか不足がないとかの意味である$23。“effectiveness”は意図した通りの結果が得られるかどうかであり$25、規格では「活動が計画通りに実行されて、計画通りの結果が得られた程度」と定義される#4。すなわち、規格の『レビュー』とは「検討対象が定められた目標の達成に適当か、十分か、効果的かを決めるために行なわれる活動」である#23。
 
  トップマネジメントは、一定の間隔で品質マネジメントの実績とその結果である現状を評価、検討し、事業維持発展に必要な顧客満足の実現という観点から「適当か、十分か、効果的か」を判断しなければならない。
 
  マネジメント レビュー は『あらかじめ定められた間隔』で行なわなければならない。これは、品質マネジメントをプロセスアプローチ/PDCAサイクルに則って行なうことを意味している。品質マネジメントは、組織全体の経営管理(マネジメント)の一環であるから、そのサイクルに合わせて行ない、マネジメント レビュー によってサイクルは締めくくられる。このサイクルは一般には事業年度に一致したものとなっているから、マネジメント レビュー は1年毎にその期末に行われる。しかし、変化の激しい業界や事業、或いは時期においてなど、PDCAサイクル の期間をより短くしなければならない状況があり得るかもしれない。この間隔について、94年版(4.1.3)では『~を確実にするのに十分な、あらかじめ定められた間隔で、~をレビューしなければならない』と説明されていた。00年版でもこの趣旨は変わっていない。しかし、間隔がどのような長さであれ、見直しは総合的で体系的でなければならず(5.6.2項)、以降の品質マネジメントを方向づけるものでなければならない(5.6.3項)。狙いの顧客満足の確実な実現を図るため、事業年度の途中、例えば半期、四半期の末に中間的な見直しを行うことがよくある。この場合の見直しでは、評価を重要問題に限定することもあり得る。
 
② 組織の品質マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効であることを確実にする [前半]
  『適切性、妥当性、有効性』は、上記①の『レビュー』の観点の『適切性、妥当性、有効性』と同じであり、原文の意味も同様に「適当か、十分か、効果的か」である。また、『確実にする』は原文では、副詞的用法の不定詞“to ensure”であり、これは動詞“review”の結果を表す不定詞として「~をして~を確実にする」と解するのが規格の趣旨に適う。すなわち、①②を合わせた条文は「あらかじめ定められた間隔で、品質マネジメントシステムをレビューし、品質マネジメントシステムが、引き続き、適当で、十分で、効果的であることを確実にしなければならない」である$22-2。
 
  この『レビューする』を上記➀の定義の文言で置き換えると、➀②を合わせた条文(第1文)の意図がより明確になる。すなわち、トップマネジメントは期末には、品質マネジメントの実績とその結果である現状を体系的に評価、検討し、事業維持発展に必要な顧客満足の実現という観点から適当か、十分か、効果的かを総合的に判断して、品質マネジメントの業務実行の手はずが、以降も引き続き、適当で、十分で、効果的であることを確実にするように必要な処置をとらなければならない。規格は、体系的評価のための要件を5.6.2項、判断に関する要件を5.6.3項に、それぞれ規定している。品質マネジメントシステムが『適切、妥当かつ有効』であったため、必要な顧客満足が実現し、相応の売上や取引額が計上できても、顧客のニーズと期待の変化をはじめ事業環境は変化し、組織の状態も変化するから、事業の継続的な発展を図るには、この変化に対応して顧客満足の狙いや品質マネジメントの業務の手はずを変えていかなければならない。すなわち、継続組織としての組織は、品質マネジメントの業務の手はずを『引き続き、適切、妥当かつ有効であることを確実にする』ことが必要である。
 
  品質マネジメントは、不良品を出さず、顧客のニーズと期待に適う製品を提供することで実現する顧客満足を追求する経営管理(マネジメント)の活動であり、このために相互に連携して実行される一連の業務、ないしは、整えられた業務実行の手はずが品質マネジメントシステムである。この品質マネジメントの業務実行の手はずが、組織の事業維持発展に必要な顧客満足を確実に実現するという観点で「適当で、十分で、効果的」でなければ、顧客満足の必要な在り方を正しく決めることができず、狙いの顧客満足が正しく決められたとしてもそれを確実に実現できるといことにはならない。従って、品質マネジメントに基礎を置く事業の維持発展は覚束ない。
 
  規格は、顧客満足の追求を通じて事業の維持発展を図る効果的な品質マネジメントの在り方を規定している。組織が規格の規定するすべての要件を満たして品質マネジメントを行なえば、変化する事業環境の中を一貫して顧客満足の製品を提供して、競合組織に伍して成長し発展していくことができる。品質マネジメントの一連の業務や手はずが「適当で、十分で、効果的」であるとは、このような状態を実現できることを意味する。すなわち、品質マネジメントシステムが「適当で、十分で、効果的」であるかどうかは、品質マネジメントが規格要求事項を満たして行なわれているかどうかであり、品質マネジメントシステムが規格の要件を満たして『確立、文書化、実施、維持、その有効性が継続的に改善』(4.1項)される状態にあるかどうかである。これは、品質マネジメントシステムが『…、この規格の要求事項に適合しているか、…』『効果的に実施され、維持されているか』(8.2.2 a),b)項)とも表現される。
 
  この意味では、「適当」は必要な業務が取り上げられているかどうか、「十分」はそれらの規格要求事項が満たされているかどうか、「効果的」は必要な結果がでるように業務が手はずに則って行なわれているか、であると理解することもできる。「適当、十分、効果的」でなくなった品質マネジメントの業務実行の手はずを変えて、「引き続き、適当、十分、効果的」なものとすることは、『品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善』である。
 
(2) このレビューでは、品質マネジメントシステムの改善の機会の評価、並びに、品質方針及び品質目標を含む品質マネジメント システムの変更の必要性の評価も行わなければならない。 [第1節 第2文]
  『改善の機会』の英文は“opportunities for improvement”であり、「改善の余地」である。『マネジメント レビュー』は、品質マネジメントの業務実行の手はずが「適当で、十分で、効果的」であるかどうかを評価することである。これは、何か問題がないか、どこにどんな問題があるのか、どのように改善しなければならないかを検討することであり、「改善の余地の評価」はこのような問題を抽出する活動を意味する。『マネジメント レビュー』ではさらに、抽出した問題に基づき、以降も「引き続き、適当で、十分で、効果的」であるようにするために、品質マネジメントの業務実行の手はずのどれを、どのように変えなければならないかを判断する。この問題対応の方法を決めることが、「品質マネジメントシステムの変更の必要性の評価」である。
 
  すなわち、トップマネジメントは、「適当で、十分で、効果的」の観点で問題を抽出し、問題対応の方法を決めるようにマネジメント レビュー を行なわなければならない。また、原文表記では「このレビューは、品質方針及び品質目標を含む品質マネジメントシステムの改善の余地、並びに、変更の必要性を評価することを含まなければならない」である。品質方針(5.3項)と品質目標(5.4.1項)は品質マネジメントの方向と到達点を示すものであり、品質マネジメントの業務実行の一連の手はずのひとつである。品質マネジメントの業務実行の手はずについて問題を抽出する時も、問題対応の方法を決める場合も、品質方針や品質目標が「適当、十分、効果的」であるかの検討と判断を忘れてはならない。『マネジメントレビュー』の結論としての問題対応の方法に関する判断と決定(5.6.3項)が、品質方針や品質目標の変更を必要とするような性格や規模、期限のものであれば、それらに係わる品質方針、品質目標を、追加、又は、変更しなければならない。
 
(3) マネジメント レビューの結果の記録は、維持しなければならない。 [第2節]
  英原文では“records from management reviews”であるから「マネジメントレビューの記録」である。マネジメント レビュー の記録には、結果や結論(5.6.3項)だけに限らず、報告され議論に供された情報やデータ(5.6.2項)も含まなければならない。
 
  マネジメントレビューの評価や検討は、その時点での顧客満足の状態と品質マネジメントの実績や組織の業務能力を表すものであり、結論は組織の問題認識と組織がとった問題対応処置を表す。品質マネジメントのサイクルに則って実行される『マネジメントレビュー』の評価や検討、結論は、組織の顧客満足追求の経過を表し、組織の成し遂げた問題改善と進歩の跡を表す。今日の顧客満足の状態も品質マネジメントの業務実行の手はずも、これらの上に乗ったものであり、これらを無視しては適切なマネジメントレビューの議論や判断にならない。マネジメントレビューの記録は、トップマネジメントが品質マネジメント上の決定、とりわけ戦略的な決定を行う場合に使用できるよう、長期間の保管が必要である。
 
  マネジメントレビューの記録には組織の品質マネジメントの現状とそれに関するトップマネジメントの意思が表されており、情報伝達の手段として関係者の閲覧に供されることが大切である。また、マネジメントレビューの議事録は通常、トップマネジメントの決定や指示の実行を管理する手段としても利用される。
 
 
4.品質マネジメントのマネジメントレビューの実務
  事業組織の経営(マネジメント)活動は最終的には貨幣的に認識、測定される(71e)。これが会計であり、一般に収入、支出を1年間に区切って算出し、損益を確定させる。会計の管理のために、年度初めに予算編成を行ない、年度末には決算を行なって、項目毎及び全体に関して、予算に実績を対比させ、差異の原因を分析する。合わせて、組織を取巻く情勢の変化と合わせて次年度の予測と課題を決める。
 
  会計の管理にはそれに影響を及ぼす組織の業務の管理が必要であるから、多くの組織では組織の業務実行を売上、品質、原価など重要な経営要素に関する経営管理(マネジメント)活動を行なっている。この活動は一般に会計年度に合わせた期間を単位とし、会計管理と同様、年度初めには予算編成に相当する目標や計画の策定を行ない、年度末には決算に相当する実績評価を行ない、次年度の目標や計画を方向づける。規格の「マネジメントレビュー」は、顧客満足追求の経営管理活動についての年度末の決算に相当する活動である。
 
  例えば、多くの組織では品質管理を対象とする経営管理(マネジメント)が、また、製造業では労働安全衛生に関する経営管理(マネジメント)が、組織の全体的な経営管理(マネジメント)と別立てになっている。この場合、一般に毎月の定例会議で関係部門からの各月の実績と問題点の検討が行なわれ、問題対応の議論が行なわれ、トップマネジメントの判断が示され、処置の決定が行なわれる。年度末の会議では、当該年度全体の実績と問題、実施した対応処置などを分析し、総合的な実績評価と課題抽出が行なわれ、次年度の課題取り組みが議論される。このような特定経営要素の年度末会議の検討や議論が、規格のマネジメントレビューの趣旨である。
 
  組織で普通に行なわれているこの期末業績評価に倣うと、トップマネジメントは品質マネジメントに関係して評価検討が必要な事項を予め定めておき、これに関して部門長などの業務管理の責任者からの報告と提案を受け、これを吟味して、自らの判断や意見を表明しながら全体を総合的に評価、判断して決定を下す。マネジメントレビューは、関係者を集めた開かれた情報交換と議論の場とすることが一般的であり、トップマネジメントの意思を組織内に伝える機会として、組織内の意志統一を促進する機会として、また、トップマネジメントの顧客重視の コミットメント(5.1項)を発現する機会として活用される(25a)。
 
 
 
H24.11.7(修 H26.10.31 修12.18)
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