ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
28 5.6.2項  マネジメント レビューへのインプット 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-28
組織は、マネジメント レビューヘのインプット には次の情報を含めなければならない。
a) 品質マ監査の結果
b) 顧客からのフィードバック
c) プロセスの成果を含む実施状況及び製品の適合性
d) 予防処置及び是正処置の状況
e) 前回までのマネジメント レビューの結果に対するフォローアップ
f) 品質マネジメントシステムに影響を及ぼす可能性のある変更
g) 改善のための提案
 
 
1.要旨

  本項は、効果的なマネジメント レビュー であるために評価することが必要な事項を規定している。トップマネジメントが評価することが必要な、品質マネジメントの実績と実体及び狙いの顧客満足に関連する外部環境の変化に係わる事項を規定している。
マネジメント レビュー によって事業が継続して存続発展するため取組むべき経営課題を抽出し、必要な経営施策を正しく決めるためには、品質マネジメントの業務の実績とその結果から判断される業務能力の実体、及び、変化する事業環境を表す少なくともa)〜g)に関して評価、検討を行なわなければならない。
 
 
2. 背景及び関連事項
(1) プロセスとしてのマネジメントレビュー
  規格ではマネジメント レビュー も品質マネジメントシステムに必要なプロセス(業務)のひとつである(4.1 a)項)。『プロセス』とは、資源を投入してインプット (入力)をアウトプット (出力)に変換する活動と定義されている#1。マネジメント レビュー は、トップマネジメントの英知という資源を投入して、マネジメント レビューへのインプット (本項)を マネジメントレビューからのアウトプット (5.6.3項)に変換する活動である。このインプット は実務的には、トップマネジメントが評価すべき事項を意味し、アウトプット は評価検討の結果の結論のことである。
 
(2) マネジメントレビューで評価する事項
  経営論では、組織を無限持続体として存続発展させる活動である経営管理活動では、外部環境の変化を適宜、適切に把握してこれに対応する経営施策を決め、必要により経営戦略の見直し、変更を行うことが必要であるとされる。これは、トップマネジメントの認識における外部環境に組織の業務能力を適合させることとも表現される。
 
  マネジメントレビューでは、狙いの顧客満足の実現の程度という業務実績とそれに伴う業務で生じた問題、及び、その原因を体系的に総合的に見直し検討し、変化する顧客満足に係わる外部環境の情報と合わせて評価し、品質マネジメントの業績管理上の問題と取り組みが必要な経営施策を決めなければならない。つまり、評価に必要な情報は、@達成した顧客満足の状態や程度、A品質マネジメントの業務の実績と狙いの結果を出す能力、B顧客満足の追求の関連する事業環境の変化のそれぞれに関する3種に大別できる。
 
  ここに、前者の@は狙いの顧客満足が達成されたかどうかの情報であり、規格では品質方針、目標(5.3項)の達成状況の情報である。しかし規格の顧客満足とは、不良品を出さないことを含み、顧客に製品及びサービスを買ってもらう又は取引を続けてもらうために顧客に抱いてもらう必要がある組織と製品及びサービスに対する好感、満足感、安心感、信頼感の状態や程度のことである。規格でも「顧客のニーズと期待が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」と定義#17されているように、顧客の認識や印象、感覚に関する問題であるから、これを直接的に評価できる指標は存在しない。
 
  規格では、顧客満足の達成状況は、このために取り組んだ経営施策(5.6.3項)としての業務の狙いの結果である業務目標の意味の品質目標(5.4.1項)の達成状況の情報とこの他の組織及び製品に対する顧客の受け止めに関する種々の情報(8.2.1項)とをデータ分析(8.4 a)項)して総合的に評価、判断する。例えば、業界一の高品質を経営戦略たる品質方針、目標とした場合には、苦情受付件数や組織内出荷試験の性能特性水準、顧客からの供給者別使用成績の順位など業務目標の達成状況、及び、顧客の口頭賛辞、要望などの情報から判断する。
 
  次のAの品質マネジメントの実績と能力の情報は、日常業務管理の結果と問題点と対応結果の情報である。規格では、プロセスと製品の監視測定 (8.2.2〜8.2.4項)から得られる情報、及び、問題にどのように対応したかの情報(8.3, 8.5項)が中心である。情報は生の事実の羅列ではなく、データ分析(8.4項)によって問題の本質が明らかにされ、問題解決の方案が含まれたものでなければならない。
 
  最後のBは、変化している、又は、変化が予想される顧客のニーズと期待と、それに関係する事業環境上の動向の情報であり、規格では顧客満足に関する情報(8.2.1項)がその中心である。実務的には、次のような観点での事業環境の変化を注視することが大切である。
 
@ 現状製品に対する顧客の受けとめ方
A 製品のニーズや期待に関係する顧客の動向
B 競合組織や市場、社会の動向
C 製品に関連する技術開発の動向
D 製品や製品実現業務に関係する法規制、規格化の動向
 
  指針規格(132d)では、品質マネジメントシステム の有効性と効率性を評価するための情報として、顧客や他の利害関係者に関する情報を挙げた上で、その他に考慮するべき情報を列記している。これをとりまとめると、次のようになる。
 
@ 品質マネジメント の実績の情報として、品質目標と改善活動、不適合の管理、供給者の実績、
A 品質マネジメントの実態の情報として、内部監査、顧客満足に関する情報、
B 関連する事業環境の変化の情報として、市場、技術、競合組織、法規制の情報、
C 関係する他のマネジメントの情報として、収益への影響、市場戦略、社会問題、環境問題の情報
D 効果的なマネジメントレビュー のための情報として、過去のマネジメントレビュー の決定の現状、改善の余地に関する情報
 
  マネジメントレビュー に供する情報は、予め計画して、日常業務として収集するようにしておかなければならない。また、情報は個別情報、個別データではなく、それらを分析評価した結果(8.4項)であり、事象の本質や問題対応の方向を明らかにした情報であることが大切である。マネジメント レビュー に基づかないでトップマネジメントが経営上の決定をし、処置が直ちに実行されることはあり得るが、これについても関連する他の情報と合わせて見直し、評価されなければならない。
 
 
3. 規格要求事項の真意
(1) マネジメント レビュー ヘの インプット には次の情報を含めなければならない。
  トップマネジメントが、品質マネジメントの業務実行の手はずが引続き、事業の維持発展に必要な顧客満足を実現するのに「適当、十分、効果的」であるかどうかを評価し、経営課題を抽出し、品質方針、品質目標を含み必要な変更を判断できるには、少なくとも次のa)〜g)の情報を評価しなければならない。情報は、品質マネジメントの実績とその結果の現状に関するものであり、変化しつつある顧客の必要と期待など事業環境上の動向を含む。
 
(2) 監査の結果 [ a)項]
  内部監査(8.2.2項)の結果の報告書は、品質マネジメントの業務の実行状況に関する客観的、体系的な情報である。内部監査では、内部監査員がトップマネジメントに代わって、組織内で品質マネジメントの業務が狙いの顧客満足の実現に向けて、決められた手はずに則って実行され、所定の結果が出ているかどうかを調査する。規格では、この結果をトップマネジメントに報告する機会として、マネジメント レビューでのトップマネジメントの評価に内部監査の結果の情報を供すべきことを規定している。この情報は、個別の監査報告書の情報ではなく、この元となる監査プロブラム の監査の狙い、すなわち、『監査の目的』に対する適合性の観点を中心とする総合的な監査結果に関したものでなければならない。
 
  認証制度の下で第三者機関が行なう審査の結果や、顧客による監査の結果も、品質マネジメントの業務の実行状況の問題点を含むなら、内部監査の結果と合わせて分析して、組織の業務実態と問題点の情報としてマネジメント レビューに供することが効果的である。
 
(3) 顧客からのフィードバック [ b)項]
  『フィードバック』は英文では“feedback”であ。これは、物や仕事の出来ばえの良さについての情報というような意味で広く使われているが、元々は機械の運転制御の用語であり、「修正や調節のために出力を入力に戻すこと」を意味する。例えば、炉の加熱において炉内温度を刻々と測定し、その情報によってバーナーの燃焼強さを調節して、昇温速度を所定の通りに制御する場合、炉内温度(出力)の情報をバーナー燃焼強さ(入力)に“feedback”するのである。
 
  『顧客からのフィードバック』は英文では“customer feedback”であり、品質マネジメントの業務実行の手はず(入力)の結果である顧客満足の実績(出力)の情報を指す。製品が顧客にどのように受けとめられたか、つまり、製品の顧客満足度に関する情報(8.2.1項)のことである。この出力を元にして、より良い出力を得るために、業務の仕方(入力)を変更する。これには、苦情や顧客での製品使用成績のような顧客満足の実績だけでなく、将来の顧客満足に影響する可能性のある顧客や市場の必要と期待の変化、及び、競合相手や技術進歩の動向に関する情報を含まなければならない。マネジメントレビュー に供するこれらの情報は、入手或いは収集した情報に加えて、それらを現在と将来の顧客満足に関して分析評価し(8.4 a)項)、問題点や対応策を明確にしたものでなければならない。
 
(4) プロセス の成果を含む実施状況及び製品の適合性 [ c)項]
  『成果を含む実施状況』の英文は“performance”で、日本語では「実態」を含蓄した「実績」であり、規格ではその首尾良さの程度を意味する言葉として用いられている$31。00年版では『実施状況』と和訳されていたが、08年版から8.2.1項の同じ和訳となった。
 
  品質マネジメントの各業務が手はずの通りに行なわれて、所定の業務結果を出したかどうか、また、製品が所定の製品仕様を満たして生み出されたかどうかに関する情報である。これには、各業務の実行と結果の監視測定(8.2.3項)、及び、製品の監視測定(8.2.4項)の結果の情報が中心となり、組織の日常業務で発生した異常や不良の件数や深刻さに関する情報である。前者には、資源の維持に関する情報(6.2.2 b)、6.3、6.4項)、品質目標から導かれる改善の活動の情報(5.4.1項)、購買管理の実績に関する情報(8.4 c)項)も含まれる。後者には、発生した異常、不良製品の処置(8.3項)も含まれる。更に、改善の品質目標(5.4.1項)について特別な実行計画によって取り組む場合のその達成状況も前者の情報の範疇である。
 
  マネジメントレビュー に供するこれらの情報は、品質方針や品質目標の意図する管理目標、管理基準と比べてどうであったかの観点から分析、評価(8.4 b)項)し、問題点や対応策を明確にしたものでなければならない。必要により対応策の結果(8.5.2, 8.5.3項)も含まれる。情報を評価するのは マネジメントレビュー の結論(5.6.3項)を出すことが目的であるから、情報は品質方針や品質目標に関係の強い業務(プロセス)、製品に関するものが中心である。評価に必要な情報の種類や内容はいつのマネジメントレビュー でも常に同じというものではない。
 
(5) 予防処置及び是正処置の状況 [ d)項]
  組織の問題解決能力に関する情報である。JIS和訳の『状況』の原文は“status”であり、「進行中の特定の時期における状況」という意味である$17。実施した予防処置(8.5.3項)と是正処置(8.5.2項)が今どうなっているかということである。重要問題については個別の予防、是正処置の評価があってもよいが、本項の趣旨は、これらの処置が着実にとられ、それによって全体として問題の発生が減少しているのかどうかの評価が主体であるべきである。これには、予防、是正処置の実行から一定の月日が経過した時点で実施するレビュー (8.5.3 e)、8.5.2 f)項)の結果を分析したものが中心となる。これによりトップマネジメントは、組織の問題解決能力が必要な顧客満足の追求という点で「適当、十分、効果的」かを評価し判断することができる。
 
(6) 前回までのマネジメントレビューの結果に対するフォローアップ [ e)項]
この条文の原文は“follow-up action from previous management review”であり、“follow-up”は「既に始まった何かに続く行為」意味であるから、「以前のマネジメントレビュー から続く処置」という意味である$35。以前のマネジメントレビュー の結論の処置の現状、つまり、「今も継続しているか、とりやめになっているか、また、いつまでの間にどれほど効果的であったか」の情報であるとする解説(23e)もある。つまり、以前のマネジメントレビュー の処置(5.6.3項)が本当に実行され、所期の狙いの結果が出ているかどうかの情報である。マネジメントレビュー を「インプットをアウプットに変換するプロセス」として、そのプロセスアプローチ/PDCAサイクルの管理/Cに相当する情報である。
 
(7) 品質マネジメントシステムに影響を及ぼす可能性のある変更 [ f)項]
  JIS和訳は『変更』であるが原文“changes”であり、この場合は「変化」の方が適当である。すなわち、品質マネジメント に関係する内外の諸情勢の変化についての情報という意味である。組織が継続して事業を維持発展させるには、組織の顧客満足の狙いや品質マネジメントの業務を、組織の内外の諸情勢の変化に対応して適切に変えていかなければならない。マネジメント レビュー では、品質マネジメント に重要な影響を及ぼす組織の事業環境上の変化にどのように対応すべきかを検討することが必要である。また、予定される事業上、及び、業務上の特に重要な変化が確実に混乱なく実行されるための方策についても、トップマネジメントの評価に供することが必要である。前者の情報には、上記(3)の顧客満足に関する情報、供給者の動向(7.4項)や法規制の動向(7.2.1 c)項)に関する情報がある。後者の情報には、新製品の投入、新設備の稼働、新事業所の開設などがある(5.4.2 b)項)。
 
(8) 改善のための提案 [ g)項]
  マネジメントレビュー では、トップマネジメント が諸情報を評価するのであるが、それらの情報は各分野の業務に責任と権限を委ねられた管理者が提供する。管理者の責任、権限とは、担当分野の業務の実行の手はずを整え、実行が効果的であるよう管理し、問題を抽出し正すだけでなく、実績と問題を上級管理者に報告し、経営上の問題と対応策を提案することである。マネジメントレビュー に提出する情報には、実績や問題点と実行した対策の報告と共に、以降に取組むべき課題と対処方法についての提案も含まれていなければならない。管理者は上記(1)〜(7)の情報の報告に付随して、それらに関係してトップマネジメントの評価や判断が必要と思われる問題対応策をも提案しなければならない。
 
  トップマネジメント がすべてに最善の判断ができるとは考えられない。また、トップマネジメント がすべての判断を行うことは健全な指導力発揮とは言えず、すべての判断を行わなければならない状況は体系的で組織的な業務実行の風土と矛盾する。トップマネジメントは、管理者はじめ人々が組織の目指すところの達成に自主的に参画できるような状況をつくることが大切であり(ISO9000; 0.2 b))、このような自主的な参画があって初めて人々の能力が組織のために活用されることになる(同 0.2 c))。トップマネジメントが関係管理者を集めた会議形式でマネジメント レビュー を行うことは、人々の職責意識の醸成(6.2.2 d)項)と能力開発の手段として効果的である。これに関して指針規格ISO9004は「マネジメント レビューは、トップマネジメントの指導性により活性化された諸報告の自由な議論と評価を伴った新しい考えの交換の場とすべきである」と述べている(132c)。
 
 
 
H24.11.7(修H26.10.31)
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サニーヒルズ コンサルタント事務所