ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
14 5.6.3項  マネジメント レビューからのアウトプット 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-29
組織は、マネジメント レビューからのアウトプットには、次の事項に関する決定及び処置すべてを含めなければならない。
a) 品質マネジメント システム及びそのプロセスの有効性の改善
b) 顧客要求事項にかかわる製品の改善
c) 資源の必要性
 
 
1.要旨

  本項は、マネジメントレビュー の結論に関する要件を規定している。
 
  マネジメント レビュー は、事業の継続的な維持発展のために次の品質マネジメントのサイクルで取組むべき課題を抽出し、対応策を決めるためにある。マネジメント レビュー の結論は、a)〜c)項に関するトップマネジメントの経営判断と処置を含んだものでなければならない。また、結論は品質方針及び品質目標の必要な変更に触れることが必要である。
  
 
2. 背景及び関連事項
(1) プロセスとしてのマネジメントレビュー
  規格ではマネジメント レビュー も品質マネジメントシステムに必要なプロセス(業務)のひとつである(4.1 a)項)。『プロセス』とは、資源を投入してインプット (入力)をアウトプット (出力)に変換する活動と定義されている#1。マネジメント レビュー は、トップマネジメントの英知という資源を投入して、マネジメント レビューへのインプット (本項)を マネジメントレビューからのアウトプット (5.6.3項)に変換する活動である。このインプット は実務的には、トップマネジメントが評価すべき事項を意味し、アウトプット は評価検討の結果の結論のことである。
 
(2) マネジメントレビューの結論
  マネジメントレビューの目的は、無限持続体として組織を維持発展させるために顧客満足の狙いと業務実行を方向づけることである。マネジメントレビューの結論は、品質方針、目標(5.3項)の変更の必要性と狙いの顧客満足の確実な実現のために必要な現状改善の経営施策でなければならない。
 
 
3.規格要求事項の真意
   トップマネジメントはマネジメント レビュー の結論として、狙いの顧客満足の実現の支障となっている業務実行の問題点、及び、問題解決のために取り組むべき課題を明確にし、課題取り組みのための処置を決めなければならない。更に、変化する事業環境に照らして、顧客満足の狙いの変更が必要かどうかを判断し、必要により品質方針(5.3項)、品質目標(5.4.1項)を変更しなければならない。そして、この変更された品質方針の実現、品質目標の達成に必要な新たな処置を決めなければならない。
 
  これらの処置の必要が抜けなく抽出されるためには、処置は次のa)〜c)の観点で検討するのがよい。これら処置について実行の手はずを決め、品質マネジメントの業務実行の手はず(5.4.2項)の中に織込み又は変更しなければならない。
 
  品質マネジメントのサイクルに合わせて一定期間毎に繰り返されるこの決定とその処置の実行によって、事業環境や事業上、業務上の絶えざる変化にもかかわらず、品質マネジメントの業務がその時々に必要な顧客満足を確実に実現させる組織の業務能力を確立し、維持することができる。
 
  顧客満足を追求する品質マネジメントは、事業の維持発展を図る組織全体の経営管理活動(マネジメント)の重要だが、ひとつの側面に過ぎない。品質マネジメントに関するマネジメント レビュー の結論は、他の観点の経営管理(マネジメント)の必要と制約を考慮にいれた組織全体としての最適解でなければならない。
 
(1) マネジメント レビューからのアウトプットには、次の事項に関する決定及び処置すべてを含めなければならない。
  プロセスとしてのマネジメント レビュー の『アウトプット』であるから、マネジメント レビュー の結果又は結論のことである。 『決定及び処置』は原文では“decisions and actions”であり、「判断及び処置」の意味である$36。条文には08年版で『すべて』が追加されたが、原文は “〜 include any decisions and actions”と変わっていない。00年版で無視していた“any”に日本語を当てたものだが、英文は「判断や処置があればそのどれもを結論に含める」という意味であり、文脈上は『すべて』がなくても意味が通じ、むしろ無い方がすっきりした日本語である。
  
 トップマネジメントはマネジメント レビュー を行って、『品質マネジメントシステムが引き続き適切で、妥当で、かつ、有効であることを確タにする』(5.6.1項)ために問題がないかどうかの判断を行い、そのために必要な処置を決めなければならない。すなわち、トップマネジメントは、品質マネジメントの実績を表す情報(5.6.2項)を評価することによって、これまでの品質マネジメントのサイクルで狙いの顧客満足がどの程度タ現したのか、また、現在と将来において事業の維持発展にどのような顧客満足を実現させることが必要かを判断し、それらに係わる経営管理(マネジメント)上の問題点と取り組むべき課題を明確にしなければならない。そして、問題点や課題にどのように対応するかの経営判断を行わなければならない。
  
 問題点と課題に対応する経営管理(マネジメント)上の処置には、手順や資源と製品機能の具体的な変更、特定問題の再発防止対策の他、製品戦略や市場広報戦略の変更、特定問題に関する体系的検討或いは新技術や新製品機能の開発の開始など様々である。処置は、品質マネジメント システムの計画 (5.4.2項)、是正処置 (8.5.2項)や予防処置 (8.5.3項)、改善の品質目標 (5.3、5.4.1項)の形で実行される。顧客満足の狙いの大きな変更に至るような場合は、品質方針の変更が必要となる。
マネジメントレビュー の結論は、必要な顧客満足を実現するのに必要という観点から、次のa)〜c)に関連する問題点を明確にし、必要な問題対応の処置を決めたものでなければならない。a)は業務実行、b)は製品、c)は資源である。これは、規格ではこれらが顧客満足の実現を図るための基本要素であるとされていることを表している。
 
(2) 品質マネジメントシステム 及び そのプロセスの有効性の改善 [a)項]
 『有効性』とは「活動が計画通りに実行されて、計画通りの結果が得られた程度』と定義され#4、意図した通りの結果がどの程度得られるかを意味する$25。この場合の『有効性』は文脈から、狙いの顧客満足の実現に対する有効性である。『プロセス』は品質マネジメントに関係する各業務(4.1 a)項)のことであり、この場合の『品質マネジメントシステム』とは品質マネジメントの業務の全体のこと、或いは、業務間の相互関係(4.1 b)項)を指すと考えてよい。また、どちらも業務の手はずとその実行の両方を含んだ概念と考えるのがよい。
  
 トップマネジメントが、必要な顧客満足の実現に業務実行に係わる問題点や課題があると判断したということは、『品質マネジメント システム及びそのプロセスの有効性』に疑念を抱いたということを意味する。規格の品質マネジメントでは、狙いの顧客満足は品質マネジメントのそれぞれの業務が相互に関係を持ちながら定められた手はずの通りに実行された結果として実現する。必要な顧客満足の実現に関する『品質マネジメントシステム及びプロセスの有効性』とは、定められた手はず(4.1 a)〜c)項)の有効性と、手はずの通りに業務が行われるようにする業務の実行と管理(同 d)〜f)項)の有効性に分けることができる。また、手はずや実行と管理の有効性については、個別の業務の有効性(プロセス の有効性)と業務間の連携の有効性(品質マネジメント システム の有効性)に分けることができる。
  
 有効性が問題になる業務としては一般には、不良品を作り顧客に引き渡してしまう製品実現の管理業務(7.5、8.2.4、8.3項)や機能異常品を市場に出してしまう設計開発業務(7.3項)が中心であろうが、それだけに限らない。例えば、外注部品の不良の頻発が製品苦情の主体であるなら購買業務(7.4項)に問題があり、顧客の製品使用を支援するサービスの貧弱さが顧客の悪い評価を招いているとすれば顧客対応業務(7.2.3項)の有効性に問題があり、製品機能に対して市場の受けがよくない場合には、顧客満足の情報分析(8.4 a)項)や製品戦略決定に関係する業務(7.2.1、7.3.2 a)項)の有効性が十分でないということになる。また、部門間の連携が悪くて苦情処理に時間がかかり顧客の不満を増幅させているなら、或いは、製品の市場での評価の低下の進行をトップマネジメントが長い間気がつかなかったというなら、情報連絡(5.5.3項)やトップマネジメントの顧客満足監視(5.2項)の在り方に問題があり、品質保証体制そのもの(品質マネジメント システム)の有効性が問題であるかもしれない。
 
  対応処置としては、業務と業務間連携の手はず、又は、それら業務の実行管理の手はずの変更が中心だが、製品企画、市場分析、情報処理やデータ分析などの専門的技法や業務能力の強化の施策に及び、更には、販売戦略、外注政策、事業モデルの変更に踏み込むことになるかもしれない。
  
(3) 顧客要求事項にかかわる製品の改善 [b)項]
  00年版の『顧客要求事項への適合に必要な製品の改善』が08年版で変更された条文であるが、原文は不変であり、かつ、英文自身が単純である。すなわち“improvement of product related to customer requirement”であるから「顧客要求事項に関連しての製品の改善」である。ここに『顧客要求事項』は、組織の製品に関する顧客の必要や期待$1-2を意味し、これがどの程度満たされたかの顧客の受けとめ方が、規格の「顧客満足」である#17。本項の製品の改善は、顧客の必要や期待を満たす程度を増す、或いは、顧客満足度を向上させるための製品の改善のことである。
 
  顧客満足の概念には、不良品を顧客に引き渡さないという伝統的な品質保証の観点と、製品の機能や性能を顧客の必要や期待に一致させるという顧客満足を保証する広義の品質保証の観点がある。前者の観点で狙いの顧客満足の実現に支障を生じているなら、普通は上記(2)の問題だが、製品実現で不良を生じ難くするように製品の構造や機構、又は、部品の変更という方法がとられることもある。後者の観点の顧客満足の問題であれば、製品の機能、性能を変更することが必要である。
マネジメント レビュー によってトップマネジメントはまた、変化する顧客の必要と期待を読み取り、これに対応するための製品の改善、或いは、新しい機能や性能の製品の開発の必要を判断しなければならない。或いは、製品分野や対象顧客、地域の見直し、市場戦略の変更の必要もあり得る。製品に関する顧客満足を追求する品質マネジメントにおいては、製品の改善という経営判断が基本的に、マネジメント レビュー の結論の最も重要な事項である。
 
(4) 資源の必要性 [c)項]
 規格の『資源』は、6章に規定される人的資源、インフラストラクチャー、作業環境の他、情報、技術、原料や資材、文書や記録、更には、確立した手順、責任と権限、組織構造、供給者との関係等々、品質マネジメントの実行に必要なものすべてを含む。これら多くの資源は上記(2)の『品質マネジメント システムとそのプロセス』の手順に関係するから、その範疇として取り扱う方が実務的である。従って、本項の資源は人的資源、インフラストラクチャー、作業環境に限定してよい。
 
  必要な顧客満足の実現に関連する資源の必要性とは、インフラストラクチャー(6.3項)については例えば、寸法精度が他組織製品に劣って顧客の評価を悪化させている場合の最新の高精密加工機械の導入の必要性や、製品の魅力を顧客に訴えるための商品展示方法や売場内装の変更の必要性である。人的資源(6.2項)については例えば、顧客にサービスを印象づける応接が可能な接客要員の配置の必要性が認められた場合には、関係要員に接客行動研修の実施という処置をとり、単純な作業ミスが苦情の主因である場合には職責を自覚した要員が必要との判断に基づき、認識教育やミス撲滅職場活動が対応処置となり、或いは、世界展開を図る組織での外国人の採用などの人事戦略の変更も資源の必要性に対応する処置となる。作業環境(6.4項)については例えば、作業ミスを防ぐための照明や要員の職責意識の醸成のための福祉施策に関する処置である。
 
  品質マネジメントの効果的な実行には、必要な資源が組織内にあり、必要に応じて使用できるようになっていることが必要である。規格は、これを確実にすることを目的とする資源マネジメントの要件を6章に規定し、品質マネジメントがこの資源マネジメントと連携して行われる必要を明確にしている。本項の資源の必要性の判断は、資源マネジメントの要件のひとつである「必要な資源を決定する」(6.1 a)項)ための機会のひとつである。
 
 
 
H24.11.7(修H25.12.28)
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サニーヒルズ コンサルタント事務所