ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
30 6.1項  資源の提供 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-30
6.1 資源の提供
組織は、次の事項に必要な資源を明確にし、提供しなければならない。
 a) 品質マネジメントシステムを実施し、維持する。また、その有効性を継続的に改善する。
 b) 顧客満足を、顧客要求事項を満たすことによって向上する。
 
 
1.要旨

  本項は、効果的な品質マネジメントのためには必要な経営資源が確実に使用できる状態を維持するための資源マネジメントが必要であることを明確にし、すべて資源に共通の資源マネジメントの基本的な要件を規定している。
 
  組織は品質マネジメントに必要な資源を特定し、必要に応じて所定の機能を発揮させて使用できるようにする手はずを整え、手はずに則って必要な資源の投入と機能発揮を管理しなければならない。資源の内、すべての業務に必要となる人的資源、物的資源、作業環境に限って6.2〜6.4項にそれぞれの個別の資源マネジメントの要件を規定している。他の資源ついては、本項に基本的な要件が規定されている他、それぞれの資源を使用する業務の実行の要件の中にそれらの資源マネジメントの要件が含まれている。
 
 
2. 背景 及び 関連事項
2-1.資源
(1) 経営資源
  品質マネジメントの業務を所定の結果を出すように実行し、そのように管理するためには、資源と情報が必要である(4.1 d)項)。『資源』の原文は“resource”であるから、資源、財源、資産、供給源、蓄えを意味する(110)。TC176指針(6)は『資源』を「利用可能な資産」と広く定義しているが、規格の文脈では経営用語の「経営資源」のことである。94年版では『経営資源』と和訳されていた。
 
  経営論では、事業活動は一般に、一定の要素を投入し、これを処理して所定の結果を産出するものと捉えられ、この投入されるものが「経営資源」である(54d)。この言葉は近年は企業の合理化戦略に関連して、成長分野への経営資源の集中的投入などという表現で新聞記事にもしばしば登場する。この経営資源は普通、人的資源、物的資源、貨幣的資源から成るとされるが、近年では情報と企業文化もこれに含まれるとも言われる(54d)。
 
(2) 規格の意図の資源
  規格では、経営資源について指針規格ISO9004が、94年版では人的資源、設計開発用設備、製造設備、検査、試験と調査のための設備、及び、計装及びコンピューターソフトウェアを例示していた(138a)。00年版では、人々、インフラストラクチャー、作業環境、情報、供給者、天然資源、財務資源を例示し、また、目に見える資源と対照させて目に見えない資源である知的財産を挙げ、更に、プロジェクトチームを含む組織構造、情報及び情報技術、要員の職務能力や管理者の指導力にも言及している。規格執筆者のひとりは、人々、時間、建物、設備、電気・水・ガス、原料、部品、機器、ソフトウェア、輸送設備を例に挙げている(21g)。簡単に言うと、トップマネジメントが品質マネジメントを行うために必要なものは、目に見えるものも見えないものもどれも資源である。
 
(3) プロセスと資源
  規格のプロセス(業務)とは入力に価値を付加して出力に変換する活動#1でと定義されている。入力に価値を付加して所定の出力に変換するには、どのように変換を行うのかの方法及び基準(4.1 c項)と、そのために使用する資源と情報(同 d)項)が必要である。前者は手順と呼ばれ#9、後者の資源と情報をどのように使用又は適用するかを定めたものと考えることができる。この4.1項の表現では情報と資源とは別のものとなっているが、上記(2)の指針規格の例示にもあるように、規格で資源と言う場合は一般に情報を含むものと理解するのがよい。プロセス(業務)は、手順に則って資源を使用して、入力に価値を付加して出力とするのであるから、価値の原資が資源である。
 
  プロセス(業務)がどのようなものであるかは、その手順と必要な資源でもって表わすことができる。例えば、製造業務(7.5項)の入力は原材料で出力は製品であり、製品実現の計画 で決められた手順に則って、用意された要員の技能と設備、及び、生産指示や作業手順書などの資源を使用して行われる。設計開発業務(7.3項)の入力は製品機能・性能の狙いであり、出力はこれを満たすことのできる製品構造仕様であり、製品図面、部品仕様書に表される。業務は、設計計画書に決められた設計手順に則り、設計者の技能や設計基準書、及び、試作設備や評価設備等々の用意された資源を使用して実行、管理される。教育訓練業務(6.2.2項)の入力は当該要員の持つ職務能力であり、教育担当者の教育技能と教室、訓練用機器、教科書等の資源を使用して、要員が身に付けた必要な職務能力という出力に変換する。
 
(4) 品質マネジメント システムの計画と資源
  規格の品質マネジメントの業務体系(品質マネジメントシステム)は、多くのプロセス(業務)の有機的集合体とみなされている。上記(3)のようにこのプロセス(業務)は手順と資源から成るから、品質マネジメントの業務体系とは手順と資源の有機的集合体であるとも考えることができる。品質マネジメント システムの計画(5.4.2項)、製品実現の計画(7.1項)などの『計画』は、それぞれの業務実行のための手はずを整えること$28であるが、これは手順を確立し、必要な資源を用意することを意味する。
 
  手順は組織の体験と知識が集約された知的財産という資源であり、それを文書に表したその文書も資源である。手順も文書も情報として人々の間を伝わる。その他の情報も中味は組織独自のものであるから知的財産という資源であり、人々の間の確実な情報のやりとりのために文書化される。
 
  このように、プロセス、手順、資源、情報、文書は相互に重なりあった概念であり、完全には分離することができない。規格の条文でもこれらに関する表現は様々であり、必ずしも厳密ではない。規格の条文は一般には、次のような認識で書かれていると考えるのがよい。
 
業務(プロセス)をどのように行うかが手順であり、手順とはどの資源をどのように使用ないし適用するかを表したもの。この資源には情報や文書が含まれる。
手順を決める、確立するという場合には、業務実行の方法や基準を決めることの他、必要な資源を決め、その使用の方法を決めることが含まれる。
『計画』とはこの手順を決め、手順で使用を決めている資源を使用できる状態にすることである。この資源には情報や文書が含まれる。
情報とは、どのような手順を使用又は適用するのか又はしたのか等々、業務(プロセス)の実行のために人々の間でやりとりされる知らせや知識を指す。
文書とは業務実行に使用する情報が文書化されたその文書のことである。
手順の確立とは、手順が決められ、関係者に理解されていることであり、実務的には手順が文書化されていることが前提である。

 
2-2.資源の運用管理
(1) 資源マネジメント
  6章の標題『資源の運用管理』の原文は“resource management”であるから「資源マネジメント」である。これは、品質マネジメントの定義#19-3に倣うと 「資源に関して組織を方向づけ、制御する統制された諸活動」である。つまり、組織の経営目標の達成のために必要な資源を特定し、それを投入し、使用できるようにする経営管理の活動である。品質マネジメントのPDCA/プロセスアプローチ サイクルの考えに従うと、資源マネジメントでは、トップマネジメントは、資源に関する組織の意図及び方向づけを資源方針、資源目標として明確にし、更に、必要又は不足と考えられる資源の投入又は改善の目標を明確にし、資源を投入、改善し、その状況と結果を監視し、狙いの経営目標の達成の観点から資源の有効性を評価し、問題があれば新たな資源の投入又は改善の決定をするというサイクルの繰り返しで、資源の面から経営目標の達成を図る。
 
  本項の資源マネジメントの対象の資源は、顧客満足の追求に関係する業務のための資源であり、狙いの顧客満足を実現させるために必要な資源である。資源マネジメントは、効果的な品質マネジメントの実行のために必要な資源が確実に使用されるようにする管理であり、これは、現存する資源の使用や機能維持の管理を意味する『運用管理』だけでなく、必要又は不足すると考えられる資源を見極め、投入する充足管理とを合わせたトップマネジメント主導の「マネジメント」のことである。
 
(2) 品質マネジメントと資源マネジメントの関係
  トップマネジメントが統括する組織全体の経営管理(マネジメント)の観点で見ると、品質マネジメントはその一部であり、顧客満足の追求に焦点をあてた活動である。同様に、資源マネジメントも全体の経営管理(マネジメント)の一部であり、資源に焦点があてた活動である。品質マネジメントでは狙いの顧客満足に必要な資源の投入と使用の管理が必要であり、組織全体の資源を扱う資源マネジメントでは、取り上げる資源に品質マネジメントのために必要となる資源も対象とする。品質マネジメントに必要な資源であっても、投資戦略や可能な投資総額、要員枠、或いは、技術、エネルギー消費の観点など資源マネジメントの必要をも満たすものとして投入、使用されなければならない。
 
  品質マネジメントの観点からはこの資源を、資源マネジメントの観点からはこの資源をと、同じ機能の異なる2つの資源が導入されるということは実務ではあり得ない。また、ある資源の使用の手順が、品質マネジメントの観点からはこれ、資源マネジメントの観点からはこれということもあり得ない。効果的な組織の経営管理では、双方の業務体系の中のお互いに相手も関係する業務については必要な情報交換が行われ、業務実行の手順は共通で、それら業務に係わる文書もひとつとなっていなければならない。両マネジメントの連携によって、導入する資源もその使用の手順も両マネジメントの必要を満たし、時には相反する必要の均衡を図った、組織としての最適解として資源や手順が決められる。
 
  しかし、これは品質マネジメントと資源マネジメントとの関係に限らない。品質マネジメントの業務の手はずはどれも、関連のある環境マネジメント、労働安全マネジメント、財務マネジメント、リスク マネジメント等の他のマネジメント(0.4項)の必要をも満たし、均衡を図ったものでなければならない。例えば、製造作業の手順は、不良品を生み出さないようにする手順であるだけでなく、作業の安全、作業能率、製造コストの観点も考慮したものでなければならず、その文書は品質、労働安全、生産、財務マネジメントに共通の文書、つまり、組織全体の経営管理(マネジメント)に共通の文書でなければならない(4.2.1項)。供給者の選定や管理のための評価は、供給者の良品供給能力だけではなく、コスト低減能力、安定供給能力、リスク対応能力、経営の安定性など組織にとって必要なすべての観点からの評価でなければならない(7.4.1項)。
 
  規格は、組織の事業の維持発展を顧客満足追求の観点から図る品質マネジメントのあるべき姿を規定するものである。従って、品質マネジメントに必要な業務だけを取り上げて、それら業務が品質マネジメントの必要を満たして行われるための必要条件だけを規定している。組織の事業の維持発展のためには、これ以外の様々な経営管理(マネジメント)の観点が必要であり、品質マネジメントに必要な業務も他の様々な観点の必要を満たして行われなければならないが、規格はこのことには直接には触れていない。本6章だけが、資源の投入と使用に関して品質マネジメントと他のマネジメントとの整合性を規定しているのである。しかし、これには特別の意図があるのではない。
 
  品質マネジメントの要件として資源マネジメントの実行が規定されているのであるが、品質マネジメントの中で資源マネジメントを行うということではない。品質マネジメントの資源に係わる業務には資源マネジメントの必要をも反映させなければならないというだけである。従って、標題を7.3、7.4項の『設計開発』『購買』と同じように『資源』とするか、4.2項の『文書化に関する要求事項』と同じように『資源に関する要求事項』とした方が余計な誤解を避けるために適切であった。
 
   
3.規格要求事項の真意
  本項の標題の『提供』の原文は「将来起きるだろうことへの準備」という意味の“provision”である。『資源の提供』とは、必要な時に必要なところで使用できるようにするという意図で資源を用意しておくこと、すなわち、「資源の用意」である$37-1。資源マネジメントとは、必要な資源が必要に応じて使用できるようにする活動であり、必要な資源を用意する活動である。
 
  94年版でも『経営資源』という標題(4.1.2.2)の下で「資源に関する必要を特定し、適当な資源を利用できるように」しなければならないと、資源マネジメントの必要が規定されていた。そして、条文中で『訓練された要員』を資源として例示し、そのための要件を『教育・訓練』という標題(4.18)の下に規定していた。設備と作業環境については、「適当な設備の使用」「適当な作業環境」という表現で、00年版の製造及びサービス提供 (7.5項)に相当する業務の管理の要件として規定していた(4.9 b))。
 
  00年版では「資源マネジメント」という標題によって、資源の使用や機能維持の管理に留まるものではないという規格の意図が明確になり、本項にすべての資源に共通の基本要件が規定されたことにより、その対象の資源が製造及びサービス提供 から品質マネジメントのすべての業務に必要な資源であることが明確になった。更に、『訓練された要員』が『人的資源』、設備が『インフラストラクチャー』と概念をより正確に反映した表現となり、作業環境も定義によって概念が明確になった。94年版で分かれていたこれら3種の共通的資源に関する要件記述が6章にまとめられた。
 
  00年版では品質マネジメント システム(品質マネジメントの業務体系)は、プロセス(業務)の有機的集合体とみなされ、プロセス(業務)は手順と資源で表すことができる。例えば文書や記録(4.2.1項)、責任及び権限 (5.5.1項)や供給者の能力(7.4.1項)、購買製品(7.4.3項)等々も資源である。これらの資源に関する資源マネジメントの要件は一般に、それぞれの資源を使用する業務の要件の中で規定されており、6章では本項に一括して基本的要件のみが規定されるに留まっている。
 
  00年版では『情報』という資源が登場した(4.1 d)項)。しかし、6章ではこれも本項の基本的な要件の規定のみである。これは情報の概念が広くて様々な種類や性格の情報があり、一律の表現で要件を定めることができないからである。規格の中では情報に関する資源マネジメントに関係する規定としては、情報の文書化(4.2.1項)、情報の使用(4.2.4項)、情報の保存と保護(4.2.4項)、情報交換(5.5.3項)、情報収集(8.2項)、情報の分析(8.4項)などがある。
 
  しかし、初版から08年版まで規格の「資源」が経営用語の「経営資源」を意味することには変わりはなく、経営管理(マネジメント)に資するという観点からの各資源のあるべき姿には何の変化もない。特に94年版から00年版への条文記述の変化が大きいが、これは規格が製造業主体の品質保証からすべての業種業態の顧客満足追求に適用範囲を拡げたこと、及び、PDCA/プロセスアプローチ サイクルに則った資源マネジメントを強調する表現になったことに基づくものであり、趣旨には何の変化もない。
 
(1) 組織は、次の事項に必要な資源を明確にし、提供しなければならない。 
  『明確にする』の原文は、多くの中から探して特定し、決めるという意味$6の“determine”であり、『提供する』は “provide”であり、この場合は「使用可能なようにしておく、又は、用意する」の意味である$37。すなわち、組織は効果的な品質マネジメントのためにどのような資源が必要かを特定し、実際に使用できるようにしなければならない。これは、すべての資源について満たさなければならない資源マネジメントの基本的な要件である。
 
  この要件は、6章では資源の種類によって表現が次のように異なるが、趣旨は同じである。
資源全般(6.1項) = 必要な資源を特定し、使用できるようにする
人的資源(6.2項) = 必要な職務能力を特定し、教育訓練又は他の処置をとり、その処置の有効性を評価する
物的資源(6.3項) = 必要な物的資源を特定し、利用できるようにし、維持する
作業環境(6.4項) = 必要な作業環境を特定し、管理する
 
  事業の維持発展に必要な顧客満足を実現する品質マネジメントの効果的実行には、各業務実行の手はずを整え、手はずに則って業務を実行しなければならない(5.4.2項)。手はずを整えるとは、手順を確立し、必要な資源を用意することであり、必要な資源が必要に応じて所定の機能を発揮して使用できる状態を維持することである。業務実行の手順には、資源を使用する手順が含まれており、業務はこの手順に則って資源を使用して行われる。
 
  必要な資源を用意することを目的とする資源マネジメントの活動は、必要な又は不足する資源を特定し、これを充足し、機能発揮するよう管理し、その使用と結果を監視測定して、当該業務の効果的な実行に所定の機能を発揮し、また、必要な業務結果が得られたかどうかを評価し、問題があれば更に効果的な資源を投入するという、PDCA/プロセスアプローチ サイクルに則る活動である。
 
  組織は、a)〜b)項のために必要な資源を間違いなく用意するための各資源の資源マネジメントの手はずを整え、手はずに則って必要な機能を発揮するように必要な資源を用意しなければならない。これには、必要な又は不足する資源を特定し、投入の必要を評価し決定する資源充足のための手はずと、充足された資源を所定の機能を発揮させて使用できるための手はずとが必要である。
 
  前者は、必要や不足を確実に抽出する責任者と、投入要否を組織として評価する場や機会を明確にしておくことが中心である。資源の必要が生じるのは、狙いの顧客満足の変更、異常や問題への対応、競争力強化の必要、新規仕様製品の受注、新機能製品の投入、事業規模の拡大などの場合である。これは規格ではそれぞれ、品質方針 の変更(5.3項)、是正処置 や予防処置 の実行(8.5.2, 8.5.3項)、製品実現の計画 (7.1項)、製品の品質目標 の変更(5.4.1項)、品質マネジメント システムの計画 の変更(5.4.2項)である。規格では、マネジメント レビュー (5.6.3 c)項)を資源充足に関する戦略的決定や最終判断の機会として位置づけている。
 
  後者は、定められた資源が間違いなく使用され、その資源が定められた機能を保持していることを確実にする使用の管理と機能維持の管理から成る。使用管理には、要員の日々の配置の管理、定められた設備や監視測定用具を使用すること、定められた文書を使用することを確実にする管理の他、定められた発注先への物品の発注することを確実にする管理なども含まれる。これら資源の使用管理は一般に、日常業務の管理の一環として、当該業務の実行の手はずの中に含まれて実行される。規格でも例えば、製造及びサービス提供 (7.5.1項)の業務の管理の中に、定められた設備や監視測定用具を確実に使用することの手はずの必要が規定されている。本項の記述においては、使用管理には直接言及していない。
 
  機能維持の管理には、設備や作業環境ならその保守、人的資源なら要員の入退職管理や資格更新、情報なら文書の更新や適切な配付、記録の保管、保護、その他の資源では供給者の能力の管理、組織構造の改変などが該当する。機能維持の管理は、当該資源の使用の管理の手順に含まれる場合もあるが、独立した維持管理の手はずを整えることがよい場合がある。規格では、文書や記録の機能維持の管理(4.2.4項)や監視測定用具の機能維持の管理(7.6項)などについて別途、独立した業務として要件を規定している。
 
(2-1) 品質マネジメントシステムを実施し、維持する。また、その有効性を継続的に改善する。 [a)項]
(2-2) 顧客満足を、顧客要求事項を満たすことによって向上する。  [b)項]
  規格の品質マネジメントシステムは顧客満足向上を図る組織の業務体系であるから、b)項はa)項の狙いであり結果であるとも考えることができる。従って、b)項の顧客満足向上のための資源はa)項の『品質マネジメントシステムの実施、維持、有効性の継続的改善』のための資源に包含される。必要な資源がa),b)の2つに分けて規定されていることに対しては疑義を呈する解説(23f)もある。
 
  品質マネジメントの体系的で組織的な実行の基本要件を規定する4.1項では、品質マネジメントに必要な業務を特定し(a)項)、その実行と管理に必要な資源を利用できるようにする必要(d)項)が明確にされている。この資源のことを本項ではa)とb)というように表わしていると考えるのがよい。
 
  組織の経営管理(マネジメント)活動には一般に、一定期間の組織全体の業績の達成を管理する側面と、日常業務が所定の通りに実行され狙いの結果を出すように管理する側面とがある。規格では、この2つの側面について明言していないが、しばしば、前者を5章のマネジメント活動のプロセス、後者を7章の製品実現のプロセスに準えて、両者を区別した表現をしている。例えば、トップマネジメントの責任について、効果的な品質マネジメントの実行の責任を5.1項に規定し、狙いの顧客満足の実現に関しての製品実現業務の実行に対するトップマネジメントの管理責任を5.2項に規定している。内部監査(8.2.2項)も「品質マネジメントシステムが製品実現の計画(7.1項)に適合しているかどうか」の評価の必要を規定して、品質マネジメントのための手はずと、製品実現の管理のための手はずとを対比させる表現を用いている。従って、a)項が非日常的な経営管理(マネジメント)活動、b)項は日常業務を管理する活動を指し、この意味では、a)項は品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)で用意する資源、b)項は製品実現の計画(7.2.1 b)項)で用意する資源をそれぞれ指すと考えることもできる。規格執筆者の解説(21g)(22f)やTC176商業本(20d)ではこれと同じ解釈を示唆している。継続的改善と顧客満足とを強調するための表現と説明する解説(29b)もある。
 
  一方、資源マネジメントの対象とすべき資源について、6.2〜6.4項では「製品要求事項への適合」に必要な資源と規定されている。これは単純には、狙いの顧客満足の実現という意味であるから、b)項の資源を指すことになる。しかし実際問題として、これら3種の資源が5章のマネジメント活動に全く必要ないという訳ではないから、「製品要求事項への適合」は品質マネジメントの効果的実行の指標としての狙いの顧客満足の実現という意味、つまり、a)+b)であると考えないといけない。
   
  規格がなぜ資源マネジメントの必要を規定しているかの観点から考えると、どの条項の規定も、事業の維持発展に必要な顧客満足を確実に実現させるよう効果的に品質マネジメントを行うための資源を指すものとして、条文を解釈するべきである。これには、本項のa),b)項は“and”で繋がれたひとつの文章として、a),b)項の区分を無視して『……継続的に改善して、顧客満足を……』と読むのがよい。その他を原文に忠実に和訳するならa)+b)項は「品質マネジメント システムを履行し、維持し、その有効性を継続的に改善して、顧客の必要と期待を満たすことにより顧客満足度を向上させる」と読むのがよい。規格の意図が明確であるからには、ここは、条文表現にこだわる必要はなく、その意味もない。
 
 
4. 資源マネジメント の実務
  組織の経営管理(マネジメント)の実務では、すべての資源を一括対象とする資源マネジメントというような概念も実体も存在しない。資源の投入という言葉を用いるのも、組織の投資戦略とか財務戦略の中で費用という観点から資源を一括横ならびに取り扱う時ぐらいであろう。実際には、人、設備、購買、資金などに分けて、戦略策定や充足計画、維持体制など資源マネジメントの活動が行われている。6章では、本項ですべての資源を対象として資源マネジメントの原則を規定し、以降の条項で人的資源、物的資源、作業環境の、それぞれ個別の資源マネジメントに関する要件を規定している。このことから規格も、全資源を一括対象とする資源マネジメントというものを意図しているものでないことは明らかである。
 
  一般に組織には、事業活動に直接係わる品質マネジメントや生産、輸送、営業、購買、設計などの各マネジメントの業務を縦櫛として、これら業務を人事、環境、労働安全、設備、技術、財務などの観点から見る横櫛のマネジメントの業務とが連携して行われている。それぞれの経営管理(マネジメント)は、それぞれの目的や目標を達成することが役割であり、それぞれのマネジメントの責任者が例えば規格の品質マネジメントでは管理責任者のように決められていることもある。これらの責任者は、他のマネジメントに係わる事項も含めて、自身の責任のマネジメントの目的、目標達成のために必要な業務がきちんと行われるようにする責任がある。関係するマネジメントの活動を調整する最終責任者がトップマネジメントである。
 
 
 
H24.6.29
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サニーヒルズ コンサルタント事務所