ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
31 6.2.1項  人的資源   一般 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-31
6.2.1 人的資源 一般
  製品要求事項への適合に影響がある仕事に従事する要員は、適切な教育、訓練、技能及び経験を判断の根拠として力量がなければならない。
 
 
1.要旨

  本項では、経営資源のひとつである人的資源に関する基本的な要件を規定している。
 
  品質マネジメントの業務の効果的実行を確実にするには、人的資源を整えることが必要である。人的資源としての要員は、員数を揃えればよいのではなく、委ねる業務を手順に則って実行し所定の結果を確実に出す職務能力を持つ要員でなければならない。必要な職務能力がどのようなものか、要員がその職務能力を持つかどうかは、要員の学校教育歴、組織内教育訓練歴、職業上の専門能力、職歴によって表し、また、判断すればよい。
 
 
2. 力 量 (背景及び関連事項)
(1) 職務能力
@ 英語解釈から
  JIS和訳『力量』『力量がある』は原文では“competence”“be competent” であり、それぞれ「何かを満足に、又は必要な程度に行う能力」「何かを満足に、又は必要な程度に行う専門性又は知識をもっている」を意味する(101)。この英語は一般には「何かをする資格、能力」又は「何かをする資格、能力がある」と和訳される(110)。規格の品質マネジメントではこの「何か」は業務のことであるから、『力量』とは業務能力のことである。実際、“competence”は一般事業用語では「ある仕事を満足に行う能力」のこと(118)である。
 
  この業務能力は、各要員にとっては業務を所定の通りに行うことのできる能力を意味するから「業務遂行力」のことである。一方、各要員に業務を与え又は委ねることはその責任及び権限 (5.5.1項)を委ねることであり、要員が業務を行うことはその職務を果たすことであるから、この能力という意味では「職務能力」と表現される。『力量』とは、要員が与えられた又は委ねられた業務を所定の通りに行い、所定の結果を確実に出すことができる、或いは、職務を遂行することができる能力ということである。規格の文脈ではほとんどの場合は「職務能力」が適当であり、業務遂行力、或いは、業務能力という表現の方がどちらかというと適当であることもある。『力量がある』とは、要員にそのような職務能力、業務遂行力、或いは、業務能力があるということを指す。
 
  日本語の「力量」は「人の能力の大きさの度合い」又は「人の能力の大きいこと」を意味(113)し、「力量がある」は優秀であることを意味する。「力量」と言われると、業務を効率的に行い又は出来ばえの良い結果を出すことかとも受けとめられ勝ちである。しかし規格の『力量がある(competent)』は「ある事が出来る」の意味であり、ある業務を所定の通りに実行し所定の結果を出す能力があるということである。規格では『力量』は有るか無いかだけであり(23g)、優秀であることを意味するものでもなく(23i)、『力量が高い、低い』というような概念も表現もない。同じ業務に対する『力量』の有無は要員の優劣の指標とはなるが、『力量がある』要員は優秀な要員を意味するものではない。『力量』とは誤訳に近い、誤解を招き易い不適切な和訳日本語である。
   
A 定義から
  規格の力量 の定義は『知識と技能を適用するための実証された能力』と和訳されているが、原文の意図は、知識や専門性を発揮させて、あることを行うことができるという能力であって、そのことが何かによって証明されていることである#3。すなわち、『技能』は匠の技というような技能に限らず広く職業上の専門性、専門能力のことである。この定義によると、要員が定められた手順や資源についての知識を持ち、それに則って業務を実行できる職業上の専門能力を有して、定められた所定の結果を出すよう業務を行うことを、「知識や専門性を発揮させる」ことと表現し、要員がこの業務を行う能力を有しているかどうかは主観的ではなく、何らかの事実に基づいて証明され、或いは、判断されなければならないということである。
 
  要員が力量がある かどうかは、本項では『教育、訓練、技能及び経験』に基づいて判断すればよいと規定している。94年版では『力量』いう用語は用いられていないが、同様の概念の職務能力に関する判断基準については「教育、訓練及び/又は経験」とし(4.18項)、また、指針規格(138d)では「教育、訓練及び経験」としていた。すなわち、個々の業務に必要な力量は、『教育、訓練、技能及び経験』の内の適当な事項に関する必要条件によって表すことができる。要員がこの必要条件を満たしていれば、力量がある と判断することができる。つまり、力量 の定義の「何らかの事実による証明」の「何らかの事実」とは『教育、訓練、技能及び経験』の実績のことであり、実績がこれらに関して定められた条件を満たしているという事実によって力量がある と判断できるということである。
 
(2) 職務能力の意義
  狙いの顧客満足を確実に実現する効果的な品質マネジメントでは、各業務は定められた手順に則り、用意された資源を使用して行われる。人的資源たる要員は、員数を揃えるのでは十分ではなく、必要な所定の業務結果を確実に出すことができる業務実行能力、つまり、職務能力を有する要員を揃え、各業務に割り当てることが必要である。力量 (職務能力)のない要員に業務を命じても、所定の手順に則って効果的に業務を行い、定められた所定の結果を出すことはできない。力量 (職務能力)があることは、要員に対する必要条件であり、00年版では人的資源の指標である。
 
  品質マネジメントの効果的実行により事業の維持発展に必要な顧客満足を追求するためには、必要な業務を特定し、その実行の手順を定め、使用する資源を用意しなければならない(6.1項)。この資源には、設備などの資源を使用し、手順の通りに業務を行うことのできる要員の力量 (職務能力)という資源が含まれていなければならない。これは実際には、それぞれの業務に必要な力量 を見極め、それぞれの力量 を持った要員に業務を割り当て、或いは、そのような要員を配置することである。
 
  品質マネジメントのすべての業務が所定の通りに行われ、所定の結果が出た総合的結果として、狙いの顧客満足が実現する。影響の大きさは同じでないにしろ、どのひとつの業務も所定の結果を出さなければ、結果的に組織の狙いの顧客満足の実現に支障を来すことになる。従って、どの業務にもそれぞれの力量 がある要員を充てることが必要である。品質マネジメントに関係する業務を行う要員は誰も、それぞれの業務を効果的に実行できる力量 を持っていなければならない。94年版では職務能力は教育訓練の必要性という概念で捉えられていたが、これに関して指針規格(138b)では「すべての階層の要員」に教育訓練を行わなければならないとし、経営者と管理者、管理業務の要員、第一線の管理者と作業者に分けて実施すべき教育訓練につて説明していた。
 
  また、ISO9001規格の要求事項 は、必要な顧客満足を実現するのに必要な事項のみであり、経営管理の実務には大切な例えば労働安全、環境、コスト面からなど他の必要条件には言及していない。従って規格の力量 は、品質マネジメントに必要な所定の業務結果を出すことのできる能力を指す。しかし実務的には、品質マネジメントに関係のない業務といえども、業務の狙いの結果を確実に出す必要があるなら、その業務能力を持った要員に業務を行わせることが必要である。
 
(3) 規格の意図の職務能力の概念
@ 出来ばえ
  『力量がある』つまり「職務能力がある」とは、実行の手際よさや結果の出来ばえは問わない。規格は品質マネジメントを、狙いの結果を確実に出すことを図る体系的で組織的な活動とし、『顧客要求事項を満たすに当たっての品質マネジメント システムの有効性に焦点を合わせている』(0.3項)。規格の要求事項 には効率性や品質が良いか悪いかという観点を含んでいない。要員には与えられ又は委託された業務に所定の結果を確実に出すことが求められ、この業務能力或いは職務能力が『力量』である。効率や出来ばえの良否とは関係なく、力量 は有るか無いかだけである。効率や出来ばえの良否によって、当該要員の力量 が高い、低いと言うのも規格の意図ではない。
 
A 種類
  業務には、やさしい業務、難しい業務、或いは、容易に出せる結果、高度な結果が期待される業務など水準がある。難しい仕事と簡単な仕事は、高度な力量 を必要とする業務とそれほどの力量 は必要としない業務と表現できる。従って、高度な力量 とそうでもない力量 という概念はあり得る。また、知識主体、技能主体など性格の異なる業務があり、分野の異なる業務がある。従って、力量 には、水準、性格、種類がある。要員の能力開発又は業務能力育成とは、要員に新たに水準、性格、種類の異なる「力量」を持たせ、或いは、「力量」の範囲を拡大させることである。
 
  例えば、受付業務が必要とする力量 よりは当該部長の部門統括業務が必要とする力量 の方が一般に高度ではあろうが、案内カウンターに立って受付嬢のように訪問者に好印象を抱かせる応対は出来ないだろうから、高度な力量 の業務をこなす部長であっても案内業務に関する力量 はないということになる。部長職に必要な力量 は、高い学歴と高い管理(マネジメント)に関する専門能力と当該分野の職歴の有無が条件になり、案内業務に必要な力量 は、自然に醸し出す雰囲気を含めた接遇に関する専門能力の高さが条件となる。両業務に必要な力量 は性格や種類が異なる。
 
(4) 資格認定
  94年版では、教育・訓練 を規定する条項(4.18)があり、その中で要員の教育訓練の必要の規定と共に、要員を『資格認定する』ことの必要の規定があり、これに関連して『有資格者』についての規定が、設計及び開発の計画 (4.4.2)と工程管理 (4.9)の条項にあった。
 
  この『有資格者』は英文では“qualified personnel”“qualified operator”であり$41-1、『資格認定する』は“be qualified”であり、この他にも英文“qualification”が工程作業の『認定』(4.9)と和訳されて用いられていた$40-22
 
  この英語は日本語では「資格」云々という表現で表されるが、「資格」と言っても資格認定というような意味だけではなく、何かを行なう能力があるという意味で資格があるとか、そのような能力を持たせるという意味で資格を持たせるという意味がある。94年版では『資格がある(qualified)』の定義が規定され、『規定要求事項を満たす能力があることが実証されている、ある“もの”の状態』とされていたから、規格の意図の要員の『資格認定』や『有資格者』は必要な能力を持っているという意味の「資格がある」ということであった。
 
  このように、94年版の『資格認定』『有資格者』は職務能力があるという意味であり、また、『資格がある』かどうかは『教育・訓練歴及び/又は経験に基づいて』判断することが規定されていたから、00年版の『力量がある(competent)』と同じ意味である。
 
  一方、“competent”(力量がある)と“qualified”(資格がある)との違いについて英文解説書には、「ある人がその業務を実行するための適切な学問を修め、職業訓練を受け、専門性をもっていれば、「資格がある」と認められ、その人が所定の業務結果を達成する能力のあることを証明すれば『力量がある』 と見做されるとの説明がある(23h)。また、両語が同義語であるとした上で「ある人が『資格がある』 としても、必ずしもその業務を実行する『力量がある』とは限らない」と説明する(27b)ものがある。さらに、米国の審査員認証機関RABQSAは00年版に関係して、その認証方式を“qualification”基準から“competency”基準に変更したが、この際には、前者では審査員としての能力を申請者の学歴と専門性や職歴で評価していたのに対して後者では、試験によって申請者の知識、専門性、職務経験、個人的特質を評価すると、両基準の違いを説明している(90)
 
  上記のいずれの説明も、“qualified”(資格がある)はある時期に能力があったことを意味し、“competent”(力量がある)は現時点で能力があることを意味するという違いである。ある時期に職務能力があったとしても、時間の経過と共に一般に怪しくなるから、現時点で実際に職務能力があるとは限らない。例えば、ある要員が以前に経験があるからといっても、現在その業務を所定の通りの結果を出せるとは限らない。『力量がある』ことを要員の保有する公的資格で判断してもよいが、その資格は定期的に更新されるような制度を伴ったものでなければ、当該資格は『力量がある』ことの証明とはならない。要員は業務を行うその時点で必要な職務能力を実際に持っていなければその業務を効果的に行うことができない。用語が94年版の『資格認定された』から00年版で『力量がある』に変わったことだけを取り上げれば、意味するところが変わったのでなく、職務能力の必要性に照らしての厳密な意味で適当な用語が選択されたということになる。
 
(5) 職務能力と教育訓練
  94年版(4.1.2.2)では用語『力量』は使用されず、用意が必要な人的資源を『訓練された要員』と『有資格者』として規定しており、上記(4)のように『有資格者』或いは『資格がある』が英文の意味と規格の定義からは00年版の『力量』に相当する概念であるが、規格の規定からは人的資源の指標は『訓練された』であった。つまり、94年版では人的資源の要件は、力量 (職務能力)があるかないかではなく、教育訓練を履修しているかどうかであった。
 
  供給者が不良品を出荷しないようにするための業務実行の要件を定めたいわゆる品質保証規格は、1959年制定の米国軍需品の品質保証規格MIL-Q9858Aに始まるとされているが、ここには人的資源に関する要件は規定されていない。その後の欧州各国で拡がった品質保証規格も同じ考え方であり、人的資源への言及はなかったと言われる。元来欧米の大量生産は工程を単純な作業の多段階に細分し、作業者の技量を不要にすることに重点が置かれてきた(31a)と言われる。日本では大企業を中心に社内教習所の設置、高卒者の製造やサービス提供の現場への配置、更には、品質サークル活動というように要員の能力を活用する経営が主流であった。1979年制定の英国の品質保証規格BS5750は日本製品への対抗を意識して作成されたとされるが、ここで初めて教育訓練の要件が織り込まれた(31b)
 
  これが1987年のISO9001初版に引き継がれ、検証活動に限定して資源(JIS和訳では『手段』)の必要と『訓練された人員』の割り当ての必要が規定された(4.1.2.2)。同時に『品質に影響する活動に従事するすべての要員の教育・訓練を行う』との規定(4.18)が設けられた。94年版になって、『訓練された要員』が経営資源のひとつであることが明確にされ、また、資源の必要が品質マネジメントのすべての業務に拡大された(4.1.2.2)。この中で教育訓練の必要の規定の文言は両版で同じであるから、『品質に影響する活動』は87年版の場合には『検証活動』のみと見做され、94年版で品質マネジメントのすべての業務が品質に影響すると見做されることとなったと理解される。
 
  しかし、両版における人的資源に関する表現と教育訓練の役割の規定は一定でなく、記述に混乱が見られる。例えば、94年版指針規格(138a)は、必要な経営資源として、設計、製造、試験、検査に係わる設備や装置、制御装置と電算機ソフトと合わせて「人的資源及び特殊な専門能力」を挙げている。そして、これに関連して『要員の能力を確保するために必要な、適性、経験、教育・訓練の水準を定める』ことが必要だと記されていた。この『能力』『適性』の原文はそれぞれ“capability”“competence”であり、前者は文脈からは要員の全体的な業務能力の意味であり、後者は00年版和訳の『力量』である。つまり、力量 と教育・訓練 は共に要員の全体としての業務能力の水準を評価する指標として同列に扱われている。一方で規格本文(4.18)では両版とも『適切な教育訓練履歴及び/又は経験に基づいて資格認定すること』とある。この『資格認定』は下記(2)のように00年版の『力量がある』という意味であるから、ここでは、教育・訓練 は力量がある かどうかの評価指標と見做されている。
 
  00年版では体系的で組織的な業務実行の手はずに、手順の確立と資源の用意が含まれなければならないことが明確にされ(4.1 b)〜d))、6.2項で人的資源としての要員の力量 の必要が明確にされた。そして、この力量 に関して本項で『要員は、適切な教育、訓練、技能及び経験を判断の根拠として力量がなければならない』と規定され、次項(6.2.2項)では人的資源マネジメントの要件として、不足する力量を教育訓練によって充足するということが明確に規定されている。これによって、人的資源の指標が力量 であり、教育・訓練 は要員に必要な力量 を持たせるための手段、或いは、必要な力量 がある かどうかを判断するための指標のひとつであることが明確になった。
 
  これに関連して規格執筆者のひとり(22g)は、00年版の用語「人的資源」は資源に関する「新しい要件ではなく、新しい用語である」とし、94年版の教育訓練ニーズの特定を強調する記述が、力量 ニーズの特定を強調する記述に変わっただけと説明している。そして「力量 ニーズの特定が結果的に教育訓練ニーズに繋がる」との表現で、両者の関係を整理している。
   
  英米の伝統的経営における作業者の能力軽視の風土の中で、検査や溶接やめっきなど特殊な作業に従事する要員に一定の能力を期待せざるを得なくなったことに始まる“qualified”の概念と新な教育訓練の概念が規格作成者の論理の中で融合せずに、『資格がある』と『訓練された』との2本立ての規定が94年版まで存在していたとすると、ISO9001の初版、94年版、00年版における人的資源に関する記述の変遷は、1979年のBS5750の執筆者が認識した要員教育の必要性に関する理解と論理の整理がISO9001規格執筆者の中で進む過程に伴うものであったと考えられる。
   
 
3.規格要求事項の真意
 00年版の『力量がある(competent)』は、94年版ではその能力があるが故に業務を行う「資格がある」という意味の“qualified”と表現されていたが、これをJISは『資格認定された』と和訳していた。また、用意すべき人的資源の指標を『訓練された要員』とし(4.2.2.1)、すべての要員に教育訓練を実施する必要を規定する一方で、特殊な業務にだけ「資格がある要員」の割り当ての必要を規定していた(4.18)。00年版で論理が整理されて、『力量がある』つまり「職務能力がある」ことが人的資源の指標となり、すべての業務に「職務能力のある要員」を割り当てることの必要を明確にした。そして、94年版では資源(4.2.2.1)と、それとは別の条項(4.18)に規定していた教育訓練に関する要件を、人的資源を取り扱う本項に集約し、教育訓練を職務能力醸成の手段のひとつと明確に位置づけた(6.2.2項)。なお、ISO14001には96年初版から“competence”が規定されており、JISでは『能力』と和訳されていた。04年版からは『力量』になった。
   
  組織は、要員の数ではなく、職務能力を指標として、効果的な品質マネジメントのために必要な人的資源を特定し、用意しなければならない。組織は、狙いの顧客満足の確実な実現を図るために、品質マネジメントに関係するすべての業務を、所定の通りに実行され、所定の結果を確実に出すという職務能力を有するそれぞれの要員に委ね又は命じなければならない。各要員が、それぞれの業務に職務能力を有するかどうかを判断する手順を、次の本項規定に則って確立し、手順に則って要員が必要な業務に職務能力を持つことを確実にしなければならない。
 
製品要求事項への適合に影響がある仕事に従事する要員は、適切な教育、訓練、技能及び経験を判断の根拠として力量がなければならない。
 
@ 製品要求事項への適合に影響がある仕事に従事する要員
  『製品要求事項』とは『製品に関連する要求事項』(7.2.1項)と同じであり、顧客の必要と期待たる顧客要求事項 を反映した製品仕様のことである。『〜への適合』は原文“conformity to 〜”の直訳だが、この場合は「〜を満たす」の意味である。『製品要求事項への適合』とは「製品仕様を満たすこと」であり、製品仕様は顧客の必要と期待を満たすように決められなければならない(7.2.1項)から、これを満たすとは必要な顧客満足を実現することを意味する。
 
  94年版(4.18)では『品質に影響する活動に従事するすべての要員』、00年版では『製品品質に影響がある仕事に従事する要員』と表現されていたが、08年版で更にこのように表現が変わった。この08年版の表現は、物的資源(6.3)や作業環境(6.4)の表現に合致させるための変更であり、趣旨は94年版からずっと変わっていない。
 
  すなわち、この『要員』とは、製造及びサービス提供(7.5項)、或いは、製品実現(7章)の業務に係わる要員を指すのではなく、必要な顧客満足の実現に影響する業務を行う要員、つまり、品質マネジメントに関係するすべての業務を行う要員のことを指している。これは、6章に規定の資源マネジメントが品質マネジメントの効果的な実行に必要な資源を使用できるようにすることが狙いであり(6.1項)、本項の人的資源マネジメントもその一環であることからも明らかである。
 
  規格執筆者のひとりは00年版解説で、「本項は、この規格の規定の範囲内の、すべての階層のすべての要員に関係する」と明言している(21h)。更に08年版では、『製品要求事項への適合は、品質マネジメントシステム内の作業に従事する要員によって、直接又は間接的に影響を受ける可能性がある』との注記が付された。この注記の追加ついて、米国TC176代表団は、この要員の範囲を直接に製造やサービス提供に携わる者に限定している組織が少なくなかったためと説明している(32)。本項の『要員』とは、経営者や管理者をも含み、広く4〜8章に規定されるすべての業務を執り行う要員を指す。
 
A 要員は、適切な教育、訓練、技能及び経験を判断の根拠として力量がなければならない。
  要員がある業務に『力量がある』ことは、『教育、訓練、技能及び経験』で判断できる。原文では『教育』は“education”、『訓練』は“training”、『技能』は“skills”、『経験』は“experience”である。
 
  “education”と“training”はよく似た意味の英語であるが、両者を並べて比較すると前者が学校での基礎的及び学問に係わる教育、後者が職業に係わる実務教育であり、また、前者が知識や専門性の教育、後者が肉体的な訓練という、それぞれの色彩が強い。しかし、TC176指針(6) は“training”を「特定の職業上の技量に関する教えを提供又は受ける行為、活動」と説明している。規格の意図は、“education”が義務教育などの学校教育、“training”が職業訓練であり、組織内で行われる教育訓練を意味すると考えるのがよい。この学校教育、職業訓練には、組織に採用される前に職業訓練学校で受けた訓練、組織から派遣されて大学などの教育研究機関で受けた教育、或いは、資格取得を目的として研修機関で受けた研修や訓練等々がある。
 
  次に、“skill”はJISでは『技能』と和訳されているが、『力量』の定義#3における“skill”と同じく、特定の職業能力又は専門性という意味$38とするのが適当である。最後に、experience はJIS和訳の通り『経験』であり、組織の内外における要員の業務経験、職歴を意味する。
 
  『力量』は、知識や専門性を発揮させて、あることを行うことができるという能力であって、そのことが何かによって明らかにされていなければならないと定義されている#3。この「何かによって明らかにされる」の「何か」が、『適切な教育、訓練、技能及び経験』である。94年版では『力量』いう用語は用いられていないが、同様の概念の職務能力に関する判断基準については『教育、訓練及び/又は経験』としていた(4.18項)。また、ISO14001では『適切な教育、訓練又は経験』である(135f)。本項とは異なっているが、他意はなく趣旨は同じである。
 
  ある業務に必要な職務能力は、学歴、組織が行う教育訓練、特定の専門性及び業務経験のいずれかに係わる条件で表すことができる。学歴に関する条件とは、最終学歴、履修教科や専門課程が何であるかという程度であり、訓練に関する条件とは、組織の導入教育、特別な技能教育、OJTによる実務教育訓練などを履修したかどうかである。専門性に関する条件とは、特定の国家資格を有する、又は、特定の業務や活動の講習を受け又は試験に合格して公的な資格や免許を保有しているというようなことである。その他、特定業務分野の経験が永く知識が豊富であり、又は、顕著な業績を挙げている、或いは、特定の関連知識、技法、手法、暗黙知に優れているために、その業務を容易に他の要員に委ねることが困難と認められているような場合の、そのような要員の持つ専門的な能力を指す。経験に関する条件は、組織外での業務経験、組織内での業務経験と当該職務との関連性や経験の長さで表すことができる。要員に力量がある かどうかは、その要員のこれらに関する実績がこれら条件を満たしているかどうかで判断すればよい。
 
  これは、日本の大多数の組織で要員の採用や要員の配置の際に適用している要員の職務能力の判断基準に合致する。しかし、それぞれの条件の表現やこれを満たすかどうかの判断基準の明確さ、定量性、詳細さ、厳密さの程度では、業務と結果の重要性に応じたものでよい。しかし、『適切な教育、訓練、技能及び経験』に基づいて判断するということは、実務の判断基準の論理を表したものであり、実務における方法論の実際を表したものでない。日本製品のすぐれた品質の背景にある第一線の要員の業務遂行能力の高さを、欧米の規格執筆者達が論理としてまとめた表現と受け止めることが実務的には大切である。
 
4. 職務能力の管理の実務
(1) 職務能力
  要員に品質マネジメントに関係する業務を委ねる場合でも、要員はその業務の品質マネジメントに係わる部分のみを品質マネジメントの必要だけを満たして行えばよいのではなく、その部分の他のマネジメントの必要も満たすようにその部分の業務を行う必要があり、また、その部分の前後の他のマネジメントに関係する部分も実行しなければならない。職務能力とは、ある業務の全体をその業務に期待されるあらゆる結果を出すように行うことの能力として定義され、管理される。
 
(2) 採用
  日本の大部分の組織の新卒の定期採用では、就業させる予定の業務に関連して採用予定者を高校卒、大学卒、大学院卒、専門学校卒などに分け、更に、高校なら普通科、工業科、商業科の別、大学なら学部や専門課程に分け、専門学校ならその専門分野に分けて、募集し採用する。中途採用では、学歴と共に、就かせる予定の業務に関する経験のあることや特定の国家資格の保持を条件にして募集することがある。採用した後は、導入教育、特定の技能教育、必要な免許取得や講習受講、就かせる業務のOJT訓練、実地指導などによって、当該業務を委ねるのに不足する職務能力を補った上で、一人前の要員として職場配置し、業務を委ねる。
 
(3) 資格、免許
  個々の業務に必要な職務能力は考え方において、学歴、教育訓練歴、専門性、職歴の条件として決められる。しかし、特に重要な業務、或いは、特に高度な又は特殊な技量を必要とする業務に関しては、要員がその職務能力を持つことを確認する試験や特別な要件を課し、また、これに基づいて組織独自の資格を付与することが効果的な場合がある。資格認定は、内部監査員、安全指導員など通常の職務以外の業務に関する職務能力を持つことを確実にし、持っていることを明確にするためにも効果的である。一般に職務能力は当該業務の継続的実行で維持されると考えられるが、実際の業務実行の頻度が低い場合や、業務実行と結果に感覚的、技能的要素が強い場合などは、必要により認定資格の定期的見直しを行う。
 
  法規制により、特定業務の実行に公的な資格や免許が必要な場合がある。また、特定事業活動や業務に関連してその実行管理のために特定の資格や免許を有する要員を組織内に置く必要を規定する法規制も少なくない。更に、顧客から特定の要員に特定の教育訓練の履修とその証明としての顧客が付与する資格の取得を要求される場合がある。同様に、組織が供給者の要員に対して組織の資格付与基準を満たすことを求めることがある。
 
(4) 管理者の職務能力
  また、管理者の職務能力は、その委ねられ、また、担当した役職名で表現され、人事考課によって管理者としての能力と担当部門に関する職務能力があるかどうかを評価され、任命される。また、前任者との業務引き継ぎによって、当該部門特有の業務実行手はずを習得し、課題を引き継ぐ。
 
 
 
H24.6.29(修H27.3.31)
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サニーヒルズ コンサルタント事務所