ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
35 7.1項   製品実現の計画 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-35
7.1 製品実現の計画
[第1節]
  [第1文]
組織は、製品実現のために必要なプロセス を計画し、構築しなければならない。
  [第2文] 製品実現の計画は、品質マネジメントシステム のその他のプロセス の要求事項と整合性がとれていなければならない(4.1参照)。
[第2節]  製品実現の計画に当たっては、組織は次の事項について適切に明確化しなければならない。
a) 製品に対する品質目標及び必要事項
b) 製品に特有な、プロセス及び文書の確立の必要性、並びに資源の提供の必要性
c) その製品のための検証、妥当性確認、監視、測定、検査及び試験活動、並びに製品合否判定基準
d) 製品実現のプロセス 及びその結果としての製品が要求事項を満たしていることを実証するために必要な記録(4.2.4参照)
[第3節] この計画の アウトプット は、組織の運営方法に適した形式でなければならない。
 
 
1.要旨

  7章では、製品を作り或いは実現し、顧客に引き渡すのに直接関係する業務を取り上げ、製品が事業の維持発展に必要な顧客満足の実現に資するものであることを確実にするようにそれらの業務を行うための要件が規定されている。
 
  本項は、個々の契約又は注文に対して、製品仕様と品質を決め、これを創り或いは実現させ顧客に引き渡すことに関係する業務の方法を決める活動、つまり、『製品実現の計画』活動の必要を指摘し、その要件を規定している。
 
  顧客満足の追求により事業の維持発展を図る組織では、顧客に引き渡す製品は狙いの顧客満足の実現に確実に沿う製品仕様と品質でなければならない。組織は、個々の契約又は注文に対して、そのような製品であることを確実にするように製品仕様と品質を決め、その製品仕様と品質を持った製品を確実に創り出し顧客に引き渡すことのできるように「製品実現関連業務」の方法や条件を決めなければならない。この方法や条件とは、実行すべき業務とその順序や相互関係、及び、その手順と適用する資源、或いは、使用設備を含む各業務の実行の方法や基準等を指す。
 
  組織は、品質マネジメントシステムの計画活動(5.4.2項)の一貫として、この『製品実現の計画』活動をどのように行うかの手はずを確立し、この手はずに則って個々の契約又は注文に対して『製品実現の計画』活動を行わなければならない。決めた通りに業務を行った場合に狙いの顧客満足の実現に資する製品を確実に創り出し顧客に引き渡すことができる効果的な『製品実現の計画』活動であるためには、a)〜d)項について必要な事項を決めなければならない。『製品実現の計画』活動には、業種業態に応じて様々な態様があり得る。
 
   
2.背景 及び 関連事項
2-1. 製 品
(1) プロセス の結果
  ISO9001では、製品とは「プロセス の結果」であり#13、プロセス とは業務のことである$2。製品とは7章の製造又はサービス活動実行の一連の業務の結果で得られる製品だけではない。営業や設計や購買のような製品実現に直接関係する業務、監視測定、データ分析、是正処置の業務、品質方針の設定、マネジメントレビュー等の非日常的な品質マネジメントの業務など、どのような業務であれ得られる結果は製品である。
 
  しかし、ISO9001が実際に対象とする製品は上記の定義とは異なり、94年版(3.1 参考4)、00年版(1.1項 注記1 a))共に『顧客向けに意図された製品(又は顧客に求められた製品)』であり、事業目的として顧客に引き渡す製品のみを指す。94年版では、意図されない製品として『汚染物又は望まれなかったサービス提供の効果(134b)』『環境に影響する副産物(3.1 参考4)』が例示されており、不良品や副産物は製品に含めないということである。
 
  08年版では『いずれの製品実現プロセスからもたらされた意図されたアウトプット』も規格の対象の製品であるとの註釈が(1.1項 注記1 b))が追加された。これにより、設計結果の製品(7.3項)や半製品(7.5項)、購買品(7.4項)も製品であり、加えて、顧客との接点業務(7.2.3項)の結果や顧客所有物の管理(7.5.4項)の結果、出荷や配送、その後の顧客の製品使用の支援の業務(7.5.1 f)項)の結果も製品であることが明確となった。後者の場合、顧客が製品を購入する場合、その製品の仕様や品質に関連する業務に対しても顧客が一定のニーズと期待を持っており、それがどの程度満たされるかが本来の製品を購入するかどうかの顧客の判断に影響を及ぼすことがあるからであり、そのような状況では、狙いの顧客満足の実現にそのような業務の結果も管理する必要が出てくるからである。
 
(2) 製品の類型
イ) 製品4分類
  規格は製品を、サービス、ソフトウェア、ハードウェア、素材製品に分類できるとしている#13-1。この分類では例えば、輸送、修理、販売、宿泊業の製品はサービスであり、電算機システム設計、出版業の製品のプログラムや書籍はソフトウェアという製品であり、機械製作、部品製造、建築業の製品はハードウェアという製品であり、鉄鋼業や化学産業の製品の鉄鋼製品、化学原料、潤滑剤などは素材製品である。
 
  しかし、実際の事業活動には一般に複数の類型の製品が関係している。これについて規格では、多くの製品は複数の製品類型を含んでいるが、その中の支配的な製品類型で呼び方が決まるとしている。例えば自動車は、 ハードウェアであるが、素材製品(燃料、冷却液)、ソフトウェア(運転説明書)や サービス(販売員の操作説明)をも含んでいる#13-2と考えることができる。製造業でも営業や販売サービスの活動があり、サービス業でもハードウェア製品を扱うことが多い。プラントや建造物というハードウェア製品を提供することが目的であってもプロジェクト型事業では需要発掘から見積り、成約に至るサービス活動が同様に重要である。
 
  製品の類型化は、規格をすべての業種、業態の組織に適用するための論理として必要なことである。ある製品をどの類型に分類するかは、実際に不良品を顧客に引き渡さず、顧客のニーズと期待に沿う製品を供給することを確実にする品質マネジメントの在り方に影響するものではない。
 
ロ) サービス
  英語の“service”の意味で規格の意図に関連するものとしては「顧客のために何事かをなすが、品物を作らない事業」「そのような事業上の業務」また「ホテル、レストランや店舗で顧客を支援すること」がある(101)。経済や市場用語としての サービスは「物たる商品に相当する非物質」と定義され、サービス事業は「所有権をもたらさない経済活動である」とも説明される(117)。日本語では通常、奉仕、給仕、接待という行為や活動の意味(113)で使われているから、英語とは概念が異なる。
   
  規格では英語の意味に則って、 サービス を上記(2)のように製品類型のひとつとして整理しており、事業や活動ではなく製品である。誤解のないためには「サービス製品」と呼ぶのがよい。定義規格#13-3は、サービスという製品を「必然的に供給者と顧客との接点で実行されるひとつ以上の活動の結果であり、普通は無形なもの」と説明している。94年版では「顧客のニーズを満たすための、供給者と顧客との接点での活動、及び、供給者の内部活動によって生み出された結果」と定義されていた(134c)。また、指針規格(139a)では、サービス事業も“もの”たる製品を扱っており、サービス事業を有形の“もの”と無形の“サービス”を両極端とする座標軸上の連続的なものと認識するのがよいと説明していた。この説明では、限りなく“サービス”要素の高いサービス事業として法律事務所、限りなく“もの”の要素の高いサービス事業として自動車販売が挙げられている。その中間的なサービス事業の事例として レストランが挙げられているが、これは レストラン業では料理という“もの”と給仕という“サービス”の両者が等分に顧客満足に関係するという観点であろう。
 
  規格では、サービスは『サービスの提供(service provision)』という プロセス (業務)の結果としての製品である。この意味で『サービスの提供』は“もの”たる製品の「製造」に対応する業務や活動である。規格の表現では、自動車が修理された、品物が届けられた、納税申告が代行されたという状態や事実、また、ホテル や レストラン で顧客が睡眠をとり、食事をし、時間を過ごすことを可能にしたことが「サービス」である。この実現のために行った自動車の分解や補修、荷分けや輸送、収支情報の計算や申告書の作成、更には、案内や応接、調理や給仕或いは空間、調度の提供が、それぞれの『サービスの提供』である。製品たるサービスを顧客に『提供』した結果が「サービス」であるという日本語には違和感があり、その意味するところからもJIS和訳『サービスの提供』は「サービス活動の実行」と表現するのが適切である$48-1。
   
  また規格では、この製品たるサービス を顧客に引渡す業務や活動は、『サービスの引渡し(delivery of service)』と表現される。『サービスの引渡し』とは、修理済の自動車を顧客に引き渡すこと、品物を依頼先に引渡すこと、作成した納税申告書を顧客に渡すことである。ホテル や レストラン、販売や営業、或いは、音楽会や演劇事業など顧客との対面で実行される サービス事業では、「サービス活動の実行」と『サービスの引渡し』が同時である。
   
  規格の概念と表現では、サービス活動の実行の結果がサービスであり、サービス事業ではこのサービス製品を顧客に引渡すことで対価を得る。サービスの品質とは、自動車修理では迅速さ、技術的又は経済的的確さ、輸送では迅速さ又は期日遵守の程度、品質保持、会計事務所では遵法性、正確さ、ホテルやレストランでは快適さ、安穏さ、料理の味などに関係する。
   
  これら製品 の概念は、94年版から基本的には変わってはいない。但し、94年版に存在した指針規格「品質マネジメント及び品質システム要素−第2部 サービス の指針」(139)に相当する文書は00年版には引き継がれていない。但し、サービス分野でのISO9001使用のための商業解説書(19)がISOとITC(国際貿易センター)との共同で発行されている。
 
 
2-2. 製品実現のプロセス
(1) 製品実現プロセス群
  『製品実現』は原文では“product realization”である。94年版にはなかった用語であるが、定義は規定されておらず、一般の辞書にもこの言葉は見当たらない。しかし、欧米の解説書では語意について特段の説明がなされていないから、それなりに理解できる概念なのであろう。但し、米国の解説書(33a)に同国より欧州の方がよく使われている用語であると説明され、一方で英国の解説(34)に日常で使われている用語ではなく多少の混乱が生じかねないという説明がある。インターネットでは米国の大学の講座名や論文標題に用いられている事例が見られる。
 
  規格の事業維持発展のための顧客満足を追求する品質マネジメントの業務は、規格の各条項に規定される多くのプロセスから成るが、規格はこれをマネジメント活動、資源の用意、製品実現、測定・分析・改善の4つのプロセス群に大括りしている(4.1項 注記1)。この内の『製品実現』プロセス群を構成するプロセス(業務)は、7章の標題『製品実現』の下の各条項で、契約・受注(7.2.2項)、品質設計(7.2.1項)、工程設計(7.1項)、設計開発(7.3項)、物品・サービスの購入・外注(7.4項)、製造又はサービス活動の実行(7.5.1〜7.5.2項)、製品の保管・顧客への引渡し(7.5.5項)として表されている。
 
  このことから規格は、成約又は受注した製品を創り出し顧客へ引渡すこと、又は、その活動を『製品実現』と読んでいるものと理解される。『製品実現』はさらに、製品を顧客に引き渡した後の関連する活動を行うことも含む。それらの結果も規格が対象とする『顧客向けに意図された製品』(1.1項 注記1)であるからである。すなわち、機械製品の保守、部品補給などの、94年版(4.19)が『付帯サービス』という名で規定していた製品に関連又は付帯するサービス活動は、00年版では『引渡し後の活動』として製造又はサービス活動のひとつとされている(7.5.1項)。『据付け』という表現もなくなったが、これも製造又はサービス活動に含まれる『製品実現』プロセス群のひとつと考えてよい。
 
(2) 製品実現関連業務
  『製品実現』は、成約又は受注した製品を創り出し顧客のニーズと期待を満たす製品として顧客に引渡すことであるが、これは7章の『製品実現』プロセス群の業務だけでは成り立たない。例えば、資源の適用と維持の管理(6章)も、製品の検査、是正処置 を含む業務実行の管理(8章)も、さらには、文書や記録の管理、責任権限の割り当てなどの業務(4,5章)も、製品が所定の製品仕様と品質であることを確実にすることに関係している。
 
  すなわち、規格の意図の『製品実現のために必要なプロセス(製品実現業務)』とは、品質マネジメントシステムのプロセス(業務)の内の、成約又は受注した製品に必要な仕様と品質を決め、その製品を創り出し顧客に引き渡すことに必要又は関係する一連の業務を指す。それは7章の製品実現に直接関係する業務だけでなく、それら業務の実行の基礎となる、又は実行を管理する一連の業務を含む。
 
  この製品実現業務について規格執筆者のひとり(21k)は、顧客のニーズと期待を満たし、狙いの顧客満足を実現する製品を引渡し、また、製品の継続的改善を図るすべての業務を含み、製品だけでなく、組織の品質目標や品質マネジメント システムの他の要求事項 を含めた広い概念で捉えなければならないと説明している。もうひとり(22i)は、製品実現業務は所定の製品を製造するのに必要なすべての業務であるとし、関連する業務の事例として文書の管理、顧客重視関連業務、確立した品質目標、品質マネジメント システムの計画の結果、責任と権限の割り当て、資源の適用と維持を挙げている。
 
  規格の考えでは、品質マネジメントシステムを構成する業務の内の7章の業務以外の業務も、狙いの顧客満足の製品を創り出し顧客に引渡すとことに必要であり、或いは、関係すると考える(23k)。ただし、製品実現業務の具体的な構成や範囲は、業種業態によって異なる。
 
 
2-3. 製品実現の計画
(1) 計画活動
  『計画』の原文は“planning”である。日本語の「計画する」が、将来行なうことの方法や手順を企画することであるのに対し、英語の“plan(計画する)”は、方法や手順を企画するだけでなく、いつでも実行できるように準備をしておくことまでを含む。即ち、将来行なうことの用意万端、手はずを整えることである$28。TC176指針(6)では「(処置や企画された一連の事柄の処理の実行のために)前もって手はずを整える」ことと定義されている。
 
  また、“planning”は英文法上の動名詞であるから、「計画活動」又は「計画すること」である$28。すなわち、JIS和訳『計画』は「計画活動」であり、「手はずを整える活動」のことである。
 
(2) 製品実現の計画活動
  94年版(4.2.3)では『品質計画』という標題(4.2.3項)の下に、『製品実現の計画』に相当する要件が『品質マネジメントシステムの計画』の要件を一部含んで規定され、規格解釈に混乱を生んでいたとされる(27a) (22b)。これについて規格執筆者のひとり(22j)は、00年版では94年版の『品質計画』を「品質マネジメントシステム そのものに関する高位の計画活動」と「品質マネジメントシステムの低位の要素の詳細な計画の活動」とに分け、前者を品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)、後者を本項の『製品実現の計画』としたと説明している。
 
  製品実現の計画活動とは、前記2-2の製品実現業務の実行の手はずを整える活動であり、製品実現業務とは、製品に必要な仕様と品質を決め、その製品を創り出し顧客に引き渡すことに必要又は関係する一連の業務を指す。製品実現の計画活動は、これら各業務の実行の手はずを整えること、すなわち、受注又は成約した製品の目標とする仕様と品質を狙いの顧客満足を実現するように決め、このような製品を実現するのに必要な業務とそれらの順番と相互関係を決め、各業務の実行と管理の手順を確立し、必要な要員や設備などの資源と情報を利用できるように用意する活動である。
 
@ 事業実行管理体制の確立
  組織が事業活動を行うには、受注から製品を創出し顧客に引き渡すまでに必要な要員と設備を配置し、事業活動の目的の製品を明確にし、どのような方法や条件で製品実現関連業務をそれぞれ行うのかが決まっていなければならない。これは、実務的には事業の実行と管理の体制が確立しているということを指し、規格では製品実現の手はずが確立していると表現される。規格に則って実務的に表現するなら、製品実現関連業務の実行の枠組みが確立しているということになる。
 
  この製品実現の手はずを確立する活動は規格では、品質マネジメントシステムの計画活動(5.4.2項)の一部としての製品実現の計画活動である。この製品実現の計画活動は、品質マネジメントシステムの確立に関する要件(4.1項)及び品質マネジメントシステムの計画の要件(5.4.2項)を満たし、製品実現関連業務のそれぞれに対して規格がそれぞれの条項で定める要件を満たすように行われる。
 
  品質マネジメントシステムの計画活動の一部としての製品実現の計画活動は、実務的には事業場の新立地や拡張、設備更新、新製品の投入など、事業実行管理体制の大きな変更の際に行われる。これは規格では『品質マネジメントシステムの変更を計画し、実施する』である(5.4.2項)。
 
A 個々の注文の製品の製品実現方法の決定
  一方、本項の意図の製品実現の計画活動は、実際に成約又は受注した個々の製品 に必要な仕様と品質を具体的に決め、そのような製品を実現させるのに必要な製品実現関連業務の方法や条件を具体的、詳細に決めることである。
 
  このような製品実現の計画活動ではまず、成約又は受注した製品に関して、創り出すべき製品の具体的な仕様及び品質を決める。これは規格では『製品の品質目標』(a)項)である。次に、これを満たす製品を創り出し顧客に引き渡すための製品実現関連業務の具体的な方法を決める。後者では、決められた仕様と品質の製品の実現に必要な業務を決め、それらの順番と相互関係を決め、各業務の実行と管理の具体的な方法や条件、基準を決める。
 
B 製品実現の計画活動の態様
  規格の概念では、成約又は受注した個々の製品の製品実現の計画活動は一般に、確立した製品実現関連業務の実行の枠組みで定められた製品の仕様と品質、或いは、業務やその実行の方法、条件、基準に基づいて、当該の製品に適したものを選ぶ、又は、特定する行為を指す。
 
  しかし例えば、店頭物品販売業では物品毎に確立した製品実現関連業務の実行方法に則って必要な業務が行われ、注文毎に新たに製品実現の計画活動を行うことはない。一方、大規模なプロジェクト型事業では個々のプロジェクト毎に成約から設計、工事、引渡し、操業支援まで一連の業務の手はずをほとんど一から整えるというような、事業体制確立型の製品実現の計画活動が行われる。これらは極端な事例であるが、個々の製品の製品実現の計画活動の態様は、製品の性格、供給方法の違いなど業種業態によって様々である。
 
  TC176の中小企業向け解説商業本の96年版(19a)は、個々の製品に対する製品実現の計画活動の態様を3つに類型化している。すなわち、製品の成約又は受注が日常的で反復性の強い事業では、製品実現の計画活動は既存の手順と資源の選択だけとなる。常に新規な注文であり、又は、プロジェクト受注である事業では、その度毎に新たに事業体制確立型の製品実現の計画活動を行うことが必要となる。更に、通常の成約又は受注には製品実現の計画活動を行わず、定例的でない製品の受注の時だけ製品実現の計画を行えばよい事業もある。
 
(3) 製品の品質目標
  規格で『品質目標』は『品質に関して、追求し、目指すもの』で#22、業務(プロセス)は入力を出力に変換する活動と定義される#1 。00年版の「品質」は実質的に顧客満足度の意味であり(2)、品質マネジメントのすべての業務は事業維持に必要な顧客満足の追求に関係する。従って、規格では品質マネジメントのすべての業務の出力の狙い、つまり、業務の狙いの結果は『プロセスの品質目標』である。
 
  プロセス が製品実現関連業務の場合は、その結果は顧客に引き渡すことになる狙いの仕様と品質の製品であるから、『製品の品質目標』ででもある。
 
  一連の製品実現関連業務の最終結果である最終製品の狙いの仕様と品質は『製品の品質目標』であるが、製品実現の個々の業務の結果である半製品、中間製品、また、設計製品、購買製品の狙いの仕様と品質も『製品の品質目標』である。これら個々の『製品の品質目標』がすべて達成されて、最終製品の狙いの『製品の品質目標』が達成される。
 
(4) 品質計画書
  94年版(4.2.3) の『品質計画』の概念が00年版では『品質マネジメントシステムの計画』と『製品実現の計画』に分けられたのであるが、個々の製品の『製品実現の計画』活動の結果を表す文書は94年版のまま『品質計画書』と呼ばれる。『品質計画書』の定義#12も94年版と00年版で実質的に違いはない。ただし、94年版(4.2.3)では『品質計画書』の作成が必要と規定されていたが、2000年版にはその存在を示す註釈があるだけである(7.1項 注記1)。
 
  定義によると『品質計画書』とは、品質マネジメントに関してある特定の業務結果を出すための一連の業務とそれらの実行の手はずを規定する文書である。個々の製品の製品実現の計画活動の結果を表す『品質計画書』には、狙いの顧客満足の実現に資するよう定めた製品仕様と品質の製品を顧客に引渡すという業務結果を出すためにどのような業務をどのように行うかが規定されている。
 
  『品質計画書』はこれらのことをすべて記述した単一の文書であるとは限らない。これについて、94年版(4.2.3 参考8)では品質マネジメント システムを構成する文書化された手順のどれを適用するかを記述する形の文書でよいとされ、00年版では品質計画書ではしばしば、品質マニュアルの部分又は手順書が引き合いに出されると説明されている#12-2-2。これは『品質計画書』が、当該製品の狙いの仕様と品質、及び、その実現に必要な業務と順番を記述することが中心で、具体的な業務実行の方法や条件は既存のどの手順書のどの部分のどの事項を適用するのかを記述するという形がとられることが多いということを指している。『品質計画書』のこのような性格は、『個別のプロジェクト、製品、プロセス、又は、契約に対して、どの手順、及び、どの関連する資源が、誰によって、いつ適用されるかを規定する文書』という00年版の定義#12-2によく現れている。
   
  製品実現の計画活動の結果は『品質計画書』と他の様々な文書に表される。これら文書の具体例としては、工程計画書、製造又はサービス提供日程計画書、資源調達及び日程計画書、検証/検査・検査計画書、管理計画書、手順書、作業手順書など(22j)、また、プロジェクト実行計画書、製品開発計画書、生産計画書、調達計画書、保守保全実行計画書、管理又は検証計画書、施工計画書、試運転計画書、実績評価計画書など(23m)が挙げられている。
 
   
2-4.製品実現の計画活動の方式と程度
  顧客満足の追求により事業の維持発展を図る組織では、顧客に供給する製品は狙いの顧客満足の実現に確実に沿う仕様と品質でなければならない。製品実現の計画活動で決める個々の製品の狙いの仕様と品質、及び、製品実現業務の方法は、その通りに業務を行えば間違いなく狙いの仕様と品質の製品を創り出し顧客に引き渡すことができ、かつ、製品が顧客に受け入れられ、狙いの顧客満足の実現に適うことが確実なものでなければならない。
    
 従って組織は品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)の一環として、このような適切な製品実現の計画活動 を行うことができるように製品実現業務の枠組みを確立し、同時に成約又は受注した製品について製品実現の計画活動 を行う手はずを確立することが必要である。個々の製品を成約又は受注した場合は、この手はずに基づいて製品実現の計画活動 を行い、間違いない仕様と品質の狙い、及び、製品実現業務の方法や条件を決めるようにしなければならない。
     
 この製品実現の計画活動の手はずを確立するとは、計画活動たる業務をどのように行うかの手順を明確にし、そのための資源を用意することである。実務的には、どの時点で、誰が、何に則って又は何を基準として決め、結果を何に表し、誰が承認するのかということであり、これに用いる情報や書類、電算機システムなどを明確にすることである。
    
 製品実現の計画 の方式と程度は、目標の製品の個々の仕様及び品質(製品の品質目標)の重要性、実現の困難さ、発生する製品の不良や異常の検出と選別の容易さ、或いは、ひとつだけの製品か多量生産の製品かなど製品実現の計画に失敗が許容される程度などにより異なる。無試験無検査で製品の合否判定をする業務実行の有用性の判定 (7.5.2項)の対象の製品の製品実現の計画の場合は、結果の工程条件が目標の仕様と品質が確実に得られるという観点で十分に信頼性のあるものでなければならない。
     
 新規な要素があり、又は、既存の製品実現の計画活動 の手はずによる製品実現方法が所定の製品仕様と品質を実現するかどうかに不確実性がある場合には、試作や模型或いはシミュレーションなどによる検討、評価も必要になる。注記2『製品実現プロセスの構築に当たって、7.3に規定する要求事項を適用してもよい』は、このような場合を指す。
 
 
3.規格要求事項の真意  
  規格の『製品実現』とは製品を創り出し顧客へ引渡すことを意味し、『製品実現のプロセス』は製品に必要な仕様と品質を決め、その製品を創り出し顧客に引き渡すことに必要な又は関係する一連の業務(プロセス)を指す。さらに、『製品実現の計画』は原文では「製品実現の計画活動」であり$28、製品実現に必要な一連の業務の手はずを整える活動のことである。
    
 規格の意図の『製品実現の計画』活動は、体系的で組織的な業務実行によって個々の契約又は注文で顧客に引き渡す製品が経営目標たる狙いの顧客満足の実現に資するものであることを確実にすることが目的である。製品実現の計画では、個々の注文又は契約の製品について顧客のニーズと期待を満たし組織の狙いの顧客満足の実現を図るのに必要で十分な製品の品質仕様と目標及び付帯しようを決め、このような製品を確実につくり上げ、顧客に引渡すことができるように、行うべき業務とその方法や基準、さらには合否判定の方法や基準を決めなければならない。そのような製品実現の計画活動で決めた通りにすべての関係業務が実行された場合は、顧客に異常品を引き渡すようなことはなく、また、引き渡した製品に対して顧客が組織の狙いに沿う満足感を抱くことになる。
 
  組織は、品質マネジメントシステムの計画 (5.4.2項)の一環として、次の(1)〜(7)を満たす『製品実現の計画』活動の手はずを整え、この手はずに則って、成約又は受注した個々の製品に必要な製品仕様と品質を決め、それを実現するための製品実現関連業務の方法や条件の詳細を決めなければならない。
 
 製品実現関連業務の中心は7章に規定される製品実現に直接係わる業務であり、これには本項の『製品実現の計画』の他に、製品仕様の決定を含む受注業務(7.2項)、製品実現の工程設計(7.1項)、製品の設計開発(7.3項)、購買業務(7.4項)、製造又はサービス提供の管理(7.5項)の各業務が含まれる。更に、狙いの仕様と品質の製品だけを顧客に引き渡すための管理業務として8章に規定される業務実行管理(8.2.3項)と製品の合否判定(8.2.4項)の各業務が含まれなければならない。また、設備の保全(6.3項)、計測器の管理(7.6項)、作業環境の管理(6.4項)も製品実現の出来ばえに係わり、狙いの製品を確実に実現させる体系的で組織的な業務実行には文書や記録の管理(4.2.3, 4.2.4項)、要員の責任権限(5.5.1項)や職務分担(6.2.2項)の管理、適切な情報交換(5.5.3項)も関係する。経営目標と直結する製品の場合には、品質方針(5.3項)や品質目標(5.4.1項)の設定と管理も製品実現関連業務となる。
 
   実際の製品実現関連業務の範囲は業種業態によって異なる。しかし、これら業務を外注化し、又は、外部から製品を購入する場合は、それら外注先、購入先の業務及びその結果として組織が受取る製品が間違いないものであることを確実にするための管理の業務を製品実現関連業務に含めなければならない (4.1項)。
 
 
(1) 組織は製品実現のために必要なプロセス を計画し、構築しなければならない [第1節: 第1文]
  品質マネジメントが必要な顧客満足を確実に実現する真に効果的なものであるためには、組織の狙いの顧客満足がJIS和訳『計画し、構築する』は“plan and develop”であり、『計画する』は「手はずを整える」、『構築する』は「開発する」の意味である。
この“plan”と“develop”の違いについてであるが、組織内に製品実現業務の枠組みが確立しており、それを基礎として成約又は受注した製品の具体的な実現の方法や条件を決める場合は「手はずを整える(plan)」である。しかし、新商品の量産移行時や新規なプロジェクトの成約時や、或いは、新規な特性の製品の受注時などには、製品実現のためにこれまでにない新しい業務や手順や要員、設備が必要になる場合がある。このような場合は業務の新たな方法や条件を試し、あるいは、試作や試験が必要になることが多い。このようにして製品実現の具体的な詳細の方法や条件を決める場合は「開発する(develop)」である(23n)。規格執筆者も同じ趣旨の説明をしている(21k)。このような製品実現の方法や条件を決める活動は規格の設計開発(7.3項)の要件に則って行うのが効果的なことがあるというのが条項末尾の注記の趣旨である。
 
  顧客満足の追求により事業の維持発展を図る組織では、顧客に供給する製品は狙いの顧客満足の実現に確実に沿う仕様と品質でなければならない。組織は、製品を成約又は受注した場合には、そのような製品であるのに必要な仕様と品質を決め、その製品を確実に創り出し顧客に引き渡すことができるように製品実現関連業務の方法を決めなければならない。これは規格の依拠するプロセスアプローチ/PDCAサイクルの表現(4.1項)に則ると、実行すべき業務、つまり、製品実現関連業務とその順序や相互関係、及び、その手順や基準、適用する資源、使用する情報を含む各業務の実行と管理の方法や条件等を指す。
 
  組織は、品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)の一環として、このような製品に必要な仕様と品質を決め、製品実現の方法や条件を決める製品実現の計画活動の手はずを確立しなければならない。組織は製品を成約又は受注した場合は、それぞれに対して、この手はずに則って必要な製品の仕様と品質を決め、それを確実に実現するよう製品実現の方法を決めなければならない。業種業態、或いは、製品によっては、製品実現の方法の決定に未知の要素が含まれ、試行、試作や試験を必要とすることがある。このような場合には、製品の設計開発の要件(7.3項)に則って製品実現業務の手はずを整えることが効果的なことがある。
 
  個々の製品が顧客に引き渡されて組織の狙いの顧客満足の実現に確実に与るよう、製品実現の計画活動では、a)〜d)項に関して必要事項を検討し、決めなければならない。
 
(2) 製品実現の計画は、品質マネジメントシステムのその他のプロセス の要求事項と整合がとれていなければならない [第2文]
 この規定は、全く同じ英語文言で94年版(4.2.3)の品質計画に対しても書かれていた。 この意味について、規格執筆者のひとりは「製品実現業務は、規格の7章の他の要求事項に従って実行され、4.1項の要求事項を満たすことになるように決定され、計画されなければならない」(22L)と説明している。また、「個々の製品の実現のために適用する業務は、品質マネジメント システムを構成する業務であるか、それを発展させたものか、又は、品質マネジメントシステムの一連の業務に適応する新しい業務でなければならない」(23p)という解説や、「製品実現業務を計画する際には、規格の4.1項の要求事項を念頭に置かなければならない」(30a)という解説もある。
 
  条文の意図は、製品実現の計画活動の結果の製品実現業務とその手はずは、品質方針に掲げた品質マネジメントの狙いの顧客満足を実現させるようなものでなければならず、個々の製品が狙いの顧客満足の実現に確実に資するものとして顧客に引き渡されるよう、組織的で体系的に実行されるようになっていなければならないということであろう。
 
(3) 製品実現の計画に当たって、次の該当するものを明確にする [第2節]
  『明確にする』の原文は“determine”であるから「決定する」である$6。組織は、製品実現の計画活動においては、次のa)〜d)項の事項を必要に応じて決定しなければならない。品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)の一環として確立する製品実現の計画業務の手はずは、これらの事項を抜けなく正しく決めることができるようなものとなっていなければならない。ここに、a)項は製品実現の一連の業務の目標であり、b), c)項は製品実現の各業務と方法に関し、d)項は各業務の実績に関する事項である。
 
(4) 製品に対する品質目標及び要求事項 [ a)項]
@ 製品に対する品質目標
 JIS和訳『製品に対する品質目標』の原文は“quality objectives for the product”であるから単純に「製品の品質目標」であり、製品実現関連業務で創り出す製品の狙いの製品仕様と品質である。製品の狙いの製品仕様と品質は、顧客の要求或いは契約や注文書の記述にのみ基づいて決めるのではなく、組織の事業維持発展に必要な顧客満足の実現を図るという観点から決めなければならない。このための手続きとして規格は、成約又は受注した製品について狙いの顧客満足の実現を図るという観点から組織が満たすべき「製品に関する必要条件」を決め(7.2.1項)、これに基づき製品実現関連業務の目標としての「製品の品質目標」を定めるということを意図して書かれている。
 
  「製品の品質目標」としての製品仕様と品質は、これを満たすように製品実現関連業務を行い、これを満たすことを検査で確認して顧客に引渡すことになるのであるから、詳細で具体的、定量的に表されなければならない。規格ではものや物事がどんなものかを表す指標は『特性』と呼ばれ#、製品仕様も様々な一連の特性により表される。この考えでは、品質とは特性の優劣のことを指し、規格では顧客のニーズと期待に対する合致の度合いのことである。品質水準は実務では特性を定量化、又は、級別化した特性値として表されるとするのが妥当である。従って「製品の品質目標」は一連の特性と特性値で表され、通常、特性値は狙い値と許容範囲で以て表される。また、特性には、構造や機構、外観など製品の実体に関する特性と、機能、性能、効用、効能など製品の価値に関する特性があり、製品は両方の特性で以て表される。
 
  「製品に関する必要条件」と「製品の品質目標」の違いに関しては、一般には前者は製品仕様と品質が抽象的、定性的な必要条件として表され、後者は特性と特性値によって具体的、定量的に表されていると考えるのが妥当である。規格では「製品に関する必要条件」から特性と特性値に変換する活動は、製品の設計及び開発(7.3項)である。製品に必要な仕様と品質を決める確立した製品実現の計画 活動の手はずによって「製品に関する必要条件」から「製品の品質目標」を決めることができない場合は、製品の設計及び開発 活動を行うことが必要である。
 
  「製品に関する必要条件」が既に特性と特性値で表されている場合もある。この場合は「製品に関する必要条件」をそのまま「製品の品質目標」とすることもあり、例えば、製品の顧客満足、或いは、不良品を創り出さないことを確実にするために、「製品の品質目標」の特性値の方が「製品に関する必要条件」より高い水準に設定されると説明する解説(23q)もある。
 
A 製品に対する要求事項
  『製品に対する要求事項』は“requirements for the product”であり、他の条項(5.4.1項)では「製品要求事項」と和訳されており、また、別の他の条項(6章、7.2項)では“product requirement(製品要求事項)”“requirement related to the product(製品に関連する要求事項)”と表現される。いずれも日本語では「製品に関する必要条件」であり、規格の意図では成約又は受注した製品について組織が満たすべき必要条件のことである。
 
  本項では「製品に関する必要条件」が「製品の品質目標」と並べて挙げられているから、この「製品に関する必要条件」は満たすべき製品に関する必要条件の内の、製品仕様と品質ではないその他の必要条件であると考えるのが妥当である。例えば製品の引渡し方法、梱包や包装の仕様、或いは、補給部品納入に関する要求などである。また、製品表示の内容と方法、保証書や製品の使用又は保管に関する条件、製品廃棄処理に関する注意を含む製品取り扱い説明書の製品添付などもこれに含まれる。これには法令による産地や成分、或いは、賞味期限や使用期限の表示又は通知、化学物質安全データシーートの提出、毒物・劇物のラベル表示も含まれる。
 
  94年版では主たる製品とは別に、機械の据付けや付帯サービスという製品について別途規定していたが、これらは00年版では『製品のリリース、顧客への引渡し及び引渡し後の活動』を製品実現関連業務に含めて記述している。「製品に関する必要条件」とは、これら活動を含む主たる製品に係わる付帯仕様と考えるのが妥当である。
 
  付帯仕様の満たし方が当該製品の顧客満足に直接影響しない場合もあるが、製品を供給するという組織の事業活動全体に対する顧客の評価には間違いなく関係する。付帯仕様の取り上げ方、満たし方は一般に、とりわけ競合組織との市場競争での優劣に繋がる。
 
  組織は個々の製品に対して狙いの顧客満足の実現を図るように決めた「製品に関する必要条件」(7.2項)から、その顧客に引き渡すべき製品の狙いの仕様と品質、及び、必要な付帯仕様を決める手はずを確立し、手はずに則って個々の成約又は受注に対応しなければならない。この狙いの製品仕様と品質及び必要な付帯仕様は、最終製品だけでなく、原材料、部品、中間製品など製品実現の途中の製品に関しても決めなければならない。
 
(5) 製品に特有な、プロセス及び文書の確立の必要性、並びに資源の提供の必要性 [ b)項]
 JIS和訳『製品に特有な』は“specific to the product”であり、c)項では『その製品のための』と和訳され、注記1では“specific product”が『特定の製品』と和訳されている。ここでは「特定の製品の〜」或いは「個々の製品の〜」という日本語の方が適切である。また、『必要性』は“the need”で「何かが必要な状況」の意味であるから「必要」の方がよい。『資源の提供(provide resources)』は、資源を利用できるようにすることである。
 
  文章としてb)項は上記(3)の「〜を必要に応じて決定しなければならない」に繋がる。製品実現関連業務の枠組みが確立している状況であるから「決定する」は大抵の場合「選ぶ」「特定する」の意味になる。原文を和訳すると、「個々の製品について必要な業務の方法や条件を特定し、使用する必要がある文書を特定し、必要な資源を特定しなければならない」である。
 
  製品実現の計画活動では、個々の製品の狙いの仕様と品質及び付帯仕様を決めた(上記(4))なら、それを確実に実現するよう製品実現関連業務の具体的な方法や条件を決定又は特定しなければならない。これには、必要な製品実現関連業務の特定、それらの実行の順序や相互関係の決定、使用する文書の作成又は特定、用意すべき資源又は使用する資源の特定を含む。
 
  このことは、機械工業主体に書かれていた94年版(4.2.3)では『b)要求品質を達成するのに必要と考えられるすべての管理手段、工程、装置(検査・試験装置を含む)、備品、経営資源及び技能を明確にし、確保する』『c)設計、製造工程、据付け、付帯サービス、検査・試験手順、及び、適用文書の相互の整合を図る』と表現されていた。
 
  組織は、個々の製品に決められた「製品の品質目標及びその他の必要条件」を確実に達成又は満たす製品実現関連業務の具体的な方法や条件を、確立した製品実現関連業務の枠組みの下に決定又は特定する手はずを確立し、手はずに則って個々の成約又は受注に対応しなければならない。
 
(6)その製品のための検証、妥当性確認、監視、測定、検査及び試験活動、並びに製品合否判定基準 [ c)項]
 『製品合否判定基準』の原文は“criteria for product acceptance”であり、製品検査の合否判定基準(8.2.4項)の“acceptance criteria”と同じである。『検証』『妥当性確認』『監視』『測定』『検査』『試験』はいずれも、プロセスアプローチ/ PDCA サイクルの管理/Cに相当する活動であり、『測定』は08年版で追加された。これら用語はいずれも用語指針規格(131)で定義されているが、『試験』は94年版では規格に存在した00年版以降には見当たらない。また『その製品のための』の原文は上記(5)と同じ“specific to the product”であるから「個々の製品の〜」である。
 
   上記(5)のb)項が狙いの製品を創り上げる業務であり、本c)項はこの出来ばえを測り、異常製品を顧客に引渡さないようにするための監視測定業務を一般的に取り上げている。取り上げられているのは、検証(7.4.3, 8.2.4項)、妥当性確認(8.5.2項)、プロセスの監視測定(8.2.3項)、検査及び試験の各活動と、製品の合否判定基準(8,2,4項)であり、それらがどのような業務又は製品に適用されるべきかはそれぞれの条項の規定から伺い知ることができる。
 
  製品実現の計画活動では、個々の製品を創り上げるのに必要な業務の方法や条件を決める(上記(5))と共に、その出来ばえが狙いの仕様と品質及び付帯仕様を満たしていることを評価し、合否判定するのに必要な業務の方法と合否判定基準を特定又は決定しなければならない。
 
  組織は、決められた個々の製品の「製品の品質目標及びその他の必要条件」を満たしているかどうかを判断する具体的な監視測定業務の方法と合否判定基準を、確立した製品実現関連業務の枠組みの下に決定又は特定する手はずを確立し、手はずに則って個々の成約又は受注に対応しなければならない。
 
(7)製品実現のプロセス 及びその結果としての製品が要求事項を満たしていることを実証するために必要な記録(4.2.4参照)
   
 [ d)項]
 「記録」は、業務の実行と結果の事実を表す文書#30であるが、条文に(4.2.4参照)と付記される記録は、同項の要件に則って管理することが必要な記録である。これは、品質マネジメントの業務が決められた通りに実行され、狙いの結果が出ていることを表す記録のことである。これらの記録は、事後に問題があった場合に、問題なく業務が行われ、所定の結果が出ていたことを確認し、又は、主張することが目的である。また、問題の事実と記録の照合により現行の業務実行手順の問題点を明らかにすることができる。
 
  しかし規格は、品質マネジメントの業務の実行及び関連する外部の情勢を正しく把握し、問題を摘出し、また。解決を図るための データ分析の活動(8.4項)の必要を規定している。そして、この情報には『監視及び測定の結果やその他の情報源からのデータ」を含めることの必要を明確にしているから、製品実現の計画活動では製品実現に係わるこの種のデータも記録として採取するようにしなければならない。また、製品実現業務の実行の中の上工程の記録を下工程の業務実行条件の決定に用いるというような記録の使い方もある。
 
  製品実現の計画活動では、個々の製品を創り上げ、良品だけを顧客に引渡すように業務の方法や条件を決めたなら、どのような記録を作成するのかを決めなければならない。この記録は多くの場合は、確立した製品実現業務の枠組みの中で製品の種別や製品実現の業務の種類によって一定であるから、個々の製品毎に決めることは少ない。組織は、決められた個々の製品 或いはその「製品の品質目標及びその他の必要条件」に対応してどのような記録が必要かを特定又は決定する手はずを確立しなければならない。
 
(8)この計画の アウトプット は、組織の運営方法に適した形式でなければならない。 [第3節]
 『この計画のアウトプット』というのは、製品実現の計画活動というプロセスの出力のことであり、製品実現の計画活動の結果のことである。つまり、計画活動で整えた手はず、ないし、計画活動で決めたことであり、具体的には成約又は受注した個々の製品についての上記(4)〜(7)のような狙いの製品仕様と品質、及び、それを実現するための各業務の方法や条件のことである。
計画活動の結果は、それに則って行われる個々の製品を創り出し顧客に引渡す業務とその実行管理に適用されるから、文書化の必要の論理(4.2.1項)に従うなら一般には文書化することが必要であると解釈される(22L)。計画活動の結果は『組織の運営方法に適した形式でなければならない』『組織の計画の実行に適した様式でなければならない』という08年版、00年版のそれぞれの規定は、JISもこれと同じ解釈に立っているものと推察される。しかし、原文では両版の表現は同じで、“in a form suitable for the organization’s method of operation”ある。原文を適切に読むと、その趣旨は、計画活動の結果は「組織の業種業態に合った形態でなければならない」というようになる$49。
 
  TC176の解釈データベースには、これに関連する質問と回答が収録されている。すなわち、計画活動の結果は文書化が必要かという質問があり、回答は否となっている。この回答ではJISが『様式』『形式』と和訳する原文の“form” が データ記録用の書式たる文書の意味に誤解されていると指摘し、この“form”は通常の或いは適切な“format(手はず)”を意味するものであると説明している(11a)。また、規格執筆者のひとりは、「明白な(tangible)なアウトプット」でなければならないが「その形態(form)は随意なもの(optional)でよい」と説明している(22L)。
 
  00年版でも製品実現の計画活動の結果を表す文書に『品質計画書』がある(7.1項 注記1)。この定義や内容に関する説明は変わっていないが、規格作成者のひとりは、94年版では品質計画書の作成が必要と規定されていたが、00年版では品質計画書 は製品実現の計画活動の結果を表すひとつの方法である説明している (21k)。これらは、製品実現の計画活動の結果を表す文書が『品質計画書』だけではなく、業務の指示書など他の種類の文書にも表され、或いは、文書化されない場合もあり得ることを示唆している。
 
   例えば、販売業では商品説明から受注、包装、清算、商品引渡しまでの製品実現関連業務の方法は製品実現関連業務の枠組みとして確立されており、注文を受ける毎に製品実現の計画活動を行うことはない。しかし、寸法調整を含む衣服の販売では寸法調整と商品引渡しの詳細手はずを決めて、これを採寸表、引受書のような文書に表す。レストラントの案内係は、客の人数と構成、喫煙有無から製品実現の計画活動として案内すべき座席や小児用椅子や灰皿の用意の必要を決めるが、この結果は文書化せず自らが実行する。ホテルでは翌朝のモーニングコール時間や部屋に運ぶ手荷物の数を受付けで決めた結果の表し方は、それぞれ パソコンへの入力、ベルボーイ への口頭伝達という形態となる。
   
   実際の組織の製品実現の計画活動の在り方、例えば、事業活動のどの段階又は時点で行うのか、どの範囲の業務を対象とするのか、どのような内容を、或いは、詳しさで決めるの等が様々である。とりわけすべての業種業態に適用可能な汎用規格となった00年版では、成約や受注から製品を顧客に引き渡すまでの関連業務の順序と相互関係は多様であり、これを決めた製品実現の計画活動の結果の表し方、適用のしかも様々である。製品実現の計画活動の態様とその結果の形態は、業種業態に合った効果的なものでなければならない。
 
 
4. 製品実現の実務
(1) 日常業務
  一般に組織は製品を創り或いは実現し、顧客に買ってもらうという事業を行っている。組織が事業を行うには、その製品に関するニーズの把握に始まり、製品の企画、開発、製造又はサービス活動の実行、製品の引き渡し、保守や使用相談など事後サービス、また、契約や受注、製品広報、苦情処理、更には、資材や原材料の購買、外注等々、一連の業務の実行が必要であり、そのための業務方法、要員配置、設備、営業拠点など事業体制を確立していなければならない。
   
   事業活動には多様な形態があるが、組織の日常とはつまるところ、確立した事業体制の下で製品の製造・サービス提供(7.5項)の業務を中心とする応札又は受注活動から製品の顧客への引渡しまでの一連の業務を行うことである。これらの業務は規格の製品実現のプロセス である。頻度に差があるとはいえ契約又は受注は日常的にあり、これら製品それぞれについて、必要な仕様と品質、その他の付帯仕様、及び、必要な数量や引渡し時期が明確にされ、その実現の方法が決められ、それに従って各要員が協働して各業務を行い、日常的に製品を顧客に引き渡している。規格の製品実現プロセス は、このような組織の日常業務のことである。
   
(2) 日常管理
  組織で管理者が担う管理業務の目的は、日常業務において決められた業務結果を確実に出すようにすることである。これには、品質、業務量実績、納期、能率、コスト、労働安全など種々の観点があり、管理の対象に照らして品質管理、工程管理、納期管理、生産管理、設備管理等々の様々な名で呼ばれる。
 
  規格の品質マネジメントにおける日常管理は、個々の契約又は注文に対して顧客に受け入れられる製品を確実に引き渡すことである。この管理は、製品の仕様と品質、その実現の方法、及び、日程を決めることから始まる。これが規格の『製品実現の計画』である。次に、これにより決めた通りに業務が行われ、決めた通りの製品を決めた通りの時期に顧客に引き渡す管理が行われる。これは規格ではプロセスの監視及び測定 (8.2.3項)、製品の監視及び測定 (8.2.4項)である。
 
@ 業務方法の決定
  実務の製品実現の計画 活動の態様は業種業態によって様々であるが、一般に次の3種の活動から成る。
a) 品質設計:製品の仕様と品質や付帯仕様を狙いの顧客満足の実現に適うよう適切に決める活動
b) 工程設計:そのような仕様と品質や付帯仕様の製品を確実に実現する方法の詳細を決める活動
c) 日程設計:所定の時期に製品を引渡すために必要な製品実現の日程を決める活動
 
  日常管理では、それぞれの活動が確立した事業体制で決められた通りに、かつ、個々の契約又は注文に対して顧客に受け入れられる製品が引き渡されるように行われていることが監視測定、管理される。この管理を効果的にするためには、各活動に関する手はずを整えておくことが必要である。この手はずは規格では『製品実現の計画』の手はずであり、実務では「品質設計規定」「工程設計規定」「日程設計規定」のような文書に表される。『製品実現の計画』活動がこの手はずに則って行われるよう管理することで、個々の製品に関する業務方法が適切に決められることが確実になる。
 
  これら3種の活動を実際にどの時点で、どの程度に行うのかは業種業態によって異なる。例えば、受注生産型産業では成約又は受注した時点で確立した業務の方法、基準を基礎にして個々の製品に特有の事項或いは詳細を決める品質設計や工程設計が行われる。自身で商品メニューを揃えるような事業形態では、顧客の潜在ニーズや期待を汲み取って新商品を開発しようとする時点で品質設計が行われ、その商品化の決定時点で工程設計が行われる。店舗販売業では、品質設計や工程設計はサービス企画の時点で行われて目標サービス品質や業務方法が確立しており、注文毎に改めてこれを行うことはない。
 
  また、量産型産業では個々の製品の日程計画は他の契約又は注文と合わせた生産計画の中に組み込まれて行われる。プロジェクト型事業では品質設計から工程設計、日程計画までが個々の製品毎に行われる。対面サービス業の日程計画は個々の製品に関して行われることはなく、休日の指定や特別行事の計画などの形となる。
 
  なお、これら3種の活動は、個々の契約又は注文に対して顧客に受け入れられる製品が引き渡されるようにすることが主眼であるが、組織の事業の健全な発展を図るために必要な能率、コスト、労働安全、公害・環境、法順守と言った経営の側面も考慮して、組織全体として最適なものとなるように行われる。
 
A 業務の実行
  どの組織でも管理者がおり、業務が効率的効果的に行われるよう、各業務の実行を監督し管理している。組織の品質マネジメントの業務実行の日常管理は、品質設計、工程設計、日程設計の結果がその通りに実行されるよう図ることであり、決められた仕様と品質、付帯仕様の製品を、決められた数量だけ、決められた時期に、顧客に引き渡すようにすることが狙いである。組織の日常管理には、コスト、能率、労働安全、環境、法順守など様々な観点の管理があるが、大抵の組織では品質マネジメントの業務の日常管理の中心である。
 
  品質マネジメントの業務の実行に関する日常管理は、通常、品質管理と呼ばれ、検査で不良品が出ることのないように各業務を決められた通りに行わしめる管理である。この管理は規格でも『品質管理』活動と呼ばれ『品質要求事項を満たすことに焦点を合わせた品質マネジメント の一部』と定義される#12。 この品質管理は一般には、順守管理と監視測定から成る。]
a) 順守管理:製品実現関連業務が、決められた通りに間違いなく行われるようにする。
b) 監視測定:業務の結果の製品が、決められた仕様と品質及び付帯仕様を満たしているかどうかを判断する。
 
  順守管理には必要により、設備の保全、計測器の使用と校正の管理、要員の勤務管理、作業環境の管理、文書の配付、記録の作成、会議の実行の管理も含まれる。
 
(3) 管理の縦串と横串
  組織の日常業務は、契約又は受注した個々の製品を創り顧客に引渡す活動であるから、組織の日常でどのような業務が、どのように行われるかは、製品を主体に決められる。従って、一般に組織の日常業務は、製品毎にどのような業務をどのような順序で行い、それぞれどのような方法で実行するのかという形で整理され、文書化され、管理される。このような形式の文書が規格の意図の典型的な『品質計画書』である。これには、契約又は受注した個々の製品毎に、品質設計や工程設計の結果が記述され、各業務の手順もそれぞれの業務に関連して記述され、検査や試験の方法や合否判定基準、不良品の処理方法まで含まれている。
 
  しかし、この管理の形式は極く少種類の製品を扱う組織には好都合であるが、製品の種類が多く、また、同じ種類の製品でも例えば色や寸法など付随特性が異なる幾つもの種類がある場合には、『品質計画書』の数が膨大になるなど管理が非効率になる。このような事業では、各種類の製品毎に標準的な仕様と品質を決めて合否判定基準と合わせて「標準製品仕様書」として文書化し、関係するすべての業務毎に業務実行の方法を決め、この中に製品の種類や付随特性毎に特有の方法や条件を織り込み、これをいわゆる「手順書」として文書化する。品質設計や工程設計は個々の製品に合ったこれら特有の仕様と品質、方法や条件を選ぶというような形で行われる。この場合の『品質計画書』には、当該製品の特有の仕様と品質、関係する業務とその順序、或いは、日程のみが記述される。各業務は『品質計画書』に基づき「標準製品仕様書」「手順書」を参照して実行される。業務の実行管理は専ら横串単位で行われ、縦串の管理は業務進捗の管理だけである。
 
  前者の製品毎に業務方法を決めてその実行を管理するやり方と後者の個々の業務毎に業務方法を決めてその実行を管理するやり方は、日常業務の実行管理の縦串と横串に例えることができる。一般にどの組織の日常管理も、どちらの串がどの程度太いか細いかの違いだけで、縦串及び横串の両管理を組みあわせて行われている。品質計画書が品質マネジメント システムを構成する文書化された手順のどれを適用するかを記述する形の文書でよいとする94年版(4.2.3 参考8)の説明はこのような縦串と横串を組み合わせた日常管理に符合する。例えば、プロジェクト 受注型の事業では特に縦串の管理が主体となり、少数の製品を大量生産する事業でも縦串管理が中心となる。同種だが多種の仕様の製品を生産する業種では横串管理を中心として個々の製品用の縦串を通すというような管理になる。
 
  縦串管理では製品毎の不良や数量過不足、製造又はサービス活動実行の実績、工程進捗などが指標となり、横串管理では業務ないし工程毎の不良率、歩留り、製造又はサービス活動実行の実績などが指標となる。
 
 
 
H23.3.24(修H26.3.5) 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
 サニーヒルズ コンサルタント事務所