ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
44 7.3.5項  設計開発の妥当性確認 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-44
7.3.5 設計・開発の妥当性確認
[第1文] 結果として得られている製品が、指定された用途又は意図された用途に応じた要求事項を満たし得ることを確実にするために、計画した方法(7.3.1参照)に従って、設計・開発の妥当性確認を実施しなければならない。
[第2文] 実行可能な場合にはいつでも、製品の引渡し又は提供の前に、妥当性確認を完了しなければならない。
[第3文] 組織は、妥当性確認の結果の記録及び必要な処置があればその記録を維持しなければならない(4.2.4参照)。
 
 
1.要旨

  本項は、『設計開発の妥当性確認』が、設計開発活動の結果(7.3.3項)の製品が顧客に実際に使用された時に顧客の想いの通りに機能し性能を発揮することを確実にする活動であることを明確にし、その在り方に関する要件を規定している。
 
  組織は、設計開発の実行計画(7.3.1項)に定めた段階と方法で、設計開発結果の製品が顧客の実際の使用環境や条件で機能し性能を発揮し、或いは、顧客の予期しない問題を起こす可能性がないかどうかを評価する『設計・開発の妥当性確認』、つまり、顧客のニーズと期待を満たす製品を設計開発するという目的に照らしての有用性の判定を行わなければならない。有用性判定活動で問題が見つかった場合は必要な処置をとって問題を正し、設計開発結果の製品が顧客のニーズと期待を満たして使用されることを確実にすること、すなわち、設計開発結果を有用化しなければならない。
 
  組織は、設計開発活動を管理する手はずの中に設計開発活動の有用性判定を行い、設計開発結果を有用化する手順を含めておかなければならず、設計開発活動の実行計画に従って手順の通りにこれを実行しなければならない。
 
 
2. 設計・開発の妥当性確認 (背景及び関連事項)
(1) 妥当性確認
@ 有用性の判定
  JIS和訳『妥当性確認』の原文は"validation"であり、法的、論理的、真実だから、公式に認められているからなど、何らかの根拠に基づいて有効、有用、許容できることを証明する、表明する、そのようなものとするという意味であり$46、形容詞"valid"は有効な旅券、有効期間などと使われるから、「妥当性」ではなく論理的根拠に基づく「有効性」というような日本語に相当する。
 
  『妥当性確認』を規格は「特定の意図された使用又は適用に関する要件が満たされていることを客観的証拠を用いて実証すること」と定義している#29。ここに「意図された使用又は適用」は一般にはあるものの使用目的を意味し、「製品の意図された使用又は適用」とは決められた製品の使用のされ方のことであり、「プロセス (業務)の意図された使用又は適用」というのは決められた業務実行の結果のことである。このような目的に関する要件が満たされているとは、製品の実際の使用で狙いの機能や性能が発揮されることが確実であるということを意味し、或いは、実際の業務の実行によって決められた結果が出ることが確実であるということを意味する。
 
  すなわち、規格の意図の『妥当性』とは、製品が使用された場合に、又は、業務が実行された場合に、狙いの、決められた結果を出す、つまり、製品や業務実行がその目的を果たすという観点での、製品、プロセス (業務)の有効性という意味である。従って規格の意図の『妥当性確認』は「有効性の実証」である。
 
  しかし規格では『有効性の継続的改善』(4.1項)など「活動が計画通りに実行されて、計画通りの結果が得られた程度」と定義#4される用語「有効性(effectiveness)」が用いられている。この「有効性」は実際に効果がある、効用があるという観点の有効性であるが、「有効性(validity)」は基本的に〜だから〜であるとの確立した論理に基づく「効力がある」という観点の「有効性」であり、実体は「目的実現性」である。同じ「有効性」を異なる概念に用いることは問題があり、「目的実現性」では冗長の感があるので、「意図された使用又は適用」に役立つという意味で「有用性」という日本語を当てるのがよいと思われる。
 
  このように日本語『妥当性確認』は、原文の意味と規格の意図に沿うと「有用性の実証」である。しかし、『検証』の場合も定義では「適合性の実証」であるが$47、品質管理用語や実体からは「適合性の判定」の方が適切であるように、『妥当性確認』も実務における実体からは「有用性の判定」と和訳する方が適当である。JIS和訳の『妥当性確認』は"valid"を「妥当な」、そして、その定義の中の"confirmation" $51を「確認」とそれぞれ誤訳したことにより作られた日本語である。しかし、日本語の「妥当」は穏当な、「確認」は自分で確かめるであり、物事が穏当であることを確かめる活動と受けとられるから、規格の意図の「有用性の判定/実証」とはほど遠い概念の日本語である。
 
  用語"validation"が用いられているのは、この活動における有用性の評価や判断が何らかの根拠に基づいて、論理的に行われるということを明確にしている。例えば製品の有効性は実際に使ってみて判断するのではなく、これこれならこうなるという確立した科学的に間違いない論理に基づいて、これこれが決められた通りだから製品は問題なく使用されるという判断をする。プロセス (業務)の有効性も同じく、実際の業務結果の例えば製品を試験や検査で評価するのでなく、これこれがこのような条件で行われればこうなるという確立した科学的に間違いない論理に基づいてこれこれが決められた条件で行われたことを確かめることにより、その製品が決められた仕様と品質であると判断する。
 
A 有用化
  有用性判定活動における有用性の評価と判定は、問題があれば目的を果たすことを確実にするように問題を正し、業務実行と結果又は製品を目的実現の観点で有効なもの、つまり、有用なものとして確定するために行う。有用性判定活動は、単に目的に有用か有用でないかを識別するだけでなく、業務実行と結果又は製品の有用性を確実なものとする活動である。
 
  さらに、規格の『妥当性確認』は原文では『妥当性確認する』行為の意味である。また、その定義#29の「実証する」(JIS和訳『確認する』)の"confirm"をTC176指針#32は「公式合意によって効力を持たせる」ことであると説明している。従って、「有用性判定活動」という意味と共に、有用性を確実にする活動である「有用化活動」という意味でもある。
 
(2) 規格における適合性判定と有用性判定
  品質用語としての適合性判定又は合否判定(JIS和訳『検証』)と有用性判定(同『妥当性確認』)をそれぞれ、「何かの真実又は現実を確定すること」「健全な権威のある基準に則って何かを支持すること」とする説明(118b)があるように、前者は事実に基づく判断であり、後者は論理に基づく判断であるという基本的な違いがある。
 
  規格の定義によると「適合性判定」は物事が決められた通りであるかどうかを合否判定基準に基づいて評価、判定し、問題があれば正すことによって、その物事を適合化することであり#28、一方「有用性判定」は物事がその使用又は適用の目的を果たすことができるかどうか、目的に照らしての有効性、つまり、目的実現性を確立した論理に基づいて評価、判定し、問題があれば正すことによって、その物事を目的実現性の観点で有効化することである。
 
  規格では「適合性判定」たる『検証』については、製品の合否判定(8.2.4項)と購買製品の合否判定(7.4.3項)、及び、設計開発結果の合否判定(7.3.5項)の必要が規定されている、また、内部鑑査(8.2.2項)は、品質マネジメントの各業務が定められた通りに行われているかどうかを調査し、問題を抽出する活動であるから、実態としては適合性判定の活動である。管理者による日常の業務実行管理(8.2.3項)も、業務実行と結果が決められた通りであるように管理する活動であるから、その本質は適合性判定の活動である。また、再発防止処置(8.5.2項)や未然防止処置(8.5.3項)は、不適合に対応する処置であるから、何らかの適合性判定活動の結果に関係する。
 
  一方、「有用性判定」たる『妥当性確認』については、製造・サービス活動の実行のプロセス (業務)の目的実現の可能性の判定(7.5.2項)及び設計開発結果の目的実現の可能性の判定(本項)の必要が規定されている。また、品質マネジメントの実行の手はずを整える活動である品質マネジメントシステムの計画活動 (5.4.2項)は『品質目標を満たすよう』に行われなければならない。これは組織全体と個々の業務の必要な目標を達成するように各業務の手はずを整えなければならないということである。業務実行の手はずが必要な結果が出るようになっているかどうかは、目的実現性であり、この評価と判断は「有用性判定」である。製品実現の計画 (7.1項)、設計・開発の計画 (7.3.1項)についても同じである。ただし規格は、結果の製品の適合性判定が出来ない製品実現の業務 (7.5.2項)を唯一の例外として、計画 に関する「有用性判定」活動の必要は規定していない。さらに、設計開発活動を方向づけるデザイン・レビューの活動(7.3.4項)は、そのまま設計開発を続けて狙いの設計開発結果(7.3.2項)を出すことができるかどうかという観点からのそれまでの設計開発結果の「有用性判定」の活動であるとも言える。
 
  適合性判定と有用性判定の関係は様々であり、両者が完全に別のものとしてそれぞれ実行される場合、適合性判定結果を客観的証拠として有用性を判定する場合、製品の適合性判定の代わりにプロセス (業務)実行の有用性判定を行う場合、プロセス (業務)の有用性判定をせずに結果の適合性判定のみを行う場合などがある。
 
(3) 設計管理要素としての有用性判定
  規格の設計管理の方法論では「設計開発の有用性判定」は「設計開発の適合性判定」(7.3.5項)と デザイン・レビュー (7.3.4項)と共に、設計開発の結果の製品が所定の必要な機能、性能であることを確実にするための管理要素である。この「設計開発の有用化」の概念の発祥と発展の経緯について詳しく記した文献は見当たらないが、使用環境に科学的未知要素が多く、しかも一発勝負で失敗の許されない宇宙ロケットやミサイルの開発や打上げに係わる製品の信頼性確保の必要から生み出された設計管理の手法である デザイン・レビュー(7.3.4項)と共に形成されてきた設計品質評価の視点であると推察される。
 
  ISO9001規格では、初版には「設計開発の有用性判定」に関係する条項も記述もなく、『デザイン・レビュー(設計審査)』が『設計検証』の一部としての取扱いから独立した条項となった94年版でその用語と条項が登場した。この変化は、設計開発結果が意図の通りであることを確実にする管理を設計検査ないし設計合否判定という意味の"design verification"として一括して扱ってきたのを、当時定着しつつあった設計管理の考え方を取り入れて「方向づけ」「適合性判定」「有用性判定」という3種の活動として区別して取り扱うことになったということを意味している。
 
  「有用性判定」が規格の要件となったのはあくまでも認識の変更であり、設計開発結果を意図の通りとする新しい設計管理の方法論を必要とするようになったということではない。この「設計開発の有用性判定」という用語は今日ではISO9001規格以外でも適用され、種々の事例に照らして異なる表現で説明されている。これらの例えば次の例を見ても、従来の設計開発結果の管理をその視点により二元化するものであること、その趣旨に適う論理的に有効、有用、或いは、効力をもたせるという意味の"validation""validate"という言葉が当てられたものであることが推察される。
 
@ 機械設計の有用性判定
  米国食品安全局(FDA)は医療機器の設計管理を法規化することを決め、これを既存の考えや規格を含めて国際的調和のとれたものとするために1992年に米、日、加、豪、EUの専門家を集めて検討作業班(GHTF Study Group 3)結成し、この結果で1996年に従来の規制GMP(適正製造規範)を廃して設計管理の規定を導入した医療機器製造の新基準(21CFR Part820 Quality Regulation)を発行した。この設計管理の方法論はISO9001の94年版と実質的に同じ、デザインレビュー、適合性判定、有用性判定を含む7要素から成り、NASA(米国航空宇宙局)の供給者に遵守を求める機械設計の管理の要素も基本的に同じ7要素から成るから、これが当時の世界の設計管理の方法論の実態であったことが窺われる。
 
  このFDA新基準では「設計の適合性判定」を「設計結果が設計目標を満たすことを実証すること」とする一方で、「設計の有用性判定」を「機器の仕様が顧客のニーズと意図した使用に適合することを確実にすること」と規定している。ここに「機器の仕様」とは設計結果のことであり、「設計目標」は「使用者や患者のニーズを含む機器の意図した使用に対応したものでなければならない」とされている。設計結果の機器の仕様が意図した使用に対応した設計目標を満たしても、「顧客のニーズと意図した使用に適合する」かどうかの有用性判定が必要であるというのは、同基準の指針文書(84)によると「有用性判定は(設計目標の)使用者のニーズの推定の欠陥を暴露するかもしれない」からである。
 
  FDAが医薬品へのGMP(適正製造規範)規制を維持しつつ医療機器に対してのみ新基準を設定したことに関して、医薬品は開発段階で効能効果用量が決まり、製造段階での規定の遵守で使用品質を確保できるのに対して、医療機器では開発意図と異なる使用のしかたがされ得るので、これを開発段階で十分に考慮しなければならないという説明がある(89)。つまり、FDA基準の有用性判定は、設計目標として整理した設計の意図を越える使用方法や使用環境で医療機器が問題を起こすことのないようにすることが狙いである。
 
  GHTF最終文書(85)は、有用性判定のことを「設計仕様が、部品、素材、製造方法、及び、使用環境に起き得るばらつきを前提して、使用者の必要及び意図した使用に適合することを保証すること」と説明している。つまり、有用性判定の狙いには、製品の製造に係わる設計の期待を越えるばらつきなど不確実性に起因する使用時の問題の防止も含まれることになる。
 
  FDA基準及び指針文書(84)では設計の適合性判定の後に有用性判定を行うよう規定し、また有用性判定の方法として、実生産の最初の生産単位の製品を用いての実際又は模擬の使用環境の下での試験、分析、検査、関連技術文献の蓄積、過去の事例、試用、リスク解析、ソフトウェアの有用性判定などを例示している。
 
A ソフトウェア設計の有用性判定
  NASAの流体力学電算機シミュレーション(CFD)のためのソフトウェアの設計開発基準(49)では、適合性判定を「モデル の実装が モデル開発者の構想説明書を正確に反映し、モデルの解を表していることを決める活動」、有用性判定を「モデル が その意図した使用の視点での実世界を正確に表している程度を決める活動」と定義されている。簡単に言うと適合性判定は プログラム作成作業が正しいかどうか、有用性判定は モデルが正しいかどうかである。
 
  米国国防総省のミサイル防衛に関する電算機シミュレーションモデルの設計開発における有用性判定について「モデル、シミュレーション及び関連データがその使用の狙いに係わる実世界を正確に表す程度を決める活動」と同様に定義している(48)。
 
  医療機器に組込まれたソフトウェアの有用性判定では、機器単独の適合性判定に引き続き、機器との組合わせた状態での実際の使用方法で試験を行い、更に、インプットミス、誤操作、センサーや配線、接点の故障、停電と再開など異常な操作や状態でどうなるのかを試験しなければならない(47a)。
 
(4) 設計開発結果の品質確認としての有用性判定
  設計開発結果の製品が意図した通りの顧客のニーズと期待を満たす製品であることを確実にする活動は日本では、機械産業を中心とする設計管理論(88a)では一般に「品質確認」と呼ばれるが、規格では世界の設計管理の共通論理に基づいて、この「品質確認」に「適合性判定」(7.3.5項)と「有用性判定」(本項)の2種類の視点があることを明確にしている。設計管理要素としての適合性判定と有用性判定との違いに関して、製品を決められた通りに正しく作っているかに関する適合性判定に対して、有用性判定は顧客のニーズと期待を満たす正しい製品を作っているかどうかに関係するとしばしば説明される。しかし実務の設計開発においては、正しい製品の機能や性能を目標として設計開発を行っているのであり、適合性判定でこれを満たすと判断された設計開発結果の製品は正しい製品であるはずである。
 
  実際、設計開発目標(7.3.2項)の機能及び性能に関する要件(a)項)には、顧客のニーズと期待に直接関係する機能や性能だけでなく、安全と健康、試験容易性、有用性、使い勝手、信頼性、耐久性等々、製品の使用に係わる顧客の潜在的ニーズや期待に関する機能や性能を織り込むことになっている。適合性判定(7.3.5項)によってこれらすべての設計開発目標を満たすと判断された設計開発結果(7.3.3項)の製品については「特定の意図された使用又は適用に関する要件が満たされている」というのが論理である。
 
  また、有用性の評価のための試験や実験が製品の使用又は適用の環境下で行なわれなければならないとも強調される。しかし、設計開発目標はその使用又は適用の条件下の機能や性能の必要条件として規定され、適合性判定のための試験や実験も製品の使用又は適用の条件下で行われるから、使用又は適用の環境下で評価や判断ということを以て適合性判定だけでは品質確認にならないということでもない。
 
  規格の論理において、設計開発結果の適合性判定のみでは品質確認にならないというのは、設計開発目標が「特定の意図された使用又は適用の要件」に対応して決められているということに確信がない場合であるということになる。つまり有用性判定とは実質的に、設計開発目標に適合した設計開発結果の製品に関してその使用又は適用に係わる設計開発目標に誤り、不適切、抜けなどがなかったかを改めて評価、判定することである。
 
  このような決定した設計開発目標に確信が持てない状況には種々の状況があり得るが、実務で普遍的な状況としては次の2種類がある。
 
@ 使用又は適用の要件を設計開発目標に正確に展開することが技術的に困難であり、或いは、経済的に合理的でない状況。
A 設計開発した製品が結果として持つ設計開発目標となっていない仕様が、当該の意図の使用又は適用の要件に反する機能や性能をもっている可能性がある状況。この場合は実質的に設計開発目標が不適切ということであるが、すべての設計開発結果に存在する可能性のある状況である。
 
  @の状況には、例えば、加工や鋳造で必要な形状が出るかどうかを、適合化した設計開発結果の加工金型や鋳造鋳型を顧客での加工や鋳造実験による評価で有用性を判定するというような場合である。電算機シミュレーションで有用性を評価できる範囲が拡がりつつあるが、なお顧客での実機試験に判断を委ねることが多い。また、自動車の道路走行試験、航空機の試験飛行、ミサイル試射などの実地試験は、未知の使用環境や使用方法の下での意図しない問題の発生を防止する有用性判定のための方法のひとつである。
 
  適合化した設計開発結果の部品を顧客で他の部品や部材と組み立てて顧客の製品としての必要な機能や性能がでるかどうかの評価が設計開発結果の有用性判定となるというようなこともある。機械の据付け後に顧客の他の設備との連動した試運転、ソフトウェアを顧客のシステムに組込んでの機能確認試験も、設計開発結果の機械の有用性判定の機会である。有用性判定の一環として新製品の試験販売や見本提供による顧客の意向調査を行う場合もある。機械の仮組立、洋服の仮縫い、また、サービスの予行演習などもこの種の有用性判定の方法である。
 
  Aの状況での有用性判定が怠られた結果の品質事故の卑近な例で、若い女性向けゼリーを老人が食べて喉を詰まらせた、家庭用書類シュレッダーに幼児が指を突っ込んで指先を切断した、開閉スイッチに子供が触れて車庫の電動扉の意図しない作動で怪我をした等であり、設計開発結果の製品についてそれぞれ、形や大きさ、刃の防護機構、スイッチカバーの吟味が不十分であった結果である。
 
  この種の有用性判定は、設計開発結果の製品仕様や構造、機構から意図された使用又は適用によりどのような問題が起きるかを検討することによって行われる。これは通常、重大な事故・危険の未然を防止を確実にするという観点からの設計開発結果の評価であり、FMEA(故障モード影響度解析)やFTA(故障の木解析)など問題を予測し抽出する様々な手法が用いられている。また、試作品の機能性能試験、模型による障害発生の検討、電算機シミュレーションなどによって、使用又は適用で起き得る問題を検討する。
 
  設計開発結果の品質確認の一環としての有用性判定は、適合性判定で合格した設計開発結果の製品について必要な程度で、しかし必ず行わなければならない。複雑な製品の設計開発活動では特に、設計開発の各段階でも行い、問題を効果的に、かつ早期に発見し対策処置をとることが、設計開発の最終結果の製品の有用性を確実にするために望ましい。
 
 
3. 規格要求事項とその真意
 JIS和訳『妥当性確認』は英文の意味と規格の意図に照らすと「有用性の判定」の意味である。これは規格の文脈では「有用性の実証」「有用化」と同義語であり、条文ではそのような意味で用いられていることがある。英文“validation”の「有用性」とは、物事がその目的を実現できるかどうかという観点での有効性のことであり、それが客観的証拠を用いて論理的に証明されるという点に特徴がある。
 
  「設計開発の有用性判定」は、「設計開発の適合性判定」(7.3.5項)と共に、設計開発結果の製品(7.3.3項)が意図した通りの顧客のニーズと期待を満たす製品であることを確実にする品質確認の視点のひとつである。有用性判定とは、設計開発目標(7.3.2項)を満たすと適合性判定された設計開発結果の製品が顧客の使用又は適用の方法や環境の下で意図した通りに機能や性能を発揮するか、又は、意図しない問題を生じることがないかを評価する活動である。これは、評価により問題があれば必要な処置をとって正し、設計開発結果の製品が意図した使用又は適用に有用であることを確実にする、設計開発結果の「有用化」が狙いである。
 
  組織は、設計開発活動を管理する手はずの中に設計開発結果の有用性判定の手順や資源を含めておかなければならず、設計開発活動の実行計画(7.3.1項)には適当な有用性判定の手順を織り込み、その有用性判定を行い、設計開発結果の製品が顧客の使用に堪える意図した通りのものであることを確実にしなければならない。
 
(1) 結果として得られている製品が、指定された用途又は意図された用途に応じた要求事項を満たし得ることを確実にするために、計画した方法に従って、設計・開発の妥当性確認を実施しなければならない。 [第1文]
  設計開発活動の結果の製品が、顧客に使用されて万が一にも顧客の使用又は適用の方法や環境の中で所定の性能や機能を発揮せず、或いは、意図しない問題を起し、又は、同じ環境にある別の何かに障害を与えるなど問題を発生させることがあってはならない。 組織は設計開発する製品の目標となる性能や機能を決めるだけでなく、その使用又は適用に関係する必要な事項をも十分に考慮して設計開発目標を決めなければならない(7.3.2項)。さらに、設計開発の結果の製品が実際に使用されて想定外の問題を発生させることのないことを、客観的証拠でもって明確にすることが必要である。
 
  この設計開発結果の有用性判定をどの段階で、どのような方法で行なうかは、設計開発実行計画(7.3.1項)で定めておくことが必要である。JIS和訳「計画した方法に従って」の原英文は 7.3.5項の「計画された通りに」と同じであり、計画した段階で計画した方法でということを示唆している。とりわけ複雑な製品の設計開発活動では、設計開発の種々の重要な段階で行うことが大切である。
 
  有用性判定によって問題が生じる可能性を特定し、必要な処置をとらなければならない。
 
(2) 実行可能な場合にはいつでも、製品の引渡し又は提供の前に、妥当性確認を完了しなければならない。 [第2文]
  『実行可能な場合』は"wherever practicable"であるから「可能な限り」の方が適切であり、『製品の引渡し又は提供』は"delivery or implementation of product"であるから「製品の引渡し又は使用開始」の意味である。製品の顧客への引渡し前、又は、顧客が製品を使用する前に有用性判定を行なうのは、それが製品の品質保証のための活動であることを物語っている。実際に問題がないかどうかを試作品又は初回製品によって顧客での実機試験で評価するような取引も多いが、取引契約上ではこの評価によって有用化をした後に正式に顧客に引渡し又は使用に供するというように受けとめられている。
 
(3) 妥当性確認の結果の記録及び必要な処置があればその記録を維持しなければならない。 [第3文]
  使用した データ などの情報を含む有用性判定活動の結果の記録は、適合性判定の記録(7.3.5項)と同様、次の設計開発活動に対する技術的引き継ぎであり、設計開発活動の方向づけのための「レビュー」の重要な材料である。 また、これらと有用性判定活動で判明した問題点と問題解決のための処置の記録も以降の製品使用で生じる品質問題への対応の基礎となる。これには、有用性判定の方法、問題の改善のための設計開発上及び顧客側の処置、及び、それらの決定や実行の結果などが含まれる。
 
  これらの記録は最終的には当該製品の一連の設計開発に係わる記録のひとつとして整理し、維持することが大切である。FDA(米国食品安全庁)の医療機器製造の基準(21CFR Part820 Quality Regulation)では設計履歴書類の管理として、製品毎の設計変更を含む設計開発活動に関連する一連の情報を整理して維持することの必要を規定しているが、これは規格の7.3.1〜7.3.7項に規定される文書や記録を製品毎に整理して管理することに相当する。
 
 
 
H24.9.27
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サニーヒルズ コンサルタント事務所