ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
50 7.5.2項  製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-50
[第1節] 製造及びサービス提供の過程で結果として生じるアウトプットが、それ以降の監視又は測定で検証することが不可能で、その結果、製品が使用され、又はサービスが提供された後でしか不具合が顕在化しない場合には、組織は、その製造及びサービス提供の該当するプロセスの妥当性確認を行わなければならない。
[第2節] 妥当性確認によって、これらのプロセスが計画どおりの結果を出せることを実証しなければならない。
[第3節]   組織は、これらのプロセスについて、次の事項のうち該当するものを含んだ手続きを確立しなければならない。
a) プロセスのレビュー及び承認のための明確な基準
b) 設備の承認及び要員の適格性確認
c) 所定の方法及び手順の適用
d) 記録に関する要求事項(4.2.4参照)
e) 妥当性の再確認 これら
 
   
1. 概 要

  本項は、製造又はサービス活動の業務(7.5.1項)の内で、その結果の半製品又は製品に問題がないことを引き続く合否判定活動(8.2.4項)で確実にすることができないような業務の実行の管理(7.5.1項)の要件を追加規定している。
 
  組織は、個々の注文又は契約の製品が製品実現の計画(7.1 a)項)で決めた通りの仕様と品質及び付帯仕様であることを確実にするための半製品や製品の合否判定活動(8.2.4項)を行うことができない場合には、それに関連する工程の業務が決められた通りに実行されたことを確実にする管理の活動、つまり、業務実行の有用化の管理を行わなければならない。組織はこのような製造又はサービス活動の業務については、7.5.1項の要件を満たす手はずに加えて、業務実行の有用化の管理のために必要によりa)〜e)項の手はずをも整え、これらに則って業務実行を管理しなければならない。
 
   
2. 背景 及び 関連事項
2-1. 妥当性確認
(1) 用語『妥当性確認』
  JIS和訳『妥当性確認』の原文は“validation”である。これは、法的、論理的、真実だから、公式に認められているからなど、何らかの根拠に基づいて有効、有用、許容できることを証明する、表明する、そのようなものとするという意味である$46。形容詞“valid”は「有効な旅券」「有効期間」などとして使われる「有効な」である。英語“valid”は、論理的根拠に基づき有効であるというような意味であり、一般に「穏当な」と同義語である日本語の『妥当な』をこれに当てるのは適当ではない。また、原文には『確認する』という表現がないのに『妥当性確認』と和訳されているのは、JISが規格の定義の文中の“confirmation”を『確認』と誤訳している$51ことに由来すると考えられる。“validation”は英語では「公式な証明によって有効、有用であるようにすること」を意味する。
 
  規格の意図の『妥当性確認』は、その定義#29から「特定の意図された用途又は適用に関する要件が満たされていることを、客観的証拠を用いて証明すること」である。『妥当性を確認する』というように受け止めるとすれば、この『妥当性』とは『特定の意図された用途又は適用に関する要求事項が満たされていること』であり、『確認』は「客観的証拠を用いて証明すること」のことをそれぞれ指す。ここに「意図された使用又は適用」は一般にはあるものの使用目的を意味するから、『妥当性』は使用目的に対する必要条件に対する適合性のことである。
 
  「製品の意図された使用又は適用」とは製品の決められた使用のしかた、つまり、使用条件のことであり、「プロセス (業務)の意図された使用又は適用」というのは業務の決められた実行のしかた、つまり、実行条件のことである。このような使用条件、実行条件が満たされているとは、製品の実際の使用で狙いの機能や性能が発揮されることが確実であるということを意味し、或いは、実際の業務の実行によって決められた結果が出ることが確実であるということである。
 
  この「有用性」に関して用語“validation”が用いられていることは、この有用性の評価や判断が何らかの根拠に基づいて、論理的に行われるということを意味している。例えば製品が狙いの機能や性能を発揮するかどうかを実際に使ってみて判断するのではなく、これこれならこうなるという科学的に間違いない論理に基づいて、これがこうであるとの客観的証拠によって判断する。プロセス (業務実行)の有用性も同じく、実際の業務結果の例えば製品が狙いの仕様と品質であるかどうかを試験や検査で判断するのでなく、業務がこのような条件で行われればこうなるという科学的に間違いない論理に基づいて業務がこのように行われたという客観的証拠により判断する。
 
(2) 有用性の実証
  “validation”は普通の英語としても、規格の意図においても『妥当性確認』ではなく、計画活動(5.4.2項等)の結果、製品(7.3.6項等)、或いは、業務実行(7.5.2項等)がその目的を果たすかどうか、つまり「目的達成性」の観点での有用性を論理的に実証する活動である。論理的に実証するとは、〜だから〜のような結果が出るはずであるという論理の「〜だから」を表す情報の形の客観的証拠で以て証明するということである。
 
@ 有用性の判定
  「有用性の実証」とは実務的には、提示される客観的証拠に基づいて有用性を判定することと同じである。有用であると判定することが、有用性を客観的証拠で証明することに繋がる。JIS和訳『検証』の場合も定義では「適合性の実証」であるが$47、品質管理用語や実体からは「適合性の判定」である。つまり、実務においてはこのような「実証」と「判定」とは同じ行為であり、両者は同義語である。規格の定義では「適合性の実証」「有用性の実証」と表現されているが、実務の用法としては「適合性の判定」「有用性の判定」という表現の方が適当なことが多い。
 
A 有用化
  「有用性の実証」活動に係わる有用性の評価と判断は、問題があれば目的を果たすことを確実にするように問題を正すことを伴う。「有用性の判定」活動は、計画、製品又は業務実行を目的達成の観点で有用なものとして確定するために行う。有用性判定活動は、単に有用か有用でないかを識別するだけでなく、有用性を確実なものとする活動である。
 
  さらに、規格の『妥当性確認』の定義#29の『確認する』の“confirm”を、 TC176指針#32は「公式合意によって効力を持たせる」ことであると説明している。すなわち、「有用性判定」活動は、計画、製品、業務実行がそれぞれの所定の目的を達成するものと公式に認め、それら計画、製品、業務実行を有用なものとしてそれぞれ効力を持たせるために行われる。「有用性判定」とそれに基づく問題を正す処置によって、計画した手はずで業務を行うこと、製品を次工程に送ること、或いは 業務結果を次の業務に引き渡すことが可能になる。「有用性判定」は「有用化」のために行われるから、有用性判定と有用化とは実務的には同じことであり、「有用性判定」と「有用化」も同義語である。
 
(3) 有用性と有効性
@ 有用性と有効性
  規格には『有効性の継続的改善』『効果的に…』等の『有効性』の概念と用語が存在する。この『有効性』は英文では“effectiveness”であり、「活動が計画通りに実行されて、計画通りの結果が得られた程度」と定義#4されている。『有効性』は実際に効果があったかどうか、効用があったかどうかという観点で有効かどうかであり、JIS和訳『妥当性』の「有用性」は、〜だから〜であるとの論理に基づき「効力がある」と思われるという観点で有効かどうかである。
 
  規格では『有効性』は狙いの結果を達成出来たかどうかであり、その結果をどの程度少ない資源で達成出来るか、達成したかの『効率』と対比される概念である。また、狙いの結果が確実に達成出来るように業務を行うことを、同じ英語の“effectively”を用いて『効果的に業務を行う』と表現する。
 
  一方、「有用性」は『意図された使用又は適用』に役立つかどうかという意味であり、例えば業務結果の『有効性』に対して、その計画、つまり、業務実行の手はずの「有用性」という概念である。但し、規格で用語「有用性」が用いられているのは、設計開発の結果(7.5.6項)と本項の業務実行の有用性だけである。
 
A 有用性判定と適合性判定
  JIS和訳『検証』の“verification”は、ある事が真実又は正確であるかどうかを調べ明らかにするという意味$47から規格では、業務実行や結果又は製品が決められた通りであるという「適合性の実証」を意味する用語として用いられている。『妥当性確認』の“validation”は、法的或いは論理的に有効なものとするという意味$46から規格では、業務実行や結果又は製品がその目的の実現という観点で論理的に有効であるという「有効性の実証」を意味する用語として用いられている。
 
  品質用語としての適合性判定又は合否判定(verification)と有用性判定(validation)は、それぞれ「何かの真実又は現実を確定すること」「健全な権威のある基準に則って何かを支持すること」と説明(118b)される。この説明によると、前者は事実に基づく判断であり、後者は論理に基づく判断であるという基本的な違いがある。
 
  規格の文脈では、物事が決められた通りであるかどうかの「適合性」を合否判定基準に基づいて評価、判定する活動である「適合性の実証」ないし「適合性判定」によって、及び、問題が見出されれば正すことによって当該の物事が公式に「適合化」され。一方、物事がその使用又は適用の目的を果たすことができるかどうかの「有用性」を確立した論理に基づいて評価、判定する活動である「有用性の実証」ないし「有用性判定」によって、及び、問題があれば正すことによって当該の物事が公式に「有用化」される。「適合化」された、又は、「有用化」された物事、例えば、計画した手はず、業務実行、業務結果、製品だけが、次の工程に送られ、又は、次の業務で使用される。「適合性判定」「有用性判定」のどちらも、PDCA/プロセスアプローチ サイクルのP/管理に相当する、狙いの業務結果を出すことを確実にする活動である。
 
  規格では「適合性判定」については、製品の合否判定(8.2.4項)と購買製品の合否判定(7.4.3項)、及び、設計開発結果の合否判定(7.3.5項)の必要が規定されている、また、内部監査(8.2.2項)は、品質マネジメントの各業務が定められた通りに行われているかどうかを調査し、問題を抽出する活動であるから、実態としては適合性判定の活動である。管理者による日常の業務実行管理(8.2.3項)も、業務実行と結果が決められた通りであるように管理する活動であるから、その本質は適合性判定の活動である。また、再発防止処置(8.5.2項)や未然防止処置(8.5.3項)は、不適合に対応する処置であるから、何らかの適合性判定活動の結果に関係する。
 
  一方、「有用性判定」については、製造・サービス活動のプロセス (業務)の実行の目的達成の可能性の判定(本項)及び設計開発結果の目的達成の可能性の判定(7.3.6項)の必要が規定されている。また、品質マネジメントの実行の手はずを整える活動である品質マネジメントシステムの計画活動 (5.4.2項)は『品質目標を満たすよう』に行われなければならない。これは組織全体と個々の業務の必要な目標を達成するように各業務の手はずを整えなければならないということである。業務実行の手はずが必要な結果が出るようになっているかどうかは、目的達成性であり、この評価と判断は「有用性判定」である。製品実現の計画 (7.1項)、設計・開発の計画 (7.3.1項)についても同じである。さらに、設計開発活動を方向づけるデザイン・レビューの活動(7.3.4項)は、そのまま設計開発を続けて狙いの設計開発結果(7.3.2項)を出すことができるかどうかという観点からのそれまでの設計開発結果の「有用性判定」の活動であるとも言える。
 
2-2. プロセスの妥当性確認
(1) 工程保証による製品の品質保証
@ 無試験無検査での合否判定
  「業務実行の有用性の判定」により製品の合否判定をするという規格の規定は、製造業で広く適用されている工程保証とも呼ばれる工程の実行管理に基づく無試験無検査での合否判定という品質管理、品質保証の方式を指している。この品質保証の方式では、
   a) 所定の製品の仕様と品質及び付帯仕様をつくりだす工程を特定し、それを確実につくりあげることができるように製造及びサービス活動実行の工程条件を決め、
  b) その業務実行を監視又は測定して実際の工程条件が決められた許容範囲内にあることを表す情報を基に製品の合否を判定する。工程条件が許容範囲であることを示す情報が製品の合否判定記録となる。
 
  工程保証による品質保証の方式では、無試験無検査で合否判定を行うのであり、製品の合否判定を行わずに製品を顧客に引き渡すのではない。
 
  ISO9001の指針規格の初版及び2版(145c)は、検査や試験で合否判定できない製品の特性として、特性がはるか下流工程でなければ現れないもの、測定の方法がないか破壊試験であるもの、工程内の結果が後の検査や試験工程までは測定できないもの、としての3種の特性を挙げ、更に、溶接、はんだ、熱処理、めっきした金属部品の強度、延性、疲労寿命、耐食性と、重合プラスティックの染色性、収縮、引張り特性を具体例として示し、このような工程を『特殊工程』と呼んでいた。これは、当時の製造業の工程保証による無試験無検査での合否判定の実態を反映した記述である。
 
  この説明にも「特殊工程はとりわけ素材(processed material)産業では珍しくない」とあるように、重量や体積或いは長さで取引が行われる素材産業では無試験無検査での合否判定による品質管理や品質保証が広く行われてきた。化学工業ではほとんどすべてが規格の定義の『特殊工程』と見なされるとする業界の見解(37a)もある。
 
A 効果的な品質管理、品質保証手法
  また工程保証による品質確保の方式は、検査や試験により判定できない製品品質の合否判定のための代替合否判定手段としての意味合いが強いが、製造業の実務では工程保証を時に検査や試験に勝る方法として品質管理や品質保証の効果的で高効率のものとするために様々な形で取り入れられている。
 
  例えば規格でも製品の適合性判定の手法と位置づけられている大量(多個数)生産の場合の抜き取り検査は、業務が一定の状態で行われるよう管理されていることが前提である。従来の統計的無作為抜き取り検査では、終日同じ状態で機械が作動し、要員が作業するという状態の中で意味があったのであった。今日では工程の業務実行を管理することにより製品の特性の変化に繋がる状況を予測し、変化の可能性に応じて検査を行うことが多い。例えば機械の段取りや設定変えの直後と昼食休憩前後及び終業前にのみ検査を行う。このような抜き取り検査方式では管理すべき工程業務の方法と条件を明確にし、それが満たされていることを確認しながら業務や検査が行われることが必要である。典型的なめっきや溶接でも、抜き取り式でめっき量を測定し、超音波検査が行われることがある。抜き取り検査でも、特に抜き取り頻度が少ない場合には、工程保証方式で無検査の品質保証手法との違いはほとんどなくなる。
 
  製品の詳細機能、構造物の強度や耐久性などのいわゆる設計品質は、製品の試験や検査で合否判定を行うことは困難であり、一般には製品設計で決められた特定の仕様の部材や部品の間違いない適用を確実にすることによって品質保証が図られる。例えば、間違った部品取り付けによる製品機能不良の防止のために、混同し易い類似形状の部品を正しく区別して取りつけるために部品と取りつけ部の識別表示の工夫をしたり、間違いない部品適用と組み込みをチェックリストで管理する。製品故障の原因となるボルト止めの数や締まり度合いを特別に管理し、実行結果をチェックリストに記録するというような管理も行われる。
 
  更に、大抵の製造業で検査ミスとして処理される苦情のPDCA/プロセスアプローチ サイクルに照らした原因は、検査業務の実行結果が正しいかどうかを監視測定、合否判定する活動がないからである。検査員を他の作業者と区別し、特別な定期的な教育訓練を受けさせ資格認定するというような制度は、検査業務の実行の質を高めて正しい検査結果が出ることを確実にすることが狙いである。つまり、検査業務の工程保証によって検査結果を無検査で合格と判断するものである。
 
(2) 製品の品質確認としての業務実行有用性判定
  JIS和訳『プロセスの妥当性確認』の原文は“validation of process”である。『妥当性確認』の“validation”は前記2-1(2)より、この場合は「有用性判定」が適当である。“プロセス”は業務の活動のことであり$2、この場合は「業務を行うこと」の意味である。つまり『プロセスの妥当性確認』は「業務実行の有用化」であり、このために「業務実行の有用性の判定」を行うことである。定義#29から、有用性の判定は、決められた論理に基づいて客観的証拠を用いて行われる。
 
  規格の「業務実行有用性判定」は本項において「試験や検査による合否判定を行うことができない製品の仕様と品質に関係する業務について、その業務実行によって計画通りの結果が出ることを証拠で示すこと」であるされている$39-1。規格の論理においては、業務が所定の製品をつくりあげるという目的が実現するように行われたかどうかの業務実行の有用性を判定することが「業務実行の有用性の判定」であり、これにより当該の業務の実行の有用性を証明し、有用なものとして公式に認めることが「業務実行の有用化」である。「業務実行を有用化する」ことによって、その結果の半製品又は製品が所定の仕様と品質及び付帯仕様であることを組織として公式に認め、合格品つまり適合製品として公式に認める。これは「製品の適合化」と表現される(8.2.4項)。つまり、「業務実行の有用性判定」で以て「製品の適合性判定」つまり合否判定に代え、試験や検査のできない製品の特性の品質を保証するのである。
 
   「業務実行の有用化」は94年版では「業務実行の適格化」と表現されていたが、その方法論を「必要な工程能力を確実にするよう当該工程の業務実行を予め適格化し、業務実行においてすべての不可欠の条件を制御する必要がある」とで説明していた$40-21。この説明の「予め適格化する」とは、確実に所定の仕様と品質の製品とするように製造及びサービス活動実行の工程と工程条件を決めることであり、「不可欠の条件を制御する」とは、この工程条件で工程業務が確実に行われるよう管理することを意味している。
 
  同じ工程保証の考えを米国食品安全局(FDA)が医薬品、医療機器の製造管理の規制であるGMP(適正製造規範)の初版(1978年)に“process validation”として取り入れ、規制の国際的調和を図るために1992年に発足させた世界的調和化検討作業班(GHTF)が1999年に“Process Validation Guidance”最終報告書(46)を発行している。このFDAの医療機器製造の規制基準(21CFR)は、「業務実行の結果が以降の検査や試験で完全な適合性判定ができない場合は、それら業務実行を高い信頼性で有用化しなければならない」とし、続けて「決められた要件が継続して満たされることを確実にするように、これら有用化された業務実行の工程条件を監視し制御しなければならない」と規定している。
 
  これは、製造業の無試験無検査による製品合否判定の方法論の実態が、どちらの規格、規則においても、@必要な仕様と品質の製品を確実につくりあげるように製造及びサービス活動実行の工程条件を決める管理と、Aその通りに工程業務が実行されるようにする管理の2つの管理から成るとして整理されたということである。@は計画の有用性、Aは業務実行の有用性に関する管理である。
 
(3) 業務実行有用性判定の意義
@ 規定の意図
  規格では、所定の製品仕様と品質を確実につくりあげるように業務の手はず、つまり、工程業務の方法と条件を決めることは94年版(4.2.3)では品質計画、00年版では製品実現の計画 (7.1項)である。業務が決められた方法で決められた通りに実行され、決められた製品が確実につくりあげられるように業務実行を管理することは94年版(4.9)で工程管理、00年版では製造及びサービス提供の管理 (7.5.1項) である。この原則に照らすと、無試験無検査で合否判定する製品に関係する特定の業務だけに同じ趣旨と内容の「業務実行有用性判定」の管理を規定することの意義があいまいになる。
 
  規格の「業務実行有用性判定」の管理の規定は、試験や検査が出来なくて顧客に引き渡す製品は所定の仕様と品質を満たしていることが必要であること、このためには試験や検査ではない別の合否判定方法を適用をしなければならないことを明確にすることを意図したものであり、そのひとつの方法として94年版の製造業の実務で実績のある工程保証方式を引き継いで規定したと考えるのがよい。すなわち、業務実行の監視測定(7.5.1 e)項)の結果に基づいて、業務実行の有用性判定を行うこと、及び、有用性判定の結果で製品の合否判定を行うことを主眼とした規定である。
 
A 業務実行有用性判定の方式と程度
  規格は効果的な経営管理のあり方を規定しているが、費用と効果の均衡や効果と効率の両立がその基本にあることは、実務の経営管理に対する指針としての規格の性格上で当然である。実際、文書化(4.2.1項)、供給者と購買製品の管理(7.4.1項)、是正処置(8.5.2項)の程度など関してはこの基本が規定として明文化されている。従って、特に言及されてはいないが製品実現の計画 (7.5.1項)と製造及びサービス提供の管理 (7.5.1項)についてもどの程度に厳密なものでなければならないかは、問題の重要性に応じて適切な程度でよいというのが規格の意図である。
 
  この原則に立つと、「業務実行有用性判定」の管理の規定は、無試験無検査での合否判定を行うことに関係する業務の計画と実行の管理が、不良品の出荷に直接繋がるという点から、結果の製品、半製品の不良や異常が試験や検査で検出できる他の一般の業務よりも、厳重でなければならないということを明らかにするものである。当然、一般の製品又は業務より厳重でなければならないが、その厳重さは一律であってはならず、不良品が顧客に引き渡される危険性とその影響の大きさに応じた厳重さでなければならない。「業務実行有用性判定」の方式とその製品合否判定手段としての正しさの程度は、必要に応じた様々なものとなる。
 
  工程業務の方法と条件の決定の方式と詳しさ、厳密さの程度、従って計画の有用性の程度は、当該製品仕様及び品質の狙いの顧客満足実現に関する重要性、その仕様と品質の実現の困難さの程度で異なる。また、ひとつだけの製品か多量生産の製品かなど製品実現の計画に失敗が許容される程度によっても異なる。製品実現の計画 の狙いの仕様と品質の製品を実現する観点からの信頼性を高めるために、計画活動に製品の設計開発の手順(7.3項)を適用し、或いは、試行と試作品による確認、電算機シミュレーシなどの方法がとられることもある。
 
  業務実行の管理の方式と製品の合否判定の能力の程度は、従って業務実行有用性判定の有効性は、次の3つの観点から異なった様々なものとなる。
  イ) 有用性を評価する業務実行条件の指標と有用性判定の基準
  ロ) 指標の監視測定の頻度 (連続的、一定間隔、業務実行の節目毎など)
  ハ) 判定の単位 (個々の製品毎、業務実行のロット単位、業務実行全体として)
 
B 他の無試験無検査による品質保証の方式
  TC176指針(5c)では、外注した業務の結果の製品、半製品を組織が試験や検査で合否判定できない場合には、アウトソースしたプロセスの管理に本項の「業務実行有用性判定」を含めなければならないと説明している。しかし、この場合は業務実行実績の供給者による監視測定データに基づいて組織が「業務実行有用性判定」をするか、或いは、供給者の検査実績の報告書、時には特定の業務実績の報告書と合わせて供給者が所定の方法と条件で業務を実行したことを組織が評価し、その有用性を判定する。いずれの場合も組織が行う有用性判定のために供給者による業務実行の監視測定データを用いるのであり、組織はそれが信頼に足ると信じることができる程度に供給者の全体的な業務実行状況を把握、管理しておく必要がある。規格ではこの管理の方式は「認証」である(7.4.3項)。
   
  規格の「業務実行有用性判定」は製品の合否判定が目的であり、有用性判定により製品を適合化して顧客に引渡すことが建前である。しかし、対面サービス のような製造及びサービス活動の実行(7.5.1項)と製品の引渡し(7.5.1 f)項)が同時である場合では、製品の顧客への引渡しに先だって製品の合否判定ができないということは「業務実行有用性判定」を基にした合否判定の方式を適用しても変わらない。また、投資相談事業において顧客が期待する利益をあげることが確実な提案であるかどうかや、医療機関での医師の見立てが正しく、処方で患者が速やかに健康を回復するだろうかという観点での合否判定は、提案や処方という製品の評価でも検討や診察という業務実行の評価でも実行不可能である。適合製品のみを顧客に引き渡すという製造業製品の品質保証方式を基礎とし、規定表現を汎用化することですべての業種業態への適用が可能となるように改訂を重ねてきたISO9001の限界である。
 
(4) 用語「業務実行有用性判定」
  無試験無検査での製品の合否判定を行うための業務の手はずの確立と実行の管理を“validation of process”と呼ぶことになったのは00年版からであり、『プロセスの妥当性確認』と和訳された。また、これは、“Validation”が目的達成性の論理的な評価と言う意味で設計管理手法(7.3.6項)のひとつの概念として定着してきたことや、FDAの GMP(適正製造規範)の“process validation”の定義のGHTF活動による検討、確立(46)に関連していると推定される。その後、医療機器分野の規格であるISO13485規格の03年版でも『プロセスの妥当性確認』の用語と概念が取り入れられた。なお、ISO13485を反映した厚労省令の医療機器GMPでは規格の“validation”を『バリデーション』と和訳している。
 
  ISO9001規格の初版と94年版では、試験や検査で合否判定ができない製品に関係する工程を『特殊工程』と呼び、『連続的な監視及び手順書の遵守』(初版)、及び、『工程パラメーターの連続的な監視と管理』『有資格者による作業』など『特殊工程』の管理の要件を具体的に規定するだけであった。しかし、94年版(4.9)には “qualification”を用いた『工程作業の認定』という表現があり、この“qualification”の「適格化」の意味する英語$40-2であるが、これが00年版の「有用化」に相当する用語であった。また、初版の指針規格(138f)には、英文では“qualification (validation)”である『プロセスの事前の認定 (妥当性確認)』という表現があることから、規格では「適格化」と「有用化」が同じ概念であることがわかる。
 
(5) 特殊工程
  規格では業務実行の有用性判定によって製品の適合性判定を行うことが必要な業務の工程を『特殊工程』と呼ぶ。00年版では用語『特殊工程』が規定から消えたが、定義規格(131n)に『結果として得られる製品の適合が容易に又は経済的に検証できないプロセスは、特殊工程と呼ばれることが多い』として残っている。
 
  初版では指針規格(37a)で『特殊工程』の例として、後の工程で初めて特性が決まる、特性の測定方法がないか破壊試験である、後の検査や試験が不可能か実際的でない、の3種の工程を挙げ、これは94年版(145c)にも引き継がれていた。そして、これに該当する検査や試験で合否判定できない製品の特性として、次を挙げていた。
 @ 溶接、はんだ、熱処理、めっきの結果としての強度、延性、疲労寿命、耐食性
 A 重合体プラスチックの染色性、収縮性、引張り強度
 B パン焼き製品の味、肌合い、外観
 C ソフトウエア製品、会計書類や法律文書の正確さ
 
  00年版では用語『特殊工程』がなくなったが、08年版のCD版では注記に『溶接、殺菌、教育訓練、熱処理、コールセンターサービス、緊急事態対応』を『特殊工程』として例示していたから、規格執筆者の中にこの用語と概念がなお存在していることがうかがわれる。
 
  94年版では、溶接、はんだ、熱処理、めっきが典型的な『特殊工程』であるとされてきたが、非破壊検査、素材製品に関する混合、温度状態、環境条件、食品の味、サービスの正確さ(36b)を例示する解説もあった。汎用規格になった00年版では、解説書での例示も、塗装、接着、無塵室作業、医療機器の殺菌、ソフトウェア開発(30b)、鋳造、鍛造、成形、財務や法的文書の作成、専門的助言の提供(21aa)他、ある種の職業訓練の提供(22n)、音楽演奏や演劇など芸能活動、医療活動(38a)、検査や試験活動(23z)と多様になった。
 
  「業務実行有用性判定」の規定の意味は、試験や検査で合否判定できない製品仕様や品質の合否判定をどのようにするかであり、実務では何が『特殊工程』かの議論は重要ではない。
 
 
3. 規格要求事項の真意
  初版では『特殊工程(special process)』を『事後の検査及び試験ではその結果が十分に検討できない、また、例えば 製造の欠陥が製品の使用段階においてしか現れないような工程のこと』と規定し、そのような工程の工程管理の独立した条項(4.9.2)を設けていた。 94年版では用語『特殊工程』を用いないで要件のみが一般工程管理 (4.9項)の中に含めて規定され、00年版では『プロセスの妥当性確認』という表現が導入されると共に再び別条項として規定されている。これは、製造業で広く用いられてきた、工程保証と呼ばれる工程の実行管理に基づき製品を合否判定するという品質管理、品質保証の手法が、初版規格の作成時に当時の実態をそのままに取り入れられ、00年版で目的実現性に係わる用語“validation”が当てられ、規定表現が変更されながら08年版まで引き継がれてきたものである。
 
  JIS和訳『プロセスの妥当性確認』は、原文の意味と規格の意図に照らすと「業務実行の有用性判定」である$46。これは規格の文脈では「有用性の実証」「有用化」と同義語であり、条文ではそのような意味で用いられていることがある。原文“validation”の「有用性」とは、物事がその目的を実現できるかどうかという観点での有効性のことであり、それが客観的証拠を用いて論理的に証明されるという点に特徴がある。
 
  「業務実行の有用性の判定」は、製造又はサービス活動実行の特定の工程の業務がその目標の製品を間違いなくつくりあげるように行われたかどうかの判定であり、そのことを当該業務が定められた方法と条件で行われたことを示す客観的証拠によって判定することである。実務的には、この判定に基づいて検査や試験を行わないで製品の合否判定を行うことである。
 
  規格は製造業を中心とする品質保証活動の実態を写して、製品が決められた通りの仕様と品質及び付帯仕様であることを証拠で判定する2種類の品質確認の手法を規定している。すなわち、製品の特性を試験、検査する直接的な「製品の適合性判定」方式(8.2.4項)と、業務実績に基づく「業務実行の有用性判定」方式のである。
 
  組織が、製品が所定の仕様と品質及び付帯仕様(7.1 a)項)であるかどうかを試験や検査などによって合否判定(8.2.4項)を行うことが技術的、経済的、その他の理由で不可能である、又は、合理的でない場合には、「業務実行の有用性判定」によって製品の合否判定を行わなければならない。業務実行の有用性に問題がある場合は、当該製品は不適合製品(8.3.項)として処理し、適合製品つまり合格品のみを次の工程に送り、或いは、顧客に引き渡すようにしなければならない。
 
  製品実現の計画活動 (7.1項)において、このための工程業務の管理の手はずを製造及びサービス活動の実行及び管理(7.5.1項)の手はずの中に含め、その管理された状態 の中で実行されなければならない。対象の製品特性を正しく合否判定するために必要な特定の業務実行の方法と条件及び許容範囲を決め、業務実行で遵守し、遵守結果を監視測定し、許容範囲に照らして業務実行の「有用性」を評価、判定しなければならない。
 
(1) 製造及びサービス提供の過程で結果として生じるアウトプットが、それ以降の監視又は測定で検証することが不可能で、その結果、製品が使用され、又はサービスが提供された後でしか不具合が顕在化しない場合には、組織は、その製造及びサービス提供の該当するプロセスの妥当性確認を行わなければならない。 [第1節]
  この『プロセスの妥当性確認を行う』は原文では“shall validate”であり、趣旨は「〜の場合には、(関係する)どの業務実行も有用化しなければならない」である$46-2。 また、『検証』の英文は品質管理用語の“verification”と同じ「適合性の判定」の意味で用いられており$47、ここでは検査や試験により製品の合否判定を行うことである。
 
  さらに、『製造及びサービス提供』は原文では「製造及びサービス活動の実行」であり$48-1、もうひとつの『サービスが提供される』は原文では サービス活動の実行の結果のサービスという製品を顧客に引き渡すことを意味する「サービスの引渡し」である$48-2。この「サービスが引渡される」は有形の製品に関する『製品が使用される』に相当する状況を意味している。輸送サービス業では荷物を届けること、修理業では修理済み製品を引き渡すこと、電話相談窓口では質問に答えることである。
 
  製造及びサービス活動実行の工程の業務の結果として生じるアウトプット、つまり、半製品又は製品の特性が、それ以降の監視又は測定、実務的には検査や試験などによる合否判定をしないまま顧客に引き渡したなら、不良品や異常品が混入しているかも知れず、製品の使用中又はサービスの引渡しの後に不良や異常が顕在化することにもなる。このような事態を避けるためには、その結果で所定の仕様と品質及び付帯仕様(7.1 a)項)の製品が確実に実現するように、業務実行を有用化しなければならない。すなわち、業務実行の有用性の判定によって製品の合否判定を代替し、合格品のみを顧客に引き渡すことを確実にしなければならない。
 
(2) 妥当性確認によって、これらのプロセスが計画どおりの結果を出せることを実証しなければならない。 [第2節]
  この条文は上記(1)の「業務実行の有用化」の意味を規定している。すなわち、英文の趣旨は「有用化とは、これらの業務が計画通りの結果を出せることを証拠で示すことでなければならない」である$39-1。この「証拠」とは、当該業務が定められた方法、条件で実行されたということを示す情報である。 
 
  「業務実行を有用化する」とは、当該業務が定められた方法、条件で実行されたということを示す情報を証拠として、その工程業務の実行が間違いなく所定の仕様と品質の製品を生み出すことのできる「有用な」ものであったということ公式に認めることである。そして「有用化された」業務実行の結果の製品を所定の仕様と品質の製品であると判断し、製品が合格品であると公式に認める、すなわち、当該製品を「適合化」するのである。
 
  業務実行の有用化は、必要な仕様と品質の製品を確実につくりあげるように製造及びサービス活動実行の工程条件を決める管理と、その通りに工程業務が実行されるようにする管理の2つの管理から成るが、ISO9001の業務実行の有用化の規定は、後者の管理に係わる要件を意味する。このことは、94年版(4.9項)で特殊工程の管理が『工程管理』の要件の一環として規定されていたことや、00年版でも『製造及びサービス提供』の管理(7.5項)の一環として規定されていることで明らかである。すなわち、7.5.1項では製造及びサービス活動実行を『管理された状態で実行しなければならない』と規定し、そのための要件としてa)〜f)を規定しているが、検査や試験ができない製品の場合には『管理された状態』のための要件として業務実行の有用化の管理が追加されなければならないということである。
 
  前者の計画の有用性に係わる管理は、7.1項の『製品実現のために必要なプロセスを計画し、構築しなければならない』という規定に包含されており、個々の製品について「(品質目標と付帯仕様を満たすのに)必要な業務の方法や条件」(同b)項)、「必要な検証、妥当性確認、….」(同c)項)を決めなければならないという形で規定されている。なお、計画の有用性をどのような方法論でどの程度の厳密さで確実にすべきかということについては直接的な規定はない。
 
(3) 組織は、これらのプロセスについて、次の事項のうち該当するものを含んだ手続きを確立しなければならない。 [第3節]
  『手続き』は英文では“arrangement”である。規格では『計画(plan)」が“arrange in advance(前もって手はずを整えること)”と定義(10)されているように、“arrangement”は計画活動で整えた手はずのことを指し、簡単には、定められた手順と用意された資源のことである。『該当する』は「可能ならば」である$44。『これらプロセス』とは、上記(1)(2)の「業務実行の有用化」の管理を必須とする製造及びサービス活動実行の工程業務のことである。
 
  組織は、業務実行の有用性を確実にする管理の手はずを整えなければならない。この管理を効果的に行うためには、業務実行の有用性判定の手はずに、次のa)〜e)の内の必要で、可能なものを含めなければならない。94年版(4.9)では、溶接、めっき、熱処理などの特殊工程を念頭において『関連する設備及び要員を含む工程作業の認定』をした上での『工程及び設備の承認』『有資格者による作業の実行』及び『工程パラメーターの連続的な監視及び管理』という3つの業務実行の管理の手はずが規定されていたが、00年版では全業種業態に適用可能な汎用的表現の規定となった。
 
(4) プロセスのレビュー及び承認のための明確な基準 [ a)項]
  『明確な基準』の原文は”defined criteria” であり、“criteria”は他の条文では『判断基準$6-2』『合否判定基準$12-2』と和訳されており、“defined”は「明確にされた」である$20。 ここでは、有用性判定基準が定められていて、適用できるようになっているという意味である。『レビュー』は”review”であり、この場合はそれでよいかどうかを評価する意味での見直しの意味であり$22、業務が所定通りに実行されたことを示す証拠の情報を評価することである。この評価の結果で、業務実行が有用であったと判断し、公式に認めることが『承認』である。
 
  すなわち、条文の意図は「業務実行の実績を評価し有用性判定を行うための基準を明確にする」であり、上記(3)との繋がりでは、この基準を作成し、用意し、基準に従って有用性判定を行わなければならないということである。
 
  業務実行の有用性を図る管理では、所定の仕様と品質の製品となることが確実であるために絶対に遵守しなければならない工程業務の方法や条件とそのばらつきの許容範囲を明確に定めておかなければならない。業務実行においては、この有用性判定基準に係わる実績を監視測定(7.5.1 d), e)項)し、監視測定結果のデータを評価して、判定基準たる許容範囲に照らして有用性判定を行う。この結果で有用性が承認された業務実行に係わる製品を合格品、つまり、適合製品として公式に認め、製品の直接的な監視測定(8.2.4項)による製品の合否判定を代替する。
 
  94年版(4.9)では『関連する設備及び要員を含む工程作業の認定に対する要求事項を規定すること』と表現されていた。『認定』の英文の“qualification”は、必要な能力があるという意味で「適格である」「適格化する」であり、『工程作業』は“process operation”であるから「業務を実行すること」の意味である。すなわち、94年版の規定は「関連する設備及び要員を含む必要な業務実行の適格化のための要件を定めて規定しておかなければならない」である$40-22。「業務実行の適格化」とは、所定の仕様と品質の製品となるように業務が実行されたという意味であるから、本(4)と同じく業務実行の有用性の評価と判定の基準の明確化の必要を規定するものである。但し、必要な基準に関して設備と要員を挙げているので、この点では本(4)と(5)(6)(7)の00年版のa), b), c)を一括して記述している。
 
(5) 設備の承認及び要員の適格性確認 [ b)項]
  上記(4)の業務実行の実績評価と有用性判定のための基準には、必要により『設備の承認』と『要員の適格性確認』に関する項目と基準を含めなければならない。
 
@ 設備の承認
  業務実行の有用性判定が必要な製品で特定の設備の使用が必須である場合は、製造及びサービス活動実行の管理では、必要なら設備が所定の性能、機能を発揮できる状態であったかどうかの確認も含めて、間違いない設備を使用して業務が行われたことを評価し公式に認めること、すなわち、『設備の承認』が必要である。94年版(4.9)ではこれを「関連する設備の必要な適格化のための要件を規定すること$40-22」と「必要に応じた設備の承認」と表現していた。
 
  どの設備を使用すべきかは例えば、号機などの名称、出力や精度などの性能の範囲、或いは、特別な点検項目などによって表される。設備とは規格では物的資源たる インフラストラクチャー (6.3項)と監視及び測定機器 (7.6項)を指す。実務的にはサービス活動に関連した室内装飾、商品展示棚、制服、舞台装置、取引文書の書式なども該当する。これら設備は清掃や洗濯、洗浄、保全、修理など所定の性能、機能を維持する管理を、相応に厳重にすることが必要である。
 
  00年版では「個々の製品に必要な資源を利用できるようにする」に従って当該の製品の実現に使用すべき設備を決め(7.1 b)項)、製造及びサービス活動実行の管理(7.5.1 c)項)においては、そのような「適当な設備を使用する」ことを確実にすることが必要である。本項の規定は、設備に関するこれら規定を試験や検査による合否判定を行うことができない製品の仕様と品質に関係する業務の設備に適用すべきことを明確にしたものである。その上で、所定の性能、機能で使用されたことを評価し公式に認める『設備の承認』を、業務実行の有用性を判定に用いることを規定している。
 
A 要員の適格性確認
  JIS和訳『適格性確認』の原文は“qualification”であり、要員にある特定の業務の実行のために必要な能力を持たせることを意味する$40。規格では“qualification”は、その特定の業務の実行を認めるという観点から要員を当該業務実行に関して「適格化する」という意味で用いられている$40-1。
 
  ここに「特定の業務」とは、試験や検査による合否判定を行うことができない製品の仕様と品質に関係する業務のことである。この業務を間違いなく所定の仕様と品質の製品となるように実行することのできる業務能力を要員に持たせることを、規格では要員を当該業務実行に関して「適格化する」と表現される。このことが客観的証拠で証明された要員は「適格化された要員」と呼ばれる#10-1。
 
  業務が人手で、或いは、個人の知識や専門性のみに則って行われ、業務実行と結果の出来映えがその場でも目に見えない、判断できないような場合は、間違いない結果を出すように行う業務能力を持った要員によってその業務を行われることを確実にしなければならない。すなわち、そのような特定の業務に対して要員を適格化し、適格化された要員だけがその業務を行うように管理しなければならない。94年版(4.9)はこれを「関連する要員の必要な適格化の要件を規定すること$40-22」「その業務は適格化された作業者$41-1が行うこと」と表していた。
 
  これは、製造業において業務実行の手順を決めるにしても、方法や条件の詳細は熟達の要員の知識や技能に依存せざるを得ないような業務で造られる製品の品質管理で生み出された実務の知恵であり、「適格化された要員」に業務を委ねることが事後に試験や検査をしなくとも所定の仕様と品質の製品であることを確実にする最善の方法であると考える、工程保証とも呼ばれる品質保証方式の特徴のひとつである。当然ながらこのような「適格化された要員」は遂行すべき職務を認識した要員(6.2.2 d)項)でなければならない。
 
  要員に必要な能力があることは、一般の職務能力(6.2.1項)と同様、学校教育、組織内の教育訓練の実績と職務経験、及び、特定の専門性や技能によって評価し判断される(6.2.1項)。また、要員が必要な専門性や技能を有することは、溶接技能者、非破壊試験技術者から理容師、調理師、自動車運転者、更には公認会計士、弁護士等々の資格によって証明されることもある。これは94年版(4.18)では「特定の業務を行う要員は、必要に応じて適切な教育・訓練歴、経験に基づいて適格化されていなければならない$41」と規定されていた。
 
  実務的には、特定業務毎にそれを行うことを認める要員を特定の専門性と職務経験及び職責の認識度から決めるが、これに実技の試験や定期的訓練を課すこともある。業務実行の方法や条件の基本、及び、感覚的或いは間接的指標による出来映えの評価基準を可能で必要な範囲で文書に明確にするのがよい。そして、適格化された要員によって間違いない仕様と品質の製品がつくられたという業務実行の有用性判定は、実際に業務を行った要員の責任ある判断に委ねるのがよい。
 
  なお、00年版ではすべての業務を「職務能力がある要員」(6.2.1項)に行わせることの必要を規定している。この「職務能力がある要員」と「適格化された要員」とは、ある業務を所定の結果を出すように行う能力を持った要員という意味では実質的に同じである。試験や検査による合否判定を行うことができない製品の仕様と品質に関係する業務を「適格化された要員」に行わせるという規定は重複規定であると言える。本項の規定の趣旨は「適格化された要員」によって業務が効果的に行われたことを業務実行の有用性を判定に用いるということと解するのがよい。
 
この意味で「職務能力がある要員」と「適格化された要員」の違いは次のようなものであろう。ひとりの要員にとっては一般に前者は委ねられた全業務に関係し、後者はその一部の特別な作業に関係する。業務能力があることの評価と判断は、前者は概念的要素が強いが後者は特定な作業の方法や出来映えに関連した具体的要素が強く、かつ判断もより厳密である。業務実行の実績は前者は要員の職場配置の形で管理されるが、後者は実際にどの製品に関するどの個別業務を行ったかまで管理される。
 
(6) 所定の方法及び手順の適用 [ c)項]
  JIS和訳『所定の』の英文は“specific”であるから「特定の、個々の」が適当である。『方法』は“method”で、「あることを行なう特定の方法」であり(1)、規格では業務実行の方法や手法のような意味で使われている。『手順』は“procedure”であり、規格では「定められた活動又は業務実行方法」である#9。『手順』は広い意味の業務実行方法を指し、種々の具体的な『方法』とその許容ばらつき範囲の意味の『判断基準』(4.1 c)項)、各方法の適用順序を含み、また、『方法』には設備の使用と条件が含まれる。
 
  試験や検査による合否判定を行うことができない製品の仕様と品質に関係する業務は、間違いなく所定の仕様と品質の製品となるように業務実行の手順、すなわち、方法と管理基準を定め、その通りに業務が確実に行われるように管理しなければならない。これを規格は「特定の方法及び手順の適用」と表現している。上記(4)の業務実行の実績評価と有用性判定のための基準には、間違いない手順と方法で業務が実行されたことを評価し判断するための項目と基準を含めなければならない。また、これに基づき業務実行を監視測定して、有用性の判定を行わなければならない。これは94年版(4.9)では「必要な業務実行の適格化のための要件を規定すること$40-22」「工程パラメーターの連続的な監視及び管理」と表現されていた。
 
  実務的には、所定の製品仕様と品質を間違いなく実現するために重要であり、絶対に遵守しなければならない特定の工程条件とそのばらつきの許容範囲を明確にして文書化し、業務実行においてはその工程条件の実績を監視測定して、許容範囲に収まっているかどうかを評価、判断し、それに基づいて当該の業務実行の有用性を判定する。94年版の『工程パラメーターの連続的な監視、管理」の規定は、連続熱処理炉の操業のように一連の製品の製造活動が長時間継続して行われる場合で、そのすべての製品の仕様と品質を保証するために重要な工程条件である炉温を連続的に測定し管理するという製造業の工程保証による品質保証方式の代表的な手法を引用していたものである。工程条件の実績監視の方法は工程条件の製品に及ぼす重要性、実績変動の可能性と許容範囲の広さに応じたものでなければならない。
 
  規格の規定の製品実現業務(7章)では、どのような製品についても所定仕様と品質となるように業務の方法と条件を決め(7.1項)、各業務がその通りに実行され、最終的に所定の製品が出上がるように業務実行を管理する(7.5.1項)ことようになっている。本項は、試験や検査による合否判定を行うことができない製品の仕様と品質に関係する業務に規格の製品実現業務の管理の基本の適用を重ねて規定したものであるが、この管理によって業務実行の有用性を確実なものとし、それによって試験や検査なしに製品を顧客に引き渡すことを可能とすることを図ることが主眼である。必要な所定の仕様と品質の製品を確実につくりあげることに関する製品実現の計画と製造及びサービス活動実行の管理の厳密さの程度について、規格は特に言及しておらず、組織の必要に応じた適切な程度であるべきであるというのが規格の意図の基本である。試験や検査なしで製品を顧客に引き渡すからには一般論として、他の一般の製品より計画と実行管理の厳密さの程度を高くしなければならないのは当然である。このことの分かりやすい事例表現が94年版(4.9)の「工程パラメーターの連続的な監視及び管理」である。
 
(7) 記録に関する要求事項 [ d)項]
  効果的な品質保証には製品の試験や検査などによる『合否判定基準への適合の証拠を維持する』ことが必要である(8.2.4項)。この代わりとして行う業務実行の有用性判定では、上記(4)の「業務実行の実績を評価し有用性判定を行うための基準」を満たしたと判断した根拠の記録を維持しなければならない。
 
  組織は上記(3)の業務実行の有用性を確実にする管理の手はずの中に、どのような記録をどのような形で残すかを決め、それに則って記録をとり、必要な方法で必要な期間維持しなければならない(4.2.4項)。
 
(8) 妥当性の再確認 [ e)項]
  英文では“revalidation”であるから「再有用化」であり、有用でなくなった業務実行の手順を変更して再び有用なものとすることである。業務実行が有用でなくなったということは、上記(5)(6)のように定めた工程条件では所定の仕様と品質の製品を生み出すことができなくなったということであり、これら工程条件を変更し、有用性の評価と判定の基準を変更することが「再有用化」である。本項の規格の表現では、上記(3)の業務実行の有用性を確実にする管理の手はずが、何らかの理由又は事情で効果的でない、すなわち、業務実行の有用性判定の結果では製品が所定の仕様と品質であることを確実にできないという状況になった場合に、この管理の手はずを変更することである。
 
  業務実行の再有用化は、設備の性能が劣化或いは更新や新設などで変化した場合、苦情の発生などで当該工程条件の所定の仕様と品質の製品を確実につくるという能力に疑念が生じた場合、別の理由で工程や工程条件が変わり、または、製品の仕様や品質が変更された場合などで必要となる。組織は、どのような場合に業務実行の再有用化が必要かを明確にしておき、その必要に応じて上記(3)の業務実行の有用性を確実にする管理の手はずを変更しなければならない。
 
 
 
H25.8.25
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サニーヒルズ コンサルタント事務所