ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
53 7.5.5項  製品の保存 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-53
[第1文 組織は、内部処理から指定納入先への引渡しまでの間、要求事項への適合を維持するように製品を保存しなければならない。
[第2文] この保存には、該当する場合、識別、取扱い、包装、保管及び保護を含めなければならない。
[第3文] 保存は、製品を構成する要素にも適用しなければならない。
 
 
1.要旨

  規格は事業の維持発展のために必要な顧客満足を追求する効果的な品質マネジメントの規範であり、本項はその品本項は、所定の仕様と品質の製品をつくり顧客に引渡すことを確実にするためには、その一連の業務の各段階で、それまでの決められた通りの業務結果である製品の状態が損なわれることのないようにする管理が必要であることを指摘し、その要件を規定している。
 
  購買製品の受け入れから製品の顧客への引渡しの完了までの間の業務に関連して半製品、製品の状態が損なわれて不良品となることのないよう、規格が規定する5種の活動が必要に応じて確実に行われるように管理しなければならない。
 
 
2. 製品の保存 (背景及び関連事項)
  JIS和訳『製品の保存』の『保存』は英文では“preservation”であり、元の良い状態を維持するという意味である。『製品の保存』は条文では「製品の適合性の維持」が目的の活動と明確にされているから、日本語では「製品の維持」の方が適切である。「製品の適合性の維持」とは、購買製品の受け入れから製品の顧客への引渡しの完了までの間の各段階の、それまでの決められた通りの業務結果である半製品、製品の仕様や品質の意味の「要求事項に適合した製品の状態」が損なわれないようにすることである。この意味で、『製品の保存』は「製品の維持」と和訳するのが適当である。
 
  規格の規定としては、本項の『製品の保存』は94年版の4.15項(取扱い、保管、包装、保存及び引渡し)に相当する。94年版は、工程管理 (4.9)で管理すべき製品をつくる業務とは別の業務として『製品の取扱い、保管、包装、保存及び引渡し』の活動を取り上げ、そのそれぞれにおいて「製品の状態の維持」を図るための要件を規定していた。00年版ではこれら活動を『識別、取扱い、包装、保管及び保護』の処置と表現し直して、決められた通りの製品をつくり顧客の手元に引渡すための一連の業務の中に、「製品の状態の維持」を図るための必要に応じてこれらの処置を含めることの必要を規定している。
 
  94年版とは規定表現における規定の意図は異なっているが、規定の実務への適用においては変わることはない。規格執筆者のひとり(21ae)は、94年版の規定は有形の製品の加工や製造業を中心とする記述であり、サービス業には不適切な表現であるとする多くの意見が汲み取られて、表現をすべての業種業態に受け入れられるように改め、要求事項の記述を簡素化したものであり、要求事項の意図、範囲には何ら変更はないと説明している。
 
  効果的な品質保証、顧客満足追求の経営管理のあり方を規定するISO9001規格は、顧客のニーズと期待を満たす所定の仕様と品質の製品を間違いなくつくり、顧客に引渡すことを確実にするための管理を2つの視点から規定している。ひとつは、決められた通りに製造及びサービス活動が実行されるようにする管理(7.5.1項)である。もうひとつが、その各段階の結果の決められた通りの状態の製品を損傷、劣化させないようにする本項の管理である。規格用語では、前者は「製品の適合化」の活動であり、後者は「製品の適合性の維持」の活動である。
 
 
 8.規格要求事項の真意  
  JIS和訳『製品の保存』は「製品の維持」の方が適切であり、規格の意図の概念としては「製品の適合性の維持」であり、実態的には「要求事項に適合した製品の状態の維持」である。このためには『識別、取扱い、包装、保管及び保護』の活動の実行と管理が必要である。これらの活動を総括してその目的を表す「製品の維持」活動を表題としている。
 
  本項は94年版の4.15項の『取扱い、保管、包装、保存及び引渡し』の表現の変更であり、規格の意図は変わっていない。
 
(1) 組織は、内部処理から指定納入先への引渡しまでの間、要求事項への適合を維持するように製品を保存しなければならない。 [第1文]
  『保存する』の英文は“preserve”であり、これは元の良い状態を維持するという意味$56である。条文の英文は、00年版では「製品の適合性を維持する」、08年版では「要求事項への適合性を継続させるよう製品を維持する」である。
 
  『内部処理から指定納入先への引渡しまでの間』は誤解を招く表現であり、英文に忠実に「内部処理及び指定納入先への引渡しの間」がよい。規格執筆者も「引き渡しに至るすべての処理段階で、及び、それらの間で(21ae)」「処理活動及び引渡し活動を通じて(22q)」と説明している。『内部処理』とは地理的な意味での組織の内部での製品実現業務のことであり、『指定納入先への引渡し』とは地理的な意味での組織から製品を出して顧客の手元に引き渡す業務のことである。後者の活動は『製品のリリース』と『顧客への引渡し』とも表現される(7.5.1 f)項)。また、規格では『引渡し後の活動』という概念もある(7.5.1 f)項)から、そのような活動における「製品の維持」も本項の意図に含まれる。すなわち、規格の意図の『内部処理から指定納入先への引渡しまでの間』の活動とは、『製品のリリース』『顧客への引渡し』の活動だけではなく、『内部処理』『製品のリリース』『顧客への引渡し』『引渡し後の活動』という製品をつくり顧客の手元に引き渡す一連の活動のすべてを指す。
 
  規格に則って品質保証、顧客満足を追求する組織は、加工や組立など製品を直接つくりあげる製造及びサービス活動実行(7.5.1項)の一連の業務と合格品であることを確実にする検査(8.2.4項)と製品の顧客への移送と引渡しの各業務を決められた通りに実行して、顧客のニーズと期待に沿った仕様と品質の製品を顧客に供給することを確実にする。しかし、このためには同時に、これらの各業務の実行と各業務工程間での半製品、製品のやりとりにおいて、それまでの決められた通りの業務結果である「要求事項へ適合した製品の状態」、つまり、その段階での半製品、製品の決められた通りの必要な仕様や品質が以降で損なわれないように管理することも必要である。
 
  所定の製品を確実につくりだし顧客の手元に引渡すためには、規格の製造及びサービス提供の管理 (7.5.1項)の要件に従うと共に、それら一連の業務の各段階の業務結果である「製品の状態」を損傷、劣化させないよう、下記(2)〜(3)の必要な業務を効果的に実行しなければならない。組織は、品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)の一環として、これら業務の実行と管理の手はずを整えなければならない。
 
(2) この保存には、該当する場合、識別、取扱い、包装、保管及び保護を含めなければならない。 [第2文]
  各段階の業務の実行、次の段階の業務への半製品、製品の引渡し、及び、次の段階以降の業務の実行において、その前の製品の状態を損傷、劣化させないように、『識別』『取扱い』『包装』『保管』『保護』の各処置の必要な手はずを整え、それに則ってそれら業務を実行しなければならない。
 
@ 識別
  『識別』は“identification”であり、「識別できるようにする活動」である$14。本項では、製品の状態の損傷、劣化を防止するために必要がある半製品、製品の性質や特徴を間違いなく見分けることができるようにすることを指す。規格執筆者のひとりは(21ae)は、この『識別』が94年版(4.15.4)の包装 の「規定要求事項への適合を確実にするのに必要な程度に、包装、梱包及び表示の活動を管理する」の『表示(marking)』に対応するものと説明している。
 
  例えば箱に入った製品の顧客への輸送の業務では、製品取り扱いの方法や留意点のために輸送関係要員が見分けられる必要のある製品の性質を、製品が割れ物であるとか、可燃物であるとか、生鮮食品であるとか、或いは、上下反転不可とか、要冷凍保存などの表示の形で箱の外に明確にし、また、輸送指示書に明記する。熱処理場に仮置きされた成形品が熱処理前か済か、熱処理中の成形品が何物であるかを見分けるための置き場の分別と表示、熱処理炉への表示又は書類による識別が必要である。製品倉庫に保管中の製品の出荷期限の表示、重ね置き禁止の表示、特定保管場所の指定の表示もよく見られる。サービス活動実行用書類へのサービス活動実行の段階と順番の表示、各段階の業務済みを表示は、誤って必要な処理を飛ばすことの防止に効果的である。
 
  誤って所定の通りでない或いは不適切な方法や条件で半製品、製品を取り扱い又は処理して、その「製品の状態」を損傷、劣化させることのないように、製品の特性、状態、性質を見分けられるようにしなければならない。
 
A 取扱い
  『取扱い』は“handling”であり、人手や機械で半製品、製品の位置や場所を変えることである。94年版(4.15.2)でも『取扱い』であり、損傷又は劣化を防ぐ製品の取扱い方法を決める必要を規定していた。
 
  例えば原料を保管庫から取り出す作業、顧客に製品を輸送する作業、半製品を加工機に取り付け、取り外す作業、半製品を次の工程に送る作業などである。また、自動車修理業での顧客の自動車の作業場への出し入れ、販売業での商品の倉庫から出しての陳列、顧客への説明のための試用、レストランでの料理の調理場からテーブルへの運搬なども、『取扱い』である。
 
  人手で丁寧に取り扱う、機械で正確、精密に取り扱う、高温で取り扱う、常温で取り扱う、完全に乾燥させて取り扱う、或いは、半製品、製品を直接ではなく箱に入れて、特殊な容器に入れ、或いは、台に載せて取り扱うなど、それまでの「製品の状態」を損傷、劣化させることのないように必要な半製品、製品取り扱いの方法を決め、その方法で取り扱わなければならない。
 
B 包装
  『包装(packaging) 』は、94年版(4.15.4項)でも表題は『包装』であったが中身は『包装(packing)、梱包(packaging)及び表示の工程』であり、00年版で『表示』が上記@の『識別』になったから、『包装』と『梱包』が00年版の『包装』の中身である。
 
  包装、梱包は、例えば、工程間の半製品の移動や仮置き、出荷前製品の保管、顧客への輸送などで生じる「製品の状態」の損傷、劣化の防止のための効果的な方法である。これには、袋詰め、箱詰め、特定の容器への収納、サービス活動実行に係わる書類のファイリング、店頭販売での顧客の持ち帰り商品の包装や梱包も含まれるとしてよい。
 
  製品の『包装』の様式と仕様は、顧客との契約、また、安全性その他の理由から法令で規制定される場合もあり、用いる資材に関する規制もある。 これらの法令は、製品に適用される法令又は規制(7.2.1 c)項)として管理しなければならない。
 
C 保管
  『保管』は“storage”であり、保管、保存、貯蔵、格納などの意味である(101)。 これには例えば、受入れた購買製品や顧客支給品、製造及びサービス活動実行における半製品、最終製品の使用前、次工程送りの前、出荷前の一時的保管や仮置きの処置が相当する。サービス業では例えば、販売用商品の在庫、レストランでの素材、調理中と調理済みの料理の保管や仮置きなどである。サービス活動実行用書類の担当部門間やりとりの前後における保管も含めてよい。
 
  94年版(4.15.3)でも『保管』であり、損傷、劣化、紛失のない『保管』の管理として、保管区域や保管倉庫の指定、出入庫の管理、保管状態の点検の必要を規定していた。規格の『保管』とは、製品の損傷、劣化、紛失、盗難に対する物理的な安全確保と環境或いは雰囲気の影響からの保護のための設備や物理的な領域、空間を適用することを意味する(21ae)(28c)。
 
  「製品の状態」を維持するために必要な半製品、製品のそれぞれの場合の『保管』の処置について、適当な保管と仮置きの建屋、設備、場所を用意し、保管の方法や条件、及び、損傷の発生と劣化の進行の程度の必要な監視測定(8.2.4項)の時期と方法と基準を決めて、保管と仮置きを管理しなければならない。
 
D 保護
  『保護』は“protection”である。この用語と規定は94年版には存在せず、管理下にある製品の品質の維持を図る活動として必要が規定(4.15.5)されていた『保存(preservation)』と、『引渡し(delivery)』を表題とする条項(4.15.6)の趣旨であった、最終検査に合格した製品の以降の顧客の手元に引渡すまでの間の品質の『保護(protection)』の規定とがひとつに合わせてされて、「製品の状態」の損傷、劣化の防止のためのひとつ処置としての『保護』となったものと考えるとよい。
 
  94年版の『保管』と『保存』の違いについて、前者が損傷、劣化からの製品の保護のための手段を適用することであるのに対して、後者は製品を損傷、劣化させないようにする処置を指すという解説がある(28c)。00年版の『保護』は後者の規定を引き継いだものであるから、上記の『取扱い』『包装』『保管』が製品の損傷、劣化の防止のためのそれぞれ特定の処置の必要を規定しているのに対して、『保護』では製品をつくり顧客の手元に引渡す一連の業務を通じた自然の、又は、不測の、或いは、製品の特性に起因して発生する製品の損傷、劣化の防止の処置を取る必要を取り扱っている。
 
  例えば、製品の変形、変色、変質、腐食、発錆、汚染、異物混入、揮発、漏洩、発火、爆発を防止する処置である。また、起こり得る盗難や情報漏洩、作成中のソフトウェアのプグラムの パソコン故障による消失、インターネットによるサービス提供の関連システムの誤動作や不調、契約書や納入製品説明書の持ち運び中の紛失や破損を防止する処置も含まれる。更には、隣接設備の事故、火災や自然災害がもたらすかもしれない、製品の不都合から製品を保護することにまで範囲を拡げることも可能である。
 
  この『保護』に対応する94年版の『保存』の活動とは、製品の元の状態のまま維持する方法と隔離や別置きの方法を適用することであると規定されていた。 後者は例えば、容器や配管に残留する前回製造の成分の混入、蓋のない容器中の製品への異物の混入、化学反応に起因する製品の変質や食品の腐食、可燃性製品の発火や爆発の防止に関係した作業環境や作業方法、容器や貯蔵庫の仕様を適切なものとすることを意味する(23ab)。
 
  これらの「製品の状態」を維持するための『保護』の処置は、製造及びサービス活動実行、製品のリリース、顧客への引渡し、引渡し後の活動(7.5.1項)の一連の業務に適用するだけでなく、これらに含まれる上記の『取扱い』『包装』『保管』にも必要に応じて適用しなければならない。実務的にはこの『保護』の処置の手はずは、それを適用する各業務や「製品の状態」を維持する他の処置の手はずの中にそれらと一体となって織り込まれ、それらの実行と一体となって実行、管理されることでなければならない。
 
  2000年版の「保護」は、94年版の「品質の維持」をすべての業種業態に適用するための表現変更である。 これによって、例えば、起こり得る盗難や情報漏洩、更には、隣接設備の事故、火災や自然災害がもたらすかもしれない、製品の不都合から製品を保護することにまで範囲を拡げることができる。 これによって例えば 、作成中のソフトウェアのプグラムの パソコン故障による消失、インターネットによるサービス提供の関連システムの誤動作や不調、契約書や納入製品説明書の持ち運び中の紛失や破損などの問題点を抽出し、必要な対応をとることもできる。
 
(3) 保存は、製品を構成する要素にも適用しなければならない。 [第3文] 
  規格では、顧客に提供することにつながる物や サービスはすべて「製品」であり、原料や素材、部品や部材、半製品も「製品」であり、『製品を構成する要素』も製品である。この規定は94年版には存在せず、用語『製品を構成する要素』も00年版で初めて、設計・開発の変更管理 (7.3.7項)と本項に登場したが、規格執筆者の説明も見当たらない。
 
  94年版(4.15)の条項配置と規定記述は、製品をつくり顧客の手元に引渡すという製品の流れに基づいているので、原料や半製品が「製品」に含まれることは明瞭であるが、例えば製品に組み込まれる部品の取扱いや保管、保存が規定の管理の対象であることには気づかれないかもしれない。このことを明確にするために追加された規定と考えてよい。
 
  「製品の構成要素」とは、原材料や製品に組み込まれる部品の他、例えば、パソコン製品に付属する配線、ソケット、変圧器、マイク、プリンタインクなど機械に合わせて提供する交換部品など、販売自動車に付属する修理工具など、製品説明書、遊園地で入場者に配付する案内図や子供用景品など、瓶入り食品や缶飲料の瓶や缶なども含めるとよい。
 
 
 
H25.11.7
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サニーヒルズ コンサルタント事務所